Progress Report(third) 2:昭和集団羞辱史/物売編(夜)


   父と一緒に

 翌週の土曜日。和江は夕方の五時に父と駅で待ち合わせて、その足で組事務所へ向かった。横流しを防ぐ意味で、商品は毎日一定数を渡され、売上と売残りは返却する。
 事務所の大デスク(の真ん中)には、大姐御ではなく、父よりも十歳くらいは若そうな、スポーツ刈の男が鎮座していた。
「なるほど、若いな。しかし、こんなバケベソ化粧じゃ雰囲気もへったくれもねえな」
 昭大の挨拶には素っ気なく頷いただけで、男は和江に目を向ける。
 彼が生田組の若頭だと父に紹介されて、和江も深々とお辞儀をした。社会人としては「父がいつもお世話になっておりまして」とかなんとか挨拶をするところだが、大物ヤクザという先入観に威圧されて、言葉が詰まる。
 同時に、バケベソと言われたことに憤慨……出来ないでいた。この言葉を和江は知らないが、からかわれたのだとは分かる。いかがわしい商売を手伝うのだから、会社の人に見られても自分だと分からないように厚化粧をして、髪もスカーフで隠している。これが駆け出しの立ちんぼそっくりだとまでは、立ちんぼを見たことのない当人には知りようもないのだが。化粧をしてもかえって不細工になることもあるのだとは、初めて知ったことだった。
「まあ、いいや。売り込みに来るんだったら、スッピンで来いよ」
 セーラー服で来れば倍額に査定してやるぜ――と、和江には理解不能な笑いを付け足した。

 秘写真の売買は大姐御の征子が仕切っている。彼女からハトロン紙の封筒を五通と、怪しげな黒の封筒を三通と受け取って、昭大は繁華街へ向かった。彼のシマは突き当りの一画と定められている。この界隈だけで秘写真の売子は他にも二人居て、昭大は新参――つまり地の利は良くない。繁華街が最も賑わう土曜日でも、売れて三組、平日は坊主も珍しくない。それでも一組の値段が千円とか、物によっては三千円もするので、借金の足枷が無ければ、小体(こてい)なアパートを借りて女を食わせるくらいは余裕だった。
 捕らぬ狸の皮算用は措いて。
 和江は父と別の場所で売るのでも、父と並んで売るのでもない。彼女だけが独りで売って、父はその後見役だった。
 まだ昼の名残をとどめて、繁華街を行き来する男たちの足取りもしっかりしているのだが。路地の陰から品定めをしていた昭大が、こちらへぶらぶらと歩いてくる三十歳手前くらいの男を指差した。
「あいつなら脈がある。教えた通りにやるんだぞ」
 昭大が路地の奥へ身を隠す。
 他の男たちと、どこがどう違うのか、和江には分からなかったが、ともかく父に教わった通りにやってみる。
「ねえ、小父様」
 これが昭大なら、相手の年齢と風采によって『課長』、『部長』、『社長』と使い分ける。立ちんぼあたりなら『お兄さん』か『小父様』だが、ずっと若い和江なら『小父様』一本槍が良い――というのも、昭大の仕込みだ。
 下手くそな『ばけべそ化粧』とはいえ、いや、それだからこそ――若さというより稚なさは隠せない。そして声を掛けられた男は、自分より年上の立ちんぼや呼び込み嬢にうんざりしているはずだった。
 果たして男は足を止めて、稚ない少女の話を聞くだけは聞いてみる気になったようだった。
「あの……写真を買っていただけませんか」
 男は食いついてきた。
「きみのヌード写真かな?」
 からかい半分だろうが。
「いえ……姉の、あの、見本では水着を着ていますけど、買っていただくのはヌードです」
 ここで初めて『見本』の写真をハンドバッグから取り出す。和江はただ水着としか言わなかったが――海水浴場でこんな姿を晒せば、監視員が注意するのはもちろん、風紀に厳しいPTA小母さんあたりが(わざわざ公衆電話を探して)一一〇番しかねない、上乳も下尻も露出した超過激なビキニだった。
