Progress Report 5:赤い冊子と白い薔薇
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ずいぶんと間が伸びてしまいました。
在宅勤務ってのは、かえって時間が不自由なのです。勤務時間中に、チョコマカ(仕事のメールチェックついでに私用メールも見て、下手するとリンク先をクリックしたり)(会社貸与PCはネット接続禁止でそちらは自前PCなので、データのUSB持ち運びも時間がかかるし)(問い合わせのRe:があるまで手待ちになったり)(残業とか休日出勤とかの規制がない=タダ働きですけど、気が緩んで作業効率が落ちたり)いろいろあって。しかも、10月10日(トツキトオカと読まないように!)で失業の公算大で降参するしかないし。
などというグチは蹴飛ばして。暑気払い悪魔祓い節季払い(内心ショボーンだと文章アゲアゲ??)にドーン。

とうとう、縛り首にまで守備範囲を広げてしまいました。
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第3章「拷問」の最終節です。
・命脅かす拷問
翌日は朝から三人そろって取調室へ連行された。
取り調べという名目の拷問に当たるのは浜村、泊、淀江。恵の担当官である青谷と弓子の担当官の大岩も、当然立ち会う。荒島と浅利の姿は見えない。浅利がいないということは、今日は色責めではなく肉体を虐げる拷問が主体なのだろう。
責任者である荒島がいないことに、恵は漠然とした不安を持った。彼が紗良について漏らした言葉を思い出したからだった。
「わしが勃つうちは、諸君もお裾分けにあずかれるというものだ」
紗良は、いずれ責め殺される運命にある。その日が近いのではないだろうか。
浜村の紗良に対する拷問も、恵の不安を裏付けていた。
「もう、あれこれと尋問するのはやめた。なにか謡(うた)いたくなったら、そう言え」
自白するまで責め続けるという意味だ。
天井から六尺棒が水平に吊るされて、その中央から垂らされた綱が紗良の首に巻かれた。
「手を伸ばして棒をつかめ」
淀江が紗良を抱え上げて、それに応じて浜村が綱を縮めていく。紗良が六尺棒を両手でつかんで、裸身が宙に浮いた。それでも、いっそう綱が引かれたので――腕を曲げて身体を引き上げていないと窒息してしまう。浜村が綱の端を棚受け金具に結び留めた。
「罪を認めて刑務所へ行くか、強情を張り通して天国へ逝くか、すきなほうを選べ」
「…………」
紗良は無言で浜村を見下ろした。二か月以上も責め嬲られ犯され弄ばれ飢餓にも再三追いやられて、なおこれだけの気力を宿しているのかと恵が驚嘆したほどの、勁(つよ)い光が目にこもっている。その光は、憎悪の色ではない。では何なのだろうか――恵にはわからなかった。
「気に食わん目つきだな」
浜村が有刺鉄線の鞭を持ち出した。
「可愛い声で哭いてみろ」
下から斜めに掬い上げるように乳房を打った。
ビヂヂヂッ……!
棘に引っ張られて乳房がしたたかに歪み、ぶるんと弾んだときには小さな鉤形をつらねた傷が下乳に刻まれていた。たちまち、胸が鮮血に染まっていく。
「ぐっ……」
曲げた形を保った両腕に細い腱が浮き上がって――紗良は悲鳴を口の中に封じ込んだようだった。
「チッ、意地でも哭かんつもりか。まあ、いい。あまり痛めつけては、早々と楽にしてやるようなものだからな」
跡始末をしておけと、浜村は鞭を泊に渡した。雑用ならいちばん下っ端の淀江に言いつけるところだろうが、拷問道具の取り扱いは泊のほうが長けている――とは、おいおいに恵も気づいていくことになる。
「おまえらには、もちっと優しくしてやる。なにしろ、担当官殿が御臨席だからな」
滑車から垂れている綱の両端を二人の首に巻き付けた。結び目を絞ってじわじわと長さを縮めていき、二人ともつま先立ちでかろうじて首が締まらないように調節した。手枷をはずして、両手を頭上で綱に縛りつける。
背中合わせで身体を密着させている恵と弓子。
「尋問を始める前に、ちょっと甘やかしてやろう」
浜村が取調室の隅に転がしてある巻き束から新しい荒縄を切り取った。三メートルほどを二つ折りにして、二人の股間に通す。
「川瀬弓子は一週間ぶり、瀬田恵は初めてだったか――いや、ワイヤー跨ぎはしていたな。あれに比べれば物足りんだろうが」
荒縄の両端を左右の手に持って、ぐいぐいと引き上げる。
