Progress Report 6:生贄王女と簒奪侍女

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 ちまちまと書き進めています。
 勤務中の休憩とか手隙のときのほうが破瓜が逝ったりします。フリーセルも紙飛行機も無いですから。
 ともかくも。『拷虐の四:浄化儀式』を尻切れトンボで終わらせて。『拷虐の五:重鎖押送』に取り掛かりましょうか。
 ということで、Part4(2万8千文字)を一挙公開。たぶん、後で手を入れるでしょう。

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  拷虐の四:浄化儀式

 拷問小屋に入ってきたのは、見知らぬ三人の男たちだった。ひとりは役人らしい、こざっぱりした服装。あとのふたりは、素肌に布の胴着と継当てだらけの半袴。中流以下の家庭に雇われている使用人か、もっと若ければ徒弟といったところだが、場所柄を考えれば拷問吏だろう。
 ひとりの囚人が引き出されて、鎖で宙吊りにされた。ゼメキンスがアクメリンに施すような、残酷だが趣向に富んだ吊り方ではない。
「ゴケットよ。おまえが押入りの犯人だというのは、目撃証人もおるから、動かぬところだ。仲間の名を言え。そうすれば、重追放で済むように弁護してやる。おまえひとりで罪をかぶるつもりなら、斬首は免れないぞ」
 役人の説得に、ゴケットと呼ばれた男は沈黙で答える。
「そうか。まずは鞭打ちからだ」
 役人は拷問小屋の隅に置かれた小机に座って。拷問吏のひとりが、鞭を握ってゴケットの背後に立った。
 その鞭を見て、アクメリンは囚人に同情した。マライボでゼメキンスがアクメリンに使った鞭と、形も長さも似ている。だが、鞭の先から半分には短い針が編み込まれていた。苦痛も大きいに決まっているが、あんな凶器で叩かれたら肌が裂けてしまう。
 ぶゅんん、バヂイン!
「ぎゃああっ……!」
 男だけあって、腹の底から揺すぶられるような野太い悲鳴。
 ぶゅんん、バヂイン!
 ぶゅんん、バヂイン!
 ぶゅんん、バヂイン!
 たった四発で、ゴケットの背中は切り刻まれて、切り裂かれた肌がべろんと垂れた。
 ぶゅんん、バヂイン!
 ぶゅんん、バヂイン!
 次の二発で、それが千切れ飛んだ。
「待ってくれ!」
 ゴケットが、早々に音を上げた。
「なあ……おれが重追放なら、相棒も首を斬られたりはしねえよな?」
「弁護はしてやるが、約束はできんぞ。御裁きは市長殿がなさるんだからな」
「…………」
 ぶゅんん、バヂイン!
 ぶゅんん、バヂイン!
「やめてくれ! 言うよ、言うから!」
 ゴケットはあっさりと降参して、共に押し入った男と、外で見張りをしていた女の名前を挙げた。それで、彼の取調は終わり。血だらけの背中をそのままで服を着せられ、別の小役人の手で外へ引き出された。裁判は仲間と揃って受けるはずだから、拷問設備のない獄舎へ移されるのだろう。
 小休止を挟んで、次に引き出されたのはロシヒトという、面構えからして堅気ではない中年の男だった。酒の上の諍いで隣人を殺して、それは男も認めている。殺そうとして危害を加えたのか、喧嘩が過ぎて殺してしまったのか。故意の有無が問われていた。男にしてみれば、死刑か重追放かの岐路である。
 ロシヒトは先のゴケットと同じ鞭打ち切裂きの拷問に掛けられて――三十発を超えたところで息絶えた。失血による死ではなく、心臓が破裂したのかもしれない。遺骸は服を着せられて運び出された。それからどう処理されるのかは、アクメリンには分からないし、知りたくもなかった。
 拷問で殺してしまったのだから、後の処理もいろいろある。役人は小机の上で何枚かの書類を認め、その間、二人の拷問吏は、若い娘の裸体をじっくり見物する役得に与った。
 最後に、ヒューゴという青年への拷問が始まる。姉の亭主の家に放火した嫌疑が掛けられているが、先の二人と違って目撃者はいない。すでに幾度も拷問に掛けられていて、身体じゅう傷だらけだ。
「僕があいつを憎んでいたのは、誰だって知っている。この手で殺してやりたかった。でも、姉さんが寝ている家に火を点けるなんて、そんな馬鹿なことをするはずがない」
 青年の真摯な訴えを聞くうちに、これは冤罪に違いないとアクメリンは信じた。冤罪といえば、彼女自身もそうなのだが――自身の悪だくみが招いた結果だから、まったくの無罪ではない。
 青年も、先のふたりと同様に宙吊りにされた。しかし、鞭ではなかった。膝の高さほどに煉瓦が四か所に積み上げられて、その上に一辺が二歩長ばかりの正方形の鉄板が置かれた。四つの大きな火皿に石炭が灼熱されて、鉄板の下に差し入れられた。しばらくすると、鉄板の表面で煙が燻り始める。拷問吏が手桶に半分ほどの水をぶちまけると、あまり蒸気は上がらず、小さな水の玉がぱりぱりと音を立てながら転げ回った。鉄板は赤く灼けてはいないが、水が沸騰するよりはるかに高温になっている。
「火を点けたのは、おまえだな」
「そんなに、僕を罪に落としたいのか。どんなに責められたって、僕は無実だ」
 青年を吊っている鎖が緩められて――鉄板の上に裸足が着いた。
「熱いッ!」
 青年が跳ねた。が、すぐに足の裏が鉄板に落ちる。
「熱いッ……くそッ……僕は無実だ!」
 叫びながら、ぴょんぴょん跳びはねる。跳び上がるために踏ん張ることすらできず、片足ずつ上げては、熱さに耐えかねて足を踏み替える。凄まじい速さで踊っているような仕草だった。
「熱い、やめてくれ、うあああっ!」
 すぐに青年の足元から青白い煙が立ち昇り始める。悲鳴の合間に、じゅうっと肉の焼ける音が混じる。
 さらに鎖が緩められて。その重みで腕が垂れて身体の釣合を崩して、青年が転倒した。
「ぎゃああっ……助けて!」
 灼けた鉄板の上を転げ回って、あわや転落の寸前に鎖が引き上げられた。ぐきっと鈍い音がして、肩の一方がはずれたらしく、身体が一方に傾いた。
 振り子のように揺れる身体を役人が押さえて止めて。拷問吏が二人がかりで、また青年を鉄板の上に吊り下ろす。
「やめろ! 僕は無実だ!」
 叫びながら踊り狂う青年。
 はっと、役人が入口を振り返った。威儀を正して、きらびやかな法服に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません。まだ片付かない罪人が残っておりまして」
 ゼメキンスは鷹揚に頷いて。
「左様か。世俗の罪を明らかにするのも大切じゃからの。されど……」
「はい、心得ております」
 青年への拷問は直ちに中断されて。二人の拷問吏に抱えられて、全裸のまま拷問小屋から連れ去られた。役人が青年の衣服を火皿に投げ入れる。
「ふむ……」
 青年には二度と服を着せる必要がない――罪を自白させて死刑に処すか、さもなければ拷問で責め殺すという役人の意思を、ゼメキンスは読み取っただろうが、それには何も言わない。地方都市の行政にまで枢機卿猊下が口を挟むのは筋違いである。しかし、もっと細々とした事柄には口も手も出す。
 下役人に青年を引き渡して戻ってきたふたりが鉄板を片付けに掛かると。
「そのままにしておきなさい。まさか、この地にカンカン踊りの舞台があったとは知らなんだ」
 せっかくの道具立てだから、アクメリンも舞台に立たせるという意味だ。
註記:この拷問は、日本では『猫踊り』と称されている。
また、拷問ではなく『ええじゃないか』や『風流(ふりゅう)』の系譜である『看看踊(かんかんのう)』がある。
これらと『フレンチ・カンカン』を混ぜこぜにして『カンカン踊り』とした。
 聞いていたアクメリンは即座に理解して――震え上がった。青年の苦悶を目の当たりにしている。肉の焦げる臭いまで嗅いでいる。これまでの拷問が遊びにしか思えないくらいに残酷で苦痛に満ちている。
 水平の吊りから下ろされて、あらためて腕を垂らしたまま後ろ手に縛られる。
「なぜ、私に……わらわを、責めるのじゃ。わらわは王女エクスターシャであると、認めておるではないか?」
 ゼメキンスの脚本に従っているのに責められる理由がわからなかった。
「おまえは基督者か?」
 あっと思った。ゼメキンスは、王女を異端者として、信仰を捨てて異教に奔った者として処罰するのだと、最初から言っていた。いきなり決めつけられはしたが、彼女自身はそれを自白していない。
 どう答えれば拷問を免れるだろうか。それを考える。信仰を捨てていないと答えれば、灼けた鉄板の上に立たされる。基督者であることを棄てたと答えれば――デチカンで焚刑に処せられるにしても、とにかく今日は焼かれずに済む。
「わらわは、神の教えを裏切った。嫁ぐ異郷の地の神を受け容れた」
 せいぜい王女らしい言葉遣いで、ゼメキンスが望む通りの『自白』をしたつもりだったが。彼の求める答は、遥かに大きかった。
「異教徒に嫁ぐのは、父親の差し金じゃな。つまりは、父親も異端者。国王が異端者なら、国そのものが教会に背いていると考えて間違いあるまい」
 十字軍。アクメリンの脳裡を、その言葉が掠めた。
