Progress Report 6:生贄王女と簒奪侍女
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ちまちまと書き進めています。
勤務中の休憩とか手隙のときのほうが破瓜が逝ったりします。フリーセルも紙飛行機も無いですから。
ともかくも。『拷虐の四:浄化儀式』を尻切れトンボで終わらせて。『拷虐の五:重鎖押送』に取り掛かりましょうか。
ということで、Part4(2万8千文字)を一挙公開。たぶん、後で手を入れるでしょう。
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拷虐の四:浄化儀式
拷問小屋に入ってきたのは、見知らぬ三人の男たちだった。ひとりは役人らしい、こざっぱりした服装。あとのふたりは、素肌に布の胴着と継当てだらけの半袴。中流以下の家庭に雇われている使用人か、もっと若ければ徒弟といったところだが、場所柄を考えれば拷問吏だろう。
ひとりの囚人が引き出されて、鎖で宙吊りにされた。ゼメキンスがアクメリンに施すような、残酷だが趣向に富んだ吊り方ではない。
「ゴケットよ。おまえが押入りの犯人だというのは、目撃証人もおるから、動かぬところだ。仲間の名を言え。そうすれば、重追放で済むように弁護してやる。おまえひとりで罪をかぶるつもりなら、斬首は免れないぞ」
役人の説得に、ゴケットと呼ばれた男は沈黙で答える。
「そうか。まずは鞭打ちからだ」
役人は拷問小屋の隅に置かれた小机に座って。拷問吏のひとりが、鞭を握ってゴケットの背後に立った。
その鞭を見て、アクメリンは囚人に同情した。マライボでゼメキンスがアクメリンに使った鞭と、形も長さも似ている。だが、鞭の先から半分には短い針が編み込まれていた。苦痛も大きいに決まっているが、あんな凶器で叩かれたら肌が裂けてしまう。
ぶゅんん、バヂイン!
「ぎゃああっ……!」
男だけあって、腹の底から揺すぶられるような野太い悲鳴。
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
たった四発で、ゴケットの背中は切り刻まれて、切り裂かれた肌がべろんと垂れた。
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
次の二発で、それが千切れ飛んだ。
「待ってくれ!」
ゴケットが、早々に音を上げた。
「なあ……おれが重追放なら、相棒も首を斬られたりはしねえよな?」
「弁護はしてやるが、約束はできんぞ。御裁きは市長殿がなさるんだからな」
「…………」
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
「やめてくれ! 言うよ、言うから!」
ゴケットはあっさりと降参して、共に押し入った男と、外で見張りをしていた女の名前を挙げた。それで、彼の取調は終わり。血だらけの背中をそのままで服を着せられ、別の小役人の手で外へ引き出された。裁判は仲間と揃って受けるはずだから、拷問設備のない獄舎へ移されるのだろう。
小休止を挟んで、次に引き出されたのはロシヒトという、面構えからして堅気ではない中年の男だった。酒の上の諍いで隣人を殺して、それは男も認めている。殺そうとして危害を加えたのか、喧嘩が過ぎて殺してしまったのか。故意の有無が問われていた。男にしてみれば、死刑か重追放かの岐路である。
ロシヒトは先のゴケットと同じ鞭打ち切裂きの拷問に掛けられて――三十発を超えたところで息絶えた。失血による死ではなく、心臓が破裂したのかもしれない。遺骸は服を着せられて運び出された。それからどう処理されるのかは、アクメリンには分からないし、知りたくもなかった。
拷問で殺してしまったのだから、後の処理もいろいろある。役人は小机の上で何枚かの書類を認め、その間、二人の拷問吏は、若い娘の裸体をじっくり見物する役得に与った。
