Progress Report Final:昭和集団羞辱史『湯女』
一揆加勢で脱稿しました。
今回の御紹介は、ここでENDにしてもおかしくないという、そして、本編で最も過激な責め場……が、これですもの。甘っちょろくて、どうにも興が乗りませんでした。
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今回の御紹介は、ここでENDにしてもおかしくないという、そして、本編で最も過激な責め場……が、これですもの。甘っちょろくて、どうにも興が乗りませんでした。

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秋になって客足が戻り、湯女も大車輪。といっても、ひとり一時間の接客だから、一日でせいぜい八人くらいだが。それでも、一時間に四人から五人の湯女が帳場に出入りしてバンドの清算をするのだから、にぎやかで艶やかな光景ではあった。
そんな忙しい一日が終わったある日。
火を落として静まり返った厨房に、亭主と女将が五人の湯女を呼び集めた。
「大変に困った問題が起きました」
五人を壁際にならんで座らせて、亭主がその前に立って腕を組む。
「ゴムバンドの帳尻が合わないのですよ」
客は旅館に金を預けて、預かり証の代わりにゴムバンドを受け取る。客が後でゴムバンドを戻せば、旅館は預り金を返す。旅館側のあずかり知らぬ事情で湯女がゴムバンドを持ち込めば、半額で引き取る。客と湯女との間で現金授受は行なわれていないという、法の網を潜り抜けるための方便であると同時に、湯女に勝手な値段交渉をさせない意味もあるのだが。結果として旅館側には、湯女に払ったのと同じ金額が残る。
それが四百五十円足りないというのだった。
「お客がよそからゴムバンドを持ち込んだんじゃないですか」
京子の当てずっぽうには無理があると、梢枝にもわかっている。ゴムバンドには、旅館ごとの刻印を捺した一センチ角のゴムが接着されている。もっとありそうなのは――帳場からゴムバンドを盗み出して、知らん顔で換金するという手口だ。
「本来なら、ちょろまかした人だけを呼びつけて、内々に済ませるところですがね。それでは、ますます当人を付け上がらせるだけだと思って、集まってもらったのです」
亭主の視線が自分に向けられていると、梢枝は気づいた。
「今日のお客様は三十八人で、帳面に付けている赤バンドの出入りも三十八本。皆さん、お盛んなことですね。問題は白バンドと青バンドです。これは、ほとんどが梢枝の持ち込みだね」
疑われている――いや、決めつけられていると梢枝は気づいた。亭主にしろ女将にしろ、湯女を呼び捨てにすることは、ほとんどない。
「あたし、ちゃんとお客からもらっています」
「梢枝は今日、青バンドを六本換金しているが、お客様から返還が無かったのは三本だけ。一本百五十円だから、辻褄の合わない三本分でちょうど四百五十円だね」
濡れ衣、それとも言いがかり。今日は九人の洗体で、六人を岩山の裏へ誘い込んでいる。
「あたし、ちゃんと六人のお客から青バンドをもらいました」
「しかし、青バンドを持ち込んだのは梢枝だけだからね。言い逃れはできないよ」
「そんな……」
なんだって、急にこんなことを――そこで、ふと気づいた。さっきの京子の言葉。なんだか、狂言回しみたいだった。
ここ一か月ほど、梢枝とほかの湯女との間には、ぎくしゃくした反目が続いている。接客はもちろん、旅館にも迷惑を掛けていないと思っていたけれど。小さな世界の中では、どんな小さな不協和音でも耳障りなのかもしれない。
もちろん。亭主さんはともかく、女将さんに注意されたら素直に聞き入れていただろうけれど――そうは思われていなかったのだろうか。もしかしたら。梢枝の過剰なお色気サービスが客を呼んでいた一面はある。あまりおとなしくされても、旅館としては痛し痒しなのだ。といって、反目を放置もできない。
だから、まったく別の口実でお灸を据えておこう――とでも、考えたのだろうか。
「素直に罪を認めるなら、事を荒立てたりせずに内々で済ませてあげる」
「あんたのしたことは、立派な犯罪なんだよ」
京子の口出しで、梢枝は推測が間違っていないと確信した。
してもいないことを認めるのは厭だ。事を荒立てるのなら、そうしてください。警察に届ければ、実際には旅館が湯女に売春をさせていたことが公になって、困るのはそちらじゃないんですか。そういうふうに反論も出来たけれど。同輩はともかく、雇い主を敵にまわしたら困るのは梢枝だ。梢枝のおかげで繁昌しているのは事実だが、梢枝が来る前から温泉郷はそれなりにまわっていたのだ。
あっさりと首にされるかもしれないと、初めて梢枝は思い至った。そのときには、支度金の五万円を返せと言われるだろう。店の都合で首を切るんだから返さなくてもいいように思うけれど。貯金通帳を取り上げられて、身ひとつで追い出されたら――そこまで先走って考えてしまった。
旅館や先輩の理不尽な仕打ちに屈するのは厭だけど、尻尾を巻いて実家に逃げ戻るのは、もっと厭だ。
「あたし……してもいない罪を認めるなんて、絶対にしません」
それは反発ではなかった。
「だから、好きなようにしてください」
首を切られるというのは考えすぎだろうと、思い直した。四百五十円を弁償させられたって蚊に刺されたほどの痛みにもならない。謹慎なんか、一週間でも一か月でも骨休めみたいなもの。どうせ旅館だって、出るところには出られない事情を抱えている。
まさか、寄ってたかってのリンチもできないだろうと――これまでと同じに高を括ったのだが。
「まったく、ふてぶてしい子だね。しばらくは、おいたも出来ないくらいには懲らしめてやらなくちゃ」
それまでは亭主に仕切らせていた女将が、梢枝の前に立った。
「それじゃ、好きにさせてもらうよ。着物を脱ぎなさい」
梢枝は女将の顔をまっすぐに見上げて――立ち上がった。お仕着せの浴衣を黙って脱ぐ。みんな、女将さんにつくに決まっている。五対一では、逆らうだけ無駄だ。
「そこへあお向けに押さえ付けておきなさい」
梢枝は、それにも逆らわなかった。けれど、内心では意外な成り行きに怯えている。毛を剃られたり擂粉木を突っ込まれるだけでは済まない。そう覚悟させられるほど、女将の顔は冷たかった。
女将は黙って場をはなれて、すぐに戻って来た。小道具を幾つか抱えている。
「一か月でだいぶに生えてきたね。あんた、剃ってやって」
梢枝は脚を大きく開かせられた。その中に、亭主が剃刀を持って座る。
「これくらいじゃ懲りないとわかってるだろうに」
女将に向けて言った言葉だが、顔は梢枝の股間に向けたままだった。
この人の顔、助平になってる――梢枝は、男の心裡を見抜いた。憎しみや嫉妬で剃られるよりは、女として救われる思いが湧いた。身体が目当てなんて台詞はよく聞くけれど、末永く添い遂げるわけでもない仮初めの男女の間に、ほかの何があるんだろう。
六人の女の視線から逃れたくて、梢枝は目をつむって亭主の仕打ちを受け容れた。
じきに剃り終わって――亭主に変わって女将が、梢枝の股座近くに座った。
「おまえはね、ここが気持ち良すぎてアレコレしてるんだろうね。しばらくは、自分で触ることもできなくしてあげるよ」
襞の間に埋もれている肉蕾をほじくり出された。
女将は包皮をつまんでしごき、淫核を硬くしこらせる。言っていることとしていることが反対――とは、梢枝の思い違いだった。女将は包皮を剥いて、実核を露出させた。それを左手で押さえておいて、右手は小箱を開けて茶色い綿のような物を指につまんだ。
「あ……?!」
戦後になって廃れてきたとはいえ、まだまだお灸は庶民の中に根付いている。肩凝りや腰痛の民間療法でもあるし、寝小便の特効薬という迷信も生きている。そして、子供への折檻にも使われている。
まさしくお灸を据えられるわけだが――どこに据えられるかは、こうなってみると明白だった。そっと触ればすごく気持ちいいけれど、それだけ敏感なのだから、お灸を据えられたらどうなるか。
「ごめんなさい。もう、二度としません。だから、赦してください」
それまでとは打って変わって、梢枝は半泣きの声で訴えた。
「二度としませんって、何をだね?」
返しながら、女将は艾(もぐさ)を練る指を休めない。
「…………」
梢枝は言葉に詰まった。四百五十円は口実だと、すでに梢枝は悟っている。濡れ衣なのだから、二度でも三度でも着せることができるだろう。マッサージ室での自由恋愛は、これをやめろとは女将も言っていない。そんなことをすれば、『湯乃華』に閑古鳥が鳴く。
「もう……お客さんを裏に誘い込んだりはしません。マッサージ室でも、おとなしくします」
「うごかないように、もっと強く押さえて。フミさんも手伝いなさい」
両手を頭上に伸ばした形にされてフミに手首をつかまれ、京子と朋美は片手で腰を押さえて片手は膝をつかんで閉じないようにした。
「珠代ちゃんも。あなたは馬乗りになりなさい。この期に及んで同情なんか駄目よ」
ごめんねと囁いてから、珠代も梢枝を虐める側に加わった。
実核がさらに引き伸ばされて、根元を女将の指が押さえつける。梢枝には珠代の身体に遮られて見えていないが、そこに据えられた艾は、実核と同じくらいの大きさがあった。
亭主が線香に火を点けて女将に手渡した。そして、脇に控えて――梢枝の股間を見詰めている。
剃られたときと同じで、梢枝には亭主の存在が、せめてもの心のよりどころに思えた。こんな酷いことをされても、それを見て興奮してくれる男がいるのなら、同性にどんなに憎まれてもすこしは救いがある。
いよいよ火が点じられたらしい。珠代の肩越しに薄い煙が立ちのぼった。
「くううう……」
最初に灸を据えられる熱痛を『皮切り』というが、それどころではない。熱の錐が実核を貫き通している。しかも、錐はだんだん太く鋭くなって……
「うああ……熱い! 痛い! 赦して……赦してください」
「うるさいね」
不意に女将が立ち上がった。着物の裾を端折り腰巻もたくしあげて、珠代と背中合わせになって梢枝の顔に尻を落とした。
「んぶうう……」
口をふさがれて、梢枝は悲鳴を封じられた。淫毛がじゃりじゃりと鼻腔をくすぐるが、それを不快に思うどころではない。このままではクリトリスが焼け落ちてしまうのではないか――そう思ったとき、この折檻の残酷さを梢枝は知った。
クリトリスが無くなったところで、男の側にはたいして不都合はないのだ。湯女として働くことはできる。擂粉木で傷つけるよりも、旅館としてはよほど都合がよい。
そして、梢枝は快楽を取り上げられてしまう。そうなってまで、客に過剰なサービスをする気にはなれないだろう。洗体とマッサージで三百五十円。青バンド百五十円のためだけに、傷ついたクリトリス(それとも、クリトリスのあったところ?)を弄ばれる苦痛には耐えられない。
「むぶうううううっ……ゔゔゔゔ!!」
三人がかりで押さえ付けられている腰が、ビクンビクンと跳ねる。
「おっとっと……」
京子が腰を押さえていた手をずらして、転げ落ちかけた艾を据え直した。
「おお、熱かった」
声が楽しそうに弾んでいる。
――艾は最後までクリトリスの上で燃え尽くした。
「わたくしだって、いよいよとなれば鬼にでも夜叉にでもなりますからね」
そう言って女将は梢枝の顔から立ち上がって、着物を整えた。梢枝にだけでなく、他の湯女にも向けられた言葉だった。
翌日も、梢枝は仕事をした。火傷が治るまで休んで痛かったけれど、女将が許してくれなかった。もっと辛いことを命じられたとしても、梢枝は女将の言葉に従っていただろう。それほどに、灸折檻の効き目は著しかった。
さいわいに焼けて無くなりはしなかったが。火傷で親指の先ほどにも膨れて包皮では蔽いきれなくなり、常に先端が露出するようになった。いっそ剥きっ放しにしておこうかと思ったが、それでは湯が沁みて立っていられないほどに痛む。
梢枝は手拭いで厳重に股間を隠して、客から身を引くようにして身体を洗った。マッサージ室では、官能を追求するどころではない。腰を打ちつけられるたびにクリトリスが悲鳴をあげて――快感の無い商売の辛さを思い知らされたのだった。
敏感な部位だけに、治りも早いのだろう。一週間もすると薄皮が張って、痛みも少なくなった。しかし、元の形には戻りそうもなかった。火傷の部分が盛り上がってきて、クリトリス全体が以前の倍ほどにも大きくなり、常に半分は露出する形になった。そして盛り上がった部分はあまり感じなくなったのに、その周辺はずっと鋭敏になってしまった。だからというべきか、しかしというべきか――梢枝はマッサージ室でもそこを刺激しないように努めるしかなかった。外にまで聞こえる嬌声を張り上げたら、今度はもっとひどい折檻をさせるかもしれない。かといって、みずから猿轡を噛んでまで快楽を追求する気にもなれない。やはり、もしも露見したらという怯えが、梢枝を縛っていた。
梢枝がおとなしくなって、湯女のあいだの力関係は変わった。うんと歳の離れた味噌っかすという扱いに、梢枝は甘んじるしかなくなった。ある意味、それが本来の形であったかもしれない。
梢枝の過剰サービスがなくなると、日帰りの入浴客も以前の数にまで漸減して、温泉郷全体も落ち着いてきたのだが。活況を知った後になってみると、寂れてきた感じは否めなかった。
そのまま二年三年と過ぎていけば、梢枝への扱いもだんだんと変わって、梢枝も他の四人と変わらない娼売女へと落ち着いて行ったのだろうが。
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画像もご覧の通り、キーワードに『湯女』を含めると、ハードなものは引っ掛かりません。
ので、いわば商売敵のアフィリンクを張ってみたりします。こういうタイトルだと、今回の筆者作品とはまるきり趣が異なります。いえ、わざわざ購入して読んだりはしませんよ。TOYOTAの社員がニッサンの車に試乗するようなものですから。
このサークル(というか、作者)実は、今回『湯女』で検索して初めて知りましたが、16年前にDLsiteデビューしていて、89本もUPしています。コンセプトは、筆者に言わせればだいぶん違っていますが、他人の目には似て見えるかもしれません。
さいわいに焼けて無くなりはしなかったが。火傷で親指の先ほどにも膨れて包皮では蔽いきれなくなり、常に先端が露出するようになった。いっそ剥きっ放しにしておこうかと思ったが、それでは湯が沁みて立っていられないほどに痛む。
梢枝は手拭いで厳重に股間を隠して、客から身を引くようにして身体を洗った。マッサージ室では、官能を追求するどころではない。腰を打ちつけられるたびにクリトリスが悲鳴をあげて――快感の無い商売の辛さを思い知らされたのだった。
敏感な部位だけに、治りも早いのだろう。一週間もすると薄皮が張って、痛みも少なくなった。しかし、元の形には戻りそうもなかった。火傷の部分が盛り上がってきて、クリトリス全体が以前の倍ほどにも大きくなり、常に半分は露出する形になった。そして盛り上がった部分はあまり感じなくなったのに、その周辺はずっと鋭敏になってしまった。だからというべきか、しかしというべきか――梢枝はマッサージ室でもそこを刺激しないように努めるしかなかった。外にまで聞こえる嬌声を張り上げたら、今度はもっとひどい折檻をさせるかもしれない。かといって、みずから猿轡を噛んでまで快楽を追求する気にもなれない。やはり、もしも露見したらという怯えが、梢枝を縛っていた。
梢枝がおとなしくなって、湯女のあいだの力関係は変わった。うんと歳の離れた味噌っかすという扱いに、梢枝は甘んじるしかなくなった。ある意味、それが本来の形であったかもしれない。
梢枝の過剰サービスがなくなると、日帰りの入浴客も以前の数にまで漸減して、温泉郷全体も落ち着いてきたのだが。活況を知った後になってみると、寂れてきた感じは否めなかった。
そのまま二年三年と過ぎていけば、梢枝への扱いもだんだんと変わって、梢枝も他の四人と変わらない娼売女へと落ち着いて行ったのだろうが。
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画像もご覧の通り、キーワードに『湯女』を含めると、ハードなものは引っ掛かりません。
ので、いわば商売敵のアフィリンクを張ってみたりします。こういうタイトルだと、今回の筆者作品とはまるきり趣が異なります。いえ、わざわざ購入して読んだりはしませんよ。TOYOTAの社員がニッサンの車に試乗するようなものですから。
このサークル(というか、作者)実は、今回『湯女』で検索して初めて知りましたが、16年前にDLsiteデビューしていて、89本もUPしています。コンセプトは、筆者に言わせればだいぶん違っていますが、他人の目には似て見えるかもしれません。
さて。次は妄想全開ハード作品にシフトしましょう。
PLOT半完成の作品も幾つかありますが。
「何を書きたいのか」をじっくり(3日ほど)考えて、次作ではきちんとPLOTを練ってから、6月中旬あたりから書き始めましょうか。
Progress Report 3:昭和集団羞辱史(湯女)
どうにも……5月中には脱稿できそうになくなってきました。
在宅勤務のせいです。
通勤してるときは、平日は朝に1時間半ほど集中して、休日は5時間くらいスパート。なのですが。
朝起きる時間は同じでも、家を7時過ぎに出るのと、在宅で9時前に勤務開始とでは……在宅のほうが、ノンベンダラリとしてしまいます。しかも、仕事を土日まで持ち越して――どうにもこうにもです。
まあ、考えようによっては。フルタイム勤務しながら年間3千枚というのが異常だったのかもしれません。SFを書いていた昔に比べると5倍くらいですものねえ。
ともかく、出来高を御紹介。
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先輩の虐め
そんな牧歌的な桃色郷を大きく揺るがす事件が起きた。梅雨で客足が細るさ中、風俗ルポライターを名乗る若い男が『湯の華』に泊まったのである。一人だけで泊まりに来る客は珍しいが、濃厚お色気サービスをする飛び切り若い遊女の評判を聞きつけて、電話予約のときから梢枝を指名してきた。
当時(令和の現代でもそうだが)、男性向けの通俗週刊誌には『マル秘スポット』とか『知られざる穴場』の紹介記事があふれていた。取材される側も、いい宣伝になるくらいにしか思っていない。
露天風呂とはいうが、雨除けの屋根は設けられている。洗い場では京子と朋美が、それぞれの客を相手に洗体の最中だった。求められれば客に好きなだけ身体をさわらせる朋美も、今日はまだ足首にバンドを巻いていない。
「ずいぶんと若いね。歳は幾つ?」
この質問に、梢枝は慣れっこになっている。
「この春に卒業して、すぐここに就職したんです」
「卒業って、高校かな。まさか小学校じゃないよね?」
狡い質問だなと、梢枝は思った。短大卒の才女がこんな職業に就くはずもないから、両方を否定したら自動的に答えが出てしまう。いつものように
「さあ……ご想像におかませします」では、まずいんじゃないだろうか。相手はルポライターなんだから、十三歳の少女が湯女をしているなんて、わざと嘘を書かないとも限らない。警察か労働基準監督署か保健所か知らないけれど、調べがはいって旅館に迷惑をかけるかもしれない。
「女性に歳を聞くなんて、野暮ですよ」
最年長のフミの答えを真似してみた。
「そんなことより。お客さんて、取材に来られたんでしょ。だったら、ここで青のバンドを使わなくちゃ」
お色気サービスのほうへ関心を向けさせようとした。江戸時代の湯女と同じように最後まで出来るというのが、この温泉地の謳い文句なのだから、女将さんにも文句は言われないだろう。事実――洗い場での過剰サービスを叱られたのは最初だけで、今では黙認してくれている。
「へえ。なにをしてくれるのかな?」
ルポライターは気前よく青バンドを渡してくれた。それを足首に通して。
いつものように、梢枝は岩山の裏手に男を案内した。洗い椅子代わりの小岩に座らせ、スポンジに石鹸を泡立たせて男に持たせる。自分は後ろ向きになって男の腿に乗る。
「あたしを洗ってください。もちろん、ここもたっぷりお願いします」
股間から聳え立っている巨木を握って言うのだから、ここがどこか明白だ。
男はスポンジをさっさと床に置いて、左手で乳房を揉みながら右手は股間をまさぐる。
「柔肌は手洗いが一番だよ」
風俗ルポライターを名乗るだけあって、遊び慣れているのだろう。強すぎも弱すぎもしないねちっこい愛撫で、たちまち梢枝の官能に火を点じた。
「んああ……お客さん、いいですうう」
早々と猿轡を咥えようかと思ったほどだ。腰の奥の疼きに焦れて、男の上で尻をくねらせた。剛毛が尻肉をくすぐって、それも官能を刺激する。
「梢枝ちゃんこそ、この歳でずいぶんと開発されてるじゃないか」
「だって……これがお仕事ですから」
梢枝は、サービスではなく自分の欲求を満たすために――向きを変えて客に抱きついた。腰を突き出して、すでに硬くしこっている蕾を剛毛に押しつけた。
「あああっ……いい。浮かんじゃう……浮かんでる」
水栓(クリトリス)がひねられて、腰の奥に熱湯がたまっていく。ここからは掛け時計は見えないが、洗体を始めてから二十分と経っていないだろう。けれど、あと十分もこんなサービスを続けるのは我慢できなかった。
「あの……すこし早いけど、マッサージをさせてください」
ルポライターは梢枝の尻から手を差し入れて、淫唇の中をえぐった。
「逆だろ。僕が梢枝ちゃんをマッサージするんじゃないか?」
「どっちも……です。あ、赤のゴムバンドをくださいね」
さすがに、娼売までは忘れていない。
腰の手拭いは『使用中』の目印にドアの前に掛けて。すっぽんぽんでマッサージ室にはいると、ドアを閉めるのももどかしく、梢枝は客の前にひざまずいた。
若いだけあって、一分や二分の中断くらいではまったく萎れていない。梢枝は上からおおいかぶさるようにして、巨木を口に咥えた。じゅうぶんに洗ってあるから、汚いなんて思わない。至高の快楽を与えてくださる御神木だ。
「おおお。尺八を吹いてくれるというのは、ほんとうだったんだ」
男が興奮の極致に達しているのが、それを咥えている梢枝には感じ取れた。
「このまま出しちゃ、もったいないでしょ」
口淫奉仕はあっさりと切り上げて、奥からコンドームを持って来て、男にかぶせた。最初の客から仕込まれたので自然とそうしているのだが、湯女の中ではほかの店も含めて梢枝だけらしい。というか、この時代にコンドームを必須としているところは少ない。最下級の女たちはコンドーム代さえけちるし、湯女の何倍もふんだくる高級トルコ嬢は生本番があたりまえだった。大衆向けのトルコやチョンの間だと、女はそんなに親切ではない。
「お客さんが下になってくれますか。あ、これはあたしだけのスタイルなんですけど」
団体客でも来ようものなら一日に五人以上の相手をしなければならないのだから、自分で動いていては疲れ果ててしまう――というのが、先輩たちの忠告だった。梢枝自身は、まったく平気どころか、騎乗位が気に入っているのだが、女を組み敷いてこそ男だという考えの持ち主も多い。客の意向に逆らってまで、自分の快楽を追求するわけにもいかない。梢枝が昇り詰めると喜んでくれる客は多いが。
「自分だけ善がって、娼売をちゃんとしろよ」などと怒る客も十人に一人くらいはいる。
――洗体を早めに切り上げたこともあったし、クリトリスをほじくってほしいというおねだりを男が喜んでかなえてくれたせいもあって。梢枝は熱泉の大奔流に吹き上げられ、シャボン玉ではなく花火のように破裂して果てた。
どちらもじゅうぶんに満足してマッサージ室を出て。それで遊女の仕事は終わったのだが、ルポライターの求めに応じてインタビューを受けた。これには亭主も女将も乗り気で、空いている客室を提供もしてくれた。
ルポライターはさすがに聞き上手で、三十分間のインタビューのうちに梢枝は、実年齢はもちろん、母に売られた形での就職の経緯や、その理由まで打ち明けていた。最後には露天風呂に戻って、腰に手拭いを巻いただけの湯女姿を写真に――梢枝の感覚としては『撮られた』のではなく撮ってもらった。
日帰りで行ける秘湯の桃色本番遊女
そんなタイトルの記事が週刊誌に載ったのは、取材から二週間後だった。巻頭のカラーページに梢枝の半裸写真が掲載されて、本文は『体験記』とインタビューを主体に構成されていた。『湯の華』だけでなく『仙寿庵』と『美人湯』も紹介されていて、それぞれに所属する遊女の源氏名と公称年齢(三十七歳のフミは三十二歳になっている)も掲載されていたが、梢枝の特集記事の感が強い。
日本全国に生き恥を曝すこともないだろうにねえ――というのが、他の湯女にかぎらず、当時の女性一般の感想だったろう。男の性欲を満たす仕事の女性が広く認知され、さらにはアイドルになったり、小 学 生の「将来なりたい職業」にランク入りするには、二十年三十年の時を待たなければならない。
話を昭和三十六年の当時に戻して。
週刊誌が発売されたその日から、三軒の旅館に掛かってくる電話は十倍に増えた。といっても、一日に数本だったのが五十本くらいになっただけだから、てんてこ舞いというほどでもない。日帰りの入浴を希望する客の大半は、湯女を待っているうちに日が暮れると聞かされて諦めるし、だからといって泊りがけで遊ぼうという好き者も数は知れていた。つまりは、程よい繁昌に落ち着いたのだが――梅雨時から初秋までは客足が遠のく温泉地としては、週刊誌様々といったところか。
