Progress Report(third) 7:昭和集団羞辱史/物売編(夜)

 前半の「ありきたりなセックス」「ありきたりなレズ」「ありきたりな売春」を過ぎて、いよいよ!
 濠門長恭御得意怒涛的拉致監禁緊縛鞭打拷問三穴姦に突入しましたが、割と尺が短くなりそうな予感。さて、どうなりますことやら。

 今回ご紹介するのは
 不安な前途→ほころぶ蕾→マンコ椿は→
 「マンコ椿は」の章です。


==============================

 華代のコーチ役についてくれたのは、フタバという自称二十三歳のきつい印象の女性だった。ブラウスにチョッキは多恵と同じ取り合わせだが、おままごとみたいな小さいエプロンを着けている。
「あ、そうそう。忘れるところだった」
 華代はピンク色のスカーフを手渡された。フタバとお揃いだった。そういえば、昨日の四人も同じスカーフを着けていたなと、思い出す。
「二年ばかり前までは、ほんとうに花束しか売らない小さな子もいたんでね。そのスカーフが、一輪挿しも売るって目印なのさ」
 華代はフタバを真似て、スカーフを首に巻いた。
 フタバが足を向けたのは、当然だが、数軒のバーが固まっている一画。
「ああ、あれあれ」
 フタバが薄青色の小さな看板を指差した。筆記体で、英語ではなさそうな文字が、赤青黄緑紺色で書かれている。看板の隅に、スカーフと同じ色のハンカチがピン留めされていた。
「いくつかの店は、花を買いたいって客を取り持ってくれてるんだ。あのハンカチは、客が待ってるって意味だよ」
 フタバが、そろりとドアを開け、華代の手を引いて店に滑り込む。
 店内に客は三人。脚の高いカクテルグラスを前に中年男と若い女のアベックと。カウンターの隅で寸胴形のグラスを嘗めている三十歳くらいの男。
 その男が、二人を振り返った。
「おや……ずいぶんと若いね。新人さんかな?」
 フタバに脇を小突かれて、華代は一歩前に出て頭を下げた。
「ツボミといいます。今日からお仕事を始めました」
 フタバに仕込まれた通りの挨拶をした。初物を喜ぶ客は多いという。
「ふうん……ところで、この店の名前の意味は分かってるかな。おっと、フタバちゃんは黙ってろよ」
 意味も何も。どう読むのかさえ分からない。華代は正直に答えた。
「ラルカンシェル。フランス語で『空の弓』。つまり虹だな」
 へええ、物知りなんですね――と、適当に持ち上げておく。男はこういうくすぐりに弱いとは、去年の夏から秋にかけて覚えた女の浅知恵だった。が、この男には通用しない。
「それじゃ、君たちの店の名前『椿姫』の由来は、さすがに知ってるだろうね」
 昨夜にあれこれ多恵と話した中で、聞いた覚えはあった。
「ええと……オペラ『カルメン』のヒロインですよね。たしか、ヒロインはパルチザンでしたよね?」
 男は爆笑して、アベックを振り向かせた。アベックは花売娘の姿を目にとめると、軽蔑したように顔をそむけた。
「カルメンと椿姫は別のオペラだよ。椿姫の名前はヴィオレッタだ。パルチザンじゃなくてクルチザンヌ――高級娼婦の謂だな」
「はあ……」
 教養をひけらかして、相手の無知を嗤う。いけ好かない男だと思った。向こうも、華代には食指を動かさなかった。
「フタバちゃん。今夜もショートでお願いしよう」
「出来たらツボミの相手をしてやってほしいんだけど。そしたら、次はショートの値段でロングを付き合ってあげるんだけどな」
 ツボミの面倒を見てやってくれと多恵に頼まれているだけに、フタバは粘ってくれている。しかし、男の返事は辛辣さを増しただけだった。
