Progress Report 6:赤い冊子と白い薔薇
Progress Report 5は、ひとつ下です。
四.入替
・女教師の尋問
翌日は午前中に紗良だけが取調室に連行されたが、一時間もしないうちに房へ戻された。分厚く血糊がこびりついていた股間は、白色の蝋に埋め尽くされていた。つまり拷問ではなく、乱暴極まりない消毒をされたのだった。
そうして次の日は、恵だけに――これは、厳しい拷問が行なわれた。
さすがに有刺鉄線は巻かれていないが、素線の毛羽立つワイヤーを跨がされて、両足に四つのコンクリートブロックを吊るされた。腕は高手小手に縛られ、前のときとは違って身体を支える縄は一切掛けられていない。全体重の二倍が股間にかかるという――恵にとっては初めての苛酷な試練だった。後ろ手を伸ばして引き上げられる肩の鈍い痛みは無く、股間の激痛は倍にも感じられる。
恵をワイヤー上に据えると浜村が取調室から出て行き、残るは荒島と青谷と淀江。しかし、誰も恵に尋問しようとはしない。淀江は退屈そうにしているが、荒島も青谷も持ち込んだ書類を熱心に調べている。ほかの仕事に追われながらも小娘を甚振る時間を確保する――その歪んだ熱心さに、恵は呆れもした。
恵が脂汗にまみれながら呻吟を続けること十分、いや三十分だったか。
取調室のドアが開いて――ひとりの女性が、部屋の中に突き飛ばされた。その姿を見るなり、恵は叫んでいた。
「お姉様っ……?!」
ぐしょ濡れのブラウスに下着の線を浮き上がらせた石山ユリ――恵が命を賭して庇い通そうとした、その人だった。後ろ手に嵌められた鉄枷を見れば、ユリがささやかな容疑で勾引されたのでないことは明白だった。
ユリを連行して戻ってきた浜村が、芝居がかった台詞を口にする。
「ひさしぶりの教え子との対面だ。言葉のひとつも掛けてやれ」
濡れそぼってパーマの崩れた髪を泊がつかんで引き起こし、ユリを恵の前に立たせた。
「なんてことを……!」
恵の血まみれの股間に食い込むワイヤーを見て、ユリが絶句する。
「この子に罪はありません。あの冊子は、わたしが勝手に押しつけたのです。この子は、内容をろくに理解できていません」
「まあまあ……」
恵を庇おうとする女教師に、荒島がゆっくりと手を伸ばす。ユリは身じろぎもせずに、乳房をつかまれるにまかせている。
「物事には順番がある。教え子が素っ裸だというのに、女先生だけが服を着ているのは不公平とは思わんかね」
「わたしを辱めるのなら、どうぞお好きなように。でも、この子は赦してやってください。政治にはなんの関心もない平凡な女学生にしか過ぎません」
「平凡ではなく変態だと思うが――ともかくも、おまえの望み通りに辱めてやろう」
荒島はブラウスの襟を両手でつかむと――
ビリイイイイッ……
一気に引き千切った。ユリは仁王立ち(という言葉がふさわしいと、恵は思った)のまま、荒島を睨みつけている。
乳バンドを毟り取られスカートを引きずり下ろされ、腰を申し訳程度に蔽っている下穿きを引き千切られて――全裸にされてもなお、微動だにしなかった。
「これで気が済みましたか。恵さんを、その忌まわしい仕掛から下ろしてやってください。乗れと言うなら、わたしが乗ります」
(お姉様は、この拷問の恐ろしさをわかってらっしゃるのだろうか?)
わかっているに違いないと、恵は自分に即答した。この痛みは具体的に想像できなくても、股間から太腿に伝う鮮血を見れば、ワイヤーの残虐さは容易に理解できる。つまり――我が身を犠牲にして教え子を、それとも年下の愛人を助けようとしてくれている。
「おまえを愉しませるわけにもいかん」
荒島が反語的にうそぶいた(と、恵は理解した)。
「この小娘を助けたければ、正直になにもかも白状しろ。おまえは、アカ本を誰からもらったのだ? 古本屋で買いましたなどとふざけたことをいうと――」
荒島が、恵の斜め後ろに動いた。恵の腰を両手でつかんで――前後に揺すった。
「ぎゃわああああっ……やめて、やめて!」
荒島が手を放して、冷たい声で宣告する。
「おまえではなく、可愛い教え子が苦しむことになる」
「……………………」
ユリは唇を噛んでうつむき、十秒ほども悩んでいたろうか。
「言えません……」
ポツリとつぶやいて。不意に激した様子で、言葉を継ぐ。
「卑怯です。なんの罪もない恵さんを使って脅すなんて。罪を犯したのは、わたしです。責めるなら、わたしを責めてください」
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、というやつだ」
荒島が、今度は壁に掛けてある竹刀を手に取った。
「おねえ……先生。こんな脅しに屈さないでください。竹刀で敲かれるくらい、平気です」
さっきは思わず『お姉様』と言ってしまったけれど、それではますます二人の緊密な仲を悟られてしまうと――言い直したのだが。竹刀で平気なら鉄鞭にしてやろうか――荒島なら、それくらいは言いだしかねないと、そちらは忘れていた。
「まあまあ、課長殿。どうせ、こいつは筋金入りの党員でしょう。そう簡単には口を割りませんよ。それよりは――願いを叶えてやって、恩を売っては如何でしょうか」
浜村が奇妙な進言をした。いや、最初からそういう筋書きだったのかもしれない。
「ふむ。では、キミに任せてみるか」
荒島が後ろに下がって、折りたたみ椅子に座った。