梢枝は朝から晩まで予約がいっぱい。他の湯女も繁忙期さながらの忙しさだったが。
珠代はともかく、当時の感覚では大年増のフミや京子をあてがわれた客が文句を言ったり、今でいうチェンジを求めたり。他の旅館が駅で捕まえた振りの客が、梢枝のいる湯ではないと知って鞍替えして来たり。
湯女全員から、梢枝は嫉妬されるようになっていった。
男に対しては奔放な梢枝だが、日常ではみずから進んで人と交わる性質(たち)ではない。仲居と湯女とでは棲む世界が違うと、どちらも思っている。そして湯女同士も――同病相憐れむといった雰囲気ではなかった。京子が梢枝の母と同年齢で、フミは五つも歳上。珠代と朋美は二十五と二十八で仲が良いが、梢枝はその二人とも年齢が懸け離れている。つまり、梢枝は孤立していた。
客の世話は輪番でも、赤バンドだけでなく青もせしめる梢枝は稼ぎが太い。しかも、客の人気が集中する。四人に、歳下の後輩を可愛がるという感情も生まれにくい。
週刊誌は、そういった下地を大きく膨らませる酵母の役目を果たしたといえなくもなかった。
――三畳の個室を荒らされたのが、嫌がらせの始まりだった。壁に掛けて置いたよそ行きの服が、修繕のし様もないほどに切り裂かれ、化粧セットも持ち去られていた。さいわいに貯金通帳や判子までは盗まれていなかったし、棚に置いていた宝石箱の装飾品も手付かずだったけれど。だから、泥棒ではなく旅館の誰かの仕業だということは明白だった。
とうぜんだが、梢枝は被害を亭主と女将に訴えた。
「うちは小さいから、お客様が奥まで来られることもよくあるからねえ。一見のお客様も増えたことだし。部屋に錠前を付けてあげようか」
宿泊客の仕業ということにして丸く収めたい。しかも一見の客が増えたのは週刊誌のせいだから――梢枝にも非があるとほのめかしている。
梢枝は考えてみた。錠前をつけてもらっても、裸商売だから鍵を肌身離さず持っているわけにもいかない。かといって、数字合わせの錠前は簡単に破られる。001から999までを試さなくても、回すときのかすかな手応えの違いでわかってしまう。同級生の男子が得意そうに実演しているのを見て、それを知っていた。
「人を見たら泥棒と思えなんていいますけど。お客様や旅館の皆さんを疑うなんて、心苦しいです」
断わった。貴重品だけでも預かってもらうということも考えたけれど。たとえば貯金通帳は月に何回も必要になる。そのたびに女将さんの手をわずらわせるのも申し訳ない。
梢枝は、意表を突いた『対策』をとった。部屋にいるときはもちろん戸を閉めておくが、不在のときは開けっ放しにしたのだった。部屋の前の廊下は、従業員が行き来する。他人が梢枝の部屋にいれば、必ず誰かに目撃されるだろう。もちろん、通帳は天井裏に隠したし、たたんで部屋の隅に積み重ねた布団の下に宝石箱は押し込んでおいた。
外出用の服は、新調しなかった。また切り裂かれたら大損だし、温泉街の中なら遊女のお仕着せでもそんなに不都合はない。『美人湯』の湯女は三人とも積極的にそうしているし、『仙寿庵』に二人だけいる湯女も、それとわかる格好で見知ったくらいだ。
奇策が功を奏したのか、二度と部屋を荒らされることはなかった。梢枝はますます――職場だけでなく街中でも奔放に振る舞い、客に注目されて大車輪で稼ぎ、性の愉悦も満喫していたのだが。
月が替わって学校が夏休みになると、例年ならどの旅館も閑古鳥がいっそうかまびすしくなる。暑いさ中に温泉でもないだろうし、家族持ちは家庭サービスを余儀なくされる。独身男性は――確実にやれる風俗よりも、素人女性をナンパするという困難に挑んで海へ繰り出す者も少なくない。
週刊誌の宣伝効果は薄れてきたが、梢枝を名指しで来る日帰り客は後を絶たなかった。そんな客でも、三時間も四時間も待たされるよりは、少々歳を食っていてもすぐに相手をしてくれる湯女で我慢する者が多いから――梢枝ひとりがてんてこ舞いであとの四人はお茶を引くという事態には至らなかったが。しかし、梢枝の荒稼ぎがいっそう目に付くようになったのも間違いなかった。
泊り客が少なくて、梢枝も含めて暇を持て余していた夜。
「ちょっと話がある。付き合ってもらうよ」
京子に呼び出されとき、これまでになかったことだから不安にはなったけれど、、ネチネチと厭味を言われるくらいだろうと、まだ梢枝は高を括っていた。
入浴客がひとりもいない露天風呂へ連れ出されて、そこには他の三人の湯女が待っていた。腰に手拭いを巻いただけの、仕事姿だった。
「おまえも着物を脱げよ」
お仕着せの浴衣を引き剥がされると、下にはなにも着けていない。浴衣の下にごちゃごちゃ着込む不自然な装いが、むしろマナーとして定着するのは昭和五十年代以降のことだ。
「客が来るとまずいから、おまえの好きな場所へ行こうか」
マッサージ小屋の端の部屋へ押し込まれた。いちばん若い珠代が外で見張りに残ったが、それでも二畳間ほどの部屋に四人。梢枝を壁に押しつけて三人が取り囲む形になった。
「おまえ、わしらの忠告を鼻であしらうとは、いい度胸だね」
正面に立った京子が顔を近づけてくる。
「あの……意味がわかりません」
不意に京子が身を引いた。と同時に――バシン。
「きゃっ……!」
爆発するような頬の痛みに、梢枝がよろめいた。
「ざけんなよ。洗体のイチャツキもたいがいにしろと、何度も言ったよな。ここでのサービスも余計なことまでするなって、これも言ってるぜ」
心当たりが、まったく無いわけでもなかった。
「岩陰だって、気配は伝わってくるよ」
「赤二本だって願い下げって客もいるのに。梢枝ちゃんは、好き嫌いがないの?」
「逆洗体は、まあうちの専売特許てわけじゃあないけど」
「たんびに本気になったら身がもたないわよ」
懸け離れて若いのでからかわれているのだろうくらいにしか思わず、「はあい」とおざなりな返事で聞き流してきたのだが。
かなり険悪な雰囲気だから――土下座くらいはして「これからは気をつけます、ごめんなさい」と卑屈になれば、平穏に治まっていたかもしれないが。自分はなにも悪いことはしていない。青臭い正義感、あるいは自己主張が、梢枝の対応を誤らせた。いくら最年少とはいえ自分が一番の稼ぎ頭だし、週刊誌の記事が評判になって温泉郷全体が潤ったのも、自分の功績だという気持ちもあった。取材を受けたのがフミさんだったりしたら、この二か月間の盛況はなかっただろう。
「あたし、誰にも迷惑を掛けてません。女将さんだって、何も言わないじゃないですか」
京子が、またビンタを張ろうとした。それを予期していた梢枝は、ただかわすのではなく左の腕で弾き返した。
「てめえ……生意気にも程があるよ」
梢枝をにらみつけて、ふいっと部屋を出て行った。
「梢枝ちゃん。今のは、あなたが悪いわよ」
フミの声は柔らかかったが、それを聞き分けられるほど梢枝も冷静ではない。黙って立ち尽くしている。
京子はすぐに戻って来た。手桶に湯女の洗い道具を入れているように見えたのだが。
「言葉で駄目なら、身体に言い聞かせてやるよ」
ヤクザまがいの言葉を吐いて、梢枝を押し倒した。朋美も加勢する。
梢枝は逆らわなかった。抵抗しても、体格で勝る相手と二対一、フミも加われば三対一。そんなに酷いことはされないだろうとも思っている。女将さんに知られたら、叱られるのは四人だ。
「ふてぶてしいねえ。この期に及んでも知らん顔の半兵衛かい」
京子が手桶から剃刀を取り出した。浴場に備え付けのT字形安全剃刀だった。
「いやでも腰を隠すようにしてやるよ」
水で湿しもせずに、剃刀を股間にあてがった。
ザリッ、ザリッ……乱暴な手つきで淡い淫毛を刈り取っていく。
ときおり鋭い痛みが肌を奔って、そのときだけは顔をしかめる梢枝。しかし、これだけで済みそうだと見当をつけて――怯えは薄れていた。
こんなことくらいで負けるもんか。内心では、そんなことを考えている。
========================================
200枚ちかく書いてきて、やっとSMぽくなってきたら、剃毛だけでチョン。
そりゃまあ、この後に「ササクレ擂粉木」で傷つけられて、でも「負けないもん!」とアナルデビューしたり、濡れ衣着せられて旅館の亭主から針折檻されたりは予定していますが……生ぬるいですねえ。
『大正弄瞞』とか『非国民の烙淫』を書いたのと同じ作者かい――と、自分でも思ってしまいます。
別に、意図的にソフト路線に転向してメジャー・デビューを狙ってるわけじゃないですよ。
こういう設定でこういうSTORYだと、こうなってしまうという必然性なのです。
たぶん。これを書き終えたら反動で、超ハード作品に走ると思います。
いよいよ超ハード超長編の『赤い本と白い百合』をおっぱじめるか、鬱勃たるパトスの噴出でショタマゾに寄り道するか、SMツアーの『誘拐と陵辱の全裸サンバ』を一揆加勢か。なんてことは、今の作品を書き終えてから考えます。
在宅勤務のせいです。
通勤してるときは、平日は朝に1時間半ほど集中して、休日は5時間くらいスパート。なのですが。
朝起きる時間は同じでも、家を7時過ぎに出るのと、在宅で9時前に勤務開始とでは……在宅のほうが、ノンベンダラリとしてしまいます。しかも、仕事を土日まで持ち越して――どうにもこうにもです。
まあ、考えようによっては。フルタイム勤務しながら年間3千枚というのが異常だったのかもしれません。SFを書いていた昔に比べると5倍くらいですものねえ。
ともかく、出来高を御紹介。
========================================
先輩の虐め
そんな牧歌的な桃色郷を大きく揺るがす事件が起きた。梅雨で客足が細るさ中、風俗ルポライターを名乗る若い男が『湯の華』に泊まったのである。一人だけで泊まりに来る客は珍しいが、濃厚お色気サービスをする飛び切り若い遊女の評判を聞きつけて、電話予約のときから梢枝を指名してきた。
当時(令和の現代でもそうだが)、男性向けの通俗週刊誌には『マル秘スポット』とか『知られざる穴場』の紹介記事があふれていた。取材される側も、いい宣伝になるくらいにしか思っていない。
露天風呂とはいうが、雨除けの屋根は設けられている。洗い場では京子と朋美が、それぞれの客を相手に洗体の最中だった。求められれば客に好きなだけ身体をさわらせる朋美も、今日はまだ足首にバンドを巻いていない。
「ずいぶんと若いね。歳は幾つ?」
この質問に、梢枝は慣れっこになっている。
「この春に卒業して、すぐここに就職したんです」
「卒業って、高校かな。まさか小学校じゃないよね?」
狡い質問だなと、梢枝は思った。短大卒の才女がこんな職業に就くはずもないから、両方を否定したら自動的に答えが出てしまう。いつものように
「さあ……ご想像におかませします」では、まずいんじゃないだろうか。相手はルポライターなんだから、十三歳の少女が湯女をしているなんて、わざと嘘を書かないとも限らない。警察か労働基準監督署か保健所か知らないけれど、調べがはいって旅館に迷惑をかけるかもしれない。
「女性に歳を聞くなんて、野暮ですよ」
最年長のフミの答えを真似してみた。
「そんなことより。お客さんて、取材に来られたんでしょ。だったら、ここで青のバンドを使わなくちゃ」
お色気サービスのほうへ関心を向けさせようとした。江戸時代の湯女と同じように最後まで出来るというのが、この温泉地の謳い文句なのだから、女将さんにも文句は言われないだろう。事実――洗い場での過剰サービスを叱られたのは最初だけで、今では黙認してくれている。
「へえ。なにをしてくれるのかな?」
ルポライターは気前よく青バンドを渡してくれた。それを足首に通して。
いつものように、梢枝は岩山の裏手に男を案内した。洗い椅子代わりの小岩に座らせ、スポンジに石鹸を泡立たせて男に持たせる。自分は後ろ向きになって男の腿に乗る。
「あたしを洗ってください。もちろん、ここもたっぷりお願いします」
股間から聳え立っている巨木を握って言うのだから、ここがどこか明白だ。
男はスポンジをさっさと床に置いて、左手で乳房を揉みながら右手は股間をまさぐる。
「柔肌は手洗いが一番だよ」
風俗ルポライターを名乗るだけあって、遊び慣れているのだろう。強すぎも弱すぎもしないねちっこい愛撫で、たちまち梢枝の官能に火を点じた。
「んああ……お客さん、いいですうう」
早々と猿轡を咥えようかと思ったほどだ。腰の奥の疼きに焦れて、男の上で尻をくねらせた。剛毛が尻肉をくすぐって、それも官能を刺激する。
「梢枝ちゃんこそ、この歳でずいぶんと開発されてるじゃないか」
「だって……これがお仕事ですから」
梢枝は、サービスではなく自分の欲求を満たすために――向きを変えて客に抱きついた。腰を突き出して、すでに硬くしこっている蕾を剛毛に押しつけた。
「あああっ……いい。浮かんじゃう……浮かんでる」
水栓(クリトリス)がひねられて、腰の奥に熱湯がたまっていく。ここからは掛け時計は見えないが、洗体を始めてから二十分と経っていないだろう。けれど、あと十分もこんなサービスを続けるのは我慢できなかった。
「あの……すこし早いけど、マッサージをさせてください」
ルポライターは梢枝の尻から手を差し入れて、淫唇の中をえぐった。
「逆だろ。僕が梢枝ちゃんをマッサージするんじゃないか?」
「どっちも……です。あ、赤のゴムバンドをくださいね」
さすがに、娼売までは忘れていない。
腰の手拭いは『使用中』の目印にドアの前に掛けて。すっぽんぽんでマッサージ室にはいると、ドアを閉めるのももどかしく、梢枝は客の前にひざまずいた。
若いだけあって、一分や二分の中断くらいではまったく萎れていない。梢枝は上からおおいかぶさるようにして、巨木を口に咥えた。じゅうぶんに洗ってあるから、汚いなんて思わない。至高の快楽を与えてくださる御神木だ。
「おおお。尺八を吹いてくれるというのは、ほんとうだったんだ」
男が興奮の極致に達しているのが、それを咥えている梢枝には感じ取れた。
「このまま出しちゃ、もったいないでしょ」
口淫奉仕はあっさりと切り上げて、奥からコンドームを持って来て、男にかぶせた。最初の客から仕込まれたので自然とそうしているのだが、湯女の中ではほかの店も含めて梢枝だけらしい。というか、この時代にコンドームを必須としているところは少ない。最下級の女たちはコンドーム代さえけちるし、湯女の何倍もふんだくる高級トルコ嬢は生本番があたりまえだった。大衆向けのトルコやチョンの間だと、女はそんなに親切ではない。
「お客さんが下になってくれますか。あ、これはあたしだけのスタイルなんですけど」
団体客でも来ようものなら一日に五人以上の相手をしなければならないのだから、自分で動いていては疲れ果ててしまう――というのが、先輩たちの忠告だった。梢枝自身は、まったく平気どころか、騎乗位が気に入っているのだが、女を組み敷いてこそ男だという考えの持ち主も多い。客の意向に逆らってまで、自分の快楽を追求するわけにもいかない。梢枝が昇り詰めると喜んでくれる客は多いが。
「自分だけ善がって、娼売をちゃんとしろよ」などと怒る客も十人に一人くらいはいる。
――洗体を早めに切り上げたこともあったし、クリトリスをほじくってほしいというおねだりを男が喜んでかなえてくれたせいもあって。梢枝は熱泉の大奔流に吹き上げられ、シャボン玉ではなく花火のように破裂して果てた。
どちらもじゅうぶんに満足してマッサージ室を出て。それで遊女の仕事は終わったのだが、ルポライターの求めに応じてインタビューを受けた。これには亭主も女将も乗り気で、空いている客室を提供もしてくれた。
ルポライターはさすがに聞き上手で、三十分間のインタビューのうちに梢枝は、実年齢はもちろん、母に売られた形での就職の経緯や、その理由まで打ち明けていた。最後には露天風呂に戻って、腰に手拭いを巻いただけの湯女姿を写真に――梢枝の感覚としては『撮られた』のではなく撮ってもらった。
日帰りで行ける秘湯の桃色本番遊女
そんなタイトルの記事が週刊誌に載ったのは、取材から二週間後だった。巻頭のカラーページに梢枝の半裸写真が掲載されて、本文は『体験記』とインタビューを主体に構成されていた。『湯の華』だけでなく『仙寿庵』と『美人湯』も紹介されていて、それぞれに所属する遊女の源氏名と公称年齢(三十七歳のフミは三十二歳になっている)も掲載されていたが、梢枝の特集記事の感が強い。
日本全国に生き恥を曝すこともないだろうにねえ――というのが、他の湯女にかぎらず、当時の女性一般の感想だったろう。男の性欲を満たす仕事の女性が広く認知され、さらにはアイドルになったり、小 学 生の「将来なりたい職業」にランク入りするには、二十年三十年の時を待たなければならない。
話を昭和三十六年の当時に戻して。
週刊誌が発売されたその日から、三軒の旅館に掛かってくる電話は十倍に増えた。といっても、一日に数本だったのが五十本くらいになっただけだから、てんてこ舞いというほどでもない。日帰りの入浴を希望する客の大半は、湯女を待っているうちに日が暮れると聞かされて諦めるし、だからといって泊りがけで遊ぼうという好き者も数は知れていた。つまりは、程よい繁昌に落ち着いたのだが――梅雨時から初秋までは客足が遠のく温泉地としては、週刊誌様々といったところか。
梢枝は朝から晩まで予約がいっぱい。他の湯女も繁忙期さながらの忙しさだったが。
珠代はともかく、当時の感覚では大年増のフミや京子をあてがわれた客が文句を言ったり、今でいうチェンジを求めたり。他の旅館が駅で捕まえた振りの客が、梢枝のいる湯ではないと知って鞍替えして来たり。
湯女全員から、梢枝は嫉妬されるようになっていった。
男に対しては奔放な梢枝だが、日常ではみずから進んで人と交わる性質(たち)ではない。仲居と湯女とでは棲む世界が違うと、どちらも思っている。そして湯女同士も――同病相憐れむといった雰囲気ではなかった。京子が梢枝の母と同年齢で、フミは五つも歳上。珠代と朋美は二十五と二十八で仲が良いが、梢枝はその二人とも年齢が懸け離れている。つまり、梢枝は孤立していた。
客の世話は輪番でも、赤バンドだけでなく青もせしめる梢枝は稼ぎが太い。しかも、客の人気が集中する。四人に、歳下の後輩を可愛がるという感情も生まれにくい。
週刊誌は、そういった下地を大きく膨らませる酵母の役目を果たしたといえなくもなかった。
――三畳の個室を荒らされたのが、嫌がらせの始まりだった。壁に掛けて置いたよそ行きの服が、修繕のし様もないほどに切り裂かれ、化粧セットも持ち去られていた。さいわいに貯金通帳や判子までは盗まれていなかったし、棚に置いていた宝石箱の装飾品も手付かずだったけれど。だから、泥棒ではなく旅館の誰かの仕業だということは明白だった。
とうぜんだが、梢枝は被害を亭主と女将に訴えた。
「うちは小さいから、お客様が奥まで来られることもよくあるからねえ。一見のお客様も増えたことだし。部屋に錠前を付けてあげようか」
宿泊客の仕業ということにして丸く収めたい。しかも一見の客が増えたのは週刊誌のせいだから――梢枝にも非があるとほのめかしている。
梢枝は考えてみた。錠前をつけてもらっても、裸商売だから鍵を肌身離さず持っているわけにもいかない。かといって、数字合わせの錠前は簡単に破られる。001から999までを試さなくても、回すときのかすかな手応えの違いでわかってしまう。同級生の男子が得意そうに実演しているのを見て、それを知っていた。
「人を見たら泥棒と思えなんていいますけど。お客様や旅館の皆さんを疑うなんて、心苦しいです」
断わった。貴重品だけでも預かってもらうということも考えたけれど。たとえば貯金通帳は月に何回も必要になる。そのたびに女将さんの手をわずらわせるのも申し訳ない。
梢枝は、意表を突いた『対策』をとった。部屋にいるときはもちろん戸を閉めておくが、不在のときは開けっ放しにしたのだった。部屋の前の廊下は、従業員が行き来する。他人が梢枝の部屋にいれば、必ず誰かに目撃されるだろう。もちろん、通帳は天井裏に隠したし、たたんで部屋の隅に積み重ねた布団の下に宝石箱は押し込んでおいた。
外出用の服は、新調しなかった。また切り裂かれたら大損だし、温泉街の中なら遊女のお仕着せでもそんなに不都合はない。『美人湯』の湯女は三人とも積極的にそうしているし、『仙寿庵』に二人だけいる湯女も、それとわかる格好で見知ったくらいだ。
奇策が功を奏したのか、二度と部屋を荒らされることはなかった。梢枝はますます――職場だけでなく街中でも奔放に振る舞い、客に注目されて大車輪で稼ぎ、性の愉悦も満喫していたのだが。
月が替わって学校が夏休みになると、例年ならどの旅館も閑古鳥がいっそうかまびすしくなる。暑いさ中に温泉でもないだろうし、家族持ちは家庭サービスを余儀なくされる。独身男性は――確実にやれる風俗よりも、素人女性をナンパするという困難に挑んで海へ繰り出す者も少なくない。
週刊誌の宣伝効果は薄れてきたが、梢枝を名指しで来る日帰り客は後を絶たなかった。そんな客でも、三時間も四時間も待たされるよりは、少々歳を食っていてもすぐに相手をしてくれる湯女で我慢する者が多いから――梢枝ひとりがてんてこ舞いであとの四人はお茶を引くという事態には至らなかったが。しかし、梢枝の荒稼ぎがいっそう目に付くようになったのも間違いなかった。
泊り客が少なくて、梢枝も含めて暇を持て余していた夜。
「ちょっと話がある。付き合ってもらうよ」
京子に呼び出されとき、これまでになかったことだから不安にはなったけれど、、ネチネチと厭味を言われるくらいだろうと、まだ梢枝は高を括っていた。
入浴客がひとりもいない露天風呂へ連れ出されて、そこには他の三人の湯女が待っていた。腰に手拭いを巻いただけの、仕事姿だった。
「おまえも着物を脱げよ」
お仕着せの浴衣を引き剥がされると、下にはなにも着けていない。浴衣の下にごちゃごちゃ着込む不自然な装いが、むしろマナーとして定着するのは昭和五十年代以降のことだ。
「客が来るとまずいから、おまえの好きな場所へ行こうか」
マッサージ小屋の端の部屋へ押し込まれた。いちばん若い珠代が外で見張りに残ったが、それでも二畳間ほどの部屋に四人。梢枝を壁に押しつけて三人が取り囲む形になった。
「おまえ、わしらの忠告を鼻であしらうとは、いい度胸だね」
正面に立った京子が顔を近づけてくる。
「あの……意味がわかりません」
不意に京子が身を引いた。と同時に――バシン。
「きゃっ……!」
爆発するような頬の痛みに、梢枝がよろめいた。
「ざけんなよ。洗体のイチャツキもたいがいにしろと、何度も言ったよな。ここでのサービスも余計なことまでするなって、これも言ってるぜ」
心当たりが、まったく無いわけでもなかった。
「岩陰だって、気配は伝わってくるよ」
「赤二本だって願い下げって客もいるのに。梢枝ちゃんは、好き嫌いがないの?」
「逆洗体は、まあうちの専売特許てわけじゃあないけど」
「たんびに本気になったら身がもたないわよ」
懸け離れて若いのでからかわれているのだろうくらいにしか思わず、「はあい」とおざなりな返事で聞き流してきたのだが。
かなり険悪な雰囲気だから――土下座くらいはして「これからは気をつけます、ごめんなさい」と卑屈になれば、平穏に治まっていたかもしれないが。自分はなにも悪いことはしていない。青臭い正義感、あるいは自己主張が、梢枝の対応を誤らせた。いくら最年少とはいえ自分が一番の稼ぎ頭だし、週刊誌の記事が評判になって温泉郷全体が潤ったのも、自分の功績だという気持ちもあった。取材を受けたのがフミさんだったりしたら、この二か月間の盛況はなかっただろう。
「あたし、誰にも迷惑を掛けてません。女将さんだって、何も言わないじゃないですか」
京子が、またビンタを張ろうとした。それを予期していた梢枝は、ただかわすのではなく左の腕で弾き返した。
「てめえ……生意気にも程があるよ」
梢枝をにらみつけて、ふいっと部屋を出て行った。
「梢枝ちゃん。今のは、あなたが悪いわよ」
フミの声は柔らかかったが、それを聞き分けられるほど梢枝も冷静ではない。黙って立ち尽くしている。
京子はすぐに戻って来た。手桶に湯女の洗い道具を入れているように見えたのだが。
「言葉で駄目なら、身体に言い聞かせてやるよ」
ヤクザまがいの言葉を吐いて、梢枝を押し倒した。朋美も加勢する。
梢枝は逆らわなかった。抵抗しても、体格で勝る相手と二対一、フミも加われば三対一。そんなに酷いことはされないだろうとも思っている。女将さんに知られたら、叱られるのは四人だ。
「ふてぶてしいねえ。この期に及んでも知らん顔の半兵衛かい」
京子が手桶から剃刀を取り出した。浴場に備え付けのT字形安全剃刀だった。
「いやでも腰を隠すようにしてやるよ」
水で湿しもせずに、剃刀を股間にあてがった。
ザリッ、ザリッ……乱暴な手つきで淡い淫毛を刈り取っていく。
ときおり鋭い痛みが肌を奔って、そのときだけは顔をしかめる梢枝。しかし、これだけで済みそうだと見当をつけて――怯えは薄れていた。
こんなことくらいで負けるもんか。内心では、そんなことを考えている。
