Progress Report 3:悦虐へのエチュード~スケバンにリンチをねだる未通マゾ
あわわわ。「爽」が名付けに使えるようになったのは、1990年からでした。
ので、悪役令嬢(ジャンルが違う)の名前を変更。楚葉にしますた。
爽子→苑子→爽香→楚葉
こんなにコロコロしたのは初めてです。
ついでに(ではないですが)タイトルも変更。副題部分が五七五になって座りがよろしい。
未通は「おぼこ」と読みます。『未通海女哭虐』でも使いましたね。
というわけ(記事冒頭)で、あわわわのシーンを御紹介。初期PLOTには無いエピソードです。「梅雨は濡れ透け」と「海水欲情荒らし」の間に入ります。
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泡踊りと三輪車
外部入学の希美は内部進学組よりも成績優秀なはずだったのに、中間テストは軒並み平均点を下へ突き抜けて。ちらほらと赤点も取ってしまった。もしも期末テストで同じことを繰り返せば、一学期早々に進級が怪しくなってくる。楚葉に何をどう遊ばれようと、勉強を頑張らなくては。そう決心して、二週間前から復習に精を出していたのだけれど。楚葉はそんなことを斟酌してくれない。
「たまには息抜きも必要だぜ」
休日に朝から呼び出された。遠くの街へ遊びに行くから、いつもとは違う服装で来いと指示されて、あれこれ服を選んでコーディネイトするという女の子の愉しみを久しぶりに味わった希美だったが。あまりおとなしい服装では楚葉に気に入ってもらえないだろうと思うと、三か月前の希美だったら絶対にしないだろう装いになってしまった。
まだ処分していなかった古いデニムのミニスカートは、背が伸びているから膝上二十センチ。悩んだ末にノーパン。上はノーブラにノースリーブのサマーセーター。去年のだけど、BカップがCカップになっているので、胸の膨らみが強調される。さすがに三点責めのアクセサリーはやめたけれど、外出のときには必ずといっていいほど付けていたから物足りない――という想いは、強く打ち消した。
本物の変態になっちゃう。お嫁に行けなくなる。でも……もうじゅうぶんに変態じゃないのかしら。マゾ願望を隠しての結婚生活なんて、我慢できるんだろうか。そんな先のことより。お姉様は来年の三月には卒業する。内部進学ならキャンパスは隣り合っているけれど……スケバンも卒業して、もう構ってくれなくなるんじゃないだろうか。
考えだすとどんどん不安になってくる。けれど希美の年令では半年先は遥か未来でもある。来年になってから悩めばいいことだと、気持ちを切り替えて希美は家を出た。
待ち合わせ場所というか呼び出され場所へ行ってみると、今日の楚葉はひとりも子分を連れていなかった。いつものスケバン制服ではなくて、大人びたツーピースを着ている。紫色のアイシャドウとルージュも無し。長髪は元から染めていないので、大学生を通り越して清楚な美人OLといった趣だった。
「今日のおまえは、これだからな」
名刺大のプラスチックカードと三つ折りの紙を渡された。カードはどこかの会社の社員証で、三つ折りの紙はそこの健康保険証だった。社員証には、希美の顔写真が貼ってある。そして保険証に記された生年月日によると、希美は二十一歳ということになっていた。偽造だ。
「あたし小柄で童顔だから、●学生に間違えられたりするんです」
楚葉が希美の口真似をした。つまり、今日は二十一歳で押し通せということだ。
「にしても、娼売慣れした格好で来たもんだな。好都合だぜ」
楚葉が何を企んでいるか分からないままに、希美は電車に乗せられた。
降りたところは、隣接県の大都市だった。タクシーで(運転手へのサービスとかは無しで)歓楽街へ向かう。
「おまえはここのトルコ風呂で働く――ということにして、新人研修を受けるんだ」
トルコ風呂がどういう場所かくらいは、希美も知っている。ただ、楚葉の「ということにして」の意味が分からなかったのだが。これからも売春をさせるという楚葉の言葉は覚えていたから、例によってときめきと悲哀を同時に感じただけだった。
ずらっと並んだ店舗のひとつに、楚葉は迷わず裏口から入って行った。
「先日お話させていただいた角島楚葉です。働きたいって子を連れてきました」
事務室に通されて、店長という四十くらいの男の面接を受けた。店長と希美がデスクを挟んで向かい合って、楚葉は希美の斜め後ろ、付き添いといったところか。
「きみ、ほんとうに二十歳以上なの?」
法律では水商売で働けるのは十八歳以上だが、トルコだけは各地で自主規制をしている。地方によっては二十二歳以上とか二十五歳とかもある。この当時、十八歳でトルコ嬢になれるのは、札幌のすすき野だけだった。
希美は身分証明書を机に並べて、教えられた通りの言い訳をしたのだが、店長は納得しない。
「確かに間違いは無さそうだけど……通報されて痛くもない腹を探られないとも限らないしねえ。残念だが、うちで働いてもらうのは……」
「何が不服だってんだよ」
スケバンの地金を剥き出しにして、楚葉が凄んだ。身を乗り出して、右の襟を裏返した。
「ここらはシマリじゃねえが、これは知ってるだろ」
葛島組の金バッジを見せつける。
店長の顔色が変わった。
「それはもちろん……いったい、貴女はどういった……」
ヤクザは実力本位の世界ではあるが、同時に漢(おとこ)の世界でもあった。楚葉はどう見ても姐御(幹部の妻)という風格ではないし、だいいち女房(バシタ)が金バッジを持てるはずもない。
「銅じゃねえ、金だよ。で、下手に出てのお願いだけど。とにかく新人研修をさせてやって、今日すぐに客の二三人も付けてやっちゃくれねえか。ずっと働かせろとまでは言わねえからよ」
「は、はあ……そういうことでしたら」
身分証のコピーだけは取ったものの、システム(取り分)の説明もそこそこに、すぐに研修の運びとなった。葉桜というベテランのトルコ嬢と、三川というボーイが呼び出される。
「俺、いや私なんかが相手役でいいんですか?」
ボーイは助平顔で驚いている。新人研修の相手役は(よほどの年増かブスでない限り)店長が受け持ってきたのだ。
「こんなに若い子に、中年のおっさんでは可哀そうだろ」
というのは口実。得体の知れない娘と関わるのは願い下げ。しょっ引かれるにしろ指を詰めるにしろ、損な役回りは押し付けてしまえという腹積もりだった。
とは知らない三川は張り切って客の代役を務める。希美の倍以上の年齢で、今日はまだ客の付いていない葉桜も、楚葉にこっそりとチップ(ヤクザの世界に一万円未満の通貨は存在しない)をもらったのだから、手は抜かない。
「こっちから待合室へ出向くお店もあるけど、うちはお客様に来ていただくシステムね」
個室に入るなり、客に見立てたボーイの前に座って、葉桜は三つ指を突いた。ボーイの後ろには楚葉がくっついて来ているが、彼女は無視するというのが事前の取り決めだった。
「本日のお相手を務めます葉桜です」
筆者註:恋人感覚とかの接客が取り入れられるのは世紀末以降であり、この時代のトルコ嬢はプロ意識が強かった。
ついでに随所で述べるべき説明をひとまとめにしておくと――今日の高級店で常識の即尺即生は未開発で、生本番もまず無かった。そもそも、この物語の数年前までは手コキ(スペシャル)やせいぜい指挿れ(ダブル)までの店が大半だったのである。
