Progress Report 3:昭和集団羞辱史(トルコ嬢)


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SM折檻
 戸籍上の亭主になった、実質監視役の若い男が組への上納金が払えず、ヒロインに「アルバイト」をさせる。というストーリイでした。
 ここで、ヒロインはマゾに開眼したりもせず、ズタボロに責められて――という予定でしたが。こういうシーンでは、延々と書き込みます。趣味です。生き甲斐です。ライフワークです。半分嘘です。
 とにかく、ひとつの章では尺が足りません。そこで、後半を分けました。


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   痛悦馴致


 抱き起こされて、葉子は目を覚ました。裸電球ひとつきりが点されていて、夜なのか朝なのかもわからない。半日も葉子を縛っていた縄がほどかれる。わずかに指先がじいんとしたが、痺れているというほどではない。縛られるなんて初めての体験だったが、師匠と呼ばれている男の縛り方は名人芸なのだろうと、葉子にも察せられた。
 全裸のまま外へ連れ出された。動けないほど痛めつけられて引きずり出されるのならともかく、自分の足で立って朝の陽光の中へ出るというのは、場違いな羞ずかしさを感じてしまう。七八人の男どもが待ち受けているとなると、なおさらだった。
 水道柱の前にしゃがんで、渡された歯ブラシで歯を磨き、顔を洗って手拭いで拭いた。悪夢のような虐待の中での日常的な一齣に、葉子は違和感さえ覚えた。しかし、日常はそこまでだった。
「そこで排泄しなさい」
 ハイセツという言葉が意味を像(かたち)作るまで数秒を要した。言われてみると――冷たい床の上に何時間も放置されて、欲求は切迫していた。
「昼過ぎまで土蔵に閉じ込めておくからね。粗相をしたら、昨日の責めがお遊びに思えるくらいの折檻をするよ」
 脅かされて、横はコンクリート床の隅にある排水口の前に、男どもに背を向けてしゃがんだ。
 トルコ風呂では自分から積極的に全裸でお客に絡みついたり本番をされたり、ここへ連れて来られてからは女性器を晒したり虐められたりされて。それでも、羞恥心が鈍磨したわけではない。我慢しているだけだ。排泄にしても同じことのはずだが……尿道を閉ざしている筋肉は葉子の(消極的な)意志に従ってくれなかった。
「お願いです、ひとりにしてください。見られていると、できません」
「葉子ちゃんは、まだまだ初心だね」
 師匠のではない声が近づいて。背後から抱え上げられた。大きく開脚させられて。横合いから別の男が、先を尖らせた鉛筆を股間に埋めた。指で割り広げて覗き込みながら動かした鉛筆が、尿道口をつついた。
 ぶしゃああああ……
 太い水流が空中に放物線を描いた。
「あああっ……いやだああ……」
 排尿の快感で吐息が漏れて、後半の言葉は頭で考えて付け足していた。
 葉子は下ろされて、下からホースの水を浴びせられた。紙で拭く必要は無かった。
「大きいほうは出さなくていいのかな?」
 葉子は小さくうなずいた。昨日は大量の水浣腸をされて、それからご飯の一粒も口に挿れていない。それを思い出したとたんに、グウウと腹が鳴った。
「うむ。元気があってよろしい」
 なにが元気なものか。今すぐ入院させてほしいくらいだ。
 土蔵へ連れ戻されて。床に丼と箸がじかに置かれた。茶碗二杯分ほどのご飯に、魚のアラを具にした味噌汁がぶっかけてあった。
 土蔵の扉が軋みながら閉ざされると同時に、葉子が丼を持ち上げようとして――腕に力がはいらないと知った。やはり、緊縛の後遺症だろう。どうにか両手で抱えて、丼にかぶりついたのだった。
 ――腹がくちくなって、股間の痛みもむず痒いような疼きにまで落ち着いてくると、葉子は暇を持て余すようになった。昨夜と同じd、昔のことも今のことも考えたくはない。男どもは元気がどうこうとしきりに言っていた。きっと、昼からは昨日以上に非道いことをされるのだろう。すこしでも身体を労わっておこうと、ごちゃごちゃ置かれた品々(主として拷問用具)の中から毛布を見つけて。それにくるまって身を横たえると――昨夜よりはすこしだけ安らかな眠りへと落ち込んでいった。

 今度は、扉の開く音で目が覚めた。すべての電球が点されて、二十人ほどが葉子を取り囲んだ。全員の顔を覚えているわけではないが、昨日は見掛けなかった顔が半分くらいは混ざっていた。
 三メートル余の梯子が引き出されて、浅い角度で壁に立て掛けられた。梯子と葉子は判別したが、高所への登り降りに使う物ではないらしい。踏み段がが途中で二つ分ほど抜かれている。脚の部分には大きな金具が付け足されていて、壁から延びた鎖につながれると、三十度よりも浅い水平に近い角度で固定された。
 葉子は毛布を剥ぎ取られて、梯子の上に寝かされた。踏み棒をはずした部分に、すっぽりと尻が嵌り込んだ。手足を引き伸ばされて、両手は揃えて縛られ、足は開かされて左右の縦桟に括りつけられた。
 長机が運ばれて、そこに洋酒の壜とグラスが置かれた。透明な酒がグラスにたっぷり注がれて、それを師匠が口にふくむ。
 葉子は唇を重ねられて、洋酒を口移しで飲まされた。父が飲んでいたウヰスキーやワインを、ひと口だけ舐めさせてもらこともたまにはあったけれど、そのどれよりも甘く、するすると喉を通った。