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200枚ちかく書いてきて、やっとSMぽくなってきたら、剃毛だけでチョン。
そりゃまあ、この後に「ササクレ擂粉木」で傷つけられて、でも「負けないもん!」とアナルデビューしたり、濡れ衣着せられて旅館の亭主から針折檻されたりは予定していますが……生ぬるいですねえ。
『大正弄瞞』とか『非国民の烙淫』を書いたのと同じ作者かい――と、自分でも思ってしまいます。
別に、意図的にソフト路線に転向してメジャー・デビューを狙ってるわけじゃないですよ。
こういう設定でこういうSTORYだと、こうなってしまうという必然性なのです。
たぶん。これを書き終えたら反動で、超ハード作品に走ると思います。
いよいよ超ハード超長編の『赤い本と白い百合』をおっぱじめるか、鬱勃たるパトスの噴出でショタマゾに寄り道するか、SMツアーの『誘拐と陵辱の全裸サンバ』を一揆加勢か。なんてことは、今の作品を書き終えてから考えます。
メモ公開50:昔の花嫁教育
アイデア帳には書いていません。なんらかのストーリイを練っていると、こういったエピソードも自然に挿入されるでしょう。といったレベルですが。
昔はネットもなく、さらに昔は女性週刊誌のSEX特集とかもなく。いい歳をした処女でも、キスをしたら妊娠するとか、本気で思い込んでいたりしました。
お姫様あたりになると、輿入れの直前に乳母あたりが、『参考図画』をこっそり見せたりしていたとか。いざ、その場になって、うろたえ騒いだりしたら、当人ばかりか御家の品格の問題になるから……かもしれません。
これが町人あたりになると。
「何事も花婿殿の言われるがままにしていなさい」
くらいでチョン。
うろ覚えの、たぶんSM小説誌の投稿告白でしたか。そこそこの御令嬢が羽振りの良い銀行家に嫁いで。いざ、男入り。生々しい誤変換です。
花婿は花嫁を四つん這いにさせて、後門に万年筆の軸を挿れたり出したり――ばかりを、ずっと続けていて。これが夫婦の交わりなんだと、花嫁が新妻になって主婦になるまで信じていたそうです。どういう経緯で「真実」を知ったかは、忘れました。
いいですねえ。無知で良人(悪人だけど)を疑うことを知らない花嫁に、あれもこれも
「夫婦なら、誰でもしていること」
「俺が仕事に行っているあいだ、おとなしく待っていなさい」
「大切なお客様だ。粗相のないように」 貸出
「便秘は美容と健康に良くないから」 浣腸
「君の素敵な身体を自慢したいから」 露出
こんな「ダーツ遊び」もいいですね。
「夫の趣味につき合うのも妻の務めなのだよ」とか。
昭和30年代を舞台にした『集団羞辱』シリーズで「花嫁編」も企画していますが。
いまのところ考えているネタのひとつは、南米移住民との写真見合での結婚。昼は農作業でこき使って、夜は父も弟もみんな兄弟。日本娘はみんなお人形さんに見えてしまう大地主には、もちろん接待で。
もひとつのネタは、妻妾養成学校。ハイソな社交の場に連れてって自慢するために、短大卒くらいの教養を強制特訓。処女は買主のために残しておかなければなりませんから、OralとAnalを特訓。
でも、上記のネタをメインにして……いや、これは昭和に限った話ではないですから。別仕立てにしましょうか。
☆ついでに雑学メモ
花嫁の白無垢。
ウェディングドレスが白いのは「純潔」を意味するとか、そうではなくて19世紀のロイヤルウェディングに因んでのことだそうです。
和式の白無垢も、「あちらの家風に染まるため。現代風に言えば「あなた色に染めて」というのが通説ですが。
一説によると、「死に装束」だそうです。実家にとって、その娘は「死んで失われ」て、婚家で「生まれ変わる」ためとか。
ここらへんをきちんと押さえておかないと、ファンタジーで大トンカチやらかしますね。ラノベあたり、すでに誰かがやらかしてそうですが。
昔はネットもなく、さらに昔は女性週刊誌のSEX特集とかもなく。いい歳をした処女でも、キスをしたら妊娠するとか、本気で思い込んでいたりしました。
お姫様あたりになると、輿入れの直前に乳母あたりが、『参考図画』をこっそり見せたりしていたとか。いざ、その場になって、うろたえ騒いだりしたら、当人ばかりか御家の品格の問題になるから……かもしれません。
これが町人あたりになると。
「何事も花婿殿の言われるがままにしていなさい」
くらいでチョン。
うろ覚えの、たぶんSM小説誌の投稿告白でしたか。そこそこの御令嬢が羽振りの良い銀行家に嫁いで。いざ、男入り。生々しい誤変換です。
花婿は花嫁を四つん這いにさせて、後門に万年筆の軸を挿れたり出したり――ばかりを、ずっと続けていて。これが夫婦の交わりなんだと、花嫁が新妻になって主婦になるまで信じていたそうです。どういう経緯で「真実」を知ったかは、忘れました。
いいですねえ。無知で良人(悪人だけど)を疑うことを知らない花嫁に、あれもこれも
「夫婦なら、誰でもしていること」

「俺が仕事に行っているあいだ、おとなしく待っていなさい」

「大切なお客様だ。粗相のないように」 貸出
「便秘は美容と健康に良くないから」 浣腸
「君の素敵な身体を自慢したいから」 露出

こんな「ダーツ遊び」もいいですね。
「夫の趣味につき合うのも妻の務めなのだよ」とか。
昭和30年代を舞台にした『集団羞辱』シリーズで「花嫁編」も企画していますが。
いまのところ考えているネタのひとつは、南米移住民との写真見合での結婚。昼は農作業でこき使って、夜は父も弟もみんな兄弟。日本娘はみんなお人形さんに見えてしまう大地主には、もちろん接待で。
もひとつのネタは、妻妾養成学校。ハイソな社交の場に連れてって自慢するために、短大卒くらいの教養を強制特訓。処女は買主のために残しておかなければなりませんから、OralとAnalを特訓。
でも、上記のネタをメインにして……いや、これは昭和に限った話ではないですから。別仕立てにしましょうか。
☆ついでに雑学メモ
花嫁の白無垢。
ウェディングドレスが白いのは「純潔」を意味するとか、そうではなくて19世紀のロイヤルウェディングに因んでのことだそうです。
和式の白無垢も、「あちらの家風に染まるため。現代風に言えば「あなた色に染めて」というのが通説ですが。
一説によると、「死に装束」だそうです。実家にとって、その娘は「死んで失われ」て、婚家で「生まれ変わる」ためとか。
ここらへんをきちんと押さえておかないと、ファンタジーで大トンカチやらかしますね。ラノベあたり、すでに誰かがやらかしてそうですが。
Progress Report 2:昭和集団羞辱史(湯女)
2週間以上ブログを更新しないとベッタリと広告が貼りつけられるから。まあ週イチくらいで更新すればいいかな。なんてスタンスで考えていましたが。なにがしか書き進めていない状態は1か月も続かないし(Progress Reportだけでも間に合う)、ストック原稿はあるし。『お気に入りの写真』なんて始めたから、これだけで50本は記事にできるす。
といった背景はありますが。ここ数日、UUがチャイルス新規感染数グラフみたいに急降下中。
なので、ZAITACK中でもあり、平日の朝っぱらから新規リリース。
今回は、ヒロインの初仕事ぶりを御紹介。
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仕事は明日からということになっていたが。
「すまないね。さっきの団体客が、宴会の前にスッキリしておきたいと言うんでね」
ライトバスで来た団体客は十四人。この旅館としては滅多にない盛況だという。それはいいのだが――四人の湯女のうち一人が生理休暇なので、三人だと五回転になる。まともにサービスしていては、宴会の開始が午後九時になってしまう。といって、サービス時間をあまり切り詰めては評判が落ちる。梢枝が応援に加わって、サービス時間を十分だけ切り詰めて、最後の組がマッサージを始める頃に宴会を始めれば、どうにか七時半に間に合う。
「長旅で疲れているだろうけど、頑張ってもらえますか」
「はいっ!」
元気の良すぎる返事に、亭主が苦笑した。
素肌をお仕着せの浴衣で包んで控室へ行くと、フミよりも若い女性が洗い場から戻ってきたところだった。
「ここは立入禁止……あら、その浴衣。それじゃ、あんたが新人さん」
この温泉地にふつうの湯治客は滅多に来ない。とはいえ、広告を出すのは男性向けの通俗週刊誌に限られているから、知らずに訪れる家族連れがいないでもない。それと見分けるためではなくて、宿泊客の助平根性を煽るのが目的だが、湯女のお仕着せは極端に丈が短くて、お端折り無しの対丈(ついたけ)で着ても膝小僧が見えている。だから、梢枝がかけ離れて若くても家族連れ客と見間違えられたりはしない。
「来る早々連チャンさせられて大変やね。うち、朋美。あんたと倍半分までは違わんわ」
「あ、はい。あたし、林梢枝です。よろしく……」
「名字は、仲間内でもあまり言わんほうがええよ。あ、備品はそこの棚に並んでるから」
朋美は棚から乾いた手拭いを取って、腰に巻き替えた。石鹸や軽石のはいった湯桶も、新しい物に取り換えて、あたふたと出て行った。
「梢枝ちゃんも急いでくれよ」
三十歳だか四十過ぎだか梢枝には見当のつかない冴えない男が控室にはいってきた。友美が使っていた手桶を棚からおろして、新しいものに取り換えた。
亭主の前でも平然と全裸になった梢枝だ。それに、朋美の慌ただしさに巻き込まれてもいる。梢枝は浴衣を脱いで、大きめの手拭いで腰を包んだ。
「行ってきます」
なんとなく挨拶をして、控室を出た。出口にさっきの老人が控えていて、手に帳面を持っている。
「梢枝ちゃんの初仕事は、あの方です。よろしくお願いします」
洗い場の右端で朋美が洗体を始めている。梢枝の姿を見て、湯船に浸かっている客の中から一人が立ち上がった。継父と同い歳くらいで、父よりもかなり肥っている。
左端の岩に座った男の前に、梢枝が正座した。
「梢枝と申します。お身体をあわわせていただきます」
頭を下げながら、言い間違いに気づいた。そして、クスッと笑った。
「なにがおかしいんだ?」
客の声は尖っていた。
「あ、ごめんなさい。あたし、初めてで緊張してるみたいです。洗わせてって言うところを泡わせてなんて言って――でも、泡だらけになるんだから間違ってないかなって、おかしくなったんです」
「なるほど。泡だらけになるまでサービスしてくれるんだ」
客のトーンは丸くなっただけでなく、ねちっこくなった。風呂場で継父が梢枝に掛ける声の質と似ていた。
梢枝は習い覚えたばかりの手順で、客の身体を洗っていった。そして最後に股間に手を伸ばしたとき。
「きみはちっとも泡だらけになってないな。あっちを見ろよ」
洗い場に片膝を立てて座った朋美を客が背後から抱きついて、スポンジで朋美を洗っている。立てたほうの足首に白いゴムバンドが二本巻かれているを見て、梢枝は最初に見た光景を思い出した。あれも朋美だったのだろう。
「初仕事って言ってたね。それじゃ、ご祝儀を兼ねてこれでどうかな」
青いゴムバンドを差し出されて、梢枝は戸惑った。
「マッサージのときは、赤で頼むからね」
青は白の三本分。
「ありがとうございます」
梢枝は受け取って、右の足首に巻いた。朋美より若くてピチピチしてるんだから五割増しで当然と思う一方で、お金に見合うだけのサービスをしてあげないと申し訳ないとも思った。評判になれば、後に控えているお客も青バンドをくれるかもしれない。もしも、受け持ちの三人全員から赤青両方をもらったら、基本料金と合わせて――千五百円の手取。一人前の大工さんだって、この半分くらい。日雇の賃金だったら三日分。
お金への執着がとくにあるわけではないけれど、貰えるものはもらっておきたい。
そんな思いが、継父との悪戯の記憶と結びついた。梢枝は客に背中を向けて、膝に乗った。父よりも太っているので背中に客の腹が当たるのがくすぐったかった。
「おっ……大胆だね」
「お客様は、スポンジであたしを洗ってください」
梢枝は尻をずらして、股間から男の肉体を突き出させた。手桶から泡を掬って両手で男を握り、しごき洗いを始めた。
「おっ……やるねえ」
スポンジが乳房をこすり始めた。
「くはああ……」
演技ではなく、梢枝は喘いだ。すこし乱暴で痛かったが、エッチなことをしているされているという意識が、頭を痺れさせ腰を疼かせた。ここでは、母の耳を恐れる必要はない。
「気持ちいいのか?」
「父さんは……」もっと優しく揉んでくれたと言いかけて、そこで口をつぐんだ。血のつながっていない継父とはいえ、こういうことをしていたと世間に知られたら後ろ指をさされるという常識はそなえている。知っているから、禁断の果実は美味なのだけれど。
客は梢枝の言葉を聞き漏らしたのでもないだろうが、深く追求しなかった。自分の不埒な計画に頭がいっぱいだったのかもしれない。
「よーし。こっちも、手洗いをしてあげよう」
客は梢枝をすこし前に押し出した。スポンジを左手に持ち替えて乳房への悪戯を続けながら、泡まみれの右手を梢枝の股間に差し入れる。
「ここをなんて言うか、知ってるかな?」
割れ目を穿ち、頂点の肉蕾をほじくり出して摘まんだ。
「クリトリスです。それくらい、知ってます」
にょるんと指でしごかれた。
「ひゃうんっ……それ、今はやめてください。立てなくなっちゃう」
「腰を抜かされちゃ困る」
言いながら、二度三度としごく。しごくというよりは――枝豆の鞘をしごいて中身を絞り出す、その反対の指の動かし方だった。
梢枝の身体が宙に浮いて、背筋を何度も波が突っ奔った。
「梢枝ちゃん」
険しい声が、洗い場の反対側から聞こえた。
「つぎのお客様も居てんから、ええ加減でマッサージを始めとき」
脱衣場のドアの上には丸時計が掛けてある。洗体を始めて二十分が過ぎていた。
「はあい。お客さんも、それでいいですね」
「いいも悪いも……」
客は自分の足首に巻いていた赤バンドを渡しただけでなく、白バンドを五本もくれた。基本料金が二百円で、その場でどりらにするか決められるように赤も青も購入すれば、ちょうど千円。心付にしろ変態的な要求の見返りにしろ、白バンドは五本(五百円)が切りが良い。
客の気前の良さへの梢枝の感想を言葉にすれば――「うわあ、うわあ、うわあ!」といったところか。
「トルコよりも凄かったよ。マッサージも凄いんだろうね」
まだ身体が宙に浮いたまま、梢枝がふらりと立ち上がった。
「こちらへどうぞ」
腰に巻いた手拭いはたくれ上がって尻も股間も剥き出しになっていたが、気がつかない。朋美と、後からはいってきたもうひとりの湯女は呆れた顔。湯に浸かっている三人の客は――欲情を隠そうともせず、梢枝の裸身を眺めている。
継父からの性的な悪戯を別にすれば、恋愛経験も恋の駆け引きも知らない梢枝だった。客の期待に応える方法は、ひとつしかなかった。
客はベッドも無い殺風景な部屋の様子に戸惑っているのか、それとも梢枝の出方をうかがっているのか、ぽかんと突っ立っている。
梢枝はドアを閉めるなり、客の正面にひざまずいた。顔を見上げるのはさすがに羞ずかしかったので――半勃ちになっている肉体を、パックンと咥えた。
「ん……」
梢枝の知らないことだが、客の反応は実は尋常ではない。
この時代の娼売女にとって、売春とは膣性交のことであり、肛淫も口淫も変態の極みだった。キスを許すのもフェラチオをするのも、恋人(あるいは情人)だけという昔からの気風が色濃く残っている。しかし、ここの湯女は交渉次第では口淫奉仕をする者もいるという噂を知っていたからこそ、要求もしないのに女のほうから仕掛けてきても、驚かずに済んでいる。
「んん、んん、んん……」
梢枝は両手で男の尻を抱いて、口の中で男に舌をからめながら、ゆっくり上体を動かしている。肉茎に手を添えて喉の奥を疲れないようにするとか、文字通りに手抜きして手でもしごくといったズルは仕込まれていない。
男の反応については、経験は継父ひとりだがそれなりにわきまえている。身体全体が強張って亀頭が表面まで硬くなると感じた瞬間、梢枝は身を引いた。立ち上がって、奥の棚からコンドームを取った。
「使ってください」
ただ手渡すのは失礼かなと、また膝立ちになってコンドームを両手で奉げた。
「せっかくだから、着けてくれよ」
なにがせっかくなのかわからないけれど。「負おうと言えば抱かれよう」おんぶしてあげようと言うと、抱っこしてくれとつけ込んでくる。そんな諺がある。
「あたし、こういうの初めてだから、間違ってたら言ってくださいね」
小袋をミシン目で千切ってゴムの円盤を取り出した。円盤というか、ゴムの皮膜は信じられないほどに薄い。それが何回も巻かれて外周のリングになっている。巻き下げる向きを考えて、梢枝はコンドームを亀頭の先端にあてがった。
「それじゃ駄目だ。まん中が小さな袋になってるだろ。それをつぶしておかないと、射精のときに破れてしまう」
なるほどと、素直に納得して客の指示に従った。ゴムが薄いし、表面がぬらぬらしているので何度も指を滑らしたが、どうにか装着できた。女性の手でいじられているとはいえ、気恥ずかしさもあるのだろう。装着しているあいだに、肉体の意欲が幾分か失われていた。
そのまま、客はゴロンとあお向けに寝転がった。
(え……?)
「女の子が上に乗るやり方は知ってるかな?」
梢枝は、どう答えようかと迷った。知識としては知っている。しかし経験は無い。
「とにかく乗ってごらん。教えてあげるから」
手持ちのバンドすべてをくれた気前良さに報いようと、梢枝は男の言葉に従った。女から仕掛ける羞ずかしさに、顔を合わさないよう後ろ向きになった。膝立ちになって右手で怒張の付け根を握り、そろそろと腰を沈めていく。亀頭が淫裂を割って――そこで、梢枝の動きが止まった。浅いところでつっかえている。
「○ンコの中は、けっこう広いんだよ。○ンポを穴に合わせるんだ。腰を前後にずらしてごらん」
膣前庭。家庭向けの医学書に書いてあった単語を思い出した。膣口は、その真ん中あたりに開いている。じわあっと腰を動かしていくと、ぬぷっと嵌り込む感触があった。けれど、すぐにつっかえる。
「角度が合ってないんじゃないかな。向きを変えてごらん」
ちゃんと挿入できないと仕事にならない。梢枝はいったん立ち上がって客に正面を向けた。目を合わせないようにして、腰を沈めていく。さっきよりは深くまで嵌ったような気もするが、やはりつっかえる。
「もっと身体を起こしてごらん」
針に糸を通すときは、もちろん針の穴を見詰めている。それと同じで、梢枝は左手を突いて上体を倒し、結合部を覗き込んでいた。
具合の良い角度を探りながら徐々に身体を起こしていくと――ずぐうっと怒張が押し入ってきた。
「痛いっ……」
まったく予期していなかった尖烈な痛みだった。破瓜の痛みは、たいしたことがなかったのに。
「ん……? まさか、実は初めてだったなんて言うんじゃなかろうね」
からかっている声の中に、一沫の戸惑いがあった。
「これまで一回しか経験がないんです。それもひと月半前でした」
動いていないのに痛みが強くなった――のは、梢枝の中で、さらに怒張したのだろう。
「もしかしたら、処女膜が再生しちゃったかな」
まさか――と、客が笑った。痛みが薄れた。
「馬鹿言ってないで、動いてくれよ」
「はあい」
こんなときにお行儀の良い返事をするかなあ。梢枝は内心で苦笑しながら、客の求めに素直に応じた。
曲げていた膝をすこし伸ばして腰を浮かすと、にゅるんと怒張が滑るのがはっきりとわかった。加減がわからずに、抜けてしまった。が、すぐに挿入し直せた。
継父との時には、傷口をくすぐられるような微妙な快感があったのだが、今は――ただ、体の中でなにかが蠢いているとしか感じなかった。そのかわり、自分が上になっているせいか、内臓への圧迫も感じなかった。
「うん、うん、うん、うん……」
梢枝は上下運動を始めた。呻きとか喘ぎではなく、掛け声だった。
「ちっとも感じてないね。角度を変えるとか、上下だけじゃなくて腰で『の』の字を描くようにくねらせるとか、工夫してみろよ」
これはお仕事なんだから、あたしが感じようと痛がろうと、さっさと埒を明けてほしいな。それが、梢枝の本音だった。
それなりに女と遊んできた男にとって、新米娼婦の心底なんてお見通しなのだろう。
「女がシラケてたんじゃ、男はちっとも楽しくないんだよ。女を俺の○ンポで善がり狂わせてこそ、女を抱いた甲斐があるってものだ」
客は両腕を伸ばして、他の湯女に比べたらささやかな梢枝の乳房を握った。そして、力をこめて握りつぶす。
「い、痛い……やめてください」
「こうやって別の意味で女を泣かせて喜ぶやつだっている。痛いのと気持ちいいのと、どっちがいい?」
「痛いのは厭です」
「それじゃ、気持ち良くなるよう、努力しろよ。手伝ってやるから」
男の手から力が抜けて、もぎゅもぎゅふにふにと乳房を揉み始めた。
「あ……」
痛みの反動なのか。継父に揉まれるよりも気持ち良かった。
「腰が止まってるぞ。ほら、イチニ、イチニ……」
掛け声に合わせて乳房を揉まれて。それに合わせて梢枝は腰を振り始めた。
「感じてないね。もっと身体を倒して」
乳房を引っ張られて、上体を傾ける。挿入できなかったところまで身体を倒していくと、ごりごりと怒張が中をこすった。けれど、違和感でしかない。不自然な姿勢で、膝と腰が疲れてくる。それは、腕を宙に浮かして乳房を揉んでいる客のほうも同じなのだろう。
乳房から手がはなれたとき梢枝は上体を起こしたが、身体の支えがないと動きにくい。
「押して駄目なら引いてみろっていうな。逆に背中を反らしてみちゃどうだい?」
素直に従って。倒れそうになったので後ろに手を突いた。
「あ……?」
一瞬、それまでとは違う感覚が浅い部分に生じた。気持ちいいとは言い切れないが、けっして不快ではなかった。
「横への動きも忘れないように」
客は腰を両手で持って揺すった。
「あ……?」
一瞬だが、はっきりと快感があった。熱い波が奔り抜けるようなそれとは違って、腰の奥から熱泉が湧き出るような快感だった。
「お、感じたかな。自由に動いてごらん」
客の求めに応じて、梢枝はのけぞった姿勢で身体の角度をいろいろ変えながら膝の屈伸運動を続けた。水平に円を描いたりジグザグに動かしたりもしてみた。
そのうちに――一瞬の快感を引き出すやり方がわかってきた。それを続けると、途切れ途切れの快感ではなく、腰の奥からこんこんと熱泉があふれ始めた。腰をくねらせるほど、湯量が増えてくる。上下運動を激しくすると湯が熱くなってくる。
「あっ、あっ、あっ……あああっ……吹き上げられるウ」
空中に浮かぶ感覚よりも、ずっと激しい。
「いいぞ、その調子、その調子」
客は軽く膝を曲げて手足で踏ん張りながら、梢枝の動きに合わせて腰を突き上げ始めた。
「出すぞ。一緒に逝けよ」
右手を結合部に伸ばして、新芽のように淫裂から突き出ているクリトリスを摘まんだ。
「そら、逝け!」
腰の動きよりも早くクリトリスをしごかれて。熱泉のなかから大きな波が立ち上がって背筋を突き抜けた。
「うああああああっ……!!」
梢枝の背中がいっそうそり返って、ビクンビクンと痙攣した。そのまま動きが止まって。三十秒もしてから、客の胸に崩折れた。
「ふう……凄かったな。若いから未熟という娘も多いが、きみは若いから神経が鋭いんだな」
ついに真の絶頂を知らないままに終わる女性も少なくはない。わずか二度目の性交でそこに達した梢枝は――客の言葉が正鵠を射ているのだろうが。継父との性的な戯れで開発されてきたからでもあっただろう。当時の少女といわず女性としては、性交への禁忌を育んでいなかったことも大きい。そして。理想的な客に巡り合えたからでもあったが。梢枝の奔放が客をその気にさせたと考えられなくもない。
ともかく。性交によってのみ得られる快楽を知ってしまったこと。湯女(売春)とは、気持ちのいいことをしてたくさんのお金をもらえる素敵な職業だと信じ込んでしまったことが、梢枝の人生を大きく変えていくことになるとは、当人の知ることろではなかった。
「いつまでも惚けてないで、仕事をしろよ」
ぺちんと尻を叩かれて、梢枝は半分くらい正気に還った。
「はあい」
宙を漂ったまま客の腰から降りて、客が自分でコンドームをはずすのを眺めていたが。ふと思いついて――まだ鎌首をもたげて湯気を立てているそこに、顔を埋ずめた。
「おいおい……」
咥えて、唇でしごき下で舐め、残り汁を吸い出して飲み下した。それは婦人雑誌で覚えた作法ではない。そんな破廉恥な仕種まで記事にすれば発禁ものだ。梢枝の本能、こんな目くるめく快感を与えてくれた御本尊様への感謝であり執着だった。
さすがに、清掃奉仕を終えた頃には理性も目を覚ましかけていた。急に羞ずかしくなって――照れ隠しに、またしても男を感激させた。きちんと正座して三つ指を突いたのだった。
「お粗末さまでした」
「あ、いえ……こちらこそ」
二人が同時に頭を上げて、目が合って。ぷっと吹き出した。
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PLOTと異なる展開です。
予定では、最初はおっかなびっくりモジモジおずおず――だったのが。ある日、年配の客から
「どうも、孫娘を相手にしているようで後ろめたい」
当然ながら老木(この話では樹木をメタファにしています)はショボーン。
よーし、それなら。これでどうだ?
