Progress Report 4:濡衣を着せられた娘

 いよいよ、第三幕に突入。
 第二幕より拷問の種類は多いですが、ストーリイはすでに語られ尽くして。あとは、ひたすら責めシーンの連続。SM小説を書く醍醐味ではありますが。
 短めなので、第三幕の冒頭から、昨日書いたところまでを一挙公開。

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第三幕 拷問蔵

 千代の処刑まで三日を残すだけとなった、その日。残谷郷門は城下奉行から火急の呼び出しを受けた。
「間に合ったか」
 郷門は不敵につぶやいて、直ちに奉行の許へ参じた。
「これを見よ」
 奉行が格式張って郷門に手渡した書状は、隣国の家老から当家の城代家老へ宛てた公文書の写しだった。郷門は作法通りに書状を展げて、一瞥しただけで思っていた通りの内容であると知った。が、畏まって隅から隅まで目を通してはおく。
 横っ飛びの銀次と称する破落戸が商家に押し入って、直ちに捕縛され、吟味の末に余罪を白状した経緯が記されていた。人相風体から目を逸らさせようとして、諸肌脱ぎに墨で刺青を模した紋様を描いての急ぎ働きではあったが、間抜けなことに丁稚に逃げられ、もたついているうちに捕方に囲まれて捕まった。こうなると、目晦ましもへったくれもあったものではない。
 吟味が進むうちに、他国での同様の犯行を密告する者があり(とは、書状に記されていなかったが)、さらに厳しく追及したところ、筋彫お蝶の一件を白状するに至った。
国境を越えての凶行なれば貴国に御報せすると倶に御公儀にも届出たる次第
右御承知置き願い度
「実に容易ならざる仕儀じゃ」
 三井が頭を抱えるのは、事が御公儀にまで達したという、そのことだった。
 銀次の自白にようと、筋彫お蝶には刺青など無く、刺青を模した肉襦袢を着込んでの所業である。千代の申し立てとぴたり一致する。即ち、千代は無罪。しかし、すでに死罪の沙汰を下してしまった。取り消そうものなら、御上の権威に係わる。とはいえ死罪を強行すれば、隣国からの報せを蔑(ないがし)ろにしただけならともかく、万一にも御公儀から照会があったときに申し開きのし様も無くなる。
「処刑を繰り延べれば宜しいかと」
 郷門は、あっさりと言ってのけた。
「さいわい、処刑の期日は公にされておりませぬ」
「じゃが、裁きを下してから一月を越えて処刑しなかった先例が無い」
「そこで、この書状が役に立つのでござる。筋彫お蝶一味が奪った金は三百五十余両。しかるに、銀次どもは捕らえられたときに、三人併せて五両しか持っておらなんだと書かれております。これは、お蝶が独り占めしたと考えるべきでしょう。ならば、金をどこに隠したか、是非にも白状させて取り返し、盗まれた者に返してやるのが、御政道に携わる者の務めではありましょう」
「ふむ……」
 三井はしばし考える。貫目屋は娘への連座ではなく別途に処分されたのだから、もはや千代を是非にも処刑する名分は失せた。後は、御家大事、我身大事だけ。
「本物のお蝶が他国で捕らわれたときは、どうする。辻褄が合わなくなるぞ」
「千代を生かしておけば、何とでも取り返しがつきましょう。すくなくとも、無実の者を処刑したよりは、御政道に付く傷も瑕瑾に留まります」
 楓が捕らえられる懸念など微塵も無いとは、手の内を明かさぬ郷門だった。楓が死んでいると三井が知れば、死人に口無しとばかりに処刑を強行しかねないと読んでいる。
 一旦は諦めたものの、うまうまと掌中に転がり込んだ、いや実のところは扇之介や街道の親分筋に借を作ってまで強引に転げ込ませた珠。砕かれては、たまったものではない。