なお、章題にもなっている泡踊りであるが、近年はローションを使って即物的にマットプレイと称している。筆者の個人的感想を述べれば、滑り過ぎて女体で遊んでいる気がしない。客の転倒事故もあるとか。やはり、適度の滑りで泡まみれになりながらのくんずほぐれつが、ヴィジュアル的にも(モザイク的にも)好ましい。こういうのをノスタル爺というのかもしれないが。
挨拶が終わると、まず客の衣服を世話女房みたいに付きっきりで脱がす。客をベッドに腰掛けさせておいて、事務的にならないよう適度の含羞を交えて自分も全裸になる。
脱いだのだが。葉桜と三川を呆れさせてしまった。
「うへえ。ノーパンノーブラか。それって……?」
「天然じゃないわよね。剃ってるんでしょ」
二人とも希美にではなく楚葉に目顔を向ける。
楚葉は、部屋の隅の形ばかりの応接セット(これは、最後に五分間だけ客をまったりさせるまで出番が無い)にちょこんと収まって、知らん顔。
葉桜も三川も、それぞれに希美と楚葉の関係を想像して、それで自分を納得させる。金バッジのことは知らないが、葉桜にとっては気前の良い一見の客だし、三川としても、現役生徒にしか見えない美少女に本番研修できるのだから、裏があろうとなかろうと気にはしない。二人とも、楚葉に見られる気恥ずかしさを感じながらも研修を進めていった。
衣服をハンガーに掛けてから、個室の半分を占める浴場へ客を案内して、座面が大きく窪んだ俗称スケベ椅子に座らせて。まずは股間というかペニスを素手で洗う。爛れていたり客が痛がったりしたら病気の疑いが濃厚なので、粘膜つまり唇とか性器を接触させないように注意する。できればその日のうちに医者に頼んで抗生物質を注射してもらう。
説明を聞いて、希美はぞっとした。売春で病気をもらわなかったのは、幸運以外の何物でもない。
希美の内心とは関係なく講習は進む。
ペニスを洗い終えたら、客はバスタブに放り込んでおいて、六十分コースまでなら即座にトルコの花、泡踊りの準備にかかる。ロングコースの場合は、客と一緒に入湯して、膝に乗ったり指挿れで愉しんでもらってから潜望鏡プレイ。
三川がバスタブに肩を預けて身体を水平に延べると――勃起したペニスが湯面から顔を出す。潜水艦の潜望鏡みたいなのを、真上から咥える。ゴムは着けない。
葉桜がお手本を示してから、希美も実習。フェラチオは売春のときに二回だけ客の求めに応じたが、きちんとテクニックを教わるのはこれが始めてだった。
面倒くさくて顎も舌も疲れるというのが、希美の感想だった。本番行為は、ただ脚を開いて寝転がっていればいい。
潜望鏡遊びで魚雷を発射させるのは、若い男性だけ。次発装填に時間がかかる(軍事用語を使って教えてくれたのは、ボーイの三川)三十歳以上は、暴発させないように嬢が適切に判断しなくてはならない。
潜望鏡遊びが一段落着いてからは、ショートコースと同じ。
壁に立て掛けてあるセミダブルベッドと同じくらいに大きなエアマットを洗い場に延べて。洗面器に湯を入れてたっぷりシャンプーを垂らして。小さい子の遊びの『カイグリカイグリ』みたいに(もっと早く)手を動かして、チョチチョチ泡泡にする。
エアマットをシャワーの湯で温めてから客を腹這いにさせて。その上におおいかぶさって。くねくねと身体を擦り付けて背中を洗う。脚を開いて股間を男の太腿に滑らせたり、もちろん乳房もスポンジ代わり。
見て聞くだけでは分かりにくいだろうと、希美が男と入れ替わって、葉桜のテクニックを身体で受けてみる。
「ひゃんっ……く、くすうったい」
のを我慢していると。全身が性感帯といわれる女体の性(さが)、乳首やクリトリスといった局部ではなく、背中も尻も太腿も、ぴくんぴくんと震えてくる。
さらに。仰向けになった希美に葉桜が馬乗りになって、股間を腹の上で往復させる。
「これが、タワシ洗いだけど。あなたはタワシが無いから、何て言えばいいのかしらね」
マンコ洗いでいいじゃないの――なんてはしたないことを、希美は思っても言わない。
「洗い方の体位にもひとつひとつ名前があるの。シャチホコとか鯉の滝登りとか。いきなりあれこれしても覚えられないだろうから、セックスの四十八手を応用するってことだけ知っておけばいいかな」
と言われても。正常位とワンワンしか経験は無いし、知識としても騎乗位と座禅転がし(時代劇画で覚えた)くらい。騎乗位は向かい合っての泡踊りで葉桜さんが実演してくれたけど、その他の体位はどう応用すればいいんだろう。
戸惑いながらも、三川を相手に基本技だけは習得した希美だった。
泡踊りの後は、いよいよ本番なのだが。
「ゴムをすぽっとかぶせちゃう娘(こ)も多いけど、とっておきのテクニックを教えてあげるね」
一万円へのサービスというより、三川に体感させてフリの客に自分を推薦させようという下心かもしれない。
ベッドに腰掛けた三川の前に跪くと、葉桜はコンドームの精液溜まりを唇で咥えて、垂直に聳え立つペニスに、ちょこんと乗っけた。そして口を開けて、輪ゴムのようになっている縁を唇であむあむあむと巻き下げていく。
「こういうサービスを男は悦ぶのよ」
葉桜の言葉どおり、すでに美川は一触即発の体勢になっている。それくらいは、希美も分かるようになっていた。
「ああっ……」
三川が情けない声を上げたのは、せっかく着けてもらったコンドームを巻き上げられたからだったが。希美が新しいコンドームを咥えて跪くと、葉桜のときよりも勢いを増して聳え立つ。
それから延々十五分。コンドームを三個、噛み破ったり唾液まみれで滑りが良くなり過ぎて巻き下げられなくなったりしながら、希美はどうにか技を習得したのだった。
そうして、いよいよ本番は。葉桜がベッドに上がったので、三川は期待外れの顔をしたが。
「店一番のテクニシャンが相手で、何が不満なのさ」
葉桜は希美に向き直って。
「さっき体位のことを言ったら、きょとんとしてたね。四十八手とは言わないけど二十手くらいは教えてあげるから、良く見といてよ」
正常位で三川を迎え挿れてから、葉桜はさまざまな変形を繰り広げた。腰を高く突き上げる、足を男の胴に絡ませる、逆に足を伸ばしてペニスを挟むように閉じ合わせる。男が足を肩に担げば深く挿入できるし、男は視覚的にも興奮する。
いったん結合を解いて。くるりと向きを変えて、指を組み合わせるようにして挿入する松葉崩しは、お口直しといった感じで快感は乏しいらしい。
もっとも、挿入による腟性感そのものは、希美はあまり開発が進んでいない。学校では常にペニスバンドを挿入しているけれど、「いけないことをお姉様に強いられている」というマゾとしての陶酔はあっても、抽挿も振動も身体の動きの反映だけなので、絶頂の体験はなかった。
松葉崩しの後は、男が下になって騎乗位。大まかに分ければ、対面騎乗位と背面騎乗位。男が仰臥して女が対面で抱きつくのが本茶臼、女がのけぞれば時雨茶臼。男が足を伸ばして上体を起こしているところに女が後ろ向きに腰を沈めるのが本駒掛け。これは座位になる。
後背位、いわゆるバック、あるいはワンワン・スタイルも、四つん這いだけではなく、体操の前屈みたいなのもあれば、女が俯せに寝る形もある。
さらに、男女ともに横向きに寝る形や立ったままの挿入。これも対面と背面がある。女の足を一本持ち上げるだけで結合感が違ってくる。