と、抱きついたり、アレコレする予定だったんですけどね。
しかし、なんといいますか。わずか2回目の挿入でアクメるなんて、蟻来たりのエロ小説に堕してしまいましたね。濠門長恭SM小説としては最短記録じゃないでしょうか。
話は変わりますが。ここんとこ、サブキャラは名前だけ決めておいて。作品中に登場してから、成り行きで言動など性格設定して、それを(後で齟齬らないように)メモしていくという、ぶっつけ本番方式を採っています。執筆歴5年未満の良い子悪い子普通の子は、真似しちゃだめですよ。
といった背景はありますが。ここ数日、UUがチャイルス新規感染数グラフみたいに急降下中。
なので、ZAITACK中でもあり、平日の朝っぱらから新規リリース。
今回は、ヒロインの初仕事ぶりを御紹介。
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仕事は明日からということになっていたが。
「すまないね。さっきの団体客が、宴会の前にスッキリしておきたいと言うんでね」
ライトバスで来た団体客は十四人。この旅館としては滅多にない盛況だという。それはいいのだが――四人の湯女のうち一人が生理休暇なので、三人だと五回転になる。まともにサービスしていては、宴会の開始が午後九時になってしまう。といって、サービス時間をあまり切り詰めては評判が落ちる。梢枝が応援に加わって、サービス時間を十分だけ切り詰めて、最後の組がマッサージを始める頃に宴会を始めれば、どうにか七時半に間に合う。
「長旅で疲れているだろうけど、頑張ってもらえますか」
「はいっ!」
元気の良すぎる返事に、亭主が苦笑した。
素肌をお仕着せの浴衣で包んで控室へ行くと、フミよりも若い女性が洗い場から戻ってきたところだった。
「ここは立入禁止……あら、その浴衣。それじゃ、あんたが新人さん」
この温泉地にふつうの湯治客は滅多に来ない。とはいえ、広告を出すのは男性向けの通俗週刊誌に限られているから、知らずに訪れる家族連れがいないでもない。それと見分けるためではなくて、宿泊客の助平根性を煽るのが目的だが、湯女のお仕着せは極端に丈が短くて、お端折り無しの対丈(ついたけ)で着ても膝小僧が見えている。だから、梢枝がかけ離れて若くても家族連れ客と見間違えられたりはしない。
「来る早々連チャンさせられて大変やね。うち、朋美。あんたと倍半分までは違わんわ」
「あ、はい。あたし、林梢枝です。よろしく……」
「名字は、仲間内でもあまり言わんほうがええよ。あ、備品はそこの棚に並んでるから」
朋美は棚から乾いた手拭いを取って、腰に巻き替えた。石鹸や軽石のはいった湯桶も、新しい物に取り換えて、あたふたと出て行った。
「梢枝ちゃんも急いでくれよ」
三十歳だか四十過ぎだか梢枝には見当のつかない冴えない男が控室にはいってきた。友美が使っていた手桶を棚からおろして、新しいものに取り換えた。
亭主の前でも平然と全裸になった梢枝だ。それに、朋美の慌ただしさに巻き込まれてもいる。梢枝は浴衣を脱いで、大きめの手拭いで腰を包んだ。
「行ってきます」
なんとなく挨拶をして、控室を出た。出口にさっきの老人が控えていて、手に帳面を持っている。
「梢枝ちゃんの初仕事は、あの方です。よろしくお願いします」
洗い場の右端で朋美が洗体を始めている。梢枝の姿を見て、湯船に浸かっている客の中から一人が立ち上がった。継父と同い歳くらいで、父よりもかなり肥っている。
左端の岩に座った男の前に、梢枝が正座した。
「梢枝と申します。お身体をあわわせていただきます」
頭を下げながら、言い間違いに気づいた。そして、クスッと笑った。
「なにがおかしいんだ?」
客の声は尖っていた。
「あ、ごめんなさい。あたし、初めてで緊張してるみたいです。洗わせてって言うところを泡わせてなんて言って――でも、泡だらけになるんだから間違ってないかなって、おかしくなったんです」
「なるほど。泡だらけになるまでサービスしてくれるんだ」
客のトーンは丸くなっただけでなく、ねちっこくなった。風呂場で継父が梢枝に掛ける声の質と似ていた。
梢枝は習い覚えたばかりの手順で、客の身体を洗っていった。そして最後に股間に手を伸ばしたとき。
「きみはちっとも泡だらけになってないな。あっちを見ろよ」
洗い場に片膝を立てて座った朋美を客が背後から抱きついて、スポンジで朋美を洗っている。立てたほうの足首に白いゴムバンドが二本巻かれているを見て、梢枝は最初に見た光景を思い出した。あれも朋美だったのだろう。
「初仕事って言ってたね。それじゃ、ご祝儀を兼ねてこれでどうかな」
青いゴムバンドを差し出されて、梢枝は戸惑った。
「マッサージのときは、赤で頼むからね」
青は白の三本分。
「ありがとうございます」
梢枝は受け取って、右の足首に巻いた。朋美より若くてピチピチしてるんだから五割増しで当然と思う一方で、お金に見合うだけのサービスをしてあげないと申し訳ないとも思った。評判になれば、後に控えているお客も青バンドをくれるかもしれない。もしも、受け持ちの三人全員から赤青両方をもらったら、基本料金と合わせて――千五百円の手取。一人前の大工さんだって、この半分くらい。日雇の賃金だったら三日分。
お金への執着がとくにあるわけではないけれど、貰えるものはもらっておきたい。
そんな思いが、継父との悪戯の記憶と結びついた。梢枝は客に背中を向けて、膝に乗った。父よりも太っているので背中に客の腹が当たるのがくすぐったかった。
「おっ……大胆だね」
「お客様は、スポンジであたしを洗ってください」
梢枝は尻をずらして、股間から男の肉体を突き出させた。手桶から泡を掬って両手で男を握り、しごき洗いを始めた。
「おっ……やるねえ」
スポンジが乳房をこすり始めた。
「くはああ……」
演技ではなく、梢枝は喘いだ。すこし乱暴で痛かったが、エッチなことをしているされているという意識が、頭を痺れさせ腰を疼かせた。ここでは、母の耳を恐れる必要はない。
「気持ちいいのか?」
「父さんは……」もっと優しく揉んでくれたと言いかけて、そこで口をつぐんだ。血のつながっていない継父とはいえ、こういうことをしていたと世間に知られたら後ろ指をさされるという常識はそなえている。知っているから、禁断の果実は美味なのだけれど。
客は梢枝の言葉を聞き漏らしたのでもないだろうが、深く追求しなかった。自分の不埒な計画に頭がいっぱいだったのかもしれない。
「よーし。こっちも、手洗いをしてあげよう」
客は梢枝をすこし前に押し出した。スポンジを左手に持ち替えて乳房への悪戯を続けながら、泡まみれの右手を梢枝の股間に差し入れる。
「ここをなんて言うか、知ってるかな?」
割れ目を穿ち、頂点の肉蕾をほじくり出して摘まんだ。
「クリトリスです。それくらい、知ってます」
にょるんと指でしごかれた。
「ひゃうんっ……それ、今はやめてください。立てなくなっちゃう」
「腰を抜かされちゃ困る」
言いながら、二度三度としごく。しごくというよりは――枝豆の鞘をしごいて中身を絞り出す、その反対の指の動かし方だった。
梢枝の身体が宙に浮いて、背筋を何度も波が突っ奔った。
「梢枝ちゃん」
険しい声が、洗い場の反対側から聞こえた。
「つぎのお客様も居てんから、ええ加減でマッサージを始めとき」
脱衣場のドアの上には丸時計が掛けてある。洗体を始めて二十分が過ぎていた。
「はあい。お客さんも、それでいいですね」
「いいも悪いも……」
客は自分の足首に巻いていた赤バンドを渡しただけでなく、白バンドを五本もくれた。基本料金が二百円で、その場でどりらにするか決められるように赤も青も購入すれば、ちょうど千円。心付にしろ変態的な要求の見返りにしろ、白バンドは五本(五百円)が切りが良い。
客の気前の良さへの梢枝の感想を言葉にすれば――「うわあ、うわあ、うわあ!」といったところか。
「トルコよりも凄かったよ。マッサージも凄いんだろうね」
まだ身体が宙に浮いたまま、梢枝がふらりと立ち上がった。
「こちらへどうぞ」
腰に巻いた手拭いはたくれ上がって尻も股間も剥き出しになっていたが、気がつかない。朋美と、後からはいってきたもうひとりの湯女は呆れた顔。湯に浸かっている三人の客は――欲情を隠そうともせず、梢枝の裸身を眺めている。
継父からの性的な悪戯を別にすれば、恋愛経験も恋の駆け引きも知らない梢枝だった。客の期待に応える方法は、ひとつしかなかった。
客はベッドも無い殺風景な部屋の様子に戸惑っているのか、それとも梢枝の出方をうかがっているのか、ぽかんと突っ立っている。
梢枝はドアを閉めるなり、客の正面にひざまずいた。顔を見上げるのはさすがに羞ずかしかったので――半勃ちになっている肉体を、パックンと咥えた。
「ん……」
梢枝の知らないことだが、客の反応は実は尋常ではない。
この時代の娼売女にとって、売春とは膣性交のことであり、肛淫も口淫も変態の極みだった。キスを許すのもフェラチオをするのも、恋人(あるいは情人)だけという昔からの気風が色濃く残っている。しかし、ここの湯女は交渉次第では口淫奉仕をする者もいるという噂を知っていたからこそ、要求もしないのに女のほうから仕掛けてきても、驚かずに済んでいる。
「んん、んん、んん……」
梢枝は両手で男の尻を抱いて、口の中で男に舌をからめながら、ゆっくり上体を動かしている。肉茎に手を添えて喉の奥を疲れないようにするとか、文字通りに手抜きして手でもしごくといったズルは仕込まれていない。
男の反応については、経験は継父ひとりだがそれなりにわきまえている。身体全体が強張って亀頭が表面まで硬くなると感じた瞬間、梢枝は身を引いた。立ち上がって、奥の棚からコンドームを取った。
「使ってください」
ただ手渡すのは失礼かなと、また膝立ちになってコンドームを両手で奉げた。
「せっかくだから、着けてくれよ」
なにがせっかくなのかわからないけれど。「負おうと言えば抱かれよう」おんぶしてあげようと言うと、抱っこしてくれとつけ込んでくる。そんな諺がある。
「あたし、こういうの初めてだから、間違ってたら言ってくださいね」
小袋をミシン目で千切ってゴムの円盤を取り出した。円盤というか、ゴムの皮膜は信じられないほどに薄い。それが何回も巻かれて外周のリングになっている。巻き下げる向きを考えて、梢枝はコンドームを亀頭の先端にあてがった。
「それじゃ駄目だ。まん中が小さな袋になってるだろ。それをつぶしておかないと、射精のときに破れてしまう」
なるほどと、素直に納得して客の指示に従った。ゴムが薄いし、表面がぬらぬらしているので何度も指を滑らしたが、どうにか装着できた。女性の手でいじられているとはいえ、気恥ずかしさもあるのだろう。装着しているあいだに、肉体の意欲が幾分か失われていた。
そのまま、客はゴロンとあお向けに寝転がった。
(え……?)
「女の子が上に乗るやり方は知ってるかな?」
梢枝は、どう答えようかと迷った。知識としては知っている。しかし経験は無い。
「とにかく乗ってごらん。教えてあげるから」
手持ちのバンドすべてをくれた気前良さに報いようと、梢枝は男の言葉に従った。女から仕掛ける羞ずかしさに、顔を合わさないよう後ろ向きになった。膝立ちになって右手で怒張の付け根を握り、そろそろと腰を沈めていく。亀頭が淫裂を割って――そこで、梢枝の動きが止まった。浅いところでつっかえている。
「○ンコの中は、けっこう広いんだよ。○ンポを穴に合わせるんだ。腰を前後にずらしてごらん」
膣前庭。家庭向けの医学書に書いてあった単語を思い出した。膣口は、その真ん中あたりに開いている。じわあっと腰を動かしていくと、ぬぷっと嵌り込む感触があった。けれど、すぐにつっかえる。
「角度が合ってないんじゃないかな。向きを変えてごらん」
ちゃんと挿入できないと仕事にならない。梢枝はいったん立ち上がって客に正面を向けた。目を合わせないようにして、腰を沈めていく。さっきよりは深くまで嵌ったような気もするが、やはりつっかえる。
「もっと身体を起こしてごらん」
針に糸を通すときは、もちろん針の穴を見詰めている。それと同じで、梢枝は左手を突いて上体を倒し、結合部を覗き込んでいた。
具合の良い角度を探りながら徐々に身体を起こしていくと――ずぐうっと怒張が押し入ってきた。
「痛いっ……」
まったく予期していなかった尖烈な痛みだった。破瓜の痛みは、たいしたことがなかったのに。
「ん……? まさか、実は初めてだったなんて言うんじゃなかろうね」
からかっている声の中に、一沫の戸惑いがあった。
「これまで一回しか経験がないんです。それもひと月半前でした」
動いていないのに痛みが強くなった――のは、梢枝の中で、さらに怒張したのだろう。
「もしかしたら、処女膜が再生しちゃったかな」
まさか――と、客が笑った。痛みが薄れた。
「馬鹿言ってないで、動いてくれよ」
「はあい」
こんなときにお行儀の良い返事をするかなあ。梢枝は内心で苦笑しながら、客の求めに素直に応じた。
曲げていた膝をすこし伸ばして腰を浮かすと、にゅるんと怒張が滑るのがはっきりとわかった。加減がわからずに、抜けてしまった。が、すぐに挿入し直せた。
継父との時には、傷口をくすぐられるような微妙な快感があったのだが、今は――ただ、体の中でなにかが蠢いているとしか感じなかった。そのかわり、自分が上になっているせいか、内臓への圧迫も感じなかった。
「うん、うん、うん、うん……」
梢枝は上下運動を始めた。呻きとか喘ぎではなく、掛け声だった。
「ちっとも感じてないね。角度を変えるとか、上下だけじゃなくて腰で『の』の字を描くようにくねらせるとか、工夫してみろよ」
これはお仕事なんだから、あたしが感じようと痛がろうと、さっさと埒を明けてほしいな。それが、梢枝の本音だった。
それなりに女と遊んできた男にとって、新米娼婦の心底なんてお見通しなのだろう。
「女がシラケてたんじゃ、男はちっとも楽しくないんだよ。女を俺の○ンポで善がり狂わせてこそ、女を抱いた甲斐があるってものだ」
客は両腕を伸ばして、他の湯女に比べたらささやかな梢枝の乳房を握った。そして、力をこめて握りつぶす。
「い、痛い……やめてください」
「こうやって別の意味で女を泣かせて喜ぶやつだっている。痛いのと気持ちいいのと、どっちがいい?」
「痛いのは厭です」
「それじゃ、気持ち良くなるよう、努力しろよ。手伝ってやるから」
男の手から力が抜けて、もぎゅもぎゅふにふにと乳房を揉み始めた。
「あ……」
痛みの反動なのか。継父に揉まれるよりも気持ち良かった。
「腰が止まってるぞ。ほら、イチニ、イチニ……」
掛け声に合わせて乳房を揉まれて。それに合わせて梢枝は腰を振り始めた。
「感じてないね。もっと身体を倒して」
乳房を引っ張られて、上体を傾ける。挿入できなかったところまで身体を倒していくと、ごりごりと怒張が中をこすった。けれど、違和感でしかない。不自然な姿勢で、膝と腰が疲れてくる。それは、腕を宙に浮かして乳房を揉んでいる客のほうも同じなのだろう。
乳房から手がはなれたとき梢枝は上体を起こしたが、身体の支えがないと動きにくい。
「押して駄目なら引いてみろっていうな。逆に背中を反らしてみちゃどうだい?」
素直に従って。倒れそうになったので後ろに手を突いた。
「あ……?」
一瞬、それまでとは違う感覚が浅い部分に生じた。気持ちいいとは言い切れないが、けっして不快ではなかった。
「横への動きも忘れないように」
客は腰を両手で持って揺すった。
「あ……?」
一瞬だが、はっきりと快感があった。熱い波が奔り抜けるようなそれとは違って、腰の奥から熱泉が湧き出るような快感だった。
「お、感じたかな。自由に動いてごらん」
客の求めに応じて、梢枝はのけぞった姿勢で身体の角度をいろいろ変えながら膝の屈伸運動を続けた。水平に円を描いたりジグザグに動かしたりもしてみた。
そのうちに――一瞬の快感を引き出すやり方がわかってきた。それを続けると、途切れ途切れの快感ではなく、腰の奥からこんこんと熱泉があふれ始めた。腰をくねらせるほど、湯量が増えてくる。上下運動を激しくすると湯が熱くなってくる。
「あっ、あっ、あっ……あああっ……吹き上げられるウ」
空中に浮かぶ感覚よりも、ずっと激しい。
「いいぞ、その調子、その調子」
客は軽く膝を曲げて手足で踏ん張りながら、梢枝の動きに合わせて腰を突き上げ始めた。
「出すぞ。一緒に逝けよ」
右手を結合部に伸ばして、新芽のように淫裂から突き出ているクリトリスを摘まんだ。
「そら、逝け!」
腰の動きよりも早くクリトリスをしごかれて。熱泉のなかから大きな波が立ち上がって背筋を突き抜けた。
「うああああああっ……!!」
梢枝の背中がいっそうそり返って、ビクンビクンと痙攣した。そのまま動きが止まって。三十秒もしてから、客の胸に崩折れた。
「ふう……凄かったな。若いから未熟という娘も多いが、きみは若いから神経が鋭いんだな」
ついに真の絶頂を知らないままに終わる女性も少なくはない。わずか二度目の性交でそこに達した梢枝は――客の言葉が正鵠を射ているのだろうが。継父との性的な戯れで開発されてきたからでもあっただろう。当時の少女といわず女性としては、性交への禁忌を育んでいなかったことも大きい。そして。理想的な客に巡り合えたからでもあったが。梢枝の奔放が客をその気にさせたと考えられなくもない。
ともかく。性交によってのみ得られる快楽を知ってしまったこと。湯女(売春)とは、気持ちのいいことをしてたくさんのお金をもらえる素敵な職業だと信じ込んでしまったことが、梢枝の人生を大きく変えていくことになるとは、当人の知ることろではなかった。
「いつまでも惚けてないで、仕事をしろよ」
ぺちんと尻を叩かれて、梢枝は半分くらい正気に還った。
「はあい」
宙を漂ったまま客の腰から降りて、客が自分でコンドームをはずすのを眺めていたが。ふと思いついて――まだ鎌首をもたげて湯気を立てているそこに、顔を埋ずめた。
「おいおい……」
咥えて、唇でしごき下で舐め、残り汁を吸い出して飲み下した。それは婦人雑誌で覚えた作法ではない。そんな破廉恥な仕種まで記事にすれば発禁ものだ。梢枝の本能、こんな目くるめく快感を与えてくれた御本尊様への感謝であり執着だった。
さすがに、清掃奉仕を終えた頃には理性も目を覚ましかけていた。急に羞ずかしくなって――照れ隠しに、またしても男を感激させた。きちんと正座して三つ指を突いたのだった。
「お粗末さまでした」
「あ、いえ……こちらこそ」
二人が同時に頭を上げて、目が合って。ぷっと吹き出した。
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PLOTと異なる展開です。
予定では、最初はおっかなびっくりモジモジおずおず――だったのが。ある日、年配の客から
「どうも、孫娘を相手にしているようで後ろめたい」
当然ながら老木(この話では樹木をメタファにしています)はショボーン。
よーし、それなら。これでどうだ?
と、抱きついたり、アレコレする予定だったんですけどね。
しかし、なんといいますか。わずか2回目の挿入でアクメるなんて、蟻来たりのエロ小説に堕してしまいましたね。濠門長恭SM小説としては最短記録じゃないでしょうか。
話は変わりますが。ここんとこ、サブキャラは名前だけ決めておいて。作品中に登場してから、成り行きで言動など性格設定して、それを(後で齟齬らないように)メモしていくという、ぶっつけ本番方式を採っています。執筆歴5年未満の良い子悪い子普通の子は、真似しちゃだめですよ。
progress Report 1:昭和集団羞辱史(湯女)
チャイルスのせいで、在宅勤務中です。
通勤往復3時間が無くなって、そのぶん執筆時間が増えるかというと……むしろ、逆?
