Progress Report(third) 4:昭和集団羞辱史/物売編(夜)

 数行で1か月ばかり経過させて。
 いよいよ本格的な責めです。とはいえ、最近の過激化傾向に逆らって、濠門長恭クン本来のミディアムハード止まりです??


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   父の不始末

 父を(娘の分際で思い上がった言い方だが)野放しにするのは不安だったので、土曜日の夕方の決まった時刻に、寮へ電話を入れてもらう約束をして。和江自身は、二度と盛り場へ足を向けなかった。
 しばらくは、約束が守られた。今週は三千円残せたとか、今日は赤提灯を我慢して自分の部屋で焼酎にするとか、和江を安心させる通話だったが。
 十月になると、連絡が絶えた。翌週も電話が掛かってこなくて。組事務所へ消息を尋ねに行こうかと悩み始めた。
 和江は、父の正確な所在を知らない。いわゆるドヤ街で、一泊幾らの三畳一間暮らし。宿替えをすることも珍しくないし、若い娘が独りで訪れるのは、夜の盛り場をうろつくよりも危ないと、父から聞かされていた。
 ――迷っているうちに、向こうのほうからやって来た。父ではなくて、生田組の若頭の元妻現情婦の征子だった。極端に短いスカートを穿いて、ガーターが見えている。この夏に大手繊維メーカーが発表した最新ファッションだが、和江の目には露出狂としか映らない。あるいは、亭主の好きな赤烏帽子だろうかた疑う。
「おまえの親父さんね。ちょいとやらかしてくれちゃってね。顔を貸しておくれよ」
「困ります……」
 今日は木曜日。日が暮れてから、寮監の知らない人物に誘い出されたとなったら、それだけで後がうるさい。征子の口ぶりでは、なにか厄介事らしい。門限を過ぎたりすると、反省文はともかく、また勤務中に居眠りしかねない。
 そんな躊躇は、次のひと言で消し飛ばされた。
「来なけりゃ、父親とは今生の別れになるよ」
「どういうことですか。父に何かあったんですか?」
 征子は直接に答えず、話は本人から聞けと、乗って来た車に和江を押し込む。車は黒塗りの3ナンバー車。運転しているのは生田組の若い衆だった。
 和江が連れて行かれたのは、八月末の撮影で使った倉庫。小型トラックが乗り入れていた。
 待ち受けていた顔ぶれも異なっている。若頭の他には、菜っ葉服を着た若い男が一人だけ。トラックの運転手だろう。昭大の姿は無かった。
 征子が和江を若頭の前へ突き飛ばす。乗用車を運転していた男は、車で待機しているらしい。もっとも、待機というか周辺を見張っている者は何人もいるだろう。
「父は、ここには居ないんですか?」
 父を口実におびき出されたのかと、和江は身の危険を感じた。しかし、征子の言葉に嘘はなかった。
「来てるぜ。その中だ」
 若頭が、トラックの横のドラム缶を指差した。
「……?」
 意味が分からず、それでも近寄ってドラム缶を覗き込んで。
「……父ちゃん?!」
 和江は悲鳴を上げた。父はドラム缶の中に入れられていた。複を脱がされ縛られ折り曲げられて。
「俺らの世界じゃ、不始末は指を詰めて詫びるが、こいつは十本でも足りない事をやらかしやがった。そこで、コンクリに詰めてしまおうってな」
 ドラム缶の横には、底の浅い大きな箱が置かれて、どろどろのセメントが練られてあった。
「父ちゃんが、何したん? 殺さんといてくだっせ」
 お国言葉丸出しで訴える和江。
「こいつはな、屑フィルムを盗み出して、逃げ出しやがった。おまえの写真だ。屑といっても、今は使わないだけで、違う構図を組み合わせれば売物になる」
 それを他県のヤクザに売ろうとしたのだが、その組は生田組と交流もあったので、昭大は身柄を拘束されてしまったというお粗末。
「おかげで栄和組に大きな借りを作っちまったし、トウシロに舐められたとあっちゃ、組の面子も丸潰れだ」
 倉庫の壁も床も、ぐわらんぐわらんと揺れるような錯覚。和江はドラム缶の縁にしがみついて、かろうじて父に尋ねる。
「父ちゃん……若頭さんの言うたこと、ほんまなん?」
