Progress Report:02 海女と鮑と褌と



 どうにもキーボードが進みません(歩くんかい?)。
 ここしばらく、過去作を引き合いに出したり絡ませたり。今回にいたっては『ピンク海女』の5年後です。まるきり違う物が書きたいという欲求が高じて、先に本棚だけ改装したり。これだけ、先の予定分まで載せてしまえば、書かざるを得ません。
 それは、ともかく。責めがマンネリ化しているという反省もしきりで。今回は、こんなのを考えてみました。責めではなく『ショー』のひとつです。見た目は派手でも、責められている者にお遊びです。


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 その、午後からの情熱海女の実演は、月に数回しかないという聡美の残酷ショーとなった。
 桟橋の後ろに即席の櫓が組まれて、そこに聡美が全裸で大の字に磔けられた。彼女も永久脱毛組だった。船頭役の男二人に磯焼きの男性スタッフ三人も加わって、聡美を取り囲んでいるところに、遊覧船が接岸して百海昭彦だけが降りてくる。
「密猟者は、この女か」
 船頭から竹竿を受け取って、聡美を打ち据えた。
「あうう……」
 すでにさんざんリンチを受けているという設定なので、大仰な悲鳴はあげない。
「ごめんなさい……二度としません」
「認めるのだな」
 竹竿の先で乳房をこねくり、股間に通してしたからこじ上げる。
「認めます。二度としません……」
「当然だ。二度と盗みなどできないようにしてやる」
 折檻を早々に打ち切って、磔から下ろして、全身をぐるぐる巻きに縛り直した。
「聡美ったら、つまらなさそうな顔をしてる」
 男たちの後ろに並んで、否応なしに見せつけられている(という設定の)海女たちのなかで、誰かが小さくつぶやいた。麻凛の横にいる美穂子ではなかったから、聡美のマゾ性癖を知っている地元娘の千鶴か宮廷、夏ごとに出稼ぎに来ている志穂のうちの誰かだったろう。
「後ろ手に縛ってこその緊縛だものね」
 美穂子がつぶやきに同意する。
 男たちの手で、聡美は漁船に担ぎ込まれた。
「おまえたちも、掟破りがどうなるか見ておけ」
 手持無沙汰の海女全員が、遊覧船に乗り込んだ。甲板で手すりに沿って散らばる。すぐに客が寄ってきて、海女の横に並ぶ者もいれば、馴れ馴れしく背後から抱き着く者もいる。午後の客は二十人を超えている。個別参加ではなく、本来ならこういったショーを取り締まる筋の団体客だった。
 だから百海昭彦も気合を入れて、共犯者意識を植え付けようと張り切っているのだろう。
 漁船を追って遊覧船も沖合に出る。
「どうするつもりなんですか。まさか、このまま溺れさせるつもりじゃないでしょうね」
 漁船は目の前だが、アイドリングのエンジン音もあれば波音も聞こえる。漁船での会話は聞き取りにくいが、ちゃんとスピーカーが準備されていた。
「密猟のせいで、獲物が減った。だから、おまえには魚の餌になってもらおう」
「いやああっ!」
 素人芝居とは思えない迫真の金切り声だった。リアリティを増すために、あえてショーの内容を知らされていない三人のSOS参加者は、びくっと身を震わせたほどだった。
「いやああああ! やめて! もう、絶対に密猟なんかしません! 赦してえええ!」
 叫び続ける聡美の口に、大きな球が押し込まれて、バンドで頬をくびられた。ずいぶんと大きなボールギャグだし、穴が明いてないのは窒息の危険がある――すくなくとも麻凛と早苗は、そう懸念するだけの知識と経験とを持ち合わせていたのだが。
「んんんんんーっ!」
 聡美の足にコンクリートブロックが縛りつけられる。聡美は簀巻きにされた裸身をもがかせていたが、男二人に抱え上げられて、海へ放り込まれた。
「大変。どうなるのかしら」
 棒読みに近い台詞を吐いて、美穂子が海底展望室へ駆け降りる。海女も客も、その後に続く。
 潮は満ちているが、岩礁よりも島に近いので、水深はせいぜい三メートル。コンクリートブロックで海中に宙吊りにされた聡美の頭が、展望窓の横に見えている。
 エンジン音がわずかに高まって、遊覧船はカニのように横ばいで何メートル移動した。
 一分でも長く息を持たせるためか、聡美は無駄なあがきをしない。救いの手を待つように、海面を見上げている。海中で揺らめく聡美の裸身に、波で散乱した陽光がきらめく。
 ほおおっと、感嘆の吐息が麻凛の耳にも届いた。
「あ……ん」
 背後の客に乳房を揉まれて、麻凛は誘うように甘く息を吐いた。たちまち客は勢いづいて、左手で乳房をつかんだまま、右手を海女褌の横から滑り込ませてきた。海女の全員が、客から嬲られている。
 しかし。
「おい……いくら息が続くといっても、限度があるぞ」
 その言葉に応えるように。ごぼぼっと、聡美が泡を吐き出した。一度止まって、すぐによい大量の泡を吹く。聡美を投げ込んだ位置にとどまっている漁船の真横で、泡が弾けた。しかし百海昭彦は船べりから身を乗り出して箱眼鏡を悠然と眺めて、男たちになにも命じない――とは、展望室にいる者にはわからなかったのだが。
 海女の身体をまさぐっていた手が、一斉に止まった。
 聡美が激しく悶え始めた。縄から抜け出そうと身をよじり、さらに大量の泡を吐き出す。それが数分も続いて、だんだんと動きが弱々しくなり、びくんびくんと痙攣し始めた。
「おい。これは、本物の殺人だぞ!」
 誰かが叫んで、階段近くの客が甲板に駆け上がろうとした。
「ご心配なく。これは、あくまでもショーです。演じている者に生命の危険はありません」
 美穂子が大声で客を制した。
「しかし……」
 半信半疑で、展望窓を覗き込む客たち。すでに息絶えたかのように、頭を垂れて、わずかな潮の流れに揺られている裸身は、凄惨なリンチで溺死させられた犠牲者にしか見えない。
「おい……まだ、泡を吐いてるぞ」
 客のひとりが、窓に顔を押しつけて叫んだ。泡を吐くということは、どこからか空気を吸っている証拠だ。
「あらら、ばれてしまいましたわね」
 美穂子が、おどけた口調で応じた。
「種明かしは、これです」
 救命用具入れから、聡美に噛ませたのとそっくりなボールギャグを取り出して、口に入れる側を客のほうへ向けて見せた。歯で噛めるように段がついていて、その中心に穴が明いている。美穂子が段の部分を指で押すと、シュウッと音を立てて空気が吹き出した。
「実は、このショーは本日が初めてです。こうも簡単に見破られるようでは、もうすこし工夫が必要かもしれませんね」
「そんなことはないぞ」
 別の客から声が上がった。
「シロウトならじゅうぶんに騙せると思うな」
 建前としては、客の素性を海女は知らないことになっているのだが。こういった事柄に関してシロウトではないと明かしてしまえば、おのずと正体が知れるというものだ。
「ちょっと失礼します」
 美穂子が甲板に出て、漁船に大声で呼びかけた。
「トリックを見破られましたあ! もうおしまいにしてくださあい!」
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 観客がKとかJとかは、一切書いていません。どちらかだとしか受け取れない書き方をしていますが。

 今回は、ほんとに150枚の予定に収まりそうです。

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