見ているうちに、希美はパースペクティブがおかしくなってきた。そして、げっぷが出そうになる。
あたしには関係が無いことだとも思った。女はセックスでは受け身でいるべきだと思う。男の人がいろんな体位を望むのなら、あたしを好きなように扱ってください――というのが、希美のマゾ願望だった。
あたしにはトルコ嬢は務まらない――と、希美は思ったけれど。お姉様の命令で、そのように振る舞わされるとしたら、それはそれで素敵かも知れないとも思い直す。
葉桜が体位を披露し終わった時点で、研修が始まってから二時間半が過ぎていた。最長のプレイコース百二十分を超えている。葉桜の提案でひと休みとなったのだが。楚葉がアンタッチャブルというのは、葉桜も三川も店長の態度から察していたし、希美も身の上話なんかしない。楚葉にいたっては、部屋に入ってから一言も喋っていなかった。
結局――三川が店の料金システムとかを説明して、葉桜は面倒な客のあしらい方のレクチャーなど。無難で(トルコ嬢として働くなら)有用な話に終始した。
一戦(プレイ時間と客の精力によっては二戦三戦)した後は、時間の五分前までまったり歓談したり。各種の銘柄を揃えてある煙草を勧めたり。客の煙草への火の点け方と、自分は勧められても吸うべきではないことも教わった。
最後は客の着付けをさりげなく手伝って、三つ指で送り出す――というのは口頭での説明だけで。
せめて騎乗位と立ちバックくらいは覚えておきなさいという葉桜のアドバイスで、希美は体位の講習も受けることに(楚葉に顎をしゃくられて)した。ディルドでない本物を挿入されるのは二か月ぶりだった。
三川は本気で逝かそうと張り切り、葉桜は逝く振りの演技指導――の最中に、壁の電話が鳴った。
葉桜がしばらく電話で話し込んで。
「いきなりだけど、三輪車のお客様よ」
三輪車というのは、一人の客を二人でサービスすることをいうのだと、葉桜が説明する。
「それでね、サービス料の分配で相談したいから、角島さんだけ事務室に戻ってほしいそうよ」
後輪は二つあってもハンドルは一つだから、どうしても二人の嬢は本指名とヘルプの関係になる。
「面倒だな。葉桜姐さんがみんな取ったって構やしないのに」
やはり楚葉の目的は金ではなく、希美を辱しめることにあったようだ。
「どっちみち、きっちり服を着た女の子に見物されるのを悦ぶ客は――いないこともないけどね」
楚葉は、やんわりと追い出された格好。三川は希美に未練たらたら接客の仕事に戻り、葉桜は希美に手伝わせて部屋の清掃に取り掛かった。バスルームをざっと湯で流し、バスタブの湯は張り替える。ベッドはシーツを交換。たいていの店は、一人の嬢に一つの個室を割り当てている。嬢は一日交代の一国一城の主というわけだが、その分、部屋の切り盛りをしなければならない。
清掃が終わると身なりを整える。この店には制服とかは無くて、カジュアル系なら何でもいい。葉桜は、素肌にノースリーブのジャケットと膝上十五センチくらいのフレアーミニ。十年以上前に流行ったファッションだ。葉桜よりも小柄な希美の膝上二十センチとノースリーブのニットセーターは、下着無しだとカジュアルではなくてビジュアルだが、セーラー服よりはTPOに敵っているだろう。
準備が整って、葉桜が事務室へ電話を入れる。楚葉が戻って来ないのは分かっているので、心細くなる希美だが――最初の売春だって独りだったんだ(覗き穴のことは忘れている)から、葉桜さんと一緒なんだからと、自分を落ち着かせる。
すぐに客が、三川ではないボーイに案内されて、個室の前に立った。希美は葉桜と並んで三つ指で出迎える。
迎えた客は四十半ばくらいか。アロハシャツの半袖から、ちらちらと模様が覗いている。二対一なんて贅沢で変態っぽい遊びをする人は、やっぱり堅気じゃないんだと思った希美だったが。アロハシャツの下には、背中一面に極彩色の模様。初めて接する本職のヤクザだった。
研修の続きなら希美に主要な仕事を任せるべきだが、粗相があっては一大事とばかりに、葉桜が正面を担当して、希美は背中を流す。それでも、肩越しに客の股間は覗けてしまう。
まだ垂れているというのに、すでに三川が最大に勃起しているくらいのサイズだった。しかも、雁首のまわりと竿の中間に幾つもの疣(いぼ)が浮かび上がっている。病気ではないかと希美は疑ったが、葉桜に握られても客は平然としている。
「真珠入りを知っているようだな」
「そりゃ、こういう娼売をしてますもの。私、腰が抜けるかもしれません。失礼があっても赦してくださいね。でも、ちゃんと逝かせてくれなきゃ恨みますよ」
二人の会話から、その疣は病気ではなく、女を哭かせるための人工的な細工だと分かって――希美は安心したり呆れたり。そんな凶器を体験してみたいとは思わなかった。
戦場をバスタブに移しての遊びは、指揮官が葉桜で戦闘員は希美。バスタブに身を沈めた葉桜が客を下から(乳房を背中に押し付けタワシを尻に擦り付けながら)支えて、浮上した望遠鏡に希美がアタック。
「んぶぶ……」
口いっぱいに頬張って、それで精いっぱい。最初から喉の奥につかえてしまって、舌を絡めたり上下運動をしたりの余裕が無い。
「手がお留守になってるわ。玉を揉んで差し上げなさい」
慌てて手を動かすと。
「痛いぞ。金玉は胡桃じゃねえんだ」
やんわりと叱られた。それが痩せ我慢だとは、希美には分からない。けれど、仕返しをされた。
「急速潜航」
客は希美の頭を両手で押さえて腰を沈めた。当然、希美の顔は水の中。客は片手を希美の乳房にまわして、乳首を抓る。爪を立てたり強く引っ張ったりはされなかったが、指の腹で押し潰されて、じゅうぶんに痛い。
希美はしばらくのあいだ、客のしたいようにさせていたが、息が苦しくなってくる。両手を客の太腿で突っ張ると――あっさり赦してもらえた。
「ぷはっ……はあ、はあ」
大袈裟にしたほうがいいだろうと考えて、わざと荒い息遣いをした。
「わしが初めての客と聞いているが――なかなか肝が据わっているな」
客が手を伸ばして股間をまさぐり、穴をくすぐった。
「ありがとうございます」
希美の返事も客を満足させたようだった。
バスタブの次は、いよいよ泡踊り。これも変則で、最初は客を側臥位にして前後からサンドイッチ。葉桜と希美が上下(寝ているから前後)に動いて、これはもう、身体を洗うとかではなく、女体密着プレイ。
これはすぐおしまいにして。本格的な踊りは希美が舞台になった。つまり、エアマットに仰臥する希美の上に客が寝て、その上で葉桜が動く。
「む……」
ぎゅううっと二人、体重の差を考えれば希美の三人分にのしかかられて、希美は息ができないくらいに圧し潰される。客としては、まさしく肉布団に寝て肉スポンジに擦られるのだから法悦境だろうが。
客は俯せになっているから、顔と顔とが向かい合う。目の焦点が合わない睨めっこなんかしててもしょうがないし。葉桜さんなら、きっとこうするだろうと――希美は頭をもたげて、客と唇を重ねた。それ以上は積極的になる必要もなく――客は舌を差し挿れてきて。希美の口中を貪りながら、両手で乳房を弄びにかかる。
客は肘をエアマットにめりこませて体重を支え、乳房をつかんで希美の乳首と自分のとを擦り合せる。
「あ……くすぐったいです……くううんん」