「勘弁してくれよ。まだ尻の青痣が残っているような子は、ストライクゾーンを大外れのワンバンも良いところだ」
 年齢が低すぎるという意味だった。
「藤原さんなら、そういうだろうね。しゃあない。三十分ばかり待っててよ。この子にお客を見繕ってやってから、また来る」
「三十分だけだぞ。こちとら、明日も仕事なんでな」
 この店は早々に退散して。ピンクのハンカチは出ていなかったが、『グラスランド』、『トリリアム』、『てんとう虫』と三軒をまわって。いわば釣針に寄ってきた男は二人。どちらも、フタバなら買っても良い(ひとりは千円に値切ってきた)が、小便臭い小娘には用が無いと、けんもほろろ。そこで、時間切れ。
「公園に行ってごらん。ひと巡りして売れなかった子が、一人くらいは居ると思うよ。あ、立チンボのグループには近寄るんじゃないよ」
 いちおうの面倒は見るが、ケツまでは持ってやらない。こっちだって稼がなきゃ干上がっちまうよと、ひとりで『ラルカンシェル』のドアの向こうへ消えた。
 見放された――と、華代は思った。三人立て続けに剣突を食わされて。身体を張って生きていこうという意気込みは、ぺしゃんこになってしまった。
 他に動きようもないので、とぼとぼと公園へ向かった。すっかり夜になっているせいだろう。常夜灯の無い公園は闇の中に沈んで、昨日見かけた立チンボたちの姿も見えない。
 目を凝らすと、ぽつんと小さな赤い光が見えた。煙草だろう。明りに引き寄せられる蛾のように、そちらへ行って見た。
「よう。ツボミだっけな。稼げたかい?」
 がさつに声を掛けてきたのは華代の次に若いスズだった。あまり機嫌の良さそうな声ではないのだが――その理由は、華代とは正反対らしかった。
「たった三十分で、突っ込んで射精(だ)して、はいサヨナラだぜ。三合目どころか、登山口で置いてけぼりだい」
「…………」
 華代は、なんと応じて良いかわからない。
 が、スズは華代の沈黙から事情を察したらしい。
「まだ宵の口だぜ。まだまだ、これからさ。おれだって、お茶を引く日もあらあ」
 慰めになっているとも言い難い。しかし、フタバよりも後輩の面倒見は良いようだ。
「おれが客を見繕ってやるよ。さっき、青野を見かけたんだ。ちぃっと変態がかってて、おれは苦手だが、おめえには向いてると思うぜ」
 変態の定義が分からなかった。たとえば少学生なら、スカートをまくる男の子はじゅうぶんにヘンタイだ。大人なら、女の服を脱がせてセックスをするのも正常な行為だ。
 ともかく。スズの言葉に悪意は感じられなかった。
「よろしくお願いします」
 当然の礼儀として華代は頭を下げたのだが、スズが一瞬きょとんとしたところを見ると、先輩後輩の間柄としても、慇懃に過ぎたのかもしれなかった。
「それじゃ行くぜ。据え膳は急げって言うからな」
 スズが先に立って公園を出かけて。公衆電話ボックスの前で足を止めた。
「たいていは『ネオシアター』でかぶりついてるはずだが、空振っちゃやだかんな。ちょいと確かめらあ。電話急げってな」
 ボックスへ入って、扉は開けたまま、ダイヤルを回す。
「もしもし。『椿姫』のスズです。青野さんがいたら、取り次いでほしいんですけど」
 しばらくして、青野という男が電話口に出たらしい。
「うちに新人が来たんだけど。なんと、新卒の子なんだ」
「もちろんさ。上の学校へ行けるようなお嬢様が、うちになんか来るはずがないだろ」
「いや、だいぶん使い込んじゃいるみたいだ。そのせいで、まともな就職先を無くしたそうだぜ」