 十字軍は、なにも東方の異教徒に向けて発せられるとは限らない。聖地の奪回が目的とは限らない。西方社会全体に布令を出さなくても十字軍は起こせる。具体的には――リャンクシー王国とタンコシタン公国に勅許を与えれば、両国は共同してフィションク準王国を滅ぼすだろう。そこに、教会あるいは西方社会全体にとって、どのような利益があるのかまでは、政治とは無縁の男爵隷嬢などには見当もつかないのだが。
 フィションクが滅びれば、リョナルデ家も共に滅びる。一族郎党、殺されなくても庶民どころか奴隷にまで堕とされかねない。淫奔な女を後妻に迎える王家などに、アクメリンはたいして忠誠心を持ち合わせてはいないけれど――実家が没落するとなると。
「違う……!」
 咄嗟に否定はしたものの、後の言葉が続かない。
「違うとな。何が違うというのじゃ?」
 エクスターシャ個人とメスマン首長国とのつながりを……そんな虚構は、砂で造った城壁よりも脆い。それでも……
「父は、メスマンに傭兵を頼んだだけじゃ。メスマンは裏切りを恐れて人質を求めた。父王の体面もあって、輿入れの形を取ったが、基督の教えは棄てたりせぬ。わらわは……メスマンに求められて、異郷の神に帰依はしたが……」
「では、神を謀ろうとしたのか。異教徒に成り下がるより、いっそう邪悪な異端ではないか」
「…………」
 神の教えに関して、田舎貴族の小娘が枢機卿に太刀打ちできるはずもない。
 アアクメリンが言葉に詰まると、ゼメキンスは拷問を始めるための台詞を口にした。
「真実を自白するには、厳しい尋問が必要らしいの」
 ぢゃりりりと鎖が鳴って、アクメリンの腕が斜め後ろへじ引き上げられていく。アクメリンは自然と後退さるのだが、鉄板の手前に立つガイアスが尻を押し返す。
 その場でアクメリンの腕が水平よりも高くねじ上げられ、上体が前へ倒れていく。やがて、上体を起こしても倒しても鎖を引っ張ってしまう均衡点に達して。アクメリンはつま先立ちになり、ついには足が床から浮いた。
「きひいっ……肩が抜ける!」
 アクメリンの訴えを無視して、鎖は引かれ続ける。
 アクメリンの足が鉄板より高く浮いてから、ガイアスがゆっくりと手を放す。
 それでも、アクメリンの身体は振り子のように大きく揺れて、肩にいっそうの力が掛かる。
「きゃああっ……」
 悲鳴は、苦痛のせいだけではない。目に見えている何もかもが大きく揺れるのは――ぶらんこ遊びとは似ていても、大きな恐怖だった。
 ホナーとリカードが、長い棒でアクメリンの裸身を押し返して、揺れを止めた。その不快な痛みを気にするどころではない。
 ちりちりと焼けるような熱気に、アクメリンは包まれた。
 ホナーが手桶の水を鉄板に撒いた。
 ジュワアアッ……ヒューゴのときと違って、凄まじい水蒸気が立ち昇った。
 ぎゅっと心臓を捻じ千切られるような恐怖。実はずっと鉄板の温度が下がっているからこその現象なのだが、錬金術(現代の化学と物理) の知識など持たないアクメリンには、それが分かるはずもない。
註記:物理学的基礎体力の無い読者は『ライデンフロスト』で検索してください。筆者は読者に、嗜虐癖、被虐妄想(ヒロインへの感情移入)、倒錯性愛指向の共有を期待していますが、科学的素養の共有までは求めていません。上から目線。
 もっとも、肉の表面がすぐに焼け焦げるか、しっとりした肉感を保ちながら中まで火が通るかの違いしかないのだが。
「よろしい――下ろせ」
 ちゃり、ちゃり、ちゃり……徐々にアクメリンの足が鉄板に近づいていって。
「熱いッ……」
 つま先が触れるや否や、アクメリンは足を跳ね曲げた。鎖が止まる。
「しゃんと立て。それとも、脛肉を焼かれたいか」
 ゼメキンスの言う通りだった。足を曲げたまま吊り下ろされれば、灼けた鉄板の上に座り込む形になってしまう。皮膚の分厚い足の裏を焼かれるほうが、苦痛は幾らかでも小さいだろう。
 アクメリンは、断崖絶壁から身を投げるほどの決心で、脚を伸ばした。熱いというより、焼床鋏(やっとこ)で肉をつねられたような激痛。
「痛いッ!」
 先に痛みを感じたほうの足を跳ね上げた。途端に、鉄板を踏んでいるほうの足にいっそうの熱痛が奔って、踏み替える。すると、勢いよく下ろしたせいで、足の裏を身の重み以上に押しつけてしまう。
 じゅっ……足の裏に、肉の焼ける音が伝わって、アクメリンは恐慌に陥った。
「いたいッ……あつッ……ひいいッ!」
 アクメリンは悲鳴を上げながら、狂ったように足を踏み替える。あまりの激しさに乳房が揺れ、亜麻色の長い髪が宙に踊る。
 肩に負担を掛けるのを覚悟して、後ろへねじられた腕を支えにして腰を曲げれば、両足が宙に浮くのだが、それを思いつく裕りもない。もっとも、そうしたところで、さらに鎖を緩められるだけなのだが。
「いやあッ……あつい、いたい……ゆるして……」
 国王が神に背き、国を挙げて異教に帰依した。そう証言すれば、赦してもらえるだろうか。そんな考えが頭を掠めて、あわてて打ち消す。我が身が焼き滅ぼされるのは――王女の身分を簒奪して、異郷の国王の妾に成り下がろうとした、あまりに厳し過ぎはするけども、その罰と諦めもつく。けれど、家族には何の罪も無い。
「あああっ……あつい……いやあああっっ!」
 デチカンで処刑されるのだから、この場で殺されるはずがない。もしも足が焼けてしまえば、荒野を歩かされることも見世物として市街を引き回されることもなくなる。そういった小賢しい打算は脳裡に浮かばず。足の裏の熱痛から逃れるだけのために、アクメリンは跳ね踊り続けた。息が切れて悲鳴も途絶え、心臓は胸全体に轟くほどに早鐘を打ち……全身から飛び散る汗が鉄板に落ちて蒸発する音が、踊りの激しさに不釣合なささやかな伴奏となって。
 五分、あるいは十分も経っただろうか。ふっと身体が軽くなったのを、アクメリンは感じた。苦しさが、すうっと消えた。足の裏には熱痛が突き刺さっているけれど、駆け足よりも早く足を踏み替えていれば、いつまでも持ち堪えられそうな気になってきた。
 アクメリンは悲鳴を叫ぼうともせずに踊り続ける。身体を動かせば動かすほど軽くなってゆき、楽になってゆく。いや、心地好くなる。そして、頭は――雲は散り霧も消えて、どこまでも透き通っていって、故郷の家族も自身の運命も、次はどんな拷問に掛けられるのだろうかという恐怖さえも消え失せて。アクメリンは無心に踊り続ける。その顔には、苦悶ではなく見誤りようもない恍惚が浮かんでいた。
註記:(今回はしつこいな)ニュートンが発見する以前から林檎は地面に向かって落下していたと同様に、中世においてもランナーズ・ハイは存在した。それは、おそらく神の恩寵もしくは悪魔憑きと理解されたであろうが。
「ふうむ……」
 ゼメキンスが難しい顔で首を横に振った。
「こやつ、もしや本物の魔女かもしれぬ。じゃとすれば、二十年ぶりじゃわい」
 これまでにゼメキンスが主導して断罪してきた魔女の数だけでも十指に余る。そのことごとくが、ただ一人を除いて無実であったという、重大な告白ではあった。
「とは――以前にうかがった、シセゾン家のマイでしたか。彼女以来の?」
 聖ヨドウサ修道院でゼメキンスの片腕を務めていたことのあるガイアスが訳知り顔で水を向けた。
「うむ。ホナーとリカルドには話しておらなんだな。マイという娘は子爵家の次女――よほどの証拠がなければ魔女審問に掛けることなど出来ぬのじゃが」
 アクメリンの踊り狂う様を注意深く観察しながら、ゼメキンスは手短かに話す。
 マイは、子供を産める身体になって半年も経たぬうちに女になったという。それからは、弟ほどの年齢から父親よりも歳上まで、貴族だけでなく使用人とも、娼婦もかくやといわんばかりの男漁りに耽ったという。父親の意見も折檻も、聞く耳も沁みる身も持たぬ。ついには(当然ながら)女子修道院へ送られたのだが。
 マイは修道院で、我が身を鞭打つ修行にのめり込んだ。我が手では生ぬるいし鞭を避けようとするからと、先輩に頼んで縄で縛られ鞭打ってもらい――いつしか、男女の交わりにおける男性の役割までも求めるようになっていった。明らかに修行からの逸脱であり、神の教えに背く行ないであった。修道院は彼女に対して魔女の疑いを持ち、審問の技術に定評のある聖ヨドウサ修道院に処置を委ねた。
「きゃああっ……!」
 疲れを知らぬが如くに踊り狂っていたアクメリンだが、体力の消耗は極限に達していた。足をもつらせて、灼けた鉄板の上に倒れ込む――寸前を、鎖に引き留められた。
 膝を突く寸前を、ぢゃららららっと鎖に引き上げられて。修道僧が手加減したのか、アクメリンの身体がヒューゴより柔らかかったからか、肩を脱臼することもなかった。
「あああああ……」
 頭をのけぞらせて、恍惚と呻くアクメリン。全身が汗に絖っている。
 手が滑車に届くほどに吊り上げて、ガイアスが足の裏の火傷を調べる。
「生焼けです。食べると腹に虫が湧くでしょう」
 ホナーとリカードが苦笑する。
「歩かせるのは難しいかな?」
 ガイアスも無駄口はやめてゼメキンスに答える。
「数日は。以後も十日ばかりは、裸足はよろしくないかと」
 ゼメキンスは肩をすくめただけだった。