「これはシェリー酒といって、白ワインに媚薬を混ぜたものだよ。媚薬、わかるね。女性をエッチな気分にさせる薬だ。だから、これからキミがどんなに乱れても、それは媚薬のせいだからね」
 二か月ほど前に、性的にまだ青いヌードモデルの鈴蘭を陥落させたときと同じ口説だった。
 壜とグラスが片付けられて、代わりにさまざまな小道具が並べられる。大小の筆は十数本ずつ。ペンキを塗る刷毛や付けペンもも半ダースほど。ピンセットや小さなペンチもあった。そして、大小各種の擂粉木。樹皮を残した物もあれば、怒張した男根そっくりの形をした物もあった。ディルドという英語はもちろん、葉子は張形という言葉も知らなかった。
 そういった雑貨に混じって、昨日葉子をさんざんに苦しめた猛獣使いの鞭もあった。もしかすると、蠅叩きのような道具も同じ目的に使われるのかもしれない。さいわいにワニグチクリップは見当たらなかったが、洗濯バサミがザララッとぶちまけられた。
 最後に丸椅子が六つ、梯子の両側に並べられた。
 師匠は椅子に座らず、開脚した葉子の膝のあたりにある踏み段に腰を下ろした。両手に太い筆を握っている。あらかじめ分担を決めてあったと見えて、相談もジャンケンもせずに六つの丸椅子が埋まった。六人とも、筆や刷毛をひとつずつ手にしている。
「では、調教を始めるとしましょう」
 師匠が腕を伸ばして、二つの筆を太腿の内側に這わせた。葉子の頭側に座っている二人が筆を左右の腋下を、つぎの二人は乳房をくすぐり始めた。いちばん師匠に近い側の二人は大きな刷毛を梯子の下へまわして、尻をくすぐる。
「きゃああっ……やめてえ。くすぐった……きひいい……ひゃああん」
 八か所を同時にくすぐられて、葉子は悲鳴とも矯正ともつかぬ甲高い声で叫んだ。
「やだ……きゃひゃああっ……やめて、やめて!」
 ふだんなら腋の下がもっともくすぐったく感じるのだろうが――鉄枷の針で穴だらけにされた乳房の傷がかさぶたになっていて、すこし痛いが圧倒的にくすぐったい。
 筆と刷毛の動きが、ますます早く大きくなる。しかし、女の急所を巧みに避けていた。乳房の上で円を描き、渦巻のように乳首へ近づけていって、あと一センチのところで一直線に麓へ走らせる。太腿から鼠蹊部へとジグザグに動いた筆は、鞭痕が残る大淫唇の縁を撫で上げるが、やはり頂点の手前で引き返す。そこも、鞭痕が甘く疼いた。
「きゃはは……あああっ……いや、いやあ……んん」
 嬌声が甘く蕩け始めた。くすぐったさが引いて、もどかしいような快感が潮のように押し寄せてきた。
 師匠がうなずくと、全身をくすぐっていた筆と刷毛とが一斉に引かれた。後ろに控えていた連中が、鞭や蠅叩きを裸身に叩きつけた。
 パッシイン!
 バシ!
 バヂッ……!
「きゃああああっ……!」
 快楽の登り道から突き落とされて、しかし悲鳴は昨日の鞭打ちに比べればはるかに嫋やかで凄惨の色は薄かった。
 ふたたび、葉子の全身がくすぐられる。今度は急所に集中している。左右の乳首に一本ずつと乳房の基底部にも一本ずつ。クリトリスは師匠が片手で下腹部側から皮を引っ張って実核を露出させ細い筆で裏側を撫で上げ、尻を受け持っている男のひとりは刷毛を縦にして淫裂を掘り下げ、もうひとりは太い筆で尻穴をくすぐっている。
「うああああっ……やめ、やめてええええっ!」
 鞭打たれたときよりも悲鳴は切迫している。
 筆と刷毛とは容赦なく快感を裸身に刷り込んでいく。
「やっだ、やだああっ……おかしくなっちゃう! いや、こんなのいやあ!」
 しかし。師匠の合図で一斉に筆が引かれると。
「あああっ……やめないでえ!」
 筆に替わって洗濯バサミが乳首とクリトリスを咬んだ。
「ひいいいっ……痛い……くううううう」
 快感と苦痛を交互に与えられて、葉子は惑乱している。いや、相反するふたつの間隔が綯い混ざって――歪な快感に止揚されようとしていた。
 太い革紐を何本も束ねたバラ鞭が、乳房と股間を襲う。
 バチイッ……!
 洗濯バサミが弾け飛ぶ。
「ぎびいいいっ……!」
 梯子に縛りつけられた葉子の裸身が反り返った。そのまま激しく痙攣して、ドサッと背中を梯子に打ちつけた。
「逝きましたかね」
「逝きましたな」
「では、徹底的に味を教え込んでやりましょう」
 筆と刷毛の快楽責めが繰り返される。樹皮を残した太い擂粉木が女芯に突き立てられる。
「がはあああっ……いやあああ!」
 しかし、痛いとは訴えない。
 男根を模した擂粉木が尻穴をえぐった。
「熱い熱い……熱いいいいいい!」
 男どもの耳には「良い良い良い」としか聞こえない。
 前後の擂粉木が抽挿を開始した。筆は三本に減った。師匠は乾いた太い筆に取り換えて、クリトリスをくすぐるのではなく擦りあげている。
「うああああっ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……駄目めえええええ!!」
 葉子が断末魔の咆哮を迸らせた。手足を拘束された裸身を激しく痙攣させている。
 女芯の擂粉木が引き抜かれた。筆と刷毛も引き下がる。
「やだ、抜かないで……やめないで」
 うわごとのような訴えは、すぐに叶えられた。擂粉木に替わって本物が突き立てられた。といっても、コンドームは装着されていたが。
「ああああっ……い゙い゙い゙い゙い゙っ……」
 絶頂の極みでの媾合。挿入も抽挿も、身体をまさぐる男の手も、すべてが快楽を膨らませてくれた。
「いきますよ」
 師匠の声が聞こえた直後に、男の腰がぐううっと押しつけられてきて乳房への刺激が消え失せた。
 ひゅんっ、バッチャアンンン!
