Progress Report 5:生贄王女と簒奪侍女

 だらだら書いてるうちに『拷虐の二:人定拷問』だけで3万8千文字いっちゃいました。原稿用紙110枚です。
 「拷虐」は全部で七つ。この調子でいくと770枚突破?
 は、しませんね。『始りの章』はともかく『拷虐の一:磔架輓曳』は2万4千文字(54枚)ですし。
 駄菓子案山子。
 (54+110)÷2×7=570枚。終章まで含めると600枚?
 まあ、短い章もあります(だろう)から、400枚くらいかしら。
 現在、休日も含めて日産グロリア10枚ペース。校訂とかしてると、6月上旬リリースに間に合わなくなる??
 あーあ。締切ってやつに追われる身分になりてえなあ。かといって、AIでも書けるようなラノベもどきは書く気にもなれません。
 AIが直近未来に書くであろう小説と、拙の作品とは何が違うか、ちょいと考察したことがありますが。AIはけっして左手で書いて右手は別のブツを掻いたりはしないだろうという結論に至りました。妄想竹の有無です。


 話はそれますが。またBOOTHから飯茶門がきました。『いじめられっ娘二重唱(後編)』で、表紙イラストは問題無いが、紹介文とかで
 ・自動に対する性的搾取及び虐待
 ・レイ●(同意のない性的行為)
 ・過度な暴力、残虐行為
 ・虐待
などの表現があるから修正しろと。誤字黒丸はFC2仕様です。
 あのね。本文は、上記のオンパレードでヒッパレー、ヒッパレー、みんなのヒッパレー。分かる読者はいるかしら。
 まあ、修正期限ぎりぎりまで放置して、「勘違いでした。そのままでEです」メールを待ちましょう。
 来なかったら。もしかして、ノベルと謳いながら内容にイラスト多数と思われてるのかもなので、
「商品に含まれる画像は、紹介画像(表紙)のみです」を紹介文に追加してみます。
 それでNotOpenなら、つまりはB☆Wと同様で、紹介文くらいはおとなしくしてなさいってことでしょうから……馬鹿正直に修正すると鳴門、全作品が右へ倣えですので。飯茶門が来たのだけ順次対応しますか。
 本件、結果は続報する予定。

 さて、Retake Wood 木を取り直して。
 第二章では、マライボに五日滞在しますが、その初日から三日目までを御紹介。


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  拷虐の二:人定拷問

 ゼメキンスは、アクメリンにはちらっと目を走らせただけで、二つの檻へと目を転じた。牢獄で待機していた修道僧が差し出す書付を見て。
「ショザウンの娘、ジョイエと申すほうからじゃ」
 その修道僧が檻を開け、若いほうの少女を引き出して部屋の中央に立たせた。
「そこの娘と同じ姿になれ」
 ゼメキンスが低い声で命じる。
 少女はびくっと身をすくませたが。目の前にいるアクメリンを哀しげな眼で眺めると、のろのろと衣服に手を掛けた。
「何故に、みずからの手で衣服を脱がせておるか、分かるか?」
 少女はかぶりを振った。
「そこの娘は、この者らの手で衣服を破り捨てた。二度と服を着る必要がないからじゃ。しかし、おまえは――釈放されても、裸では帰れまい」
 はっと顔を上げてゼメキンスを直視する少女。罰を受けずに帰してもらえるかもしれないと、希望を見い出して、幾分か表情が甦った。
「手を止めるな」
 修道僧に叱咤されて、少女はあわてて服を脱ぎ始める。てきぱきとまではいかないが、先ほどよりはよほど手際が良い。
 少女は、みすぼらしい衣服の下には腰布を巻いているだけだった。さすがに、それをみずからの手で剥ぎ取るのには、ためらいを見せた。
「そのままで良い」
 ゼメキンスの言葉に安堵する暇もなく。少女は手をつかまれ、両手首をひとまとめに縄で縛られた。その結び目に、天井の滑車から垂れる鎖の先に付いている鈎を引っ掛けられて、腕を吊り上げられた。
「最後の一枚は、余が剥ぎ取ってやろう」
 ゼメキンスが腰布に手を伸ばす。
「それだけは、お赦しください――神父様」
「馬鹿者!」
 修道僧のひとりが大音声で叱責した。
「こちらにおわすは、キャゴッテ・ゼメキンス枢機卿猊下であらせられるぞ」
「ひっ……」
 少女が息を呑む。
 神父は一般的な敬称であるが、おおむねは教会の筆頭者である司祭を指す。司祭は位階であり、枢機卿は役職であるから、同列には論じられないのだが、司祭はそれぞれの教会に一人、その上の司教となると教区ごとに一人か二人。しかし枢機卿は全世界に二十人とはいない。もしも少女が鎖に吊るされていなければ、その場にひれ伏していたかもしれなかった。
 ゼメキンスに腰布を剥ぎ取られても、少女は拒む素振りすら見せなかった。
「ふむ……身体はみすぼらしくても、生えるところには生えておるの」
 少女の下腹部には、焦げ茶色の草叢がアクメリンと変わらないくらいに繁茂している。腕を高く吊り上げられて露わになった腋の下にも。
 ゼメキンスの言葉に、白い裸身が薄赤く染まったのだが。
「ふむ……継母を刺し殺そうとしたのだな」
 ゼメキンスが、修道僧から受け取った書付に目を落として少女の罪状を確認すると、少女の裸身から色が引いた。
「告発に間違いはないな?」
「違います。あの人があたいを刺そうとしたのです。揉み合っているうちに、切っ先があの人の腕を掠っただけです」
「あの人とは誰じゃ?」
「……継母の、イディナです」
 少女は、厭々といったふうに、その名前を口にした。
「なぜに、継母はおまえを刺そうとしたのじゃ?」
「…………」
 言い訳すらもしたくないといったふうに、少女は口をつぐむ。
「おまえが父親と媾合っていたからであろう。継母は恥を忍んで、涙ながらに訴えておったと、ここに書いてあるわ」
「それは、その通りですけど……父さんはあたいを、何年も前から……あの……手込めにしていて……それで、あの……」
「なんと。おまえは幼少の頃より、実の父親を誘惑して不義を働いていたのか?!」
 ゼメキンスが少女の言葉を遮って決めつけた。
「違います! 父さんが、無理矢理に……」
「黙れ。この淫魔め」
「ゼメキンス様」
 牢獄を仕切っていた修道僧が、やんわりと口を挟んだ。猊下とは呼び掛けず、軽い敬称を使ったところに、この男とゼメキンスとの関係が透けて見えるのだが、それはさておき。
「このあどけない少女が淫魔であるとは、それがしには信じられませぬ。当人の申し立てよりは、確たる証拠が必要かと」
「ふむ。それもそうじゃな。ホナー、あれは持って来ておるな」
 ゼメキンスに付き従っていた修道僧のひとりが、小さな箱を差し出した。中には、さまざまな得体の知れない道具が並べられている。その中でも比較亭に使途が明白なのは――さまざまな太さと長さの棒状の道具だった。
「生娘ではないと申し立てておるのだから、これで良かろう」
 ゼメキンスが取り出したのは、怒張した男根にそっくりの、ただし太さも長さも常人の五割増しはあろうかという巨大な『棒』だった。先端部は、きっちりと亀頭を模している――と見て取ったのは、これからそれを使われようとしている少女と、檻の中の女。アクメリンは、怒張した男根など見たこともない。
「リカード。片脚を持ち上げよ」
 もうひとりの従者が少女の後ろへ回って、その左足首をつかんで斜め上へ持ち上げる。
「あ……きゃあっ」
 横ざまに倒れかけて、少女があわてて鎖にすがって身体を起こした。
「痛い……です」
 訴えを無視して、リカードは少女の腋を片手で押さえながら、左足を肩よりも高く引き上げた。
 ゼメキンスが少女の前に立って、模造男根を股間にあてがった。ぱっくり横に開いた淫裂に亀頭部分を埋めて、さらに穴へ押し込もうとする。
「いやあっ……そんなこと、やめてください」
 ゼメキンスが、あっさりと模造男根を引いた。身を起こして。
「ガイアスよ」
 少女に向かって手招きする。
 ガイアスと呼ばれた三人目の修道僧はリカードの横に並ぶと、少女の頭をぐいと前へ突き出した。そこを目がけて。
 ばちん! ばちん!
 ゼメキンスが、少女の頬をしたたかに掌で叩いた。
「余のすることに、指図がましい口をはさむでない。焼き殺されるか無罪放免になるかの瀬戸際ぞ。分かっておるのか?」
「えっ……?!」
 少女の顔が恐怖に凍りついた。もののはずみで継母に、ごく軽い手傷を負わせただけなのだから――言い分を聞いてもらえず、継母の申し立てだけが取り上げられたとしても、父は寛大な処分を願ってくれるに決まっているから、せいぜいが広場での鞭打ち。それくらいに考えていたのに、斬首よりも罪が重い焼殺。
「あたい、そんな悪いことはしてません。父さんだって、そう証言してくれます!」
 ばちん! ばちん!