「バカ言ってらあ。うちは花屋だぜ。水揚げに追加料金なんか取るもんかよ」
「そんじゃ、すぐ連れてくから」
「ああ? 『シャトー・ブリテン』前で待ち合わせ? 急いては事を仕損じるぜ」
 ガチャン。
「さ、行こ。青野ってのは、名は体を表わすってやつで、青い果実が大好物なんだ。胸はぺたんこ、マンコはつるつる――おめえでも薹(とう)が立ってるとか言い兼ねない手合いだかんな。オニイチャンヤサシクシテネとか、ソンナノコワイヨとか言ってやれば花束だって買ってくれるかもな」
 この当時、ロリコンという概念は広く浸透していなかった。なので、スズの言葉を華代は奇異に感じただけだった。
 ――青野という男は、三十手前くらいだろうか。背広は着ているがノーネクタイ。襟にバッジを着けている。
 まさかと思って目を凝らすと、丸い枠の中に三本脚の鴉。
 華代は慌てて最敬礼した。
「あ……お母さんが、いつもお世話になっています」
 お母さんというのは、宇佐美多恵のことである。実は年上のフジコも含めて、売子はそういうふうに呼んでいる。遊郭から引き継がれた伝統――とは、華代は知らないのだが。
 その多恵は鴉丸組組長の何号目だか何代目だかの愛人として、それなりの庇護を受けている。だから、バッジを見かけたら相応の礼儀を尽くすように、言われていたのだ。組長の子分と愛人の配下とでは、子分のほうが格上だと華代は思う。スズの態度は良くないのではないだろうか。
「おいおい。そういうのは無しにしてくれよ」
 青野が両手を前に突き出して、ひらひらと振った。
「縄張(シマリ)内を歩くのにバッジは外せねえが、こちとら使い走りもいいとこ。そっちはそっちで、そういう娼売じゃねえか。今日んところは、スケベなお兄さんとエッチが大好きなお嬢ちゃん――ということで、入ろうか」
 青野は、戸惑っている華代の手をつかんで『シャトー・ブリテン』へ引き入れた。
「稼いどいでよ」
 それが、花売娘同士の挨拶だった。
 青野は慣れた様子でフロントから部屋番号を教わって。
「何も怖いことはないからね。お兄さんについといで」
 小さな子供に言い聞かせる態で、部屋へ引き込んだ。
 急転直下の展開に、華代は立ちすくんでいる。
「初めてってのはほんとらしいな。それじゃ教えといてやるけど、何はともあれ頂くものは頂いとけよ。男ってのは、終わったら急に吝(しわ)くなったりするからな」
 青野は財布から千円札を二枚抜き出して、華代の花籠へ入れた。
「釣りは要らねえよ。あとで、花束をひとつもらおうか」
「……あ、はい。ありがとうございます」
 チップ、あるいは心付だと、華代は解釈した。
「そんじゃ、ま……お洋服を脱ぎましょうねえ」
 急に猫撫で声になって、青野は華代のチョッキを頭から引き抜いた。
 幻児言葉で甘えていれば喜ぶというスズの言葉を思い出して。まさか、そこまではしなかったが。出来るだけ身体の力を抜いて、男に身を任せる華代だった。
 男の手で裸にされることにも、すっかり慣れている。とはいえ、いっしょに風呂へ入って身体を(マンマンまで)洗ってもらったのには、羞恥と申し訳なさとが入り乱れた。郷里で華代の身体を貪った男どもは、棒を穴に突っ込むことにしか興味が無かったのだ。
 華代は性的ないちゃつきに関しては、ほとんど免疫が無かったといえる。しかし、男の好き勝手にさせるという習い覚えた習慣と、どう反応して良いか分からない戸惑いとが、期せずして青野を喜ばせたようだった。
「身体を拭いてあげるね」