最後に、ヒューゴという青年への拷問が始まる。姉の亭主の家に放火した嫌疑が掛けられているが、先の二人と違って目撃者はいない。すでに幾度も拷問に掛けられていて、身体じゅう傷だらけだ。
「僕があいつを憎んでいたのは、誰だって知っている。この手で殺してやりたかった。でも、姉さんが寝ている家に火を点けるなんて、そんな馬鹿なことをするはずがない」
青年の真摯な訴えを聞くうちに、これは冤罪に違いないとアクメリンは信じた。冤罪といえば、彼女自身もそうなのだが――自身の悪だくみが招いた結果だから、まったくの無罪ではない。
青年も、先のふたりと同様に宙吊りにされた。しかし、鞭ではなかった。膝の高さほどに煉瓦が四か所に積み上げられて、その上に一辺が二歩長ばかりの正方形の鉄板が置かれた。四つの大きな火皿に石炭が灼熱されて、鉄板の下に差し入れられた。しばらくすると、鉄板の表面で煙が燻り始める。拷問吏が手桶に半分ほどの水をぶちまけると、あまり蒸気は上がらず、小さな水の玉がぱりぱりと音を立てながら転げ回った。鉄板は赤く灼けてはいないが、水が沸騰するよりはるかに高温になっている。
「火を点けたのは、おまえだな」
「そんなに、僕を罪に落としたいのか。どんなに責められたって、僕は無実だ」
青年を吊っている鎖が緩められて――鉄板の上に裸足が着いた。
「熱いッ!」
青年が跳ねた。が、すぐに足の裏が鉄板に落ちる。
「熱いッ……くそッ……僕は無実だ!」
叫びながら、ぴょんぴょん跳びはねる。跳び上がるために踏ん張ることすらできず、片足ずつ上げては、熱さに耐えかねて足を踏み替える。凄まじい速さで踊っているような仕草だった。
「熱い、やめてくれ、うあああっ!」
すぐに青年の足元から青白い煙が立ち昇り始める。悲鳴の合間に、じゅうっと肉の焼ける音が混じる。
さらに鎖が緩められて。その重みで腕が垂れて身体の釣合を崩して、青年が転倒した。
「ぎゃああっ……助けて!」
灼けた鉄板の上を転げ回って、あわや転落の寸前に鎖が引き上げられた。ぐきっと鈍い音がして、肩の一方がはずれたらしく、身体が一方に傾いた。
振り子のように揺れる身体を役人が押さえて止めて。拷問吏が二人がかりで、また青年を鉄板の上に吊り下ろす。
「やめろ! 僕は無実だ!」
叫びながら踊り狂う青年。
はっと、役人が入口を振り返った。威儀を正して、きらびやかな法服に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません。まだ片付かない罪人が残っておりまして」
ゼメキンスは鷹揚に頷いて。
「左様か。世俗の罪を明らかにするのも大切じゃからの。されど……」
「はい、心得ております」
青年への拷問は直ちに中断されて。二人の拷問吏に抱えられて、全裸のまま拷問小屋から連れ去られた。役人が青年の衣服を火皿に投げ入れる。
「ふむ……」
青年には二度と服を着せる必要がない――罪を自白させて死刑に処すか、さもなければ拷問で責め殺すという役人の意思を、ゼメキンスは読み取っただろうが、それには何も言わない。地方都市の行政にまで枢機卿猊下が口を挟むのは筋違いである。しかし、もっと細々とした事柄には口も手も出す。
下役人に青年を引き渡して戻ってきたふたりが鉄板を片付けに掛かると。
「そのままにしておきなさい。まさか、この地にカンカン踊りの舞台があったとは知らなんだ」
せっかくの道具立てだから、アクメリンも舞台に立たせるという意味だ。
註記:この拷問は、日本では『猫踊り』と称されている。
また、拷問ではなく『ええじゃないか』や『風流(ふりゅう)』の系譜である『看看踊(かんかんのう)』がある。
これらと『フレンチ・カンカン』を混ぜこぜにして『カンカン踊り』とした。
聞いていたアクメリンは即座に理解して――震え上がった。青年の苦悶を目の当たりにしている。肉の焦げる臭いまで嗅いでいる。これまでの拷問が遊びにしか思えないくらいに残酷で苦痛に満ちている。
水平の吊りから下ろされて、あらためて腕を垂らしたまま後ろ手に縛られる。
「なぜ、私に……わらわを、責めるのじゃ。わらわは王女エクスターシャであると、認めておるではないか?」