 いっそう痛烈な往復の平手打ちが、ゼメキンスの返事だった。
 再び股間に模造男根を突きつけられても、少女は再度の抗議をしなかった。潤いのない穴にぐりぐりと捻じ挿れられて、顔を苦痛に歪めながらも無言で耐える。
「ふうむ。これほどの巨大な物を平然と受け挿れるとは、まさしく淫魔であるな」
「そんな……猊下が我慢しろとおっしゃるから……ぎひいっ!」
 ぐいっと一気に奥底まで突かれて、悲鳴をあげる少女。
「ゼメキンス殿。女の穴はそれぞれに大きさも違うかと」
 もしかすると――このガイアスというお方は、枢機卿猊下に付き従っている二人の修道僧とは異なっているのではないか。アクメリンには、彼が少女をかばっているように思えた。冷静に考えれば、ゼメキンスが模造男根による責めだか検査だかを思い立ったのは、ガイアスの言葉である。すこし深読みすれば、最初から台本があったのではないかと思い至る。そこに気づかなかったのは、アクメリンが一人でも味方を見つけたかったという焦りであろう。
「ふむ。では、今しばらく詳しく調べてみるか」
 リカードが少女の脚を床へ下ろして、壁に掛けてある木枷を取ってきた。両端の留金具で閉じ合わす二つ割の板。大小五つの穴が開けられている。少女を開脚させ、いちばん外側の穴に足首を挟んで木枷を閉じた。
「これから、おまえに淫らな悪戯を仕掛ける。信心深き貞婦であるなら、よも乱れはすまい」
 つまり。性的な刺激を与えて、それに反応すれば淫魔である――と、最初から結果は分かり切っているのだが。
 股間から突き出している模造男根の端にホナーが縄を巻いて、抜け落ちないように太腿に縛りつけた。そして三人の修道僧は小さな刷毛を持って少女を囲んだ。ホナーとリカードが両側に立ち、ガイアスは正面にしゃがみ込む。
 そして、乳首と淫核を刷毛でくすぐり始めた。
 刷毛が乳首に触れるなり、少女はぴくんと身体を震わせて――震わせ続ける。
「く、くすぐったい……」
 少女は、しかし刷毛から逃れようとはしない。これが、真っ当な検査であると信じているのだろう。淫核を包皮の上からくすぐられているうちは、それで済んでいたのだが。ガイアスが左手の指の間に淫核を挟んで剥き上げ、その柔肉に刷毛の先を触れさせると。
「いやあっ……ああっ……あんんっ?!」
 腰をくねらせて逃れようとし始めた。リカードが、股間から突き出ている模造男根を握って、動きを封じる。
「いや……お赦しください……」
 少女はなおも腰をくねらせるのだが、その動きはかえって膣穴を刺激することになり、不本意ではあっても小さな頃から男根に馴染んでいるのだから、新たな快感を掘り起こしてしまう。
「いや……やめてください。くすぐったいです」
 しかし、最初に訴えたときとは響きが変わっている。
「いやっ……駄目! やめてえええ……」
 切迫した訴えだが、語尾が鼻に抜けている。
 三人の修道僧は、いっそう激しくしかし繊細に刷毛を動かして。
「ああっ……こんなの、いやっ! ああ……あんん」
 しかし、ゼメキンスの合図で三人がいっせいに刷毛を引くと。
「いやああああ、やめないで!」
「気持ち好いのか。もっとくすぐってほしいのだな?」
 ゼメキンスの罠に嵌まって、少女が頷く。
「逝かせてやれ」
 三つの刷毛が、また三つの突起を襲って……
「ああああっ……駄目! 落ちる! 落ちちゃうよおお!」
 少女は、あっさりと堕ちてしまった。
「この娘は紛れもなく淫魔であると立証されたな」
 アクメリンは、目の前で何が起きているのかを、すぐには理解できなかった。もしも三日前の彼女であったら、ゼメキンスの言葉を信じていたかもしれない。それほどに、少女の乱れっぷりはアクメリンの常識を超えていた。
 しかし。同じ三点を糸で括られて木札をぶらさげられ、その重みと糸から伝わる微妙な震えとに激痛を感じながらも怪しい疼きに悩まされて、ついには忘我に至ってしまった、まだ生々しい記憶が、少女の反応に重なって――性的な快感とは無縁だったアクメリンにも、おぼろな理解を生じさせようとしていた。と同時に、初めて、枢機卿猊下の御言葉に疑問を持った。彼の言葉が正しければ、アクメリンもまた淫魔ということになりはしないだろうか。
「この娘が淫魔であると判明したからには、これ以上の尋問は不要であるな」
 ゼメキンスが唐突な断定をした。
「ショザウンの娘ジョイエよ。汝は淫魔に憑かれておるがゆえに、炎による浄化が必要である」
 恍惚にたゆたっていた少女は、ゼメキンスの言葉が自分の運命を断ち切るものであるとは理解できないようだったが。
「街じゅうに布令を出して、三日後に焚刑に処すものである」
 そこまで言われれば、恍惚の余韻どころではない。
「違います! あたいは悪魔なんかじゃないです。みんな、あの人のでたらめです!」
 金切り声に涙を交えて、少女が訴える。
「されど、おまえは若い。魂としては幼いと言ってもよい。これから魂の浄化に励み徳を積むと誓うのであれば――これまでの罪を赦してやってもよいぞ」
「え……?」
 急展開の断罪についで唐突に示された救済の道。そもそもの理不尽な告発を争うことも忘れて、少女は縋りつくような眼差しでゼメキンスを見る。
「おまえが清らかな魂を取り戻すまでのあいだ、修道院で――左様、いきなり尼にしてやるわけにもゆかぬ。女手の足りておらぬ修道院で下働きをするか?」
 奇妙な話ではある。女子修道院なら、そこに居住するのは女ばかりであるし、男子修道院なら必然的に男子ばかりで、女手の不足という言葉は矛盾している。三人の修道僧がひっそりとほくそ笑んでいる様に気づけば、足りぬ女手がどのように扱われるか――しかし、聖職者の集団と姦淫や虐待とは、ゼメキンス以下三人の残虐を身をもって体験してきたアクメリンにさえも、すぐには結びつかなかった。
「は、はい。喜んで、おっしゃる通りにいたします」
 少女が安堵ではなく歓喜を迸らせた。修道院での生活は質素でこそあれ、貧窮はしていない。しかも、拒めば暴力を振るってでも実の娘を犯す父親とも、悪意を持って接する継母とも、縁を切れる。
 縄をほどかれ、脱いだ衣服を与えられて。少女は身なりを整えるよりも先に、裸のまま枢機卿猊下の御前にひれ伏して、その足に口づけをしたのだった。
 少女はガイアスに案内(後の運命の実態を考えれば、拉致あるいは連行という言葉がふさわしいのだが)されて、牢獄を去った。
 ――次に、檻の中の年増女(といってしまっては可哀想であるが)が引き出される。
「革鞣し職人ツワイマアの妻、ニレナであるな」
「はい……」
 女は、腕を吊られて床に座り込んでいるアクメリンをちらちらと見ながら、あやふやに答えた。女は、おのれがどのような目に遭わされるのか、不安と希望とが混淆している。
 アクメリンの裸身は、これまでに種々の虐待が加えられたことを雄弁に物語っている。尻は刃物傷で埋め尽くされて乾いた血がこびりついているし、全身に鞭痕が走っている。乳首と股間には新しい血が滲んでいる。そのやつれた顔に見て取れる表情は、絶望でしかない。それが不安の根源であった。
 一方、ジョイエという少女は、裸にされてニレナの目には姦淫としか見えないことをされはしたが、あっさりと許された。
 思いが交錯するうちにも、ゼメキンスが女の罪状を読み上げる。
「おまえは、ガカーリイ商会の会頭から魔女の嫌疑で告発されておる。この十日間で、商会の者が五人も病を得たり怪我をしたり――それも、すべておまえの家を訪ねた直後だ」
「そんなのは、言い掛かりです。亭主が商会を通さず直に注文を受けたり、安い手間賃で仕事をしているのを、何とか商会に引き入れようとして、もう半年から嫌がらせをしてきてます。今度のことだって、病気だの怪我だの、嘘に決まっています」
 ばしん。
 ゼメキンスが、平手打ちで女の申し立てを退けた。
「魔女であるか否かは、調べれば分かること。この女を素裸に剥け」
 修道僧が伸ばした手を女が振り払った。顔から血の気が引いている。
 女は、ゼメキンスがジョイエに向かって言ったことを覚えていて、それで恐慌に陥ったのだった。みずからの手で服を脱がせるのは、釈放するときに服を返してやるためだ――と。では、服を破られようとしている自分は有罪と決めつけられているのか。釈放されることのない刑罰、つまり死刑なのか――と。
「自分で脱ぎます。破らないでください」
 しかし、女の訴えは再び無視される。リカードが女を羽交い絞めにして、ゼメキンスが正面に立った。
「枢機卿猊下が、御自ら手を下される。光栄に思え」
 ホナーの声は揶揄を含んでいる。
 ゼメキンスが服の胸元を両手につかんで。
 びりりりり……力まかせに引き裂いた。裳裾は上の方だけを破って、下に落とす。さすがに稼ぎのある職人の妻だけに、ジョイエのように上着の下は素肌というわけではなかった。ゼメキンスは手間暇を惜しまず、一枚ずつ破り取っていく。
 裸体を隠そうとする腕を背中へねじ上げて、首枷と手枷が一体になった拘束具を女に嵌める。そして。ジョイエに嵌めていた木枷で開脚させて、その枷を天井から垂れる鎖で吊り上げた。後ろ手に拘束され喉を締めつけられた、女盛りの裸身が逆さ吊りになった。
「亭主持ちであるなら、処女でないのは当然じゃな。悪魔が交わるとすれば、尻穴であろう」
 ジョイエに使った模造男根を逆手に持って、ゼメキンスが女の後ろへまわった。尻たぶを左右に押し広げ、その奥にひそんでいる紫色の蕾を露わにして先端を押しつける。
「きゃっ……まさか?!」
「まさか――なんじゃと言うのかな?」
 軽く押しつけて、ぐりぐりとこねくる。
「そんなことは、しないでください。まさか枢機卿猊下ともあらせられる御方が、ソドムの罪を犯されるのですか?!」
 ゼメキンスが、こねくる手は休めず、修道僧に向かって小首を傾げて見せた。
「そのようなこと、誰に吹き込まれたのじゃ」
「だって……神父様がおっしゃっておられました。子供を作りたくないからといって、そんなことをしたら、雷に打たれるだろうって」