 足の裏の火傷にも、万能薬たる錬金術の秘薬と薬草を混ぜた泥が塗られて、火酒を染ませた布が巻かれた。細菌の存在を知らず消毒の概念が無くとも、経験則による手当ては、それほど的を外していない。錬金術の秘薬の正体にもよるが。
 アクメリンは、三人の男たちが押し込まれていた檻に放り込まれた。中腰で三歩は歩ける広さだから、マライボに比べればずいぶんと待遇は改善されている。
「針による探査も、まるきり効かなんだ」
 途切れていた回想を、ゼメキンスが唐突に再開した。是非とも後輩に語り継いでおきたいという熱意の表われだろうか。
「念のために目隠しをして、手が肌に触れぬよう気をつけて刺したのじゃが、どこを刺しても痛みを訴える」
「……?」
 それが普通なのではと、ホナーもリカードも拍子抜けした顔。
「ところが、その娘はとんでもないことを言いおった。もっと全身をくまなく深く刺して、魔女の証がどこにもないと、潔白を証してください――とな」
 針による探査が終わったとき、マイの肌のどこに一本の指を当てても、針傷に触れぬところは無くなっていた。彼女はほじくらずとも見分けられる悪魔の淫茎を持っていたが、そこに針を突き刺されると、ひときわ凄絶な悲鳴を上げた。
「ところが、切なそうな余韻を嫋々と引きずりよる。このアクメ……こほん、エクスターシャと同じようにな」
 ゼメキンスは図らずも、捕らえた娘がエクスターシャの身代わりだと承知していることを暴露しかけたが、それは三人の修道僧もとっくに承知しているだろう。きっちり言い直したのは、体裁というやつである。話を戻す。
 マイは、さまざまな審問に掛けられたが、そのすべてに耐え抜いた。のではなく、悦んだといったほうが当たっているだろう。
 鞭打たれれば泣き叫びながら、みずから脚を開いて股間を曝し胸を突き出して鞭を誘った。木馬に乗せれば、わざと暴れて股間を傷つけ、血液に染まった粘い蜜をこぼした。乳首と悪魔の陰淫を焼鏝で潰されたときは、聞き誤りようのない喜悦の声と共に失神した。女穴も尻穴も『苦悶の梨』に引き裂かれてさえ、凄絶な咆哮には艶があった。
「父御(修道院長)も、本物の魔女と対峙したのは、それが初めてじゃった」
 偽の王女への拷問など児戯に等しい過酷な責めが十日の余も続けられて、マイは命を落とした。死してなおマイは魔女の姿を隠し通して、その死顔はさながら聖母マリアのようであったと――ゼメキンスは述懐した。
「そのような苛烈な拷問に耐えたことこそ、魔女である動かぬ証拠ではあったがな」
 水に浮かんで生き延びれば魔女、沈んで溺れ死ねば魔女ではないという理屈と通底した、どう転んでも被疑者は助からない論理だった。
「この娘がマイに劣らぬほどの魔女であるか、すぐに露見する詐欺を目論んだ小悪魔に過ぎぬかは――これから、じっくりと見定めてくれよう」
 気を失っている檻の中のアクメリンを見詰めながら、ゼメキンスが呟く。次の拷問をどんな苛虐にするか、想を改めているのだろう。
「まずは夕餉じゃ。こやつにも、黴の生えた麺包と肉片がこびりついた骨くらいは与えておけ。親切に食べさせてやるまでもないぞ」
 アクメリンの世話係みたいな形になっているガイアスが、おどけた仕種を交えて胸に十字を切った。
 ――檻の中で失神から覚めたアクメリンは、床に転がされている麺包と骨、そして水を入れた椀に気づいた。渇きを癒そうと椀を手に取って半分ほども飲み、人心地の欠片なりとも取り戻して、ふっと考えた。空腹を感じるどころではないし、そうだとしても、こんな塵芥も同然の代物など口にしたくもない。けれど、手を付けなかったら――それを口実に、飢え死に寸前まで食べ物を与えてもらえなくなるのではなかろうか。そんな卑屈な考えをするまでに、アクメリンの心は挫かれていた。
 アクメリンは乾き切った麺包を水にふやかして食べ、骨もわずかにこびりついている肉片を歯でこそぎ取った。惨めさに涙するくらいに、残飯は美味だった。悔し涙をこぼすくらいには、心を喪っていなかった。
 そうして、さらに時は過ぎて。ついに四人の拷問者が戻って来た。リカードの持つ角灯に、四人の姿が悪鬼羅刹めいて浮かび上がる。その顔が赤く見えるのは、灯りのせいだけでもないだろう。彼らは救世主の肉だけでなく、その血もしこたま聞こし召したに違いない。
 酔っ払って手加減を間違えるのではないだろうかと――アクメリンは取り越し苦労をする。生かしてデチカンへ連行して、裁判で公式に王女を弾劾する手筈が――狂ったところで、アクメリンにとっては苦しむ時間が短くなるだけだというのに。
 しかしゼメキンスには、すくなくとも今夜のところは、拷問を再開する意図は無いらしかった。
「魔女の嫌疑は晴れておらぬし、施した封印も効き目が薄いようじゃ。もしも、おまえが清めの儀式をみずから進んで受け容れるなら、今宵は安らかに憩わせてやろう」
 どうじゃなと問われて。
 清めると称してこれまでに為された仕打ちを思い返せば、何を求められているかは、もはや乙女とはアルイェットからデチカンよりも隔たっているアクメリンには、明白だった。問題は、どのような『安らぎ』を与えられるかだった。楽をさせてやると言って、十字架を逆さに馬で引きずったり、絡繰が全身を凌辱する馬車に乗せたり――今にして思えば、馬車はたしかに(惨めだけど凄絶な)快感だったけれど。
 しかし何をされるにしても、ゼメキンスに逆らえば、いっそう酷い目に遭わされるだけだ。
「どうか、わらわを清めてたもれ」
 王女として振る舞う必要を思い出すくらいには、気力も甦っていた。
 アクメリンは檻から引き出されて――縛られもしなかったし、枷で拘束もされなかった。かつてない扱いに、手持ち無沙汰を持て余して仕方なく両手で前を隠して立ちすくんでいると。目の前の床に手桶と金属の筒が置かれた。筒は浣腸器だった。この時代には(拷問や羞恥責めの器具ではなく)ありふれた医療器具だから、マライボで見たそれと大同小異であっても、何の不思議もない。
 マライボのときと同様に、四人が手桶に放[尺水]したが、ゼメキンスがわざとらしく首を傾げる。
「これでは量が足りぬな。増やしてくれぬか、王女殿下?」
 ちっとも遠回しな言葉ではなかった。そして、その行為に対する羞恥心は相当に薄れていた。アクメリンがわずかにためらったのは、聖職者のそれに被嫌疑者である自分のそれを混ぜても良いのかという畏れだった。
 とはいえ。理性では「まさか」と否定していても、女の本能は男の性的嗜虐を察知している。従わないとどうなるかは、恐怖が覚えている。
 アクメリンは手桶をまたいでしゃがんだ。四人が手桶を、つまりアクメリンを取り囲んでいるので、無意識の媚が、アクメリンをゼメキンスに正対させた。枢機卿猊下に尻を向けるなんて失礼はできないという常識的な意識も働いた。貴いお方に向かって放●する非礼は常識の範疇外だった。
 アクメリンが立ち上がると、この拷問部屋にも備え付けられている水責め用の大桶から、ホナーが別の手桶で水を足した。さらにリカードが小さな壺の中身を垂らす。白く懸濁した何かの油――と理解するだけの素養は、アクメリンにはなかった。リカードは短い棒で手桶を掻き回してから、後ろへ下がった。
 四人が無言でアクメリンの挙措を見詰めている。
 アクメリンは浣腸器を手に取って、手桶の『水』を吸い上げた。把手をいっぱいに引いても半分も入らなかった。
 しかし。吸い込んだはいいが、そこで途方に暮れた。浣腸器の中ほどをつかんで手を後ろへ回してみたものの、嘴管を尻穴にあてがうのも手探り。押し込むのは難しい。もし成功したところで、手をいっぱいに伸ばしても把手に届かない。
 アクメリンは顔を上げて助けを求めるようにゼメキンスを見たが、嗜虐の笑みに跳ね返された。
 アクメリンは四つん這いになって再度試みたが、浣腸器を水平に保つのも難しい。
 どうすれば……ふっと思いついたのは薪だった。小屋に納めてあるときは寝かしているが、使う前には立てて斧で割る。貧乏貴族の娘だから、見て知っている。エクスターシャには想像もつかないことだろう。こんな境遇に落ちても、まだ王女と張り合っている。
 アクメリンは把手を床に着けて、浣腸器を垂直に立てた。その上に腰を下ろすと、嘴管は自然と尻穴に当たった。さらに、じわっと腰を沈めると――把手が押されて、液体が漏れ出る。慌てて、急に腰を落とした。
 ずぶうっと、嘴管が尻穴を貫く。
「痛いっ……」
 小さな悲鳴は、自身への甘えだった。どんなにささやかな呟きであっても、鞭や木馬と同じ言葉を使うのは大仰に過ぎると自覚していた。
 嘴管は深々と尻穴を抉って、生ぬるい汚水を腹の奥へ注入した。押子が筒の奥に突き当たって止まった。その瞬間から、猛烈な便意に襲われた。しかし。
「まだまだ残っておるぞ。入れてしまわんか」
 アクメリンは大急ぎで空の浣腸器を満たして、二本目を注入する。勢い余って、尻穴のまわりから汚水が飛び散ったが、そこまではゼメキンスも咎めない。
 すでに便意は限界を超えていた。
「お許しくださいっっ……」
 まだ突き刺さったまなの浣腸器を噴き飛ばして。
 ぶじゃあああっ……ぶりりり……
 水も固形物も一挙に迸らせた。
「あああ……」