「しかし、いつまでも牢に留め置くのも拙い。ことに、吟味もせず無駄飯を食わせておくなど、いずれは外にも聞こえよう」
「あの娘は、数々の拷問にも屈しなかった強か者。斯くなる上は、拙者が身柄を預かって、弾正一流の拷問で厳しく責めて白状させる。という筋書は如何でござろうか」
「その方で預かる、とな……」
 三井とて阿呆でもなければ耳が聞こえぬでもない。残谷の嗜癖も些かは知っている。しかし、厄介事がおのれの管掌から消えてくれれば、それで良い。いざとなれば、こやつに腹を切らせれば済む。
「よかろう。お主に任せる」
 こうして、千代の運命はまたしても大きく捻じ曲げられたのだった。


 第一場 盗金所在

 吟味を受けていた者も牢へ戻され、囚人どもは夕食までの退屈な時をもて余すだけという刻限になって。
「筋彫お蝶こと千代。牢替えじゃ」
 不意のことに、女囚どもがざわめく。いよいよ明日にでも処刑の運びとなって、最後の一夜くらいは静かに過ごさせてやろうというのか。前例の無いことだったが、そうとしか考えられない。
 着た切り雀の黄八丈の上から縄打たれて、牢屋敷の中を引き回され、ついには裏庭へと連れ出された。そこには役人の姿は見えず、尻を絡げた荷運び人足が二人と大八車。
 千代は二人の顔に見覚えがあった。掛同心八戸様の上役で、拷問に立ち会って御定書に無い制外の残虐な責めの陣頭指揮を執っていた残谷様。その手下の人たち。
 千代は厭な胸騒ぎに襲われたが。どうせ生を諦めた身。女淫を槍で貫かれるより酷いこともされまいと、おのれに言い聞かせて。大八車に積まれた細長い箱の中へ、大菱縄を掛けられたままおとなしく押し込まれたのだった。
 箱に蓋がかぶせられ縄で荷造りされ(たのだろう)、ガラガラと大八車が動き出した。
 もう大昔のように思えるけれど。すべての発端。拐わかされて棺桶に押し込まれて鬼と夜叉の巣へ運ばれたときを思い出した。あれに比べれば、身体を伸ばしているだけ楽だった。揺れがガタゴト身体に伝わって痛いけれど。
 それに、あのときは。何をされるかと生きた心地も無かったけれど。今は何をされても構わないと一切を捨ててかかっているから、何も怖くない。おのれに、そう言い聞かせる千代だった。

     毛粧焼

 並の荷運びと違って、大八車は歩くのと変わらぬくらいにゆっくりと動いて、それでも小半刻とかからず目的地へ着いたようだった。箱に入れられたまま担がれて、何十歩かを運ばれた。
 そうして箱の蓋が開けられて。石畳の床に転げ落とされて。千代は最初、また牢屋敷へ、それも吟味部屋へ戻されたのかと思った。しかしすぐに、そうではないと悟った。
 間口奥行ともに、吟味部屋より五割は広い。一角には狭い牢屋まで設けられている。そして、拷問の道具立としか思えない奇怪な調度が、壁の三面を埋めてびっしり並んでいた。
 キの字形をした磔柱、水平に寝かせて宙に支えられた梯子、三角の胴をした首の無い大きな木馬、大きな箱に下半分を隠されている水車、人の背丈ほどもある桶。仕置柱もあれば、ずっと細い竹まで何本も床に植えてある。天井には滑車が四つも吊られていて、そのひとつは複雑な組滑車だった。
 千代の前に立ったのは、これは予期していた通りに残谷郷門だった。背後に二人の女性(にょしょう)が控えているが、もちろん千代の知らない顔だった。
「御取調に手落ちがあった。よって、処刑を延期して再吟味いたす。盗んだ三百五十両もの大金を何処(いずこ)に隠したか。素直に申さば、格別の慈悲をもって、苦しまずに死ねるよう計らってやる。吐かねば、磔よりもよほど恐ろしい生き地獄を味わわせてくれるぞ」
 あっと思った。