『後デ注意シテオカネバナランナ。具体的ナ教エハ、必ズ、ソレヲ験シテヤロウトイウ輩ヲ生ミ出スコトニナル』
 ゼメキンスが聖なる言葉で低く呟くと、二人の修道僧が軽く頭を下げた。ゼメキンスが人の言葉に戻って、女に告げる。
「さよう。ソドムの罪をおまえの身体が受け挿れるようであれば、すなわち悪魔と交わった証拠となるのだ」
「そんな……無理に押し込めば、入るに決まっています」
「試してみれば分かることだ」
 いうなり、ゼメキンスは腕に力を込めた。ジョイエが無理強いに絞り出された分泌で、模造男根はじゅうぶんに潤滑されていたから。
「ぎゃはああっ……痛い!」
 女は悲鳴を上げたが、模造男根はずぶずぶと尻穴を穿った。
「ひいいい……」
 さらに中をこねくられたり抜き挿しされて、女は啜り泣く。
「ふむ。確かに悪魔と交わっておるようじゃな。とすると、次なる調査は何をすればよいか分かるな――リカード?」
「はい。悪魔は契約の印を女の身体に刻みます。巧妙に隠されていることが多いのですが、その印の部分は痛みを感じなくなっています。つまり、全身をくまなく針で刺して調べます」
 直属の部下として使っている修道僧に、今さら口頭試問でもあるまい。ニレナに聞かせるための言葉だ。
 ホナーが箱の中から、さらに小さな箱を取り出して蓋を開けた。びっしりと並んだ、縫い針にしては太く長すぎるが、金串にしては細く短すぎる――先端が鋭く尖った針金。
「おまえの答は間違っておらぬ。されど、全身をくまなく調べるのは時間の無駄じゃ。悪魔が契約の印を刻む箇所は、ほぼ決まっておる。すなわち、女が厳重に隠していても疑われぬ場所。たとえば――ここじゃな」
 ゼメキンスは小箱から針を取り出すと身を屈めて、女の乳房を鷲掴みにすると横から針を突き刺した。
「痛いっ……お願いです、もうお赦しを……お慈悲を……」
 悲鳴には耳を貸さず、いや、妙なる調べを聴くがごとく目を細めて愉しみながら、ずぶりずぶりと、四方から針を抜いては刺していき、ついには――乳首を正面から貫いた。
「きゃあ゙あ゙あ゙あ゙っ……!」
 女は顔の半分が口になったような形相で絶叫する。
「ふむ。こちらの乳房には印がないようじゃな。反対側は、リカード、貴公に委ねる」
 枢機卿猊下ともあろう高位の者が、一介の修行僧に、ぞんざいな口振りとはいえ『貴公』などと呼ぶ。やはり、尋常の関係ではない。使命に駆られて魔女を狩る同志――ということに、今はしておこう。
「魔女の本性を暴くために、余はこちらをさらに調べてみよう」
 ゼメキンスは新しい模造男根を取り出して女の背後へまわり、前の穴へ無雑作に突き立てた。
「くうう……お腹が……裂ける!」
 夜毎に(かどうかまでは知らないが)亭主の魔羅を受け挿れている女穴は、亭主の五割増しはあろう逸物をすんなりと呑み込んだ。とはいえ、後ろにも突き刺さったまま。下腹部の圧迫感膨満感は並大抵ではなかろう。
「ふふん。裂ければ、案外とそこから悪魔の肉片なぞ飛び出すかもしれんぞ」
 後ろの模造男根を縛っている縄をほどくと、ゼメキンスは前後の棒を両手に握って、交互にあるいは同時に、抽挿を始めた。
「ひいいい……」
 それでも、どこか余裕の感じられる呻き声だったが、リカードに乳房をつかまれて息を呑み、すぐに絶叫を迸らせた。
「あっ……ぎゃわあああっ!」
 リカードはゼメキンスよりも容赦なかった。長い針が、乳房を外から内へと貫いたのだった。真横に貫くと、引き抜いて上から下へ。さらに斜め十文字に。
 そのたびに、女は絶叫する。そして最後には、乳首を正面から――針先が肋骨に突き当たるまで深々と突き通された。
「うがあああっ……!」
 リカードが針を抜いて立ち上がる。乳房をつかんでいた手は鮮血に染まっている。いうまでもなく、女の乳房は血まみれ。流れ出た血は胸の谷間を喉まで伝い、顔に数条の赤い線を描いている。
「乳房には見当たらないようです」
「ふむ。やはりな。では、肝心(かんじん)要(かなめ)の場所を調べるとするか」
 ゼメキンスの言葉がどこを差すか、アクメリンでさえ理解した。
「いやですっ……お願いです……もうお赦しください!」
 逆さ吊りにされている女は睫毛から涙をこぼして哀願するが、言葉を交わす間は手を休めていたゼメキンスに抽挿を再開させるきっかけを与えたに過ぎなかった。
「くううう……あっ、あっ……」
 亭主に(とは限らないかもしれないが)開発されつくした女体は、残酷な陵辱にさえも、何がしかの反応を示し始めた。ゼメキンスの言葉を藉りれば、魔女が本性を現わし始めたということにでもなろう。
 それでも。リカードが淫裂の端をまさぐり始めると、わずかな快感など消し飛んでしまう。
「そこは……お赦しください。いやっ……え?」
 リカードはニレナの真っ黒な予想に反して、探り当て掘り起こした肉の突起に、先端の綻びから針先をわずかに挿し入れて――突き刺さなかった。左手で突起の根元を摘まんで固定すると、針先で実核を軽く引っ掻いたのだった。
「あああっ……なに、これ? こんなの……しらない?!」
 数え切れないほど亭主に抱かれて開発し尽くされている(はず)だけに、未知の快感に戸惑うニレナ。
「ここは痛みを感じないようです」
 独り言めいてゼメキンスに語り掛けながら、リカードはいっそう繊細に執拗に針を操って、女から性感をほじくり出す。
 痛覚の無い部分があれば、すなわち悪魔との契約の印と断罪されることなど忘れ果てて、これまでに体感したことのない凄まじい鮮烈な快感に没入していくニレナ。びくんびくんと腰を痙攣させるが、ゼメキンスが操る二本の棒で動きを封じられる。
「あああっ……だめ、おかしくなる。こんなのって……あなた、ごめんなさいいいい……」
 女が絶頂に達する瞬間を過たず狙い済まして、リカードが手をわずかに動かした。
「ぎゃわああああっ……!」
 乳首などとは比べ物にならない鋭い激痛に貫かれて、女は雲間から奈落の谷底へ一気に突き墜とされた。
「ひいいい……痛い、痛い、いやあああ」
 天国から地獄に叩き墜とされて悶え哭くニレナ。
「ふむ。悪魔の印は見当たらぬか」
 ゼメキンスが、早々と結論を出す。
「そういつまでも、雑魚にかかずらわってもおれぬ」
 床に凝然とへたり込んでいるアクメリンを振り返って、舌先で唇の端をちろっと舐めた――この場が審問の場ではなく、宗教的権力を藉りて嗜虐を満たしているに過ぎないと認めたも同然だろう。もっとも、エクスターシャ王女に関しては、当然に大陸的規模の権勢欲も混じっているであろうが。
「我らの手で探すのは面倒じゃな。本人に教えてもらうとしよう」
 リカードが針を淫核に深々と刺し通したまま退いた。ゼメキンスが、こちらは二本の模造男根を引き抜いて、アクメリンの正面へ動いた。ホナーがそれを受け取り、布で汚れを拭き取ってから箱に納める。
「余が立っておるというに腰を降ろしているとは、不敬も甚だしいぞ」
 ゼメキンスが足を上げて、アクメリンの股間を踏みにじった。
「あ……申し訳ございません」
 未だにゼメキンスを(疑念を圧し殺して)加虐者ではなく高貴な聖職者と信じているアクメリンは、手枷を吊っている鎖に縋りつくようにして立ち上がった。滑車を介して壁につながれている鎖が緩んだが、リカードが引き絞って再びアクメリンの腕をいっぱいまで吊り上げた。
 その間にホナーが、壁に掛けられていた一本鞭を選び取って、ニレナの後ろに立った。
「我らの会話は聞こえておったろう。悪魔の印をどこに刻んだか、素直に告白すれば、痛い思いをせずに済むぞ」
 ゼメキンスは視線をアクメリンの乳房に落としたまま、片手でその柔らかな膨らみを弄びながらの尋問――とは、おざなりもいいところだ。
 しかし、ニレナは懸命に訴える。
「そんなもの、ありません。あたしは悪魔と契約なんて、絶対にしていません。悪魔を見たことだってありません。みんな、ガカーリイ商会の言い掛かりです」
 ニレナの言葉が終わると同時に、ホナーが長い鞭を振るった。
 しゅううん、バシイン!
 不気味な風切り音に続いて、肉を打つ重たい響き。
「いやあああっ!」
 淫核に突き立ったままになっている長い針が揺れて、苦痛と快感の綯い交ざった刺激が、悲鳴に余韻を含ませる。
「……くうう、んんん」
 しゅううん、バシイン!
「きゃああっ!」
 しゅううん、バシイン!
「痛いいいっ!」
 しゅううん、バシイン!
「きひいいっ!」
 続けざまの鞭に、悲鳴が切迫する。悲鳴の数だけ、白い尻に赤黒い線条が刻まれていく。
「強情を張り通すと、尻だけでは済まぬぞ」
「ほんとうに、悪魔なんて知りません。信じてください」
 ゼメキンスが指の腹を上にして、くいと曲げた。ホナーがうなずいて、ニレナの正面にまわって。
 しゅううん、バシイン!
「い゙ぎゃあ゙あ゙あ゙っ!」
 乳房が横ざまにひしゃげて、ぷるるんと跳ね返り、ニレナがしゃがれた悲鳴を噴きこぼした。
 しゅううん、バシイン!
「ぎびひいいっ!」
 しゅううん、バシイン!
「うあああっ……猊下のなさりようは、納得がいきません」
 鞭打ちから逃れようとしてのことだろうが、教皇に次いで高位の聖職者に庶民が抗議するには、よほどの勇気を要しただろう。
「納得するには及ばぬ。悪魔の刻印をどこに隠しておるか、白状すれば良いことじゃ」
「でも……身体じゅうを傷だらけにしたら、その刻印とやらも見分けられなくなるじゃないですか」
 ゼメキンスが、一瞬考え込んだ。では刻印があると認めるのだな――と、揚げ足を取ることもできたろう。しかし、そうはしなかった。
「そうか。もっともな言い分じゃな。それでは、鞭はあと三発だけに留めよう」
「…………」
 ニレナは唇を噛んで、沈黙する。十も二十も鞭打たれることを思えば、三発で終わるのなら――しかし、それでも今のような激痛を三度も与えられるのだから、まさかに感謝できようはずもない。
 どころか、ゼメキンスの言う三発は、これまでの鞭のすべてを上回って苛酷となった。
 ゼメキンスが人差し指を立てて、真下に撥ねた。
 ホナーが鞭を高く振り上げて。
 ぶゅうん、バッヂイイン!