そのときになって、ようやく恵は――今日に限って、尋問用の大きな平机が壁のそばに寄せられていることに気づいた。具体的になにをされるかはわからないが、恵とユリを甚振るための準備だとは、容易に知れた。
意想外にも、浜村はユリの手枷をはずした。
「両手を頭の後ろで組んで、脚を横に開け」
ユリの顔に微妙な翳りが浮かんだ。当然だ――と、恵は思う。縛られて破廉恥極まりない姿にされるのではなく、自らの意志で、股間も胸も腋の下まで無防備に曝すというのは、むしろ恥辱は深いのではないだろうか。
「これから十五分、おまえがその姿勢を崩さなかったら、瀬田恵をワイヤーから下ろしてやろう。言葉に嘘偽りのない証として、まずは責めを緩めてやる」
恵の足から、四つのコンクリートブロックが取り除かれた。
ほふうと――恵が息を吐いた。もちろん、幾分やわらいだとはいえ、数日前の恵なら声を限りに泣き喚いている激痛に違いはない。それだけ、恵は拷問に馴致されていた。
「課長殿。何時何分でしょうか」
「ん? 十時五分だ。つまり十時二十分まで、この女を甚振るのだな」
「さて、ね。時間が来たら、教えてくださいよ」
「承知した」
ユリを甚振るために浜村が最初に選んだのは、水垢がこびりついて黒ずんでいる荒縄の束だった。青谷が恵を打ち据えたときに使った得物だ。それをバケツの水に沈めて、浜村は脇机からワニグチクリップを取り出した。
「ひ……」
ユリが息を呑むのを見て、恵は小さな疑問を抱いた。お姉様は、あの痛みを御存知なのだろうか。もしかしたら――ゴム紐の褌をわざと引っ張って割れ目に弾くくらいだから。自分で試したことがあるのかもしれないと思った。
「動くなよ」
浜村がワニグチクリップをユリの乳首に咬ませた。
「く……」
固く歯を食い縛ってはいるが、悲鳴を無理にこらえているようにも見えない。さんざん拷問されて激痛に馴致されている恵でも、猿轡がなければ絶対に泣き叫ぶ痛みだというのに。
双つの乳首、そして包皮の上から肉蕾にも。
「浜村クン。もう五分が過ぎたぞ」
もっと激しく甚振ってやれと、荒島がけしかける。
「へいへい」
浜村が水浸しの荒縄をバケツから取り出したとき、ユリが懇願した。
「このままで敲くのは……赦してください。千切れてしまいます」
理屈で考えれば、そうなるかもしれない。けれど、察しが良過ぎはしないだろうか。自分でちょっと試したくらいでは、そこまで想像できない。そんなふうに、恵は思う。像(かたち)のはっきりしない疑念が湧いた。が、それは肉を敲くすさまじい音に消し飛んでしまった。
浜村はユリの真正面で脚を踏ん張って、背中まで腕をまわしてから、縄束をユリの乳房に叩きつけた。
ぶゅん、バッッシャアアン!
豊満な乳房がひしゃげて横に流れ、ぶるるんと弾んだ。
「きゃああああっ……!」
絶叫。しかし、ユリは両手を頭に組んだまま、姿勢を崩さなかった。
ぶゅん、バッシャアアン!
「ぎひいいいっ……!」
縄束の往復ビンタを食らって、しかし乳首は無事だった。血まみれにはなったけれど。
「ずいぶんとお淑やかな悲鳴だが、こいつはどうかな?」
浜村の腕がダランと下がった。半歩後ろに引いて、前へ出る動きに乗せて腕が跳ね上がる。
ぶん、バシイン!
「あがっ……」
天を仰いで口を開け――息を詰まらせて悲鳴を吐き出せないユリ。
「おまえは苦痛には強いな。インチキ教師にふさわしく淫乱で破廉恥でもあるし。どうすれば堪えるものやら」
浜村は壁の棚から有刺鉄線の鞭を取り上げかけて、元に戻した。
「これを使っては、生徒を誑かすのが難しくなるか。あちらからお叱りを蒙るだろうし」
つぶやき声だったので恵にはよく聞き取れなかったが――聞こえていたところで、意味は理解できなかったろう。
「我ながら生ぬるいとは思うが……」
浜村が棚から持ってきたのはアルコールランプだった。蓋を開けて芯を引き抜くと、中のアルコールを股間にぶちまけた。そして、マッチで火を点けた。
ボオオオッ……
太腿から股間までが、青白い炎に包まれた。
「くっ……」
ユリは小さく呻いたきり、命じられた姿勢を崩そうとしない。毛の焼ける厭な臭いが恵のところまで漂ってきた。
「ほお、なるほど。これが折檻灸の痕か」
淫叢を失った左右の大淫唇に並ぶ三つずつの黒点の正体を、浜村は即座に見破った。いや、事前に知っていたような口ぶりだった。
「どうせなら、ここまで躾けてやっちゃどうですか?」
浜村が語りかけている相手は青谷だった。いずれは恵が彼の奴隷妻になると見越しての戯言だろう。青谷は、肩を竦めるだけの反応すら示さなかった。
「浜村クン。あと五分だぞ」
「だとよ。最後のひと踏ん張りだぞ」
何を思ったか、浜村はユリの急所からワニグチクリップを取り去った。そして、素手でユリに向かい合う。
「おらあ!」
気合声とともに、浜村の右手がユリの顔を水平にはたいた。
バッシイン!
ユリの顔がひしゃげて横にねじられる。
バッシイン!
手の甲が反対側の頬に叩きつけられて、ユリの顔が反対側へ吹っ飛んだ。
しかし、両手を頭の後ろで組んだ姿勢は保たれている。
浜村が無言で一歩踏み込んだ――と同時に。
ボスン!
拳が腹にめり込んだ。
「ぐぶっ……うええええ」
ユリが身体を二つに折って、胃液を吹いた。しかし、すぐ元の姿勢に戻った。その間、両手は頭の後ろからはなれていない。
ボスン!
ユリが膝を突きかけて――かろうじて踏みとどまった。
「なかなかに生徒思いの女先生だな。いいだろう、瀬田恵は赦してやろう」
(えっ……?)