 これまでは濡衣を認めるか認めないか、その一点を巡る吟味であり拷問だった。両親に連座が及ばないと知って虚偽の白状をして、それで楽になれた。
 けれど。はい、いいえではなく。知らないことを白状しろと迫られては、答えに窮する。道具立を見るからに、吟味部屋よりも格段に恐ろしい拷問。それから逃れる術(すべ)は、無さそうだった。
 そうだ……咄嗟に閃くものがあった。
 千代も牢獄の中で、ただおのれの悲運を嘆き悲しんで日を過ごすばかりではなかった。ことに、拷問の傷に呻吟していないときは。ふとした出来心で罪を犯した堅気の女(ひと)の身の上話に同情したり、男を手玉に取った遊び女の手練手管に感心したり、男顔負けの荒事をしてのけた女渡世人の武勇伝に聞き惚れたり。この一月ほどの間に、貸本の百冊を読んでも得られないほどの世間知、大方は悪知恵が身に付いた。
「申し上げます」
 千代は縛られた身を起こして、郷門に向かって正座した。
「盗ったお金はすべて、銀次たちに持ち逃げされました。ですから、わたしはしょうこと無しに、お父っつあんの寮へ逃げ込んでいたのです」
「なるほどのお」
 物分かり良さそうに、郷門は頷いた。
「では、明朝にもう一度尋ねるとしよう」
 今日のところは身綺麗にしてゆっくり休めと。労るような言葉を口にして。
「この二人に逆らうでないぞ」
 と、二人の女を振り返る。
 郷門は名前すら千代には教えなかったが。三十になるやならずに見えて、その実三十七の太り肉の女は源氏名を芳之、屋敷内ではヨシと呼ばれている、元散茶女郎。残谷に雇われて普段は下女、こういったときには弥助や梅松と同じ役どころをこなしている。
 五十の坂を越えたのはいつの昔かといった細身の女というか老婆は、華扇楼の現役遣手婆の、昔は国松を名乗っていたクニ。郷門が扇之介に頼んで、明日まで借り受けている。
「おまえたちも手伝ってやれ」
 とは、千代をここまで運んできた弥助と梅吉へ。郷門は土蔵の隅へ引っ込んで、愛用の床几に腰を据えた。
 梅吉が千代の背後へまわって大菱縄の縄尻を引くと、ぱらりと解ける。
「羞ずかしいだろうが、おべべを脱いどくれ」
「羞ずかしいものか。この一月あまり、牢の中でも外でも、素っ裸がお仕着せだったようなものだ」
 郷門は、ただ千代を辱しめるためだけに言わでものことまで口にしたのではない。死罪を言い渡された囚人は、往々にしてこの世の一切に関心を持たなくなる。あるいは、見苦しいまでに生に執着するか。そこを見極めようとしたのであるが。郷門の見るところ、千代は前者であるらしかった。
 切支丹も死は怖れぬが、生を捨てはしない。生を捨てた者を責めても、拷問の参考にはならない。郷門自身の嗜癖にも合わない。
(三日五日と責め続け生かし続けてやれば、さて、どうなるかな)
 そのためにも、まずは羞恥心を甦らせてやるべき。クニに処置をさせるのは正解だったであろうと、郷門は自惚れたのだった。
 千代は郷門の言葉が聞こえたのかどうか。言われた通りに淡々と帯を解き黄八丈を脱ぎ、たいしてためらうふうもなく腰巻までもみずからの手で剥ぎ取った。前を隠しもしない。
 遣手婆のクニが、ちょっと呆れ顔。は、すぐ能面の下に隠して。
「ここに寝ておくれでないかい」
 両端を台に支えられて宙に浮いた梯子を手で叩く。
 千代は無表情に片足を高く上げて梯子に乗り、身を横たえた。
 ヨシがてきぱきと立ち働いて、千代を万歳の形にして梯子に縛り付けた。
 千代は表情を動かさない。
 梯子の脇に季節外れの火鉢が据えられて、赤々と炭が熾された。火を囲むようにして、長い針が何十本も並べられるのを横目に見て、初めて千代の表情が動いた。