「済まなかった。どうしても、まとまった金を持って帰ってやりたかったんだ」
「馬鹿! 父ちゃんの馬鹿!」
 和江は大声で喚いて、しかし少しだけ頭が働くようになった。わざわざ自分を連れて来たのは、最期の別れをさせてやろうなんて慈悲心(?)からではないだろう。何か目的がある。それは……
「お願いです。父を助けてください。私、何でもします。シロクロでもエスエムでも、モデルをやります。どんな所へ売られても、文句は言いません」
 和江は若頭に向かって土下座をした。若頭が征子に向かって目配せをしたのは、見えていない。こういう状況で相手に取り縋るのではなく、土下座を選択する。その心の在り方が彼の眼鏡に適った。ぶっちゃければ、嗜虐心を満足させたのだった。
「もちろん、おまえには稼いでもらうさ。相手の組には、謝礼をたっぷり出さなきゃならなかったんだからな。だが、銭金で済まない話もある」
 弱みにつけ込み、心の奥まで蹂躙していく。
「ヤクザを虚仮にした奴は、玉を取らにゃあケジメがつかねえ。だが、俺はフェミニストってやつでな。おまえが父親と並んで詫びを入れるってんなら、罪一等どころか二等も三等も減じてやるぜ?」
「何でもします!」
 その為に連れて来られたんだと――和江は絶望の中に、確かな希望を見い出した。けれど、処女を奪われ、前よりも過激な写真のモデルにされたり売春をさせられたり――その他に何があるというのだろう。
「それじゃあ、素っ裸になりな。ずたずたに切り裂いてやりたいところだが、素っ裸で帰すわけにもいかねえしな」
「御願いです。娘に酷いことはしないでください」
「じゃかあしい!」
 父親の訴えは、ドラム缶を蹴って封じた。だけでなく。
「バケツ一杯分ほど入れてやれ」
 菜っ葉服の男が、セメントをバケツに掬って、昭大の頭からぶっ掛けた。
「うわっぷ……やめてください……」
 情けない声に、和江は耳をふさぎたくなる。
「父を救けてください。虐めるなら、好きなだけ私を虐めてください」
 和江は作業服のボタンを力まかせに引き千切った。寮から工場まで歩いて通える距離だし、更衣室で着替えるのは時間の無駄だから、寮住まいの女工は、たいてい作業服で通勤している。
「裸で帰れって言うんでしたら、そうします!」
 和江はブラウスのボタンも引き千切った。若頭の関心を自分だけに向けようという思惑だった。捨て身の演出が出来るくらいには、絶望が遠ざかっていた。
 しかしそれは、ますます若頭の嗜虐性向に適う行為だった。
「おいおい。もうちっと、乙女の羞じらいってやつを見せろや」
 若頭の苦笑に、和江が言い返す。
「羞ずかしい写真をいっぱい撮られたんです。もう、なんだって平気です」
 無意識に嗜虐を煽るのも、被虐の才能というべきだろう。
「そこまで言うのなら……」
 言い掛けた言葉を、若頭は飲み込んだ。
 和江は、さすがにそれ以上はわざと衣服を破ったりはしなかったが、騎虎の勢いとでも形容したくなる仕草でパンティまで一気に脱ぎ去り、ろくに畳みもせず木箱の上に置き捨てた。『素っ裸』と言われたのだから、靴と靴下も脱いだ。
「そこに立っていろ」
 若頭が、木箱の上に転がっている荒縄を手にした。緊縛の先生は、肌触りは柔らかいが良く締まる木綿だか麻の縄を使っていたが、荒縄とは有り合わせもいいところのように、和江には思えた。
 このあいだみたいな、もたついた下手くそな縛り方をするんだろうなと、和江は若頭を見下したような気分になった。
 筆者がしゃしゃり出ることをお許しいただくなら――これは和江の認識不足である。過日の『先生』は、後年SMが世間に認知されるようになると繩師と呼ばれる専門家である。上には上があるとしても、小結か関脇は固い。同じ伝で言えば、若頭は十両クラスか。学生相撲の横綱が十両に歯が立たないのは周知の事実である。
 それはともかく。今は緊縛術など不要だった。和江は前で両手を揃えて手首を縛られただけだった。しかし、縛りの技量というよりは縄の材質に依るところは大きいのだが――先生の縄は肌を抱き竦めるように柔かく、しかし厳しく食い込んできたのに比して、手首には荒縄の毛羽が痛く、わずかな緩みで縄が肌に擦れる。