驚いたのは恵だった。時間切れ寸前だけど、まだすこしは残っている。淫虐非道の男が、まさか仏心を起こしたはずもなかろうに。
戸惑っているうちに、恵はワイヤーから下ろされた。淀江は泊と入れ替わりに退出していたから、泊ひとりが奮闘して――ワイヤーにこれ以上引っ掛かれないような配慮はしなかったので、内腿にまで新しい(小さな)傷ができてしまった。
浜村が恵をうつ伏せに押さえつけ、鉄枷をはずして四肢に別々の縄を巻いた。その縄が一つにまとめられて、滑車から垂れる綱に結びつけられ――恵は宙吊りにされた。
肩が鋭く痛み背筋を激痛が奔り、股関節は重く軋む。
「く、苦しい……」
恵は、できるだけ苦痛を訴えまいと頑張るが、どうしても呻きが漏れてしまう。
「なぜ、恵さんを虐めるのですか。約束が違います」
ユリの抗議を、浜村がせせら嗤う。
「約束どおり、ワイヤーから降ろしてやった。駿河問に掛けないとは言ってないぜ」
浜村がコンクリートブロックを恵の真下へ運ばせた。
「お願いですから、赦してあげてください。背骨が折れてしまいます」
ユリの必死の訴えに、恵はまた小さな疑問を持った。駿河問は体練の上体反らしを深くしただけで――たとえば海老責めに比べれば、そんなに厳しそうには見えない。実際に吊られてみて初めて、その苦しさがわかる。すくなくとも、恵自身はそうだった。
お姉様はなぜ、この責めの厳しさを御存知なのだろう。ことに、背骨が折れるという訴えは生々しい実感がこもっていた。
(もしかすると……)
あのゴム紐褌は、お姉様の発明ではないのかもしれない。誰かに教えられて……その人に、こんな責めまで受けたのではないかしら。浜村や浅利が女体を虐めて愉悦を覚えるように――女の人が女の人を虐めるということも、ありそうな気がする。いつしか恵は、人が性的興奮を求めて人を責めるという図式を自然と受け容れていた。もっとも。仮にユリが誰かから性的な悪戯を仕込まれたのだとしても、その誰かとは女性に決まっている――そんな思い込みに囚われてはいたが。
「では、もう十五分ばかり頑張ってみるか?」
浜村の意図は、恵にもわかった。だから、さっきは制限時間前に赦してくれたのだろう。
「いちいちわたしに尋ねないで、お好きになさってください」
ユリは、まだ両手を頭の後ろで組んだまま――ことさら挑発するように言い放った。
「そうか。ならば、とっておきの責めに掛けてやろう」
浜村が腰をかがめて、平机の下から電熱器を引き出した。雲母の板に彫られた渦巻状の溝の中にニクロム線のコイルを嵌め込んだコンロだ。浜村が、またなにか新手の残虐を思いついたのだろうか。
「か、感電は……厭です」
ユリの声が震えていた。
(感電……?)
恵の中に、また疑問が積み重なった。恵は、まっ赤に焼けたコイルを肌に押しつけられるものと想像して、恐怖に心臓を鷲掴みにされていた。蝋燭やアルコールランプよりずっと熱いだろうし、焼かれる面積も桁違いだ。恵には、電熱器と感電とが結びつかなかった。
「厭なことをしなければ、責めになるまいよ」
浜村は、またワニグチクリップをユリの裸身に咬ませた。乳首と淫核だけでなく、大きくはみ出している小淫唇にも。今度のワニグチクリップには、長い電線がつながれている。
さらに。拷問椅子から棒ヤスリを取り外して、それにも電線を巻きつけて。恵の予想に反して、それは膣に押し込まれた。
「い、痛い……きひいいっ……せめて、濡らしてから……ひいいい」
あれこれ注文をつけるなんて、怖いもの知らずだな――とも、恵は思う。あたしなんか、紗良さんがワイヤーを跨がされているのを見て、竦みあがってしまったのに。
浜村は細引きを使って棒ヤスリが抜け落ちないようにしておいてから。また別の小道具を取り出した。中の火薬や作動機構を抜き取った、先すぼまりの金属筒――信管だった。底部のネジに電線を巻きつける。
「立ったままだと、ひとしお苦しいぞ」
尻の谷間にあてがって、力まかせに押し込んだ。
「ぎひいいっ……」
激痛に膝が砕けたのか、ユリは信管に向かって腰を落とすような動きをした。下手に逃げるよりは、たしかに苦痛は短くてすむだろうが……
り上がっている。そこに電線を巻きつけて。これも潤滑無しで肛門にねじ込んだ。
「さて、これで準備完了だが……」
浜村が背伸びして、電熱器のコードを電球の二股ソケットにつないだ。
右の乳首から延びている電線の先にも、小さなワニグチクリップがついている。それを、ニクロム線の端子に留めた。
「まずは、ここらあたりか」
肥大の乳首から延びている電線を、電熱器の中心にあるネジの頭に近づける。
「あ、あああ、ああ……」
ユリが唇をわななかせる。全身が小刻みに震えている。
電線がネジの頭に触れると同時に――
「ぎゃんっ……!」
ユリは両手で胸を抱えてうずくまった。
(……?)