 バラ鞭が真上から乳房に叩きつけられた。
「ぐぼお゙お゙お゙お゙お゙っ……!!」
 激痛への叫びなのか喜悦なのか、もし冷静だったとしても葉子自身にもわからなかっただろう。
「うおおお……締まる」
 男も呻いた。
 ひゅんっ、バッチャアンンン!
「うがあああっ……弾ける!」
 葉子が男の腰を押し返すように身体をのけぞらせた。その動きが怒張をしごきあげて。
「うおおおおっ……」
 男も絶頂を吐き出した。
 男が身を引くと、葉子に催促されるまでもなく次の男が梯子(と葉子)をまたいだ。
「鞭の味を覚えましたかな」
「いや、まだまだ。一日に詰め込むのは無理でしょう。日を空けて何回も繰り返せば馴致できるでしょうが……僕にも、そこまでの経験はないですね」
「わしらも、財布がもたんわ」
 たははは――と、乾いた笑いが起きた。
「うがあああっ……弾ける!」
 ひゅんっ、バッシイン!
 葉子の獰猛な吼え声と鞭の音か交互に土蔵に響いて、今日は十六人の参加者全員が腰を軽くするまで狂艶は続けられたのだった。
 ――葉子は梯子に縛りつけられ、自身の分泌物と血液とで下半身がどろどろに汚れたまま、またひとり土蔵に取り残された。
 葉子は目を閉じて雲間を漂っている。腰は蕩けて、鞭打たれた乳房の疼痛もむしろ快感を先鋭にしていた。
 ここまでで、やっと半分。明日の昼までに、自分はどうなっているのだろう。明後日から出勤なんて、とても無理。また罰金が増える。そんな思いも頭を掠めるが、実のところ、どうでもいいことだった。辱められた嬲り者にされたという思いはあるけれど、だからこその快楽だった。いや、快く楽しいのではい。法悦――それだった。こんな目になら、喜んで何度でも遭わされたい。こうなるのが運命だったとしたら、なんてすばらしい運命なんだろうとさえ思った。
 しかし、法悦のつぎに待っていたのは痛辱だった。今の葉子にとっては、地獄とまでは思わないとしても。
 二時間ほどで男どもは戻ってきた。昼間から酒盛りでもないだろうから、案外と葉子に余韻の愉しませるのが目的だったのかもしれない。あるいは、体力の回復。
 葉子は梯子から解放されて、すぐに巻き揚げ装置を使って吊るされた。両手首はひとまとめに括られて、足首に別々に巻かれた縄は左右に引っ張られて、屋根を支える役には立っていそうにない柱につながれた。
「今度はゲームをしよう」
 師匠が葉子に語りかける。
「これから、キミを鞭で敲く。最後まで声を出さなければ、十発でおしまいにしてあげよう。呻き声くらいはいいことにする。だけど、悲鳴はもちろん声をあげて泣くのも駄目だ。そのときは、残った数に十発を追加してやり直す。七発目で叫んだら、残り三発に十発を足して十三発ということになる。いいね」
 いいも悪いも、男どもの思うがままにされるしかない。葉子は黙ってうなだれた。
 それを師匠は敢えて曲解したのだろう。双つの乳房をつかんで、内側へきつくねじった。
「この期に及んでも強情だね。すこしは手加減してあげようという仏心が鬼心に変じるというものだよ」
 師匠が後ろに下がって、上半身裸の若い男が葉子の前に立った。猛獣使いの鞭を手にしている。
「おとなしくしていれば、たった十発で済むからな」
 言葉でも嬲られている。女芯に打ち込まれた一発ずつの激痛は、まだ葉子の記憶に忌まわしいまでに鮮明だった。布切れを詰め込まれた上にサルグツワを噛まされても、大声で喚いた。最初の一発で絶叫するに決まっている。
 男が鞭を真横に振りかぶった。
 いきなり股間を鞭打たれるのではなさそうだと、わずかに安堵した葉子だったが。
 バヂイイン!
「(あ)ぐ……」
 乳房を水平に薙ぎ払われて、葉子は叫び声をかろうじて飲み込んだ。乳房そのものが女の急所だ。しかも、昨日の拷問椅子で針穴だらけにされている。乳房全体が爆発したような激痛だった。
 バヂイイン!
「くっ……」
 ふたたび乳房が爆発して。葉子は気力を振り絞って悲鳴を封じた。
「うん。なかなか愉しませてくれるな」
 鞭を持つ男の手が、だらりと垂れた。
 葉子は男の意図を悟って――肺の底から絞り出すようにして息を吐いた。
 ビュッシュウウン!
 鞭が女芯に叩きつけられた。鞭の胴部が女芯に食い込んで内側をこすり抜け、先端がクリトリスを弾いた。
「…………!!」
 葉子は大きく口を開けたが、悲鳴となるべき空気は肺の中に残っていない。
 女芯への二発目も同じようにして、激痛に激しく身悶えしたが悲鳴だけは漏らさなかった。これで四発。もしかすると耐え抜けるかもしれないと、葉子は一縷の望みを(無理にでも)見い出そうとする。
「ふうむ?」
 男が葉子の背後へまわった。
 葉子は首をねじって、男の姿を追った。男が腕を横から後ろへ引くのを見て、安堵の深呼吸をした。
 ぶうん、バヂイイイン!