 それは若頭の目論見に、むしろ適していたかもしれない。
「羞ずかしいのは平気だって言いやがったな」
 天井から垂れているリモコンボックスを操作して、若頭はホイストを和江の真上へ移動させた。手首の縄をフックに引っ掛けて、鎖を巻き上げる。
 和江の両手は高々と吊り上げられて、しかし鎖に体重が半分も掛からないところで止められた。
「だが、苦痛はどうかな」
 若頭はズボンからベルトを引き抜いた。吊るしの背広なら三着は買えるという、フランスの超高級品。だからというわけではないが、分厚い革に鱗の模様がくっきりと浮かび上がっている。
 それをU字形に曲げて、和江の腹を逆撫でする。
「……好きなようにしてください」
 わずかにくすぐったいが、このごついベルトで叩かれるのだろうという分かり切った予感に、和江は怯えている。
「初心な小娘を泣き喚かせるのも、猿轡で悲鳴を封じるのも、俺としちゃいい加減に飽きていてな」
 若頭は和江の閉じ合わせている太腿の間にベルトの先端を差し挿れ、鱗の面を上にして両手で力任せに引き上げた。
「あうっ……痛い!」
 両手を交互に上下させて、股間をこする。ベルトの幅が広いので淫裂には食い込まないのだが、ベルトをひねって縁を滑り込ませてから、こじ開けてしまう。
「ゲームをしようじゃないか」
「……ゲーム?」
「なに、簡単さ。俺は、こいつでおまえをぶっ叩く。そうだな、百叩きにしよう。その間、おまえが一回悲鳴を上げるごとに、バケツ一杯ずつセメントをドラム缶に入れていく。泣いても恨み言を言ってもだ」
 呻き声くらいは許してやる。俺が判断したんじゃ不公平だから、判定は征子にさせる。それでどうだと、和江に尋ねる。
 和江には否も応もない。拒めば、たちまちドラム缶にセメントが流し込まれる。
「そう恐い顔をするな。バケツに三十杯四十杯は入れねえと、ドラム缶は万杯にならねえよ」
 胸まで埋まったまま固まれば、圧迫されて窒息するかな。腰まででも、コンクリを割るときにチンポがもげるかもしれねえぞ。
 つまり、ただの一回も悲鳴はおろか泣くことすら出来ない。嬲り者にされている。和江は若頭を恨んだ。しかし、憎む気にはなれない。
 こうなった原因を作ったのは父なのだ。盗みへの罰が死刑だなんて、一般社会では許されないが、ヤクザには彼らの理屈がある。いや、江戸時代には十両盗んだら首が飛んでいた。
 この『ゲーム』は、若頭の変態性癖を満足させるためのものだけど、『恩赦』のチャンスが与えられたことに違いはない。私が、ベルトの鞭打ち百発を耐えれば、それで父は救える。
「いつまでも黙ってちゃ分からねえぜ」
 つま先が宙に浮くほど股間を吊り上げられて、ベルトで前後にしごかれた。
「きひいいいっ……やります」
 足が床に着いた。
 股間の痛みに悶える暇も無く――若頭がベルトを右手に持って、後ろへ一歩下がった。
「それじゃ、ゲームを始めるぜ。まずは小手調べだ。後ろを向け」
 お尻なら、まだ耐えられるだろう。ほっとした思いで、和江は足を踏み換えて若頭に尻を向けた。
 間髪を入れず、ベルトが空気を切り裂く唸りと、肉体への衝撃。
 ぶうん、バッチャアン!
「きゃ、くっ……」
 悲鳴を漏らしかけて、かろうじて堪えた。尻ではなく背中を斜めに打たれた。脂肪と筋肉の薄い部位。文字通り、骨に響く痛みだった。
 ぶうん、バッチャアン!
「かはッ……」
 ぶうん、バッチャアン!
「かはッ……」
 風切音が聞こえた瞬間に、息を詰め歯を食い縛って、呻き声すら封じた。思わず吐き出す息が、そのまま悲鳴だった。
 ぶうん、バッチャアン!
 尻を水平に薙ぎ払われて、和江は安堵の息を吐いた。『ゲーム』を始める前の彼女だったら大仰な悲鳴を上げていただろうが、背中への痛撃に比べたら、クッションの上から叩かれているも同然だった。
 尻を四発叩かれて、その次は腰骨を直撃された。これも、かろうじて堪え切った。
 ぶうん、ビチッ……
「ふらつくんじゃねえ。外れたじゃねえか。今のはノーカンだ」
 もっと足を踏ん張っていろと言われて、当然だが脚は開き気味になる。
 しゅんん、ビシイイッ!