「く……」
「痛い……」
恵が自分の下腹部に視線を落とすと――まるで荒縄が股間から生えているみたいに食い込んでいた。
「瀬田はパイパン、川瀬は密林か。毛を巻き込まないだけ、瀬田には刺激が少ないか」
言いながら、ゆっくりと浜村が荒縄を左右にしごき始めた。
「痛い……痛い……」
ワイヤーほどではないが、淫唇の内側にチリチリと鋭い刺激が突き刺さる。びくっと腰を引いては、尻と尻とで押しくら饅頭をしてしまう。肉がひしゃげて、そこに微かな波紋が生じる。それが感じられるくらいには、股間の刺激は激痛一辺倒ではなかった。
ずにゅっ、ずにゅっと股間をしごかれて――弓子も恵も、小さく呻くだけで悲鳴までには至らない。そこまで、股間への残虐には馴致されている。
ことに恵は、ワイヤーの絶望的な激痛と比較してしまう。荒島の言う『甘やかし』が、実感として腑に落ちてしまう。痛みの中に潜む擽ったさにも気づいてしまう。擽ったさ――それは、ねじ曲げられた官能だった。刺激を受ければ肉体はおのれを護るためにも潤滑を試みるものだが、それを超えて――腰の奥底に、熱い滴りが生じつつあった。
「痛い……あああ、痛いいい」
はっきりと、痛い。激痛といっても過言ではない。それなのに、痛みを訴える声に艶が紛れていた。
「ふうむ。これはなかなかの逸材だな」
浜村のつぶやきは恵にも聞こえたが、これくらいで大袈裟に泣き叫ばないとは虐め甲斐がある――そんなふうに解釈した。あとにつづく、いっそう低いつぶやきは聞き逃した。
「英雄は英雄を識るというが……いや、同病相憐れむか」
浜村の手の動きがいっそう早くなった。
「ぐううう……やめて。赦してください……助けて、大岩様」
婚約を解消された今、すこしでも弓子を庇護してくれそうな人物といえば、彼女の尋問を担当している(飴と鞭の、飴役である)男しかいない。弓子は、それが本心かどうかは定かでないが、彼に甘えようとしていた。
しかし恵は――
「あああ……痛い……ああああんんん」
粘膜をしごかれ荒縄の毛羽に刺される鋭い痛みと、腰の奥で次第に溜まっていく熱い滴り。そのことだけしか考えられなくなりつつあった。が――追い上げられる前に、荒縄が股間から抜き去られた。
「大岩警部補、お呼びが掛かったぞ。せいぜい短気は慎んで、じっくりと口説けよ」
大岩が弓子の前に立った。
「青谷警部殿、尋問を始めますか?」
「いや。まずは大岩警部補のお手並み拝見といこう」
「そうですか。それじゃ小生は瀬田恵を、もうすこし甘やかしておきましょう」
弓子への尋問の妨げにならないようにと、浜村は自分の越中褌で恵に猿轡を噛ませた。
青谷は浜村の行為に口を差しはさまない。いずれは自分の奴隷妻にするかもしれない少女が他人に穢されるのを、平然と眺めている。
「ワニグチクリップでも平気だったよなあ。これくらいは刺激的な悪戯に過ぎんだろうな」
浜村は棚から小さな籠を持ち出して、中身を恵に見せた。大小の洗濯バサミが何十となく詰められている。それを尋問机に置いて。
「まずは、こういこうか」
割れ目からわずかに顔を覗かせている小淫唇を引っ張り出して、そこに咬みつかせた。
「…………」
咬まれた部位の違いもあるが、ほとんど痛みは無かった。そして羞恥心は、すっかり鈍磨している。すくなくとも、性器を弄られたくらいではなにも感じない。穏やかな手つきが、いつ凶暴に変じるか、その小さな恐怖しかない。
浜村は次々と洗濯バサミを加えていって、片側に三個ずつを咬ませた。
「しっかり、綱を握っていろよ」
警告しておいてから肘の内側で恵の片足を持ち上げる。開いた股に洗濯バサミを押し込むようにして、大淫唇にも三個ずつを咬みつかせる。
足を下ろされるときに洗濯バサミが触れ合って、カチャカチャと場違いに滑稽な音を立てた。
尋問を始めているはずの大岩は、さっきからひと言も発していない。
「痛い……赦してください」
「あ、ああ……厭です」
苦痛を訴える声と、はっきり甘い声とが、交互に弓子の口から漏れている――のも道理。背中合わせの恵にはわからなかったが――弓子は左の乳房を握りつぶされたり、あるいは乳首に爪を立てられてねじられたりしていた。しかし、弓子が赦しを乞うと、意外にあっさりと責めを中断する。そして、右の乳房を――優しく愛撫され乳首を転がされる。いわば、飴と鞭を一人二役で大岩が演じているようなものだった。