 淫裂を真上から、長剣で断ち割るように打ち据えた。
「がはっ……!!」
 悲鳴も上げられないほどの激痛に、ニレナの裸身が凝固した。
 淫核に突き刺さっていた針が撥ね飛ばされた。石床に叩きつけられた針は銀色の表面が見えないほど血にまみれていた。
「ひいいい……」
 ふた呼吸ほども遅れて、弱々しい悲鳴がこぼれる。
「はあ、はあ、はあ……」
 荒い息が落ち着くのを待って、ふたたびホナーが鞭を振りかぶる。
「いやあっ……もう、おゆ……ぎゃわあっ!」
 一発目と変わらぬ正確さと強さと無慈悲さとで鞭が淫裂を切り裂いた――というのは、誇張ではない。はっきりと血しぶきが飛び散った。
 アクメリンの裸身が弛緩して膝が折れ、鎖で吊り下げられる形になった。同じ女人の身に加えられる残虐に失神したのだった。
 鞭打たれる当人のニレナは、逆さ吊りにされて頭に血が下がっているせいもあるのか、束の間の安息へ逃れることすらできずに悶え続けている。
「待て」
 次の鞭を与えようとするホナーをゼメキンスが制し、リカードに目を向けてアクメリンを指差す。リカードは隠しから硝子の小瓶を取り出すと、栓を開けてアクメリンの鼻先にかざした。
 アクメリンが大きなくしゃみをして、意識を取り戻した。
「良く見ておけ。ニレナへの最後の一発が終われば、いよいよおまえの番なのだぞ」
 分かりきっていたことだったが、それでも直截の宣告に、アクメリンは身を振るわせた。
「やれ。手加減は無用じゃ」
 ホナーが小さく頷いて、鞭を握る手を大きく後ろへ引いた。
「ああああ、あ……」
 エレナが唇をわななかせながら、ぎゅっと目を閉じた。
 ホナーは腕を肩越しに前へぶんまわして――膝を折って身体を沈める勢いまで加えて、正確に鞭先を淫裂に叩きつけた。血しぶきが飛び散る。
「がわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
 エレナは猛獣のように吠えて――ついに、安息を得た。
 二人の修道僧がエレナを石床へ降ろす。手桶に水を汲んで、血まみれの裸体にぶっ掛ける。襤褸布で水と血を拭き取ると、黄色っぽい軟膏を塗り込めていく。
「馬の背脂に魔女を清めた灰と火から蒸留した酒精を混ぜた、まあ主に祝福はされておらぬが堕天使にも呪われておらぬ、錬金術の秘薬じゃ。傷が化膿することなく早く治る。その分、頻繁に尋問できるというわけじゃな。これからは、おまえにもたっぷりと使ってやる。ありがたく思え」
 エレナへの残酷な拷問を見せつけられて、それを何度も繰り返すと脅されて、アクメリンはまたしても気が遠くなりかけたが、かろうじて踏みとどまった。
「申し開きは尋問の場で言えと、猊下はおっしゃいました。ですから、申し上げます。私はエクスターシャ王女ではありません。海賊の目を眩ませるために身代わりとなっていた、侍女頭のアクメリン・リョナルディです。アルイェットには、あと二人の侍女も捕まっています。彼女たちにお尋ねください。私の言葉が嘘ではないと、証言してくれるでしょう」
 アクメリンは必死に訴えた。延べ三日の行程とはいえ、それはよろめき歩くアクメリンを追い立ててのこと。馬を駆れば、アルイェットまで一日で往復できるはず。
「そのような手抜かりをすると思っておるのか。ミァーナ家の娘とズコバック家の娘。二人の侍女からも証言は得ておるわ。ひとりぬくぬくと海賊どもからお姫様扱いをされて、侍女の処遇など気にも留めぬ王女殿下を、ずいぶんと恨んでおったぞ」
「そんなはずは……」
 無いとはいえない。内心では、あの二人もエクスターシャ同様に見捨てるつもりでいた。指輪を使った小細工も、すり替わりを知っている者の目には、アクメリンの意図まで透かし見えただろう。王女が自分たちと同じように海賊どもに犯される姿を見るうちに、二人の侍女の気持ちは王女へと動いたのかもしれない。
 侍女の証言が得られず本物の王女が亡くなった今となっては、アクメリンの身の証を立てる術はない。
「それでもなお、おのれはエクスターシャではないと言い張るつもりかな。侍女ならば微罪で済むかも知れぬからの。命が惜しいか」
 王女ではないと言い張れ。そのようにそそのかしているも同然の物言いだったが、追い詰められているアクメリンは気づかない。
「本当に、私はエクスターシャではないのです。どうか、信じてください」
 異教徒の男(とはいえ王様)に抱かれるささやかな嫌悪と引き替えに優雅な生活を手に入れる目論見だったのに、身代わりで焼き殺されるなんて、あまりに理不尽だ。
 身から出た錆と内省するような女なら、最初から簒奪を企んだりしない。
「ふうむ。そのように必死に訴えられてはのう。間もなく晩餐じゃ。その間に考え直してみるか」
「ええっ……ありがとうございます」
 まさかの言葉に、悪意がこもっているとは疑わないアクメリン。
「その間、立たせっぱなしも可哀想じゃな。おまえのためにとびきりの座を用意してやるでな」
 気を失ったままのニレナを、犬がうずくまるような形で檻に押し込み終えた二人の修道僧が、アクメリンの腕を吊っている鎖も緩めた。その手を背中へねじ上げて、エレナに着けていた首枷と手枷が一体になった拘束具をアクメリンに使う。
「……?」
 休ませてやると言っておきながらのこの仕打ちに、アクメリンは不安を掻き立てられる。
 ホナーに乳房をつかまれリカードに尻を叩かれて、壁から二歩離れて置かれている木馬の前へ立たされた。それを木馬だと思ったのは――胴体は長さが子供の背丈くらいの材木で、幅は彼女の片腕の長さほどの狭い三角形をしているが、四隅の脚で湾曲した橇の上に支えられ、胴体の一端からは四角い材木があたかも馬の首のごとく斜めに突き出て、上端にはT字形に握り棒まで付いているからだった。
 木馬の真上にも滑車から鎖が垂れている。その鎖が腋の下をくぐって胸を巻いて――アクメリンは完全に床から吊り上げられた。
「ま、まさか……?!」
 ゼメキンスの悪意を悟って恐怖におののくアクメリン。こんな尖った材木を跨がせられたら、股間を切り裂かれてしまう。材木のまだらな模様は、染み込んだ血の痕ではなかろうか。
「いやあっ……やめてください!」
 じりじりと木馬の真上に吊り降ろされていって、アクメリンが藻掻く。一度は稜線の上に立ったが、鎖が緩むと不安定な均衡は崩され、足を滑らせて落ちた衝撃が胸に食い込んだ。それでも、足の裏で切り立った斜面を捉えようとする。ずるずると滑って股間すれすれまで割り裂かれると、内腿で材木を締めつけて留まろうとした。しかし、楔がわずかの力で硬い木を割り裂くのと同じで、材木の先端は容易に会淫にまで達した。
「ひいいい……痛い、痛い痛い……」
 爆発的な激痛ではなく、じわじわと増す鋭利な痛みに、アクメリンは泣き叫んだ。それでも諦めずに内腿を締め続けているからか、あるいは稜線が硬貨の厚みほどには丸められているせいか、すぐには肌を切り裂かれないでいる。
 しかし。滑りやすい急斜面では、どれだけ力んだところで、太腿は滑ってしまう。鎖が緩むと、身体の重みのほとんどが会淫に食い込んできた。
「痛い痛い……お赦しください……」
「ふむ。座り心地が悪いか。もっと足を休ませてやれ」
 アクメリンの宙に浮いた左右の足元に、人の頭ほどの大きさの鉄球が一つずつ置かれた。開閉式の鉄環、すなわち足枷が短い鎖でつながっている。ホナーがそのひとつを持ち上げ、リカードが足枷をアクメリンの足首に嵌めた。
 ホナーが慎重に鉄球を下げていって、そっと手を放す。
「んぐうううっ……」
 アクメリンが、食い縛った歯の隙間から呻き声をこぼす。鉄球の重さはアクメリンの重みの三分の二はあろう。
 鉄球は反対側の足にもつながれて――今度は、脹脛の高さから放り出された。がくんと、アクメリンの足が引き伸ばされて。
「ぎゃわばわああっ……!」
 断末魔のニレナにも負けない絶叫。
「ぐううう……きひいい……」
 涙をこぼして苦悶するアクメリンの股間に血が滲んで、細い筋となって内腿を伝い木馬の木肌を朱に染めた。
「お、おゆるし……ください……せめて、錘だけでも……」
 アクメリンの股間には、自身の二人分を超える重みが加わっている。さらに、鉄球が落下した衝撃。稜線がわずかに丸められていても、楔が体内に食い込むにはじゅうぶん過ぎる負荷だった。
「うぐ……ぐああああ……」
 アクメリンの呻き声はいつまでも焉まない。それは、三角木馬の鋭い先端が強い力で傷口に押しつけられているからだけではない。木馬の脚は、湾曲した橇の上に乗っている。アクメリンが苦痛に身悶えすると、木馬が揺れて新たな激痛を生み出すからだった。
 修道僧が木馬を押さえて揺れを止めた。
「ああ……」
 相変わらず激痛は続いているが、それでもすこしは軽くなって、アクメリンは安堵の息を吐いた。しかし。
「仕上げは余が施してやろう」
 ゼメキンスが細い紐、あるいは太い糸を取り出した。ホナーがアクメリンの乳房を握り潰す強さで揉みしだき、乳首を無理強いに搾り出す。ゼメキンスはそこに細紐を巻いて引き絞り、反対の端を木馬の首から水平に突出している握り棒に結びつけた。
「では、椅子の座り心地を堪能するがよい」
 ゼメキンスが後ろに下がると、二人の修道僧が橇の後ろを踏み握り棒を押し上げて、木馬を大きく反らせた。
 アクメリンの上体が後ろへ倒れて、乳首を引っ張られる。激痛を和らげようと前屈みになって細紐の引きを弱める。途端に。
「そおれっ」
 ゼメキンスの掛け声で、橇の端を踏んでいた足が引かれ、握り棒は下へ強く押された。
 ぐうんと木馬が前傾する。
「きゃああっ……!」
 身体が前へ滑りかけて、その摩擦が会淫をさらに深く抉る。しかし、痛いと叫ぶ暇も与えず、木馬が揺り戻す。今度は後ろへ滑りかけると共に上体がのけぞって――乳首に巻かれた細紐が、ぴいんと張った。
「がはあああああっ……!!」
 乳首があり得ないほどに引き伸ばされて、たわわな乳房が紡錘のように歪む。
 木馬が揺れるたびに、アクメリンの上体が前後に傾いで、乳首と乳房の変形が繰り返される。さらに、錘の揺れで股間の激痛も前後に動く。
「ぎゃああっ……いたいいっ……とめて……ごめんなさい……おもりは、このままで……ぎひいいいっ……せめて……ゆらすのだけは……とめてくださいいいいっ!」
 ある程度までの責めは甘受すると申し出たも同然の哀願だったが、それすらもゼメキンスには何の感銘も与えなかった――のではなく、嗜虐を満足させただけだった。
「では、デバイン殿が招待してくれた晩餐に赴こうぞ。エクスターシャよ、その揺れはじきに止まる――おまえの心掛け次第でな」
 枢機卿猊下は二人の部下というよりも手下を引き連れて、哀れな罪人(と、すでに決めつけられている)を放置したまま、牢獄舎から立ち去った。
「あうう……きひい……いたい……」
 木馬の揺れは次第に小さくはなっていったが、完全には静止しなかった。激痛に身悶えるアクメリン自身が木馬を揺らすからだ。そして。乳首の痛みをやわらげようとして身体を前へ倒すと、会淫を切り裂いていた稜線が、今度は淫裂の奥深くまで食い込んでくる。一時の激痛は我慢して身体全体を前へずらそうとして、内腿で力いっぱいに木馬を挟みつけて腰を突き出しても――足に吊るされた鉄球の重みがそれを阻んで、ただ股間を木馬に擦りつけるだけになってしまう。
「いたい……こんなのって……エクスタ、これは……ぐうう……あなたがうける……べきなのよ……たすけて、だれか……かみさま!」
 神の僕(しもべ)たる者たちから受けている加虐である。神に救いを求める虚しさに、アクメリンは気づいていない……
 ………………
 …………
 ……
 ――そうして。傷つき汚れてはいても、高窓からこぼれる微かな月明かりに仄白く浮かび上がるアクメリンの裸身は、まだ小さく揺れ続けている。激痛による無意識の身悶えばかりが原因でもない。後ろへ傾いたところで釣り合いが取れるように仕組まれているのだ。すると上体がのけぞって、乳首を引き千切られそうになる。意識するしないに関わらず身体を前傾させて、みずから揺れを増幅しているのだった。