ゼメキンスの脚本に従っているのに責められる理由がわからなかった。
「おまえは基督者か?」
あっと思った。ゼメキンスは、王女を異端者として、信仰を捨てて異教に奔った者として処罰するのだと、最初から言っていた。いきなり決めつけられはしたが、彼女自身はそれを自白していない。
どう答えれば拷問を免れるだろうか。それを考える。信仰を捨てていないと答えれば、灼けた鉄板の上に立たされる。基督者であることを棄てたと答えれば――デチカンで焚刑に処せられるにしても、とにかく今日は焼かれずに済む。
「わらわは、神の教えを裏切った。嫁ぐ異郷の地の神を受け容れた」
せいぜい王女らしい言葉遣いで、ゼメキンスが望む通りの『自白』をしたつもりだったが。彼の求める答は、遥かに大きかった。
「異教徒に嫁ぐのは、父親の差し金じゃな。つまりは、父親も異端者。国王が異端者なら、国そのものが教会に背いていると考えて間違いあるまい」
十字軍。アクメリンの脳裡を、その言葉が掠めた。
十字軍は、なにも東方の異教徒に向けて発せられるとは限らない。聖地の奪回が目的とは限らない。西方社会全体に布令を出さなくても十字軍は起こせる。具体的には――リャンクシー王国とタンコシタン公国に勅許を与えれば、両国は共同してフィションク準王国を滅ぼすだろう。そこに、教会あるいは西方社会全体にとって、どのような利益があるのかまでは、政治とは無縁の男爵隷嬢などには見当もつかないのだが。
フィションクが滅びれば、リョナルデ家も共に滅びる。一族郎党、殺されなくても庶民どころか奴隷にまで堕とされかねない。淫奔な女を後妻に迎える王家などに、アクメリンはたいして忠誠心を持ち合わせてはいないけれど――実家が没落するとなると。
「違う……!」
咄嗟に否定はしたものの、後の言葉が続かない。
「違うとな。何が違うというのじゃ?」
エクスターシャ個人とメスマン首長国とのつながりを……そんな虚構は、砂で造った城壁よりも脆い。それでも……
「父は、メスマンに傭兵を頼んだだけじゃ。メスマンは裏切りを恐れて人質を求めた。父王の体面もあって、輿入れの形を取ったが、基督の教えは棄てたりせぬ。わらわは……メスマンに求められて、異郷の神に帰依はしたが……」
「では、神を謀ろうとしたのか。異教徒に成り下がるより、いっそう邪悪な異端ではないか」
「…………」
神の教えに関して、田舎貴族の小娘が枢機卿に太刀打ちできるはずもない。
アアクメリンが言葉に詰まると、ゼメキンスは拷問を始めるための台詞を口にした。
「真実を自白するには、厳しい尋問が必要らしいの」
ぢゃりりりと鎖が鳴って、アクメリンの腕が斜め後ろへじ引き上げられていく。アクメリンは自然と後退さるのだが、鉄板の手前に立つガイアスが尻を押し返す。
その場でアクメリンの腕が水平よりも高くねじ上げられ、上体が前へ倒れていく。やがて、上体を起こしても倒しても鎖を引っ張ってしまう均衡点に達して。アクメリンはつま先立ちになり、ついには足が床から浮いた。
「きひいっ……肩が抜ける!」
アクメリンの訴えを無視して、鎖は引かれ続ける。
アクメリンの足が鉄板より高く浮いてから、ガイアスがゆっくりと手を放す。
それでも、アクメリンの身体は振り子のように大きく揺れて、肩にいっそうの力が掛かる。
「きゃああっ……」
悲鳴は、苦痛のせいだけではない。目に見えている何もかもが大きく揺れるのは――ぶらんこ遊びとは似ていても、大きな恐怖だった。
ホナーとリカードが、長い棒でアクメリンの裸身を押し返して、揺れを止めた。その不快な痛みを気にするどころではない。
ちりちりと焼けるような熱気に、アクメリンは包まれた。
ホナーが手桶の水を鉄板に撒いた。
ジュワアアッ……ヒューゴのときと違って、凄まじい水蒸気が立ち昇った。
ぎゅっと心臓を捻じ千切られるような恐怖。実はずっと鉄板の温度が下がっているからこその現象なのだが、錬金術(現代の化学と物理) の知識など持たないアクメリンには、それが分かるはずもない。
