Progress Report 1:昭和集団羞辱/芸術編(ヌードモデル)

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ひとつ前のレポートにもあるように「次の作品」を練りながら、『芸術編/ストリップ嬢』に続いて「芸術編/ヌードモデル』を鈍意打鍵中です。
鋭意にまでは至りません。コロナがフレアするか(戦闘詳報参照→)MM-88となるか、たとえ日本で100万人が死のうと人口比率1%。でも、甘デジ『海物語IN地中海』を23回転で引いて13連チャンしたばかりですし、年齢リスクとか慢性疾患リスクとか通勤リスクを考えると……
ええくそ。新規臭い話はヤンピ。
口入屋の甘言に騙されて――ばかりでは変わり映えしないので。
次作では、父親の横領でヤクザの手で風呂に沈められるとか、継父にチョッカイ出された娘を、母親がかばうどころか嫉妬と逆恨みで秘蕩温泉に売り飛ばすとか、捻っていますが。
本編では、こんなところです。
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職業強制
津田佳恵は背もたれの高い天鵞絨張りの椅子に腰かけて、横に足を流している。全裸だった。閉じた太腿の上に皮革で装丁された本を開いているが、視線は斜め上に向けられている。もう二十分も同じポーズを続けている。身体の節々が痛くなってきたが、田村先生が熱心に筆を動かしているので、休憩したいとは言い出せないでいた。
佳恵が先生にラブレターを書いたのは、二学期の最初だった。入学してすぐ好きというよりは憧れて――半年後に卒業を控えて、やっと想いの丈を打ち明けたのだった。翌日、美術教室に呼び出されたときは、お説教かなと覚悟もしていたのだけれど。
「佳恵クンの想いに応えてあげることはできない」
面と向かって下の名前を呼ばれただけで、想いの半分は報われたと思った。そして、次の言葉を聞いて――喜びと戸惑いとが重なった。
「これは……他の生徒には頼めないことなんだが。もしよければ、絵のモデルになってくれないだろうか。来年の県美術展を狙っているんだ」
「それって……ヌードになるんですか?」
他の生徒には頼めないという言葉に、それを察していた。
「そうだ。でも、君には指一本触れない。けっして邪な気持ちは持たない。お願いできるだろうか」
喜びと戸惑いに、羞恥が重なった。けれど、『指一本触れない』という言葉に淡い失望が重なったのも事実だった。
佳恵は、先生の横顔をじっと見つめている。輪郭の太い角張った顔。けっして美男子ではないし、男臭すぎるので女子生徒の評判は(二十八歳の独身というわりには)それほどでもない。けれど、そのいかつい顔を眺めているだけで――佳恵の乳首は固くしこってくる。股間に埋もれた小さな蕾が、じわあっと存在を主張する。
筆の動きが止まると同時に、佳恵は視線を元に戻した。笛が動き始めると、また視線を先生の横顔に向ける。
廊下に面した窓はカーテンで遮られ、出入り口には外から南京錠が掛けてある。先生は、施錠してから窓を乗り越えた。そうやって意図的に作った二人だけの空間。その中で流れる、どんな恋人同士でも持つことのできない、二人だけの濃密な時間。
しかし、それは突如として破局を迎える。
ガチャガチャッと南京錠をいじくる音。鍵は先生が持っているから、開けられないはずなのに。ガラッと扉が引き開けられた。
「これは、どういうことなのだ?!」
教頭先生が、出入口のところで棒立ちになって――ひと呼吸をおいて教室に踏み込んで来た。
佳恵は教室の隅へ駆け逃げた。脱いでいた制服で身体の前を隠して、うずくまる。
「けしからん。神聖な教育の場で、破廉恥なことを……」
「けっして、そのようなことはしていません。裸婦を描くのは、筋肉の流れなどを……」
「黙れ! この生徒の親御さんが、そんな屁理屈で納得するとでも思うのか」
二人は職員室へ引っ立てられた。日曜の午後とあって、誰もいなかったのが、せめてもの救いだった。