 かつての千代なら知らず。我が身を様々に甚振られていれば、熱した針がどのように使われるか想像に難くなかった。
「今日は休ませていただけるのではなかったのですか」
 郷門に向けられた千代の言葉には、諦めが滲んでいる。
「身綺麗にせよと言ったぞ。女の身で無精髭なぞ見苦しいわ」
「…………」
 言葉の意味が分からなかったが、重ねて問う気力もない。されてみれば分かることだった。
「一度に全部はとても無理だからね。明日からは、おまえ様がしてやるんですよ」
 遣手婆のクニが、郷門家の下女に言い含めて。毛抜きを左手に持ち、右手の指を唾で湿してから、先端が真っ赤に焼けた針を摘まみ上げた。
 千代の下草は入牢に際しての素肌検で奪衣婆に剃られて、今も二分ほどにしか萌え出でていない。クニはその一本に毛抜きの先を押し付けて根元ぎりぎりを摘まむと、ぴっと引き抜いた。毛根まで抜けて、ぽつんと開いた毛穴に灼熱した針先を差し込んだ。
「きゃあっ……」
 千代が悲鳴を上げたときには、すでに針は引き抜かれていた。
「隣の毛は抜くんじゃないよ。五分くらい離すんだ。そうしないと、火傷がくっついて痕が残るからね」
 使った針は火鉢に戻して、新しい針を摘まみ上げるクニ。
 二本目の毛を同じようにされて、今度は千代は呻き声すら上げなかった。最初は驚いたが、これまでに受けてきた拷問に比べれば、児戯にも等しい甚振りだった。
 郷門としても、これを拷問とは考えていない。亀女が全身剥き身の茹で卵のように無毛なのを見て、思い立ったことだった。女郎の中には、手入れをして五日もすると黒ずんでくるのを嫌って、このように毛根まで焼き尽くす者もいる。
 焼けた針を毛穴に突き刺すといっても、浅ければ一月か二月もすると生えてくるし、深過ぎると肌に痘痕(あばた)が残ったままになりかねない。
 五本、十本、二十本……五十本も処置をしたところで、クニは手を休めた。
「弾正の旦那さん。腋の下もやっつけるんですね」
「うむ」
 淫毛を剃る、一気に燃やす、あるいは、かつて千代が楓からされたように熱蝋を垂らして冷えたところで引き剥がす。こういった羞恥責めを、郷門は幾度か女囚に試みたことはあった。名目としては毛虱退治とか花柳病の検とかだが、実際には、証拠が乏しくて牢問に掛けられない場合の苦肉の策だった。初心な生娘でも、これくらいで白状はしない。だが、羞恥の極みにあるときに尋問すれば、ぽろりと真実を漏らすことがある。それは、ともかく。
 郷門も腋毛を無くすという発想は無かった。亀女を見て、如何にも生き人形に相応しい形だと思った次第だった。
 下腹部よりも腋窩のほうが、肌は敏感である。左右ともに二十本ずつも抜かれて焼かれる間、さすがに千代も苦しそうに呻いていた。
「それじゃ、見ててあげるからヨシさんもやってごらんな」
 ヨシもクニの半分ほどは処置をしたのだが。真っ直ぐに突き刺せなかったり、引き抜くのにもたついて肉を焼き過ぎたりして、何度かは千代に悲鳴を上げさせた。
(それにしても、俺も気の長い男だな)
 郷門は内心で苦笑した。肌を損なわないためには、一日か二日を空けて、一度に焼く量はせいぜい百本までと、クニは言っている。下草は毛の濃い者では五千本以上もあるという。千代は薄いほうだが、それでも千本やそこらはあるだろう。剥き身の茹で卵に仕上がるまで、千代を手元に置いておけるかどうか。しかし、事を急いで、千代の股間に棲む揚羽蝶を損なうつもりはなかった。
「今日は、こんなところさね。後は剃っちまうよ。一厘かそこら伸びてきたら、ヨシさんの出番だよ」
 仕上がるより先に、千代は三尺高い木の上で晒されることになるだろう。

     木馬責