「きゃああああっっ……!!」
 真後ろから掬い上げるように打ち込まれたベルトは会淫をしたたかに叩き、先端は跳ね上がって淫裂にまで食い込んだのだった。
「悲鳴だわね」
「ヤスよ、ご馳走してやりな」
 作業服の男が、バケツにセメントを掬ってドラム缶にかざす。
「待って、赦して! もう、絶対に声を出しません!」
 ばしゃしゃしゃ……
「ずいぶんしゃべったわね」
「可哀想だから、もう一杯だけにしてやれ」
「…………!」
 抗議も弁解も破局を早めるだけ。
「やめてくれ、殺さないでください!」
 父の悲鳴にも断腸の沈黙を強いられる和江だった。
 実のところ、危険は差し迫っていないのだが、土木工事の知識が無い和江には分からない。農業を営んでいれば、昭大はセメントの凝固時間くらい心得ているだろうが、恐怖が知識を忘れさせている。セメントは表面が固まるまでに丸一日は要する。腰のまわりのコンクリートを割ると淫茎が傷付くまでに中が固まるまでには、さらに二日は掛かるだろう。
 つまり、トラックもドラム缶もセメントも、和江を脅す道具立てだった。もちろん、和江が脅しに屈さなかったときは、ドラム缶にセメントを満たすくらいのことはやりかねないだろうが。
 何事も無かったかのように、若頭は後ろ向きの和江に命令する。
「小手調べの次は大手調べといこう。こっちを向けや」
 大手調べというふざけた言葉の意味は、和江にも明白だった。震える足を踏み締め直して、急所を鞭打たれるために、若頭と向き合った。
 若頭はベルトを持った右手を水平に後ろへ引いて、上半身を叩く構えになってから。
「ところで、何発叩いたっけ?」
 征子に尋ねた。
「知らないわよ。数えるのはあたしの役目じゃないでしょ」
「おいおい。審判役はおまえなんだから、しっかりしてくれよ」
 若頭が芝居がかって頭を振ってから。
「しょうがねえや。一からやり直しだ。それでいいな?」
 とは、和江への質問だが。和江は文句を言えない。言えばドラム缶にセメントだ。せめて、抗議の意味で頭を横に振ったのだが。
「文句があるなら、はっきり言えや。だんまりなら、承知と受け取るぜ」
 八月のときは、猿轡をしておいて言葉での返事を求められた。不可能事を要求して、被虐者を絶望に追い込む。その手口を、和江はあらためて思い知らされた。
「よし、これから百発に決まりだな」
 言うなり、若頭は不意打ちに和江の乳房にバンドの鞭を飛ばした。
 ぶん、バチン!
 肘から先のスイングになったから、鞭としての威力は小さい。それでも、乳房が弾けたような激痛だった。
「ひとつ……」
 征子が数える中、今度はじゅうぶんに腕を引いて腰をひねって。
 ぶううん、ズバッヂイン!
「かはッ……」
 自分の意志で悲鳴を封じる苦しさを、和江は存分に味わった。猿轡が慈悲に思えてくる。
「ふたつ……」
 ぶううん、ズバッヂイン!
「かはッ……」
「みっつ」
 征子が五発まで数えたところで、若頭は狙いを腹へ下げた。
 ぶうん、バッチイン!
 乳房への痛撃に比べれば、中休みにも等しい鞭だった。風切音からして違う。手加減してくれたのか、ただ腕が疲れたのか――和江としては、前者だと思いたかった。
 ぶうん、バッチイン! バッチイン! バッチイン! バッチイン!
「ななつ、やっつ、ここのつ、とお。」
 右下がり左下がりと交互に立て続けに打たれて、和江の腹に赤いX字が刻まれた。
 手加減された鞭はだんだん下がっていき、太腿も線刻と腫れで埋められる。
 征子が三十を数えると、ようやく若頭は腕を下した。
「ふう。ウォームアップだけで腕が痺れてきたぜ。俺も歳だな」
 今日のところはやめておこう――などと言ってくれるのではないかと、和江は若頭の言葉を待った。しかし。
「いよいよ、本チャンといくか。ホンチャンと言ってもジュンチャンよりはきついぜ」
 麻雀なんか知らない和江には、若頭の駄洒落は分からない。しかし、意図は容易に察しがついた。まだ狙われていない部位が残っている……
「足を開きな」
 今度は後ろからではなく、真正面から股間を、オマンコを叩かれる。後ろからの『お釣り』みたいな叩き方じゃなくて……
 和江はドラム缶を見詰めながら、左足を三十センチほども動かした。
「もっと大きく開け」
 右足も三十センチ。腕を吊っている鎖がぴんと張って、和江はつま先立ちになった。割れ目がぱっくり開いたのが、自分でも分かった。
 若頭が、垂らしていた腕をそのまま後ろへ引いて。
 しゅんん、ビシイイッ!