指で弄られるのとはまるきり違う触感だった。背筋が粟立つ。
「いい声で鳴くな。とても十五やそこらの小娘とは思えないぜ」
それどころではなかったから、客の言葉を希美は聞き流した。客も間違ったことは言っていない。希美はここでは二十一歳ということになっているのだから、十五歳に思えなくて当然だ。しかし、希美は実際の年齢を店長にも明かしていない。この客は誰から間違った年齢を聞き出したのか、疑問に思うべきだったろう。
客は、さらに手を下へずらして、トルコでいうところの壺洗いまでして、絶妙の指遣いで希美を蕩けさせた。プレイの手順を飛ばして、そのまま本番に突入してもおかしくない展開だったが――寸前で主導権を葉桜に返した。ので、さらに十分ほどの間、希美は二人分の体重に押し潰されていなければならなかった。
泡踊りが終わって、対一のプレイなら後で片付けるエアマットを葉桜が先に片付けている間に、希美が覚えたばかりのテクニックを駆使してコンドームを装着。
「こっちじゃないと無理かな」
Lサイズを葉桜から渡されて、コンドームにも各種サイズがあると、初めて知った希美だった。客の怒張は、これまでに希美が相手をした八人(売春の三日間と、今日の三川)のどれよりも大きかった。そのうえ竿の途中に疣まであるのだから、Lサイズでも苦労させられたのだった。
いよいよ本番となったとき。
「ガキの相手は御免だな。葉桜姐さんだったね、あんたに頼むとしよう」
客の求めを拒む理由は無い。こんな大物を相手にしなくて良かったと、希美はほっとしたのだが。この場を仕切っているのが楚葉お姉様だったら、絶対に体験させられていただろうなと、それを残念には思っていないと自分に言い聞かせなけれなならなかったのも事実だった。
本番が終わると、客はさっさと身繕いを始めた。
「まだ時間はありますわ。三人でお話でもしませんか」
時間前に客を帰すと、トルコ嬢の面目に係わる――よりも。あの嬢は時間いっぱいのサービスをしないとか、悪評につながりかねない。
「いや、ちょっと店長に話があるんでね。葉桜姐さんのことじゃない。こっちの、希美ちゃんのことだ。ああ、これじゃないから心配しなくていいぞ」
客は指で丸を作って額に当てた。警察ではないという意味だ。
年齢のことだろうかと、希美は不安になった。そういえば、パイパンを見て動じなかった人も初めてだ。けれど、あれこれ考えている暇は無かった。客に急かされて服を着て(すっぽんぽんにスカートとサマーセーターだから手っ取り早い)、客に連れられて個室を出た。
店長室に入ってというか押し込まれて。希美は目を疑った。部屋の隅で楚葉が正座していた。希美が仕込まれている屈辱的な開脚ではなく、両膝をきっちり揃えて、両手を太腿の上に置いている。
「少しは反省したか」
教師ほどにも威厳のない穏やかな声だったが、楚葉は両手を床に突いて土下座した。
「組のバッジを勝手に使ったこと、誠に申し訳ありませんでした。組とは関係の無いお店に迷惑を掛けたことも反省しています。ごめんなさい――親父様」
二重三重のショックで、希美は呆然自失。
こともあろうに、楚葉お姉様のお父様と……本番まではしていないから、ニアミスかしら。あのツッパリの怖いもの知らずのお姉様が土下座して謝るのも、考えられないことだった。こんなに早くお父様が現われたのは――すぐに店長が葛島組に電話して金バッジの真偽を問い合わせて、間髪を入れずに飛んで来たとすれば、時間的には不可能じゃないけれど。職員会議とか多数決とは無縁の社会だからこその疾風迅雷だ。
楚葉が顔を上げて、しかし目は伏せている。左右の頬がうっすらと赤いのに気づいて希美は、見てはいけないものを見てしまったように感じた。お姉様はビンタをする人で、される人じゃない。それにしても――ビンタを食らったのは一時間半よりも前のはず。それが、まだ痣が残っているなんて、よほど強くぶたれたんだ。
だけど――親父様だなんて、まるで時代劇。でも、ヤクザの父親にスケバンの娘が呼び掛けるとしたら、パパではおかしいしお父様では、どこかのお嬢様になっちゃう。父上だって時代劇だ。ヤクザ映画なら親父だろうけど、この場面にはそぐわない。
「二つも三つも年下の堅気の娘をオモチャにするのも、どうかと思うが――希美ちゃん、ほんとうにきみは楚葉に甚振られて悦んでいるのかね?」
突然に話を振られて、呆然自失どころではなくなった。
「あの……ええと……」
お姉様に迷惑を掛けないような返事をしなくちゃ。希美は、それしか考えなかった。だけど、咄嗟に話を作れるものでもない。数秒のためらいがあって、希美は自分に嘘をつかないと決めた。
「自分から望んでお姉様にリンチをしていただいたときは、すごく痛くて後悔しました。でも、そのときのことを思い出すと――オナニーしちゃうんです。あれから一度も本格的に虐めてくださらないのが、不満です。でも、羞ずかしいことはいろいろとご命令してくださるので、それは……悦んだりはしませんけど、死にそうなくらいにときめいちゃいます」
ふうう。楚葉の父親は、長い溜息を吐いた。
「野郎のサディストは珍しくもないが、本物のマゾ女てのは、初めてお目に掛かったな。楚葉に捨てられたら、わしを頼って来い。そういう特殊な店を紹介してやる。トルコより稼げるぞ」
「捨てるもんかよ」
楚葉が割って入った。
「希美は生涯、おれのオモチャだ」
希美は感動して、自分はまともな結婚なんかしなくていいとも思ったけれど。お姉様だって、いずれは結婚するんじゃないかしら。そうしたら、あたしはどうなるんだろうか。ふと心配にもなるけれど――卒業さえ遠い未来の話なのに、そのさらに先のことなど、実感を伴なうはずもなかった。
「まあ、スケ一人の人生をあれこれ考えてちゃヤクザは務まらねえわな」
男は海に沈め女は風呂に沈める。それくらいのことは平然としてのける男であれば、それは本音だろう。
「それじゃ、希美ちゃんよ。ふつつかな娘だが、よろしく頼むぜ」
こちらは冗談に決まっている。
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「泡踊り」は石鹸(ボディシャンプー)を使います。洗面器で泡立てる仕草は、まさしく「カイグリカイグリ」です。これは現在のローションを使った「マットプレイ」にも引き継がれています。残念なことに、「ちょちちょちアワワ」にはなりませんけど。カイグリのシーンは『昭和集団羞辱史:浴場編』と『幼な妻甘々調教』でも書いています。

この『独奏』パートはモジュール式と申しますか、エピソードの羅列です。その気になれば、なんぼでも増やせます。「梅雨は濡れ透け」の前にも「夏制服はスダレ」を入れました。
画像は「夏制服はスダレ」のイメージです。
今は「海水欲情荒らし」を昼の部と夜の部に分けて、後半は「さまざまな苦痛」として執筆中。
他の章題は具体的なのに、これだけは抽象的です(『協奏』パートでは抽象ぽいのもあります)。なんとかしたかったのですが。「花火と鞭打ち」では6文字「花火と鞭と洗濯挟み」では9文字。7文字に納まらないので苦衷の章題ではあります。
ともあれ。全31章のうち14章執筆途中段階で230枚/7万7千文字。このペースだと、やはり500枚ですな。
DLsite affiliate キーワードは「制服 切り裂き」