「このままスカートを穿かせて外を歩かせると、面白いのだがな。内股で歩けば痛いし、洗濯バサミのぶつかる音を他人に聞きとがめられないかと、女は羞恥に悶える」
もっとも、ゴム紐褌の愛用者なら、ケロリン閑としているだろうがな――と、言葉でも恵を嬲る。
「さて。仕上げは、もちろんここだよなあ」
ひときわ大きい洗濯バサミをつまんで、浜村は股間の肉蕾を指で引き伸ばした。
「こいつには、面白い仕掛けがしてあってな」
浜村が恵の目の前で洗濯バサミを開いた。
「…………?!」
洗濯バサミの嘴から、鋭い針が直角に突き出ていた。洗濯バサミは針に邪魔されることなく、滑らかに開閉した。針に向かい合う面に小さな穴が穿ってあった。
「泊甚作――巡査部長の親父さんの新作だ。大工でもあり小間物職人でもある。尋問椅子もワイヤー台も吊り滑車も、彼の作だが。近頃は、こっちから細かく指図しなくとも趣味人の好みをわかるようになってな。ワニグチクリップより穏やかな器具はなかろかと相談したら、こんな品を作ってくれた」
恵は、顔も知らないその男に憎しみを抱いた。御上の威光に逆らえなくて、女を甚振る仕掛を厭々作ったというのならまだしも――率先して凶悪な責め道具を考案するなんて、浜村と同じ鬼畜だ。
しかし、そんな義憤は一瞬のこと。包皮を剥き下げられて甘い戦慄が奔ったが、すぐに恐怖が取って代わった。ワニグチクリップに咬まれた凄絶な激痛は、思い出したくなくても思い出してしまい、背筋が総毛だつ。「ワニグチクリップよりは穏やか」という浜村の言葉にしがみつくしかない。
針が触れた瞬間から鋭い痛みがあった。間髪を入れずに、痛みが膨れあがりながら突き抜けた。
「ゔま゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!」
恵は猿轡の中に絶叫を吐き出していた。
しかし、たしかに――ワニグチクリップほどには凶悪でなかった。針に貫かれたあとは、平板な圧迫しかなかった。これくらいなら耐えられる――というのは、錯覚かもしれない。
「う……うううっ、うう」
膝が砕けて、喉に全体重が掛かっていた。
目の前が赤くなって、白い星が飛び散った。
「く、くるしい……瀬田さん、しっかりして」
恵の体重で首を吊られて、弓子も呻く。
ぐいっとさらに吊り上げられて、恵は声を発せなくなった。
「足をバタつかせるな。しっかり伸ばせ」
大岩の声だった。弓子を庇って、首吊りの縄を引いているらしい。
藻掻くのをやめてだらんと足を伸ばすと、身体が下がり始めて、どうにか爪先が床に届いた。
「俺が愛想を尽かしたら、おまえもああなるわけだ。さて……ここは、どうしてほしい。優しくされたいのか? それとも、あの洗濯バサミを借りてやろうか?」
大岩が弓子の肉蕾を撫で上げながら耳元に囁いた。
「……………………」
長い沈黙のあとで、弓子がぽつりと答えた。
「優しくしてください……」
諦念のにじんだ声だったが、甘えるような響きも混じっていた。婚約を解消されて心の支えを失った弓子は、ついに陥落したのだった。
「そうか。あいつとは縁もゆかりも無くなったのだから、今さら当時の言動を蒸し返しても始まらんな。おまえに同調した娘も、お咎め無しにしてやろう」
恵の首に掛かっている縄が緩んだ。弓子が解き放たれたのだ。が、すぐに縄は引っ張られて、紗良と同じように棚の受け金具に結ばれた。
浜村は恵を放置して、紗良を甚振りにかかった。
「なかなかに知恵が回るな。腕の力を抜いて、窒息寸前でまた身体を引き上げる。まだまだ粘れそうだな。しかし……」
浜村が淀江に命じて、紗良の足元にコンクリートブロックを運ばせた。
その間に――弓子は手枷をはずされて、茶番の調書に爪印を取られている。素裸ではなかった。無地の浴衣を着せかけられている。絶対に今日で陥落すると踏んだ大岩があらかじめ準備していたのだろう。
紗良の足首に縄が巻かれて四のコンクリートブロックが吊るされたとき、すでに大岩と弓枝の姿は取調室から消えていた。
二倍以上に増えた体重に、顔を真っ赤にして懸垂を続ける紗良。
浜村が残酷に揶揄う。
「まだ頑張るか。だが、腕が震えているぞ。お、身体が下がり始めたか」
歯を食いしばって持ちこたえていた紗良の顔に、絶望が浮かんだ。
「悪魔……」
紗良の腕から力が抜けて、ガクンと身体が沈んだ。
「ぐふっ……」
顎の下に綱が食い込んで――
バキッ、ベリリ!