 ベルトは蛇のように床すれすれを這って、和江の目の前で上へ跳ねた。
 開いた淫裂にベルトが食い込み、内側までこすりながら上へ走って、先端は鋭敏な肉芽まで打ち据えた。
「がら゙あ゙っ……!!」
 堪えかねて噴いた息が、そのまま断末魔の咆哮になった。反射的に和江は片脚を跳ね上げて股間を庇った。身体が宙に浮いて、全体重が手首と肩に掛かった。全身が振り子になって、大きく揺れる。
「さんじゅういち……今のは微妙だわね」
「ふうむ。セメントは勘弁してやる代わりにノーカンだな」
 安堵と絶望が同時に和江を襲った。それでも、両足を床に着けて開脚する。
 再び、若頭がベルトを真後ろへ引く。
 しゅんん、ビシイイッ!
「がっ……!!」
「さんじゅういち」
 股間から脳天へ突き抜ける激痛よりも、征子が駄目を出さなかった安堵が大きかった。
 しゅんん、ビシイイッ!
「くっ……!!」
 痛みに馴れたのか、痛覚が麻痺しかけているのか、吐く息も控えめになってきた。膝が震えたが、つま先は床に着いたままだった。
 そうして、三十五発まで進んだとき。
「ねえ、真っ赤に腫れてきたよ。ちょいと可哀想だね」
 同じ女性として庇ってくれるのかと、和江は感謝したのだが。
「そう言や、そうだな。おまえが手当てしてやれ」
 心得ているとばかりに、征子が大振りなハンドバッグから細長い缶を取り出した。
「これは、筋肉痛に良く効くからね」
 和江も知っている。電気製品の組立は何かと肩が凝る。若いくせに湿布絆のお世話になっている女工も少なくない。そんな彼女たちの間で流行っているのが、湿布の成分をスプレーにした商品だ。
 征子がスプレーを手に、和江の前にかがんだ。
「脚を開きなさいよ」
 手当てをしてもらえるという安心で、抵抗なく脚を開いた。
 シュウウッと噴き掛けられて清涼感があったのは一瞬。無数の針を突き刺されるような激痛に襲われた。
「痛ッ……」
 かろうじて悲鳴を呑み込んだ。
 鞭打たれるよりも厳しかった。鞭なら激痛の一瞬の爆発の後は、曲がりなりにも疼痛は薄れていく。しかしこれは……突き刺さった針が皮膚を内側からほじくり返すような痛みが、徐々に強くなっていく。しかも、冷たい痛みが熱く変じて、焼鏝を押し当てられているのかと錯覚するほどだった。焼鏝から逃れようとしても、逃れられない。
「…………!!」
 無意識に腰をくねらせて悶えてしまう。
「こりゃ、いいや。ちょいとした腰振ダンスだ。カセットでも持って来るんだったな」
 若頭がラッキーストライクをふかしながら、悦に入る。
 激痛よりも、若頭の言葉に――和江は涙をこぼした。ごつい革ベルトの鞭に毅然と耐えていた少女が、初めて見せた涙だった。
 若頭はたいして感銘を受けたふうもなく、悪ふざけに興じる。
「いっそ、おまえも珠代も雪も並べて、ラインダンスてのも面白いかな」
 若頭が挙げた二人は、三号と四号、あるいは前妻と現妻――秘写真のモデルでもある。すでに紹介しているが、征子は一号。彼女はモデル第一号でもあるが、二号の里見と同様、春を売ったりトルコ風呂で働いた経歴は無い。
「やなこった。あたしのほうが十近くも老けてんだからね。この子なんざ、倍半分だよ。それに、最近は若い娘をあんた流儀で可愛がってみたかったりしてるんだ。雪さんは、あんたを立てて遠慮してたけどね」
 恰好の玩具を手に入れてくれて感謝してるよ――とも、付け加えた。
 和江には、二人の掛合漫才を聞いている裕りなど無かったが。この場限りで赦してもらえるのではないと知れば、絶望のどん底を突き抜けた先は無間地獄と思い知ったことだろう。
「ふむ……シロシロ・エスエムか。それも面白いな」
「あたしの般若も、ちゃんと映しとくれよ。あんたみたいに隠したりはしないからね」
 若頭が苦笑して。いい加減に和江を片付けるぞ――と、若頭がベルトを握り直した。
「三十五発だったな。ようやく三分の一か」
 数字を聞かされて、和江は絶望を深める。これまでの二倍も叩かれたら……死ぬとまでは思わないけれど。肌に治らない傷が刻まれるのではないだろうか。