 腕や脚はざっとひと拭き。胸もほとんど素通りで。股間は拭っただけでなく、前から後ろへ手拭を通してしごく。
「いやっ……」
 さすがに華代は拒んだが。
「ああ、ごめんごめん。すぐ済むからね」
 多恵も先輩たちも、客のすることに異を唱えてもよいとは華代に教えていなかった。男性経験はそれなりにあっても通り一遍のセックスしか知らない華代の『嫌』の範囲は広すぎるのではないかと懸念してのことだったかもしれない。事実、青野は割れ目に手拭を食い込ませて絞り上げるような乱暴はしなかった。
「それじゃ、ベッドで遊ぼうね」
 裸のまま青野に抱えられてベッドへ運ばれて。いったいに、この人の頭の中では自分は何歳に見られているのだろうかと、幾分は薄気味も悪かった。そして。身体のあちこちを撫で撫でされたりこちょこちょされたり――は、男の乱暴な玩弄に慣らされた華代には、くすぐったいだけで、幾分かの痛みに耐えることによって男に支配されているという実感を味わうことも出来なかった。
 けれど、そのくすぐったさを無言で耐える風情も、青野にとっては堪らなかったのだろう。
 しばらく華代の(青野の妄想の中では)幼い身体を弄くり回してから。
「ちょっとタンマしてね」
 華代の花籠を探って衛生サックを取り出した。
「こんなのを持ち歩くなんて、エッチな子だね」
 手際良く装着するついでに。
「お兄さんは大丈夫だけど、変な病気を持ってる小父さんも居るからね。ゴムは忘れちゃ駄目だよ」
 小さな子供に言い聞かせる口調で娼婦の心得を教えてくれるアンバランスに可笑しさを禁じ得ないが、はっとさせられた。妊娠の心配はしても、性病は考えたこともなかったのだ。
 意外とまともな人なのかもしれない――と見直しかけたのだが。次の台詞でぶち壊しになった。
「それじゃ、マンマンに太いお注射をするからね。ツボミちゃんはお注射が好きなんだってね」
 そんなことを耳元にささやきながら、ごく平凡な形で青野は華代を貫いた。しかし、お注射のように、ピストンのひと押しで終わらなかったのは当然だった。そして、ヤクザが堅気よりも女の扱いに慣れているのは、この男も例外ではなかった。
 性急に挿入はしたものの。そこからは華代を幻女扱いにするのはやめて、じっくりと性感を追い上げていった。ことに、上体を反らして下腹部を淫阜に押し付け淫毛を意図的にこすりつけて、華代に昨夜の凄まじい快感の残影を呼び覚まさせたのだった。残影に過ぎなかったが、それは華代が男との交わりで初めて得た純粋に肉態的な快感だった。
 事が終わっても余韻で起き上がれないほどではなかったが。セックスというのは、女にとっても気持ちの良いものなんだなと認識を改めさせるにはじゅうぶんだった。
 青野に腰を抱かれて、華代も自然と覚えた仕種で青野の腕に身体を密着させて連れ込みホテルを出て。
「やっぱり三歳の差は大きいな。スズとはダンチに良かったぜ。お茶を引きそうになったら、俺に声を掛けな。あのストリップ小屋か、組の事務所か、どっちにも居なきゃ公園で待ってな。地回りで八時と十一時にゃ顔を出すからよ」
 さすがに、スズは待っていてくれなかった。公園へ引き返してみたが、もう誰も居なかった。独りで客引き――ではなく、花売りをして良いものか迷ったので『椿姫』へ引き上げた。
 初日の売上はショート一発と花束ひとつで、千七百円。華代の取り分は千百円。青野に渡さなかった釣り銭の三百円は、華代がもらったチップということになった。〆て千四百円。他の売子に比べれば少ないが、生まれて初めて文字通り自分の身体で稼いだ大金だった。

