Progress Report Final:悦虐へのエチュード~スケバンにリンチをねだる未通マゾ

 昨日脱稿しました。本文560枚/18万8千文字です。全82作品中8番目の長さです(前後編は合わせて1作品)。
 『前奏』147枚/『独奏』258枚/『連奏』+α154枚の配分です。『独奏』が5月から年末のエピソード点描なのに対して『連奏』+αは一昼夜の細密描写です。まあ、こんな配分でしょう。


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   甘い絶望の彼方

 一夜が明けた。
「こいつらに飯を食わせてやれ」
 寝袋から引き出され、真冬の朝の寒さをしのぐというよりも不安から、自然と抱き合っているふたりの前に、菓子パンとパック牛乳が放られた。ふたりとも夜は何も食べさせてもらえず水も与えられず、飽食の時代にあって飢渇といえる状態にあった。それでも、すぐには手を伸ばそうとしない。
「おまえたちは箱詰めにして運ぶ。島へ着くのは夜になるぞ。後で泣きを見るぜ」
 脅されてようやくふたりは、コンクリの床に落ちている牛乳パックを拾い上げた。喉を湿らせると猛烈に空腹を自覚して、菓子パンを貪り食らった。楚葉はまだプライドを残しているが、希美にいたっては喉に詰まらせて牛乳で流し込む始末。
「おまえたちは食わないのかよ」
「けっ。野宿した上に冷たいみすぼらしい朝飯なんざ、願い下げだ」
 途中でサービスエリアにでも寄って、温かいモーニングでも食うさと、こんな場面でもふたりに辱めを与えることを忘れない。
 辱めは、言葉だけではない。といっても、楚葉も希美も甘受するしかない恥辱だったが。排泄だった。七人は――倉庫の外へ出て、立ちションをするか離れた場所にある公衆便所まで通よっていたが、二人を外へ出すわけにはいかない。倉庫の隅にしゃがまされた。後始末もさせてもらえなかったが、昨夜みたいに立ちションを強要されなかっただけ、ましというものだった。
 もちろん洗顔などさせてもらえるはずもなく、すぐに箱詰めが始まった。二人を詰める箱までワゴンに準備されていた。といっても――リンゴの木箱よりひとまわり大きいだけで、棺桶のサイズにも遠かった。ワゴンに棺桶を積むスペースはない。
 いっそアメ車のトランクのほうが広いのだが、検問に引っ掛かってトランクを開けさせられたら終わりだ。
 倉庫に転がっている箱は大きすぎる。結局ふたりは――寝袋の暖房にされたときと同じに胸を抱えて肘をつかむような形に腕を縛られ、正座して上体を折り畳まれて、向かい合って頭と足をぶっ違いにして横向きに、箱の中に並べられた。
 全裸ではなく、生理上の配慮が払われていた。漏らしても箱から染み出ないようにオムツ代わりの襤褸布を股間に巻かれて、大声を出せないように口はガムテープで――ふさごうとするフトシを若頭が制止した。完全にふさぐと、鼻がつまったときに窒息の恐れがある。前例があったと言う。
「どっちみち生き埋めにするつもりだったから、手間が省けたけどな」
「けっ。これだから暴力団ってやつはよ」
 聞いていた楚葉が、聞こえよがしに吐き捨てた。ヤクザと暴力団は違うと、楚葉は考えている。それを希美も知っている。
 暴力団の構成員にしても、面と向かってそう呼ばれるのは嫌う。若頭は箱に手を突っ込んで乳房をわしづかみにして爪を立ててねじり上げて、それを楚葉に思い出させた。
 結局、口にも襤褸布を詰め込まれて、その上からビニール電線で縛られた。
 木箱の蓋が閉じられ、ふたりはワゴンに詰め込まれて――楚葉と希美、ふたりの地獄への道行きが始まった。
 ふたりとも、しばらくは身じろぎひとつしなかったが。やがて楚葉が、頭を動かし始めた。希美の脛に押し付けて、左右に大きくゆっくりずらしたり、上下に小さく強く振ったり。
 くすぐったいけれど、希美は不快に思わない。むしろ嬉しい。窮屈な闇の中で、自分もお姉様も確かに生きているんだという実感があった。
 動きが十分ほども続いて。
「ぷはっ……やっと、取れた」
 猿轡を外していたのだった。
「希美も取っちまえよ」
 楚葉にコツを教わりながらだったので、五分もかからずしゃべれるようになった。
 助けを求めて、大声で叫んだりはしない。フトシよサジに聞き付けられて、ガムテープを貼られるだけだ。奴らが朝食のために車を離れているときだって、無駄だろう。ふつうでも窓を閉じていたら、大声も外まで届かない。まして、木箱の中。積み込まれてしばらく、物を動かす音がしていた。木箱のまわりに荷物を積み上げてカムフラージュしたんだろう。ますます望み薄だ。
「希美……ほんとうに、ごめんよ」
 その声が微かに震えているのを、希美は聞き取った。お姉様、今にも泣きそうな顔をしているんじゃないかな――と、希美は思った。どんな顔か、想像できないけれど。
 希美は、返す言葉を見つけられない。ありきたりな物言いでは、自分の想いを伝えられない。楚葉の脛に頬を押し付けてゆっくりと何度も何度も首を振った。
「お袋は、まあいろいろあるんだけど……おれは父上を尊敬してた、好きだった。強い奴にぶちのめされたいってのも嘘じゃないけど、娘としてじゃなく漢(おとこ)として認められたかったてのもあったかな。任侠映画じゃあるまいし、跡目を継げるわけでもねえのにな」
 まだ続きがあるような気がして、希美は黙って聞いている。
「おれが堅気の娘らしく――組に顔を出したりせず、お袋とおとなしくしてりゃ、こんなことにはならなかったかもしれねえ。おれの身勝手に希美を巻き込んで、詫びの入れようもない」
「あたしだって……!」
 希美は小さく叫んだ。
「あたしだって、お姉様にリンチをおねだりしたときから、覚悟していました。こんな怖い人のオモチャにされて……まともな学生生活を送れるはずがないし、いずれはひどい目、サドマゾって意味じゃなくてスキャンダルとか、そういうの……」
 ほんとうだろうかと、希美は自分の言葉を疑った。そんなに深くは考えてなかったと思う。小さな頃から胸に秘めていた妄想が現実になる。それが嬉しくて怖くて、後先のことなんか、考えていなかった。
「今も、おれが怖いのか。後悔してるのか」
 答を知っているくせに……お姉様の意地悪。
 希美はもう一度、脛に頬を擦り付けた。だけでは足りない気持ちになって、舌を伸ばして脹ら脛の内側を舐めた。
 楚葉も、同じように希美を舐めた。
 そのささやかな舌の動きを希美は、どんな愛撫よりも優しく感じた。それだけで、エクスタシーに達しそうなほどだった。
 お姉様の下のお口にキスできないのが、もどかしい。ペニスバンドを(ヴァギナでもアナルでも、ううん両方とも)突っ込んでもらえないのが、物足りない。
 どうせ売春島へ売られたら、毎晩のようにショーを演らされるんだろう。でも、それは強制されてのことだ。そういうのもマゾ牝にはふさわしいと想うけれど。自発的な戯れはこれが最後だと思うと、こんなもどかしいものでは、あまりに悲しい。