「嬢ちゃんよ。物は相談だが――俺からの仕置は、これで勘弁してやってもいいんだぜ?」
「…………」
 和江は若頭の目だけを見ている。もう、甘言に騙されたりはしない。股間への鞭を覚悟して、健気に両脚を開いて動かない。
 若頭が肌に触れるほど近寄って、ベルトを持っていないほうの手で股間をぽんぽんと叩いた。ついでといった感じで、中指を立てて深く穿った。
「…………」
 和江は唇を噛んだが、鰐革のベルトを打ち込まれる激痛に比べれば、わずかな隙間をこじ開けられる痛みなど取るに足りない。
「ここで詫びを入れるならな」
 とんでもない――と、反射的に思って。ふと迷った。全身傷だらけにされたって、お嫁に行けないことに変わりはない。どころか、寮の風呂にだって入れなくなる。それぐらいなら……
 しかし、若頭は迷うことさえ許さない。
「ヤスよ」
 若者も心得ていて、バケツにセメントを掬ってドラム缶の上にかざす。
「厭なら、ちゃんと言いな。黙ってちゃ承知と受け取るぜ?」
 まただわ……和江は捨鉢な気分で沈黙を続ける。父の命を救けるために、売春をさせられることまで覚悟していた。いや、これはケジメのための仕置であって、金銭の償いは別にさせられる。だったら、この男に処女を奪われたって、早いか遅いかの違いしかない。
「よし、承知だな。聞き分けの良い子だぜ」
 挿れたままにしていた指をぐりっと抉って、また和江に唇を噛ませた。
 和江の腕を吊っていた鎖が外され、手首の縄もほどかれた。
 和江はお義理に両手で胸と股間を隠したが、今さらという気分だった。鞭の痛みも疼くが、股間に噴き付けられたスプレーの熱い痛みが耐え難い。
「もう声を出していいぜ。泣こうが喚こうが――いや、良い声で鳴いてくれるなら、ボーナスを弾んでやるぜ」
「父を救けてください。ここから逃がしてください」
 父を気遣ってではない。父は世界中で四番目に、自分が凌辱されているところを見られたくない相手だった。もちろん、一番目は母親で、二番目と三番目は二人の弟だ。
「そうはいかねえな。おまえがきちんとケジメを付けて、それからの話だ」
 和江は食い下がらなかった。ヤクザを怒らせるのは怖いし――父のせいで、こんな酷い目に遭っているんだと見せつけたい気持ちも、まったく無いと言えば嘘になる。
 和江は立ち尽くしうなだれて、若頭が動くのを待った。
 しかし彼は壁際に下がって、そこに積まれている木箱に腰掛け、またラッキーストライクを咥えた。
 征子が、その横で服を脱ぎ始めた。八月にも見た豊満な裸身が、股間の般若面と共に現われる。豊満といっても、肥ってはいない。たわわとかグラマーと形容すべきだろう。
 全裸になった征子が、ハンドバッグから奇妙な物を取り出した。いや、ごくありふれた民芸品なのだが、この場にそぐわない印象だから、奇妙なのだった。大振りなこけし人形が二体と、竹を輪切にしたらしい小さな起き上り小法師がひとつ。
 征子はこけしの底を向かい合わせて、起き上がり小法師の胴に嵌め込んだ。ぴたりと合う。こけしを両側から反対方向へ捻じると、引っ張っても抜けなくなった。
「春の温泉旅行か」
「風紀紊乱の街だったわね。御当地名物『嫁姑和合こけし』ってんだから」
 形状と名称で察する男は多いだろうが、もちろん和江には見当もつかない。征子が片足を木箱に乗せて、こけしの頭部を股間に挿入するのを見て、ただ驚く。
「おいで」
 股間にこけし(というよりも、うなだれた巨根)を生やした征子が、和江手を引いて壁際へ連れて行く。まさか八月から置きっ放しでもないだろうが、ブルーシートが敷かれている。
「待ってください。若頭さんが私を……あの……抱いてくれるんじゃ……」
 面と向かって「私を犯す」という言い方をためらったばかりに、抱いて欲しいような物言いになってしまった。
「俺からの仕置はおしまいだって言ったぜ。征子は俺の名代みてえなもんだ。黙って嬲られてろ」
 戸惑っている和江を、征子はブルーシートの上に押し倒し、膝を立てさせて覆いかぶさった――が、すぐに諦めて。上体を起こすと、和江の太腿を両肩に担いだ。自分は腰を突き出してみるのだが、こけしの頭を淫裂に埋めるのが、やっと。