 土蔵の角には、一間四方の牢が設けられている。二面は土蔵の壁、残る二面が木格子。素裸のままで、千代はそこへ押し込まれた。
「そこに把手があるだろ。引き出してみな」
 ヨシに言われて動かしてみると、幅一尺ほどの箱が現われた。砂が敷き詰めてある。奥は仕切られていて朽ち縄が何本か。
「そこが、ええと御牢では詰の神様だっけね」
 つまり厠だった。朽ち縄は跡始末に使うのだと、かつて銀次たちから受けた仕打ちを思い出す。この時代、町方の貧乏長屋でも落とし紙が使われるようになっていたが、農村部ではまだまだ朽ち縄や藁、あるいは木の箆などが使われていた。だから、ことさらに囚人を辱めようという意図は……いや、郷門ならあったかもしれないが。
 しかし、これまでは畳一枚の上で寝起きしていた(それでも平囚人ではなく客分扱いであったが)千代にしてみれば、存分に手足を伸ばせる別天地であった。しかも、煎餅布団まであった。一枚きりだからくるまって寝なければならないが、それでも十二分にありがたい。という感謝の念は、その布団にどす黒くこびり付いている血の痕を見て消し飛んだ。ここは、牢屋敷に勝るとも劣らない地獄なのだった。
 それでも。その日は、白米に鯵の開きに沢庵と味噌汁という、牢内とは比べ物にならない夕餉を出されて、また千代は、ここはほんとうに地獄かと戸惑ったりもしたのだが。

 翌朝は、夜が明けきらぬ内から叩き起こされた。
「出すものは出しときな。木馬の上で粗相されちゃ、こっちがたまったものじゃあないからさ」
 七分粥に梅干ひとつという、前夜にくらべれば質素な、けれど雑穀が混じっていないから牢内よりは贅沢な朝餉を格子の中へ差し入れて、すぐにヨシは立ち去った。
 千代は素直に粥を平らげると、雪隠箱を引き出して用を済ませた。これまでの残谷様の遣り口を思えば、きっとここも甚振られるのだろうと、朽ち縄はほぐして入念に跡始末をした。のは、羞じらいの心が甦った証ではあっただろう。
 半刻もしないうちに、牛頭馬頭を一身に体現した郷門が、三匹の小鬼を従えて地獄に舞い戻って来た。いつもの与力装束ではなく、褌一本の姿だった。
 起きてすぐに身を濯いだままなのかと訝った千代だが、そうではないと気づいた。武家は絶対にといっていいほど、下帯は越中だった。戦場(いくさば)で素早く緩めて用を足すためである。しかるに、郷門が締めているのは六尺だった。
 みずからが大汗を掻くほどにわたしを痛め付ける御積りなのかと、千代は怯えた。死ぬ覚悟はとっくに出来ていたが。拷問をされずに留め置かれること二十日に及んでいる。三日と空けずに甚振られていた頃とは、覚悟の持ち様も違っていた。
 けれど、三匹の小鬼どもはいたって普通の身形、二人の男は尻絡げで、下女のヨシは単衣を襷掛け。それはそれで、残谷様に淫らな思惑があるのかと、これは期待してしまう。埒を明けてくだされば、甚振りも終わるのではないかという……とっくに操とは縁の切れた身の上、女淫でも口でも尻穴でも、それで済めばありがたい。そこまで堕ちている千代だった。
 千代は牢から引き出されて、高手小手に縄を掛けられた。ことに胸縄は厳しく、左右と谷間とで上下を絞られて、縄の中に乳房をつかんで引き出され、さらに根元を締め付けられた。
 四本の脚を二本の橇に乗せた三角胴の首無し木馬が中央に引き出されて。千代は滑車で吊り上げられて、その上に乗せられた。嫌でも三角の稜線を跨がねばならず、稜線は淫裂に食い込んで、鋭い痛みを千代に送り付ける。とはいえ、未だ箒尻を敲きつけられるほどの激痛ではなかった。頂部を取り換えられるこの木馬に郷門が取り付けていたのは、なんの変哲もない三角形の楔だった。それはそれで、じゅうぶんに股間を切り裂くが、鋸刃ほどは凶悪でない。