「うあ、あ……く…………だれか……た……ひい………………たす、け……て……」
 揺れ動く鋭利な激痛に、惨めな安息すらも得られないでいる。
 そんなアクメリンを恐怖の眼差しで見詰めているのは、檻の中で意識を取り戻したニレナだった。明日は、もしかしたら今夜にも、自分も同じ拷問に掛けられるのだろうかと怯えているに違いない。自分が受けた拷問と、どちらが苦しいだろうか、とも。
 ニレナが、はっと、戸口に目をやった。
 ぎいい……と、蝶番を軋ませて扉が開いた。暗闇の中に透かし見える人影は四つ。枢機卿猊下と三人の修行僧に違いない。人影のひとつが壁際へ動いて、小さな赤い光が動いたと見るや、太い焔が灯って牢獄の中が明るくなった。
 尋問すなわち拷問の再開――と、ニレナは犬のようにうずくまっている裸身をいっそう縮込ませたが、四つの人影が共にアクメリンのほうへ動いたので、見知らぬ犠牲者の身を案じるどころではなく安堵した。
 アクメリンは、うわ言のように激痛を訴えるばかりで、牢獄が明るくなったことにさえ気づいていないようだったが。不意に木馬の揺れが止められて、ゼメキンスに真正面から顔を突き付けられて――しゃっくりのような悲鳴と共に(幾分かは)正気を取り戻した。
「まだ、おまえはエクスターシャ王女ではないと言い張るつもりかな?」
「あ……いやです。もう……ゆるしてください」
 どこまで、ゼメキンスの言葉を理解しているのか。
「おまえが王女と認めたところで、すぐに処刑するわけではないぞ」
 ゼメキンスの猫撫で声には、必ず裏があるのだが。
「デチカンまで連行して裁判に掛けたうえで、異端者もしくは魔女であると判定されてから――そうじゃな、裁判はひと月から先になろう。有罪と決まっても、処刑するとは限らん。フィションク準王国の陰謀を赤裸々に証言するなら、教皇聖下より恩赦を賜らんとも限らぬぞ」
 それは、およそ実現不能な絵空事に過ぎない。裁判は、被疑者の自白が最有力の証拠となる。完璧な自白が得られるまで、拷問が繰り返されるのだ。陰謀の告発には、それでも足りない。フィションクに対して、この娘がたしかに王女であると、これを教皇庁が証明しなければならない。それは不可能に近いし、仮に本物の王女が証言したとしても、フィションク国王は愛娘を見捨ててでも国家の安泰を謀るに決まっている。しかも、夫を捨てて駆け落ちをした妻の娘。一掬の涙すら浮かべないのではなかろうか。そんな私事よりは、メスマンとの同盟を諦めねばならないことのほうが、よほどの打撃だ。
 つまりエクスターシャは、フィションクへの教皇庁からの警告の贄として白羽の矢を立てられたというのが、真相であった。などとは、たとえアクメリンの思考が十全に働いていたとしても、思い及ばなかっただろう。
 しかし、長時間の拷問(ゼメキンスの見解では、まだ始まってもおらず、とびきりの座に憩わせてやっているだけだろうが、それはともかく)で激痛に疲弊して思考力も失われたアクメリンには、枢機卿猊下の御言葉は福音のように聞こえた。嫌疑を認めさせるための拷問にも思い至らず、馬車なら十日とかからぬ距離をなぜ三十日と見積もるのかも疑問すら浮かばなかった。
「嫌疑に対する尋問は後日のこととしてやろう。今はただ、おのれがエクスターシャであることのみを認めよ。されば、今宵は簡単な検査のみで済ませてやるぞ。どうじゃな?」
「あああ……どうか、もう……おゆるしください」
「認めるのじゃな」
「は、はい……みとめます」
「もっと、明確に証言せよ。おまえは、フィションク準王国の第二王女、エクスターシャ・コモニレルなのじゃな?」 
「わたしは……えくすたあしゃ、です」
「王女が、そのような言葉遣いをするものか。正しく言い直せ」
 虚ろな瞳の中で、微かに光が揺れた。エクスターシャと入れ替わった直後に、その言葉遣いを訂正させたときのことを、アクメリンはおぼろに思い出した。
「わらわは、ふぃしょんくのおうじょ……えくすたあしゃ、に……そういありませぬ」
 アクメリンは、すでに尽きている気力を虚無の中から掘り起こして、枢機卿猊下が望まれているであろう言葉を気息奄々と口にのぼせ終えると、がくりと首を垂れた。
「三人とも、フィションク準王国第二王女の自白を、しかと聞いたな」
 三人は左手を胸に当て右手を挙げて頷き、牢獄の入口近くに設えられている小机に置かれている羊皮紙に、アクメリンの自白を書き込んでそれぞれに署名をした。
 ヒロインをそっちのけの猿芝居が終わると、ゼメキンスが次の残虐を命じる。
「売女を降ろしてやれ。この者が悪魔と交わっておらぬか、調べねばならん」
 アクメリンは即刻に三角木馬から解放され、後ろ手の枷も外されて――梯子を水平に寝かせた台の上に縛りつけられた。本来の目的に使われるなら足の先が来る位置に腰を置かれて。
「もう……ゆるしてくださる、はずでは……」
「言ったはずじゃ。ごく簡単な検査が残っておると」
「…………」
 言われてみれば、そうだったような。
 アクメリンはもう、抗議も哀願もしなかった。両手を伸ばして頭の上で縛られようと、首の下に横木を通されて、そこへ直角に開かれた両脚を固縛されようと、三角柱の木馬を跨がせられることに比べれば安楽の極みだった。女として最大の羞恥を曝すことなど、肉体的な苦痛は微塵も無い。
 枢機卿猊下がいきなり法服を脱ぎ始めても、アクメリンは関心を持たなかった。下着まで脱ぎ捨てて、四十を過ぎてあちこちが弛(たる)んだ裸形を見せつけられても、猊下の意図すら推測しようとは思わなかった。とはいえ、その股間に屹立している部分が、ジョイエとレニナの股間に突き立てられた棒状の道具に(かなり小振りだが)酷似しているのに気づくと――さすがに不安が生じた。
 アクメリンは上体を屈曲した形で梯子の端に固縛されているから、V字形に開かされた股間は宙に突き出ている。その正面――ただ前へ進むだけで容易に挿入可能な位置に、ゼメキンスが立った。
「おまえが清らかな身体であれば、その門は閉ざされており、男の侵入を拒むであろう。されど悪魔と交わっておる魔女なれば、悦んで迎え挿れるはずじゃ」
 検査の後は確実に処女でなくなるという、冤罪捏造のための処女検査であった。
 しかしアクメリンは、これから我が身に起こる災厄を、正確には理解していない。結婚適齢期になった娘でさえも、新婚初夜は夫となった男に一切を委ねて、羞ずかしくても痛くても我慢しなさい――としか教わらないのが、少なくとも貴族の世界では普通だった。わずかな聞きかじりと、今夜に目撃した惨劇だけが、アクメリンが性に関して知っているすべてだった。いや、目撃した陵辱と男女の営みとを直接に関連付けて理解しているのかさえ怪しい。
 しかし、肉体の反応は知識とは無関係である。棒状の道具に酷似した男性の器官を股間に押し挿れられて、当然に痛みを感じた。とはいえ、三角木馬に股間を抉られていたときの痛みに比べれば、呻き声にすらも値しない軽微なものだった。
 それよりも。これは、まさしく新妻が夫に従属するための儀式なのではないか――と、そのことに思い至って愕然とした。
「いやっ……やめてください。お嫁に行けなくなります!」
 魔女として焚刑に処される瀬戸際に立たされているというのに呑気な心配をするものではあるが。ようやく四肢の指に足ろうとしている年齢の乙女にとって、実感を伴って死を恐怖できるはずもなく、むしろ、神にも両親にも祝福された結婚が叶わなくなることのほうが、よほど切実な問題だった。
 王女として(父王に疎まれながらも)乳母日傘で育ちながら、速やかに海賊相手の娼婦という逆境に順応し、アクメリンが拉致されたと知るや敢然と行動を起こしたエクスターシャと比べれば、アクメリンは簒奪などという大それた悪事をしてのけながら、あまりにも凡庸な娘ではある。
 贄娘の哀願にゼメキンスはいっそう男根を怒張させて、腰をぐいと突き出した。
「ぎひっ……」
 さすがにアクメリンは呻いたが、女にとって生涯一度きりの惨事(過半の女にとっては慶事)に際するにしては、あまりに控えめな声だった。それだけ、直前までの拷虐が苛酷という証左ではあるが。
 苦痛の表現は控えめであっても、指一本挿れたことのない処女穴の締め付けは、繰り返し実父に犯されてきた少女や夫の魔羅に馴染んだ新妻とは比較にならなかった。これまで数多(あまた)の女信者に秘蹟ならぬ卑跡を授け、五指に満たぬとはいえ悪魔としか交わったことのない若き魔女の正体を暴いてきた百戦錬磨の枢機卿猊下も、聖なる書物の半頁も読まぬうちに検査を終えてしまった。あるいは、いずれにせよ単純に突っ込むだけの検査には熱意を持てず、工夫を凝らした尋問こそが天職と心得ているのかもしれない。
「すんなりと挿入できたうえに、新たな出血も確認できなんだ。この者は魔女と断定してよかろう」
 魔女であれば、エクスターシャであろうとアクメリンであろうと、異教徒と通じていようといまいと、焚刑の運命は免れないのだが。アクメリンの耳にゼメキンスの言葉は届いていない。じゅうぶんな予兆があったにも関わらず、彼女にとっては唐突だった処女喪失の衝撃に呆然としている。
 当人に代わって、意外にもガイアスが弁護にまわった。
「破瓜の痛みは、人によって大きな差異があると聞き及びます。苦痛を訴えなかったからといって、悪魔と交わっていたとは断言できないのではないでしょうか。また、破瓜の血はそれ以前の怪我による出血に紛れていたのかもしれません」
 アクメリンはガイアスの言葉もじゅうぶんには理解できないままだったが、ともかく庇ってくれているらしいとは分かった。そういえば――投獄された直後に身体を清めてくれたときも、彼の手つきは優しかった。この三日間、私を虐め抜いてきたホナーやリカードとは違うのかもしれない。
 アクメリンの見立ては、ある意味間違ってはいない。他の二人より信認の篤いリカードは、後方支援の意味でマライボに留まりながら、ゼメキンスのために魔女嫌疑者を強引に摘発していたのだから。
「ふうむ。汝の言い分にも一理はあるのう。では、魔女詮議は後日のことと致すか」
 アクメリンは、ひっそりとガイアスに感謝したのだが。裏を返せば、拷問が増えるのだから、恨むべきなのかもしれない。もっとも実際には……ゼメキンスが飽きるまで、拷問は続く。そして、熱心な神の使途である彼が職務に倦むことなど無いのだった。
「しかし、まだ検査する穴が残っているのではありませんか?」
 ホナーが口を挟む。
「それも明日じゃ。余の杭は鉄で出来ておるわけではない」
 つまり――処女穴よりもきつい尻穴を貫くのは、二発目では難しいという意味である。
「とはいえ、まだまだ、汝らに初手を任せる年齢(とし)ではないわい」
 蛮族に喩えるなら『族長の権利』であろう。
 ともあれ。アクメリンは梯子の寝台(拷問台であろう)に固縛されたまま、血を洗い流され襤褸布で拭かれ、錬金術の秘薬と称する軟膏を股間に塗りこめられて――ジョイエが入れられていた狭い檻に押し込められた。そして。水も食餌も与えられることなく、翌日まで放置されたのだった。
 ――アクメリンもニレナも、互いに口を利くどころか、目を合わそうともしない。闇を透かし見ても、そこにあるのは惨めな自分の鏡写し。そして、励まし合おうにもその取っ掛かりがない。ふたりに共通しているのは、容疑を認めるまで拷問を繰り返されて、その行き着く先は極刑。ひたすら、己れの痛みに沈潜するしかないではないか。
 それでも、まったくの孤独よりはましだったかもしれない。すくなくともニレナにとっては、アクメリンの所作に扶けられるところもあった。生理的欲求である。すでにアクメリンは、垂れ流すことに(羞恥は覚えながらも)狎れてしまっていた。犬のようにうずくまったまま、もちろん片脚を上げたりはせずに、石床に水溜りを作ったのだ。その微かな水音を聞いて――ニレナも、下腹部の我慢しきれない不快を軽くできた。