こちらはズバリ「泡踊り」
ので、悪役令嬢(ジャンルが違う)の名前を変更。楚葉にしますた。
爽子→苑子→爽香→楚葉
こんなにコロコロしたのは初めてです。
ついでに(ではないですが)タイトルも変更。副題部分が五七五になって座りがよろしい。
未通は「おぼこ」と読みます。『未通海女哭虐』でも使いましたね。
というわけ(記事冒頭)で、あわわわのシーンを御紹介。初期PLOTには無いエピソードです。「梅雨は濡れ透け」と「海水欲情荒らし」の間に入ります。
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泡踊りと三輪車
外部入学の希美は内部進学組よりも成績優秀なはずだったのに、中間テストは軒並み平均点を下へ突き抜けて。ちらほらと赤点も取ってしまった。もしも期末テストで同じことを繰り返せば、一学期早々に進級が怪しくなってくる。楚葉に何をどう遊ばれようと、勉強を頑張らなくては。そう決心して、二週間前から復習に精を出していたのだけれど。楚葉はそんなことを斟酌してくれない。
「たまには息抜きも必要だぜ」
休日に朝から呼び出された。遠くの街へ遊びに行くから、いつもとは違う服装で来いと指示されて、あれこれ服を選んでコーディネイトするという女の子の愉しみを久しぶりに味わった希美だったが。あまりおとなしい服装では楚葉に気に入ってもらえないだろうと思うと、三か月前の希美だったら絶対にしないだろう装いになってしまった。
まだ処分していなかった古いデニムのミニスカートは、背が伸びているから膝上二十センチ。悩んだ末にノーパン。上はノーブラにノースリーブのサマーセーター。去年のだけど、BカップがCカップになっているので、胸の膨らみが強調される。さすがに三点責めのアクセサリーはやめたけれど、外出のときには必ずといっていいほど付けていたから物足りない――という想いは、強く打ち消した。
本物の変態になっちゃう。お嫁に行けなくなる。でも……もうじゅうぶんに変態じゃないのかしら。マゾ願望を隠しての結婚生活なんて、我慢できるんだろうか。そんな先のことより。お姉様は来年の三月には卒業する。内部進学ならキャンパスは隣り合っているけれど……スケバンも卒業して、もう構ってくれなくなるんじゃないだろうか。
考えだすとどんどん不安になってくる。けれど希美の年令では半年先は遥か未来でもある。来年になってから悩めばいいことだと、気持ちを切り替えて希美は家を出た。
待ち合わせ場所というか呼び出され場所へ行ってみると、今日の楚葉はひとりも子分を連れていなかった。いつものスケバン制服ではなくて、大人びたツーピースを着ている。紫色のアイシャドウとルージュも無し。長髪は元から染めていないので、大学生を通り越して清楚な美人OLといった趣だった。
「今日のおまえは、これだからな」
名刺大のプラスチックカードと三つ折りの紙を渡された。カードはどこかの会社の社員証で、三つ折りの紙はそこの健康保険証だった。社員証には、希美の顔写真が貼ってある。そして保険証に記された生年月日によると、希美は二十一歳ということになっていた。偽造だ。
「あたし小柄で童顔だから、●学生に間違えられたりするんです」
楚葉が希美の口真似をした。つまり、今日は二十一歳で押し通せということだ。
「にしても、娼売慣れした格好で来たもんだな。好都合だぜ」
楚葉が何を企んでいるか分からないままに、希美は電車に乗せられた。
降りたところは、隣接県の大都市だった。タクシーで(運転手へのサービスとかは無しで)歓楽街へ向かう。
「おまえはここのトルコ風呂で働く――ということにして、新人研修を受けるんだ」
トルコ風呂がどういう場所かくらいは、希美も知っている。ただ、楚葉の「ということにして」の意味が分からなかったのだが。これからも売春をさせるという楚葉の言葉は覚えていたから、例によってときめきと悲哀を同時に感じただけだった。
ずらっと並んだ店舗のひとつに、楚葉は迷わず裏口から入って行った。
「先日お話させていただいた角島楚葉です。働きたいって子を連れてきました」
事務室に通されて、店長という四十くらいの男の面接を受けた。店長と希美がデスクを挟んで向かい合って、楚葉は希美の斜め後ろ、付き添いといったところか。
「きみ、ほんとうに二十歳以上なの?」
法律では水商売で働けるのは十八歳以上だが、トルコだけは各地で自主規制をしている。地方によっては二十二歳以上とか二十五歳とかもある。この当時、十八歳でトルコ嬢になれるのは、札幌のすすき野だけだった。
希美は身分証明書を机に並べて、教えられた通りの言い訳をしたのだが、店長は納得しない。
「確かに間違いは無さそうだけど……通報されて痛くもない腹を探られないとも限らないしねえ。残念だが、うちで働いてもらうのは……」
「何が不服だってんだよ」
スケバンの地金を剥き出しにして、楚葉が凄んだ。身を乗り出して、右の襟を裏返した。
「ここらはシマリじゃねえが、これは知ってるだろ」
葛島組の金バッジを見せつける。
店長の顔色が変わった。
「それはもちろん……いったい、貴女はどういった……」
ヤクザは実力本位の世界ではあるが、同時に漢(おとこ)の世界でもあった。楚葉はどう見ても姐御(幹部の妻)という風格ではないし、だいいち女房(バシタ)が金バッジを持てるはずもない。
「銅じゃねえ、金だよ。で、下手に出てのお願いだけど。とにかく新人研修をさせてやって、今日すぐに客の二三人も付けてやっちゃくれねえか。ずっと働かせろとまでは言わねえからよ」
「は、はあ……そういうことでしたら」
身分証のコピーだけは取ったものの、システム(取り分)の説明もそこそこに、すぐに研修の運びとなった。葉桜というベテランのトルコ嬢と、三川というボーイが呼び出される。
「俺、いや私なんかが相手役でいいんですか?」
ボーイは助平顔で驚いている。新人研修の相手役は(よほどの年増かブスでない限り)店長が受け持ってきたのだ。
「こんなに若い子に、中年のおっさんでは可哀そうだろ」
というのは口実。得体の知れない娘と関わるのは願い下げ。しょっ引かれるにしろ指を詰めるにしろ、損な役回りは押し付けてしまえという腹積もりだった。
とは知らない三川は張り切って客の代役を務める。希美の倍以上の年齢で、今日はまだ客の付いていない葉桜も、楚葉にこっそりとチップ(ヤクザの世界に一万円未満の通貨は存在しない)をもらったのだから、手は抜かない。
「こっちから待合室へ出向くお店もあるけど、うちはお客様に来ていただくシステムね」
個室に入るなり、客に見立てたボーイの前に座って、葉桜は三つ指を突いた。ボーイの後ろには楚葉がくっついて来ているが、彼女は無視するというのが事前の取り決めだった。
「本日のお相手を務めます葉桜です」
筆者註:恋人感覚とかの接客が取り入れられるのは世紀末以降であり、この時代のトルコ嬢はプロ意識が強かった。
ついでに随所で述べるべき説明をひとまとめにしておくと――今日の高級店で常識の即尺即生は未開発で、生本番もまず無かった。そもそも、この物語の数年前までは手コキ(スペシャル)やせいぜい指挿れ(ダブル)までの店が大半だったのである。