 痛覚と灼熱感が双臀をひと筋に走り抜けた。葉子は息を詰めるだけで耐えた。
 つぎも、同じようにして鞭が水平に宙を奔って――しかし、肌に当たる直前で葉子の視界から消えた。男が途中から腕を振り下げて鞭の先に床を叩かせ、そこから手首のスナップを利かせて跳ね上げた結果だった。
 バッジュイイン!
 鞭の胴部が肛門に叩きつけられ、跳ねた先端が女芯をしたたかにえぐった。
「(きゃ)かはっ………………」
 悲鳴が像作られる前に、葉子は大きく口を開けて息を吐き切った。
「はあ……はあ……」
 ビシュウンンン
 脇腹を打った鞭がそのまま腹に巻き付き、肌をこすって引き戻される。
 葉子の視界の隅に、別の男が背後へ動いたのが映った。竹刀を持っている。
 ビシュウンンン
 今度は腋下を鞭打たれて、乳房に巻き付く。と同時に。
 パシイン!
 竹刀で股間を斬り上げられた。
「(がは)っ…………!」
 もし二人目の男に気づいていなかったら、今度こそ悲鳴をこらえきれなかっただろ。
「ふうん。これで九発か。頑張るね」
 葉子の斜め前に立っている師匠が、別の男に目配せをした。
「キミの健闘を称えて勲章を授与しよう」
 うながされた会員が、洗濯バサミを持って葉子に近づいた。二人の男が両側から葉子の肩と腰を押さえ、乳房をきつく握って乳首を絞り出す。
「ヒョー、ショー、ジョー」
 大相撲で賞状を授与する外人の声帯模写をしてから、正面の男が乳首に洗濯バサミを噛ませた。
「くうう……」
 ワニグチクリップの激痛まで経験させられた葉子は、洗濯バサミで乳房を圧し潰されるくらいでは悲鳴に値しない。けれど、男のふざけた態度に反発を覚えた。もっと真剣に嬲ってもらいたい。そんな思いが頭をよぎったせいもあって。
「ターンタタ、ターン。タタタタ、タ、タ、ターン」
 運動会の賞状授与式などで御馴染の曲を口ずさみながら男が両乳首の洗濯バサミを弾き始めたときは、痛みよりも怒りが先に立った。
「まだ鞭は一発残っているはずです。ふざけてないで、さっさと終わらせてください」
「あーあ」
 数人が嬉しそうに溜息をついてみせた。
「これで、あと十一発になったね」
 洗濯バサミを弾いていた男が、葉子に告げた。
「え……どういうことですか?」
 十一発だろうと百一発だろうと、男どもが満足するまで虐められ続けるのだとは諦めていたけれど――どうにも釈然としない。
「言ったはずだよ。十発の鞭打ちが終わるまでずっと声を出すなと。まだ九発だ」
「あああっ……?!」
 罠に嵌められたと、葉子は悟った。
「非道い。こんな茶番劇なんかしなくても、好きなだけ叩けばいいじゃないですか」
 師匠という男を、葉子は詰った。
 師匠がわざとらしく唇の端を吊り上げた、
「皆さんも聞きましたね。望み通りにしてやろうじゃありませんか」
 最初からそういう筋書きになっていたのだろう。誰も喝采しないし葉子を庇いもしない。
「ハツミ以来のデスマッチですな」
「いや、今回は鞭打ちに限ってですから。サンドバッグも半田ゴテも溺れ責めも無し。そうですね、師匠」
「当然です。この子は、すぐにでもトルコで客を取るのですからね」
「そりゃあ無理筋だよ。三日は寝込むんじゃないか」
「とはいえ――内藤病院に迷惑を掛けない範囲に手加減しておきますか」
 そうか。これまでよりずっと酷い目に遭わされるけど、大怪我まではさせられずに済む。会話を聞いていて、葉子はそう解釈した。もしかすると、私を怖がらせる(と同時に安心させる)ために、わざとしゃべっているのかもしれない――この連中のやり口が、すこしはわかってきた。
「では……おっと、忘れていましたね。まだ金鵄勲章を授与していません」
「せっかくだから、金属のクチバシ――金嘴勲章にしてやりましょう」
 勲章授与役(?)の男がワニグチクリップを持って来て、葉子の正面にしゃがんだ。
 葉子は諦めの息を吐き切ってから、全身を硬直させた。
 昨日とは違って、ワニグチクリップは包皮ごと肉蕾を咥え込んだ。
「いいいっ……」
 葉子は短く呻いただけだった。もちろん、絶叫していてもおかしくない鋭い痛みだったが――剥き出しの実核に噛みつかれる地獄の激痛に比べれば、まだしも耐えられた。だんだんと痛みに馴れさせられているとは、葉子自身にも体感できた。
 もちろん。金嘴勲章が手加減されたのには理由があったのだが。
 紺などは四人が葉子を囲んだ。猛獣使いの鞭、重厚なバラ鞭、竹刀、細竹で大きなハート形に作られた布団タタキ。得物はそれぞれに異なっている。
「では、無制限四本勝負――始め」
 師匠の声と同時に、四本の責め具が葉子の傷ついた裸身に叩きつけられた。
 バッシイン! 布団タタキが尻をひしゃげさせる。
 ビッシイン! 一本鞭が乳房を薙ぎ払う。
 ズンッ……… 竹刀が鳩尾を(軽く)突く。
 バッヂャン! バラ鞭が股間を撫で上げる。
「ぎゃがあ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