ニクロム線を流れている電気が分流してユリの身体に通電されたのだと、それは恵にもわかった。
「なんだ、一発で降参か。これでは、愛しい教え子を下ろしてやるわけにはいかんな」
十五分間姿勢を崩さなかったらという条件が、早々に破られたことを言っている。
ユリは、うずくまったまま。胸から両手をはなして四つん這いになっている。
「瀬田恵をブリブリに掛けてやるか」
なんのことか恵にはわからなかったが。
「……縛ってください!」
ユリが叫んだ。
「縛って、身動きできなくしてください。五十ボルトでなく百ボルトでもいいです。こんなに弱っている恵さんにブリブリだなんて――死んでしまいます」
五十ボルトと百ボルト。ユリは浜村の感電責めを正確に言い当てていた。ニクロム線の両端に印加されている電圧は百ボルト。電熱器の中心――ニクロム線のちょうど中間と端子との電位差は半分の五十ボルトになる。百ボルトにするなら、ニクロム線の両端に電線をつなげばよい。英語の教師といえども、女生徒より理科の知識に詳しくても不思議はないのだが。
「へっ。自分から縄をおねだりか。さすがに変態女教師だけあるな。いいだろう。願いはかなえてやるが……後悔するなよ」
浜村はうずくまっているユリの手を後ろ手にねじり上げて、手首を簡単に縛った。腰縄ひとつにも意地悪い趣向を凝らす彼にしては珍しいことだった。
「立って、じっとしていろ」
浜村が新しい荒縄を四メートルほどの長さに切り取った。左手で乳房を鷲掴みにして引っ張り、その根元に右手だけで荒縄を三重に巻き付けた。ひと巻きごとに引き絞り、巻き終えてからもさらに両手で絞りあげる。
ユリの乳房は根元をくびられて、今にもはじけそうなゴム風船さながらになった。
浜村は、もう一方の乳房も同じようにした。左右の乳房をつなぐ荒縄を二つに折り、途中に結び目を作って長さを調節する。荒縄が天井から垂れる綱に結びつけられた頃には、乳房は鬱血して薄紫色になっていた。静脈が浮き出て、色こそ違うがメロンのようにも見える。
浜村が綱を引くと乳房が吊り上げられて――
「泊クン、手伝ってくれ」
ついには、ユリの両足が床から浮いた。
「ぎひいいいっ……ぐううう」
ユリの顔が苦痛に歪んだ。棒ヤスリをねじ込まれたときよりも、ずっと苦しそうだった。
「これで、姿勢を崩したくても崩せまい。倍付けで三十分といくか」
「三十分でも一時間でも、文句は言いません。そのかわり、今すぐ恵さんを赦してやってください」
「文句を言われたところで、電圧が高くなるだけだがな」
また机の下に潜り込んで、浜村が十五センチ立方ほどの鉄の箱を取り出した。
「これは、おまえにもわかるまい。百ボルトを一千ボルトまで高めることもできる変圧器というものだ。今度指図がましい口を利いたら、これを使ってやる」
「死んでしまいます!」
「何百万ボルトにもなる雷に打たれても、死ぬとは限らん。おまえを殺すわけにはいかんからな。そこらへんは工夫してある。河童がダンスを踊って直流になるという説明は珍文漢文(チンプンカンプン)だが――古武術研究会きっての理学博士様のおっしゃることに間違いはあるまい」
「…………」
駿河問の苦しさに呻吟している恵は、そのときユリの顔に安堵の表情が浮かんだことに気づかなかった。気づいたとしても、それをどう解釈するかは別の問題かもしれないが。
「おい、瀬田恵を――そうだな。腹が床に着くくらいには下ろしてやれ」
泊に命じてから、記録係用の小机をユリのそばへ動かして、そこに電熱器を据えた。
「さっきは乳首から乳首で降参したな。今度は降参したくても――そうだ。おまえが悲鳴をあげたり文句を言うたびに、愛しい教え子を五センチずつ吊り上げてやろう。そして、仏の顔も三度。三回目からは五回転ずつ回してやる。縄がねじれきったら、つぎはどうなるか――わかっているよな?」
浜村の長広舌を聞いているうちに、彼の言うブリブリがどういう責めか理解した。弓子は駿河問のままぶん回されて、身体じゅうを敲かれた。きっと、それだ。
(でも、どうして?)
なぜお姉様は知っているのだろう。もしかすると知らないのは自分だけで、そういう嗜癖のある人たちには有名な拷問なのかもしれない。そういう嗜癖のある……? お姉様が?
「ぎゃわあっ!」
ユリの凄絶な悲鳴で、恵の思考は消し飛んだ。
両乳首に百ボルトを通電されて、ユリの身体が反り返っていた。足場を求めてか、両足が宙で踊っている。
電線をニクロム線から離れると、ユリの動きも止まった。
浜村がスイッチを切った。
ニクロム線の端子は電熱器の表面に二か所ある。そのもう一か所に、棒ヤスリから伸びる電線がつながれた。
「やはり、女の大元はここだからな。さて、もう一方は……」
小淫唇を咬むワニグチクリップの電線を床から拾い上げて、電熱器の中心にあるネジの頭に押しつけた。
「かはっ……あ、あああああ、あああ!」
腰がくの字に折れて、小刻みに痙攣している。小さな悲鳴が震えているのは交流のせいだろうか。
通電は十秒ほども続いた。浜村の手元を見ていなくても、ユリの身体がダランと弛緩して通電が終わったとわかる。
「こっちは、どうかな」
今度は、ユリの裸身が一本の棒のように硬直した。
「ぎびいいいい……ああっあああああ!」
太腿の筋肉も腹筋も、ぷるぷると痙攣している。
恵は電線を目で追って、それが肛門に突き刺さった信管につながっていると知った。
「やはり、これが本ボシだろうな」
ユリの硬直が一瞬弛緩して。淫核につながる電線がニクロム線に触れると同時に――
「ぎゃんっ! ぎゃああああああっああっ!」
膣と小淫唇との間で通電されたときとは逆に、腰を突き出すようにして――ずっと激しく、全身が痙攣している。
それも十秒ほどで赦されたのだが。
「これまでは小手調べだ。ここからがきついぞ」
浜村が、またスイッチを切る。ニクロム線の端子につながる二本を除いてすべての電線を撚り合わせ、新たなワニグチクリップに巻き付けた。それを電熱器の中心にあるネジの頭に咬ませた。
「今度は百ボルトだぞ」
(…………?)