「では、改めて尋ねるぞ。急ぎ働きで奪った三百五十両は、どこに隠した」
 この御役人様は、まったくわたしの申し立てを信じてくださらない。千代は絶望するとともに、それも当然かと納得してしまった。
 背中に入墨という明白な証拠を背負いながら、筋金入りの極悪人でさえ泣いて白状するという苛烈な拷問に耐えた、強かな女賊。御役人様には、そう思われている。
 その強かな女賊が仲間に裏切られ、盗み金を洗いざらい持ち逃げされたなど、誰が聞いても嘘だと思うだろう。けれど。一晩ずっと考えてみても、これ以上に巧みな言い逃れは思いつかなかった。
「昨日、申し上げた通りです。銀次たちに持って行かれたんです」
 郷門は、千代の言葉は聞き流して。
「長丁場だ。一枚でよかろう」
 弥助と梅吉には、それだけで通じる。十露盤責に使う石板が、長手方向が木馬の橇を跨ぐ形に置かれた。
「ひ……」
 吊責のときに脚を開いて石板を吊るされているから、これから何をされるかは明白だった。
 石板の端に縄が巻かれて、まず片足をつながれた。
「きひいいい……」
 さらに、もう片足も。
「いやあああっ……痛い、痛い」
 石板一枚で千代の目方ほどもある。股間の一筋に掛かる重みが倍になったという、それだけでは済まない。それまでは渾身の力で腿を閉じて、木馬の斜面で幾らかの目方を支えられた。しかし両脚を三尺も開かされては、二人分に匹敵する目方が、鋭い稜線が、女淫に食い込んで柔肉を切り裂こうとする。
 激痛に、千代は身悶えすら出来ない。わずかでも身じろぎすれば、女淫の奥で激痛が暴れる。逆刃に立てた包丁の上で大根を転がすのと同じ結果になりかねない。
 郷門は無言で、食い入るように千代の表情を凝視めている。
 千代はのけぞり、口を悲鳴の形に凍りつかせ、目尻に涙を湛えて。ひたすらに苦悶している。恍惚の色など微塵も無い。
 郷門が、千代を打擲する得物を手にした。箒尻などではなく、先端に鎖の小さな鉄環を編み込んだ縄束だった。しかし、すぐには使わず。
「思い切り揺らしてやれ」
 弥助と梅吉が木馬の前後に取り付いて、足は橇に掛け手は三角の胴体を持って、橇の端が床に触れるまで後ろへ傾けた。石板が振子の錘となって千代の脚が後ろへ流れ、上体は自然と前へ倒れて釣り合いを保とうとする。
「ぎひいい、痛い……お赦しくださいいっ」
 郷門は無言。弥助と梅吉は目配せを交わして。
「せえのっ」
 勢いをつけて木馬を押し出した。
「ぎゃわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……」
 千代が絶叫した。
 ぎし、ぎし、ぎし……木馬が前後に大きく揺れ続け、さながら悍馬を巧みに乗りこなしているかに見える千代は、絶叫を吐き続けたのだが。
「揺すれ」
 郷門に命じられて、二匹の小鬼が揺れの小さくなりかけていた木馬を大きく揺すったとき。
「ぎびひいい……」
 悲鳴が細くなってゆき、
「ああああ、あああっ……」
 両親の媾合いを覗き見た子供が、母ちゃんが虐められていると思い込むほどに、絶頂の声と表情は苦悶のそれと酷似している。しかし、郷門は見誤らなかった。にんまりと形容するにはあまりに生真面目な表情で、ひとり頷いた。
 このとき。たしかに千代は、恍惚の中にあった。薄桃色の靄の中に浮かんで、頭にも身体にも靄が沁み込んでいた。淫裂の奥深くには凄絶な快感の楔が打ち込まれていた。淫核と女穴にも楔が欲しくなって、木馬に揺すられるよりも激しく腰を揺すっていた。
 すでに女穴の前後は木馬の稜線に切り裂かれて、股間は血まみれ。太腿にも伝っている。
「うぐ……」