なお、章題にもなっている泡踊りであるが、近年はローションを使って即物的にマットプレイと称している。筆者の個人的感想を述べれば、滑り過ぎて女体で遊んでいる気がしない。客の転倒事故もあるとか。やはり、適度の滑りで泡まみれになりながらのくんずほぐれつが、ヴィジュアル的にも(モザイク的にも)好ましい。こういうのをノスタル爺というのかもしれないが。
挨拶が終わると、まず客の衣服を世話女房みたいに付きっきりで脱がす。客をベッドに腰掛けさせておいて、事務的にならないよう適度の含羞を交えて自分も全裸になる。
脱いだのだが。葉桜と三川を呆れさせてしまった。
「うへえ。ノーパンノーブラか。それって……?」
「天然じゃないわよね。剃ってるんでしょ」
二人とも希美にではなく楚葉に目顔を向ける。
楚葉は、部屋の隅の形ばかりの応接セット(これは、最後に五分間だけ客をまったりさせるまで出番が無い)にちょこんと収まって、知らん顔。
葉桜も三川も、それぞれに希美と楚葉の関係を想像して、それで自分を納得させる。金バッジのことは知らないが、葉桜にとっては気前の良い一見の客だし、三川としても、現役生徒にしか見えない美少女に本番研修できるのだから、裏があろうとなかろうと気にはしない。二人とも、楚葉に見られる気恥ずかしさを感じながらも研修を進めていった。
衣服をハンガーに掛けてから、個室の半分を占める浴場へ客を案内して、座面が大きく窪んだ俗称スケベ椅子に座らせて。まずは股間というかペニスを素手で洗う。爛れていたり客が痛がったりしたら病気の疑いが濃厚なので、粘膜つまり唇とか性器を接触させないように注意する。できればその日のうちに医者に頼んで抗生物質を注射してもらう。
説明を聞いて、希美はぞっとした。売春で病気をもらわなかったのは、幸運以外の何物でもない。
希美の内心とは関係なく講習は進む。
ペニスを洗い終えたら、客はバスタブに放り込んでおいて、六十分コースまでなら即座にトルコの花、泡踊りの準備にかかる。ロングコースの場合は、客と一緒に入湯して、膝に乗ったり指挿れで愉しんでもらってから潜望鏡プレイ。
三川がバスタブに肩を預けて身体を水平に延べると――勃起したペニスが湯面から顔を出す。潜水艦の潜望鏡みたいなのを、真上から咥える。ゴムは着けない。
葉桜がお手本を示してから、希美も実習。フェラチオは売春のときに二回だけ客の求めに応じたが、きちんとテクニックを教わるのはこれが始めてだった。
面倒くさくて顎も舌も疲れるというのが、希美の感想だった。本番行為は、ただ脚を開いて寝転がっていればいい。
潜望鏡遊びで魚雷を発射させるのは、若い男性だけ。次発装填に時間がかかる(軍事用語を使って教えてくれたのは、ボーイの三川)三十歳以上は、暴発させないように嬢が適切に判断しなくてはならない。
潜望鏡遊びが一段落着いてからは、ショートコースと同じ。
壁に立て掛けてあるセミダブルベッドと同じくらいに大きなエアマットを洗い場に延べて。洗面器に湯を入れてたっぷりシャンプーを垂らして。小さい子の遊びの『カイグリカイグリ』みたいに(もっと早く)手を動かして、チョチチョチ泡泡にする。
エアマットをシャワーの湯で温めてから客を腹這いにさせて。その上におおいかぶさって。くねくねと身体を擦り付けて背中を洗う。脚を開いて股間を男の太腿に滑らせたり、もちろん乳房もスポンジ代わり。
見て聞くだけでは分かりにくいだろうと、希美が男と入れ替わって、葉桜のテクニックを身体で受けてみる。
「ひゃんっ……く、くすうったい」
のを我慢していると。全身が性感帯といわれる女体の性(さが)、乳首やクリトリスといった局部ではなく、背中も尻も太腿も、ぴくんぴくんと震えてくる。
さらに。仰向けになった希美に葉桜が馬乗りになって、股間を腹の上で往復させる。
「これが、タワシ洗いだけど。あなたはタワシが無いから、何て言えばいいのかしらね」
マンコ洗いでいいじゃないの――なんてはしたないことを、希美は思っても言わない。
「洗い方の体位にもひとつひとつ名前があるの。シャチホコとか鯉の滝登りとか。いきなりあれこれしても覚えられないだろうから、セックスの四十八手を応用するってことだけ知っておけばいいかな」
と言われても。正常位とワンワンしか経験は無いし、知識としても騎乗位と座禅転がし(時代劇画で覚えた)くらい。騎乗位は向かい合っての泡踊りで葉桜さんが実演してくれたけど、その他の体位はどう応用すればいいんだろう。
戸惑いながらも、三川を相手に基本技だけは習得した希美だった。
泡踊りの後は、いよいよ本番なのだが。
「ゴムをすぽっとかぶせちゃう娘(こ)も多いけど、とっておきのテクニックを教えてあげるね」
一万円へのサービスというより、三川に体感させてフリの客に自分を推薦させようという下心かもしれない。
ベッドに腰掛けた三川の前に跪くと、葉桜はコンドームの精液溜まりを唇で咥えて、垂直に聳え立つペニスに、ちょこんと乗っけた。そして口を開けて、輪ゴムのようになっている縁を唇であむあむあむと巻き下げていく。
「こういうサービスを男は悦ぶのよ」
葉桜の言葉どおり、すでに美川は一触即発の体勢になっている。それくらいは、希美も分かるようになっていた。
「ああっ……」
三川が情けない声を上げたのは、せっかく着けてもらったコンドームを巻き上げられたからだったが。希美が新しいコンドームを咥えて跪くと、葉桜のときよりも勢いを増して聳え立つ。
それから延々十五分。コンドームを三個、噛み破ったり唾液まみれで滑りが良くなり過ぎて巻き下げられなくなったりしながら、希美はどうにか技を習得したのだった。
そうして、いよいよ本番は。葉桜がベッドに上がったので、三川は期待外れの顔をしたが。
「店一番のテクニシャンが相手で、何が不満なのさ」
葉桜は希美に向き直って。
「さっき体位のことを言ったら、きょとんとしてたね。四十八手とは言わないけど二十手くらいは教えてあげるから、良く見といてよ」
正常位で三川を迎え挿れてから、葉桜はさまざまな変形を繰り広げた。腰を高く突き上げる、足を男の胴に絡ませる、逆に足を伸ばしてペニスを挟むように閉じ合わせる。男が足を肩に担げば深く挿入できるし、男は視覚的にも興奮する。
いったん結合を解いて。くるりと向きを変えて、指を組み合わせるようにして挿入する松葉崩しは、お口直しといった感じで快感は乏しいらしい。
もっとも、挿入による腟性感そのものは、希美はあまり開発が進んでいない。学校では常にペニスバンドを挿入しているけれど、「いけないことをお姉様に強いられている」というマゾとしての陶酔はあっても、抽挿も振動も身体の動きの反映だけなので、絶頂の体験はなかった。
松葉崩しの後は、男が下になって騎乗位。大まかに分ければ、対面騎乗位と背面騎乗位。男が仰臥して女が対面で抱きつくのが本茶臼、女がのけぞれば時雨茶臼。男が足を伸ばして上体を起こしているところに女が後ろ向きに腰を沈めるのが本駒掛け。これは座位になる。
後背位、いわゆるバック、あるいはワンワン・スタイルも、四つん這いだけではなく、体操の前屈みたいなのもあれば、女が俯せに寝る形もある。
さらに、男女ともに横向きに寝る形や立ったままの挿入。これも対面と背面がある。女の足を一本持ち上げるだけで結合感が違ってくる。
見ているうちに、希美はパースペクティブがおかしくなってきた。そして、げっぷが出そうになる。