恵には理解できなかったが。電熱器はワット数を倍半分に切り替えられる。たとえば半分のワット数に設定するときは、全体を一本のニクロム線として通電する。ワット数を倍にして使いたいときは、同じ長さのニクロム線を二本に分けて並列に通電する。豆電球で考えれば尋常学校の生徒にも理解できるだろう。二つの豆電球を直列につなげば、明るさは半分になる。この豆電球同士のつなぎ目に相当するのが、電熱器の中心でニクロム線を固定しているネジである。もしも豆電球同士のつなぎ目に乾電池の一方の極をつないで、二つの豆電球の線をもう一方につなげば並列接続となって、明るさすなわちワット数は二倍になる。
はたして――浜村は、それまでとは逆の向きにスイッチをひねった。
「ぎゃあ゙っ……!!」
ユリは短く吼えて、全身を硬直させた。全身が激しく痙攣している。息を詰まらせたのか、悲鳴は続かない。
「浜村クン……心臓麻痺は起こさんのかね?」
荒島がしゃがれた声で尋ねた。本気で懸念しているようだった。
「大丈夫でしょう。体幹を電流が流れないよう、乳房と下半身とは回路を分けてあります」
それが、先ほどのややこしい細工だったらしい。
ガクガクガクガクと激しい痙攣が、ピタッと止まった。全身の硬直も弛緩する。
「かはっ……こふっ……はあはあ」
ユリが激しく喘いだ。通電されている間、ほんとうに呼吸ができなかったらしい。
しかし、安息は十秒と続かなかった。
「ぎゃあ゙っ……!!」
再び短く吼えて、痙攣が始まる。
「過熱防止にバイメタルが仕込まれていますからね。空炊きすると、すぐ電気が切れるんです。そして温度が下がると――また地獄が始まるって寸法です」
「まったく……」
荒島が溜め息とともに頭を振った。
「浅利クンとは違って、キミの場合は『芸は身を助ける』の見本だな」
「お陰様で、叩き上げの身で警部を拝命しております」
芝居めかして、荒島に向かって深々と頭を下げる浜村。たしかに――巡査として採用されながら四十歳になるやならずで警部に昇進したのは、異例とはいわないまでも出世頭には違いない。もっとも、彼が荒島の年齢になっても警視正に昇進することなどは絶対にあり得ないのだが。
通電と休止が五度も繰り返されて、その間ユリは自分ではどうしようもない悲鳴のほかは、ひと言も発さなかった。浜村も、駿河問の形のまま床に腹を着けている恵に新たな責めを加えようとはしなかった。
そして、六度目の通電の直後。
「げふっ……」
奇妙な呻き声とともに、ユリがガクンと頭を垂れた。通電されているのに、全身が弛緩している。
「いかん。下ろせ」
明らかな異変に、しかし浜村の声は落ち着いている。
ユリをあお向けに寝かせ、耳を左胸に押し当てて心臓の鼓動を探る。馬乗りになって、両手でグイグイと胸を圧迫する。再び鼓動を探って。上体を抱え上げ、背後にまわって背中に膝頭を押しつけ両腕を斜め上に引き上げて。
「むんっ……!」
グイと背中を突いた。
ユリが目を開けた。
「ぐふ……はあああああ」
生き返って幸せ――そんなふうに、恵には聞こえた。
ユリは焦点の定まらない視線を宙に彷徨わせている。
「一時間どころか、まだ十五分と経っておらんが……」
さらに感電拷問を続けるのかと、恵は戦慄した。と同時に、叫んでいた。
「やめてください! お姉様を殺さないで! ブリブリでもワイヤーでも、あたしを虐めてください」
恵は、発してしまった自分の言葉に恐怖と絶望を覚えた。しかし、後悔はしていなかった。
浜村がニタリと嗤った。
「女先生は教え子を庇い、教え子は女先生を助けようとする。美しき師弟愛だな」
浜村は恵の願いを聞き届けたのだろう。ユリの乳房を縊る荒縄をほどき、股間から棒ヤスリと信管を抜き去った。とはいえ、感電責めそのものを取りやめるつもりも無いようだった。小淫唇のワニグチクリップも外したが、乳首と淫核はそのままだった。
電線を着けたままの棒ヤスリを拷問椅子に戻し、膣用のスリコギには細い銅線を巻きつけた。
「すこしでも瀬田恵に手心を加えてほしければ、自分で座れ」
部屋の中央に拷問椅子だけを据えて、そこを指差す浜村。
ユリがのろのろと立ち上がって、椅子に向かい合った。初めて目にするはずの凶悪な道具立てに、ユリは表情を動かさなかった。
それまでは恥部を隠すこともなくダランと垂らしていた両手を、ユリが動かした。左手で乳房を揉みながら、右手を淫裂に這わせる。
(お姉様……?)