CAD環境がグレードダウンして、開けないファイルをコンバートしたり、印刷して赤ペンチェックした紙を提出できないのでスキャンしたり、業務メールチェックのついでにニュースサイトを覗いたり(こらあ!)。土日も4時間くらいはCADってます。6AMからWORDで、1PMからAutoCAD。
まだ原稿用紙換算100枚の体たらく。5月中に脱稿はするでしょうが、校訂とかしてると、公開は7月ですね。ついに月刊濠門長恭が途切れます。
愚痴はさておき。GUCCIは無縁。
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継父と混浴
「お父さん、お風呂わいたよ」
梢枝が告げると、父が夕刊をたたんで立ち上がった。
「先にはいってるぞ」
「はあい」
梢枝は整理箪笥から父の下着と自分の下着とを取り出した。三年前に弟が生まれてからは、父の身の回りの世話は主に彼女がするようになっていた。
父が湯船に浸かる頃合いを見計らって、梢枝も風呂場に向かった。洋一を寝かしつけながら娘を見送る母の目に微妙なかぎろいが浮かんだのに、梢枝は今夜も気づかなかった。
脱衣籠の中の父の下着を洗濯籠に入れて、新しい下着と交換する。棚から二つ目の脱衣籠を取り出して――梢枝も服を脱ぎ始めた。
以前は週三回の入浴日ごとに組み合わせが違っていたが、今では父と梢枝、母と洋一の順番に定まっている。三番風呂まで使っては薪代がかさむ。
裸になって。梢枝は自分の乳房を見下ろした。去年までは上半分がわずかにえぐれていたけれど、今ではふっくらと丸みを帯びている。ぼつぼつブラジャーをしてみようかなと思ったりする。梢枝はちょっと気取って、髪を手拭いで包んだ。長めのお河童で、先生に叱られない範囲で段を着けている。
「お父さん、はいるよ」
声を掛けてから、曇りガラスの引き戸を開けた。あえて、前は隠さない。隠すのは、そこを意識しているからだ。父親を相手に娘が羞ずかしがるのはおかしい。たとえ、相手が血のつながっていない継父だって同じだ。それに――カマトトぶって羞ずかしがったりしたら、父も遠慮するかもしれない。
湯船からすこし離れてしゃがんで掛け湯をして、この一年で淡く生えそろった毛を掻き分けるようにして、割れ目の中まで指で洗った。襞の奥に垢を貯めておくと不潔だし、お湯を汚すことにもなると――父に仕込まれている。もちろん、お尻の穴も丹念に洗った。
梢枝が立ち上がると、父は湯船の中で腰を前に滑らせた。
「乗っかるね」
断わってから、梢枝は父に背中をあずけて腰の上に座った。梢枝よりずっと剛い毛が尻にくすぐったい。くすぐったいといえば――梢枝の股間を割ってそそり勃ってくる肉体が割れ目に食い込んできて、これは梢枝を妖しい気分にさせる。勃起は物理的な刺激で起きる生理現象だと、二年前に父から教わった。
「それだけ、梢枝が重くなってきたんだよ」
「やだ。コズエ、太ってなんかないよお」
わざと舌足らずな言い方をしたけれど、そのときから梢枝は、父の中に男性を意識している。肉体の急激な変化は物理的な刺激が無くても起きるのだとも、とっくに気づいている。それでも一緒にお風呂にはいるのは、薪代の節約だけではない。
「お尻もずいぶんと丸くなってきたね」
父の両手が尻をなぞる。
「…………」
くすぐったいのをこらえて、梢枝は口を閉ざしている。子供っぽく笑ったりすると、父が悪戯を中断してしまうからだ。居間にいる母に声を聞かれるのも心配だった。黙ったまま、わずかに尻をくねらせた。父の行為を受け容れて快感を感じているという意思表示だった。
父の指が鼠蹊部をなぞって淫埠を掌で包み込んだ。親指で丸みをなぞりながら、中指が淫裂の頂点から包皮に埋もれた蕾を掘り起こして――裏側からくすぐる。そこに疼きが生じて固くしこっていくのが、自分でわかる。
「く……んんん」
鼻に抜ける吐息が甘く震えるのまではおさえられない。そして、こういう反応が父を興奮させることも、梢枝は知っている。
父の左手が腹をなぞって乳房に達した。乳房を撫で、下から持ち上げるようにしてやさしく揉んでくれる。すでに充血している乳首が、ますますとんがっていく。そこをチョンッと摘ままれて。
「んんんん、んん……」
大きな声にならないよう、梢枝は歯を食いしばった。
父の腰で尻を突き上げられて――まるで自分の股間からそそり勃っているような父の肉体を両手で握った。自分への刺激に合わせて、柔らかくしごく。
頭も腰も痺れてきて、梢枝は自分が宙に漂っているように感じている。
「くううんんん……」
もうちょっとで背筋を稲妻が走り抜ける。そこまで達したとき、ふいに父が身体の位置を入れ替えて中腰になった。目の前に突きつけられた怒張を、梢枝は口にふくんだ。と同時に、喉の奥に熱い衝撃を感じた。
「んぶっ……!」
葉子は頭を引いて父からのがれて。口中に放出された汁を飲み込んだ。二年前にフェラチオを教えられてからずっと、そういうふうに躾けられている。
「ちぇええ……負けちゃった」
絶頂の寸前で放り出された不満と、秘密の悪戯の後の羞ずかしさとを、照れ隠しの笑いに紛らわせた。
湯船から出て身体を洗い始めた父の背中を眺めながら。今日はもう身体を洗ってくれないだろうなと、ますます欲求不満を募らせる梢枝だった。
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今回のヒロインは、ロリマゾ以上に奔放です。
湯女になってからも、マッサージ室での自由恋愛にとどまらず、露天風呂の洗い場でも抱きつき洗いとか客に洗ってもらうとか、イチャイチャエロエロ。とうぜん人気が出て。ヒロインばかりが指名されて、先輩遊女はお茶を引いたりするようになって。
リンチですね。淫毛を剃ってやれば羞ずかしくて娼売いないだろうという目論見は、ロリ人気で裏目に出ます。
ならばと、イガイガ擂粉木でズボズボゴリゴリ。ところが、前門の虎後門の狼です。
肌を傷つけられても。
「お姐さんたちに折檻されたんです」なんて、客の同情を引いてみたり。
どうにも、淫惨な展開になりそうもありません。
今回は、これまで以上に「出たとこ勝負」で書き進めています。田川水泡流です。1コマ目でノラクロ三等兵が歩いてて、4コマ目でスッ転んでいる。2コマ目と3コマ目は即興で埋めるという。巨匠の真似をしたら自滅するのはわかってますが。
今回の仏蘭西大量爆撃が失敗したら。熱帯雨林を怨恨骨髄冥府魔道厭離穢土、祇園精舎の鐘がゴ~~~ンです。
お気に入りの写真(ロリ1)
![この大空に、翼をひろげて [PULLTOP] この大空に、翼をひろげて [PULLTOP]](https://www.dlsite.com/images/banner/recommend/bn_works_00004_01.jpg)
実は、自動販売機はそれほど好きではないんですね。完全なツルペタではなく微乳くらいで、萌え出で始めたのを剃るなり燃やすなりするのがストライクです。
規制で発表困難というのとは関係なく。筆者の好みとしては、ぎりぎり、教育漢字をほぼ全部覚えた年齢が下限です。されている/していることを理解できずにマジ泣きされるのは堪忍です。じゅうぶんにわかったうえで、鞭の痛みに耐えかねて哭くのは姦淫です。『ママと歩むSlave Road』です。サブキャラとしては『大正弄瞞』で「つばなれ」してない子も登場していますが。自分の身に何が起きているかは承知しています。親に捨てられた子が生きていくには仕方がないと諦めながら、幼い官能に浸っています。

どうも、この手の写真は……ええ、水着ランドセルは、何度も召し上がらせていただきましたが。これはH系投稿4コマ雑誌の影響もあります。女子プロレス華やかなりし当時、ほんとに水着で登校していたという投稿がありましたので。
現在を舞台に小説化しようとすると無理があります。こんなことくらいでパラレルワールドなんざ持ち出したくありません。そんな安易は、元SF書きの矜持が許しません。
大掛かりな設定をしたうえで、招和とか承和を舞台にはしますが。『陸軍女子三等兵強制全裸突撃』とか『成層圏の飛燕~海女翔けるとき』ですね。これでも、SFの基本スタンス「ウソの部分以外は徹底的にリアリティを追求する」方針を貫いています。兵器ヲタクの趣味全開という説もありますけど。

ほとんどの商業物は、これはフェイクです。1枚目右の水着ランドセルは商業物でしょうけど、モノホンですよね。
ではフェイクはいっそう興が乗らない――かというと、そうでもないです。
フェイクだけに、エロを狙った構図ですし、設定もきちんとされているので。妄想が膨らみます。
右の画像は、現在もお世話になっております。
この子が男の掌を舐めたりして
「ん……?」
「ここだと人に見られるから恥ずかしい。誰も来ないところへ連れてってください」とか
「声は出しません。信用してくれないならサルグツワをしてください。自分ではずせないように縛ってもいいです」とか
企画者の意図を無視した方角へ暴走したりもします。
お気に入りの写真(学園物1)
筆者は動画より静止画が好きです。動画は記憶容量を食います。まあ、外付けHDDが3TBですから、1本10GBとしても300本は蓄積できますが。容量以上に問題なのは要領です。2時間3時間の動画でも、Gポイントはわずかしかありません。それよりは、静止画像でじっくりG線上のアレヤコレヤが好きです。
で。ふと気づいたのですが。過激なズバリの画像よりは、妄想を逞しくできるシチュエーション物を援用することが多いですね。
ときには、1枚の写真からストーリイが出来上がったり。
『非国民の烙印』なんて、『裸足のゲン』の実写化とか、Mr.K氏のイラストとかに刺激されて、裸廊下バケツの「絵」と非国民というキイワードから膨らんでいったんですから。


おっと、忘れるところでした。この巨匠(椋陽児)のイラストも後半のネタ元です。

このカテゴリではネタ元に限らず、筆者のFavouriteを紹介して、ついでに感想とかネタの断片なりを書き連ねてみましょう。
創作メモとかが品切れになったから苦し紛れ……という説もあります。
最初はイチ推し。これです。flirtというのは「いちゃつく」という意味です。それはそれで、授業中に隣の席の男の子といちゃついていたとか、ほのぼの甘々ですかしら。
I obey any teacher’s order.
とかとなると、ハード路線ですね。

これまでに三杯くらいは食べています。もちろん、左の画像ですよ。
ただ。似たようなシチュエーションでも、下の画像をオカズにしたことはありません。何故なんでしょうか。
筆者は評論家ではなく自分の姦性を具象化していく物書きですから、分析はしません。
格助詞だとか丸男詞だとかをろくに分類できなくても、ちゃんと(多分)正しく使っているのと同じです。

![暴淫荒野 白濁のビッチ姫~あなたの大きいのドンドン私にぶち込んで~ / ゲリラ少女ハント~捕まったらモヒカン野郎の精液便所~ [CHAOS-R] 暴淫荒野 白濁のビッチ姫~あなたの大きいのドンドン私にぶち込んで~ / ゲリラ少女ハント~捕まったらモヒカン野郎の精液便所~ [CHAOS-R]](https://www.dlsite.com/images/banner/recommend/bn_works_00074_03.jpg)
![邪淫のいけにえ ~触手姫アルテア&魔子宮遣いビアンカ 終わりの無い受胎~ [CHAOS-R] 邪淫のいけにえ ~触手姫アルテア&魔子宮遣いビアンカ 終わりの無い受胎~ [CHAOS-R]](https://www.dlsite.com/images/banner/recommend/bn_works_00070_03.jpg)

Progress Report Final:昭和集団羞辱史(トルコ嬢)
一気に脱稿しました。
前借は返済する端から監視役の亭主が勝手に追い借りして、しかも当時の利息制限法スレスレの年利109%で、増えこそすれ一向に減らない。ので、トルコ嬢としてうんと頑張って愛想を振りまいて演技もして、四か月で30万円ヘソクッて。一気に返済してトンズラする計画です。
そこで、警察の手入れです。その経緯は本文を読んでいただくとして。
元々のPLOTでは、口封じというか生身の賄賂というか、ヤクザ組織から生贄にされて、取調室や独房で犯されて(筆者の)気分が乗れば「告発を取り消せ」と拷問されたり男子留置房へ手錠付きで放り込まれたり――の予定でしたが。戦前の特高じゃあるまいし。MOBというかペニス装備キャラ(をい)の動機づけに無理が生じて。連休も終わりにさしかかってきたし(これが一番の理由?)急転直下で端折りました。
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逮捕寸劇
前借は返済する端から監視役の亭主が勝手に追い借りして、しかも当時の利息制限法スレスレの年利109%で、増えこそすれ一向に減らない。ので、トルコ嬢としてうんと頑張って愛想を振りまいて演技もして、四か月で30万円ヘソクッて。一気に返済してトンズラする計画です。
そこで、警察の手入れです。その経緯は本文を読んでいただくとして。
元々のPLOTでは、口封じというか生身の賄賂というか、ヤクザ組織から生贄にされて、取調室や独房で犯されて(筆者の)気分が乗れば「告発を取り消せ」と拷問されたり男子留置房へ手錠付きで放り込まれたり――の予定でしたが。戦前の特高じゃあるまいし。MOBというかペニス装備キャラ(をい)の動機づけに無理が生じて。連休も終わりにさしかかってきたし(これが一番の理由?)急転直下で端折りました。
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逮捕寸劇
苛酷な虐待の影響なのか、帰宅してすぐ葉子は予定より一週間早い生理を迎えた。
「静養と生理休みとをひとまとめに出来て、かえって良かったじゃないか」
勝雄の無神経な言葉に、ますます葉子の気持ちは離れていった。その反面、トルコ嬢としてこれまで以上に頑張って前借を早く清算しようという決心は、ますます強固になった。
アルバイトの三日を含めて一週間ぶりに職場へ復帰した葉子を待っていたのは、店長の思いもかけない言葉だった。
「休むのは四日間だけと聞いていたから、昨日と一昨日には予約を入れてあったんだよ。すっぽかした客への詫び料を含めて、追加の罰金が二万円になる。これで、葉子ちゃんの前借は百二十万を超えたね」
葉子は耳を疑った。最初の前借は百万円だった。それから二か月間働いてきて、借金が増えているはずがない。それを言うと。
「こないだは断わったが、それまでにキミのヒモ亭主には五万円ずつ二回貸している。それから、自腹での接客が十一回あるね。葉子ちゃんの持ち出し分が六万円だ。客が一本しか付かなかった日には、前借分の天引きをしていないしね」
とっさのことで、暗算が追いつかない。けれど、二か月で少なくとも百本は接客している。二十万円は返済しているはずだ。逆に二十万円も増えているというのは、納得できない。
「借金には利息が付くというのは知っているね。日歩二十銭だから、二か月の利息が十二万円ほどになる」
「…………!?」
日歩というのは百円に対する一日分の利息だ。百万円なら一日に二千円。二か月分だと十二万円にもなる。
「もう、あいつには勝手に前借させないでください」
そう訴えるくらいしか、葉子には思いつかなかった。そのせめてもの訴えを、店長は無下に退ける。
「チンピラといっても、菱口組だからね。今は兄貴分とやらだが、本部長なんかが乗り込んできたら、キミも無事じゃ済まないよ」
そうか。こいつは、ヤクザがわたしたち一家を地獄に突き落としたことを知っているんだ。同じ穴のムジナなんだ――葉子は、暗澹と気づいた。前借の百万円だけじゃない。何年もトルコで働かせて、骨の髄までしゃぶり尽くすつもりなんだ。それを拒んだら――また芸能事務所に連れ込まれるか、残酷なアルバイトを強制されるか。
一週間前の葉子だったら、絶望していただろう。けれど――トルコ嬢としてうんと頑張って一日でも早く借金を返そうと、一度は決心している。その決心まで翻しはしなかった。
「でも……前借が増えるのは、店長も困るのでしょう?」
店長が苦い顔をした。
「そりゃあ、限度ってものがあるからねえ」
その限度というのは、たぶん百二十万円かそこらだろう。
「わかりました。少しでもたくさん返せるよう、これからは頑張ります」
店長が訝しげに顔を見詰めたほど明るい声で答えて、葉子はベニヤ板で仕切られた待機部屋へはいった。セーラー服に着替えながら、決心を新たにする。
接客時間は二時間が基本だから、ふつうに頑張っても一日に三本だけど。必死に頑張れば四本はいける。緊縛研究会だか残虐研究会だかでされたことを思えば、この店で客が『詫び料』を払ってする行為くらい、へっちゃらだ。うんと稼げば、千円や二千円をヘソクッても勝雄は気づかないだろう。そうやって百万円を貯めて、店長にたたきつけてやる。それでもヤクザは諦めないかもしれないけれど――どれだけ輪姦されようと焼きを入れられようと、あの土蔵の中よりも非道いことなんて、出来はしない。だって、私を壊したら元も子もないんだから。
まさか母や弟まで脅しのタネに使われるとは――それ以前に、残虐な拷問でなくても心をへし折る手段は幾らでもあるとは、そこまで思い至るには葉子の人生経験は浅すぎた。
葉子は娼売妓として生まれ変わった。先輩に手練手管を教わって、自分でも客の反応を観察しながら工夫して。じきに、待機室に戻る暇もないくらいの売れっ妓になった。群を抜いて若い少女が、店の名に恥じないくらいに献身して、甘えたり拗ねたり、しかも結局は客の要求をたいていは(詫び料をもらったうえで)受け容れるのだから、人気が出ないはずがない。
「うわあ、ものすごく太い(長くはないけれど)。収まるかしら」
「(細くて短いけれど)カチカチだあ。こんなの、恐いです」
「やだ……気持ち良すぎる。やめてください。いやああ……やめちゃ、いやだあ」
「手押し車? 体育でするみたいのを……やだあ、エッチイ。ここじゃ狭いから、廊下に出ましょうよ。受付までそのまま行って、追加料金を払ってくださいね」
「三千円もいただいて――飲むんですか。それはサービス料に……別のやつってオシツコですかあ? そんなこと(今日は)したことないけど、献身的で淫乱な女子生徒ですもの、仕方ないですわね」
逆に乙女(ではないが)の小水を所望する客もいた。股間にむしゃぶりつく変態もいれば、しゃがませて(あるいは立たせて)放水させる物好きもいた。飲まされるよりも、こちらのほうがずっと羞ずかしかった。
それ以上の行為は、個室に臭いがこもるからと店側で禁止していた。大小にかかわらず、動物の持ち込みも禁止だった。もしも許されていれば――葉子は、それさえも拒まなかったかもしれない。
葉子がずっと無毛を続けているのも、人気の理由だった。年齢よりもさらに幼く見えて、それを好む客が多かった。年齢にこだわらない客も、無毛の淫埠を押し付けられて喜んだ。銭湯では羞ずかしい思いをしなければならなかったけれど。
「伸びてきたら、チクチクして痛いって夫が言うんです」
不都合は勝雄に押しつけた。パイパンのせいもあって、葉子がトルコで働いていることも近所に知られてしまったが、「売女」「恥知らず」という自分への陰口よりは、「女に貢がせているグウタラヤクザ」という勝雄への悪口のほうが心地よかった。
短い期間だったが、女子校で女同士のややこしい付き合いも経験している葉子は、先輩に憎まれたり疎まれたりしないよう気をつかってはいたが。必死にヘソクリを貯めようとしているのだから散財はできない。高価な贈り物を配ったところで、「小生意気なガキ娘が」と逆効果にもなりかねない。
葉子が考え付いたのは、セーラー服を待機室に残しておくことだった。憎まれていたら、次の日には汚されているか切り裂かれているか。そして、毎日同じ服で出勤する。仕事用の下着は清潔で質素でも色っぽいものを毎日取り換えるけれど、通勤にはブラジャーを着けずパンティではなくくたびれたズロースを穿いた。
「いくら稼いでも、全部取り上げられるんです。一度ハンドバッグの底に千円札を隠したことがあったんですけど、ひっくり返して調べられて……」
乳房に食い込んだ指の痕を見せたら、同情してもらえた。葉子の話は事実ではあったが、勝雄が不審に思うほど少ない金額を渡して、持ち物検査をするように仕向けたというのが真実だった。日払いの中からくすねた金はスカートの裏に縫い付けた隠しポケットで持ち運んで、日中に店の近所の郵便局で貯金している。印鑑は部屋の隅に隠して、通帳は郵便局で預かってもらっている。紙きれ一枚の預かり証くらいは、どうにでも隠せる。
同じ部屋で暮らす以上、勝雄の夫として当然の要求は拒めなかった。むしろ積極的に応えて、仕事で覚えたテクニックも駆使した。
「なんだかんだ言っても、女ってやつは嵌めて満足させてやりゃあ従順なものですね」
葉子の前で兄貴分にそんなことを吹くまでに、勝雄は油断していた。もっとも、「嵌めて満足させる」だけでもなかった。料理も洗濯は葉子のほうから禁令を出していたが、部屋の掃除くらいは(ヤクザとしての務めや仲間を引き連れての遊びの合間に)していた。どれだけ女房が身を粉にして稼いでいても家事全般は女の務めだとふんぞり返っている男に比べれば、爪の先くらいにはましだったかもしれない。
勝雄にしてみればご機嫌取りのつもりだったろうし、葉子もわかりきったうえで本心を見透かされまいと迎合していたのだが。
そんな見せかけの平和が四か月ばかり続いてヘソクリも三十万円に近づいていたとき。葉子の未来を完膚なきまでに破壊する事件が起きた。
「うわあ、ものすごく太い(長くはないけれど)。収まるかしら」
「(細くて短いけれど)カチカチだあ。こんなの、恐いです」
「やだ……気持ち良すぎる。やめてください。いやああ……やめちゃ、いやだあ」
「手押し車? 体育でするみたいのを……やだあ、エッチイ。ここじゃ狭いから、廊下に出ましょうよ。受付までそのまま行って、追加料金を払ってくださいね」
「三千円もいただいて――飲むんですか。それはサービス料に……別のやつってオシツコですかあ? そんなこと(今日は)したことないけど、献身的で淫乱な女子生徒ですもの、仕方ないですわね」
逆に乙女(ではないが)の小水を所望する客もいた。股間にむしゃぶりつく変態もいれば、しゃがませて(あるいは立たせて)放水させる物好きもいた。飲まされるよりも、こちらのほうがずっと羞ずかしかった。
それ以上の行為は、個室に臭いがこもるからと店側で禁止していた。大小にかかわらず、動物の持ち込みも禁止だった。もしも許されていれば――葉子は、それさえも拒まなかったかもしれない。
葉子がずっと無毛を続けているのも、人気の理由だった。年齢よりもさらに幼く見えて、それを好む客が多かった。年齢にこだわらない客も、無毛の淫埠を押し付けられて喜んだ。銭湯では羞ずかしい思いをしなければならなかったけれど。
「伸びてきたら、チクチクして痛いって夫が言うんです」
不都合は勝雄に押しつけた。パイパンのせいもあって、葉子がトルコで働いていることも近所に知られてしまったが、「売女」「恥知らず」という自分への陰口よりは、「女に貢がせているグウタラヤクザ」という勝雄への悪口のほうが心地よかった。
短い期間だったが、女子校で女同士のややこしい付き合いも経験している葉子は、先輩に憎まれたり疎まれたりしないよう気をつかってはいたが。必死にヘソクリを貯めようとしているのだから散財はできない。高価な贈り物を配ったところで、「小生意気なガキ娘が」と逆効果にもなりかねない。
葉子が考え付いたのは、セーラー服を待機室に残しておくことだった。憎まれていたら、次の日には汚されているか切り裂かれているか。そして、毎日同じ服で出勤する。仕事用の下着は清潔で質素でも色っぽいものを毎日取り換えるけれど、通勤にはブラジャーを着けずパンティではなくくたびれたズロースを穿いた。
「いくら稼いでも、全部取り上げられるんです。一度ハンドバッグの底に千円札を隠したことがあったんですけど、ひっくり返して調べられて……」
乳房に食い込んだ指の痕を見せたら、同情してもらえた。葉子の話は事実ではあったが、勝雄が不審に思うほど少ない金額を渡して、持ち物検査をするように仕向けたというのが真実だった。日払いの中からくすねた金はスカートの裏に縫い付けた隠しポケットで持ち運んで、日中に店の近所の郵便局で貯金している。印鑑は部屋の隅に隠して、通帳は郵便局で預かってもらっている。紙きれ一枚の預かり証くらいは、どうにでも隠せる。
同じ部屋で暮らす以上、勝雄の夫として当然の要求は拒めなかった。むしろ積極的に応えて、仕事で覚えたテクニックも駆使した。
「なんだかんだ言っても、女ってやつは嵌めて満足させてやりゃあ従順なものですね」
葉子の前で兄貴分にそんなことを吹くまでに、勝雄は油断していた。もっとも、「嵌めて満足させる」だけでもなかった。料理も洗濯は葉子のほうから禁令を出していたが、部屋の掃除くらいは(ヤクザとしての務めや仲間を引き連れての遊びの合間に)していた。どれだけ女房が身を粉にして稼いでいても家事全般は女の務めだとふんぞり返っている男に比べれば、爪の先くらいにはましだったかもしれない。
勝雄にしてみればご機嫌取りのつもりだったろうし、葉子もわかりきったうえで本心を見透かされまいと迎合していたのだが。
そんな見せかけの平和が四か月ばかり続いてヘソクリも三十万円に近づいていたとき。葉子の未来を完膚なきまでに破壊する事件が起きた。
そのイチゲン客は、別の組織のヤクザかと思うくらいに強面(こわもて)でごつい体格だった。
「自分で脱ぐから。キミも早く支度しなさい」
客はとっととパンツきりの半裸になって、洋服は自分でハンガーに吊るした。
「ずいぶんと若いね。まさか、未成年じゃないだろうね」
羞じらいを装いながらセーラー服を脱ぐ葉子に、ベッドに腰掛けた客が尋ねた。
おや――と思った。ほとんどのイチゲン客は年齢を聞き出そうとするが、未成年という言い方をした客はいなかった。が、それを葉子は深く考えなかった。
「私、結婚してるんですよ。だから、在学中でも成年ですよ」
実年齢を明かしたも同然だが、それで勃起させる客はいても逆はなかった。しかしこの客のパンツは、ちっとも盛り上がらない。
葉子は洗面器に湯を掬って、性病判定用のシャンプーを垂らして、カイグリカイグリで泡立てた。
「それじゃ、こちらへどうぞ」
股間をでろんと垂らしたまま、脚が洗い椅子に座る。
(こん畜生)という内心は隠して、それでもきつめにしごいてやった。さすがに、鎌首をもたげてくる。これなら病気は持ってなさそうだと安心する。
シャンプーを替えて、最初にスポンジを自分の身体に使って。客に背後から抱きついて乳房を押し付けて(くねらせながら)客の胸から腰までを洗った。泡を塗り直して、体重の半分は自分の脚で支えながら客の腿に尻を乗せて、乳房だけでなく無毛の下腹部まで押しつけながら、スポンジで背中を洗った。
見た感じでは、客は三十台後半。そのせいか、怒張は葉子の股間を突き抜けるほどには凶棒化しなかった。
シャワーで泡を洗い流して、二人で浴槽に浸かる。ここまで、客は葉子にされるがままになっていて、助平な要求を持ち出すどころか自分から積極的に動こうともしていない。
この店に来る客はもちろん富裕層ばかりだが、金はあっても遊び慣れていない客もいることはいる。この男も、そのひとりなのだろう。葉子はシラケるどころか――他の嬢には目もくれないくらいに夢中にさせてやろうと張り切った。当時は、まだエアマットが導入されていない。ベッドの上では、どうしても本番行為が主体になる。浴槽でのイチャツキが、サービスの決め手だった。
葉子は客と向井合わせになって、膝とか腿ではなく腰にまたがった。そうして、淫毛に女性器をこすりつけた。土蔵で鍛えられて(?)からこっち、この程度の刺激はまったくの快感でしかない。
「ああん……ふううんん……」
客の耳元で嫋々と喘いだ。七割りは演技だが、三割は実感を強調している。
それでも、客は葉子の肌に(やむなく触れるだけで)手を伸ばさない。どころか。
「こんなサービスで五千円とは、ずいぶんボッタくるもんだな。もう帰る」
葉子を押しのけて立ち上がった。浴槽から出て、バスタオルで身体を拭いている。
ほんとうに、このお客様はトルコ風呂のことを知らないんだろうか。
葉子もあわてて浴槽から出て、大急ぎで身体を拭いた。
「今までのは、入浴料金分のご奉仕です。サービス料金分は、これからなんです」
ベッドに身を投げ出して、膝を立てて脚を開いた。
「私を淫らな恋人だと思って扱ってください。息子さんが言うことを聞いてくれないなら、お口で奮い勃たせてあげます」
軽く腰を浮かして、両手を広げて誘う。
そこまでされて言われて、葉子の誘いを理解しない朴念仁はいない。客の股間が上段の構えに変じた。
「い、いいんだな。つまり、その……サービス料ってのは、売春のことなんだね」
じれったくて地団太踏みたくなる気持ちをこらえて、葉子は含羞(はにか)んでみせた。
「そんな野暮は言わないでください。私、お客さんが大好きになったし、お客さんだってそうでしょ。相思相愛の恋人同士が結ばれるのは当然でしょ?」
「というのが建前かね」
薄く嘲笑を浮かべながら、それでも葉子におおいかぶさってくる。
「ややこしいこと、言わないでください。息子さんは正直ですよ」
葉子が手を伸ばして怒張を握り、股間へ誘った。そして、先端が淫唇を掻き分けた瞬間。男が、ぱっと身を引いた。ハンガーに掛けてある背広から、金属の環のような物を取り出した。
「売春行為の現行犯で逮捕する」
直立して宣言したと同時に、葉子をベッドから引き起こして――手錠を掛けた。
「え……?!」
ピリピリピリ……
客がドアを開けてホイッスルを短く鳴らした。
待合室から一人の男が飛び出して、葉子の個室に押し入ってきた。大きな鞄からカメラを取り出して、葉子に向ける。
「いやっ……」
後ろ向きになって顔を隠そうとしたが、手錠で引き戻された。
バシャ。バシャ。フラッシュを焚かれた。
外は大騒ぎになっている。さらに二人の私服刑事と三人の制服警官が店に飛び込んできて。
「警察だ。そのまま、動かないように」
悲鳴と怒号が交錯し、フロントでは従業員と刑事との揉み合いが始まったている。
「キミは現行犯だからね。何日か泊まってもらうことになるよ」