あたしには関係が無いことだとも思った。女はセックスでは受け身でいるべきだと思う。男の人がいろんな体位を望むのなら、あたしを好きなように扱ってください――というのが、希美のマゾ願望だった。
あたしにはトルコ嬢は務まらない――と、希美は思ったけれど。お姉様の命令で、そのように振る舞わされるとしたら、それはそれで素敵かも知れないとも思い直す。
葉桜が体位を披露し終わった時点で、研修が始まってから二時間半が過ぎていた。最長のプレイコース百二十分を超えている。葉桜の提案でひと休みとなったのだが。楚葉がアンタッチャブルというのは、葉桜も三川も店長の態度から察していたし、希美も身の上話なんかしない。楚葉にいたっては、部屋に入ってから一言も喋っていなかった。
結局――三川が店の料金システムとかを説明して、葉桜は面倒な客のあしらい方のレクチャーなど。無難で(トルコ嬢として働くなら)有用な話に終始した。
一戦(プレイ時間と客の精力によっては二戦三戦)した後は、時間の五分前までまったり歓談したり。各種の銘柄を揃えてある煙草を勧めたり。客の煙草への火の点け方と、自分は勧められても吸うべきではないことも教わった。
最後は客の着付けをさりげなく手伝って、三つ指で送り出す――というのは口頭での説明だけで。
せめて騎乗位と立ちバックくらいは覚えておきなさいという葉桜のアドバイスで、希美は体位の講習も受けることに(楚葉に顎をしゃくられて)した。ディルドでない本物を挿入されるのは二か月ぶりだった。
三川は本気で逝かそうと張り切り、葉桜は逝く振りの演技指導――の最中に、壁の電話が鳴った。
葉桜がしばらく電話で話し込んで。
「いきなりだけど、三輪車のお客様よ」
三輪車というのは、一人の客を二人でサービスすることをいうのだと、葉桜が説明する。
「それでね、サービス料の分配で相談したいから、角島さんだけ事務室に戻ってほしいそうよ」
後輪は二つあってもハンドルは一つだから、どうしても二人の嬢は本指名とヘルプの関係になる。
「面倒だな。葉桜姐さんがみんな取ったって構やしないのに」
やはり楚葉の目的は金ではなく、希美を辱しめることにあったようだ。
「どっちみち、きっちり服を着た女の子に見物されるのを悦ぶ客は――いないこともないけどね」
楚葉は、やんわりと追い出された格好。三川は希美に未練たらたら接客の仕事に戻り、葉桜は希美に手伝わせて部屋の清掃に取り掛かった。バスルームをざっと湯で流し、バスタブの湯は張り替える。ベッドはシーツを交換。たいていの店は、一人の嬢に一つの個室を割り当てている。嬢は一日交代の一国一城の主というわけだが、その分、部屋の切り盛りをしなければならない。
清掃が終わると身なりを整える。この店には制服とかは無くて、カジュアル系なら何でもいい。葉桜は、素肌にノースリーブのジャケットと膝上十五センチくらいのフレアーミニ。十年以上前に流行ったファッションだ。葉桜よりも小柄な希美の膝上二十センチとノースリーブのニットセーターは、下着無しだとカジュアルではなくてビジュアルだが、セーラー服よりはTPOに敵っているだろう。
準備が整って、葉桜が事務室へ電話を入れる。楚葉が戻って来ないのは分かっているので、心細くなる希美だが――最初の売春だって独りだったんだ(覗き穴のことは忘れている)から、葉桜さんと一緒なんだからと、自分を落ち着かせる。
すぐに客が、三川ではないボーイに案内されて、個室の前に立った。希美は葉桜と並んで三つ指で出迎える。
迎えた客は四十半ばくらいか。アロハシャツの半袖から、ちらちらと模様が覗いている。二対一なんて贅沢で変態っぽい遊びをする人は、やっぱり堅気じゃないんだと思った希美だったが。アロハシャツの下には、背中一面に極彩色の模様。初めて接する本職のヤクザだった。
研修の続きなら希美に主要な仕事を任せるべきだが、粗相があっては一大事とばかりに、葉桜が正面を担当して、希美は背中を流す。それでも、肩越しに客の股間は覗けてしまう。
まだ垂れているというのに、すでに三川が最大に勃起しているくらいのサイズだった。しかも、雁首のまわりと竿の中間に幾つもの疣(いぼ)が浮かび上がっている。病気ではないかと希美は疑ったが、葉桜に握られても客は平然としている。
「真珠入りを知っているようだな」
「そりゃ、こういう娼売をしてますもの。私、腰が抜けるかもしれません。失礼があっても赦してくださいね。でも、ちゃんと逝かせてくれなきゃ恨みますよ」
二人の会話から、その疣は病気ではなく、女を哭かせるための人工的な細工だと分かって――希美は安心したり呆れたり。そんな凶器を体験してみたいとは思わなかった。
戦場をバスタブに移しての遊びは、指揮官が葉桜で戦闘員は希美。バスタブに身を沈めた葉桜が客を下から(乳房を背中に押し付けタワシを尻に擦り付けながら)支えて、浮上した望遠鏡に希美がアタック。
「んぶぶ……」
口いっぱいに頬張って、それで精いっぱい。最初から喉の奥につかえてしまって、舌を絡めたり上下運動をしたりの余裕が無い。
「手がお留守になってるわ。玉を揉んで差し上げなさい」
慌てて手を動かすと。
「痛いぞ。金玉は胡桃じゃねえんだ」
やんわりと叱られた。それが痩せ我慢だとは、希美には分からない。けれど、仕返しをされた。
「急速潜航」
客は希美の頭を両手で押さえて腰を沈めた。当然、希美の顔は水の中。客は片手を希美の乳房にまわして、乳首を抓る。爪を立てたり強く引っ張ったりはされなかったが、指の腹で押し潰されて、じゅうぶんに痛い。
希美はしばらくのあいだ、客のしたいようにさせていたが、息が苦しくなってくる。両手を客の太腿で突っ張ると――あっさり赦してもらえた。
「ぷはっ……はあ、はあ」
大袈裟にしたほうがいいだろうと考えて、わざと荒い息遣いをした。
「わしが初めての客と聞いているが――なかなか肝が据わっているな」
客が手を伸ばして股間をまさぐり、穴をくすぐった。
「ありがとうございます」
希美の返事も客を満足させたようだった。
バスタブの次は、いよいよ泡踊り。これも変則で、最初は客を側臥位にして前後からサンドイッチ。葉桜と希美が上下(寝ているから前後)に動いて、これはもう、身体を洗うとかではなく、女体密着プレイ。
これはすぐおしまいにして。本格的な踊りは希美が舞台になった。つまり、エアマットに仰臥する希美の上に客が寝て、その上で葉桜が動く。
「む……」
ぎゅううっと二人、体重の差を考えれば希美の三人分にのしかかられて、希美は息ができないくらいに圧し潰される。客としては、まさしく肉布団に寝て肉スポンジに擦られるのだから法悦境だろうが。
客は俯せになっているから、顔と顔とが向かい合う。目の焦点が合わない睨めっこなんかしててもしょうがないし。葉桜さんなら、きっとこうするだろうと――希美は頭をもたげて、客と唇を重ねた。それ以上は積極的になる必要もなく――客は舌を差し挿れてきて。希美の口中を貪りながら、両手で乳房を弄びにかかる。
客は肘をエアマットにめりこませて体重を支え、乳房をつかんで希美の乳首と自分のとを擦り合せる。
「あ……くすぐったいです……くううんん」
指で弄られるのとはまるきり違う触感だった。背筋が粟立つ。
「いい声で鳴くな。とても十五やそこらの小娘とは思えないぜ」