五人もの男の目の前で自慰を始めたユリの立ち姿を、茫然と凝視(みつめ)る恵。
濡れていない状態で拷問椅子に座るのは、ワイヤーを跨がせられると同じくらいの激痛だ。しかし――肉体の苦痛をやわらげるために羞恥をかなぐり捨てて破廉恥な姿態を曝す歳上の女性を目の前にして、恵が心の中に抱く偶像にはっきりと亀裂が生じた。
じきに――ワニグチクリップに咬み破られて血に染まる股間に、透明な汁が滲み始めた。ユリはそれを指に掬い取り、肛門にまぶす。そうして、椅子に背を向けて――じわじわと腰を落としていった。
「く、うううう……」
肘掛をつかんで、ユリはゆっくりと腰を沈めていく。合致していない棒の角度と穴を合わせるためか、微妙に(妖艶に)腰をくねらせる。
凸凹の刻まれた極太の擂粉木は電線を巻かれてさらに凶悪になっている。金属も削り取るヤスリの表面が粘膜を掻き毟らないはずもない。ユリは眉を寄せ歯を食い縛りながら――しかし、わずかに呻くだけで座面に尻を落とした。
「経験豊富な変態女とあれば、小便臭い女学生と同じ扱いでは満足できんだろうな」
荒縄を使って、浜村はユリの腰を椅子に縛りつけた。下乳を巻いて、背もたれに密着させる。両脚は開かせて椅子の脚に緊縛する。縛り終えてから後ろ手に鉄枷を嵌める。そこまでは、恵たちとあまり変わらない拘束の仕方だったが。
浜村は滑車から垂れる綱をユリの首に巻いた。反対の端は、腕をねじ上げて鉄枷につなぐ。
「く……」
限界ちかくまで腕をねじ上げられて、ユリが微かに苦悶を漏らした。これまでの我慢ぶりから考えれば、当然だと恵も思う。恵は、腕をこの形にされて宙吊りにされたことがある。肩の関節が外れそうな激痛だけど、ワニグチクリップとは違ってジワジワと身体に浸み込むような重たい痛みだ。
浜村がコンクリートブロックを持ってきて、それを鉄枷に吊るした。
「あっ……」
恵は自分や紗良に加えられた似たような拷問を思い出して、思わず声を漏らしていた。首吊りにされて、その綱を握らされる。腕を曲げて自分の体重を支えていれば、首の縄は締まらない。けれど、綱を放すと……助け下ろされないかぎりは、死んでしまう。ユリへの仕打ちは、さらに残酷だった。斜めにねじ上げられている腕を、自分の筋力で保持し続けねばならない。懸垂より、ずっと困難だった。
浜村が、恵を振り返った。
「おっと、忘れるところだった。ブリブリをねだられていたな」
言葉で嬲られて、いちいち反応する初々しさは、とっくに摩滅している。けれど、沈黙を続けるのは得策でないと恵は判断した。
「覚悟はしています。でも……お姉様を感電させるのだけは、赦してあげてください」
もはや、『先生』などと体裁を取り繕うことも忘れている。と同時に、言葉尻を捉えられてはいっそうの拷問を課せられることも。
「では、おまえも女先生と同じ条件にしてやろう。悲鳴ひとつにつき、通電十秒だ。それから――そうだな、泣くんじゃないぞ。涙ひと粒でも通電だ」
「…………わかりました」
ほかに返事のしようがなかった。
浜村が荒島に声をかける。
「課長殿。小生は瀬田恵に取り掛かりますので、石山ユリの尋問をお願いできますか」
「上司をこき使うね。配線は、ちゃんとしておいてくれよ」
「へいへい」
浜村は電熱器でなく、真四角の変圧器を拷問椅子の横に置いた。
「それは駄目です!」
恵が叫んだ。百ボルトの通電でも心臓麻痺を起こしかけた。一千ボルトも掛けられたら、確実に死んでしまう。
「おまえがグウの音もあげなければ、どうということもないさ」
変圧器は四つも回路を備えているらしく、上面の各辺にそれぞれ赤と黒の端子が並んでいる。そのうちの一組に左右の乳首をつなぎ、もう一組には淫核を一方の電極として、擂粉木と棒ヤスリとはひとまとめにしてつないだ。チチチッとツマミをまわす。
「赤黒の端子の間に小さなボタンがありますね。それを押している間だけ、その回路に通電されます。河童ダンスとやらの働きで、心臓麻痺を起こすほどの電気は流れないそうですから、遠慮なく哭かせてやってください」
荒島は面妖な面持ちで説明を聞いている。河童のダンス――キャパシタとインピーダンスのことだが、それを理解する素養が二人には無い。
「……いや」
浜村が、これはほんとうにその場の思いつきなのだろう。目をぎらつかせながら、余っている端子に電線をつないだ。電線の端には、一本はワニグチクリップ。もう一本は肛門に使う信管だった。
「通電したときに悲鳴をあげたら、瀬田恵にも電気を味わわせてやりましょう」
ひぐっ……と、息を呑む恵。
ユリは――浜村を睨みつけて無言。
「では、石山ユリはお任せしましたよ」
浜村は恵を床から十五センチの高さまで吊り上げて――裸身を半時計方向へ回し始めた。
・被虐に酔う女
荒島が折りたたみ椅子から立ち上がって、ユリと向かい合う。が、すぐには尋問を始めない。いや――ユリに白状させることはただひとつ。アカ本の入手先。すなわち、より上層の党員の名前。そう簡単に白状するはずもない。無駄に言葉を費やさず、責めて責めて責め抜いて、当人が耐えられなくなれば勝手に自白するだろう。そんなふうに考えているのだろう。あるいは、自白させる気がないのか。新鮮だが実の硬い果実に飽きて、熟しきった柔らかい果肉を貪るつもりなのかもしれない。
「泊巡査部長、手伝ってくれ」
泊にコンクリートブロックを持ってこさせる。
「脚の下に置いてくれ」
よっこいしょと、椅子を後ろへ傾けた。泊が怪訝な面持ちで、その下にコンクリートブロックを掻い込んだ。
「片方だけでよい」
ウンッ……と気合を入れて、残る三本の脚もコンクリートブロックの高さまで持ち上げる。
「対角の位置に置いてくれ」
荒島が手をはなすと、拷問椅子は右斜め前に傾いだ。背もたれを引いて倒すと、今度は左斜め後ろに傾いて、三脚に支持された形で安定する。
「すまんが、しばらくあやしてやってくれ」
責め具造りの職人を父親に持ち、嗜虐に染まった上司の薫陶を受けてきた青年である。たちどころに荒島の意図を察した。
「はッ。こんな感じでよろしいでしょうか」
背もたれをつかんで、前後に揺する。
コトン……コトン……コトン……コトン……
椅子の揺れに合わせてユリの頭が前後に傾き、前に倒されると首の縄がいっそう締まる。そして、二本の棒が股間を抉る。
「くっ……ぐふ……うう……ぐふっ……」
それは、ワイヤーを跨がされたり通電されたりするほどの激烈な苦痛ではないかもしれないが、着実にユリの肉体を苛む拷問のはずだった。
恵は何十回転もさせられて、天井が間近に見えるほど吊り上げられていた。
恵を回していた浜村の手が止まった。ぐるぐる回っていた視界がピタリと止まって――ユリを正面から見下ろす形になった。
(美しい……)
およそ、場違いな感想だった。しかし、息苦しさに口を半開きにしてのけぞり薄く目を閉じたユリの顔には、淡い恍惚が浮かんでいた。
(もしも聖母マリア様が十字架に掛けられたら――こんなお顔をされるのではないかしら)
それは、唐突に拓かれた洞察だった。すくなくとも、敬愛する女性が苦悶と恍惚とを綯い交ぜにしていると、それだけは確信できた。
それを、我が身に引きつけて考える時間は与えられなかった。
「そおらよッ」
掛け声とともに、逆海老に反らされた恵の裸身が勢いよく回された。
「んぐっ……」
凄まじい速さで視界が右から左へ流れていく。遠心力で頭に血が上って頭痛がする。それ以上に、鼻がきな臭い。浜村が荒縄の束を振りかぶるのが見えた。
バッジャアン!