 車の小刻みな振動が消えて。コトン……コトン……と、間延びした微かなショックが伝わってきた。
 舗装の完備した自動車専用道に乗ったんだろうと、希美は推測した。
 甘い絶望を噛み締める二匹のマゾ牝を積んで、ワゴンは男の天国女の地獄へ向かって走り続けている。

[未完]


 筆者としては、凄絶なマゾ堕ちと以後の苛酷な境遇を暗示して終わるのが好みです。ヒロインにとっても一種のハッピーエンドだと思いますし、立派なマゾ牝に成長(?)しているから、小説としても結構が整っています。
 それでも。こんなのは後味が悪い――という読者もおられることでしょうから。一般的なハッピーエンドを取って着けておきます。
 真のサディストは次頁以下を読まず、売春島に軟禁されるWヒロインが辿るであろう凄絶な未来を(お好きなように)想像してください。

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 この後に”+α”が続きます。

 さて。11月も下旬で、3,012枚書きました。最高記録は2019年の2,229枚ですから。あと200枚ちょっとで記録更新できますが……
 『生贄王女への二つの暴辱と五つの試練/簒奪侍女に科される七つの拷問と懲罰』は大長編で、着手すれば年越し。
 ぼつぼつ『宿題を忘れたらお尻たたき、水着を忘れたら裸で泳ぐと、HRの多数決で決めました。』も続きを書かねば。2話を一揆加勢しても200枚はいきませんし。
 『昭和集団羞辱史:物売編(夜)』を仕切り直すのは、その気が足りないし。
 なんと、知る人ぞ知る(たぶん数人?)SF短編『追憶を始めるとき』の続編(でもない)『追憶を終えるとき』も書きたいという、鬱勃たるロゴスにパトスに蓄音器ですけど。こやつはおそらく畢生の力作『生が二人を分かつとも』に準ずる作品でもあり、短編といえど構成を練り込みたいという想いと、ロゴスにパトスで疾走すべきという想いとが菱縄モトイ拮抗中です。たぶん年明けかな。
  注記:『追憶を始めるとき』は短編集『生が二人を分かつとも』に収録。
 いっそ『男性社員』を書くか、ふと思いついた『心中切支丹』をまとめてみるか。
 校訂も済まないうちから思案吊首じゃあ死んでまうがな。
 あ、表紙絵だけは決まっています。これを例によって件の如くBFにします。


$こうず

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 この作家さんは、濠門長恭クンが「小説SMセレクト」に最後の作品(PN:藤間慎三)を掲載された同じ号でデビューした後輩といえば後輩、電子出版ではずっと早くから活躍していた先輩といえば先輩です。
 ハードSMという点では共通しています。テーマとかモチーフは……購読して読者各位にて比較してみてください。

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