 まんじりともせずに朝を迎えた――のは、ニレナだけだった。身体のどこにも縄を掛けられず、狭い檻であっても寝返りくらいはできるし。股間の内も外も痛みに疼きながらも、アクメリンは三日ぶりに熟睡できたのだった。
 夜が明けきった頃、ガイアスがひとりで牢獄を訪れて、食事を差し入れてくれた。薄い肉汁を容れた皿と、黒くて固い麺包を乗せた板。最下層の貧民に教会が施すような代物で、ニレナは麺包をひと口かじっただけで顔をしかめたが――アクメリンにとっては、アルイェットから連れ去られて以来の、他人の咀嚼物ではない、まっとうな食事だった。
 うずくまったまま、両手で麺包をつかんでかぶりつく、その浅ましい姿を、ニレナは呆れた顔で眺めていた。この女(ひと)が、どこかの国のお姫様だなんて、そんな馬鹿な。当人が主張していた侍女ですらあり得ない。まるで女乞食そのもの――ニレナの表情は、そう語っていた。
 陽が天に沖するすこし前になって、今度は四人が一緒になって牢獄を訪れた。アクメリンとニレナが恐れていた尋問の再開――では、あったのだが。
 最初にニレナが檻から引き出されて。両手で前を隠して身体を縮込めている彼女の前に、古着が投げられた。
 驚きの表情を浮かべるニレナ。彼女自身の替着だったからだ。それが、なぜここにあるのか。夫が差し入れてくれたのだろうか――思わず扉を振り返ったが、閉ざされたそこに夫の姿があろうはずもない。
「おまえは釈放する。ガカーリイ商会が告発を取り下げた」
 ニレナは一瞬ぽかんとして。たちまちに安堵が顔一面に広がった。
「は、はい……ありがとうございます」
 身をこごめて衣服を拾い上げ、今さらに男性の目に裸身を曝すのを羞ずかしがるかのように、あたふたと身繕いを調えた。昨日の鞭打ちと陵辱、ひと晩じゅうの窮屈な姿勢での監禁。それらによる疲弊が一時(いちどき)に吹き飛んだかのような身の動きだった。
「されど、魔女の嫌疑が晴れたわけではないぞ」
 ゼメキンスが釘を――刺さねば、格好がつかない。
「監視を緩めぬよう、この地の司祭にもガカーリイ商会の面々にも申しつけておいた。再度の告発があれば、次は夫婦共々ということにもなろうぞ」
 ニレナが、はっと顔を上げて枢機卿猊下を直視して。すぐに俯いて唇を噛んだ。
「……夫にも、そのように伝えますです」
 監視者の名に商会を加え、次は夫も告発されると脅す。つまり、今回の告発は、夫のツワイマアを商会の支配下に置くための脅迫だったと――明白に語られたも同然だった。
 まったくの茶番劇。しかし、それをいえば――たとえ捕らえた娘が真性のエクスターシャだとしても、フィションク国王を弾劾することは困難と分かりながら、その娘を処刑する。こちらのほうが、よほど大掛かりな茶番劇であろう。アクメリンの訴えに真実を見ながら、亡き者となったエクスターシャに仕立て上げようとするなら、二重の茶番劇でもある。
 小さいほうの茶番劇は、ガイアスがニレナを牢獄から連れ去ることで幕を閉じた。そして、壮大な茶番劇の第二幕が開く。
「この者は、おのれが王女エクスターシャであると認めた。そのうえで自白させねばならぬことは多々あるが、それよりも先に――この者が魔女であるか否かを確定させねばなるまい」
 その言葉を聞いてアクメリンは、昨夜にされたこととされなかったこと。ニレナがされたことなどを思い合わせて、尻穴を犯されるのか股間の突起に針を刺されるのかと、生きた心地も無い。
 しかし、ゼメキンスの一言一句にたいして意味がないことをアクメリンは分かっていない。ゼメキンスの言葉は、被疑者を己れの好きなように嬲るための場当たりでしかないのだ。昨夜はニレナを魔女と断定しておきながら、今日になると告発が取り下げられたと言って釈放する。
 アクメリンの扱いは、さらに恣意的である。魔女は鎖で縛って水に放りこんでも浮かび上がると称して験した結果は当然の失敗に終わったが、次には悪魔から授かった淫茎を暴いて九分九厘は魔女であると断定した。それでも昨日は、悪魔と交わった証拠を確かめるという名目でアクメリンを犯し――拷問に比べれば小さい破瓜の痛みに耐えたから処女ではないと決めつけ、破瓜の血は三角木馬による出血に紛らせてしまった。
 次に何をどのように確かめるにしても、否定的な結果が出ればさらなる検証を、そうでなくてもさらに証拠を固める必要を言い出すであろうとは、容易に推察――できないのは、アクメリンばかりである。
「とはいえ、すぐには調べられぬな」
 とは言いながら、二人の修道僧にアクメリンを檻から引き出させる。
「この者は、一昨日からこっち、腹に汚物を溜め込んでおる。まずは、その処置じゃ」
 男の人が見ている前で排泄をさせられるのだろうかと、アクメリンは怖気(おぞけ)をふるった。放尺水は生理的欲求が羞恥を上まわってしまったけれど、こちらのほうは、まだ一日や二日なら我慢できる。それを無理強いされるのは、女として耐えられることではない。けれど拒めば、また鞭打たれるか三角木馬に乗せられるか、それとも針による検査をニレナよりも厳しくされるかもしれない。
 しかしゼメキンスは、言葉あるいは暴力による無理強いはしなかった。昨夜はジョイエに使われた大きな木枷が持ち出された。
 アクメリンは膝を折って座らされて、額が石床に着くまで上体を屈曲させられた。手を後ろへ引かれて、木枷に穿たれた五つの穴の外側へ通された。その内側へは足首。真ん中のいちばん大きな穴は、ふつうに座らせた形で拘束するときには首を通すのだが、今は用がない。
「ホナー、持って来ておるな」
 マライボの牢獄には、囚人に苦痛を与える道具は揃っているが、女囚の羞恥を煽るための道具には乏しい。それだけ、この都市の統治者は真っ当な男であるということだが。いっぽうのゼメキンスは、そちらに特化した拷問具を荷馬車に幾箱も積み込んでいる。男に比べて女のほうがいっそう罪深い(アダムに林檎を勧めたのはイヴである)から、女への拷問具にも工夫を凝らすのは神の使いとして当然の職務である。などという皮肉はさて措き。
 ホナーが、馬車から持って来ている箱から取り出したのは、二の腕ほどの太さと長さの金属筒だった。一端には細長い嘴管があり、反対側には押し引き出来る把手が付いている。それを、いったんは檻の上に置く。
 床に窮屈な俯せの姿勢で転がされているアクメリンの前に小さな桶が置かれた。ゼメキンスが法服をたくしあげ細袴をずらして、桶に向かって放尺水する。
「わっ……」
 アクメリンは飛沫を顔に浴びて、しかし反対側へ向くことも容易ではない。
 ゼメキンスに続いてホナーとリカードが、これは桶の左右から放尺水する。アクメリンが顔をそむけても、どちらかひとりが動いて、飛沫を浴びせかける。
 三人ともこの為に溜めていたらしく、かなりの量になった。それをホナーが金属筒に吸い上げた。アクメリンの後ろへまわって、無防備に曝されている尻穴に嘴管を突き刺した。
「痛いっ……ああ、いやあ!」
 嘴管で貫かれる(すでに苦痛に狎らされているアクメリンにとっては)わずかな痛みよりも。それに続いて、腹の中に押し入ってくる水の感触に、アクメリンは狂乱した。男の小便――正体が分かっているだけに、全身が総毛立つ。
 しかし、事は汚辱だけでは済まない。腹の中には三日分が溜まっている。それが水で軟らかくなり、溜まっていた分量に数倍する水の圧迫と相俟って。数分もすると、凄まじい便意が募ってきた。
「く……お慈悲です。この枷を外して……ここから出してください」
 註記でも述べたように、この時代の人々には戸外での排泄に(誰にも見られないのなら)羞恥はない。アクメリンの懇願を現代風に翻訳すれば「トイレに行かせてください」となる。
 ゼメキンスは何も答えない。隠しから小さな砂時計を出して、アクメリンの横に置いた。
「負けたほうが、呪いをふさぐのじゃ。良いな」
「では、三回を超えるほうへ」
 リカードが応じて、ホナーが肩をすくめる。
「となると、拙僧は三回以内ですか。にしては、ちと量が少なかったかもしれませんな」
 およそ意味不明の遣り取りだが、これで意思の疎通ができているのだから――こういった処置には慣れているということであろう。
「く……くうう……」
 哀願は無駄と悟って、アクメリンはひたすら便意に耐えている。
「……一回」
 砂の落ち切った砂時計を、ゼメキンスがひっくり返した。再び砂が落ち始める。
 季節は初夏であるが、石壁が熱を遮っているので、牢獄の中は風通しが悪いわりには蒸し暑くない。しかし、アクメリンの全身には汗がびっしり噴いている。
「……二回」
 数えながらゼメキンスが再度砂時計をひっくり返したとき。
「あああっ……もう、だめえっ!」
 悲痛な声で叫ぶなり。
 ぶじゃああ、ぶりりりり……
 茶色に濁った水を激しく噴出させ、軟らかくなった固形物もぼとぼと落とす。
「あああっ……いやあ、見ないで!」
 アクメリンは啜り泣きながら、しかし、排便はなかなか終わらない。
 ホナーとリカードが、牢獄の隅に置かれた大桶から水を汲んできては、アクメリンの尻といわず全身にぶっ掛ける。石床にはわずかな傾斜が付けられているので水は一方へ流れて、壁に穿たれた排水孔へ吸い込まれる。
 汚れが洗い流されると。今度は水を浣腸器に吸って、アクメリンに注入する。しかも、続けざまに三度。もはやアクメリンには前にも倍する圧迫に抗する気力は残っておらず、すぐに水を噴き上げる。そして、また何杯も水を全身に浴びせられて、ゼメキンスの言う処置は終わった。
 蛙が潰れたような格好で床に転がされているアクメリンを、二人の修道僧が前後から抱え上げて、梯子を水平に寝かせた拷問台に直交させて載せる。アクメリンの尻と頭が梯子の枠から突き出る。その後ろにゼメキンスが、前にはホナーが立ちはだかる。アクメリンはぐしょ濡れのままなので、服を汚すのを嫌ってか、二人とも全裸になって――十字架だけを胸に吊るしているのは、むしろ戯画でしかない。
 ホナーは全身が引き締まっている。修道僧の質素な食事と日常の労働とを反映してであるなら、そういつもいつも破戒に明け暮れているわけでもなさそうだ。ゼメキンスも、年齢と高位の役職相応に弛んではいるものの、それでも肥満や衰えとは程遠い。なによりも、男の根源たる部分は、太さも角度もホナーに勝るとも劣らない。
 ホナーが、急峻にそそり立っている怒張をアクメリンの唇に近づけた。
「呪いの言葉を吐かれてはたまらん。その棒で口をふさいでおれ」
 と、ゼメキンスに言われても。従えるはずもない。アクメリンは歯を噛んで口を閉ざし、そっぽを向く。
 ホナーが縄で輪を作ってアクメリンの首に通した。頭を押さえつけて下を向かせ、縄の端を引いて首を絞める。
「あぐ……」
 息苦しさを感じるより先に首の痛みにアクメリンが喘ぐ。
 その薄く開かれた口にホナーが怒張を突き挿れる。
「むぶ……ぶふっ……!」
 あわてて吐き出そうとするアクメリンだが、頭を押さえられ下から突き上げられていては、どうにもならない。いっそう深く突き挿れられて、ホナーの淫毛が鼻腔を刺激して。
「びぃっくしゅん!」
 とたんに、また首を絞められた。
「噛むな。次に歯を立てたら、このまま縊り殺すぞ」
 低い声でホナーに脅されて、アクメリンは意識して口を開けた。
「しっかり咥えていろ」
 縄は緩められたが、両手で頬を叩かれた。アクメリンはまた口を閉じた。
「今のところは、それで良い」
 アクメリンの(呪いの?)言葉を封じ終えると、ゼメキンスが腰をつかんで、怒張を尻の谷間にあてがう。
「んむうう……」
 やはり――昨夜のニレナへの仕打ちを見ているだけに、何をされようとしているかは、昨夜に処女を破られたばかりの娘にも容易に理解できた。だけであって、とうてい受け容れることはできない。
「あええ……おんあおお……」
 ぎゅっと首を絞められて、アクメリンの言葉が途切れる。
「この期に及んで逆らうか。ならば、終油の秘蹟は授けてやらんぞ」
 終油の秘蹟とは、死に瀕した者の額と手に聖油を塗る儀式を謂うが、この場では潤滑にそれを使うつもり――だったのかもしれない。ゼメキンスは、わずかに水で湿されているだけの尻穴に、怒張を突き挿れた。