 郷門の残酷な拷問を何年も手伝っているヨシが、袂で口を押さえて土蔵の外へ逃げ去った。
 しかし、郷門は満足しない。手桶の水に浸けて、ずしりと重くなった縄束を、千代の尻に敲きつけた。
 バヂャン。
「おおおおーっ」
 千代は木馬の上で激しく背をのけ反らせて、はっきりと喜悦の表情を浮かべた。
 薄桃色の靄に包まれて宙に浮いているところへ強烈な愛撫を加えられ、尻が熱く疼いた。
 バヂャン。バヂャン。バヂャン。
 二十日ちかい養生とまではいわぬにしても、拷問を受けることなく傷が癒えていた白い肌がたちまち切り裂かれ、太い痣が刻み付けられていった。
 しかし千代は、肩を敲かれ乳房を敲かれるにつれて全身が蕩けていく。痛くされればされるほど、それを濃密な愛撫に感じてしまう。もう一息で、全身が微塵に砕け散るような快感が訪れる。本能が、そう教えていた。千代は愛撫をねだって全身をくねらせた。
 しかし。
「そろそろ出仕の刻限か。おい、ヨシ。戻って来い」
 下女を呼び戻して。郷門が戻るまで千代を見張っているように命じる。
「教えた通りであろう。こやつ、かほどに責められながら法悦境を彷徨っておる。じきに正気づくのか気を失うのか、はたまた苦しみ始めるのか。その移ろいを、確(しか)と見定めよ。おまえから働きかけるには及ばぬが、水を所望すれば飲ませてやれ。口移しでも許すぞ」
「あい、分かりました」
 稀には男も甚振るが、この拷問蔵へ連れ込まれる者の九分九厘は女である。悦んで主人の手伝いをする女であれば、そういった性癖を持っていても不思議ではない。というよりも、そこに目を付けて雇っているというのが実情だった。もっとも。拷問蔵であまりに閑古鳥が鳴くときなど、この女が、血を見ない程度に甚振られることもあった。そして女も、それはそれで愉しんでいるのではあったが。本筋には関係の無い話であるので、ここらへんで焉めておく。
 千代とヨシを残して、土蔵の戸が閉められる。
 ――強烈な縄鞭の愛撫からは解放されても、股間への刺激は続いている。おのれの目方が倍になって、それを股間の一線で支え続けるという、まともな女なら泣き叫ぶ激痛。しかし、過去に受けた拷問で苦痛に狎らされている千代には、木馬が揺れていない限りは、かろうじて正気を失わないでいられる責めでしかなかった。
 それ故に。千代を取り巻いていた薄桃色の靄は次第に薄れていく……
「く……くうう」
 股間を切り裂かれる痛みに、千代は呻く。快楽すなわち激痛を求めてみずから腰を揺すった報いではあった。法悦境にあっても、千代はおのれの所業を覚えていた。だから。激痛に苦しみながらも、郷門を骨の髄まで恨む気にはなれなかった。郷門が千代を筋彫お蝶と信じて疑わないのであれば、吟味役人として当然のことをしているまでのこと。そうも思ってしまう。それは千代のまったくの思い違いではあったのだが。
 郷門が(牢屋敷を内に抱える)奉行所で勤めを終えて帰宅するまで、正確にいえば自宅内での所用も終えて拷問蔵に舞い戻るまでの三刻余を、千代は三角木馬の鞍上で苦しみ続けなければならなかった。
 まもなくの入梅を控えて、土蔵の中は蒸し暑くさえあったが、喉の渇きを覚える裕りなどなく、ヨシにはつまらない思いをさせたのではあったが。
 それはともかく。郷門がまた六尺褌一本の姿で千代の前に立ったとき、いっそう過酷な、あるいは甘美な拷問が再開されるのだった。

     股張紐(承前)

「下ろせ」
 千代は石板を解かれて、木馬から吊り下ろされた。吊っている縄が緩むと、とても立っていられず床に倒れ付した。高手小手の緊縛も解かれて、しかしすぐに、両手を揃えて頭上で縛られた。開脚させられて、石板も元のように足につながれた。