 しかし、それは青野という少女性愛者あっての成果だった。翌日からは、いよいよ独り立ちしたのだが――結果は惨憺たるものだった。二日目も三日目も坊主。こちらの言葉で言えばお茶を引いた。
 まだ半人前なのだから半額とは言わないが、千円にまけろという客は何人かいたが。絶対に安売りはするなと、多恵からきつく言われている。ツボミは千円でやらせたのだから、おまえも千円にしろ――そういう手合いが必ず現われて、値崩れする。そうなると、立チンボの相場は千円なのだが、そちらも八百円とか七百円になって。二つのグループがいがみ合って共倒れする。立チンボは二割五分を上納することで鴉丸組に護ってもらっているのだから、組も収入が減って、三方一両損。最後のツケは多恵に回ってくる。
 四日目もお茶を引いて。華代は深刻に考え込んだ。若さは性的な未熟を意味して、それが致命的なのだが、自身の性格にも問題があるとは気づいていた。スズのような伝法肌ではないし、ユリのようにセックスが大好きというわけでもない。もちろん、舌先三寸のセールスマンみたいな話術も持ち合わせていない。そもそもが、これまでは男にされるのを受け容れてきたわけで、男を誘うなんて、したことがなかった。
 青野に買ってもらうのは、いろんな意味で避けたかった。第一に、(ベッドの上は別として)未性熟とはいえ子供も産める身体の女を幻女扱いにされる気色の悪さ。第二に、顧客が一人では絶対に長続きしない。見ず知らずの男を咥え込めるようにならなければ駄目だ。そして、多恵が世話になっている人物の子分に頼るのは、米櫃に手を突っ込むより面目が立たない。