「ヌードは……お、お、オマンコまでぱっくり写ってます」
 まったく見知らぬ相手、厚化粧とスカーフで変装しているからこそ、ようやく口に出来た言葉だった。
 ちなみに。見本の写真と封筒の中身とは、同じモデルを使っている。実に良心的な商品というべきだ。
「そいつも、ちょっと見せてくれよ。ほんとだったら買ってやるよ」
「それは駄目です。お買い上げいただくまで封筒は開けるなって、元締からきつく言われてます」
「なんだ。きみの姉さんじゃないのか」
 男は、興味が失せたような口振り。ほんとうにそうなら、とっとと踵を返すところだが、そうしないのは和江にも興味があるからだろう。
「もしも、中の写真が偽物だったら、どうする?」
「ほんとうに、見本のお姉さんのヌードです。お、オマンコもぱっくりです」
 見たくもない写真を見せられて、それは断言できる。
「よし、買ってやるよ。だが、嘘だったら、おまえのマンコで落とし前をつけてもらうぜ?」
「構いません。千円です」
 男は苦笑しながら財布を取り出した。封筒を受け取って、その場で開ける。写真を表通りの明かりに照らして、不満足そうに頷いた。
「確かに、言う通りの写真だな。まあ、千円の価値はあるか」
 この当時、売春のいわゆるショートが千円から二千円であった。それに比べれば、けっして安い値段ではない。それでも、前後不覚の酔っ払いではない、まともな判断力を持った者にも売れるのは、生田組の扱う写真の質がきわめて良質だからである。週刊誌のレベルを超えるヌード写真のモデルになる女は、肉体を買ってくれる男がいなくなった玄人と相場が決まっていたこの時代に、生田組だけは飛び切り若い素人女性を調達していたのである。この絡繰については、いずれ詳述する機会もあるだろうから、ここでは話を先に進める。
 目の前の『実物』をどうこう出来なかったのが残念――とまでは、男性経験どころか恋愛体験すらろくにない和江には男の心理を読めない。
 とにかく――昭大の言い方だと『餌』を呑み込んでくれたので、釣り上げにかかる。
「よろしかったら、シロクロの写真もあります。写真の色じゃなくて、あの……つまり、男と女が……そういう写真です。同じ人がモデルです」
「幾ら?」
 今度は心底興味の無さそうな声。
「二千円です。十枚組ですから、お得です」
「いらないね。男のケツなんざ写り込んでちゃ、マス搔く気にもならない。おまえさんが相手してくれるんだったら、ショートで三千円張り込むけど?」
 言葉だけでなく腕を伸ばしてきたので、和江は身を翻して路地の奥へ逃げた。男は追って来ない。
「ばーか。誰が小便臭い小娘に聖徳太子を張り込むかってんだよ」
 捨て台詞を残して立ち去った。
「良くやった。始め良ければすべて良しだ。この調子で頑張っておくれ」
 昭大の声は弾んでいた。それを聞いて、和江も単純に嬉しくなる。
 それから三人、立て続けに失敗した。とはいえ、のこのこと路地に誘い込まれて、和江の話だけは聞いてくれるのだから、昭大に言わせれば彼とは大違いなのだった。昭大が声を掛けても、立ち止まるのは十人に三人くらい。そのうちの一人が興味を示すくらいだから――昭大が三十人、四十人に声を掛けたと同じくらいの効果があったわけだ。
 もっとも。男が興味を示すのは写真にではなく、和江についてだから、トラブルも少なくなかった。
 二人目の男は、和江が売物ではないと知ると、抱きついてきた。尻を撫でられて、和江えは慌てて父に救けを求めた。
「チッ、美人局かよ」
 そんな捨て台詞で男は立ち去った。三人目には胸を揉まれて、父親の出番。
 五人目は初老の男。土で汚れた作業服で息は酒臭く、すでに足取りも怪しい。見本写真をろくに見ずに、千円の封筒を買ってくれた。中身を一瞥して、すぐ尻ポケットに突っ込んだ。二千円のも売りつけようとしたら、