裸身に腰縄を打ってから手錠をはずし、セーラー服の上下だけを葉子に投げてよこした。役得のつもりか、パンティはズボンのポケットに突っ込んだ。
「早く着なさい。素っ裸で連行されたいのか」
動転したまま、葉子はスカートを穿いてセーラー服を頭からかぶった。襟を整える前に、また手錠を掛けられた。そして、店の外へ引きずり出された。
入口をふさぐ形で黒塗りの大型乗用車が停まっていた。すでに集まり始めている野次馬の視線を遮っている。素裸で引き出すという刑事の言葉は、実行不可能な脅しではなかったのだ。葉子は後部座席に押し込まれた。すぐに、これも着崩れたセーラー服姿の先輩が二人、押し込まれてきた。制服警官がハンドルを握って、葉子の客を装っていた刑事が助手席に乗ると、すぐに自動車は動きだした。その後に、小型バスのような灰色の車が横付けする。一網打尽という言葉が、葉子の頭に浮かんだ。
「へええ。右ハンドルかあ。国産車にも、こんなごついのがあったんだ」
初日に葉子の部屋に顔を出した恵美子が、お嬢様言葉は捨てて呟いた。
刑事が振り返って、恵美子の顔を眺める。
「おまえなあ。逮捕されたんだぞ。ドライブに行くわけじゃないんだからな」
「事情聴取のための任意同行でしょ。売春の容疑だけでは逮捕できないはずじゃん」
刑事が苦笑した。
「おまえ自身への管理売春という形にもできるんだぞ」
チッと恵美子が舌打ちして黙り込んだ。
三人が連行されたのは、繁華街一帯を所轄している分署ではなく、本部警察署だった。セーラー服姿の若い女性がぞろぞろとしょっぴかれているのに、誰もが無関心だった。
顔写真を撮られて指紋を採取されて、それからすぐに取り調べが始まった。取り調べは葉子を逮捕した刑事が、そのまま担当した。制服警官が部屋の隅の小机に座ってノートを広げている。
「さっきの姉ちゃんが小難しいことを言っていたが、キミは管理売春容疑で逮捕されている。自分に不利になるようなことは、話さないでよろしい」
そこで記録係を振り返って。
「しばらくノートを閉じていろ。ここからはひとり言だ」
指を櫛にして、わさわしゃと髪を掻き上げた。
「この春の異動で赴任してきた本部長殿は、世間知らずのボンボンでな。この街にはびこるヤクザを本気で取り締まるつもりらしい。その手始めが資金源のトルコとノミ屋だ。まあ、トルコ嬢が自分で管理売春をしていて、店はまさか売春行為が行なわれていたなんて知らなかった――そういう話なら、七面倒は起こらない。お嬢ちゃんたちも、執行猶予付きの懲役だから一年もおとなしくしていれば職場復帰もできるだろうさ」
一年も稼ぎがなければ――金食い虫の勝雄は、アルバイトを何度もさせるだろう。それよりも気がかりなことがあった。
「私、お店に百万円の前借があるんです」
「むぐっ」あるいは「ぶふっ」というような音が部屋の隅から聞こえた。巡査の初任給の百倍ちかいから、当然の反応だろう。
「これを返せなくなります」
ふうむ――と、刑事が腕を組んで天井をにらんだ。大衆相手の水商売では、前借の相場はその十分の一くらいだ。
「そいつは民事だからなあ。警察ではなんとも出来ない」
うなだれた葉子に同情したのか。若さゆえの正義感からか。記録係の警官が口をはさんだ。
「島田警部殿。店側が前借でこの子を縛っていたのだとしたら、公序良俗に反する契約ですから無効になるんじゃないですか」
「おまえは黙っとれ」
叱りつけてから。煙草を抜き出して口に咥えた。
「ふうむ……」
煙を輪にして吹き上げた。
「ボンボンに花を持たせてやるか」
すぐに煙草を揉み消して、身を乗り出して葉子に向かい合う。
「若いのが言ったことは、間違いじゃない。途方もない前借を押し付けられて、不本意にも売春行為をさせられていたとなると、キミは被害者だ。罪に問われることもない。前借も法律が無効にしてくれる。そう証言するかな?」
警官がノートを広げるのを目の隅に捕らえて。
「まだ早い。閉じておれ」
刑事が灰皿から吸殻を取り上げて、また火を点けた。
「いや、別の攻め口もあるな。結婚してると言ったな。だから成年だと。それは民事の話で、だからトルコで働いていいことにはならない。おまえが現役の女子校生と知りながら働かせていたのだとすれば、店長は有罪だ」
「私は中退ですけど……店長は知っています。わざわざ学生証をお客さんに見せろって言ったくらいですから」
「売春防止法と労働基準法。ふたつ揃えば、店長の首をすげ替えるだけじゃすまんな。営業許可を取り消して、店舗そのものを潰せるかもな。本部長殿も、さぞお喜びになるだろうて」
島田警部は短くなった煙草を灰皿に突っ込んで。思い出したように接ぎ穂の無い話を始めた。
「上の命令で敵方にカチコミ……つまり、敵と大喧嘩をした組員の行く末を教えてやろうか。これは雑談だぞ」
葉子にも警官にも念を押してから、言葉を続ける。
「自分一人でやりました。親分の命令でもないし、弟分は自分の言いつけに従っただけです。そんなふうにひとりで罪をかぶったやつは、出所してからそれなりの待遇を与えられる。懲役のあいだは、家族の生活費も組が面倒を見る。しかし、組織を売ったやつはドラム缶に詰められて海の底だ。刑務所の中にまで殺し屋が送り込まれることだってある」
店側の違反を告発したら、葉子も同じ目に遭うと脅している。
「まあ、女は幾らでも使い潰しが効くから、タマまでは取られない――おっと、ハナからタマは無かったな」
警官が苦い顔をした。
部分的にわからない言葉もあったが、葉子にも意味はわかる。また芸能事務所で引導を渡されるか、前よりも残酷なアルバイトをさせられるか――そして、新たな前借を押し付けられるのだろう。菱田組配下のトルコ店は『献身女学淫』だけではないだろう。それとも、噂でしか知らないけれど、報復の意味で『チョンの間』とかいう最下級の淫売屋へ売られるかもしれない。
「怖くなって、やはり泣き寝入りするか?」
ふてぶてしい犯罪者を自白に追い込むベテラン捜査官は、すでに葉子の性格を見抜いていて、脅しているようで、その実けしかけている――と、葉子が思い至るはずもなかった。
どれだけ従順に猫をかぶっていても、必死に稼いでも、またアルバイトをさせられないという保証はない。葉子にしてみれば、超高級トルコ店でも最下級の淫売屋でも、女を踏みにじられる屈辱に変わりはない(性病の危険性までは念頭になかった)。
自分のことではなく、母と弟の身の上が心配だった。自分が反逆したことで、二人にまで報復が及ぶのではないか。
同じことなのかもしれない――とも考えた。勝雄は(というよりも背後の花田組は)前借の百万円だけでは勘弁してくれず、さらに三十万円以上(四か月のあいだに十万円も増えていた)を葉子から毟り取っている。母も弟も、それこそ使い潰されるに決まっている。
もしも勝雄に飼い馴らされていたら、彼の為にも頑張ろうという気になっていたかもしれない。しかし、実際には真逆だった。
「私に前借をさせたのは、夫です。もっと上の人からの指図で、そうしたんです。それは罪にならないんですか」
「既婚者は成人と見做すわけだから、ちょっと難しいかな。脅されてとかなら、話は別だが」
その言葉が、最後の一押しになった。
「脅されたなんてものじゃありません。いきなり、何人もの男たちに強貫されたんです。引導を渡されたんです……処女だったのに!」
話しているうちに激情がつのってきた。
「母も同じ部屋で強貫されたんです。売春婦になることを承知するまで、十人でも二十人でも犯してやるって」
そんなふうにはっきりと覚えているわけではない。わけのわからないうちに、殴られ犯され縛られて監禁された。葉子の記憶では、そうなっている。
「おいおい。そりゃまた別口で立件することになるぜ。もっと上の人間と言っていたな。ヤクザの幹部が婦女暴行となると……菱口組も空中分解だな」
屈強な男を殺すのは勲章だが、か弱い女を力づくで、まして数を頼んで犯すようなやつは最低のクズだ。建前の部分は多いにしても、そういった筋が通されていた時代だった。幹部が婦女暴行で有罪になったら、組全体が他から相手にされなくなる。
――葉子の気持ちが落ち着くまでひと休みとなった。葉子は取調室に留め置かれたまま、島田警部と若い警察官とが席を外して、三十歳前くらいの婦人警察官がケーキとお茶を運んできて、そのまま葉子の前に座った。ケーキは二人分あった。
「悲しいときや辛いときは、甘い物を食べると気がまぎれるわよ」
いかにも女性らしい勧め方だった。
「……いただきます」
三角形の生地をバタークリームで包んで苺を乗せたショートケーキ。一家離散して以来、初めて口にする贅沢だった。ケーキのひとつやふたつ、ヘソクリの妨げにはならないけれど、勝雄は辛党だし、ひとりで食べるのはなんだか盗み食いしてるみたいで――自然と遠ざかっていた。濃厚な甘みが口いっぱいに広がっていくうちに、胸の中にあふれていた悲哀が、すこしだけ溶けていくような気がした。
――再開された取調で、事の発端が父の使い込みだったことも含めて、葉子は洗いざらいを打ち明けた。もしそのことで父が罪に問われても、仕方のないことだと突き放していた。葉子の供述は、婦女暴行と売春と若年労働と三枚の供述書に分けてまとめられた。終わったときには日が暮れかけていた。
「管理売春についてはキミの嫌疑が晴れたわけではないから、ひと晩はここに泊まってもらうよ」
独居房に入れられた。夕食はアルマイトの弁当箱で差し入れられた。公費負担で老若男女一律の内容だという。白米のご飯は持て余すくらい多くて、切り身の焼き魚とホウレンソウのお浸しは、付け足しくらいしかなかった。最後は沢庵でご飯を食べて――満腹を通り越してしまった。
なにもかも一気に決着がついてしまった。そんな思いで、先々への不安は抱えながらも――葉子は半年ぶりに、安らかな眠りに就いたのだった。
「自分で脱ぐから。キミも早く支度しなさい」
客はとっととパンツきりの半裸になって、洋服は自分でハンガーに吊るした。
「ずいぶんと若いね。まさか、未成年じゃないだろうね」
羞じらいを装いながらセーラー服を脱ぐ葉子に、ベッドに腰掛けた客が尋ねた。
おや――と思った。ほとんどのイチゲン客は年齢を聞き出そうとするが、未成年という言い方をした客はいなかった。が、それを葉子は深く考えなかった。
「私、結婚してるんですよ。だから、在学中でも成年ですよ」
実年齢を明かしたも同然だが、それで勃起させる客はいても逆はなかった。しかしこの客のパンツは、ちっとも盛り上がらない。
葉子は洗面器に湯を掬って、性病判定用のシャンプーを垂らして、カイグリカイグリで泡立てた。
「それじゃ、こちらへどうぞ」
股間をでろんと垂らしたまま、脚が洗い椅子に座る。
(こん畜生)という内心は隠して、それでもきつめにしごいてやった。さすがに、鎌首をもたげてくる。これなら病気は持ってなさそうだと安心する。
シャンプーを替えて、最初にスポンジを自分の身体に使って。客に背後から抱きついて乳房を押し付けて(くねらせながら)客の胸から腰までを洗った。泡を塗り直して、体重の半分は自分の脚で支えながら客の腿に尻を乗せて、乳房だけでなく無毛の下腹部まで押しつけながら、スポンジで背中を洗った。
見た感じでは、客は三十台後半。そのせいか、怒張は葉子の股間を突き抜けるほどには凶棒化しなかった。
シャワーで泡を洗い流して、二人で浴槽に浸かる。ここまで、客は葉子にされるがままになっていて、助平な要求を持ち出すどころか自分から積極的に動こうともしていない。
この店に来る客はもちろん富裕層ばかりだが、金はあっても遊び慣れていない客もいることはいる。この男も、そのひとりなのだろう。葉子はシラケるどころか――他の嬢には目もくれないくらいに夢中にさせてやろうと張り切った。当時は、まだエアマットが導入されていない。ベッドの上では、どうしても本番行為が主体になる。浴槽でのイチャツキが、サービスの決め手だった。
葉子は客と向井合わせになって、膝とか腿ではなく腰にまたがった。そうして、淫毛に女性器をこすりつけた。土蔵で鍛えられて(?)からこっち、この程度の刺激はまったくの快感でしかない。
「ああん……ふううんん……」
客の耳元で嫋々と喘いだ。七割りは演技だが、三割は実感を強調している。
それでも、客は葉子の肌に(やむなく触れるだけで)手を伸ばさない。どころか。
「こんなサービスで五千円とは、ずいぶんボッタくるもんだな。もう帰る」
葉子を押しのけて立ち上がった。浴槽から出て、バスタオルで身体を拭いている。
ほんとうに、このお客様はトルコ風呂のことを知らないんだろうか。
葉子もあわてて浴槽から出て、大急ぎで身体を拭いた。
「今までのは、入浴料金分のご奉仕です。サービス料金分は、これからなんです」
ベッドに身を投げ出して、膝を立てて脚を開いた。
「私を淫らな恋人だと思って扱ってください。息子さんが言うことを聞いてくれないなら、お口で奮い勃たせてあげます」
軽く腰を浮かして、両手を広げて誘う。
そこまでされて言われて、葉子の誘いを理解しない朴念仁はいない。客の股間が上段の構えに変じた。
「い、いいんだな。つまり、その……サービス料ってのは、売春のことなんだね」
じれったくて地団太踏みたくなる気持ちをこらえて、葉子は含羞(はにか)んでみせた。
「そんな野暮は言わないでください。私、お客さんが大好きになったし、お客さんだってそうでしょ。相思相愛の恋人同士が結ばれるのは当然でしょ?」
「というのが建前かね」
薄く嘲笑を浮かべながら、それでも葉子におおいかぶさってくる。
「ややこしいこと、言わないでください。息子さんは正直ですよ」
葉子が手を伸ばして怒張を握り、股間へ誘った。そして、先端が淫唇を掻き分けた瞬間。男が、ぱっと身を引いた。ハンガーに掛けてある背広から、金属の環のような物を取り出した。
「売春行為の現行犯で逮捕する」
直立して宣言したと同時に、葉子をベッドから引き起こして――手錠を掛けた。
「え……?!」
ピリピリピリ……
客がドアを開けてホイッスルを短く鳴らした。
待合室から一人の男が飛び出して、葉子の個室に押し入ってきた。大きな鞄からカメラを取り出して、葉子に向ける。
「いやっ……」
後ろ向きになって顔を隠そうとしたが、手錠で引き戻された。
バシャ。バシャ。フラッシュを焚かれた。
外は大騒ぎになっている。さらに二人の私服刑事と三人の制服警官が店に飛び込んできて。
「警察だ。そのまま、動かないように」
悲鳴と怒号が交錯し、フロントでは従業員と刑事との揉み合いが始まったている。
「キミは現行犯だからね。何日か泊まってもらうことになるよ」
裸身に腰縄を打ってから手錠をはずし、セーラー服の上下だけを葉子に投げてよこした。役得のつもりか、パンティはズボンのポケットに突っ込んだ。
「早く着なさい。素っ裸で連行されたいのか」
動転したまま、葉子はスカートを穿いてセーラー服を頭からかぶった。襟を整える前に、また手錠を掛けられた。そして、店の外へ引きずり出された。
入口をふさぐ形で黒塗りの大型乗用車が停まっていた。すでに集まり始めている野次馬の視線を遮っている。素裸で引き出すという刑事の言葉は、実行不可能な脅しではなかったのだ。葉子は後部座席に押し込まれた。すぐに、これも着崩れたセーラー服姿の先輩が二人、押し込まれてきた。制服警官がハンドルを握って、葉子の客を装っていた刑事が助手席に乗ると、すぐに自動車は動きだした。その後に、小型バスのような灰色の車が横付けする。一網打尽という言葉が、葉子の頭に浮かんだ。
「へええ。右ハンドルかあ。国産車にも、こんなごついのがあったんだ」
初日に葉子の部屋に顔を出した恵美子が、お嬢様言葉は捨てて呟いた。
刑事が振り返って、恵美子の顔を眺める。
「おまえなあ。逮捕されたんだぞ。ドライブに行くわけじゃないんだからな」
「事情聴取のための任意同行でしょ。売春の容疑だけでは逮捕できないはずじゃん」
刑事が苦笑した。
「おまえ自身への管理売春という形にもできるんだぞ」
チッと恵美子が舌打ちして黙り込んだ。
三人が連行されたのは、繁華街一帯を所轄している分署ではなく、本部警察署だった。セーラー服姿の若い女性がぞろぞろとしょっぴかれているのに、誰もが無関心だった。
顔写真を撮られて指紋を採取されて、それからすぐに取り調べが始まった。取り調べは葉子を逮捕した刑事が、そのまま担当した。制服警官が部屋の隅の小机に座ってノートを広げている。
「さっきの姉ちゃんが小難しいことを言っていたが、キミは管理売春容疑で逮捕されている。自分に不利になるようなことは、話さないでよろしい」
そこで記録係を振り返って。
「しばらくノートを閉じていろ。ここからはひとり言だ」
指を櫛にして、わさわしゃと髪を掻き上げた。
「この春の異動で赴任してきた本部長殿は、世間知らずのボンボンでな。この街にはびこるヤクザを本気で取り締まるつもりらしい。その手始めが資金源のトルコとノミ屋だ。まあ、トルコ嬢が自分で管理売春をしていて、店はまさか売春行為が行なわれていたなんて知らなかった――そういう話なら、七面倒は起こらない。お嬢ちゃんたちも、執行猶予付きの懲役だから一年もおとなしくしていれば職場復帰もできるだろうさ」
一年も稼ぎがなければ――金食い虫の勝雄は、アルバイトを何度もさせるだろう。それよりも気がかりなことがあった。
「私、お店に百万円の前借があるんです」
「むぐっ」あるいは「ぶふっ」というような音が部屋の隅から聞こえた。巡査の初任給の百倍ちかいから、当然の反応だろう。
「これを返せなくなります」
ふうむ――と、刑事が腕を組んで天井をにらんだ。大衆相手の水商売では、前借の相場はその十分の一くらいだ。
「そいつは民事だからなあ。警察ではなんとも出来ない」
うなだれた葉子に同情したのか。若さゆえの正義感からか。記録係の警官が口をはさんだ。
「島田警部殿。店側が前借でこの子を縛っていたのだとしたら、公序良俗に反する契約ですから無効になるんじゃないですか」
「おまえは黙っとれ」
叱りつけてから。煙草を抜き出して口に咥えた。
「ふうむ……」
煙を輪にして吹き上げた。
「ボンボンに花を持たせてやるか」
すぐに煙草を揉み消して、身を乗り出して葉子に向かい合う。
「若いのが言ったことは、間違いじゃない。途方もない前借を押し付けられて、不本意にも売春行為をさせられていたとなると、キミは被害者だ。罪に問われることもない。前借も法律が無効にしてくれる。そう証言するかな?」
警官がノートを広げるのを目の隅に捕らえて。
「まだ早い。閉じておれ」
刑事が灰皿から吸殻を取り上げて、また火を点けた。
「いや、別の攻め口もあるな。結婚してると言ったな。だから成年だと。それは民事の話で、だからトルコで働いていいことにはならない。おまえが現役の女子校生と知りながら働かせていたのだとすれば、店長は有罪だ」
「私は中退ですけど……店長は知っています。わざわざ学生証をお客さんに見せろって言ったくらいですから」
「売春防止法と労働基準法。ふたつ揃えば、店長の首をすげ替えるだけじゃすまんな。営業許可を取り消して、店舗そのものを潰せるかもな。本部長殿も、さぞお喜びになるだろうて」
島田警部は短くなった煙草を灰皿に突っ込んで。思い出したように接ぎ穂の無い話を始めた。
「上の命令で敵方にカチコミ……つまり、敵と大喧嘩をした組員の行く末を教えてやろうか。これは雑談だぞ」
葉子にも警官にも念を押してから、言葉を続ける。
「自分一人でやりました。親分の命令でもないし、弟分は自分の言いつけに従っただけです。そんなふうにひとりで罪をかぶったやつは、出所してからそれなりの待遇を与えられる。懲役のあいだは、家族の生活費も組が面倒を見る。しかし、組織を売ったやつはドラム缶に詰められて海の底だ。刑務所の中にまで殺し屋が送り込まれることだってある」
店側の違反を告発したら、葉子も同じ目に遭うと脅している。
「まあ、女は幾らでも使い潰しが効くから、タマまでは取られない――おっと、ハナからタマは無かったな」
警官が苦い顔をした。
部分的にわからない言葉もあったが、葉子にも意味はわかる。また芸能事務所で引導を渡されるか、前よりも残酷なアルバイトをさせられるか――そして、新たな前借を押し付けられるのだろう。菱田組配下のトルコ店は『献身女学淫』だけではないだろう。それとも、噂でしか知らないけれど、報復の意味で『チョンの間』とかいう最下級の淫売屋へ売られるかもしれない。
「怖くなって、やはり泣き寝入りするか?」
ふてぶてしい犯罪者を自白に追い込むベテラン捜査官は、すでに葉子の性格を見抜いていて、脅しているようで、その実けしかけている――と、葉子が思い至るはずもなかった。
どれだけ従順に猫をかぶっていても、必死に稼いでも、またアルバイトをさせられないという保証はない。葉子にしてみれば、超高級トルコ店でも最下級の淫売屋でも、女を踏みにじられる屈辱に変わりはない(性病の危険性までは念頭になかった)。
自分のことではなく、母と弟の身の上が心配だった。自分が反逆したことで、二人にまで報復が及ぶのではないか。
同じことなのかもしれない――とも考えた。勝雄は(というよりも背後の花田組は)前借の百万円だけでは勘弁してくれず、さらに三十万円以上(四か月のあいだに十万円も増えていた)を葉子から毟り取っている。母も弟も、それこそ使い潰されるに決まっている。
もしも勝雄に飼い馴らされていたら、彼の為にも頑張ろうという気になっていたかもしれない。しかし、実際には真逆だった。
「私に前借をさせたのは、夫です。もっと上の人からの指図で、そうしたんです。それは罪にならないんですか」
「既婚者は成人と見做すわけだから、ちょっと難しいかな。脅されてとかなら、話は別だが」
その言葉が、最後の一押しになった。
「脅されたなんてものじゃありません。いきなり、何人もの男たちに強貫されたんです。引導を渡されたんです……処女だったのに!」
話しているうちに激情がつのってきた。
「母も同じ部屋で強貫されたんです。売春婦になることを承知するまで、十人でも二十人でも犯してやるって」
そんなふうにはっきりと覚えているわけではない。わけのわからないうちに、殴られ犯され縛られて監禁された。葉子の記憶では、そうなっている。
「おいおい。そりゃまた別口で立件することになるぜ。もっと上の人間と言っていたな。ヤクザの幹部が婦女暴行となると……菱口組も空中分解だな」
屈強な男を殺すのは勲章だが、か弱い女を力づくで、まして数を頼んで犯すようなやつは最低のクズだ。建前の部分は多いにしても、そういった筋が通されていた時代だった。幹部が婦女暴行で有罪になったら、組全体が他から相手にされなくなる。
――葉子の気持ちが落ち着くまでひと休みとなった。葉子は取調室に留め置かれたまま、島田警部と若い警察官とが席を外して、三十歳前くらいの婦人警察官がケーキとお茶を運んできて、そのまま葉子の前に座った。ケーキは二人分あった。
「悲しいときや辛いときは、甘い物を食べると気がまぎれるわよ」
いかにも女性らしい勧め方だった。
「……いただきます」
三角形の生地をバタークリームで包んで苺を乗せたショートケーキ。一家離散して以来、初めて口にする贅沢だった。ケーキのひとつやふたつ、ヘソクリの妨げにはならないけれど、勝雄は辛党だし、ひとりで食べるのはなんだか盗み食いしてるみたいで――自然と遠ざかっていた。濃厚な甘みが口いっぱいに広がっていくうちに、胸の中にあふれていた悲哀が、すこしだけ溶けていくような気がした。
――再開された取調で、事の発端が父の使い込みだったことも含めて、葉子は洗いざらいを打ち明けた。もしそのことで父が罪に問われても、仕方のないことだと突き放していた。葉子の供述は、婦女暴行と売春と若年労働と三枚の供述書に分けてまとめられた。終わったときには日が暮れかけていた。
「管理売春についてはキミの嫌疑が晴れたわけではないから、ひと晩はここに泊まってもらうよ」
独居房に入れられた。夕食はアルマイトの弁当箱で差し入れられた。公費負担で老若男女一律の内容だという。白米のご飯は持て余すくらい多くて、切り身の焼き魚とホウレンソウのお浸しは、付け足しくらいしかなかった。最後は沢庵でご飯を食べて――満腹を通り越してしまった。
なにもかも一気に決着がついてしまった。そんな思いで、先々への不安は抱えながらも――葉子は半年ぶりに、安らかな眠りに就いたのだった。
私刑宣告
翌朝。早々と目が覚めて、することがないので、ぼんやりと正座していた。騒ぎさえしなければ、胡坐をかこうが逆立ちをいようが自由なのだが、見回りに来た警官も教えてくれなかった。もっとも。姿勢を崩してもいいと言われても、そんな気にはなれなかっただろうが。
昼前に葉子は取調室に呼ばれた。手錠も腰縄も掛けられなかった。昨日の島田警部ひとりが待っていた。
「すまんが――昨日の調書は、無かったことにする」
「…………?」
「ボンボンは性根が座っとらん」
吐き捨てるように言う。
「本部長殿の奥様が、習い事の帰りにチンピラどもに囲まれて――何事も起きずに帰宅あそばされたそうだ。そして今朝になって、菱口組関連の捜査は中止というお達しがあった」
つまり、無罪釈放。と同時に、葉子が告発した事件も、すべて無かったことにされたのだ。
「亭主が迎えに来てるぞ。帰って、たっぷり可愛がってもらえ」
明日から――いや、今日の午後からでも、男どもに身体を切り売りする日々が再開されるのだ。落胆はしたが。この四か月は、地獄の日々とまではいえなかった。女としては惨めでも、金銭的には――進学しないで就職した同窓生よりも、ずっと恵まれていた。
四か月で三十万円のヘソクリ。返済した分だけ前借させられても、あと一年で百二十万円(前借の限度だと、葉子は推測している)貯まる。それまでの辛抱だ。そんなふうに自分を慰めながら、警察を出た。
待っていたのは勝雄だけでなく、兄貴分も本部長もいた。厭な予感がした。
「すまないな」
付き添ってきた島田警部が耳元でささやいた。
「全員の調書を要求されてな。余計なことまでしゃべってないか、調べるんだろう」
葉子の三通の調書も渡したと告げられた。本部長が首謀者になって葉子と母を輪姦させたという告発も、強制的に前借をさせられて無理強いに売春をさせられていたという証言も――なにもかも。
「組織を売ったやつはドラム缶に詰められて海の底」
島田の言葉を思い出して、葉子は立ち竦んだ。逃げようとは考えなかった。追いつかれるに決まっているし、それ以前に――逃げて行く先がない。
男どものほうから近づいてきて、葉子を取り囲んだ。
「すみませんね。お手数を掛けまして」
島田に鷹揚に会釈してから、葉子にドスの効いた言葉を浴びせる。
「ふざけたことを歌ってくれたもんだな。十日やそこらは寝込んでもらうぜ」
二の腕をつかんで、葉子を引っ立てる。
「心配するな。顔にも娼売道具にも――治らないほどの傷は負わせないさ」
芸能事務所のダンス練習場に拉致されるのか、あの土蔵へまた売られるのか、それとも……これまでの凄惨な体験からも想像できないような残虐で淫惨な折檻をされて。
いっそ殺して楽にしてほしいとさえ願いながら、葉子は処刑場へ連行されるのだった。
昼前に葉子は取調室に呼ばれた。手錠も腰縄も掛けられなかった。昨日の島田警部ひとりが待っていた。
「すまんが――昨日の調書は、無かったことにする」
「…………?」
「ボンボンは性根が座っとらん」
吐き捨てるように言う。
「本部長殿の奥様が、習い事の帰りにチンピラどもに囲まれて――何事も起きずに帰宅あそばされたそうだ。そして今朝になって、菱口組関連の捜査は中止というお達しがあった」
つまり、無罪釈放。と同時に、葉子が告発した事件も、すべて無かったことにされたのだ。
「亭主が迎えに来てるぞ。帰って、たっぷり可愛がってもらえ」
明日から――いや、今日の午後からでも、男どもに身体を切り売りする日々が再開されるのだ。落胆はしたが。この四か月は、地獄の日々とまではいえなかった。女としては惨めでも、金銭的には――進学しないで就職した同窓生よりも、ずっと恵まれていた。
四か月で三十万円のヘソクリ。返済した分だけ前借させられても、あと一年で百二十万円(前借の限度だと、葉子は推測している)貯まる。それまでの辛抱だ。そんなふうに自分を慰めながら、警察を出た。
待っていたのは勝雄だけでなく、兄貴分も本部長もいた。厭な予感がした。
「すまないな」
付き添ってきた島田警部が耳元でささやいた。
「全員の調書を要求されてな。余計なことまでしゃべってないか、調べるんだろう」
葉子の三通の調書も渡したと告げられた。本部長が首謀者になって葉子と母を輪姦させたという告発も、強制的に前借をさせられて無理強いに売春をさせられていたという証言も――なにもかも。
「組織を売ったやつはドラム缶に詰められて海の底」
島田の言葉を思い出して、葉子は立ち竦んだ。逃げようとは考えなかった。追いつかれるに決まっているし、それ以前に――逃げて行く先がない。
男どものほうから近づいてきて、葉子を取り囲んだ。
「すみませんね。お手数を掛けまして」
島田に鷹揚に会釈してから、葉子にドスの効いた言葉を浴びせる。
「ふざけたことを歌ってくれたもんだな。十日やそこらは寝込んでもらうぜ」
二の腕をつかんで、葉子を引っ立てる。
「心配するな。顔にも娼売道具にも――治らないほどの傷は負わせないさ」
芸能事務所のダンス練習場に拉致されるのか、あの土蔵へまた売られるのか、それとも……これまでの凄惨な体験からも想像できないような残虐で淫惨な折檻をされて。
いっそ殺して楽にしてほしいとさえ願いながら、葉子は処刑場へ連行されるのだった。
トルコ嬢:完
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さて、これからヒロインはどんなリンチを受けるんでしょうかね(もはや他人事)。

基本の鞭打ちは、右の画像くらいまでは過酷になるでしょう。

24時間ぶっ通しで責めるのは(男が)疲れますから、休みも入れましょう。全身有刺鉄線緊縛して、長い針も添えてやりましょう。モザイクだらけになるので割愛しますが、下半身も同じかそれ以上に虐めましょう。

治らないほどの傷は負わせないと最高責任者(?)は言っていますが、可愛さ余って嗜虐百倍。
芸術的な折檻なら商品価値も高まります。これくらいでびびるような客は『献身学淫』には来ません。被虐美であると同時に、稀に来店するマゾ男には女王様の貫禄というものです。右のような『破壊』までは、たぶん突き進まないでしょう。『公女両辱』は西洋中世でしたが、この物語はそれなりに公序良俗が支配しています。それとも、監視役ヒモ亭主が男気(?)を出して、「生涯、俺が飼ってやる」とか?