 とにかく。お金を稼げなければ生きていけない。衣食住のうち、さしあたっては食だった。世間的には昼の時刻にずれ込んだ朝食は家で作るし、仕事を終えて深夜の軽食は、華代は朝の残り物で賄うし多恵は酒でカロリーを摂っている。しかし、夕方には外食をするのが多恵の日常だった。付き合いの良し悪しを別としても、華代も何か食べなければ身体がもたない。家の食材を消費することには何も言わない多恵も、さすがに奢ってはくれない。財布の中の残金をメニューの値段で割って、あと何食分と溜息をついてしまう。暗算は苦手だが、五百円を百二十円で割って、答えが四になろうと三になろうと、逼迫している事実は動かない。
 あと三日で文無しになると、焦燥に駆られながら、多恵の後について今日はちょっと遠くの蕎麦屋まで足を伸ばしているとき。スキップで駆けている女児とすれ違った。彼女はスカートの裾を持ち上げて、そこに両手では持ちきれないほどのお菓子を載せていた。
 スキップする気持ちも分かる、微笑ましい光景。ほとんど丸見えになっているパンツに、青野さんだったら欲情するだろうなと思った刹那――思い切り破廉恥なアイデアが頭に浮かんだ。
「お母さん。あたし、用を思い出しました。すみませんけど、お店へ戻ります」
 店へ駆け戻って。スカートに花束を盛ってみた。巻き込んでいたウエストを戻しても、うんと裾を持ち上げて前へ引っ張らなければこぼれてしまう。太腿は丸見え。姿見に移して確かめると、パンティはぎりぎり見えていないのだが。
 そうだ、どうせならと思い付いて、スカートはいったん脱いで、姿見に向かいながら太腿に口紅で文字を書いた。
ショート 千五百円
ロング 三千五百円
宿代   別途
 わざと鼠蹊部の高さに書いたので、花束をこぼさないくらいだと文字は隠れている。奇異な格好だが、夜の盛り場を歩くくらいは構わない(だろうかという疑念は押し隠す)。そして、客の前で値段を見せるときには――パンティが見えるまで裾を引っ張り上げなければならない。見知らぬ男性の前でパンティまで露出するなんて――考えるだけで、頬が火照った。けれど、花束だけでなくあたしを買ってくださいなんて口にするよりは羞ずかしくない(だろう)。
 身体を売ること自体が、一世一代の大決心大冒険だったけれど、こっちのほうがずっと度胸が要る。太腿の文字(とパンティ)を男の人に見せている自分の姿を想像すると、じんわりと股間が濡れてきた。男に抱かれたときのことを思い返すと、生々しい感覚まで甦るのだが、こっちにはそれがない。頭で考えたことがそのまま女性器に伝わって、妄想が膨らむのだった。
 さっきまで感じていた空腹なんか、消し飛んでしまった。
 高揚と羞恥とが入り混じったまま、一時間ほどが過ぎて。多恵が食事を済ませて戻って来て、華代も手伝って新しく花束を作っているうちに、売子が出勤してきた。
 最初はユリ。何人かで連れ立って営業に出かけたいからと、多恵と雑談をしているうちにスズとサツキ。さっき喫茶店でカエデを見かけたからと待つうちに彼女も現われた。
 皆が花籠に花束を盛る。花束は昨日の売れ残りを先に取って、足りない分は今しがた作ったのを使う。
「ツボミちゃんは支度しないの?」
 サツキに声を掛けられて、こんなところで羞ずかしがってたら営業なんか出来ない。それに、こんな売り方をして良いものか、まだ多恵の許しをもらっていない。
 華代は片手でスカートを持ち上げて、花束が五つでは多すぎるので三つだけをスカートに包んだ。
「これで売ろうと思うんですけど、かまいませんか?」
 多恵が返事をする前に、スズがけらけら笑った。
「まったく……若い子の考えることは理解できないわね」
 カエデが歎息したが、彼女は華代と四つしか違わない。
「あの……それでですね」
 言葉で説明するのは羞ずかしくて、華代はさらに裾を持ち上げた。
「まっ……?」
「おいおい……」
 サツキにいたっては、呆れたように。
「立チンボだって、そこまで露骨な真似はしないね」
 立チンボはショートが千円。花売娘は千五百円。それだけプライドが高い。
「あの……駄目でしょうか?」
 笑われてけなされて、華代は意気消沈。
「いや、そうでもないわね」
 多恵がそう言ってくれたので、気を取り直した。
「でも、中途半端ね」
 多恵は鋏で薔薇の花を一輪、短く切り取った。刃で棘をこそげてから、包装の下拵えに使う新聞紙を茎に巻き付けて、紐で固く縛った。
 何をするつもりかと一同が見守る中、華代のパンティをずり下げた。
「あっ……」
 スカートから手を放せば花束がこぼれるので、華代は動けない。
 多恵は薔薇の花を逆手に持って、華代の股間に挿入した。
「あの……?」
「どうせなら、これくらいはやりなさいよ」
 極限まで羞恥が高まって、ごわごわした異物感で不本意な性感を刺激されて――気が遠くなりそうだった。
「パンティは脱いでしまいなさい」
 華代が抗議しかけると、多恵は膝上でたくれているパンティを指さした。
「色が変わるほど濡れているでしょ。みっともない」
 指摘されてみると。股間が熱く火照って、じゅくじゅくと蜜が滲み出る感覚もあった。ベッドの上で男に直視されても、ここまでにはならない。
 それはともかく(ではないけれど)。見知らぬ男性に、薔薇の花で隠しているとはいえ、股間を晒す勇気が自分にはあるだろうか――そっちを考えた。でも、お母さんはこれでやれと言う。やらなければ、お客を取れなければ……文無しになってしまう。あたしには、帰れる故郷なんて無いんだ。
「それ、間違ってるぞ」
 スズが口をはさんだ。否定ではなく、いたずらっぽい響きだった。
 スズは、店内の飾り付けに使っている椿の造花を引き抜いて、針金の茎を幾重にも曲げて短くしてから、多恵が薔薇の花にしたと同じ細工をした。
「やりにくいから、もっと股を開けよ」
 華代の前にしゃがみ込んで薔薇を引き抜くと、造花を突っ込んだ。花の大きさは、むしろ薔薇よりも大きい。
「こうじゃなきゃ、おかしいだろ。店の名前が『椿姫』なんだから」
 立ち上がって。造花なんて安っぽいと言いたげな面々の顔を見回して、にやりとした。
「ほら、マンコ椿は恋の花っていうじゃねえかよ」
 どっと笑いが起こった。昨年の新人大賞を取った少女歌手のデビュー曲をもじったと、誰でも分かる。
 華代さえも笑ってしまって。すっと、肩と股間の力が抜けた。やってみよう。改めて決心した。