 床にうずくまって、両手で顔をおおった。かえって羞ずかしさが募る。手も足も拘束されて、他人の手で浣腸されて、目をつむるしか羞恥から逃れられないほうが、よほどましだと、アクメリンは知った。
 そして。手も足も自由なのに、他人の手を払いのけられない屈辱も。アクメリンはさらに二回、これは清水を注入されては噴出を繰り返させられた。
 どこの拷問部屋もそうなっているのだろう。床にこぼされた水(と、汚物)は、わずかな傾斜に沿って奥へ集められ、小さな開口部から外へ流れ出た。
 排泄に伴う軽い虚脱に陥っているアクメリンは、分厚い木の板で作られた拷問台の前へ引っ張られた。そこにはホナーが、自分の腕を枕にして仰臥していた。股間も寝ている。
「清めてほしいと、みずから願い出たのであろう。どうすれば良いか、分かっておるはずじゃ」
 分かっていなかった。けれど、その言葉で分かってしまった。アクメリンはホナーの横に跪いて、右手を股間へと伸ばした。
 その手を、傍らに立っていたゼメキンスが細い木の笞で叩いた。
「横着をするな。口を使え」
 アクメリンは唇を噛んだ。身体を様々な形にねじ曲げられて、三つの穴に男根を突っ込まれるのは、受け身である。けれど、みずから挿れにいくなんて……久しぶりに、かあっと羞恥が燃え上がった。
 しかし。拒めば、酔いの勢いにまかせた凄まじい拷問が始まるに決まっている。アクメリンは顔をホナーの腰の上に伏せた。むわあっと男の体臭が鼻を衝いて、息を詰めた。
 初めてじっくりと眺める男性の器官。もちろんアクメリンは、手鏡に自身の股間を映して観察するようなはしたない真似はしたことがない。彼女が目にしたことのある女性の器官は、マライボで拷問されていたジョイエとニレナの二人だけ。ジョイエはともかくニレナのそこは、複雑怪奇な形状をしていた。肥大した割れ目の縁から皺の寄った二枚の肉片がはみ出ていて、その上端の合わせ目からは、悪魔の淫茎だという小さな突起が覗いていて……
 それに比べると、なんと単純な形だろうか。ただ一本の棒。先端は蕾のようにすぼまっているが、太く長く勃起して、中から傘の開いていない茸みたいな赤黒い本体が現われると、醜悪で狂暴に見える――のは、それが女を辱しめる凶器だと知っているからだろう。
 さらにしばらくためらってから、アクメリンは男の股間に顔を埋めた。手を使うなと言われたのだから、犬の真似をするしかなかった。
 とうとう咥えてしまった。けれど、そこからどうすれば、このでろんとした腸詰肉より柔らかい棒を怒張させられるかが分からない。マライボの拷問小屋でされたときのことを思い出して、頭を上下に揺すってみた。口の中で肉棒がぐにょぐにょ蠢くが、それ以上の変化は起きない。ホナーが必死に聖句を暗誦しているなど、アクメリンには分からないし、知ったところで、勃起現象が起きない事実との関連は分からないだろう。膣穴への(過激な)刺激で逝くことは覚えても、男の放水はさんざん見せつけられていても、勃起する過程を目撃したのは、せいぜい二三回なのだ。
 焦っていると、頭をつかまれた。
「そんなのでは、勃たない。舌を使え、唇もだ」
 唇で包皮を押し下げて、茸の傘の縁を舌で舐めろ。裏側にある縦筋もだ。歯に唇をかぶせて、先端から根元まで呑み込みながら甘噛みをしろ。唇をすぼめて、水を啜り込むように息を吸え。先端の割れ目を舌先でくすぐれ。
 娼婦でも使わないような技を、次々とホナーが命令する。
 アクメリンは言われるがままに、口全体で男根を愛撫した。その甲斐あって、腸詰肉がしなやかな木の棒に変じて、ついには火傷しそうに熱い鉄杭にまでなった。
 男の体臭がいっそう濃密になってくるが、なぜか不快感は消え失せて、股間に熱い滴りを感じる。
 ぴしやんと尻を叩かれて、次の所作を求められていると理解した。寝ている男と媾合うにはどうすれば良いかは、ついさっき、自身に浣腸を施した経験が役に立った。
 アクメリンは男に向かい合って、腰の上にしゃがんだ。怒張の根元を右手に持って、覗き込みながらその上に腰を落としていく。先端が淫裂を割るのが、見えた。怒張が股の奥でぬらっと滑る感触があって、穴に嵌まり込んだのが分かった。
「はああ……」
 男の腰に座りこんで、アクメリンは息を吐いた。羞ずかしいという感情より、うまく出来たという達成感が大きかった。
 ホナーが、また尻を叩いた。
「じっとしていては清められんぞ。入口から奥の院まで、くまなく抜き挿しするのだ」
 アクメリンは腰を浮かして怒張を抜去し、すぐに挿れ直して奥まで突き通した。それを何度もくり返すうちに、いちいち抜いてしまうとやりにくいと分かり、自然と腰遣いを覚えていった。
「次は、拙僧を勃たせてもらおう」
 リカードが頭髪をつかんで、アクメリンの上体を押し下げた。
 目の前に突き付けられた、これも萎びた男根をアクメリンは咥えて、ホナーに教わったばかりの仕種を繰り返す。その間、腰の動きは止まっているが、ホナーは何も言わないし尻を叩きもしない。
 じゅうぶんに勃起すると、リカードはアクメリンの背後から拷問台に上がり、両手で腰をつかんで尻穴に怒張をあてがった。
 色責め馬車でさんざんに経験したことだから、アクメリンは驚かない。前にホナーを挿れたままリカードに後ろを貫かれて、さすがに軽く呻いたが、苦悶の響きはない。むしろ、ふたつの穴を同時に貫かれることに充足を覚える。
 そして、ガイアスまでもがアクメリンの前に立った。
 ああ、そうかと――アクメリンは自然と理解した。言われる前に、みずから上体を倒してガイアスを咥えた。
 リカードに両手首をつかまれて後ろへ引き上げられると、アクメリンの上体は宙に泳いで、それだけみずからの意思では身体を動かしにくくなった。手綱に操られている馬を、アクメリンは連想した。
 リカードが大きな動作で腰を動かし始めた。アクメリンの身体が前後に揺すられて、口中のガイアスも跨っているホナーも、自然とアクメリンを責める。
 過激な調教で性感を開発されているアクメリンは、官能に火を点じられた。模造男根と違って生身の肉棒は、適度の弾力で穴をいっぱいに満たす。馬車と違って、肉棒の動きは一致しているのだが、それを物足りないとは感じなかった。排泄の穴だけではなく、言葉を発し命の源を摂り入れる穴までも犯されているという思いが、背徳と屈辱を燃えがらせて――悦辱へと変貌していく。
「もぼおおお……おお、おおお……」
 自然と漏れるくぐもった呻きは、はっきりと艶を帯びている。
 アクメリンの下になっているホナーが右手を伸ばして、焼印の先端で根元を焼かれ釘で傷つけられている淫核を摘まんだ。
「むぶううっ……!」
 怒張を咥えたまま、アクメリンが激痛に呻いた。しかしホナーは、いっそう強く摘まむと――爪を立てながら強く捻じった。
「ぎゃ……ま゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!」
 アクメリンは悲鳴をあげたのだが、ガイアスに頭をつかんで腰を押しつけられて、くぐもった叫びになった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙……や゙え゙え゙え゙え゙え゙っっっ!」
 しかし、リカードはいっそう激しく尻穴に抽挿を繰り返す。ガイアスは肩に手を掛けてアクメリンの裸身を激しく揺すぶる。
 三つの穴をこねくられ抽挿されるうちに、淫核が純粋な快楽の器官としての働きを取り戻して、激痛をそのまま快感にすり替えていく。
「み゙い゙い゙い゙い゙い゙っ……いいいっっっ!!」
 苦痛と快感とが綯い交ぜになりながら、頂を抜けて、さらに雲の上へと押し上げられるアクメリン。こうしてアクメリンは、相反する感覚がひとつの官能に止揚される境地を教え込まれたのだった。
 びくんびくんびくんと、アクメリンの背中が痙攣して。やがて、全身から力が抜けた。三人の男たちはそれを見届けてから――三つの穴に白濁をぶちまけた。
 意識を失ったアクメリンは、拷問台から転がし落とされても、地獄か天国か定かでない暗黒の中を漂っている。跡始末もされないまま檻に放りこまれて、それで清めの儀式は終わったのだが。

 翌日には、昨夜に与えた快楽の代償だといわんばかりの、激痛一辺倒の加虐が待ち構えていた。
 これまでと違って、拷問は朝のうちから始まった。アクメリンは拷問部屋の壁に立てかけた分厚い板を背にして両手両足を広げて立たされた。喉、手首、肘、胸の下、腰、太腿、膝、足首――関節という関節を、大小の鎹に挟まれて板に縫いつけられた。まさに、ぴくりとも身体を動かせない。
「おまえが魔女であることには疑義が残っておるが、神の教えを捨てた異端者であることは、自身で認めておるな?」
 今さらの尋問に、アクメリンはどう答えるのが得策――もっとも苦痛が少ないかを考えてみたが。ゼメキンスの意向に逆らうべきではないという、当然の結論に行き着いただけだった。
「……そうじゃ。わらわは、異郷の神の教えに帰依したのじゃ。しかし、今では悔い改めておる」
「遅い!」
 ゼメキンスが一喝する。
「一度でも神を裏切った者は、二度三度と裏切るに決まっておる」