さて。推敲校訂は下手投げで吊り出しといて、『浴場編(湯女)』に着手しましょうかしら。
こちらは、濠門長恭的ハッピーエンドになる予定です。
Progress Report 3:昭和集団羞辱史(トルコ嬢)
前回のレポートはこちら→
SM折檻
戸籍上の亭主になった、実質監視役の若い男が組への上納金が払えず、ヒロインに「アルバイト」をさせる。というストーリイでした。
ここで、ヒロインはマゾに開眼したりもせず、ズタボロに責められて――という予定でしたが。こういうシーンでは、延々と書き込みます。趣味です。生き甲斐です。ライフワークです。半分嘘です。
とにかく、ひとつの章では尺が足りません。そこで、後半を分けました。
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痛悦馴致
抱き起こされて、葉子は目を覚ました。裸電球ひとつきりが点されていて、夜なのか朝なのかもわからない。半日も葉子を縛っていた縄がほどかれる。わずかに指先がじいんとしたが、痺れているというほどではない。縛られるなんて初めての体験だったが、師匠と呼ばれている男の縛り方は名人芸なのだろうと、葉子にも察せられた。
全裸のまま外へ連れ出された。動けないほど痛めつけられて引きずり出されるのならともかく、自分の足で立って朝の陽光の中へ出るというのは、場違いな羞ずかしさを感じてしまう。七八人の男どもが待ち受けているとなると、なおさらだった。
水道柱の前にしゃがんで、渡された歯ブラシで歯を磨き、顔を洗って手拭いで拭いた。悪夢のような虐待の中での日常的な一齣に、葉子は違和感さえ覚えた。しかし、日常はそこまでだった。
「そこで排泄しなさい」
ハイセツという言葉が意味を像(かたち)作るまで数秒を要した。言われてみると――冷たい床の上に何時間も放置されて、欲求は切迫していた。
「昼過ぎまで土蔵に閉じ込めておくからね。粗相をしたら、昨日の責めがお遊びに思えるくらいの折檻をするよ」
脅かされて、横はコンクリート床の隅にある排水口の前に、男どもに背を向けてしゃがんだ。
トルコ風呂では自分から積極的に全裸でお客に絡みついたり本番をされたり、ここへ連れて来られてからは女性器を晒したり虐められたりされて。それでも、羞恥心が鈍磨したわけではない。我慢しているだけだ。排泄にしても同じことのはずだが……尿道を閉ざしている筋肉は葉子の(消極的な)意志に従ってくれなかった。
「お願いです、ひとりにしてください。見られていると、できません」
「葉子ちゃんは、まだまだ初心だね」
師匠のではない声が近づいて。背後から抱え上げられた。大きく開脚させられて。横合いから別の男が、先を尖らせた鉛筆を股間に埋めた。指で割り広げて覗き込みながら動かした鉛筆が、尿道口をつついた。
ぶしゃああああ……
太い水流が空中に放物線を描いた。
「あああっ……いやだああ……」
排尿の快感で吐息が漏れて、後半の言葉は頭で考えて付け足していた。
葉子は下ろされて、下からホースの水を浴びせられた。紙で拭く必要は無かった。
「大きいほうは出さなくていいのかな?」
葉子は小さくうなずいた。昨日は大量の水浣腸をされて、それからご飯の一粒も口に挿れていない。それを思い出したとたんに、グウウと腹が鳴った。
「うむ。元気があってよろしい」
なにが元気なものか。今すぐ入院させてほしいくらいだ。
土蔵へ連れ戻されて。床に丼と箸がじかに置かれた。茶碗二杯分ほどのご飯に、魚のアラを具にした味噌汁がぶっかけてあった。
土蔵の扉が軋みながら閉ざされると同時に、葉子が丼を持ち上げようとして――腕に力がはいらないと知った。やはり、緊縛の後遺症だろう。どうにか両手で抱えて、丼にかぶりついたのだった。
――腹がくちくなって、股間の痛みもむず痒いような疼きにまで落ち着いてくると、葉子は暇を持て余すようになった。昨夜と同じd、昔のことも今のことも考えたくはない。男どもは元気がどうこうとしきりに言っていた。きっと、昼からは昨日以上に非道いことをされるのだろう。すこしでも身体を労わっておこうと、ごちゃごちゃ置かれた品々(主として拷問用具)の中から毛布を見つけて。それにくるまって身を横たえると――昨夜よりはすこしだけ安らかな眠りへと落ち込んでいった。
今度は、扉の開く音で目が覚めた。すべての電球が点されて、二十人ほどが葉子を取り囲んだ。全員の顔を覚えているわけではないが、昨日は見掛けなかった顔が半分くらいは混ざっていた。
三メートル余の梯子が引き出されて、浅い角度で壁に立て掛けられた。梯子と葉子は判別したが、高所への登り降りに使う物ではないらしい。踏み段がが途中で二つ分ほど抜かれている。脚の部分には大きな金具が付け足されていて、壁から延びた鎖につながれると、三十度よりも浅い水平に近い角度で固定された。
葉子は毛布を剥ぎ取られて、梯子の上に寝かされた。踏み棒をはずした部分に、すっぽりと尻が嵌り込んだ。手足を引き伸ばされて、両手は揃えて縛られ、足は開かされて左右の縦桟に括りつけられた。
長机が運ばれて、そこに洋酒の壜とグラスが置かれた。透明な酒がグラスにたっぷり注がれて、それを師匠が口にふくむ。
葉子は唇を重ねられて、洋酒を口移しで飲まされた。父が飲んでいたウヰスキーやワインを、ひと口だけ舐めさせてもらこともたまにはあったけれど、そのどれよりも甘く、するすると喉を通った。
「これはシェリー酒といって、白ワインに媚薬を混ぜたものだよ。媚薬、わかるね。女性をエッチな気分にさせる薬だ。だから、これからキミがどんなに乱れても、それは媚薬のせいだからね」
二か月ほど前に、性的にまだ青いヌードモデルの鈴蘭を陥落させたときと同じ口説だった。
壜とグラスが片付けられて、代わりにさまざまな小道具が並べられる。大小の筆は十数本ずつ。ペンキを塗る刷毛や付けペンもも半ダースほど。ピンセットや小さなペンチもあった。そして、大小各種の擂粉木。樹皮を残した物もあれば、怒張した男根そっくりの形をした物もあった。ディルドという英語はもちろん、葉子は張形という言葉も知らなかった。
そういった雑貨に混じって、昨日葉子をさんざんに苦しめた猛獣使いの鞭もあった。もしかすると、蠅叩きのような道具も同じ目的に使われるのかもしれない。さいわいにワニグチクリップは見当たらなかったが、洗濯バサミがザララッとぶちまけられた。
最後に丸椅子が六つ、梯子の両側に並べられた。
師匠は椅子に座らず、開脚した葉子の膝のあたりにある踏み段に腰を下ろした。両手に太い筆を握っている。あらかじめ分担を決めてあったと見えて、相談もジャンケンもせずに六つの丸椅子が埋まった。六人とも、筆や刷毛をひとつずつ手にしている。
「では、調教を始めるとしましょう」
師匠が腕を伸ばして、二つの筆を太腿の内側に這わせた。葉子の頭側に座っている二人が筆を左右の腋下を、つぎの二人は乳房をくすぐり始めた。いちばん師匠に近い側の二人は大きな刷毛を梯子の下へまわして、尻をくすぐる。
「きゃああっ……やめてえ。くすぐった……きひいい……ひゃああん」
八か所を同時にくすぐられて、葉子は悲鳴とも矯正ともつかぬ甲高い声で叫んだ。
「やだ……きゃひゃああっ……やめて、やめて!」
ふだんなら腋の下がもっともくすぐったく感じるのだろうが――鉄枷の針で穴だらけにされた乳房の傷がかさぶたになっていて、すこし痛いが圧倒的にくすぐったい。
筆と刷毛の動きが、ますます早く大きくなる。しかし、女の急所を巧みに避けていた。乳房の上で円を描き、渦巻のように乳首へ近づけていって、あと一センチのところで一直線に麓へ走らせる。太腿から鼠蹊部へとジグザグに動いた筆は、鞭痕が残る大淫唇の縁を撫で上げるが、やはり頂点の手前で引き返す。そこも、鞭痕が甘く疼いた。
「きゃはは……あああっ……いや、いやあ……んん」
嬌声が甘く蕩け始めた。くすぐったさが引いて、もどかしいような快感が潮のように押し寄せてきた。
師匠がうなずくと、全身をくすぐっていた筆と刷毛とが一斉に引かれた。後ろに控えていた連中が、鞭や蠅叩きを裸身に叩きつけた。
パッシイン!
バシ!
バヂッ……!
「きゃああああっ……!」
快楽の登り道から突き落とされて、しかし悲鳴は昨日の鞭打ちに比べればはるかに嫋やかで凄惨の色は薄かった。
ふたたび、葉子の全身がくすぐられる。今度は急所に集中している。左右の乳首に一本ずつと乳房の基底部にも一本ずつ。クリトリスは師匠が片手で下腹部側から皮を引っ張って実核を露出させ細い筆で裏側を撫で上げ、尻を受け持っている男のひとりは刷毛を縦にして淫裂を掘り下げ、もうひとりは太い筆で尻穴をくすぐっている。
「うああああっ……やめ、やめてええええっ!」
鞭打たれたときよりも悲鳴は切迫している。
筆と刷毛とは容赦なく快感を裸身に刷り込んでいく。
「やっだ、やだああっ……おかしくなっちゃう! いや、こんなのいやあ!」
しかし。師匠の合図で一斉に筆が引かれると。
「あああっ……やめないでえ!」
筆に替わって洗濯バサミが乳首とクリトリスを咬んだ。
「ひいいいっ……痛い……くううううう」
快感と苦痛を交互に与えられて、葉子は惑乱している。いや、相反するふたつの間隔が綯い混ざって――歪な快感に止揚されようとしていた。
太い革紐を何本も束ねたバラ鞭が、乳房と股間を襲う。
バチイッ……!
洗濯バサミが弾け飛ぶ。
「ぎびいいいっ……!」
梯子に縛りつけられた葉子の裸身が反り返った。そのまま激しく痙攣して、ドサッと背中を梯子に打ちつけた。
「逝きましたかね」
「逝きましたな」
「では、徹底的に味を教え込んでやりましょう」
筆と刷毛の快楽責めが繰り返される。樹皮を残した太い擂粉木が女芯に突き立てられる。
「がはあああっ……いやあああ!」
しかし、痛いとは訴えない。
男根を模した擂粉木が尻穴をえぐった。
「熱い熱い……熱いいいいいい!」
男どもの耳には「良い良い良い」としか聞こえない。
前後の擂粉木が抽挿を開始した。筆は三本に減った。師匠は乾いた太い筆に取り換えて、クリトリスをくすぐるのではなく擦りあげている。
「うああああっ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……駄目めえええええ!!」
葉子が断末魔の咆哮を迸らせた。手足を拘束された裸身を激しく痙攣させている。
女芯の擂粉木が引き抜かれた。筆と刷毛も引き下がる。
「やだ、抜かないで……やめないで」
うわごとのような訴えは、すぐに叶えられた。擂粉木に替わって本物が突き立てられた。といっても、コンドームは装着されていたが。
「ああああっ……い゙い゙い゙い゙い゙っ……」
絶頂の極みでの媾合。挿入も抽挿も、身体をまさぐる男の手も、すべてが快楽を膨らませてくれた。
「いきますよ」
師匠の声が聞こえた直後に、男の腰がぐううっと押しつけられてきて乳房への刺激が消え失せた。
ひゅんっ、バッチャアンンン!
バラ鞭が真上から乳房に叩きつけられた。
「ぐぼお゙お゙お゙お゙お゙っ……!!」
激痛への叫びなのか喜悦なのか、もし冷静だったとしても葉子自身にもわからなかっただろう。
「うおおお……締まる」
男も呻いた。
ひゅんっ、バッチャアンンン!
「うがあああっ……弾ける!」
葉子が男の腰を押し返すように身体をのけぞらせた。その動きが怒張をしごきあげて。
「うおおおおっ……」
男も絶頂を吐き出した。
男が身を引くと、葉子に催促されるまでもなく次の男が梯子(と葉子)をまたいだ。
「鞭の味を覚えましたかな」
「いや、まだまだ。一日に詰め込むのは無理でしょう。日を空けて何回も繰り返せば馴致できるでしょうが……僕にも、そこまでの経験はないですね」
「わしらも、財布がもたんわ」
たははは――と、乾いた笑いが起きた。
「うがあああっ……弾ける!」
ひゅんっ、バッシイン!
葉子の獰猛な吼え声と鞭の音か交互に土蔵に響いて、今日は十六人の参加者全員が腰を軽くするまで狂艶は続けられたのだった。
――葉子は梯子に縛りつけられ、自身の分泌物と血液とで下半身がどろどろに汚れたまま、またひとり土蔵に取り残された。
葉子は目を閉じて雲間を漂っている。腰は蕩けて、鞭打たれた乳房の疼痛もむしろ快感を先鋭にしていた。
ここまでで、やっと半分。明日の昼までに、自分はどうなっているのだろう。明後日から出勤なんて、とても無理。また罰金が増える。そんな思いも頭を掠めるが、実のところ、どうでもいいことだった。辱められた嬲り者にされたという思いはあるけれど、だからこその快楽だった。いや、快く楽しいのではい。法悦――それだった。こんな目になら、喜んで何度でも遭わされたい。こうなるのが運命だったとしたら、なんてすばらしい運命なんだろうとさえ思った。
しかし、法悦のつぎに待っていたのは痛辱だった。今の葉子にとっては、地獄とまでは思わないとしても。
二時間ほどで男どもは戻ってきた。昼間から酒盛りでもないだろうから、案外と葉子に余韻の愉しませるのが目的だったのかもしれない。あるいは、体力の回復。
葉子は梯子から解放されて、すぐに巻き揚げ装置を使って吊るされた。両手首はひとまとめに括られて、足首に別々に巻かれた縄は左右に引っ張られて、屋根を支える役には立っていそうにない柱につながれた。
「今度はゲームをしよう」
師匠が葉子に語りかける。
「これから、キミを鞭で敲く。最後まで声を出さなければ、十発でおしまいにしてあげよう。呻き声くらいはいいことにする。だけど、悲鳴はもちろん声をあげて泣くのも駄目だ。そのときは、残った数に十発を追加してやり直す。七発目で叫んだら、残り三発に十発を足して十三発ということになる。いいね」
いいも悪いも、男どもの思うがままにされるしかない。葉子は黙ってうなだれた。
それを師匠は敢えて曲解したのだろう。双つの乳房をつかんで、内側へきつくねじった。
「この期に及んでも強情だね。すこしは手加減してあげようという仏心が鬼心に変じるというものだよ」
師匠が後ろに下がって、上半身裸の若い男が葉子の前に立った。猛獣使いの鞭を手にしている。
「おとなしくしていれば、たった十発で済むからな」
言葉でも嬲られている。女芯に打ち込まれた一発ずつの激痛は、まだ葉子の記憶に忌まわしいまでに鮮明だった。布切れを詰め込まれた上にサルグツワを噛まされても、大声で喚いた。最初の一発で絶叫するに決まっている。
男が鞭を真横に振りかぶった。
いきなり股間を鞭打たれるのではなさそうだと、わずかに安堵した葉子だったが。
バヂイイン!
「(あ)ぐ……」
乳房を水平に薙ぎ払われて、葉子は叫び声をかろうじて飲み込んだ。乳房そのものが女の急所だ。しかも、昨日の拷問椅子で針穴だらけにされている。乳房全体が爆発したような激痛だった。
バヂイイン!
「くっ……」
ふたたび乳房が爆発して。葉子は気力を振り絞って悲鳴を封じた。
「うん。なかなか愉しませてくれるな」
鞭を持つ男の手が、だらりと垂れた。
葉子は男の意図を悟って――肺の底から絞り出すようにして息を吐いた。
ビュッシュウウン!
鞭が女芯に叩きつけられた。鞭の胴部が女芯に食い込んで内側をこすり抜け、先端がクリトリスを弾いた。
「…………!!」
葉子は大きく口を開けたが、悲鳴となるべき空気は肺の中に残っていない。
女芯への二発目も同じようにして、激痛に激しく身悶えしたが悲鳴だけは漏らさなかった。これで四発。もしかすると耐え抜けるかもしれないと、葉子は一縷の望みを(無理にでも)見い出そうとする。
「ふうむ?」
男が葉子の背後へまわった。
葉子は首をねじって、男の姿を追った。男が腕を横から後ろへ引くのを見て、安堵の深呼吸をした。
ぶうん、バヂイイイン!
痛覚と灼熱感が双臀をひと筋に走り抜けた。葉子は息を詰めるだけで耐えた。
つぎも、同じようにして鞭が水平に宙を奔って――しかし、肌に当たる直前で葉子の視界から消えた。男が途中から腕を振り下げて鞭の先に床を叩かせ、そこから手首のスナップを利かせて跳ね上げた結果だった。
バッジュイイン!
鞭の胴部が肛門に叩きつけられ、跳ねた先端が女芯をしたたかにえぐった。
「(きゃ)かはっ………………」
悲鳴が像作られる前に、葉子は大きく口を開けて息を吐き切った。
「はあ……はあ……」
ビシュウンンン
脇腹を打った鞭がそのまま腹に巻き付き、肌をこすって引き戻される。
葉子の視界の隅に、別の男が背後へ動いたのが映った。竹刀を持っている。
ビシュウンンン
今度は腋下を鞭打たれて、乳房に巻き付く。と同時に。
パシイン!