 ようやく和江は、征子がこけしをオマンコ(写真を売るようになってから、この言葉でしか考えられなくなっている)に挿入しようとしているのだと悟った。
「出来の悪いこけしだね。勝ちゃん、この子の片脚をそこのウインチェスターで吊り上げとくれよ」
「それをいうならウインチだぜ、アニー」
 この掛合は和江にも分かった。数年前の連続テレビ西部劇『アニーよ銃をとれ』のヒロインがライフル銃を得意としていた。けれど、大きなレバーをガチャガチャさせるウインチェスターを使っていたのは『ライフルマン』ではなかったかしら――だいじょうぶ、私は冷静だわ。こんな辱めに屈したりはしない。
 若頭が天井クレーンを操作して、和江を逆さ吊りにする。
 肩と頭は床に着いているが、吊られていないほうの脚は、自然とV字に開いてしまう。和江には、閉じようという気力は無い。
 征子が、和江を横向きに跨いだ。両足を掴んで、傾いているVを真っ直ぐに立てた。Vと逆Vとが交差して、逆Vから垂れたこけしの頭はVの交点に触れている。
「おやまあ、濡れてるじゃないのさ。まあ、マン汁か傷口のリンパ液か分かったもんじゃないけど」
 濡らしてあげなくて良さそうだね。どのみち、勝ちゃんは女の子が泣き喚くのが好きなんだから――と、和江を不安に落としておいて。こけしの頭を淫裂に埋め込んで、さらに腰を沈めていく。
 未通の間隙を大きな球体で押し拡げられる痛みを、和江は歯を食い縛って耐えた。良い声で泣けだの、泣き喚くのが好みだのと言われれば、意地でもそうすまいと反発する。
 しかし破瓜の痛みは、鞭とは違っていた。じわじわと痛みが強くなる。肛門に押し入られたときと似ている――のも道理だろう。未開の穴に棒を突っ込むことに変わりはないのだから。
 しかし、痛みの感覚は異なっていた。重たい圧迫感は生じず、口の両隅に指を引っ掛けてイーッと引き伸ばすような鋭い痛みが強くなっていって。
「痛いいいっ……!」
 びききっと、肉を引き裂かれる痛みに和江は悲鳴を上げた。しかしそれは、惨めな感慨の叫びとでもいう性質のものだった。
 淫裂に鞭を叩き込まれる激痛に比べたら、痛みと呼ぶのさえためらわれる。まったく不本意で、男に強されるよりも惨めな屈辱きわまりない破瓜。それでも、女にとって一生一度の痛みだった。
 征子が腰を上下させる。ささやかな痛みがうねくる。
「さすがに締まりがいいわね。ほとんど、あたしの中で動いてる」
 征子が、蕩けそうな声音で言う。
 和江は首を折り曲げられているので、目を開ければ結合部を直視してしまう。真っ赤に腫れて赤黒い鞭痕に埋め尽くされた下腹部。そして、鞭と破瓜による出血で肌にへばりついている薄い淫毛。その向こうで、起き上がり小法師は小躍りしているだけで、征子のほうはこけしが半ば以上も出挿りしている。
「でも、こんなんじゃ物足りないよ」
 腰をくねらせ、円を描いたり前後に揺すったり。和江は、ただ痛みに耐えるだけだった。
 延々と、それが二十分ほども続いて。
「いい加減にしろ。まだ肝心の話が済んでいねえんだ」
 征子が、しぶしぶと腰を伸ばして――こけしは和江の中に残ったままだった。
 鎖が緩められて、和江の身体がブルーシートの上に投げ出される。
「ケジメの仕置は、これで赦してやる」
「ありがとうございます……これで、父は……」
 救けてもらえるんですねと言いかけた和江を、若頭が無常に遮る。
「山崎。おまは、猥褻物頒布の罪を一身にひっかぶって、警察に自首しろ。写真の撮影も販売も、全部おまえひとりがしたことだ」
 突然のことに、昭大はもちろん和江もぽかんとしている。
「和江の写真がな、ちとヤバ過ぎた。演出じゃなくて実際の暴行じゃないかとか、見た年齢の問題とかな」
 すべて疑いの通りだ。
「てめえが全部仕組んだってことにすりゃ、生田組にはお咎めなしだ」
「父は、どうなるんですか?」
「刑務所行きだな。主犯だから懲役一年半で何十万円かの罰金が相場だ」
「そんな……」