「…………」
「よって、デチカンでの裁判に俟つまでもなく、おまえは異教徒として断罪される。その判決文を、おまえの身体に刻んでおいてやろう」
 リカードが、手に持っていた長い鉄棒をアクメリンに向かって突きつけた。鉄棒の先には鉄板が取り付けられていて――鏡文字が浮かび上がっている。頭の中で正字に読み替えなくても、アクメリンにはすぐ読めた。乳首に吊るされていた文字“Heretic”だ。それが異端者という意味だとも、すでに知っている。
「あああ……」
 アクメリンは絶望を呻いたが、拒否の言葉は口にしなかった。素直に受け容れるか、拷問の果てに受け容れさせられるか――雁字搦めに拘束されているのだから、その二者択一すら、許されていない。
 まだ組まれたままになっているカンカン踊りの舞台下からリカードが火皿を取り出し、石炭を足して火を熾し始める。
「わらわは、もはや死罪は免れぬのじゃな……」
 エクスターシャとしての言葉遣いを強いられるうちに、絶望の嘆きさえ素に戻らなくなっている。
「祖国を道連れにしてな。なんと、豪勢な死出の旅路よ」
「陛下は無実じゃ。神を裏切ったのは、わらわひとりの考えじゃ!」
 ゼメキンスは狡そうに嗤う。
「それについては、デチカンで改めて審問する。今は、おまえの処置だけじゃ」
 国を挙げての背教をエクスターシャが証言するまで、拷問は繰り返されるのかと、アクメリンは絶望に絶望を重ねる。
「凸凹があっては、焼印の文字が崩れるな」
 ゼメキンスの言葉を受けて、リカードが二本の細い鎖を取り出した。一端には小さな鉄球がぶらさがり、反対側は鎖の輪がC形に開いている。その輪が、釘に貫通されてふさがっていないアクメリンの乳首に通された。
「ひいいい……」
 乳首が引き伸ばされ、乳房全体が年増女のように垂れた。
「まさか……?!」
 凸凹がどうのこうのという話から、この仕打ち。焼印がどこに捺されようとしているのか、分かりたくなくても悟ってしまう。
 ゼメキンスが火床から焼印を取り出した。鉄板に浮かび上がる文字は、煙も出ないほどに白熱している。
「しかし……おまえは異教徒らしからぬ形(なり)をしておるな」
 ゼメキンスは焼印を腋の下に近づけた。そこにも濃密に繁茂している亜麻色の毛が、ぱっと燃え上がった。
「熱いっ……」
 股間の毛を焼かれたときは炎が上へ逃げたが、腋の下で火を燃やせば二の腕まで焼かれる。さいわいに、すぐ燃え尽きたので火傷にまではならずに済んだのだが。
 ゼメキンスは、下腹部にも焼印を近づけた。焼かれて後に芽吹いていた草叢も、また焼け野原と化してしまう。こちらは、短い毛を焼こうとして、肌に触れるほど近づけたので、ぽつぽつと火脹れになってしまった。
「体毛を無くすなど、異教徒の嗜みは我らには理解しがたい」
 嘯きながら、ゼメキンスの眼は有るべき物が無い部分から離れない。そういう嗜癖もあるのだろうか。
「もう一度熱くしましょうか?」
 冷めすぎるのを懸念して、リカードが声を掛ける。
「いや、これくらいのほうが、傷の治りが早かろう」
 ゼメキンスは半歩下がって、焼印を持ち変えた。柄を立てて、刻印の鉄板を乳房の真上にかざす。
「あああ、あ……」
 アクメリンは顔を背けて瞼を固く閉じた。
 焼印が上乳に押しつけられて、じゅうっと肉を焦がす。
「ぎゃあああああっっっ……!」
 アクメリンの喉から迸った悲鳴は、純粋の苦痛を訴えていた。
 十字架の焼印と同様の手当てが施されてから、アクメリンは檻へ戻された。
「これで、この娘が異端者であることは、誰の目にも明らかとなった」
 ゼメキンスが部下に話しかける――態を装って、アクメリンの様子をちらちら窺っている。
「このような明白な印が見つかれば、直ちに魔女と判明するのじゃがな」
「デチカンで審問する手間が省けますね」
 ホナーが相槌を打つ。
「それは、ない。フィションクの背教などという大事件は、教皇聖下の御裁断に委ねねばならん」
「しかし、この娘が魔女であれば――フィションク国王は魔女に誑かされた、いわば被害者になるのではありませんか?」
 ガイアスが台本に従って、アクメリンに絶望的な希望を示唆する。
「ふむ。魔女に騙されていたと悔い改めれば、慈愛あふれる聖下のことゆえ、フィションク準王国そのものの罪は不問に付すかもしれぬな」
「とはいえ、この娘が自白したとしても、それだけでは魔女と決めつけられないのでは?」
「精神の錯乱ということも考えられるからの」
「では、明白な魔女の証拠があれば、よろしいのですね」
「左様。この烙印のごとく、誰の目にも見える証拠がな」
 焼印は、己れが異端者であるというアクメリンの自白に基づいて施されたものであり、証拠にはならない。しかし、そんな理屈に気づくだけの明晰さを、すでにアクメリンは失っている。
「たとえば、このような刻印でしょうか?」
 リカードが、火床から別の焼印を取り出した。短い鉄棒の先に、太い針金で五芒星が形作られている。
「うむ。上下を逆さにした逆五芒星は悪魔の象徴たる牡山羊を表わすから、またとない証拠じゃ」
「十字架で悪魔を封印し、昨夜は清めの儀式を執り行ないました。この娘の体内に悪魔が潜んでおるとすれば、もはや隠れてはおれなくなって、これまでは見つからなかった印も浮かび上がるのではありませんか」9
「かもしれぬな。午後からは、それを調べてみるのも悪くなかろう」
 昼食にはまだ早いのに、アクメリンを新たな拷問に掛けることもなく、四人は拷問部屋から立ち去った。
 アクメリンは床に転がって、真新しい火傷の刺すような痛みに、あお向けになってみたり、横になってみたり。そして、ふと気づく。檻の出入口に、わずかな隙間があった。まさかと思って押してみると――開いた。
 檻から出たところで、どうにもならない。拷問部屋から逃げても、獄舎の外までは逃げられない。いや、脱走できたとしても、裸ではどうにもならない。でも、何か身にまとうものがあれば。
 もしも、檻から出ているところを見つかったら、拷問と変わりない折檻を受けるだろうけれど――どうせ、拷問はされるのだし。
 アクメリンはためらいながらも、檻を出た。物色の目で周囲を見回して。火床に突っ込まれたままになっている焼印に目が止まった。まだ、石炭は赤い。
 ついさっきのゼメキンスの言葉が甦る。はっきりとした悪魔の刻印があれば。逆五芒星は悪魔の象徴。魔女に誑かされたのであれば、フィションクは罪を減じられる。
 連日の虐待に加えて、逆十字以上に明白な反逆者の烙印まで気編まれて刻まれて。アクメリンの心は打ち砕かれ、正常な判断力はとっくに失われている。唐突な会話、施錠を忘れた檻、火の不始末――見え透いた罠にも気づかない。それとも。罠だと分かっていても、やはりそうしただろうか。
 アクメリンは焼印に手を伸ばした。紛れもない、五芒星の焼印。アクメリンは柄を逆手に短く持つと、心の準備もあらばこそ、太腿の付根にそれを押しつけた。
 じゅううっ……と、白い煙が立ち昇る。
「ぐゔゔっ……」
 焼印の形を崩しては台無しになりかねないとの想いが手を縛って、数秒、アクメリンは灼熱痛に耐えた。五芒星を形作る針金が、肌に埋没するほどに食い込んだ。
 そっと引き剥がして、焼印を火床に戻す。大桶から手で水を掬って火傷を冷やしたのは、昔に見た記憶か、錬金術の秘薬の代用か。さいわいに、大筋としては正しい手当てになっている。
 アクメリンは檻の中へ戻って、出入口の鉄格子を閉じた。外側の留金を手探りで掛けて、開いたままで引っ掛かっていた錠前を正しく下ろした。
「ふうう……」
 アクメリンは大きな溜息をついた。安堵ではない。ゼメキンスがこの刻印を見つけて、どう判断するか。それが大きな不安として残っている。
 それでも。女の身でありながら、家族を守るためとはいえ、国を救うために我が身を犠牲にするのだという、それまでは知らなかった形の高揚と陶酔に包まれていた。圧倒的な大軍に向かって、祖国の栄誉を背負って突撃する騎士。絵物語の主人公になった気分だった。きらびやかな甲冑の代わりに傷だらけの裸身を曝してはいるけれど。
 ――やがて。じゅうぶんに陽が傾いてから。四人の絶対的な正義の使徒が、異端者にして魔女の嫌疑まで掛けられている邪悪な女を糾問に訪れる。
「ややっ……これは?!」
 檻から引き出されたアクメリンを見て、ガイアスが芝居がかって叫ぶ。
「枢機卿猊下の予測された通り、悪魔が正体を現わしましたぞ」
 ガイアスの指差す先を覗き込んで、ゼメキンスも台本を進める。
「これ、エクスターシャよ。このような刻印が露わになっては、もはや白を切れまいぞ。どうじゃな」
 ここが正念場――これは、まったくの独り相撲どころか、ゼメキンスの描いた台本に転がされているだけなのだが。アクメリンは、自身が思い描いている通りの魔女を演じた。
「わらわは、魔女ではないと否定した覚えなどない。そなたらが勝手に騒いでおっただけであろうが」
 もしかしたらアクメリンの記憶違いかもしれないが、それならそれで、魔女の虚言ということになる。しかし、記憶は正しかったようだ。それとも、エクスターシャを偽る娘が今また魔女と自白したことで、ゼメキンスは満足したのか。