竹刀で股間を斬り上げられた。
「(がは)っ…………!」
もし二人目の男に気づいていなかったら、今度こそ悲鳴をこらえきれなかっただろ。
「ふうん。これで九発か。頑張るね」
葉子の斜め前に立っている師匠が、別の男に目配せをした。
「キミの健闘を称えて勲章を授与しよう」
うながされた会員が、洗濯バサミを持って葉子に近づいた。二人の男が両側から葉子の肩と腰を押さえ、乳房をきつく握って乳首を絞り出す。
「ヒョー、ショー、ジョー」
大相撲で賞状を授与する外人の声帯模写をしてから、正面の男が乳首に洗濯バサミを噛ませた。
「くうう……」
ワニグチクリップの激痛まで経験させられた葉子は、洗濯バサミで乳房を圧し潰されるくらいでは悲鳴に値しない。けれど、男のふざけた態度に反発を覚えた。もっと真剣に嬲ってもらいたい。そんな思いが頭をよぎったせいもあって。
「ターンタタ、ターン。タタタタ、タ、タ、ターン」
運動会の賞状授与式などで御馴染の曲を口ずさみながら男が両乳首の洗濯バサミを弾き始めたときは、痛みよりも怒りが先に立った。
「まだ鞭は一発残っているはずです。ふざけてないで、さっさと終わらせてください」
「あーあ」
数人が嬉しそうに溜息をついてみせた。
「これで、あと十一発になったね」
洗濯バサミを弾いていた男が、葉子に告げた。
「え……どういうことですか?」
十一発だろうと百一発だろうと、男どもが満足するまで虐められ続けるのだとは諦めていたけれど――どうにも釈然としない。
「言ったはずだよ。十発の鞭打ちが終わるまでずっと声を出すなと。まだ九発だ」
「あああっ……?!」
罠に嵌められたと、葉子は悟った。
「非道い。こんな茶番劇なんかしなくても、好きなだけ叩けばいいじゃないですか」
師匠という男を、葉子は詰った。
師匠がわざとらしく唇の端を吊り上げた、
「皆さんも聞きましたね。望み通りにしてやろうじゃありませんか」
最初からそういう筋書きになっていたのだろう。誰も喝采しないし葉子を庇いもしない。
「ハツミ以来のデスマッチですな」
「いや、今回は鞭打ちに限ってですから。サンドバッグも半田ゴテも溺れ責めも無し。そうですね、師匠」
「当然です。この子は、すぐにでもトルコで客を取るのですからね」
「そりゃあ無理筋だよ。三日は寝込むんじゃないか」
「とはいえ――内藤病院に迷惑を掛けない範囲に手加減しておきますか」
そうか。これまでよりずっと酷い目に遭わされるけど、大怪我まではさせられずに済む。会話を聞いていて、葉子はそう解釈した。もしかすると、私を怖がらせる(と同時に安心させる)ために、わざとしゃべっているのかもしれない――この連中のやり口が、すこしはわかってきた。
「では……おっと、忘れていましたね。まだ金鵄勲章を授与していません」
「せっかくだから、金属のクチバシ――金嘴勲章にしてやりましょう」
勲章授与役(?)の男がワニグチクリップを持って来て、葉子の正面にしゃがんだ。
葉子は諦めの息を吐き切ってから、全身を硬直させた。
昨日とは違って、ワニグチクリップは包皮ごと肉蕾を咥え込んだ。
「いいいっ……」
葉子は短く呻いただけだった。もちろん、絶叫していてもおかしくない鋭い痛みだったが――剥き出しの実核に噛みつかれる地獄の激痛に比べれば、まだしも耐えられた。だんだんと痛みに馴れさせられているとは、葉子自身にも体感できた。
もちろん。金嘴勲章が手加減されたのには理由があったのだが。
紺などは四人が葉子を囲んだ。猛獣使いの鞭、重厚なバラ鞭、竹刀、細竹で大きなハート形に作られた布団タタキ。得物はそれぞれに異なっている。
「では、無制限四本勝負――始め」
師匠の声と同時に、四本の責め具が葉子の傷ついた裸身に叩きつけられた。
バッシイン! 布団タタキが尻をひしゃげさせる。
ビッシイン! 一本鞭が乳房を薙ぎ払う。
ズンッ……… 竹刀が鳩尾を(軽く)突く。
バッヂャン! バラ鞭が股間を撫で上げる。
「ぎゃがあ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
これまでにない凄絶な咆哮が葉子の喉を震わせた。のも、無理はなかった。ワニグチクリップに咬まれたクリトリスを、したたかに鞭打たれたので。洗濯バサミだったら吹き飛んでいただろう。しかし、皮膚に食い込んだ金属の嘴はそこに留まり続けている。
二度三度と、同じ得物が同じ部位に叩きつけられ、そのたびに葉子は吠えた。
「ぎびひいいっ!」
四発目で右の洗濯バサミが一本鞭の直撃で毟り取られた。ワニグチクリップは、女のもっとも敏感な部位を咬み続け、血で赤く染まっている。
六発目で左の洗濯バサミも毟り取られた。
「……もう……赦してください」
いっそう男どもの嗜虐をあおる結果を招くとは理解しながら、それでも葉子は哀願せずにはいられなかった。
「どうしましょうか?」
バラ鞭を振るっていた男が、師匠を振り返った。
葉子は激痛に呻吟しながら、会話を聞き漏らすまいと気力を振り絞っている。
「ひとつだけ願いを聞き届けてやりましょう」
師匠は葉子に後ろから抱きついて、左手で乳房を鷲掴みにしながら、右手でワニグチクリップをこねくり、いっそうの悲鳴を絞り出させた。
「この金嘴勲章を取ってほしいのかな?」
「はい……お願いですから、これだけは赦してください」
訴える葉子の声は掠れていた。クリトリスの激痛さえ勘弁してもらえるなら、拷問椅子に座らされてもいい。駿河問でぶん回されながら鞭で叩かれても我慢する。もちろん、自分からそんな交換条件は持ち出さないだけの分別は残していたが。
師匠は何も言わずにワニグチクリップを外してくれた。じいんと痺れが切れた感覚と、甦った血流でどくんどくんと疼く痛みとが――むしろ葉子に安らぎをもたらしてくれた。
チャリチャリチャリ……吊っていた鎖が緩められて、葉子は床に倒れ伏した。足を左右に引っ張っていた縄もほどかれた。
(終わったんだ……)
しかし、安堵は束の間だった。すでにリボンは取れて崩れかけているツインテールに引っ張られて、葉子は無理強いに立たされた。垂らした手が後ろで括られた。その縄にフックが引っ掛けられて。だんだんと吊り上げられていく。
チャリチャリチャリ……腕が背中からはなれて水平になり、さらに吊り上げられていく。
チャリ……チャリ……腕が斜め上へ引き上げられるにつれて上体は前に傾いていく。
「くうう……」
「ストップ」
腕は体幹と直角を保ったまま上体が四十五度まで傾いたところで、師匠が声を掛けた。昨日と同じような布切れを葉子の口元に突きつけた。
「猿轡を噛ましてほしいかな?」
残酷な質問だった。これからどう虐められるのか、見当がつかない。けれど、慈悲を乞っても無駄なことはわかりきっている。いや。ワニグチクリップは赦してもらえたけれど、昨日の駿河問と同じくらいに厳しく吊られる結果を招いた。言葉を封じられていたほうが、余計なことを言わずに済む。けれど。また強情とか難癖をつけられて、いっそうひどく虐められるかもしれない――と、そこまで考えて。葉子は口を開けた。いっそうだなんて。葉子にしてみれば、これまでの仕打ちは比較級でなく最上級の連続だった。それに。この男は猿轡を噛ませたいのだ。男の意向に逆らう蛮勇など、とっくに無くなっていた。
昨日と同じに厳しくサルグツワで声を封じられて。
チャリ……チャリ……
さらに鎖が巻き上げられていく。
「ぐうううう……ぐうう」
肩に激痛が居座って、鎖の音とともに激しくなっていく。葉子はつま先立ちになり、さらに吊り上げられて……
「ぎいいいいいっ……」
満身創痍の裸身が宙に浮いた。じんわりと脂汗が肌をおおう。
駿河問は吊り責めの中でも一二を争う苛酷さだが。それでも肩に掛かるのは体重の半分だけだ。しかし、後ろ手を一本にまとめられて吊り上げられれば、体重のすべてが肩関節に掛かってくる。今度こそ脱臼するのではないかと、葉子は怖くなった。怖くなったという程度で済んでいるのは――脱臼しても整復できるはずと、その知識にすがっているからなのだが。脱臼したまま、さらに吊られていれば靭帯が破壊されるかもしれないとまでは思い至らない。
もっとも。肥満男性ならともかく、比較的に体重が軽く筋肉もしなやかな若い女性なら、この形で吊られてもたいがいは大丈夫だと、緊縛研究会の会員たちは心得ている。それを葉子に教えて安心させてやる親切な鬼畜などいるはずもないが。
「では、無制限……そうですね、六本勝負くらいにしましょう」
六人が互いに一メートルほどの間隔を空けて葉子を取り囲んだ。鞭や竹刀だけでなく、ズボンのベルトや縄束も加わっていた。
「そうらよっ!」
葉子の真後ろにいた男が竹刀で尻を刺突した。
ズグッ……ンン。
「いいいっ……」
身体が振り子のように揺れて、葉子は肩の激痛に呻いた。
バッチャアン!
斜め前で待ち受けていた男が、下から掬い上げるようにして乳房にバラ鞭を打ちつけた。
「ぐ……」
乳房が弾けるような痛みよりも、肩をねじられ絶え間なく変動する痛みのほうが強い。
バジイン!
振れ戻ってきた尻に、分厚いベルトが叩きつけられた。その反動で、葉子の裸身は円を描き始める。と同時にゆっくりと自転も始まった。
バッシイン!
ビシイッ!
パアン!
バッチャアン!
葉子が揺れるのに合わせて、六人が交互に鞭や竹刀やベルトを全身に叩きつける。そのたびに葉子は身悶えして、さらに振り子運動を複雑な動きにする。宙に踏みとどまろうというように、葉子が足をばたつかせる。そこを狙って。
ビッシイイン!
股間を一本鞭が割った。
「ぎびいいいっ……!」
女芯に鞭を打ち込まれて、葉子は反射的に腰を引こうとしたのだろうが、吊られているので、腿を腰に引きつけるような姿勢になった。そんな不自然な格好はすぐに崩れて、左右の足がばらばらに垂れてくる――ところへ竹刀が突き込まれて上へ擦り上げられた。
「んぶうううっ……!!」
女性器へ痛烈な一撃で、また脚を跳ね上げる。
滅多打ち、だった。傷だらけの裸身に新たな筋が刻まれ痣が広がっていく。
「うう……んぐっ……うう……びひいっ……いいい」
悲鳴なのか泣き声なのか、葉子本人んもわからなかった。涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにして。サルグツワから漏れる呻きは、叩かれる部位と叩く得物とで微妙に変化しながら、間断なく続いたのだった。
――二十人が交替しながら責めるのだから、鞭を振るい過ぎて腕が疲れるということもない。それでも三十分ほどで凄惨な無制限勝負が終わったのは――嗜虐者たちが劣情をつのらせた結果だった。
床に転がされた葉子を、昨日のように磔に掛ける手間も省いて、男どもは一人ずつ交代で犯した。意識朦朧としている女には、口淫を強制するのは難しかった。といって、前後を同時にというのも形としては興奮するのだが、案外と具合が良くない。
二時間以上をかけて、ようやく陵辱はひと巡りした。しかし、葉子への残虐はまだ終わらなかった。両手別々にして、開脚を強いることもなく足の裏が床から浮かない程度まで吊り上げてから、まだ嗜虐を満足させていない数人が葉子の『治療』にとりかかった。
大きな刷毛で全身に薬用アルコールを塗りたくり、バスタオルで拭き取る。白いタオル地がピンク色に染まった。
「んんんん……?」
半ば失神していた葉子だったが、鞭とは違って無数の針が突き刺さるような痛みに、意識が戻ってくる。丼にくすんだ黄色い液体が注がれるのを見て、ぶるっと身体を震わせた。かすかな薬品臭から、それがなんであるか、男どもがそれをどうするつもりなのかは明確だった。
擦り傷の特効薬と当時は信じられていたヨードチンキ液。男の子でも低学年なら泣き叫ぶほどに沁みる。そして、女芯の内側は膝頭の百倍も万倍も敏感なのだ。
葉子の膝が小刻みに震えた。つまり、それだけ体重が脚に残っている。滅多打ちにされていたときよりは、思考も取り戻している。もしかすると、今日はこれで赦してもらえるかもしれないという、かすかな希望があった。まだ虐め続けるつもりなら、傷薬を塗ったりはしないだろう。
だから。肌に突き刺さった針で皮膚の裏側を掻き回されるような鋭い痛みにも、歯を食い縛って耐えた。耐えられなくても、耐えさせられる。激しく振り回されったかれていたときは阿鼻叫喚だったが、今は不気味なくらい静かだ。呻き声がこの鬼畜どもの劣情を呼び戻すのではないかと、それを恐れてもいた。
「うううう……いいい……」
それでも、歯の隙間から苦悶が押し出される。
薬品の作用で、全身が燃え上がるように感じられた。ことにヨードチンキを塗り込められた内側では、炎の暴風が荒れ狂っていた。
そうして。全身を真っ黄色に塗りたくられて。吊られたままだったが、サルグツワはほどいてもらえた。
男たちが土蔵から出ていく。師匠が最後に明かりをすべて消して。
「まだすこし早いが――ぐっすり、お休み」
葉子はひとり、闇の中に放置された。
安堵で気が遠くなった。ヨードチンキの痛みはもう薄れかけている。打ち身も鞭傷もじゅうぶんに痛いけれど、とにかく二日目が終わったのだ。足が床に着いているから、吊られていてもそんなに苦しくはない。三角木馬の上よりも、ずっと安逸に身を休められる。
肉体は消耗しきって、心もズタズタに引き裂かれて。それでも葉子は悪夢すら見ない泥のような眠りに引き込まれていったのだった。
――三日目は、朝早くから自然と目が覚めた。もう半日は昨日までと同じように虐められるけれど、それでこの地獄からは開放される。男に身体を売るトルコ嬢としての生活が、今では一家四人の団欒と同じくらいに幸せな境遇に思える。
こんな目に遭ったのも、結局はお金のせいだ上納金は、ヤクザなのだから仕方がないのだろうけれど。前もって相談してくれていたら、もっと別の方法もあったと思う。いきなり前借に行った勝雄がいちばんの戦犯だけど、そうさせたのは自分だと――葉子は思わないでもない。もっと勝雄に心を開いていたら、彼だって何かと相談してくれただろう。すくなくともトルコ嬢を続けているあいだは勝雄に監視――それが、いけない。名目上の夫に過ぎないし、私の稼ぎに寄生しているヒモだし、監視役だし。それは事実にしても、もっと打ち解けて、甘えて――いや、彼の生活を支えてやって、ヤクザとしての面目を保てるようにお金の面倒もみてあげて。ゆくゆくは、彼を尻の下に敷くぐらいの気構えで臨んでみよう。そのためには、うんと稼がなくちゃ。
地獄に墜ちて二か月。ようやく葉子は、自分に課された運命をまっすぐに切り開いていく性根が座ったというべきだろう。
扉が軋みながら開いて、朝の鮮やかな光が土蔵を満たす。
はいってきたのは、師匠を含めて三人だけだった。葉子は拍子抜けした思いだった。それとも、外で嬲られるのだろうか。
吊りから下ろされて、白いタオル地のバスローブを与えられた。庶民としては裕福なほうだった瀬田家でも、そんな物は使わない。洋画のヒロイン(せいぜい脇役?)になった気分を一瞬だけ味わった。どうせ、虐められるときは素裸に剥かれる。
葉子は両側から支えられて裏口から母屋へ引き入れられ、風呂場へ連れて行かれた。
「湯はぬるめにしてある。身体の汚れを落としなさい」
「あの……もう虐めないんですか?」
綺麗になったところで気分一新、新しい鞭傷を刻んであげよう。そんな答えを予測していたのに。
「プレイは、もうおしまいだ。迎えが来るまで足田を休めていなさい。自分の足で歩いて帰れるようにしてあげるというのが、最初の約束だからね」
「ありがとうございます」
言葉だけでなく頭を下げてから。自分をこんなふうにした張本人に向かって素直に心の底からお礼を述べている自分を不思議に思わないでもなかった。
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
三人の男の目の前で、葉子はバスローブを脱いだ。トルコ風呂で客に見られながら制服を脱ぐときほどにも羞ずかしくはなかった。
踊時代からそのままだと言われても納得するくらいに古びた屋敷の中で、風呂場は場違いなくらいにモダンで広々としていた。風呂釜がガス湯沸かしになっているのはもちろんだが、洗い場にはシャワーもあった。
ヨードチンキで真っ黄色なまま浴槽に浸かるのは、もちろんエチケット違反だ。シャワーで温水を浴びながら、備え付けのスポンジに液体石鹸を染ませてそっと身体をこすった。仕事のときはもっと泡立てて全身を泡まみれにするのだけれど、そういう思いは頭の奥へ追いやった。
カラカラと磨ガラスの扉が開いて。裸になった三人がはいってきた。
葉子はうんざりも怯えもしなかった。正直に言うと、筆に引き出された凄絶で淫らな感覚を思い出して――ちょっぴりだけ胸がときめいた。
「背中は自分で洗えないだろ」
師匠よりも年配の男が新しいスポンジを手にして、正面から葉子に抱きついた。
それくらいで驚いたり羞ずかしがったりする葉子ではない。トルコ風呂で男の背中を洗うときと、同じ形だ。座っているの相手の膝に乗らないだけ、おとなしい。
「俺は、こっちを洗ってやるよ」
若い男が後ろにまわって、スポンジを股間に潜らせた。
「ああん……そこ、すごく痛いから優しくしてください」
これはSMとかいう淫虐な行為ではなくて、女体をエロチックに弄ぶという葉子にも理解できる遊びだった。だから、痛いのは嘘ではないけれどサービスのつもりだった。
「そうか。スポンジでは手加減がわからないから手で洗ってあげよう」
むしろスポンジよりがさつに掌が股間を包み、指が淫裂を穿った。
「く……」
痛いと感じるのを、葉子は不思議に思う。鞭を叩きつけられたり凸凹の擂粉木を突っ込まれたり三角木馬の稜線で切り裂かれたときの想像を絶するまでの激痛に比べれば、傷口を指でこすられるくらいは、くすぐられるも同然のはずなのに。心の持ち方なのだろうか。叩かれる非道い目に遭わされると覚悟しているときと、男の淫らな欲望に答えようとしているときとの、心構えの違い。
しかし、そんな疑問に耽っている場合ではなおと、葉子はわきまえていう。
「く……ううん」
苦痛の呻きを意識して甘く鼻へ抜けさせた。腰を控えめにくねらせて、快感を装った。性的に弄ばれ性的に奉仕する。それは、この二か月で葉子が(不本意ながら)身に着けてきたトルコ嬢としての振る舞いだった。
俄然、指の動きが激しくなった。中指と薬指とで女穴をこねくられ、人差し指でクリトリスを転がされ、親指で尻穴を圧迫される。
「いやあああ……おかしくなっちゃう」
まったくの演技、でもなかった。トルコ嬢としての務めを果たしていたときと同様、こういうことをされているしているという嫌悪はあるけれど、クリトリスがじんじんと痺れ、腰の奥が熱く疼いてくるのも事実だった。今は、そこに傷口をえぐられる痛みが重なっているが――快感を掻き消すほどではない。むしろ、快感に奥深い陰影を刻んでいた。
年配の男もスポンジを放り出して、素手で乳房をこねくっている。こねくりながら、思い出したように乳首をつまんだり指の腹で転がしたり。そのたびに、これも痛覚にまぶされた快感が乳房を痺れさせた。
半ば演技で半ば本気で喘ぎながら。女を虐めて悦ぶ変態性欲者でも、ふつうに(?)女性と遊べるのだと、葉子は認識を新たにした。
「この調子では、互いに埒を明けないことには収まりそうもないですね」
師匠が提案して。三人の男が並んで床に寝転がった。
「これまでさんざんにキミを嬲ってきたからね。今日は仕返しをさせてあげよう」
嗤いを含んだ言葉の意味は――仰臥した三人の肉体が亠(なべぶた)の形になっているのを見れば歴然だった。仕返しなどと言いながら、縛ったり叩いたりするのとは違うやり方で女に恥辱を与えようとしている。
逆らえば土蔵へ連れ戻されるだろう。葉子は黙って、まん中に寝ている師匠の身体を跨いだ。が、考え直した。男どもにおもねったのだが、こういう職業意識がこれまでの自分には欠けていたのかもしれないと思い当たるところもあった。
「お言葉に甘えさせていただきます」
あくまでも自分の意志でそうしている形を作り、葉子は腰を沈めて怒張を女芯に咥え挿れた。ささやかな仕返しのつもりで師匠の肩に両手を突いて、膝の屈伸を繰り返した。
「ふうむ。やはりキミはノン気だね。コイツスとなると、実に積極的だ」
コイツスというのがセックスと同じ意味だと、葉子は覚えている。
「だって……私、トルコ嬢ですもの」
清純な女学生だけど男性に性的な献身をする――店名の『献身女学院』にふさわしい物言いを意識して答えた。
「それに……ああっ、あああん……こういうの、好き」
縛られたり叩かれたりするよりずっとまし――と露骨に言えば不興を買うだろうという懸念が、そういう言い方をさせた。それに、痛めつけられた女性器でも、性交の快感はあった。好きで仕方ないとか、痛いのを我慢して快感を追求するとかではないが、痛みをやわらげる程度の快感だった。
「ああっ……いい。浮いちゃう……あああん」
演技を続けながら、葉子は意識して肛門を引き締め、腰を前後左右に激しく揺すった。その甲斐あって。
「いいぞ、その調子……出すぞ」
それほど苦痛(と、わずかな快楽)を長引かせずに、葉子は三人を処理を終えたのだった。
「ふむ。うら若き職業婦人に花を持たせておくとするか」
ペチンと尻を叩いて、師匠は風呂場から出て行った。
演技を見抜かれた――と、葉子も悟った。葉子は知らないことだが。会員の話の中に出てきた、彼女と同い年のヌードモデル嬢をアクメの極地に追い詰めて、モデル斡旋会社と不利な契約を結ばせた男には、稚拙な演技などお見通しだったのだ。
しかし。それを理由に新たな折檻を加えようとしないのは、あと数時間で彼女を開放しなければならないのが一番の理由だろうが。飴と鞭のように責めの合間に見せた偽りの優しさとは根本的に異なるいたわりを、葉子は男の中に見たように思った。
もしもお客の中からこういった心情を引き出せれば、トルコ嬢としての日々ももっと楽に、そしてお金もたくさん稼げるようになるのではなかろうか。そんなことを考えながら、だだっ広い浴槽の中でぬるめの湯にのんびりと浸かる葉子だった。
葉子が土蔵に拉致されたのは土曜日の昼だった。今日は月曜日。二十人で割勘にしても一人当たり七千五百円も『趣味』にお金を投じられる連中だが、やはり平日はそれなりに忙しいのだろう。三人と入れ替わりに葉子を嬲りに来る男はいなかった。
風呂を出て、真新しいバスローブを素肌にまとって(着てきた制服に着替えることまでは許してくれなかった)、土蔵に戻されて。パンと炒り卵とサラダの朝食を食べさせてもらった。それを運んでくれたのは、三人とは別の男だった。この大きな屋敷に住んでいるのは師匠という男ひとりでは、まさかないだろうが、家人も使用人も、一人も見ていない。この催しにそなえて追い出しているのだろうかとも、葉子は疑った。炒り卵は焦げっぽいし、野菜は男手を思わせるさく切りだった。もちろん、まともな人の目に晒されるよりは、ずっと気が楽だが。
食事の後は、風呂場の三人とは違う四人のまともでない男たちの相手をさせられた。といっても。また風呂場へ連れ込まれて、トルコ嬢としての仕事をさせられただけだったから、つらくも惨めでもなかった――と気づいて、葉子は複雑な気持ちになった。これまでは、トルコ嬢であることそのものが、その仕事が、つらくて惨めに感じていたのだから。
――正午きっかりに葉子を迎えに来たのは、兄貴分ではなく勝雄だった。
「俺のせいで、とんだ苦労をさせてごめんな」
勝雄はいきなり葉子を抱き締めた。
「おやおや。新婚さんはお熱いね」
まだ残っていた数人の半畳は無視して、勝雄は葉子の機嫌を取ろうとする。
「でも、わりと元気そうでホッとしたぜ」
葉子は身を振りほどいて、バスローブをはだけた。縄の痣こそ消えてはいるが、まだ無数の針跡が残る乳房も鞭痕だらけの下半身も、勝雄の目に曝した。
「酷い目に遭わせてすまない」
あまり心がこもっていないように聞こえた。つまりは、葉子を『自分の女』として親身に思っていないのか、ヤクザならこれくらいのリンチは日常茶飯なのか。勝雄を自分になびかせようという今朝方の決心が、早くも揺らぎ始めるのだった。
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ここから、ちょこっとトルコ嬢としての平凡な日々が続いて。
売春で摘発されて。亭主が身元引受人になるものの。
「勾留期限の48時間後に引取りに行きます。それまでは煮て食おうと焼いて食おうと」
ヒロイン自身が賄賂にされて……また尺が伸びて。
SMアルバイトよりも深く絶望して、売春地獄に墜ちていく。
悲惨エンドの予定です。
3連複的中:無料公開
わざと、紛らわしいタイトルにしています。
SFMagazine
SMFantasy
3連勝複式的中でしょ?
筆者は、理由はそれぞれ違えどPNをいろいろと変えてきました。
野波(NOVA)恒夫→東野苑明→姫久寿子→藤間慎三→風鴇能太⇒濠門長恭
小さいPNは1作のみ。
野波(NOVA)恒夫だけがSF書きとしてのものです。高校時代に学内同人誌『未知数』に現代詩(ぽい何か)を発表して以来の、全年齢作品を書くときのPNです。その後の変遷はSM小説書きとしてのもので、変えた事情は割愛。
その。現実存在としての筆者の虚構としての健全作品群です。
今となっては墓碑銘です。
最終核戦争とかマザーコンピュータ―とか、前世紀のギミック氾濫です。
そんじょそこらのSFもどきラノベとは比べものにならないほど……面白くないですねえ。
しかし。世界設定が面倒いから異世界に転移させちゃえなんて安直な作りではありません。当時の筆者としての全知全能を注入した緻密な世界構築、疑似科学的考証の整合性。そして、全作品を通底するテーマの普遍性。
墓碑銘であると同時に、変奏曲を奏でる前の原曲ともいうべき作品群です。
というわけで。
ごめんさい。PDT(アメリカ太平洋サマータイム)との換算ミスがありました。
5/1夕方(16時?)~5/6夕方
KINDLEにて無料キャンペーンです。
野波恒夫作品はこちら→
よろしければ(蹴らなくても)大容量の記憶装置の片隅にでも落としてやってくださいませ。
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