Progress Report 2:昭和集団羞辱/ストリップ嬢

  しかし、まあ……とんでもないことを始めたものです。
 元は裕福な家族が借金で都落ちして、親を援けるために昔習っていたバレエを活かしてストリップ嬢になる。
 筆者のバレエの知識は、チュチュとアラベスクだけです。基礎知識が無いのでネット検索の付け焼刃もボロボロ欠けてしまいます。
 でも、まあ……小さい頃に習ってただけだから専門用語は知らないとか、アドバイスする側も、
「ほら、両手を水平にしてヒラヒラさせるやつ」とか、しのぎ切ってみせましょうぞ。
 現在は、Monkey Purposeであれこれの作品の校訂を進めています。
『未通海女哭虐』2回目完。あと1回。
『公女両辱』2回目に着手
『非国民の烙淫』A4版(40字×40行:右側綴代)に着手。
 何度校訂しても、ポロポロラルフローレンです。




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 まずは(ヒロインの)初日。見学の様子から。
 五十鈴が本名でっ華が芸名です。
 いよいよストリップ嬢としての覚悟が定まってくると、地の分でも麗華と表記します。

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 ちょうど最初の演目が終わって、舞台には幕が下りていた。満席の客席は、当然だが男性ばかりだった。
「とりあえず、通しでステージを見学してみな。それから麗華ちゃんの演出を練って、練習して――舞台に立つのは明後日からだな」
 不意に急テンポのジャズ(と、五十鈴は思った)が劇場いっぱいに流れ始めた。幕が左右に開いて。舞台の中央にリリー塚本が立っていた。客席に横向き。両脚を大きく前後に開いて膝を曲げ、両手を腰に当てて顎を反らしている。
「うわ……」
 思わず叫んで、自分で口を押えた。裏方の存在を観客に気づかれてはならないことくらい、バレエの発表会で学校の学芸会でも、教わっている。
 五十鈴が驚いたのは、リリーの舞台衣装だった。ブラウスの裾を胸元で蝶結びにして、そこから腰まで肌が見えている。そして、男物の海水パンツ(肌に密着しているので、ブルマの連想は働かなかった)みたいなものを穿いていた。足回りは膝下まで、踵の高い長靴。
 その長靴が高々と蹴り上げられて――リリーが踊り始めた。五十鈴が(洋画を含めて)見たことのない激しい動きだった。足を左右に蹴り出したかと思えば、腰を前後左右に大きく振って、ついにはその場でくるりと回転する。一見して滅茶苦茶な動きだが、急テンポの曲にぴたりと合っているのが、五十鈴にはわかった。半裸にちかい若い女性が腰をくねらすエロチックさは、理解の外だった。
 五分ほども踊ると、曲が替わった。やはり急テンポだが音量が抑えられている。リリーが踊りながら、ブラウスの裾をほどいた。ブラウスを脱いで、舞台の奥へ放った。ブラジャーは着けていなかった。ひとしきり踊ってから、今度はショートパンツを脱いだ。腰をくねらせながら落としていって、最後は足で蹴り飛ばした。残るは、絶対にズロースとは呼べない小さなパンティ一枚。
 正視できなくて、五十鈴は目をそらして。ベニヤ板で作った背景の書割はアメリカの摩天楼だと、気づいた。本格的なバレエの舞台に比べると、ずいぶんと安っぽい。
 踊りながら、ついにリリーは最後のパンティまで脱ぎ捨てた。全裸で、これまでと同じように大きく開脚したり腰を振ったり。
 そのときになって。五十鈴は、あることに気づいた。
「笑ってる……?」
 すくなくとも、羞ずかしそうな表情ではない。
「いいとこに気づいたな」
 本郷が耳元でささやいた。
「厭だけど金のために仕方なく裸を見せてるなんて風情じゃあ、客だって面白くねえわな。まあ、芸術ですって取り澄ました顔をずっと続けるって演出も『有り』だけどな」
 リリーの踊りが緩やかになった。舞台の袖から若い男が二人、ベンチを運んできて、舞台の凸型に出っ張っている部分に置いた。よく見ると、そこは円形になっていた、十センチほど高くなっていた。
 踊り疲れたといった演技で、リリーがベンチに腰掛ける。音楽はスローテンポなものに切り替わっていた。
「ま……」
 五十鈴が、また口を押えた。
 リリーは両手を広げて背もたれに掛け、うんと浅く腰かけて……両脚を直角以上に開いたのだった。
 客席の後ろのほうから何人もが舞台に近寄ってしゃがみ込んだ。円形の部分がゆっくりと回り始めた。舞台の回転につれて、男たちの頭もゆっくりと動く。
(あんな羞ずかしいこと……わたしに出来るだろうか?)