棚の支持金具が折れて、綱がはずれた。
そのまま床に倒れ込む紗良。
窒息は免れても、首の骨が折れたかもしれない。恵がそう思ったほどの激しい落下だった。
「けふっ……けふ、けふっ」
床に突っ伏したまま、紗良が咳き込んだ。
「ふふん。今度こそ殺されると思ったか。残念だったな。まだまだ愉しませてもらうぞ」
浜村が靴の先で紗良の脇腹を蹴った。
無謀に思える拷問もすべて計算ずくだったのだと、紗良は悟った。縛り首ではあっても、顎にも体重が分散するようにしてあったのだ。コンクリートブロックを追加したのも、紗良を早く力尽きさせる意味もあったのだろうが、むしろ余計な重さまで加えて金具を壊す目的もあったのではないだろうか。
わざと死の恐怖を味わわせる浜村の残忍さに恵は恐怖したが、その一方で、彼への信頼にも似た感情が芽生えようとしているのにも気づいていた。この男に責められるかぎり、責め殺されることだけは免れるのではないだろうか。もちろん――浜村が恵を生かしておこうと思っていれば、だが。それは期待できるのではないだろうか。青谷の奴隷妻に馴致するというのが鬼畜どもの目論見なのだから。
もっとも。そういった惨めな安心は、いっそうの絶望をも意味する。永遠の安息に逃げ込む道を封じられるのだから。
「では、そろそろ僕も本気を出そうか」
ずっと見物役にまわっていた青谷が腰を上げた。
「僕は、誰かさんみたいにネチネチと女を甚振る趣味は無い。おまえにアカ本をくれたやつの名を吐け。吐くまで、これを続けるぞ」
青谷が言う『これ』とは、四本にまとめた荒縄だった。先端が結ばれて硬い瘤になっている。それをバケツの水に浸す。
「そいつは効きますが、部屋の掃除が大変ですぜ」
「染みが増えれば、被疑者への脅しになるさ」
ずしりと重くなった縄束を、無雑作に恵の尻に叩きつけた。
バシイン!
「んぶっ……」
骨盤にめり込んだのではないかと思うほどの重たい衝撃だった。
バシイン!
バシイン!
バシイン!
バシイン!
五発を立て続けに打つと、水が散って縄が軽くなったらしく、またバケツに浸す。
「今度は尻なんかではないぞ。だが、その前に訊いておこう。白状するか?」
正面から覗き込まれて、恵は顔を伏せた。
(この人は……乃木や大岩とは違う)
直感だった。なんとかして娘をなびかせようという熱意が無いように感じられた。まったくの被疑者扱い。奴隷妻にされるなんて真っ平だけど、まったく見捨てられるとなると心細い。そういった思いが、無意識に恵にいやいやをさせていたのだろう。もちろん、青谷はそれを拒否の意思表示と解釈する。
「そうか」
バッシイン!
乳房がひしゃげて、横に薙ぎ払われた。
「むばああっ……!」
反対方向へ逃げようとして、真上に吊られているのだから足が宙に浮いて、喉を締めつけられた。
「げふっ……」
爪先を伸ばして床を捉える。
バッシイン!