 処女穴を貫通されたときよりずっと重たく熱い激痛がアクメリンの尻穴を引き裂いた。
「む゙びい゙い゙い゙い゙っ……!」
 くぐもった悲鳴とともに歯を食い縛ったのは一瞬。顎をつかまれて力が緩んだ。
 ぐにゅんぐにゅんぐにゅうんと、尻で激痛がうねる。と同時に。口の中でも怒張が前後に衝き動き始めた。
「むびいい……んぶっ、んぶっ……」
 尻の痛みと喉元に込み上げる吐き気と。アクメリンは、生きた心地もない。
「ううむ。悪魔と交わったにしては、こなれておらんな。具合がよろしくない」
「そのようで。呪文を唱える気配もありません」
「ふむ……もしや、いまだ悪魔と契約を交わしてはおらぬのかな」
 勝手なことを言い交わしながら、ゼメキンスとホナーは、腰を動かし続ける。
「とはいえ。この者に悪魔の淫茎が芽生えておることも事実じゃ」
「では、どのように」
「左様……」
 ゼメキンスは猿芝居をやめ、いっそう激しく腰を打ちつけて、数分で埒を明けた。
 ほとんど同時にホナーもアクメリンの口の中に白濁を放った。
「うぶっ……」
 ホナーは男根を引き抜くと、素早くアクメリンの口を掌でふさぐ。
「んむうう……」
「神に祝福された聖なる汁だぞ。呑み込め。体内に潜む悪魔を滅ぼしてやる」
 鼻までつままれて、なおも逆らえば窒息してしまう。アクメリンは吐き気に逆らって、口中の汚濁を嚥下するしかなかった。
 それを見届けてから、ゼメキンスも腰を引いた。梯子を向こうへまわって、放心しているアクメリンの唇に、萎えかけた男根を触れさせた。
「余からも清めの汁を授けてつかわす」
 ひとたび崩された城壁は、すぐには修復できない。アクメリンは言われるがままに口を開けて、たった今まで自身の尻穴に突き立てられていた肉の杭を咥えた。
 ゼメキンスがちょっと考え込んだのは――文字通りに吸茎させてくれようかと思案したからだろう。しかし、アクメリンの様子から困難と判断したらしく、すぐに引き抜いて、残っている汚れは頬になすりつけて事足れりとした。彼の心は、すでに次の責めに向かっている。
「この女ひとりの魔女詮議もさることながら、フィションクが国を挙げて神の教えに背いたという証言を得るのが最重要じゃ。これ以上は悪魔と交われぬよう、この者の肉体に結界を張っておくとしよう」
 ゼメキンスの指図で、アクメリンは梯子の上に仰臥させられた。両手は頭上でひと括りにされて、梯子の端にある巻取機に縄でつながれる。木枷の内側の穴が梯子の外枠を挟み込み、アクメリンの両脚は外側の穴に嵌められた。巻取機で、アクメリンの全身が伸ばされた。拷問であれば、ここからさらに身体を引き伸ばしていくのだが、そうはしなかった。
 ホナーがアクメリンの腰をつかんで尻を梯子からうかして、リガードが短い丸太をその隙間に押し込む。腰を思い切り天井に向かって突き出した形にアクメリンを固めておいて、ゼメキンスが言うところの結界を張る準備が始められた。
 火桶に薪を燃やし石炭を乗せて、白熱するまで鞴で風を送る。そうして、先端に小指を組み合わせたほどの十字架を鍛接した鉄棒を火桶で灼熱させる。
 アクメリンは、その様子を恐怖と懐疑が入り混じった目で眺めていた。どう考えても、その鉄棒は自分の身体に押しつけるために準備されているとしか思えない。けれど、そんな残酷なことを、神に仕える人たちがするだろうか。
 ゼメキンスが鉄棒を火桶から引き抜いて近づくと、懐疑は吹き飛んで恐怖が膨れ上がる。
 ゼメキンスは灼熱した十字架をアクメリンの下腹部すれすれに近づけて、脅すように焦らすように宙を滑らせていく。熱で淫毛がぱっと燃え上がる。
「お、お赦しください……それだけは……他のことなら……鞭でも針でも……」
 鞭にしても針にしても、どれだけひどく傷つけられようと、いずれは元に復する(と、アクメリンは思っている)。けれど、焼印は死んでさえ肌に残る。家畜と同じ、あるいは重罪人や逃亡奴隷。そんな烙印を刻まれては、まともな結婚どころか野合すら望めなくなる。処刑台の上で短い生涯を終える運命を、どこか実感していない彼女には、まさしく死にもまさる恐怖だった。
 下腹部を焼け野原と化さしめてから、ゼメキンスは鉄棒を垂直に立てて、すでに黒くなっている十字架をアクメリンに押しつけた。
 じゅうっ……
「い゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
 絶叫の中に白い煙が立ちのぼり、肉を焼く臭いが周囲に広がった。上下逆さになった十字架の頭部が淫核の包皮を掠めて、厚みの半分ほども肌にめり込んで――そのまま数秒も留まってから、引き剥がされた。
 錬金術の秘薬と称する、効き目は怪しいが高価な油が火傷に注がれ、さらに半固形の脂が塗られて、その上を油紙が覆った。焼印の形が崩れぬように、かつ早く固定するようにという処置であった。火傷がある程度は落ち着かないと、そこを鞭打つことはできないし、女の罪業の根源を検査するときにも不都合がある。さらに、ゼメキンスには別の思惑もあるのだが、それは数日後に明らかとなるので、今は詳述しない。
「今日は、これまでじゃな。本格的な尋問は、明日からとする」
 拷問台の上にアクメリンを磔けたまま、ゼメキンスは二人の手下を従えて牢獄から立ち去った。
「うっ……うっ……」
 扉が鎖されてすぐに、アクメリンの口から嗚咽が漏れ出した。
「どうして……どうして、こんなことに……」
 彼女自身にも分かっている。すべては、己れ自身の浅はかな企みが招いた事態なのだ。それでも、運命を呪わずにはいられない。三日前に捕らわれて初めて、アクメリンは独りにされた。立哨の兵もいなければ、共に捕らわれている囚人もいない。侍女とはいえ、貴族の娘――という自負も、平民に見られているという意識があってこそ。
 しかも。肌に、それも致命的な部位に焼印を刻まれて、女としての平凡な日常を取り戻せる万にひとつの希望さえ失われた。
 嗚咽はいつまでも続き、アクメリンの顔はあふれる涙でおおわれていった……
 ――もはや時の移ろいになどアクメリンは気を留めていなかったけれど。夕暮れ時でもあったろうか。牢獄の扉が軋みながら開く。
 ぷるんと、それでも気丈に涙を振り払って、逆光の中に浮かぶ人影に目を凝らす。ガイアスだった。
 ほっと安堵の息を漏らすアクメリン。この男もゼメキンスの手下には違いないが、彼だけは幾分でも優しく扱ってくれる。今も、手にしているのはアクメリンのための夕食だろう。
「猊下のお達しで、縄をほどいてはやれぬ」
 それでも、巻取器の把手を巻き戻して縄を緩め、下から肩に手を入れて上体を斜めに起こしてくれた。
 アクメリンは頭をいっぱいにもたげて、唇にあてがわれた木椀の中身を啜った。具のない肉汁にも、滋養が全身に巡る思いだった。
 硬い麺包を千切って口に入れてやってから、ガイアスは、アクメリンの下腹部をわずかに包んでいる油紙をめくった。半固形の脂は人肌の温もりに溶けて、焼印でへこんだ傷口を埋めていた。
「悪魔と交われぬように結界を張ったと猊下はおっしゃっていたが、乙女の柔肌を斯様に傷つけるとは……」
 ガイアスは絶句――にしては長過ぎる台詞を口にした。
「猊下のなさり様は強引にすぎる。昨夜、そなたはエクスターシャ王女であると認めたが、あれとても拷問から逃れようとして、ついた嘘ではないのか。そなたは、真(まこと)は侍女のアクメリンではないのか?」
 優しく囁かれて、それが罠かもしれないと疑うなど、今のアクメリンには到底できなかった。
「は、はい……ガイアス様は分かってくださるのですね」
「やはり、そうか。そなたは、アクメリン・リョナルデなのだな」
「そうです。私は取るに足りない侍女でございます。どうか、枢機卿猊下にお口添えください」
 一縷の希望を取り戻したアクメリンに背を向け、ガイアスは扉に向かって呼ばわった。
「猊下の見抜かれた通りです。この女は、簡単に自白を翻しました」
 ガイアスが扉を閉じていなかった出入口から、雪崩れ込むと形容したくなる勢いで、三人の加虐者がアクメリンの周囲に殺到した。
「え……?! あ、あの……」
 ガイアスまで含めて三人の修道僧が、アクメリンの木枷を外し縄をほどいて、拷問台から引きずり下ろした。何が起きているのか理解できず、しかしこれまで以上に乱暴に扱われて、アクメリンは恐慌に陥る。
 アクメリンの右足首に鎖が巻かれて、片脚で宙吊りにされた。頭上に垂らしていた腕を背中へまわされ、腰のあたりまで引き上げられて、縄で手首を厳重に縛られた。その縄に、昨夜は足首に吊るされていた、人の頭ほどの鉄球がつながれた。鉄球の重みで腕は肩の高さまで引き下げられたが、縄の固縛に阻まれて腕をねじれないので、そこからは下へ動かない。
 アクメリンの裸身が横へ押され、先端がY字形に分かれた木の棒で鎖も押しやられて、水を湛えた大桶の真上にある滑車に掛けられた。鎖の端が壁の留金から外されて、ホナーとリカルドの手に握られる。
「下ろせ」
 ゼメキンスの指図で、アクメリンの逆吊りの裸身がゆっくりと下ろされていき――ついに、顔が水中に没した。直角に突き出ている腕が大桶の縁につかえて、そこでいったんは止まったのだが。ガイアスが鉄球を持ち上げると、腕は身体の重みを支えられずに、頭が底に着くまで沈んだ。
 大桶は大人ふたりが腕を広げても囲めない大きさで高さも腰を越えている。貯水だけでなく水責めも考慮した大きさだった。
 魔女は水に浮くと称して、鎖で縛られて川に沈められた経験が、アクメリンに咄嗟の対応を取らせていた。大きく息を吸い込んで、額が水に触れたときには息を止めていた。しかし、それで持ち堪えられるのは、一分かそこら。しかも、逆吊りにされているので鼻の穴に水が押し入ってくる。むせそうになって、ぶくぶくと鼻からわずかずつ息を吐く。
 たちまち息が苦しくなって、頭が割れるように痛み、目の前に赤い霞がかかってくる。しかし、水中で息を吸ったときの苦しみも知っているので、アクメリンは懸命に堪える。堪えながら、なぜこんな責めを受けているのか、どうすれば赦してもらえるのかを、考える――のだけれど、恐慌に陥った頭では考えをまとめられない。考えつくのは、我が身はデチカンまで押送されて、そこで裁判に掛けられてから処刑されるはず――この場では殺されないはずだという、惨めであやふやな希望(?)でしかない。
 水中に没して一分、いや二分は耐えただろうか。アクメリンはついに限界に達して、ごぼごぼっと激しく泡を吐いた。間髪を入れずに引き上げられた。
「はあ、はあ、はあ……」
 さいわいに水は呑んでおらず、荒い息だけを繰り返すアクメリン。
 ガイアスが優しさを装った声で尋ねる。
「アクメリン、大事ないか?」
「はい……」
 うかと答えてしまった刹那。ぢゃらららっと鎖が音を立てて、アクメリンは水中に落とされた。
 不意打ちに息を溜める暇もなかった。大桶の縁に当たった腕が痛い。
 今度はすぐに引き上げられたが。
「げぼほっ……げふっ」
 吸い込んでしまった水を吐いて咳き込んだ。
「おまえは、アクメリンじゃな?」
 今度はゼメキンスに尋ねられて、ようやくアクメリンは失策に気づいた。
「私は……エクスターシャです」
「馬鹿め。王女がそのような言葉遣いをするものか」
 がららっ、ざぶん。
 また水を吸わされて、引き上げられた。
「わらわは、エクスターシャ・コモニレルじゃ。お慈悲ですから、もう赦してください」
 それでも、ゼメキンスは満足しない。
「ずいぶんと卑屈じゃの。とても一国の姫君とは思えぬわ」
 今度は高く吊り上げてられてから、じわじわと下ろされていく。
「待ってください。わらわは、本当にエクスターシャなのです」
 鎖は止まらない。アクメリンは諦めて、深呼吸を繰り返して――肩が浸かるところまで沈められた。
 どう答えれば、ゼメキンスを満足させられるのだろうか。すぐに泡を噴いたら引き上げてはもらえないだろうか。そんなことを思い悩む暇もなかった。
 ばちいん!