「どうせなら、あんたのほうが良いな」
 するっと和江の背後に回り込んで、抱きついてきた。胸を揉みながらスカートをまくってパンティ越しに股間をまさぐる。
 和江が救けを求める前に昭大が姿を現わしたのだが、男は動じない。
「金を払ったんじゃ。わしゃ客だぞ。ちょっとくらいはサービスせえ」
「わしらあ、生田組の傘下で売(バイ)しとるんですがね。事を荒立てずに済ませてはもらえませんか」
「上等じゃ。そっちが生田組なら、こっちは警察じゃぞ。お巡り呼んでやろうか。困るのは、どっちじゃ?」
「…………」
 昭大が言葉に詰まる。生田組から話(ナシ)をつけて、猥褻写真には目をつむってもらってはいるが、一般市民から通報されては警察としても、まさしく事を荒立てざるを得ない。
「まあ、穏便に済ませたる。もうちょっとだけサービスしろや」
 男はさらに三十秒ばかり、乳房を揉み、パンティの上から筋を縦になぞって――それで千円分の満足はしたらしかった。
「二千円の写真も買ってやるから、ちょっと裸も見せてくれんか?」
 和江が全身を強張らせて絶句していると、男は和江を突き放した。
「次に会うときまでに考えといてくれよ。なんなら、三千円で買ってやるよ。それだけのサービスをしてくれるならな」
 和江は、乱れた服装のまま、地面にへたり込んだ。
「済まんかった。警察をどうこう言われたら、どうにもならない」
「悪いことをしてるからでしょ!」
 和江は叫んだが、その悪いことをしなければ父の借金を返せないのだから……啜り泣くしかなかった。
 それでも。前と同じアベック喫茶で三十分ばかり、無言で父と並んで座るうちには気を取り直して、またシマへ戻って商売を再開したのだから、和江もしたたかではあった。したたかのついでに――というわけでもないが。必ずアベックで座っている喫茶店の客たちが、薄暗い中で何をしているかも、ついつい観察してしまった。横並びに抱き合ってキスをしたり、男が女の身体をまさぐったり。けれど、それ以上の行為はご法度らしい。男が女を膝の上に乗せたりすると、店主らしい中年男が現われて、わざとらしくお冷やを注ぎ足したりする。
 和江はその日のうちに、客のお触りをいなす術も覚え始めて。二十人ほどに声を掛けて、千円の写真は売り切って、二千円も二つ売れた。九千円の売上は、三千円の手取。
 昭大が有卦に入ったときくらいの稼ぎだが。
「初日からこれはたいしたものだ。もうちょいコツを覚えれば、五千円は軽いぞ」
 儲かれば儲かるだけ、捕らぬ狸の頭数を増やしていく昭大だった。
 昭大に懇願されて日曜の夜も出勤して。繁華街の人出は減っても、売上は一万円の大台を超えた。お陰で月曜はあくびの連発で、一度だけだがベルトコンベアーを停滞させて大目玉を食らったりした。
 連日の門限ぎりぎりの帰寮にも注意をされて。次の土曜日には、帰りを父に寮まで付き添ってもらった。突然の父親の出現に寮監も面食らったが、失業保険証書がいわば通行手形となった。
 ので、堂々の門限破り。営業三日目は、多目に渡されたハトロン封筒十通と黒も六通を売り切った。完売ボーナスを弾んでもらって八千円の手取。昭大は寮監さんと同部屋の三人分のショートケーキ(売れ残りの詰合せだが)を奮発する始末。一方の和江は、恐ろしくもなっている。六時間ほどで給料の半月分を超えるなんて、金銭感覚がおかしくなりそうだった。
 いや。すでに平凡で幸せな人生の道を、半ばは自身の意志で、踏み外しかけている。身体を触られたくらいで大騒ぎしなくても良いのではないだろうか。身体測定のときは(ブラジャーを着けている子も)パンツ一枚だったし。年に一度の健康診断では、お爺ちゃん先生とはいえ、素手で乳房を揉まれている。
「グミの実も大きくなってきたねえ」なんて言われながら、乳首を摘まれた子だっていた。残念ではなく幸いにも、和江はそこまで発達していなかったけれど。