「罪三等を減じて地獄行きは勘弁してやったんだ。ムショ行きくらいは諦めな」
 一年半……もう三年も待たされたのだから、その半分なら。そう思ったのは和江だけでなく昭大も同じだったかもしれない。そこへ、若頭が追い討ちをかける。
「罰金が払えなければ強制執行てやつだ。田地田畑お召し上げか。お上はそれで許してくれるだろうが、世間様はそうもいかない」
「…………?」
「たしか、男の子が二人いたよな。どっちかは就職するんだろうが……前科者の父親がいる奴を採ってくれる会社があるかな」
「私たちに死ねって言うんですか?!」
 和江は叫んだ。悲鳴だった。
「違えよ。俺と結婚しろつってんだよ」
「え……?」
「さっき言った量刑は、国選弁護人が型通りにやらかしたときの話だ。腕っこきの弁護士が付けば、執行猶予に持ち込める。そうすりゃ、弟が卒業するまでに親父は天下晴れて潔白の身。農協からの融資だって通るぜ」
 話が飛躍し過ぎて、和江はついていけない。
「赤の他人のことなど知ったこっちゃねえが、仮にも岳父となりゃあ大切な身内だ。生田組の顧問弁護士――じゃあ、都合が悪いか。とにかく、腕っこきの弁護士を金の草鞋で誂えてやろうじゃねえか」
「どうして……?」
 そこまで自分に執着するのか――は、なんとなく分かった。若頭も和江の態度から、それを読み取ったようだ。
「ヤクザだからといって、何でもかんでも横紙を破ったりはしねえのよ。通せる筋があるなら、通すぜ。おまえなら六マンコの筋の九マンコだ」
 まさか国士無双は無えしな――と、和江には意味不明なことを呟いてから。
「おまえが法律上は二十歳以上の成人と見做されるなら、トルコ風呂は正々堂々と勤められる。立ちんぼだろうとヌードモデルだろうと、警察の目の開き方も違ってくる。お目こぼしってやつだ。オメコ干しか、助平な言葉だな――おい」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
 外野席まで球が飛んで来て、征子が打ち返す。
「さっさと話しを決めちまいな。でも、そうすると雪さんを組員にゃ何て呼ばせるのさ。大姐御、姐御とくれば、姉貴かしら。それとも最初から大姉貴にしとくかい」
「おまえこそ、馬鹿言ってるんじゃねえぞ」
 若頭が苦笑して、和江に問い掛ける。
「それでいいな?」
 和江は、さして迷わなかった。どうせ、お嫁にいけない穢れた身体にされてしまった。自分が犠牲になって父も弟も救えるのなら、それでいい。それに……私を穢れた身体にした張本人に責任を取ってもらうのが筋かもしれない。
「黙ってるってこたあ、承知だな」
 また、その遣り口なの――と、和江は反発した。ので、どうせなら自分から飛び下りてやれと、運命を決定づける言葉を口にしていた。
「私を若頭さんのお嫁さんにしてください」
「若頭は無えぜ。勝造様とか旦那様とか……」
「呼び捨てでじゅうぶんさ。だけど『勝ちゃん』だけは、あたしの専売特許だからね」
「じゃかあしい。このバケベソが」
 照れ隠しでもなかろうが、若頭がドラム缶に近寄って、ガツンと蹴って。
「お義父さん、娘さんとの結婚を許してくださいますね」
「…………」
「お許しいただき、ありがとうございます――言っとくが、組で顔が利くようになったとか、勘違いするんじゃねえぞ」
 きっちり威しておくことも忘れない若頭だった。
 ――昭大はドラム缶から出されて、倉庫の外でセメントも洗い流され、父娘揃って衣服も許されて。
 木箱の上に三通の書類が並べられた。婚姻届と昭大の承諾書と、離婚届。和江が用済みになればすぐに離婚して、次の嫁――六号を迎える下準備だった。
 昭大は弱々しい筆跡で、和江はボールペンが紙を突き破る勢いで、それぞれの書類に署名をしたのだった。
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昭和ほのぼの



 あとは2章ありますが7千文字です。それは、次回で。

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