今度は腹に叩きつけられた。
「ぼぶっ……うええええ、げふ」
吐き気が込み上げて身体を折り、また足が宙に浮いて喉を締められる。
足をバタつかせて、なんとか床に爪先を着けようとするが、届かない。恵はとっさに腕をねじって、両手で綱をつかんだ。無理に手首をこねて縄で神経を挫いたのか、指に疼痛が走った。綱を引くと首の圧迫が緩んだ。
バッシイン!
脇腹を敲かれた。悶え苦しんでいる恵に、縄束の滅多打ち。宙吊りになって身体が回っているので、敲かれるまでどこに当たるかわからない。
バッシイン!
バッシイン!
背中を敲かれ、次は下腹部。
そこで青谷は手を休めて、また縄に水を吸わせる。
「どうも……僕には、ただ強情なだけに思える。それとも、あのお……オルグを庇ってのことか。いずれにしても、そうそう変態には思えないが」
「そりゃあ、そうですよ」
浜村が紗良の縛り首をほどきながら答える。
「縛られて縄に酔ったり敲かれて濡らす女でも、それを悦んじゃいませんや。いや、いることはいますが。そういうのは、ちょっと厳しくすると音を上げます。縛られるのも厭、敲かれるのも厭――本人だってそう思い込んでいるのに、厳しく虐められれば虐められるほど陶酔に追い込まれる。そういうのが、本物ですね。小生の女房なんか、ケツもマンコも空っぽでも、逝き狂いますからね」
非道い目に遭わされれば遭わされるほど、それを悦ぶ女性がいる――浜村はそう言っているらしいと、恵にもわかってきた。これまでに聞きかじった断片をつなげると、どうしてもそうなってしまう。
そして、アッとなった。ゴム紐の褌を締めて輪ゴムで乳房を虐めていた自分は、
そういった変態的な女だと思われているのかもしれない。
とんでもない誤解だ。拷問にしても輸姦紛いの行為にしても、そこに官能を感じたことは一度だって、これっぽっちも無い。それは……ユリお姉様に虐められたらすごく燃えてしまったけれど。でも、あれは濃密な愛情の発露だ。まったく別の話だ。ベルトで乳首を擦られたり荒縄で股間をしごかれたときに感じた微かな快感は――あれは、女の身であっては致し方のない反応に過ぎない。
口を封じられていては、男どもに反駁することもできないというのに。そういった想念を追いかけるのは、自分は絶対に違うと信じたいからだ――ということに、恵はまだ気づいていなかった。
「そんなものかね。まあ、変態女はもちろんだが、あれこれ味を覚えられても困る」
「とは?」
「浜村警部は、もう四十を過ぎたはずだが――縛るにしても敲くにしても、それなりに体力を消耗するだろう。しんどくはないのかね」
「なるほど。味を覚えられて夜毎におねだりされては身が持たない――ということですか」
浜村は部屋の隅にある滑車の下へ紗良を引きずって行って、恵と同じように縛り首の綱を自分の手でつかんで身体を支えさせる形にした。その精力的な動きが、そのまま青谷への答えにもなっていた。
「人それぞれですかね。小生や浅利クンが女に注ぐ情熱を、青谷警部殿は出世に注ぎ込む。それも男冥利ですな」
薄笑いを浮かべて、そんな男冥利は願い下げだという内心をあからさまにしている。浜村はワイヤーを張った台を紗良の横に据えて――ワイヤーに新しい有刺鉄線を巻き付け始めた。
「掛け合い漫才はれくらいにしておこう――さて、瀬田恵。虐められて悦ぶおまえとしては、もっと厳しく敲いて欲しいのだろうな」
なぜか――ドキンとした。虐められて悦ぶだなんて、そんなことは絶対にあり得ない。なのに、ユリの顔がちらついて、そこに青谷の言葉が絡みつく。
「そうそう思い通りにはしてやらんぞ」
青谷はズボンをまさぐって、茶色の細い筒を取り出した。尋問机の引き出しから鋏を取り出して筒の一端を薄く切り取り、反対側を口に咥えた。マッチで、念入りに火を点ける。
それが葉巻だとは、恵にもわかる。祖父の法事のときに、紳士然とした(名前も知らない)遠縁の親戚が葉巻を吸っていて、この非常時に貴重な外貨を燃やすとは不届き千万と、まわりから責められていた光景を覚えている。
痩身で二枚目然とした青谷は、意外と葉巻が似合っている――この期に及んでも、そんなふうに思ったりもする恵だったが。なぜ、この場でそんな物が持ち出されたかに気づいて、心臓がねじ切られるような恐怖に捕らわれた。葉巻は紙巻き煙草よりずっと太い。そのぶん火口が大きくて、灰皿に押しつけたくらいでは消えないのではないか。火傷の痕も、生涯残るのではないだろうか。