「ならば、この焼印を身に纏うことに異議は無いな?」
 リカードが新たに持ち込んだ箱の中から三本目の焼印を取り出した。その文字は“Marga”――聖なる言葉で魔女を意味する。
「好きにするが良い」
 次々と増えていく刻印。それはそのまま、生きながら肉体を破壊されていくような恐ろしさに、アクメリンは、みずからの足で犠牲の祭壇へ歩む山羊を連想した。祭壇は栄光に輝いている。
「ならば、その覚悟を問うてやろう。そこに立て。ぴくりとも動くな。動くと文字が崩れて読めなくなるぞ」
 読めねば確たる証拠にならぬ――そう脅している。
 因果関係を倒置した詭弁を真に受けて、アクメリンは壁に背中を着けて直立する。その目の前で、リカードが火を熾こして焼印を加熱する。
 恐怖を長引かせるように、鈍く赤みを帯びた焼印をゼメキンスが腹に――腰のくびれのすぐ下の丸みを帯びた部分にゆっくりと近づける。
「十字架の封印と重ならぬように注意せねばな」
 宗教的なこじつけなのか、ただの見映えなのか。
 焼印は乳房よりも長く押しつけられていたが。
「ぐううううっ……」
 じゅうぶんに覚悟をしていたアクメリンは、全身を硬直させて呻くだけで試練を乗り越えた。
「異端者、魔女、そして逆十字の刻印。正面はずいぶんと賑やかになったが、背中が淋しいの。そうは思わぬか、エクスターシャよ?」
「……思わぬ。されど、そう思うのなら、好きにするが良い」
 アクメリンとしては、虚勢を張り続ける他に為す術を知らない。
 リカードが、さらに焼印を取り出す。文字は二つに分かれていて、“Mere”,“trix”――つなげれば娼婦あるいは淫乱女の意味になる。それを、わざわざアクメリンに説明してやるゼメキンス。
「わらわを……そこまで貶めるのか」
 アクメリンの声から虚勢が剥落していた。無理強いとはいえ、模造男根で終日責められて気を遣り、拷問に怯えてではあってもみずから進んで男に跨がったのだから、『淫乱』は全き冤罪とまでは言い切れない。そこまで弱気に、自虐に、アクメリンは追い込まれていた。海賊どもの娼婦に堕落しながらも、仄聞した限りでは、それなりに逞しく暮らしていたエクスターシャを、今では羨ましく思ってしまう。などと、忸怩たる想いに囚われている間にも。
 火床の中で二つの焼印が熱せられる。アクメリンは、壁に向き合って張りつく姿勢を取らされた。
「おまえたちも経験を積むがよかろう」
 焼印をホナーとリカードに持たせる。
「尻のように丸みのある部分に焼き付けるときは、まず内側の端を当てて、滑らぬように気をつけ、常に柄の向きに押しつけながら、印影の面を丸みに沿って転がすのじゃぞ」
 この二人とて、初めて焼印を捺すわけでもなかろう。あるいは、アクメリンの恐怖を募らせようとしての言葉かもしれない。
 ホナーとリカードがアクメリンの両側へ斜めに向かい合って立って。二本の焼印の柄を軽く交叉させて――文字を浮き彫りにした鉄板の縁を、尻の割れ目の内側すれすれに近づける。
 ちりちりと熱気を肌に感じて、アクメリンの尻の肉が、ぎゅうっと引き締まる。
「これ、エクスターシャよ。もそっと力を脱け。文字がゆがんでしまう」
 筋肉を緩めるには、多大な意志を要した。
 尻肉の笑窪が消えるとすぐさま、焼印が押しつけられた。
 じゅううっ……
「ぐゔゔっ……」
 二枚の鉄板が尻の丸みに沿って外側へ転がってゆき、縁の直線を焼き付けてから、後ろへ引かれた。
「ひいいい……」
 床にへたり込むアクメリン。槍に刺された傷の花畠の中で、枠に囲まれた“Meretrix”の赤黒い文字がひときわ鮮やかだった。
 前も後ろも火傷をしていては、身体を横たえれば文字が崩れる。アクメリンは両手を縛られて宙吊りにされた。太腿の悪魔の刻印にも触れぬようにと、木枷で開脚させられた。カンカン踊りのような、後ろ手をねじ上げる吊し方にしなかったのは、台本通りに動いた主演女優への褒美だったかもしれない。
 褒美は、もうひとつあった。夕餉である。せいぜい三日前に焼いたばかりの、まだ軟らかさがいくらかは残っている麺包と、昼の残り物らしい肉汁たっぷりの肉をふだんの三倍ほども与えられて、手を縛られているときは当然になっている(身体をまさぐられながらの)口移しではなく、ガイアスの手から食べさせてもらった。ガイアスは片方の手に皿を持っていたから、アクメリンは食事に専念できて、それを物足りなく思いはしなかったけれど、奇妙に落ち着かなかったのも事実だった。
 こうして、ズブアナでの二日目は終わった。
 そして三日目には――これまでに受けた仕打ちの全てを積み重ねても届かないほどの、苦痛と恥辱とをゼメキンスは用意していた。時間があったのに前日に行なわなかったのは、過度の負担でアクメリンの心臓が止まるのを怖れてのことだったと思われる。
 前日に使われた分厚い木の板が床に置かれて、アクメリンはその上に鎹で磔けられた。昨日とは違って、直角を超えて開脚させられ、腰の下に丸太をあてがわれて、股間を高く突き上げた姿勢にされた。
 まだ別の部位に焼印を捺されるのかと、怯えながらも諦めているアクメリン。開いた淫唇の上端に露出している淫核を摘ままれて、不意打ちの快感に、ぴくっと腰を震わせる。それ以上は身体を動かせない。
 ホナーが糸巻を手にして、アクメリンの脚の間にしゃがみ込んだ。
 弓なりに反った腰の向こうで何をされているのか、アクメリンからは見えないが。釘に実核を貫かれた傷が盛り上がって、そこで押し留められている包皮が強引に引き伸ばされ、実核のすぐ上を糸できつく縛られるのを、鋭敏な感覚で逐一感じ取った。傷が痛いのとくすぐったいのと、そして不本意な快感と。しかし、その三位一体の官能に身をまかせるには、恐怖と不安が大き過ぎた。
 ゼメキンスが磔板の横に膝を突いて、アクメリンの股間に手を伸ばす。剃刀を持っているのが、アクメリンからちらっと見えた。ゼメキンスが腕を小さく動かした――刹那、冷たい感触が股間の中心を奔って。一瞬後に、凄まじい激痛が爆発した。
「わ゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!!」
 アクメリンは、声の限りに絶叫した。
 激痛は淫核に発したと、それは分かるのだが、何をされたかが分からなかった。つねられたなどという生易しい痛みではない。釘を刺されたのとは違って、それほど激痛が尾を引かない。
 ゼメキンスが身を起こした。入れ替わりに、今度はガイアス。小さな壺から軟膏を指で掬い取って、アクメリンの股間――激痛の根源に塗り込める。
 その指の動きで新たな痛みが引き起こされて、アクメリンは呻吟しながら、淫核に何かをされたことだけは確信した。
 手当てが終わると腰の下の丸太が取り除かれたが、全身を鎹で固定されているので腰は宙に浮いたままとなり、かえって関節に余計な力が掛かって――鈍い痛みが、ずっと続くことになった。
 木の板に磔けられたまま、アクメリンは夕暮まで放置された。ガイアスの手で食事を与えられてからは、全身を反らせて手足をひと括りにされた逆海老で宙吊りにされて、深夜になってから腕を後ろで水平まで吊り上げた形で立たされた。眠りかければ膝が折れて身体の重みが肩に掛かって、その痛みで目が覚める。アクメリンはほとんど眠れずに一夜を明かさなければならなかった。
 そして、さらに二日間は拷問も凌辱もなかった。後日の過酷な拷問に備えて休養させるのと、火傷が落ち着くのを待っているのだろう。半日ごとに拘束の姿勢を変えられたが、せいぜいがX字形に手足を水平に引っ張られて俯せで宙に浮いた姿にされたくらいで、身体に極端な負担は掛からなかった。アルイェットから拉致されて以来、もっとも穏やかな二日間ではなかったろうか。

 しかし、ズブアナでの一週間目。久しぶりにアクメリンは陽の下へ引き出された。全裸に、王族の身を明かす額冠と首飾と指輪だけを着けた姿で。拘束はされなかったが、材木や板を束ねたものを肩に担がされて、鞭で追われながら、街の中心にある広場まで歩かされた。
 どの街でも、広場は憩いの場であるよりも集会の場であり、処刑場でもある。
 広場の真ん中で、アクメリンは担いで来た材木をみずからの手で組み立てさせられた。材木の端に明けられている矩形の穴に、別の材木の突起を嵌め込んで楔を打ち込めば、人の力では変形させられない頑丈な構造になる。修道僧の指図で、アクメリンが木槌ひとつで組み上げたのは――みずからの処刑台だった。逆V字形の脚に腰の高さで支えられた、三つの穴を刳り貫いた二つ割の板。その穴に首と手首を拘束されて、足は脚に縛りつけられれば――二つの穴を後ろへ突き出し、残る穴も男の腰の高さになる。
 組立をしている間も数百人の群衆がアクメリンを取り巻いていたが、いよいよ準備が調うと、男ばかりが百人にちかくも行列を作った。青年から壮年ばかり。列の前のほうは身分ある者や裕福そうな者が多い。
 組み立てているときから予感はあったのだが、こうなってみると、これから始まる処刑は命を奪うものではなく、被処刑者を女として辱めるものだと――処女でさえも理解しただろう。