 これまでにない凄絶な咆哮が葉子の喉を震わせた。のも、無理はなかった。ワニグチクリップに咬まれたクリトリスを、したたかに鞭打たれたので。洗濯バサミだったら吹き飛んでいただろう。しかし、皮膚に食い込んだ金属の嘴はそこに留まり続けている。
 二度三度と、同じ得物が同じ部位に叩きつけられ、そのたびに葉子は吠えた。
「ぎびひいいっ!」
 四発目で右の洗濯バサミが一本鞭の直撃で毟り取られた。ワニグチクリップは、女のもっとも敏感な部位を咬み続け、血で赤く染まっている。
 六発目で左の洗濯バサミも毟り取られた。
「……もう……赦してください」
 いっそう男どもの嗜虐をあおる結果を招くとは理解しながら、それでも葉子は哀願せずにはいられなかった。
「どうしましょうか?」
 バラ鞭を振るっていた男が、師匠を振り返った。
 葉子は激痛に呻吟しながら、会話を聞き漏らすまいと気力を振り絞っている。
「ひとつだけ願いを聞き届けてやりましょう」
 師匠は葉子に後ろから抱きついて、左手で乳房を鷲掴みにしながら、右手でワニグチクリップをこねくり、いっそうの悲鳴を絞り出させた。
「この金嘴勲章を取ってほしいのかな?」
「はい……お願いですから、これだけは赦してください」
 訴える葉子の声は掠れていた。クリトリスの激痛さえ勘弁してもらえるなら、拷問椅子に座らされてもいい。駿河問でぶん回されながら鞭で叩かれても我慢する。もちろん、自分からそんな交換条件は持ち出さないだけの分別は残していたが。
 師匠は何も言わずにワニグチクリップを外してくれた。じいんと痺れが切れた感覚と、甦った血流でどくんどくんと疼く痛みとが――むしろ葉子に安らぎをもたらしてくれた。
 チャリチャリチャリ……吊っていた鎖が緩められて、葉子は床に倒れ伏した。足を左右に引っ張っていた縄もほどかれた。
(終わったんだ……)
 しかし、安堵は束の間だった。すでにリボンは取れて崩れかけているツインテールに引っ張られて、葉子は無理強いに立たされた。垂らした手が後ろで括られた。その縄にフックが引っ掛けられて。だんだんと吊り上げられていく。
 チャリチャリチャリ……腕が背中からはなれて水平になり、さらに吊り上げられていく。
 チャリ……チャリ……腕が斜め上へ引き上げられるにつれて上体は前に傾いていく。
「くうう……」
「ストップ」
 腕は体幹と直角を保ったまま上体が四十五度まで傾いたところで、師匠が声を掛けた。昨日と同じような布切れを葉子の口元に突きつけた。
「猿轡を噛ましてほしいかな?」
 残酷な質問だった。これからどう虐められるのか、見当がつかない。けれど、慈悲を乞っても無駄なことはわかりきっている。いや。ワニグチクリップは赦してもらえたけれど、昨日の駿河問と同じくらいに厳しく吊られる結果を招いた。言葉を封じられていたほうが、余計なことを言わずに済む。けれど。また強情とか難癖をつけられて、いっそうひどく虐められるかもしれない――と、そこまで考えて。葉子は口を開けた。いっそうだなんて。葉子にしてみれば、これまでの仕打ちは比較級でなく最上級の連続だった。それに。この男は猿轡を噛ませたいのだ。男の意向に逆らう蛮勇など、とっくに無くなっていた。
 昨日と同じに厳しくサルグツワで声を封じられて。
 チャリ……チャリ……
 さらに鎖が巻き上げられていく。
「ぐうううう……ぐうう」
 肩に激痛が居座って、鎖の音とともに激しくなっていく。葉子はつま先立ちになり、さらに吊り上げられて……
「ぎいいいいいっ……」
 満身創痍の裸身が宙に浮いた。じんわりと脂汗が肌をおおう。
 駿河問は吊り責めの中でも一二を争う苛酷さだが。それでも肩に掛かるのは体重の半分だけだ。しかし、後ろ手を一本にまとめられて吊り上げられれば、体重のすべてが肩関節に掛かってくる。今度こそ脱臼するのではないかと、葉子は怖くなった。怖くなったという程度で済んでいるのは――脱臼しても整復できるはずと、その知識にすがっているからなのだが。脱臼したまま、さらに吊られていれば靭帯が破壊されるかもしれないとまでは思い至らない。
 もっとも。肥満男性ならともかく、比較的に体重が軽く筋肉もしなやかな若い女性なら、この形で吊られてもたいがいは大丈夫だと、緊縛研究会の会員たちは心得ている。それを葉子に教えて安心させてやる親切な鬼畜などいるはずもないが。
「では、無制限……そうですね、六本勝負くらいにしましょう」
 六人が互いに一メートルほどの間隔を空けて葉子を取り囲んだ。鞭や竹刀だけでなく、ズボンのベルトや縄束も加わっていた。
「そうらよっ!」
 葉子の真後ろにいた男が竹刀で尻を刺突した。
 ズグッ……ンン。
「いいいっ……」
 身体が振り子のように揺れて、葉子は肩の激痛に呻いた。
 バッチャアン!
 斜め前で待ち受けていた男が、下から掬い上げるようにして乳房にバラ鞭を打ちつけた。
「ぐ……」
 乳房が弾けるような痛みよりも、肩をねじられ絶え間なく変動する痛みのほうが強い。
 バジイン!