教頭は田村の弁解を頭ごなしに粉砕して、二人に誓約書を書かせた。美術教室で教え子にヌードモデルをさせていた(先生に頼まれてヌードモデルをしていた)という事実を認めて、二度と破廉恥なことはしないという、それだけの文面だった。
田村は無表情に、佳恵は泣きじゃくりながら誓約書を書いた。
「ことさらに波風を立てるつもりはありません。今回だけは、目をつむりましょう」
無罪放免だった。
「佳恵クンにはつらい思いをさせたね。すまない」
「いいんです。先生と二人きりの時間をたくさん過ごせて、あたし幸せでした。でも……モデルがいないと、困るのでしょう。よろしかったら先生のお部屋でも。それとも、どこか貸し部屋とか」
「いや。あそこまで仕上がっていれば、あとはなんとかなる。これからは監視の目も厳しくなると思っておいたほうがいい。きっぱりと、これで終わりにしよう」
もしも恋人と別れるのだったら、こんなに淡々としてはいないだろう。そう思うと悲しくなるのだが――先生に取り縋って慟哭するほどではなかった。
そうして、佳恵の胸には青春のほろ苦くも大切な想いが刻まれたのだが。
冬休みが明けてすぐに、佳恵だけが校長室に呼び出された。校長と教頭と、見知らぬ男とがそこにいた。
「津田の就職について、話をしたくてね。こちらは、即日採用社という職業斡旋会社の課長さんだ」
教頭に紹介されて、ぺこんと頭を下げたものの。都会で小さな工場を経営している叔父のところで事務員に雇われる話が、もうまとまっている。
「是非ともキミに来てもらいたいという事務所があってね」
職業斡旋会社の課長が、薄っぺらいパンフレットを机に広げた。
現代モデラート有限会社
各種モデルを斡旋致します。
着衣モデル 二時間四百円~(交通費別途、以下同じ)
半裸(水着等) 二時間五百円~
裸婦モデル 二時間六百円~
その他 応相談
三十代以上のモデル 二割引
十代のモデル 五割増
ご注意 モデルの貞操にかかわる行為に及ばれたときは
十万円の罰金を申し受けます。
「モデルの手取りは、そこに書かれてある料金の七割だそうだ。大卒のエリートサラリー万よりも稼げるね」
「お断わりします」
佳恵は即答したのだが。
「キミにはぴったりの仕事だと思うんだけどね。御両親と直談判してみようか」
教頭が二枚の紙をパンフレットの横に置いた。田村と佳恵の書いた誓約書だった。
佳恵は蒼白になった。このことを親に知られたら――自分が厳しく叱られるくらいは、なんでもない。でも、先生に迷惑がかかる。男と女とが裸で密室に何時間もこもっていて、それで何も起きなかったなんて――信じてもらえないに決まっている。先生のことを警察に訴えるか、すくなくとも教育委員会とかに申し立てて、先生をクビにさせるのではないだろうか。
「これ……裸にならなくていいお仕事だけ引き受けることもできますか?」
その質問自体が、教頭の脅しに屈した証だった。
「そういう条件の契約をあちらに呑ませましょう。着衣ばかりは無理でしょうが、半裸までなら、あちらも承知するでしょう」
「……わかりました。よろしくお願いします」
佳恵は不承不承に頭を下げた。
一生の――とまではいわないにしても、人生の岐路を決めるのに軽率過ぎる気はしたけれど。断われば田村先生を破滅させることになるのだから、選択の余地はない。見知らぬ男たちの前で半裸になのは羞ずかしいけれど、貞操は保障されている。まさか、年収に匹敵する罰金を払ってまで小娘を犯そうという不届き者もいないだろう。
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裏設定としては、教頭が口入屋からリベートをもらうとか、あります。
すでに凄絶なラストも決めていますが、作者の気が変わったときは、この美術教師が展覧会で入選して画家デビューするという、白馬の王子様候補には取ってあります。出番は無いでしょうけどね。
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