「さっきも言ったが、外堀を埋めてから本丸に取り掛かるような手間は掛けない」
青谷が手を伸ばして、恵の肉蕾をまさぐる。
「んんっ……」
恵は反射的に腰を引いて、また爪先が宙に浮く。
「暴れるな。淀江巡査、身柄を確保してくれ」
「はいッ」
警察内で使う言葉に反応して、淀江がキビキビと動く。恵の背後にまわって、腰をつかんだ。
「ご苦労」
青谷は恵の斜め横に動いて、かろうじて床に届いている爪先を靴の先で踏みつけた。
ぐっと体重を乗せられて、その痛みも感じたが――そんな些細なことに気を取られている場合ではない。
青谷は肉蕾を剥き下げて、人差し指と中指で剥き出しの実核を挟み込んだ。
「もう一度だけ、尋ねるぞ。おまえにアカ本をくれたやつの名を吐くか?」
自白しなければ、そこを焼かれる。ユリとの交わりで知り初めたばかりの、この世のものとは思えない陶酔の根源を――焼き尽くされる。そうなっては、ユリお姉様を庇う理由がなくなる――チラッと浮かびかけた考えを、あわてて打ち払った。お姉様とは肉の悦びだけで結びついているのではない。心と心の結びつきがあって、それが肉の交わりにつながっていった――恵は、本気でそう思っている。実際には、いきなりユリの下宿先に呼び出されて、身の上話をしているうちに、ありていに言ってしまえば襲われたのだが――それさえも、言葉を交わさぬうちから魂が惹き合っていたのだと、恵は自分に説明するだろう。
「そうか。女の悦びは捨てるか。そのほうが僕にとっても好都合だ」
青谷の言葉で、恵は心の沈潜から引き戻された。すでに運命は決していた。
青谷はあらためて葉巻を吸いつけてから、まっ赤に燃える火口を恵の小さな突起に押しつけた。
ジュウウウッ……
灼熱が股間の一点を貫いて、腰全体で爆発した。
「ま゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
恵の全身が激しく撥ねた。淀江が恵の尻に突き飛ばされた。頭をぶつけられそうになった青谷がのけぞって、たたらを踏んだ。恵の裸身が宙でくねった。
「むぶううう……」
手の中で首吊りの綱が滑って、恵を窒息させる。
恵は、まるで宙を歩いているように足を前後に蹴っている。無意識の動作だった。
青谷は、そんな恵を冷ややかに眺めている。葉巻が消えないように吸い付けるほど冷静かつ冷酷に。
「どうにも、警部殿は気乗り薄のようですな」
恵を丸め込むつもりはない――という意味だ。
「ま、そのほうが面白くはありますがね」
その言葉は口の中でつぶやいたきりで。
浜村は、淀江と泊に紗良を高く吊るさせた。
前で手首を重ねて縛られている紗良は片手で綱をつかんで、かろうじて縛り首を免れている。その真下に、有刺鉄線を巻きつけたワイヤーの台が据えられた。
「下ろせ」
紗良は観念して、有刺鉄線に内腿を傷つけられながらワイヤーを跨いだ。
「未練たらしくしがみついてるんじゃない」
綱をつかむ手を引き剥がされて、全体重が股間に掛かった。
「ぎひいいいいいっ……!」
細い素線が無数に毛羽立つワイヤーを跨がされることが、すでに女性器への激越なの拷問だというのに――そこに巻かれた有刺鉄線の棘が淫唇の裏側に膣前庭に、さらには膣口までを突き刺し引っ掻く。それでも、サーベルの峰打ちよりは衝撃も肉体の損傷も小さいかもしれないが――峰打ちは一瞬。これはいつまでも続く。
「前門の虎後門の狼という諺くらいは、おまえでも知っているよな」
淀江に紗良の腰を保持させておいて、浜村は滑車で折り返した首吊りの綱を扼した手首にくぐらせた。肘を軽く曲げて手首が頭の少し上になる位置まで、綱の長さを調整した。
「マンコを壊されたくなかったら、綱を引け。窒息したくないなら、腕の力を抜け」
「悪魔……」
紗良が呪詛をつぶやいた。
「神の御教えに背いても……あなた方を愛することはできません!」
それは、キリスト者としては最大級の憎悪の表現だったろう。『汝の敵を愛せよ』という聖書の言葉を真っ向から否定するのだから。
「女囚に愛されたくはねえな」
浜村が青谷が放り出していた縄束の鞭を拾い上げた。それをあらためてバケツの水に浸してから。
「本音を吐けば、服従だってされたくはない。小生を憎め、反抗しろ。そうすれば、心おきなく責められるというものだ」
縄束を振り上げて、下腹部に叩きつける。
ズバシイン!