これまでにない激しさで、縄束が乳房を薙ぎあげた。
「ぎゃはああっ……!」
乳房が爆発したような衝撃。恵は絶叫していた。
バッジャアン!
股間に叩き込まれた。淫裂の奥まで先端の結び瘤が食い込み、同時に淫核も打ち据える。
「ぎゃわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
傷ついた獣のような咆哮。
さらに荒縄の束が恵の全身に驟雨のごとく降り注ぐ。腋、脇腹、乳房、下腹部、太腿……吊っている縄のよじれがほぐれて床が近づくと、四肢の間を縫って背中まで打たれた。
ガクンと肩を蹴られて、回転が止まる。
「盛大に啼いてくれたな。愛しのお姉様を庇っているどころじゃなかったか」
一瞬、浜村の言葉がわからなかったが。
「ああっ……」
悲鳴だった。
「お姉様ッ……ごめんなさい」
忘れていた。恵が一回悲鳴をあげるごとに、ユリは十秒間の通電を受ける。それも百ボルトではなく、変圧器で高められた電撃を。
「待って……せめて、半分はあたしを感電させてください」
運が良ければ(それとも、最悪?)二人そろって死ぬことになる。天国でまっとうされる恋。そんな甘っちょろい感傷が胸をよぎった。同性の肉愛を神は認めていないという事実など、初めて口を吸われたときから(敢えて)忘れ果てている。
「あわてるな。おまえにも、たっぷり味わわせてやる――多分な」
荒島が机の端に置かれた変圧器に両手を伸ばすのが、恵の位置からも見えた。
ビクンッと、ユリの裸身が硬直した。
バチバチチッ……
線の巻き付け方が弱くて接触不良を起こしているのか、百ボルトよりずっと高い電圧に電線の絶縁が破れたのか――ユリの尻の下から青白い火花が散った。
「かはっ……!」
ユリは痙攣しながら、悲鳴をこらえているのか息を封じられているのか。
半ばは意志の力で斜め上に引き上げられていた腕が、コンクリートブロックの重みに負けて水平まで垂れた。ユリの顔がいっそうあおむいて、半開きの口から泡がこぼれる。
「やめて……やめて! お姉様が死んじゃう」
「涙を流すと、また通電が長引くぞ」
浜村の冷酷な声。
「あ、あああああああ……」
恵は声を押し殺して嘆いた。ぶるんと頭を振って涙を振り払うと、両眼を固く閉じた。そうして、三十秒か一分か……
「げふっ、かはっ……はあはあ」
ユリの荒い息遣い。目を開けると、浜村がユリの腕をねじ上げて、首の縄を緩めていた。通電も止まっているらしい。ユリは顎をわななかせながら息を貪っている。
「声を出したな。さすがは女先生。教え子にも感電とはどういうものか教えてやりたいというわけか」
ユリは悲鳴をあげたわけでもなく、声も発していない。しかし浜村は、ユリが発した音をとがめた。恵に通電するための口実なのは明白だった。しかし、ユリが抗議をすれば、それも口実にされる。
だからユリが沈黙を保っているのは致し方のないことではあったが。力無くうなだれている彼女の顔に、なぜか恍惚めいた色が浮かんでいるように、恵には見えた。
恵の淫裂を信管が抉じ開けた。直径は太いけれど。円錐形になっているからいきなり極限まで拡張される苦痛は薄かった。なによりも、表面が(擂粉木よりも棒ヤスリよりも男根よりも)滑らかだった。わずか一週間前には未通だった穴が、恵にそれほどの苦痛を与えることもなく、ツルリとそれを飲み込んだ。
淫核をワニグチクリップに咬まれてさえも、悲鳴をあげればさらにユリが苦しむことになるという思いもあっただろうが、皮を剥かれて実核に咬みつかれたときに比べれば、じゅうぶんに耐えられた。それは――ワニグチクリップが前よりも小さかったせいなのか、包皮のおかげなのか、自分の肉体が疲弊しているからなのか、それとも苦痛に馴致されたゆえなのか――おそらくは、そのすべてなのだろう。
「課長殿、お願いします」
言葉が終わらないうちに。膣の内部から刃物で四方八方に切り裂かれるような、淫核が爆発したような、敲かれる痛みとは異質な衝撃が股間を貫いた。
「ぎゃがっ……!!」
短く叫んで、声が出なくなった。腰が激しく痙攣する。いや、跳ねている。吊られている全身が軋む。視界が溶暗して、白熱の閃光が飛び交う。それが果てしなく続いて――パタッとやんだ。
「ふううう……」
ようやくに息を継げた。
感電は、ひどく後味の悪い責めだった。股間には、まだ不気味な鈍痛がわだかまっている。これに比べたら、激しく敲かれたあとは、鮮烈な痛みの中に爽快感さえあった。縄束にしろ拳骨にしろ、目を見開いてさえいれば、自分を痛めつけるものの形が見えている。けれど電気は目に見えない。それが不気味さの正体かもしれない。
ワニグチクリップが取り去られ女の穴から信管が抜き取られて、ふたたびブリブリに掛けるために身体を回され始めると――むしろ安堵してしまった。
お姉様は――と、ゆっくり回る視界の中に姿を探すと、ワニグチクリップを着けられ二穴を責め具に貫かれたまま、また椅子を揺すられていた。首吊りの綱に連結された腕は水平よりも下がって、窒息しかけている。前後に揺すられる動きでわずかに綱が緩んで、そのたびに喉がヒュウヒュウ鳴っている。