それどころではなかったから、客の言葉を希美は聞き流した。客も間違ったことは言っていない。希美はここでは二十一歳ということになっているのだから、十五歳に思えなくて当然だ。しかし、希美は実際の年齢を店長にも明かしていない。この客は誰から間違った年齢を聞き出したのか、疑問に思うべきだったろう。
客は、さらに手を下へずらして、トルコでいうところの壺洗いまでして、絶妙の指遣いで希美を蕩けさせた。プレイの手順を飛ばして、そのまま本番に突入してもおかしくない展開だったが――寸前で主導権を葉桜に返した。ので、さらに十分ほどの間、希美は二人分の体重に押し潰されていなければならなかった。
泡踊りが終わって、対一のプレイなら後で片付けるエアマットを葉桜が先に片付けている間に、希美が覚えたばかりのテクニックを駆使してコンドームを装着。
「こっちじゃないと無理かな」
Lサイズを葉桜から渡されて、コンドームにも各種サイズがあると、初めて知った希美だった。客の怒張は、これまでに希美が相手をした八人(売春の三日間と、今日の三川)のどれよりも大きかった。そのうえ竿の途中に疣まであるのだから、Lサイズでも苦労させられたのだった。
いよいよ本番となったとき。
「ガキの相手は御免だな。葉桜姐さんだったね、あんたに頼むとしよう」
客の求めを拒む理由は無い。こんな大物を相手にしなくて良かったと、希美はほっとしたのだが。この場を仕切っているのが楚葉お姉様だったら、絶対に体験させられていただろうなと、それを残念には思っていないと自分に言い聞かせなけれなならなかったのも事実だった。
本番が終わると、客はさっさと身繕いを始めた。
「まだ時間はありますわ。三人でお話でもしませんか」
時間前に客を帰すと、トルコ嬢の面目に係わる――よりも。あの嬢は時間いっぱいのサービスをしないとか、悪評につながりかねない。
「いや、ちょっと店長に話があるんでね。葉桜姐さんのことじゃない。こっちの、希美ちゃんのことだ。ああ、これじゃないから心配しなくていいぞ」
客は指で丸を作って額に当てた。警察ではないという意味だ。
年齢のことだろうかと、希美は不安になった。そういえば、パイパンを見て動じなかった人も初めてだ。けれど、あれこれ考えている暇は無かった。客に急かされて服を着て(すっぽんぽんにスカートとサマーセーターだから手っ取り早い)、客に連れられて個室を出た。
店長室に入ってというか押し込まれて。希美は目を疑った。部屋の隅で楚葉が正座していた。希美が仕込まれている屈辱的な開脚ではなく、両膝をきっちり揃えて、両手を太腿の上に置いている。
「少しは反省したか」
教師ほどにも威厳のない穏やかな声だったが、楚葉は両手を床に突いて土下座した。
「組のバッジを勝手に使ったこと、誠に申し訳ありませんでした。組とは関係の無いお店に迷惑を掛けたことも反省しています。ごめんなさい――親父様」
二重三重のショックで、希美は呆然自失。
こともあろうに、楚葉お姉様のお父様と……本番まではしていないから、ニアミスかしら。あのツッパリの怖いもの知らずのお姉様が土下座して謝るのも、考えられないことだった。こんなに早くお父様が現われたのは――すぐに店長が葛島組に電話して金バッジの真偽を問い合わせて、間髪を入れずに飛んで来たとすれば、時間的には不可能じゃないけれど。職員会議とか多数決とは無縁の社会だからこその疾風迅雷だ。
楚葉が顔を上げて、しかし目は伏せている。左右の頬がうっすらと赤いのに気づいて希美は、見てはいけないものを見てしまったように感じた。お姉様はビンタをする人で、される人じゃない。それにしても――ビンタを食らったのは一時間半よりも前のはず。それが、まだ痣が残っているなんて、よほど強くぶたれたんだ。
だけど――親父様だなんて、まるで時代劇。でも、ヤクザの父親にスケバンの娘が呼び掛けるとしたら、パパではおかしいしお父様では、どこかのお嬢様になっちゃう。父上だって時代劇だ。ヤクザ映画なら親父だろうけど、この場面にはそぐわない。
「二つも三つも年下の堅気の娘をオモチャにするのも、どうかと思うが――希美ちゃん、ほんとうにきみは楚葉に甚振られて悦んでいるのかね?」
突然に話を振られて、呆然自失どころではなくなった。
「あの……ええと……」
お姉様に迷惑を掛けないような返事をしなくちゃ。希美は、それしか考えなかった。だけど、咄嗟に話を作れるものでもない。数秒のためらいがあって、希美は自分に嘘をつかないと決めた。
「自分から望んでお姉様にリンチをしていただいたときは、すごく痛くて後悔しました。でも、そのときのことを思い出すと――オナニーしちゃうんです。あれから一度も本格的に虐めてくださらないのが、不満です。でも、羞ずかしいことはいろいろとご命令してくださるので、それは……悦んだりはしませんけど、死にそうなくらいにときめいちゃいます」
ふうう。楚葉の父親は、長い溜息を吐いた。
「野郎のサディストは珍しくもないが、本物のマゾ女てのは、初めてお目に掛かったな。楚葉に捨てられたら、わしを頼って来い。そういう特殊な店を紹介してやる。トルコより稼げるぞ」
「捨てるもんかよ」
楚葉が割って入った。
「希美は生涯、おれのオモチャだ」
希美は感動して、自分はまともな結婚なんかしなくていいとも思ったけれど。お姉様だって、いずれは結婚するんじゃないかしら。そうしたら、あたしはどうなるんだろうか。ふと心配にもなるけれど――卒業さえ遠い未来の話なのに、そのさらに先のことなど、実感を伴なうはずもなかった。
「まあ、スケ一人の人生をあれこれ考えてちゃヤクザは務まらねえわな」
男は海に沈め女は風呂に沈める。それくらいのことは平然としてのける男であれば、それは本音だろう。
「それじゃ、希美ちゃんよ。ふつつかな娘だが、よろしく頼むぜ」
こちらは冗談に決まっている。
========================================
「泡踊り」は石鹸(ボディシャンプー)を使います。洗面器で泡立てる仕草は、まさしく「カイグリカイグリ」です。これは現在のローションを使った「マットプレイ」にも引き継がれています。残念なことに、「ちょちちょちアワワ」にはなりませんけど。カイグリのシーンは『昭和集団羞辱史:浴場編』と『幼な妻甘々調教』でも書いています。

この『独奏』パートはモジュール式と申しますか、エピソードの羅列です。その気になれば、なんぼでも増やせます。「梅雨は濡れ透け」の前にも「夏制服はスダレ」を入れました。
画像は「夏制服はスダレ」のイメージです。
今は「海水欲情荒らし」を昼の部と夜の部に分けて、後半は「さまざまな苦痛」として執筆中。
他の章題は具体的なのに、これだけは抽象的です(『協奏』パートでは抽象ぽいのもあります)。なんとかしたかったのですが。「花火と鞭打ち」では6文字「花火と鞭と洗濯挟み」では9文字。7文字に納まらないので苦衷の章題ではあります。
ともあれ。全31章のうち14章執筆途中段階で230枚/7万7千文字。このペースだと、やはり500枚ですな。
DLsite affiliate キーワードは「制服 切り裂き」
こちらはズバリ「泡踊り」
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