「あがっ……!」
紗良が宙で硬直する。鞭打たれる痛みは(他の苦しみに比べれば)たいしたことはなくても、その衝撃がワイヤーで撥ね返って股間を劇烈に抉る。
ズバシイン!
二撃目で紗良は前へつんのめって――股間にいっそう有刺鉄線が食い込み、同時に喉も締め付けられる。意識を失ったのか、あるいは窒息してしまったのか。紗良はピクリとも動かなくなった。
「ふん……?」
浜村が紗良の首筋に指を当てて脈を探った。首を巻く縄の位置を細かく調節したのは、頸動脈への圧迫を緩めるためだろう。
浜村にはすくなくとも積極的に紗良を殺そうという意図が無いと知って――恵は鼻から安堵の息を吐いた。
「もう火膨れができたか。これを焼きつぶせば、どうなるかな」
青谷が、火傷を負った恵の実核を指でこねくる。
「ん゙ん゙、ん゙ん゙ん゙……」
恵が首吊りの綱を握り締めて、弄虐に耐える。
「そりゃあ、胼胝(たこ)になりますよ。焼き切れなければ、ですがね」
そうなると並みの刺激では感じなくなるが、ふつうの女が悲鳴をあげるほど可愛がってやると、それだけで逝くようになる――こともあると、浜村が実体験に基づいた知識を披露する。
「なんだ、これも二番煎じか。つまらん」
青谷は灰皿で葉巻を揉み消した。鋏で火口を薄く切って、金属の細い筒に入れた。
「たいがいの責めは、先人が実践してますよ。そのぶん、安心して追い込めるというものですがね」
とはいえ、厳しい取り調べに過失事故はつきものだ――と、紗良と恵を交互に見比べて脅かす浜村。
「事故が起きてもかまわんとおっしゃるなら――火の次は水ということになりますが、ちと趣向を凝らしますかね」
フンと肩をすくめて、青谷は部屋の隅に引っ込んだ。折り畳み椅子を広げて脚を組んだ。
「では、被疑者をお借りしますよ」
首を吊られて爪先立ちを続けている恵の足に、浜村が別の滑車から垂れている綱を結び付けた。
「せえの」
恵の足が床からはなれて、恵は斜めになって宙に浮かぶ。
「ぐっ……むうう……」
綱をつかんでいても容赦なく喉を締めつけられて、傷だらけの裸身が宙でくねる。
「淀江巡査、持っていてくれ」
綱を淀江に持たせて、浜村は戸棚の受け金具から首吊りの綱をはずした。
逆さ吊りにされて頭に血が下がったが、窒息の恐怖から解放された。
浜村は手首の縄もほどいて、後ろ手に縛り直す。
「鼻を洗濯バサミあたりでふさぐと、水責めもすこしは楽になる。だが、その逆だと……どうなるかは、自身で体験してみろ」
鼻から水を吸い込む苦しさは、尋常小学校での水連で恵も知っている。まして、逆さ吊りにされて顔を水に突っ込まれたら……
しかし、浜村の企む水責めは、そんな生易しいものではなかった。
浜村は恵の頭が床すれすれになるように綱を受け金具に固定した。
「こっちを引っ張ってくれ」
首吊りの縄が引かれて、恵の裸身が斜めになる。苦しいが、全体重が掛かるわけではないので息はできた。
これまでに何度か使われた大きなバケツを、浜村が滑車の真下に置いた。
「ゆっくり下ろしてくれ」
恵の頭が振り子の軌跡を描きながら下がっていく。バケツが常に頭の下にくるように、浜村が動かしていく。
頭が水に浸かり、目が没して――鼻に水が流れ込んできた。
「んぶ……ぶぶぶ……」
鼻から息を吐いて――これでは、すぐに苦しくなると気づいて息を止めると、鼻の奥がキインと痛くなってくる。我慢できずに、すこしずつ息を吐く。
やがて目の前が赤く染まって、それがだんだん薄れて暗くなっていく。頭が割れるように痛む。
何十秒、いや数分か。頭痛と胸の痛みとに耐えきれず、恵は肺に残っている空気をすべて吐き出してしまった。ボコボコと水面で泡が弾ける。
前に顔をバケツに浸けられたときは、このあたりで引き上げてもらえた。しかし今回は――十秒二十秒と経っても、首の縄は緩んだままだった。
(殺される……?!)