 振れ戻ってきた尻に、分厚いベルトが叩きつけられた。その反動で、葉子の裸身は円を描き始める。と同時にゆっくりと自転も始まった。
 バッシイン!
 ビシイッ!
 パアン!
 バッチャアン!
 葉子が揺れるのに合わせて、六人が交互に鞭や竹刀やベルトを全身に叩きつける。そのたびに葉子は身悶えして、さらに振り子運動を複雑な動きにする。宙に踏みとどまろうというように、葉子が足をばたつかせる。そこを狙って。
 ビッシイイン!
 股間を一本鞭が割った。
「ぎびいいいっ……!」
 女芯に鞭を打ち込まれて、葉子は反射的に腰を引こうとしたのだろうが、吊られているので、腿を腰に引きつけるような姿勢になった。そんな不自然な格好はすぐに崩れて、左右の足がばらばらに垂れてくる――ところへ竹刀が突き込まれて上へ擦り上げられた。
「んぶうううっ……!!」
 女性器へ痛烈な一撃で、また脚を跳ね上げる。
 滅多打ち、だった。傷だらけの裸身に新たな筋が刻まれ痣が広がっていく。
「うう……んぐっ……うう……びひいっ……いいい」
 悲鳴なのか泣き声なのか、葉子本人んもわからなかった。涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにして。サルグツワから漏れる呻きは、叩かれる部位と叩く得物とで微妙に変化しながら、間断なく続いたのだった。
 ――二十人が交替しながら責めるのだから、鞭を振るい過ぎて腕が疲れるということもない。それでも三十分ほどで凄惨な無制限勝負が終わったのは――嗜虐者たちが劣情をつのらせた結果だった。
 床に転がされた葉子を、昨日のように磔に掛ける手間も省いて、男どもは一人ずつ交代で犯した。意識朦朧としている女には、口淫を強制するのは難しかった。といって、前後を同時にというのも形としては興奮するのだが、案外と具合が良くない。
 二時間以上をかけて、ようやく陵辱はひと巡りした。しかし、葉子への残虐はまだ終わらなかった。両手別々にして、開脚を強いることもなく足の裏が床から浮かない程度まで吊り上げてから、まだ嗜虐を満足させていない数人が葉子の『治療』にとりかかった。
 大きな刷毛で全身に薬用アルコールを塗りたくり、バスタオルで拭き取る。白いタオル地がピンク色に染まった。
「んんんん……?」
 半ば失神していた葉子だったが、鞭とは違って無数の針が突き刺さるような痛みに、意識が戻ってくる。丼にくすんだ黄色い液体が注がれるのを見て、ぶるっと身体を震わせた。かすかな薬品臭から、それがなんであるか、男どもがそれをどうするつもりなのかは明確だった。
 擦り傷の特効薬と当時は信じられていたヨードチンキ液。男の子でも低学年なら泣き叫ぶほどに沁みる。そして、女芯の内側は膝頭の百倍も万倍も敏感なのだ。
 葉子の膝が小刻みに震えた。つまり、それだけ体重が脚に残っている。滅多打ちにされていたときよりは、思考も取り戻している。もしかすると、今日はこれで赦してもらえるかもしれないという、かすかな希望があった。まだ虐め続けるつもりなら、傷薬を塗ったりはしないだろう。
 だから。肌に突き刺さった針で皮膚の裏側を掻き回されるような鋭い痛みにも、歯を食い縛って耐えた。耐えられなくても、耐えさせられる。激しく振り回されったかれていたときは阿鼻叫喚だったが、今は不気味なくらい静かだ。呻き声がこの鬼畜どもの劣情を呼び戻すのではないかと、それを恐れてもいた。
「うううう……いいい……」
 それでも、歯の隙間から苦悶が押し出される。
 薬品の作用で、全身が燃え上がるように感じられた。ことにヨードチンキを塗り込められた内側では、炎の暴風が荒れ狂っていた。
 そうして。全身を真っ黄色に塗りたくられて。吊られたままだったが、サルグツワはほどいてもらえた。
 男たちが土蔵から出ていく。師匠が最後に明かりをすべて消して。
「まだすこし早いが――ぐっすり、お休み」
 葉子はひとり、闇の中に放置された。
 安堵で気が遠くなった。ヨードチンキの痛みはもう薄れかけている。打ち身も鞭傷もじゅうぶんに痛いけれど、とにかく二日目が終わったのだ。足が床に着いているから、吊られていてもそんなに苦しくはない。三角木馬の上よりも、ずっと安逸に身を休められる。
 肉体は消耗しきって、心もズタズタに引き裂かれて。それでも葉子は悪夢すら見ない泥のような眠りに引き込まれていったのだった。
 ――三日目は、朝早くから自然と目が覚めた。もう半日は昨日までと同じように虐められるけれど、それでこの地獄からは開放される。男に身体を売るトルコ嬢としての生活が、今では一家四人の団欒と同じくらいに幸せな境遇に思える。
 こんな目に遭ったのも、結局はお金のせいだ上納金は、ヤクザなのだから仕方がないのだろうけれど。前もって相談してくれていたら、もっと別の方法もあったと思う。いきなり前借に行った勝雄がいちばんの戦犯だけど、そうさせたのは自分だと――葉子は思わないでもない。もっと勝雄に心を開いていたら、彼だって何かと相談してくれただろう。すくなくともトルコ嬢を続けているあいだは勝雄に監視――それが、いけない。名目上の夫に過ぎないし、私の稼ぎに寄生しているヒモだし、監視役だし。それは事実にしても、もっと打ち解けて、甘えて――いや、彼の生活を支えてやって、ヤクザとしての面目を保てるようにお金の面倒もみてあげて。ゆくゆくは、彼を尻の下に敷くぐらいの気構えで臨んでみよう。そのためには、うんと稼がなくちゃ。