 乳房に鋭く太い激痛が奔って、悲鳴が泡になって弾けた。
 ばちいん!
 ばちいん!
 ばちいん!
 さらに二発を続けざまに食らって。息を吐き切ったところに四発目を食らった。
 反射的に息を吸ってしまい、胸が灼けつくように痛んだ。
 ところが、それでも引き上げてもらえない。びくんびくんと全身に痙攣が奔って――意識が薄れかけてから、ようやく赦された。
「おまえは、アクメリン・リョナルデじゃな」
 鞭をアクメリンの目の前でしごきながら、ゼメキンスの意地悪い問い掛け。
 アクメリンは破れかぶれで、息も絶え絶えに叫んだ。
「違う。わらわは、エクスターシャ・コモニレル……フィションク準王国の……第二王女じゃ。このような……辱しめを受ける謂われはない!」
 ゼメキンスが、狡そうに破顔する。しかし、鎖を握る二人に頷くと、またしてもアクメリンは水面へと下ろされていく。
 そして今度は、尻への滅多打ちは十を数えた。乳房ほどの爆発的な激痛ではなかったので、アクメリンはどうにか悲鳴を堪えた。それでも、鞭打たれるたびに少しずつ泡を噴いて、やはり溺れる寸前に引き上げられた。
「正直に言え。おまえはエクスターシャの侍女、アクメリン・リョナルデであろう」
 どう答えても、赦されそうにはない。
 枢機卿猊下は、捕らえた女が王女でないと困るはずだ。アクメリンは、闇夜に目隠しをされたような意識の中で、かろうじてその結論を見出だした。
「……わらわは、エクスターシャ・コモニレルじゃ」
 またしてもゆっくりと水に浸けられて、今度は後ろから尻の割れ目越しに股間を鞭打たれた。座るような形で曲げられていたアクメリンの左脚が、びくんっと跳ねて、太腿で股間をかばうように内側へ曲げられた。
 アクメリンは内腿を引き締めて、脚を閉じ続ける。
 鞭は焉んで、しかし引き上げられる気配もない。息が苦しくなって、そちらへ注意が移り、脚の力が緩むと――ばぢいん!
 より強烈な一撃を股間に叩き込まれて、大桶の水面で大量の泡が弾ける。
 それで、ようやく引き上げられて。
「おまえは、アクメリン・リョナルデであろう」
 同じ質問が繰り返される。
 エクスターシャだと答えると水に浸けられて鞭打たれるのだからと――アクメリンは、わずかに残っていた理性が導いた結論を変えてしまった。
「……私は、アクメ、きゃあっ!」
 言い終えないうちに、一気に落とされた。大桶の縁に腕が当たって痛みが奔ったが、それどころではない。したたかに水を吸い込んでしまい、アクメリンは水中で苦悶する。
 ゼメキンスたちの目には、断末魔の痙攣と映る。それでも、すぐには引き上げない。痙攣が小刻みになり、あと一分もすれば確実に溺れ死んでしまう瀬戸際まで追い込んでから、ようやく引き上げてやる。
 アクメリンを石床に俯せに転がし、ガイアスが背中を足で踏んで強く圧迫する。意識を失ったままのアクメリンが口から水を吐いた。二度三度と繰り返してから仰向けにして上体を引き起こし、背後から腕をつかんで背中に膝頭を当てて、ぐいぐいと押す。
「げふっ……かはっ、げふっ……」
 アクメリンは蘇生した。この手際の良さからも、四人の聖職者が拷問術に長けているのが見て取れるであろう。
「こうも易々と水に溺れるとは――おまえは魔女ではないのかも知れぬ。それとも、結界の効果であろうか。おまえはどう思うかな、アクメリン?」
 ぴくっと身体は反応したが、アクメリンは答えない。
「アクメリン、おまえに問うておるのだぞ」
「……わらわの侍女は、ここにはおらぬ」
 ゼメキンスは、驚いたことに、床にへたり込んでいるアクメリンの頭を優しく撫でた。
「それで良いぞ、アクメリン」
「くどい!」
 気力を振り絞っての演技がゼメキンスを満足させたことに安堵しながら、やり過ぎたらかえって起こらせるのではないかと内心で怯えながら、アクメリンはさらに演技を続ける。
「わらわはエクスターシャじゃ。王女たるわらわの肌に、たとえ枢機卿猊下といえども、みだりに触れるのは無礼であろう」
「おお、これは失礼致した」
 アクメリンに付き合って、ゼメキンスが恐縮の態で手を引っ込めた。
「王女殿下はお疲れのご様子じゃ。臥所(ふしど)にお連れ申せ」
 臥所とは、四つん這いでうずくまるしかできない狭い檻――ではなく、手足を存分に(強制的に)伸ばせる、水平に寝かされた梯子の拷問台だった。もっともゼメキンスには、さらなる拷責を加える意図はなかったらしい。アクメリンが火傷に触れられぬようにして、綺麗な十字架の形を崩さず早く治癒するようにという配慮だった。だから、アクメリンの四肢を無理に引き伸ばしたりはせず、たとえて言うなら、昨日から使っている鉄球を二つとも足から吊るして両手で木の枝にぶら下がっているくらいの張りで、巻取器は止めたのだった。
 そのままアクメリンは放置されて、一日が終わった。夕食は与えられなかったも同然だが、それをつらく思うというのは――火傷や溺れかけて傷ついた肺臓の痛みは、その程度だったということでもあった。
 この三日間で心身ともに傷つき疲れ果てていたアクメリンは、泥のように眠った。背中と尻に食い込む梯子の横棧も、羽毛を詰めた布団とたいして違わなかった。
 そうして迎えた、マライボでの三日目。驚いたことに、アクメリンは一切の拷問を受けなかった。午前中は釘を植えてない肘掛椅子に座らされて四肢を革帯で拘束され、午後は四つ葉の白詰草のような形の枷で逆海老に拘束されて牢獄の隅に転がされていた――のを拷問と呼ばなければ、だが。
 静謐なままに一日が過ぎた。牢獄に出入りするのは三人の修道僧だけ。新たに犯罪者が投獄されることもなかった。
 それは当然のことではあった。アクメリンは街並みの規模さえ知らないが、フィションクの都市と大差なければ、住民の数は三千から五千くらいだろうと思っている。一年の間には百人に一人が処罰されるほどの罪を犯すとしても、街全体で五十人。摘発と同時に処罰される者が多いから、投獄されて厳しく尋問されるのは、年に十人もいるかどうか。それよりは、すでにアクメリンも目撃したように――権力者の意に従わぬ者に無実の罪を着せて拷問に掛けると脅し(あるいは実行し)て屈服させるといった例のほうが多いのではないだろうか。とは、男爵令嬢あるいは王女付きの侍女であった頃には想像もできなかった現実……なのだろう。
 翌日もゼメキンスは牢獄に姿を見せず、したがってアクメリンは(十字架を背負わされて追い立てられたり立木に縛りつけられて夜を過ごすよりは)安逸に一日を過ごせた。
 そうなると、さまざまに己れの未来を予測して、発狂の寸前に追い込まれる。十の未来を思い描けば、その内の七は焚刑。一は罪一等を減じられて磔刑か斬首。あるいは拷問で責め殺されるか、道中で力尽きて野垂れ死にか。一年後いや半年後に、穏やかな暮らしなどと贅沢は言わない――どんなに悲惨な境遇であれ、生きている自身の姿を、アクメリンは想像できないのだった。
 それにしても――と、アクメリンは疑問に思う。こんな地に何日も滞在して、ゼメキンスは何をしているのだろう。牢獄を借りて、私を拷問するというのなら、まだ分かる。それとも、前に言っていたように、厳しい拷問に耐えられるまで身体が恢復するのを待っているのだろうか。けれど、こんな辺境の地よりも総本山のお膝元にこそ、恐ろしい拷問器具が揃っているのではないだろうか。と、それを考えると、暗黒へ果てしなく墜ちていくような恐怖を感じる。
 この地に長く留まるほどアクメリンの命は長らえるのだが、しかし、それだけ恐怖も募ってくる。
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縄吉_orj47

 予定では、焼鏝は『拷虐の四:異教徒問』で出すはずでしたが、なにせキャゴッテ・ゼメキンス枢機卿猊下であらせられるので、早々と。いえ、第四章でも再度やりますけど。
 なお、マライボでは四日目も全休。五日目と七日目に、こんな形(上の画像)の引き回しと、刑場での晒し者。晒すだけでなく、腐った卵とか投げつけ放題。
 ヒロインは、まだまだ悦虐どころか、膣性感にも目覚めていません。その開発は、第三章以降のお愉しみということで。


 ちなみに。”iron brand woman kinky”とかで検索しても、リアル画像は無いですね。真似事はありますが。
 それよりも、多数サイトで「タトゥ」として紹介されているこちらのほうが、よっぽどソソラ、レロレル、バニーガールのストリップ意味不明です。

ロリ_JS水着の中






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