註記:物理学的基礎体力の無い読者は『ライデンフロスト』で検索してください。筆者は読者に、嗜虐癖、被虐妄想(ヒロインへの感情移入)、倒錯性愛指向の共有を期待していますが、科学的素養の共有までは求めていません。上から目線。
もっとも、肉の表面がすぐに焼け焦げるか、しっとりした肉感を保ちながら中まで火が通るかの違いしかないのだが。
「よろしい――下ろせ」
ちゃり、ちゃり、ちゃり……徐々にアクメリンの足が鉄板に近づいていって。
「熱いッ……」
つま先が触れるや否や、アクメリンは足を跳ね曲げた。鎖が止まる。
「しゃんと立て。それとも、脛肉を焼かれたいか」
ゼメキンスの言う通りだった。足を曲げたまま吊り下ろされれば、灼けた鉄板の上に座り込む形になってしまう。皮膚の分厚い足の裏を焼かれるほうが、苦痛は幾らかでも小さいだろう。
アクメリンは、断崖絶壁から身を投げるほどの決心で、脚を伸ばした。熱いというより、焼床鋏(やっとこ)で肉をつねられたような激痛。
「痛いッ!」
先に痛みを感じたほうの足を跳ね上げた。途端に、鉄板を踏んでいるほうの足にいっそうの熱痛が奔って、踏み替える。すると、勢いよく下ろしたせいで、足の裏を身の重み以上に押しつけてしまう。
じゅっ……足の裏に、肉の焼ける音が伝わって、アクメリンは恐慌に陥った。
「いたいッ……あつッ……ひいいッ!」
アクメリンは悲鳴を上げながら、狂ったように足を踏み替える。あまりの激しさに乳房が揺れ、亜麻色の長い髪が宙に踊る。
肩に負担を掛けるのを覚悟して、後ろへねじられた腕を支えにして腰を曲げれば、両足が宙に浮くのだが、それを思いつく裕りもない。もっとも、そうしたところで、さらに鎖を緩められるだけなのだが。
「いやあッ……あつい、いたい……ゆるして……」
国王が神に背き、国を挙げて異教に帰依した。そう証言すれば、赦してもらえるだろうか。そんな考えが頭を掠めて、あわてて打ち消す。我が身が焼き滅ぼされるのは――王女の身分を簒奪して、異郷の国王の妾に成り下がろうとした、あまりに厳し過ぎはするけども、その罰と諦めもつく。けれど、家族には何の罪も無い。
「あああっ……あつい……いやあああっっ!」
デチカンで処刑されるのだから、この場で殺されるはずがない。もしも足が焼けてしまえば、荒野を歩かされることも見世物として市街を引き回されることもなくなる。そういった小賢しい打算は脳裡に浮かばず。足の裏の熱痛から逃れるだけのために、アクメリンは跳ね踊り続けた。息が切れて悲鳴も途絶え、心臓は胸全体に轟くほどに早鐘を打ち……全身から飛び散る汗が鉄板に落ちて蒸発する音が、踊りの激しさに不釣合なささやかな伴奏となって。
五分、あるいは十分も経っただろうか。ふっと身体が軽くなったのを、アクメリンは感じた。苦しさが、すうっと消えた。足の裏には熱痛が突き刺さっているけれど、駆け足よりも早く足を踏み替えていれば、いつまでも持ち堪えられそうな気になってきた。
アクメリンは悲鳴を叫ぼうともせずに踊り続ける。身体を動かせば動かすほど軽くなってゆき、楽になってゆく。いや、心地好くなる。そして、頭は――雲は散り霧も消えて、どこまでも透き通っていって、故郷の家族も自身の運命も、次はどんな拷問に掛けられるのだろうかという恐怖さえも消え失せて。アクメリンは無心に踊り続ける。その顔には、苦悶ではなく見誤りようもない恍惚が浮かんでいた。
註記:(今回はしつこいな)ニュートンが発見する以前から林檎は地面に向かって落下していたと同様に、中世においてもランナーズ・ハイは存在した。それは、おそらく神の恩寵もしくは悪魔憑きと理解されたであろうが。
「ふうむ……」
ゼメキンスが難しい顔で首を横に振った。
「こやつ、もしや本物の魔女かもしれぬ。じゃとすれば、二十年ぶりじゃわい」
これまでにゼメキンスが主導して断罪してきた魔女の数だけでも十指に余る。そのことごとくが、ただ一人を除いて無実であったという、重大な告白ではあった。
「とは――以前にうかがった、シセゾン家のマイでしたか。彼女以来の?」
聖ヨドウサ修道院でゼメキンスの片腕を務めていたことのあるガイアスが訳知り顔で水を向けた。