 これで、エクスターシャよりも多くの人数を経験することになる。アクメリンは屈辱を覚えると同時に、みじめな優越感に浸った。
 処刑台のまわりには移動可能な木の柵で囲いが作られ、前後に入口と出口とが設けられた。入口の内側にはホナーが賽銭箱を持って立ち、出口にはリカードの前に小卓が置かれて御守やら何やらが積み上げられた。マライボで見世物にされたときと似たような拵えだが、違うのは――柵の中に入るのを許されるのが、一度に二人だけという点だった。
「この女は王女の身でありながら、悪魔と契約を結び、異教に奔った罪深い魔女である。処刑はデチカンにて執り行なうが、その前に、この女をいささかなりとも、敬虔な信徒の皆によって浄めていただきたい」
 枢機卿猊下の御言葉に、柵の前に列を成している男どもも、柵を取り巻いている野次馬も、一応は真面目くさって聞き入っているが、目つきは教会の中でのそれとは違っている。列の前のほうに並んでいる男は、だぶだぶの袴がはっきりと山になっている。
「女に救いの、こほん、魔羅を差し伸べんと欲する信徒には、いささかの寄進をお願いしたい」
 くだけ(過ぎた)物言いに、戸惑ったような小さな笑いが広がる。勤労奉仕をする者にさらなる寄付を求めるなど、有り得ない。教会公認の強制売春だと、大っぴらに認めたも同然だ。
「寄進は銅貨五枚以上をお願いするが……」
 その値段の安さに、アクメリンは傷つけられた。銅貨五枚では、一日の糧すら購えない。娼婦の相場など知らないが――海賊どもの慰み物になっている女たちだって、金貨や宝石などを貢がれることだってあるというのに。
「銀貨三枚以上を寄進される方には、木簡の善行証を教皇庁の名において発行致す。金貨二枚以上なら、教皇聖下の代行人たる余の直筆を進呈しよう」
 後世に教会を堕落させる一因となった免罪符よりも、はるかに性質(たち)が悪い。ゼメキンスの私腹を肥やすだけの小規模にとどまっているから、まだ救いはあるが。
 街の男たちは、若い(しかも高貴な)娘に、自分の嬶にはもちろん娼婦相手に仕掛ければ袋叩きにされかねない変態的な行為も神様公認でしてのけられるのだし、誰も死なないのだから女子供でも安心して見物できるし、もちろん街の教会も余録に与れる。いいことずくめであった――アクメリンひとりを除いては。
 最初の二人は、騎士らしい身なりの者と裕福な商人風。どちらも金貨を(競い合うように)五枚も寄進した。二人とガイアスとが、短く言葉を交わして。騎士がアクメリンの後ろに、商人が前に立った。ホナーとリカードが持ち場を離れて、アクメリンのまわりを衝立で囲った。
「銀貨三枚以上を寄進された方には、希望があればこのように告解の場と同じような密室にして進ぜる。中で何が行なわれたかは、余人の与り知らぬこととなる。おのれを誇りたければ、衝立は不要じゃが」
 言葉の意味を正しく理解して、笑いが広がった。
 衆人環視ではなくなった『密室』の中で、二人の男は下半身を露出した。どちらも猛り勃っている。
 いきなり女穴を貫かれて、とっくに予期も覚悟もしていたから、アクメリンはわずかに顔をしかめただけだった。すんなりと挿入ったことに、アクメリンは疑問を持たなかった。すでに何度も犯されているのだから当たり前だとしか思わない。陵辱を拒絶ではなく受容する心持ちが穴を潤していたなどとは、考えも及ばない。とはいえ。
「ほほおお。濡れておった。なるほど、売春婦と焼印を捺されるだけのことはある」
 この商人は聖なる言葉を、すくなくとも単語を理解できる教養があるらしい。
「そのようだな」
 唇にあてがわれた怒張を、口を開けてすんなりと咥えるアクメリンを見下ろして、騎士も同意する。
「いくら王女様とはいえ、所詮は売春婦に金貨五枚は張り込み過ぎた。すこしは元を取らせてもらおうか」
 商人は怒張を抜き去って、もっと上にある穴に挿れ直した。すでに怒張が潤滑されていたから、アクメリンはやはり低く呻いただけ。
「尻といい口といい、厳しく咎められる行為を、まさか枢機卿猊下から督促されるとは」
「しかも、天国が約束されるのですからね」
 囲いの板が、外から軽く叩かれた。
「後がつかえています。早く浄めてやっていただきたい」
 ガイアスに促されて、二人は口を閉ざし腰を動かし始めた。
 ぱんぱんぱんぱん……
 ずじゅぶぶじゅぶ……
 二つの音がひとつになって、板囲いに小さく反響し始める。
 高貴な娘を犯しているという興奮か、遮蔽されているとはいえ数百人の面前で行為に及んでいるという背徳に煽られてか、二人はともに二十合ほどでアクメリンを浄め終えた。
 板囲いとはいっても、胸から上は見えている。二人が身繕いを終えるや、すぐに衝立は下げられて。二人はそれぞれに枢機卿猊下直筆の善行証書を拝受して柵の外へ出た。
 リカードが桶の水を手に掬って、浄められた部分を手早く清める。
 そして、次の二人がアクメリンの前後に立って――ひとりが衝立を要らないと言うと、もうひとりも見栄を張って、たいした持物でもないのにおのれを誇ろうとする。当人も自覚しているらしく、なかなか勃起しない。
「そのまま咥えさせなさい。この女は、万事心得ております」
 ガイアスにけしかけられて、その男は萎えた逸物をアクメリンの唇に押しつける。アクメリンはそれを咥えると、ずぞぞーっと音を立てて啜った。その刺激と、若い娘にそんな淫らな奉仕をされているという想いとで、たちまちに排泄器官は交接器官にと変貌する。
 後ろから(今度は女穴を)突かれる動きは首枷に遮られて前まで伝わらない。そもそも、首を自由に動かせない。アクメリンは唇と舌を懸命に動かして、男を射精に導こうと努めた。
 喜んで奉仕しているのでもなければ、行為を愉しんでいるのでもない。不慣れな算術に頭を巡らせた結果だった。列に並んでいる人数は百を超えている。二人一組としても五十おそらく六十組になる。一組に十分が掛かるとして、ひと休みもせずに十時間以上。一方、日没まで十時間ほどか。
 どんな集まりでも、日没になれば解散する。そのときに列が残っていたら――それを責められるのを怖れたのだった。拷問、正確には懲罰というべきだろうが、それを逃れるための淫乱な振る舞い。そんなふうに、アクメリンは自身でも信じている。
 二組目が終われば、すぐに三組目、四組目。そこで金貨は終わりになって銀貨が続く。衝立を望むのと露出願望を果たすのは半々だった。
 首枷から後ろは、一方に偏らないようにガイアスが適宜助言しているが、口は常に犯される。口中に放たれた物は何にしろ吐き出さないように調教されているから、銀貨の組が始まった頃には、喉にいがらっぽさがわだかまり、じきに吐き気も催してきたのだが。それを見越してだろう、朝から食事も水も与えられていないので空嘔吐きにしかならない。
 しかし吐き気は――女穴と尻穴を交互に犯されるうちに、不本意にも引き出される官能で緩和されて。じきに、ふたつの穴を同時に満たしてはもらえないのが、物足りくさえ感じるようになってくる。
 そんなふうに、凌辱の中に惨めな愉悦を見出だしていたのも、二十組目あたりまでだった。ふたつの穴は中が痺れたようになって、怒張の出挿りは分かるけれど、細かな引っ掛かりとかは感じられない。痛くもつらくもないけれど、ただそれだけ。
 そして口は――舌が攣って、思うように動かせない。
 男は荒腰を遣い、亀頭を上顎にこすりつけたり喉奥まで突いて、どうにか射精に達する。その間に、下半身のほうでは三人が入れ替わったりする。
 これでは日暮れまでに埒が明かないと、ゼメキンスも判断したのだろう。陽が城壁にも達しないうちに、浄化という名目の公開輪姦を打ち切った。
「希望する者には番号札を配るゆえ、明朝に参集願いたい」
 アクメリンは晒し台に拘束されたまま、広場に放置された。ただし、野次馬が勝手に浄めの儀式を行なえぬよう、腰に巻いた太い鎖が股間を縦に割った。
 すっかり陽が落ちてからは、昨日までよりも質が落ちたとはいえ、一応は食事も与えられ、足首を晒し台の脚に縛りつけている縄だけはほどいてもらえたので、不自然な姿勢でも幾らかは眠れ、あまり消耗することもなく翌朝を迎えたのだった。
 ――上体を直角に折り曲げて枷に固定されているアクメリンの横に、新たな晒し台が組み立てられた。台などという大袈裟な物ではない。逆L字形の柱が一本、それきりだった。頂部の横木に滑車が取り付けられ、太い縄が垂らされて先端に丸い輪が作られる。アクメリンは後ろ手に手首だけを縛られて、縄の下に立たされた。縄の輪に首を通される。
 まさか、この場で殺されるのだろうか――とは、怯えない。焚刑にしても、手足に釘を打ち込まれて放置される磔刑にしても、長いこと苦しみ悶えながら絶命する。縛り首なんて慈悲深い殺し方をしてもらえるのなら、ありがたいくらいだった。
 列の先頭に並んでいた二人の男が、柵の中に入って来て、アクメリンの前後に立った。銅貨五枚以上(実際には見栄を張って銀貨一枚を寄進している)の口だから衝立は無く、二人とも他人に見せて恥ずかしくないだけの逸物を勃てている。
 この街の下吏が二人、リカードの合図で縄を引いた。