 地獄に墜ちて二か月。ようやく葉子は、自分に課された運命をまっすぐに切り開いていく性根が座ったというべきだろう。
 扉が軋みながら開いて、朝の鮮やかな光が土蔵を満たす。
 はいってきたのは、師匠を含めて三人だけだった。葉子は拍子抜けした思いだった。それとも、外で嬲られるのだろうか。
 吊りから下ろされて、白いタオル地のバスローブを与えられた。庶民としては裕福なほうだった瀬田家でも、そんな物は使わない。洋画のヒロイン(せいぜい脇役?)になった気分を一瞬だけ味わった。どうせ、虐められるときは素裸に剥かれる。
 葉子は両側から支えられて裏口から母屋へ引き入れられ、風呂場へ連れて行かれた。
「湯はぬるめにしてある。身体の汚れを落としなさい」
「あの……もう虐めないんですか?」
 綺麗になったところで気分一新、新しい鞭傷を刻んであげよう。そんな答えを予測していたのに。
「プレイは、もうおしまいだ。迎えが来るまで足田を休めていなさい。自分の足で歩いて帰れるようにしてあげるというのが、最初の約束だからね」
「ありがとうございます」
 言葉だけでなく頭を下げてから。自分をこんなふうにした張本人に向かって素直に心の底からお礼を述べている自分を不思議に思わないでもなかった。
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
 三人の男の目の前で、葉子はバスローブを脱いだ。トルコ風呂で客に見られながら制服を脱ぐときほどにも羞ずかしくはなかった。
 踊時代からそのままだと言われても納得するくらいに古びた屋敷の中で、風呂場は場違いなくらいにモダンで広々としていた。風呂釜がガス湯沸かしになっているのはもちろんだが、洗い場にはシャワーもあった。
 ヨードチンキで真っ黄色なまま浴槽に浸かるのは、もちろんエチケット違反だ。シャワーで温水を浴びながら、備え付けのスポンジに液体石鹸を染ませてそっと身体をこすった。仕事のときはもっと泡立てて全身を泡まみれにするのだけれど、そういう思いは頭の奥へ追いやった。
 カラカラと磨ガラスの扉が開いて。裸になった三人がはいってきた。
 葉子はうんざりも怯えもしなかった。正直に言うと、筆に引き出された凄絶で淫らな感覚を思い出して――ちょっぴりだけ胸がときめいた。
「背中は自分で洗えないだろ」
 師匠よりも年配の男が新しいスポンジを手にして、正面から葉子に抱きついた。
 それくらいで驚いたり羞ずかしがったりする葉子ではない。トルコ風呂で男の背中を洗うときと、同じ形だ。座っているの相手の膝に乗らないだけ、おとなしい。
「俺は、こっちを洗ってやるよ」
 若い男が後ろにまわって、スポンジを股間に潜らせた。
「ああん……そこ、すごく痛いから優しくしてください」
 これはSMとかいう淫虐な行為ではなくて、女体をエロチックに弄ぶという葉子にも理解できる遊びだった。だから、痛いのは嘘ではないけれどサービスのつもりだった。
「そうか。スポンジでは手加減がわからないから手で洗ってあげよう」
 むしろスポンジよりがさつに掌が股間を包み、指が淫裂を穿った。
「く……」
 痛いと感じるのを、葉子は不思議に思う。鞭を叩きつけられたり凸凹の擂粉木を突っ込まれたり三角木馬の稜線で切り裂かれたときの想像を絶するまでの激痛に比べれば、傷口を指でこすられるくらいは、くすぐられるも同然のはずなのに。心の持ち方なのだろうか。叩かれる非道い目に遭わされると覚悟しているときと、男の淫らな欲望に答えようとしているときとの、心構えの違い。
 しかし、そんな疑問に耽っている場合ではなおと、葉子はわきまえていう。
「く……ううん」
 苦痛の呻きを意識して甘く鼻へ抜けさせた。腰を控えめにくねらせて、快感を装った。性的に弄ばれ性的に奉仕する。それは、この二か月で葉子が(不本意ながら)身に着けてきたトルコ嬢としての振る舞いだった。
 俄然、指の動きが激しくなった。中指と薬指とで女穴をこねくられ、人差し指でクリトリスを転がされ、親指で尻穴を圧迫される。
「いやあああ……おかしくなっちゃう」
 まったくの演技、でもなかった。トルコ嬢としての務めを果たしていたときと同様、こういうことをされているしているという嫌悪はあるけれど、クリトリスがじんじんと痺れ、腰の奥が熱く疼いてくるのも事実だった。今は、そこに傷口をえぐられる痛みが重なっているが――快感を掻き消すほどではない。むしろ、快感に奥深い陰影を刻んでいた。
 年配の男もスポンジを放り出して、素手で乳房をこねくっている。こねくりながら、思い出したように乳首をつまんだり指の腹で転がしたり。そのたびに、これも痛覚にまぶされた快感が乳房を痺れさせた。
 半ば演技で半ば本気で喘ぎながら。女を虐めて悦ぶ変態性欲者でも、ふつうに(?)女性と遊べるのだと、葉子は認識を新たにした。
「この調子では、互いに埒を明けないことには収まりそうもないですね」
 師匠が提案して。三人の男が並んで床に寝転がった。
「これまでさんざんにキミを嬲ってきたからね。今日は仕返しをさせてあげよう」