 ちょっと胸を揉まれたりお尻を撫でられたりパンティ(パンツより生地は薄いけれど)の上からオマンコを触られるくらい、どうってことはない。どころか、それで何千円も売上が増えるのなら、じゅうぶんに見返りがある――そんなふうに考えるようになってきた。
 といっても。触られ始めると、なかなかやめてくれずに、結局は父に救けを求めることになる。
 そこで思いついたのが、子供の隠れんぼだった。
「あと十数える間にやめてくれないと、大声をだしますよ。ひとーつ、ふたーつ、みいーっつ……」
 我慢できる限り、ゆっくりと数えた。これは効き目があった。客はそれなりに満足して、ここのつで引き下がってくれた。パンティの中まで指を入れられると、
「よーっつ、それはやめてください。いつつむっつななつ」
 お遊び感覚になって、それ以上の狼藉には及ばない。
 一か月もすると、和江も駆け引きを楽しむ気分になっていた。大の男が小娘の言葉に翻弄されるのだから面白くない訳が無い。
 そして、男の本質に気づかされていった。などと大上段に振りかぶる必要はない。要するに、男は例外無く助平だという、ただそれだけのことだった。
 商品についての造詣も深まった。売人は三人いると聞かされていたが、三人が三人とも違う商品を渡されている。モデルが違うし、内容も――大まかに分けて三種類あった。
 ひとつは、全裸の男女の絡み。最初に和江が持たされたやつだ。三日に一度の割で持たされるのはヌード写真と、同じモデルがと年上の女性とが絡み合っている、いわゆるシロシロだった。封筒の色はピンクで売値は三千円。
 そして最後のひとつは。ハトロン紙の封筒には大仰に『秘』の赤スタンプが捺されていて、モデルが縛られている。これと対をなす封筒は赤で、同じモデルが拷問を受けているシーンとか、複数の男に犯されていたりする。この頃にようやく使われ始めた言葉で言えばエスエム。売値は二千円と四千円だが、売人が求めない限り征子も押し付けたりはしない。そして、昭大は扱わない。食いつきは良いが、まず買ってもらえないそうだ。
「エロチックなのは助平だが、女を縛ったり叩いたりは変態だ」
 昭大の偏見ではなく、世間常識だった。たいていの男は、「おまえは助平だ」と言われれば苦笑いして頭を掻くだけだろうが、「おまえは変態だ」と言われれば本気で怒る。たとえ理性も羞恥も欠落した酔っ払いでも、相手が見ず知らずのチンピラでも、変態とは思われたくないということなのだ。そういう特殊性があるから、旅の恥を掻き捨てられる歓楽温泉地やマニア向けの雑誌に広告を載せる通信販売では需要が高いのだが。
 それはともかくとして。和江にはもうひとつ、気になることがあった。シロシロで絡む年増女はともかく、主役のヌードモデルは四人もいるが(だから、ハトロン紙の封筒だけで八種類もある)みんなs大衆雑誌のグラビアに登場する娘よりも若い。和江と一つか二つしか違わないのではないか。それは、まあ……それぞれに事情(あまり考えたくはない)があるのだろうけれど。そのうちのひとりが、(年齢を無視すれば)大姐御に似ているように思えるのだった。
 昔と同じようには打ち解けて父と話せなくなっているので、つまらない疑問はうっちゃっておいたが、あるいは自分の運命をこの時点ですでに予感していたのかもしれない。
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blue sepia
 アイキャッチは、「昭和レトロ エロ写真」で引っ掛かったやつ。

 さて。御膳立ては調いました。次章からが怒涛のエロ小説です。乞御期待……?

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