「くっ……」
 喉を絞められ宙吊りになるアクメリン。ほとんど瞬時に、すうっと目の前が薄暗くなった。息は出来ないが、すぐには苦しくならない。魂が身体から遊離するような、奇妙な感覚が生じた。このまま死ぬのかな。そう思う間もあらばこそ。
 前に立っていた男が、アクメリンの脚を割って膝を抱え上げ、M字形に開脚した中に腰を割り込ませる。同時に、後ろの男も尻を抱えた。
 首の縄が緩んだ。アクメリンは二人の男に抱えられて、息が出来るようになった。
 腋の下に縄を通すか、いっそ台の上に立たせれば簡単なものを、このような演出は見世物を面白くするためか、アクメリンに恐怖を与えるためか、その両方だろう。
 二人の男は勃起を穴にあてがおうとするが、手放しでは狙いが定まらない。
「失礼致す」
 リカードが跪き、二人の怒張を手に持って穴にあてがった。
 アクメリンは、前後の穴に亀頭が押し挿ってくるのを感じた。どちらも穴と棒の角度が合っていないので、棒のほうがぐねぐね動くのも分かる。
「うん、うん……」
「くそ、この……」
 後ろの男がアクメリンを揺すぶって、強引に棒を穴の奥まで突っ込もうとする。前の男も、揺さぶりに合わせて腰を突き上げてくる。
 ぎちぎちみしみしと穴肉が軋みながら、アクメリンの身体が少しずつ沈んでいく。
 ずっぷりと嵌まったところで、また縄が引かれた。男たちが腰を激しく動かし始める。身体の重みの半分くらいは縄に吊り上げられて、アクメリンはまた目の前が薄暗くなっていき、息が詰まる。そして、魂が漂い出すような――快不快でいえば、むしろ快に寄っている。カンカン踊りをさせられたときの、頭が透き通っていくような感覚に似ている。違うのは、二つの穴を激しく刺激されて……官能が高まっていくのだが。
 じきに息苦しさをはっきりと覚えて。無意識のうちに、アクメリンは足をばたつかせる。それで身体が揺れて、腰に渦巻く官能も高まって――また、それが生じた。苦痛と快感の融合。
「…………!」
 アクメリンは頭を激しく振り立てて、口は息を吸おうとぱくぱく喘いで。それが続けば、窒息して死ぬのと絶頂を極めるのと、どちらが先かというところまで達したのだろうが。
「うおおおおっ……」
 前の男が吠えながら精を放って、アクメリンの膝を抱えていた腕をはなした。
 がくんと、アクメリンが宙吊りになったと同時に縄が緩められて、地面に向かって倒れ込む。
「うおっと……」
 後ろの男が、覆いかぶさるようにアクメリンと共に倒れる。
「ぐぶふっ……!」
 アクメリンは、さながら押し潰された蛙。
 倒れた男はすぐに起き上がったが、怒張の先は白濁にまみれている。倒れる直前か、倒れた衝撃かで、この男もアクメリンを浄めていたようだ。
 倒れたままのアクメリンを、ガイアスが手早く後始末をする。
「これは、ちと形を考えねばな」
 ゼメキンスがつぶやいた。手間が掛かり過ぎるし、くり返しているうちにはアクメリンを殺してしまいかねないと危ぶんだのだろう。
 しかし、浄めの儀式そのものは続けられた。前側の男が脚を抱え上げるのはそのままに、後側の男はアクメリンの腋の下に腕を入れて、羽交い絞めの要領で身体を持ち上げる。首に巻いた縄は、ほとんど使わなくて済む。というよりも、アクメリンを追い込むための道具と化した。
「これでも気を遣るとなれば、いよいよもって、こやつは真性の魔女に相違ない」
 これも、近くにいるガイアスにした聞き取れない呟きだった。
註記:言わずもがなですが。ガイアスが考える真性の魔女とは、「ジョ」を「ゾ」に置換した概念です。日本語ならではのお遊びです。註記までメタってどうするんですかね。
 二組目は、すんなりと終わった。アクメリンの首に巻かれた縄が締まることはなく、単純に身体を持ち上げての二本刺しというだけの――それでも、群衆には見応えのある見世物ではあったが。
 本来は、昨日にあぶれた者たちの処理だったが。銅貨五枚くらいならと、新たに列に加わった者も少なくはなく、結局はご百人を超える頭数というよりは本数となっている。
 その十本目が終わって。ゼメキンスがひとり勝手に頷いたのは――アクメリンが挿入と抽挿行為そのものからは、ほとんど快感を得ていないと見極めたからだった。
 それはしかし、当然ではあろう。アクメリンが処女を奪われてから三週間と経っていない。色責め馬車で朝から晩まで抽挿されたこともあるが、まったく陵辱されず苦痛だけを与えられて過ごした夜のほうが、圧倒的に多い。狎らされているのは媾合に対してではなく拷問に対してなのだ。
 拷問に狎らされて、そこに直截の快感とはいわないまでも苦痛以外の何かを感じるのであれば、それはゼメキンスが考えるところの本物であろう。彼は、それを確かめようとした。
 次の組が始まってすぐに。ガイアスの指示で後ろの男が、二の腕で腋の下を持ち上げたままアクメリンの頭を首が折れ曲がるまで押し下げた。同時に縄が引かれる。
「くうっ……?!」
 首を絞められて、しかし、さっきとは違って――目の前の男の顔がはっきり見えている。息だけが苦しい。いや、まったく出来ない。
 二人の男が再び腰を動かし始めた。
「くっ……くふっ……んっ……」
 その上下動でわずかに縄が緩んだ隙に、ごくわずかに呻き声が漏れる。しかし、息を吸おうとすると喉が潰れてしまう。たちまち、アクメリンの顔が赤く染まっていく。
 頭が、がんがん痛む。一方で、二つの穴は激しく突き上げられこねくられる。死に直面しながらも、腰のあたりに温かな疼きがわだかまっていく。そして――目の前が暗くなっていって。それが訪れた。
 すうっと、頭が軽くなった。透き通った感覚が延髄から背骨を駆け下りていって、腰の疼きに達した瞬間。
(……!!!)
 身体が砕け散るような尖烈な快感が生じた。
 膝を抱えられてM字形に開いていた脚がぴいんと突っ張って、脹脛も太腿も小刻みに痙攣する。垂直に立った上半身と合わせて、さながら大輪の三弁花(トリリアム)。
 アクメリンは恍惚の中へと溶け込んで――逝きかけたところで、首の縄が緩んだ。
「かはっ……」
 ひゅうひゅうと喉を鳴らして何度も息を吸った。その間に恍惚は霧消して、割れるような頭の痛みだけが残っていたが、それも次第に薄れていった。
 気がつけば、アクメリンは地面に投げ出されていた。全身の筋肉が痙攣したとき、穴のまわりの筋肉も例外ではなく、その律動と締め付けに二人の男は堪えられなかったのだ。///1st
 次の組の二人が、同じように羽交い絞めにしてアクメリンを立たせる。ガイアスが穴を清めて、首ではなく顎を吊るように縄を掛けた。縄が引かれると首が伸びるだけで、それはそれで身体の重みの過半を吊れば頸椎を痛める危険もあるが、羽交い絞めでアクメリンを支える補助にしか使われないから――アクメリンは不快な思いをしただけだった。そんな形で犯されても、恍惚は訪れなかった。ただ嵌入されて抽挿されるだけなら、すでに穴は馴らされ切っている。
 ――十組ばかりを、男を射精させるためだけの道具として、アクメリンは扱われた。
 そして、また縄を掛け直されえう。
 今度は首を吊られると、アクメリンは戦慄した。しかし、殺されないだろうとも分かっている。戦慄には、甘い香りが伴っていた。
 期待とまではいわないにしても予想通りに首を絞められて、アクメリンは再び三弁花(トリリアム)を咲かせた、前よりも少しだけ長く。前を犯していた男はアクメリンを浄められなかった。寸前で大量の水を浴びせられたせいだった。さすがにアクメリンは脱分゜まではしなかった――しようにも、穴はふさがれていたから。
 しかし、それも。何度も三弁花を咲かさせた後に。地面に投げ出されてから、やらかしてしまったのだった。
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 かなりシーケンスが変わったというか、即興というか。
 自分で自分に焼印を捺すなんて、まるきり予定外でした。
 まあ、焼鏝責め好きクンの本音は、フィションク準王国を告発したりすると大騒動になるので、エクスターシャ王女をスケープゴートにして、その過程であれこれ愉しめば良し。ということらしいです。
 どうにかこうにか、苦痛と快感をアウフヘーベンするところまで辿り着――けないのを、首に縄を掛けて引っ張って来ましたが。
 ゼメキンスの回想で二十年前の「本物の」魔女、マイ・セシゾン/真性マゾを登場させたのも、重い尽きですが。
 いいもんね。元々は、本命小説を書く片手間の小遣い稼ぎに始めたSM小説。本命なんざ、前世紀で馬群に呑まれちまって、酒は呑み続けて、今じゃSM小説がライフワークにして趣味にしてレーゾンデートルなんだから。好き勝手に書くさ。分かるやつだけ付いて来い来いだからね。格好よく言えば、読者に媚びない。なんて、文学青年の欠片は、粉々にしてカルシウム摂取じゃ意味不明

Neck Hanging_V


 現在まで約320枚。たぶん500枚には納まるでしょう。

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