 疑問は、しかし決意に替わる。
(やらなくちゃ。パパを助けてあげる……だけじゃなく、わたし自身のためにも)
 実家の田畑を取られるにしても、五十鈴自身が身売りを余儀なくされるにしても、どちらにしても家庭は崩壊する。即日採用社の林課長が闇金融と交渉してくれたおかげで、月に一万円ずつ、七年間で借金は三分の一になる。それくらいは、実家でも生活を切り詰めればなんとかなる――はずだけど。本郷の話を聞いた限りでは、月に一万円は不可能のように思えてきた。
 その不安は、目の前で展開された光景で半減した。
「リリーっ!」
「ダンスの女王」
 掛け声とともに、円形舞台に向かって白い小さな物がいくつか放られた。
「あれが『おひねり』だ。たいがいは十円玉だが、豪儀に五十円てのもある。あれ全部で百円は固いな」
 ほんとうは、まだ早い。舞台の終わりになって腰を抜かすなよと――本郷。
 その前に、五十鈴は腰を抜かした。
 音楽が止まると同時に円形舞台の回転も止まった。リリーがすっと立ち上がって。舞台の前ぎりぎりでしゃがみ込んだのだ。こちらを見ているから、詳細な仕種まで見て取れた。大きく開脚して、右手を後ろから股間に持っていって――淫裂に添えるとV字形に開いたのだった。当然に淫唇が左右にめくれて、照明室からでも、濃い鮭肉色の内側が覗き込めた。
 顔をそむけたら、本郷に肩をつかまれた。
「麗華ちゃんも、同じことをしなくちゃならないんだよ。しっかりと見学しておきな」
 ものの三十秒もすると、リリーが立ち上がった。しかし『御開帳』が終わったのではない。三歩ほど横へ動いて、またしゃがみ込む。目の前の客たちが大きく拍手して――身を乗り出して股間を覗き込む。
 ひとりの客が舞台に上がった。
 ふつうの芝居や舞踊の公演ではあり得ないことだった。しかも、その男は――茶色くくすんだ造花で作った花輪をリリーの首に掛けた。
 リリーが、その男を抱き締めて――頬にキスをした。
「しけてやがる。一円札かよ」
 すでに新券は発行されていないが、まだまだ流通している。紙幣で作った首飾りなのだった。
「あれで、せいぜいが百円か。まあ、十円札は座長だけだがな」
 リリーが舞台の奥に下がって脱ぎ捨てた衣装を集めにかかると、さっきよりはずっと多くの『おひねり』が舞台に投げ込まれた。リリーがそれらを拾い集めてブラウスにくるんで、観客席に向かって投げキスを繰り返しながら裾へ引っ込んだ。
「な。出演料なんざ目じゃないだろ」
 皆が皆、『おひねり』をもらえるものでもない。リリーの場合は、若さとエロチックなダンスで人気を集めている。遠くから汽車で駆けつけるファンまでいた。
「エロけりゃいいかというと、そうでもない」
 下りた幕の裏では、アメリカっぽい書割が片付けられて、富士山と松の背景に替えられた。二人の男だけでは手が足りず、踊り子までが手伝っている。
 五分ほどで幕が開いた。音楽の掛からないまま、下手から武士の扮装をした着流し姿の男がゆっくりと表われた。男が舞台の三分の一ほどを歩いたとき。
「みつけたぞ、市川電蔵!」
 上手から女性の声。スポットライトの中に、振袖に袴を着けた一見して小姓のような人物が飛び込む。長髪を頭の上で結んで後ろに垂らしている。それで、小姓が女性の男装だと観客にもわかる。
「親の仇、覚悟!」
 カッポーン! 小鼓の音とともに、邦楽にしては賑やかで急テンポな曲が鳴り始めた。
 小姓が抜刀して男に斬りかかる。男も抜刀して迎え撃つ。二人の動きは速いが、そういう目で見ているせいか、まるで踊っているようだった。刀と刀が噛み合い、あるいは身体すれすれを掠める。
 男の斬撃が――実際に斬ったのではなく仕掛けがあったのだろう、小姓の振袖を切り裂いた。乳房がこぼれ出た。
 男が驚いた顔を作って、それからドンと歌舞伎の六法みたいな所作をした。相手を女と知って助平心が起きたという演出かなと、五十鈴にも見当がついた。
 さらに数合チャンバラが続いて。小姓は動きの邪魔になるとばかりに、切り裂かれた小袖から順繰りに腕を抜いた。
 上半身裸で斬り合って、袴まで切り落とされる。
「ええっ……?!」
 五十鈴は、また口を押えた。袴の下は腰巻でもパンティでもなく、丁字帯だった。田舎では、生理のときに使っている子もいる。女としては裸よりも羞ずかしいのではないだろうかと思ってから――もしかすると、越中褌ではないかとも思った。チャンバラ映画では、主役の着物が乱れたときに白い垂れ布がちらっと見えて、女性ファンから黄色い歓声があがったりする。