 滑車から垂れる綱で再び吊り上げられる千代。石板の重みでおのれの目方の倍が肩に掛かるとはいえ、これしきなら千代にとっては甚振りには当たらないのだが。
 壁際の箱から、弥助が長い紐を引き出した。太さ一分ほどの細引。ただし、縄鞭の先端に編み込んであるよりもひとまわり大きな鉄環が、一尺置きに結わえ付けられている。
 土蔵の端に植えられている太い竹竿の先に、細引の一端が括り付けられた。石板が肩の高さに来るまで吊り上げられた千代の足の間に細引が通されて、反対側の壁際に植えられている竹竿に巻き付けられて。
「せえのお」
 弥助と梅吉の二人掛りで細引の端が引かれると、向かい合った二本の竹竿が内側へ大きく撓った。細引がぴいんと張って、千代の股間に埋没した。
「…………」
 千代はわずかに顔をしかめただけで耐える。三角木馬に比べれば、苦痛は有っても無いようなもの。そして千代は羞恥には鈍磨している。しかし……
 千代の身体が、ゆっくりと吊り下ろされていく。細引はますますきつく張って淫裂を深々と割り、淫核から尻穴にまで食い込んでいく。細引に引かれて、竹竿が折れんばかりに撓る。
「く……」
 これでもまだ、この土蔵の中では色責としても生ぬるいものでしかないが。弥助が千代を後ろ向きに押し始めると、途端に淫にして虐な責へと変貌する。
 弥助ひとりの力では、撓った竹竿の先から一尺を残して、それ以上は押せなくなった。が、それでじゅうぶん。
「やりますぜ」
 千代を一方へ捻るようにして前へ突き放した。
 石板と千代の重み。そこに、竹竿が元へ復そうと細引を斜め上へ引っ張る力も加わって。千代の裸身が凄まじい勢いで前へ突進した。
「ぎびい゙い゙い゙っ……」
 千代が喚く。
 ぶじゅじゅじゅじゅっ……
 細引に括り付けられた鉄環が、立て続けに淫裂を抉る。太さ一分しかない細引が、三角木馬の稜線に切り裂かれた柔肉の傷をさらに広げる。
 たちまちに、白かった細引が朱に染まった。血しぶきさえ飛んでいる。
 千代の正面では、郷門が箒尻を手に待ち構えている。竹竿の手前、振子の頂点で千代が止まる刹那を狙って。
 バシイン。
 箒尻が乳房に叩きつけられた。
「がはっ……」
 息を詰まらせる千代。が、すぐに凄絶な悲鳴が続く。
「ゔあ゙あ゙あ゙あ゙っ……」
 後ろまで振り切って、また前へ揺り戻して。
 ずぐぶっ……
 箒尻が縦に、千代の下腹部に突き立った。
「げふっ……」
 ぐうんと突き戻されて。腹の奥から吐き出されるような勢いで、鉄環が後ろから前へ股間を抉る。
 三度目。郷門は箒尻を使わなかった。代わりに、石板の一端を力いっぱいに蹴った。
 千代の裸身がねじれながら揺れる。その分、股間は奥底だけでなく左右の肉襞までが抉られる。
「ひいい、いい……いいっ」
 女淫への責であってみれば、初手からそういった刺激を受けている。たちまちに千代の意識は濃密な桃色の靄の中へ溶けていって。四度目に、肋骨が折れそうなほど強く乳房を敲かれたとき。
「うああああ、あああーっ」
 聞き誤りようのない雌叫びを放って、千代は悶絶したのだった。
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女囚永代吟味を流用

 実はシフトの関係で、6/10,12,14と飛び石連休なのです。この間に仕上げるのは無理でも、手前までは持っていきたいものです。

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テーマ : 18禁・官能小説
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