そんなふうに死と向かい合っているというのに、ユリの顔には妖しい恍惚が浮かんでいた。
駿河問の縄がいっぱいまで撚れて、ふたたび恵は激しくぶん回された。今度は縄束ではなく竹刀が、裸身に襲いかかる。恵は歯を食い縛って、ついに悲鳴を封じ込めたのだが。
縄の撚りがほどけて、そのまま回転を続け――浜村と泊の二人がかりで蹴飛ばされ殴りつけられて、また天井近くまで吊り上げられて。三度目のブリブリが始まる。鮮明な鞭痕こそ少ないが、すでに全身が痣だらけになっていた。
――朝の九時から恵への拷問が始まって、ユリが連れて来られたのは九時半過ぎだったろうか。ユリへの小手調べと電熱器を使った感電責めが十時過ぎまで続いて、恵へのブリブリがそれから三十分余り。十一時前には、二人とも失神寸前に追い込まれていた。どちらも股間は血まみれだが、全身が鞭痕や痣で覆われているぶん、恵のほうがより激しく拷問されたように見える。しかし恵にしてみれば、感電責めを受け続けたユリに同情する気持ちになっている。
「昼休みまで、あと一時間か」
荒島が腕時計を見ながら、ちょっと思案する。
「午後からは稲枝紗良も尋問する予定だったな。ついでだから、連れて来い」
なにが、どう、ついでなのか――と、内心で皮肉る気にもなれない。
すぐに紗良も取調室に引き据えられた。
「これまでにも相乗りさせたことはあったが、三人まとめてというのはなかったな」
荒島の発案で、三人ともに一本のワイヤーを跨がせられた。まん中がユリ、ユリの前に紗良、ユリの後ろに恵という並び順だった。
「どうせなら、あれこれ盛り込みましょうや」
浜村が、新しい玩具を与えられた男の子みたいに(しては、目の色が淫欲に滾っているし、浮かべる笑みも酷薄に過ぎたが)はしゃいで、いそいそと立ち働く。
その結果――三人の首には縄が巻かれて、天井からワイヤーと平行に吊られた六尺棒で折り返され、頭上で縛られた手首につながれた。自分で自分の首を絞めてワイヤーの激痛をやわらげるか、窒息を免れて股間を痛めつけられるかの二者択一だった。
浜村は、まだユリの淫核を咬んでいたワニグチクリップをはずして――包皮をめくってから着け直した。
「くううう……」
恵と紗良にも、同じように咬みつかせる。
「きひいい……」
「痛い……ぐううう」
何度も同じ責めを受けてきた恵と紗良の悲鳴のほうが、ユリよりも大きかった。
浜村はワニグチクリップを絶縁テープで包んで、ワイヤーに金属が触れないように処置した。
電熱器が床に置かれて、ニクロム線の一端とワイヤーが電線でつながれた。淫核を咬むワニグチクリップは、電熱器の中心でニクロム線を固定しているネジの頭に。
「二時間ぶっ通しとなると――三十三ボルトでも危ないかな」
浜村が首を傾げながら、電熱器のスイッチを『強』の側にひねった。
「ぎゃんっ……!」
「きゃあっ……!」
「ぎひいい……!」
三人三様に叫んだ。
「ち、違う……これ、ひゃ百ボルトです」
ユリが舌を震わせながら抗議した。
「ん……? 三人だから百割る三のはずだが」
「それは並列接続になっていますよ」
それまで黙って見物していた青谷が、面倒くさそうに指摘した。
「マンコを共通電極にするのだから、直列は無理ですね」
浜村はスイッチを切って考え込んだが、すぐに肩をすくめた。
「高文さんのおっしゃることだから、正しいんでしょうね。それじゃ……」
カチカチッと『弱』の側にスイッチを切り替えた。
淫核の爆発がずっと小さくなった。小淫唇はピリピリと震えているが、淫核の痛みとは比べものにならない。それも、三十秒ほどで終わって――ニクロム線が冷めて通電が再開されるまで十数秒の安息が訪れる。
しばらく三人の様子をうかがっていた浜村だが、これならじゅうぶんに安全だと判断したのだろう。
「課長殿。時間もたっぷりあることですし。大物を逮捕した祝いに鰻丼をおごってくださいよ」
厚かましいことを言う。
「ふん。それもいいか。午後からは石山ユリをたっぷりと――おい、悦ばすことになるんじゃないのか」
「さて……逝き狂わせるのも拷問にはなりますよ」
「では、浅利クンも呼ばねばなるまい」
ワイヤーの上で窒息と感電責めに悶える三人の生贄を放置して、鬼畜どもは立ち去った。

ようやく、新章突入です。
書いているうちに、ふと……これまで、複数ヒロインを登場させたときは例外なく強制レズがありました。それが、今回のプロットには欠落していました。ハードな責めを思いきり書き散らしたいという妄想竹の繁茂にまかせた結果ですが。
しかし、これを挿れておくと、終盤でヒロインが悦虐に目覚めるというシーケンスが破綻無く進むのではないか。
思慕する女教師のユリを変態と認識して、共に地獄に墜ちる決心を固めさせるとか。
ということで。
この後しばらくは幕間みたいなシーンがあって、上記のような画像のいずれかにたどり着くのです。
さて、そのシーンが次のProgress Reportになるか、ずっと先まで進んでいるかは――筆者にもわかりません。
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