 紐を腰に巻いて布の端を押さえているだけだから、激しい動きで緩んでいき――ついには、前が落ちて白い尻尾みたいになった。
 舞台の前端を左右に移動しながら斬り結ぶ男女。女性が大きく足を踏み出して斬りかかるたびに、客席から拍手が湧いた。
 カッポーン。楽曲が途切れた。
それを合図に、女性が円形ステージに押し倒された。男が組み敷いて。スローテンポの方角が低く流れ始めた。
 男が女性に馬乗りになったまま、あわただしく着物を脱いだ。男は肌色の六尺褌を締めている。その姿のままで――女性の片脚を高々と持ち上げた。円形ステージが回り始める。
 男が腰を突き上げて、女性の股間に打ち当てた。それが性交を模した動きだと、五十鈴にも(なんとなく)わかった。すぐに女性を裏返して、今度はプロレス技みたいに両脚を背中へ折り曲げた。開脚の中心をたっぷりと客に見せつけてから、四つんばいにさせて背後からのしかかり、また腰を動かした。
 やがて、男が立ち上がって。自分の着物と二人の刀を拾って袖に引っ込んだ。女性は身を起こして『御開帳』を始める。
「剣劇が中途半端だって、座長はいい顔をしないけど――賑やかしだな。とにかく、この商売。ただ裸を見せればいいってもんじゃない。それじゃ額縁ショーになっちまう」
「……?」
 五十鈴がぽかんとしているのを見て、本郷が説明を足した。
 額縁ショーというのは、戦後すぐに始まった、本邦最初のストリップショーである。大きな額縁の中で全裸の女性が名画のポーズを真似る。ただ、それだけ。それも最初は髪の毛や小道具で股間を隠して、わずか数秒間だけのショー。それでも大入り満員で劇場の前には長蛇の列ができたという。たちまち、全国で同じようなショーが雨後の筍さながら。競合が激しくなって、演出が工夫されるようになった。女性が衣服を脱いで風呂に浸かるという入浴ショーが現われたりするうちに、踊りながら服を脱いでいくというアメリカ渡来のストリップティーズが和風にアレンジされ、さらには『御開帳』とか『オープンショー』と呼ばれる観客サービスが定着していった。
「ほかにも花電車とかシロクロショーとかもあるが、こいつはさすがにコレ(と言って、本郷が指で作った丸印を額に当てた)も見逃しちゃあくれねえな」
 その二つがどういうものかまでは、本郷も説明しなかった。
 二人の剣劇と手籠め演技には、二つ三つの『おひねり』が飛んだだけだった。
 そして。トリの舞台が始まった。
 座長の演し物はストリップショーの定番、日本舞踊だった。
(うわあ……)
 五十鈴は、これまでとは違った意味で驚いた。本格的な舞台を観たことはないが、友達の『おさらい会』には何度かつきっている。そのときに見た流派の師匠の踊りよりも、もっと所作に優雅さと切れ味が渾然一体となっていた。プロ(というものが日本舞踊にあるかどうかは知らないけれど)で通用すると思った。バレエにたとえるなら、大劇場でプリマドンナを張れるんじゃないだろうか。
 舞台の最後が、驚きの打ち止めだった。十円札の首飾りこそ出現しなかったが、『おひねり』を拾い集めるのに手が足りず、花園美絵とリリー塚本までが手伝った。まさか一円玉ではないだろうから、控えめに百個と見積もっても五百円以上だ。全部十円玉なら千円――後で数えたら五十円硬貨や百円銀貨も幾つかあって、さらに五十鈴は驚きを重ねるのだが。
 御礼の意味だろう。美蝶は上手から下手まで全裸で舞いながら、袖に姿を消した。
「とまあ、これが一日に四回だ。楽といえば楽、厳しいといえば厳しい商売だ。やれそうかな?」
「やります」
 五十鈴は即答した。洋舞、剣劇、日舞。みんな凄い。そして、裸で笑顔を浮かべられるくらいに強い。自分のバレエなんて、学芸会もいいところ。裸になったら、とくに『御開帳』なんて、顔が引きつるに決まっている。でも、やらなければ――無一文になるのも厭だし、売り飛ばされるのはもっと厭だった。
「それじゃ、親父さんとこへ仁義を――つまり、この劇場の親分に挨拶をしとこう」
 劇場主は、五十鈴がずいぶんと若いことに驚いたようだった。しかし、それについては何も言わなかった。劇場が契約したのは花園美蝶一座だから、なにか問題が起きたら座長が事に当たる。後で本郷から、そう聞かされた。
「頑張りなさいよ。事情はあるんだろうが、金で解決できる事情なら、ここはまっとうな稼ぎ場だからね」
 どうとでも取れる言葉が劇場主から返ってきた。
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