 華代の首尾は如何にと、五人がひと塊というか四人で華代を押し立てるようにして。ピンクのハンカチを看板に貼っている二軒のうちの『トリリアム』に、さすがに五人は迷惑だろうと、華代に続いて発案者のスズと最年長のユリとが店内に入った。
 マスターと四人の客がいっせいに振り返って――視線は華代に、正確には華代の露わな太腿に集中した。
「これは、粋な花籠だね」
 これくらいのことに驚いたり目くじらを立てていてはバーのマスターなど務まらないのだが。華代がさらに裾を持ち上げると、目を丸くした。
「たはははは。こりゃ参ったな。上も下も売物ってか。もっと近くに来て良く見せてくれよ」
 そう言って手招きしたのは、昨日だったか一昨日だったか、千円に値切ってきた男だった。
「へえ、造花か。こっちは花じゃなくて花瓶のほうが売物ってわけか」
 スツールに座ったまま腰を屈めて、椿の造花に触る――ふりをして、その奥をまさぐってきた。
 反射的に華代が後ずさる。
「おっと。買わないのに触るのはお断わりだぜ」
 スズが助けてくれた。
「もちろん買うともよ。花束は三つか。じゃあ、花瓶と込みで二千円にまけろや」
 どこまでも値切るのが好きな男だ。
 値引きは厳禁されていると、華代が迷っていると。ぽんと、スズが肩を叩いた。
「買い切りとは豪勢じゃねえか。良かったな、ツボミ」
 そうか。花束はチップみたいなものだから問題はないんだと、華代も納得した。
 指定の和風旅館『桃谷荘』へ、しけ込むというか咥え込むというか。
 チップもくれたんだから、たっぷりサービスしなくちゃ。という思いが半分と。多恵との戯れで味わった快感の半分くらいは、本番のセックスでも与えてもらおうと頑張ったのだけれど。ユリのようにあれこれ注文をつける度胸も無く。
「くそお。きつい……良過ぎるぞ」
 挿入から射精まで十分そこそこ。サネをじゅうぶんに刺激もしてもらえず、登山にたとるなら三合目あたりで終わってしまった。
 お客を相手に快感を求めるのは間違っているのかもしれない。また折を見て、多恵さんにかまってもらいたいな。そんな不満は残ったけれど、娼売としては上首尾だった。
 名目のほうの売物が無くなったので『花椿』へ引き返して。ついでに、売上は自分の取り分も預かってもらった。
「良かったじゃないか。この時刻なら、あと二回転や三回転はいけるよ。稼いどいで」
 多恵にも褒められて、ここ数日の鬱屈が吹き飛んだ。二回転だろうと三回転だろうと、サセ子だった頃に比べれば余裕だった。そうだ、同時に二人の客を相手にしてはいけないのか、今度聞いておこう――セックスをしながら、もう一人にフェラチオをするという、いわゆる3Pも華代は経験済みだった。
 ――結局、それから二人の客を取って、その夜は終わった。最初の男が言った『花瓶』の代金が四千五百円と、花束は六つ売れて一つは値引きしたから千百円。華代の取り分は三千五百円にもなった。多恵から借りていた化粧品セットの代金を返しても、まだ普通の仕事の日当分くらいは手元に残った。
 この調子で稼げれば、服もハンドバッグも新調できるな――と、いっちょまえの女めいて物欲を膨らませる華代だった。

==============================

花売娘

 なんとなく、尺を稼いでる感が(自分では)あります。でもって、肝心のプレイはR12レベルで Flow with dish(サラと流す)です。
 そういうふうに書きたかったのだから、仕方ありません。小説作法とか御中(御大には及ばない)の指南とかに従って改変すると、Ant has come(アリ来たり)なMosquitoes cry, shark cry tooの作品になります。
関連記事

テーマ : 18禁・官能小説
ジャンル : アダルト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

濠門長恭

Author:濠門長恭
S70%+M80%=150%
高々度の変態非行が可能です!

鬼畜と変態と物好きと暇人の合計 (2018.01.01~)
検索フォーム
コメント投稿の仕方
複数記事を表示したデフォルトの状態ではコメントを投稿できません。 投稿したい記事のタイトルをクリックして個別表示させると最下段に投稿欄が表示されます。
濠門長恭作品販売サイト
リンク L I N K りんく
カテゴリ
最新記事
最新コメント
濠門長恭への連絡はこちらへ

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
QRコード
QR