「うむ。ホナーとリカルドには話しておらなんだな。マイという娘は子爵家の次女――よほどの証拠がなければ魔女審問に掛けることなど出来ぬのじゃが」
アクメリンの踊り狂う様を注意深く観察しながら、ゼメキンスは手短かに話す。
マイは、子供を産める身体になって半年も経たぬうちに女になったという。それからは、弟ほどの年齢から父親よりも歳上まで、貴族だけでなく使用人とも、娼婦もかくやといわんばかりの男漁りに耽ったという。父親の意見も折檻も、聞く耳も沁みる身も持たぬ。ついには(当然ながら)女子修道院へ送られたのだが。
マイは修道院で、我が身を鞭打つ修行にのめり込んだ。我が手では生ぬるいし鞭を避けようとするからと、先輩に頼んで縄で縛られ鞭打ってもらい――いつしか、男女の交わりにおける男性の役割までも求めるようになっていった。明らかに修行からの逸脱であり、神の教えに背く行ないであった。修道院は彼女に対して魔女の疑いを持ち、審問の技術に定評のある聖ヨドウサ修道院に処置を委ねた。
「きゃああっ……!」
疲れを知らぬが如くに踊り狂っていたアクメリンだが、体力の消耗は極限に達していた。足をもつらせて、灼けた鉄板の上に倒れ込む――寸前を、鎖に引き留められた。
膝を突く寸前を、ぢゃららららっと鎖に引き上げられて。修道僧が手加減したのか、アクメリンの身体がヒューゴより柔らかかったからか、肩を脱臼することもなかった。
「あああああ……」
頭をのけぞらせて、恍惚と呻くアクメリン。全身が汗に絖っている。
手が滑車に届くほどに吊り上げて、ガイアスが足の裏の火傷を調べる。
「生焼けです。食べると腹に虫が湧くでしょう」
ホナーとリカードが苦笑する。
「歩かせるのは難しいかな?」
ガイアスも無駄口はやめてゼメキンスに答える。
「数日は。以後も十日ばかりは、裸足はよろしくないかと」
ゼメキンスは肩をすくめただけだった。
足の裏の火傷にも、万能薬たる錬金術の秘薬と薬草を混ぜた泥が塗られて、火酒を染ませた布が巻かれた。細菌の存在を知らず消毒の概念が無くとも、経験則による手当ては、それほど的を外していない。錬金術の秘薬の正体にもよるが。
アクメリンは、三人の男たちが押し込まれていた檻に放り込まれた。中腰で三歩は歩ける広さだから、マライボに比べればずいぶんと待遇は改善されている。
「針による探査も、まるきり効かなんだ」
途切れていた回想を、ゼメキンスが唐突に再開した。是非とも後輩に語り継いでおきたいという熱意の表われだろうか。
「念のために目隠しをして、手が肌に触れぬよう気をつけて刺したのじゃが、どこを刺しても痛みを訴える」
「……?」
それが普通なのではと、ホナーもリカードも拍子抜けした顔。
「ところが、その娘はとんでもないことを言いおった。もっと全身をくまなく深く刺して、魔女の証がどこにもないと、潔白を証してください――とな」
針による探査が終わったとき、マイの肌のどこに一本の指を当てても、針傷に触れぬところは無くなっていた。彼女はほじくらずとも見分けられる悪魔の淫茎を持っていたが、そこに針を突き刺されると、ひときわ凄絶な悲鳴を上げた。
「ところが、切なそうな余韻を嫋々と引きずりよる。このアクメ……こほん、エクスターシャと同じようにな」
ゼメキンスは図らずも、捕らえた娘がエクスターシャの身代わりだと承知していることを暴露しかけたが、それは三人の修道僧もとっくに承知しているだろう。きっちり言い直したのは、体裁というやつである。話を戻す。
マイは、さまざまな審問に掛けられたが、そのすべてに耐え抜いた。のではなく、悦んだといったほうが当たっているだろう。
鞭打たれれば泣き叫びながら、みずから脚を開いて股間を曝し胸を突き出して鞭を誘った。木馬に乗せれば、わざと暴れて股間を傷つけ、血液に染まった粘い蜜をこぼした。乳首と悪魔の陰淫を焼鏝で潰されたときは、聞き誤りようのない喜悦の声と共に失神した。女穴も尻穴も『苦悶の梨』に引き裂かれてさえ、凄絶な咆哮には艶があった。