これまで、逮捕されるまでは想像もしなかった恐怖をさんざんに味わってきたが、生命の危険をここまで感じたことはなかった。
(もし、この瞬間に自白するつもりになっても、わからないでしょうに?)
そんなことを考えるだけの余裕も、すぐになくなる。息を吸いたいという衝動だけが残って――しかし、身体の防御反応がはたらいているのか、水を吸い込むことだけは免れているのだが。
ビクン、ビクビクッと身体が痙攣するのが自分でわかった。これが断末魔というものだろうと、恵は朧にかんがえる。この痙攣が止まるとき、自分は死ぬのだ……
ぐいっと喉に圧力が加わった。
ザバアッ……
目の前が明るくなった。しかし、恵の苦しみは終わらない。いや、いっそう鮮烈になった。
「ぐぶっ……ぶふっ、ぶふっ……」
息を吸い込むと同時に、顔から垂れている水も一緒に吸い込んで、喉が灼けた。口でも息をして、猿轡に浸み込んでいる大量の水が喉に流れ込む。ほとんど――恵は空中で溺れかけていた。
「おまえに赤本をくれたヤツは誰だ?」
浜村の声が降ってきた。なぜか上っ調子に聞こえる。
その理由は、恵にもわかってしまう。浜村の本音としては、自白を求めていないのだ。恵が自白しなければ、さらに拷問を続行できる。それがわかっていながら、恵は頭を横に振るしかない。
「そうか。山崎華江は最後に取調官のワイシャツを着せられて、ここから出て行ったな。川瀬弓子は浴衣だとさ。しかしおまえは――経帷子を着ることになるかな」
つぎは死ぬまで続けるという脅しだった。
恵は、むしろ安らぎをさえ覚えた。これが最後の苦しみ。そして訪れる永遠の安息。
(ユリお姉様……)
これまでになく鮮烈な映像が頭に広がった。ユリは――恵との肉の交わりのときに見せるような、苦悶とも恍惚ともつかない妖艶な表情をくっきりと浮かべている。それは、恵の識閾下に生じた『真実』への洞察かもしれなかったが――恵の表層意識は、天国での契りといったふうにしか理解しなかった。
今度は一気に、顎まで水面下に没した。頭をバケツの底にぶつけたほどの勢いだった。
「んぶっ……」
不意を衝かれたショックでいきなり大量の息を吐いて、たちまち苦しくなった。
しばらくは息を止めていたが。
(もう、いい。苦しみが長引くだけ……)
息を吐いてしまえば、苦しいのは束の間。すぐ楽になれる。悲壮――の念は、なかった。恵は深呼吸をするように大量の息を吐いた。
頭が割れるように痛くなって、喉が灼けるように痛み、眼前の色が赤から暗黒へとうつろっていき――全身の痙攣が始まる。
痙攣が途絶えるまで、恵の凄惨な裸身はそのままに留め置かれた。
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ああ、もちろん。根っ子はフェミニスト(厭よ厭よも好きのうちを、ちゃんと理解してあげます)の筆者ですから、殺してはいません。ていうか、殺したらドンデン返しマゾ牝2匹狂艶の第4章が消滅します。息をしなくなって数分以内だと、ほぼ確実に蘇生します。若干のリスクはありますが、それを恐れていたら飛行機には乗れないし自縛遊びもできません。
問題は、むしろ……ここまではPLOTを固めてあったけれど、4章と短い5章はおおまかな筋だけで、かなり(ヒロインの心境変化=マゾ開眼)無理のある展開を乗り切れるのか――です。もちろん乗り切りますとも。ここまで400枚以上書いてきて、投げ出すものですか。ただ、乗り切り方の切れ味がどうなるかが、さてねえ?
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