 嗤いを含んだ言葉の意味は――仰臥した三人の肉体が亠(なべぶた)の形になっているのを見れば歴然だった。仕返しなどと言いながら、縛ったり叩いたりするのとは違うやり方で女に恥辱を与えようとしている。
 逆らえば土蔵へ連れ戻されるだろう。葉子は黙って、まん中に寝ている師匠の身体を跨いだ。が、考え直した。男どもにおもねったのだが、こういう職業意識がこれまでの自分には欠けていたのかもしれないと思い当たるところもあった。
「お言葉に甘えさせていただきます」
 あくまでも自分の意志でそうしている形を作り、葉子は腰を沈めて怒張を女芯に咥え挿れた。ささやかな仕返しのつもりで師匠の肩に両手を突いて、膝の屈伸を繰り返した。
「ふうむ。やはりキミはノン気だね。コイツスとなると、実に積極的だ」
 コイツスというのがセックスと同じ意味だと、葉子は覚えている。
「だって……私、トルコ嬢ですもの」
 清純な女学生だけど男性に性的な献身をする――店名の『献身女学院』にふさわしい物言いを意識して答えた。
「それに……ああっ、あああん……こういうの、好き」
 縛られたり叩かれたりするよりずっとまし――と露骨に言えば不興を買うだろうという懸念が、そういう言い方をさせた。それに、痛めつけられた女性器でも、性交の快感はあった。好きで仕方ないとか、痛いのを我慢して快感を追求するとかではないが、痛みをやわらげる程度の快感だった。
「ああっ……いい。浮いちゃう……あああん」
 演技を続けながら、葉子は意識して肛門を引き締め、腰を前後左右に激しく揺すった。その甲斐あって。
「いいぞ、その調子……出すぞ」
 それほど苦痛(と、わずかな快楽)を長引かせずに、葉子は三人を処理を終えたのだった。
「ふむ。うら若き職業婦人に花を持たせておくとするか」
 ペチンと尻を叩いて、師匠は風呂場から出て行った。
 演技を見抜かれた――と、葉子も悟った。葉子は知らないことだが。会員の話の中に出てきた、彼女と同い年のヌードモデル嬢をアクメの極地に追い詰めて、モデル斡旋会社と不利な契約を結ばせた男には、稚拙な演技などお見通しだったのだ。
 しかし。それを理由に新たな折檻を加えようとしないのは、あと数時間で彼女を開放しなければならないのが一番の理由だろうが。飴と鞭のように責めの合間に見せた偽りの優しさとは根本的に異なるいたわりを、葉子は男の中に見たように思った。
 もしもお客の中からこういった心情を引き出せれば、トルコ嬢としての日々ももっと楽に、そしてお金もたくさん稼げるようになるのではなかろうか。そんなことを考えながら、だだっ広い浴槽の中でぬるめの湯にのんびりと浸かる葉子だった。
 葉子が土蔵に拉致されたのは土曜日の昼だった。今日は月曜日。二十人で割勘にしても一人当たり七千五百円も『趣味』にお金を投じられる連中だが、やはり平日はそれなりに忙しいのだろう。三人と入れ替わりに葉子を嬲りに来る男はいなかった。
 風呂を出て、真新しいバスローブを素肌にまとって(着てきた制服に着替えることまでは許してくれなかった)、土蔵に戻されて。パンと炒り卵とサラダの朝食を食べさせてもらった。それを運んでくれたのは、三人とは別の男だった。この大きな屋敷に住んでいるのは師匠という男ひとりでは、まさかないだろうが、家人も使用人も、一人も見ていない。この催しにそなえて追い出しているのだろうかとも、葉子は疑った。炒り卵は焦げっぽいし、野菜は男手を思わせるさく切りだった。もちろん、まともな人の目に晒されるよりは、ずっと気が楽だが。
 食事の後は、風呂場の三人とは違う四人のまともでない男たちの相手をさせられた。といっても。また風呂場へ連れ込まれて、トルコ嬢としての仕事をさせられただけだったから、つらくも惨めでもなかった――と気づいて、葉子は複雑な気持ちになった。これまでは、トルコ嬢であることそのものが、その仕事が、つらくて惨めに感じていたのだから。
 ――正午きっかりに葉子を迎えに来たのは、兄貴分ではなく勝雄だった。
「俺のせいで、とんだ苦労をさせてごめんな」
 勝雄はいきなり葉子を抱き締めた。
「おやおや。新婚さんはお熱いね」
 まだ残っていた数人の半畳は無視して、勝雄は葉子の機嫌を取ろうとする。
「でも、わりと元気そうでホッとしたぜ」
 葉子は身を振りほどいて、バスローブをはだけた。縄の痣こそ消えてはいるが、まだ無数の針跡が残る乳房も鞭痕だらけの下半身も、勝雄の目に曝した。
「酷い目に遭わせてすまない」
 あまり心がこもっていないように聞こえた。つまりは、葉子を『自分の女』として親身に思っていないのか、ヤクザならこれくらいのリンチは日常茶飯なのか。勝雄を自分になびかせようという今朝方の決心が、早くも揺らぎ始めるのだった。

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折檻ビフォーアフター

 ここから、ちょこっとトルコ嬢としての平凡な日々が続いて。
 売春で摘発されて。亭主が身元引受人になるものの。
「勾留期限の48時間後に引取りに行きます。それまでは煮て食おうと焼いて食おうと」
 ヒロイン自身が賄賂にされて……また尺が伸びて。
 SMアルバイトよりも深く絶望して、売春地獄に墜ちていく。
 悲惨エンドの予定です。



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