「父御(修道院長)も、本物の魔女と対峙したのは、それが初めてじゃった」
偽の王女への拷問など児戯に等しい過酷な責めが十日の余も続けられて、マイは命を落とした。死してなおマイは魔女の姿を隠し通して、その死顔はさながら聖母マリアのようであったと――ゼメキンスは述懐した。
「そのような苛烈な拷問に耐えたことこそ、魔女である動かぬ証拠ではあったがな」
水に浮かんで生き延びれば魔女、沈んで溺れ死ねば魔女ではないという理屈と通底した、どう転んでも被疑者は助からない論理だった。
「この娘がマイに劣らぬほどの魔女であるか、すぐに露見する詐欺を目論んだ小悪魔に過ぎぬかは――これから、じっくりと見定めてくれよう」
気を失っている檻の中のアクメリンを見詰めながら、ゼメキンスが呟く。次の拷問をどんな苛虐にするか、想を改めているのだろう。
「まずは夕餉じゃ。こやつにも、黴の生えた麺包と肉片がこびりついた骨くらいは与えておけ。親切に食べさせてやるまでもないぞ」
アクメリンの世話係みたいな形になっているガイアスが、おどけた仕種を交えて胸に十字を切った。
――檻の中で失神から覚めたアクメリンは、床に転がされている麺包と骨、そして水を入れた椀に気づいた。渇きを癒そうと椀を手に取って半分ほども飲み、人心地の欠片なりとも取り戻して、ふっと考えた。空腹を感じるどころではないし、そうだとしても、こんな塵芥も同然の代物など口にしたくもない。けれど、手を付けなかったら――それを口実に、飢え死に寸前まで食べ物を与えてもらえなくなるのではなかろうか。そんな卑屈な考えをするまでに、アクメリンの心は挫かれていた。
アクメリンは乾き切った麺包を水にふやかして食べ、骨もわずかにこびりついている肉片を歯でこそぎ取った。惨めさに涙するくらいに、残飯は美味だった。悔し涙をこぼすくらいには、心を喪っていなかった。
そうして、さらに時は過ぎて。ついに四人の拷問者が戻って来た。リカードの持つ角灯に、四人の姿が悪鬼羅刹めいて浮かび上がる。その顔が赤く見えるのは、灯りのせいだけでもないだろう。彼らは救世主の肉だけでなく、その血もしこたま聞こし召したに違いない。
酔っ払って手加減を間違えるのではないだろうかと――アクメリンは取り越し苦労をする。生かしてデチカンへ連行して、裁判で公式に王女を弾劾する手筈が――狂ったところで、アクメリンにとっては苦しむ時間が短くなるだけだというのに。
しかしゼメキンスには、すくなくとも今夜のところは、拷問を再開する意図は無いらしかった。
「魔女の嫌疑は晴れておらぬし、施した封印も効き目が薄いようじゃ。もしも、おまえが清めの儀式をみずから進んで受け容れるなら、今宵は安らかに憩わせてやろう」
どうじゃなと問われて。
清めると称してこれまでに為された仕打ちを思い返せば、何を求められているかは、もはや乙女とはアルイェットからデチカンよりも隔たっているアクメリンには、明白だった。問題は、どのような『安らぎ』を与えられるかだった。楽をさせてやると言って、十字架を逆さに馬で引きずったり、絡繰が全身を凌辱する馬車に乗せたり――今にして思えば、馬車はたしかに(惨めだけど凄絶な)快感だったけれど。
しかし何をされるにしても、ゼメキンスに逆らえば、いっそう酷い目に遭わされるだけだ。
「どうか、わらわを清めてたもれ」
王女として振る舞う必要を思い出すくらいには、気力も甦っていた。
アクメリンは檻から引き出されて――縛られもしなかったし、枷で拘束もされなかった。かつてない扱いに、手持ち無沙汰を持て余して仕方なく両手で前を隠して立ちすくんでいると。目の前の床に手桶と金属の筒が置かれた。筒は浣腸器だった。この時代には(拷問や羞恥責めの器具ではなく)ありふれた医療器具だから、マライボで見たそれと大同小異であっても、何の不思議もない。
マライボのときと同様に、四人が手桶に放[尺水]したが、ゼメキンスがわざとらしく首を傾げる。
「これでは量が足りぬな。増やしてくれぬか、王女殿下?」
ちっとも遠回しな言葉ではなかった。そして、その行為に対する羞恥心は相当に薄れていた。アクメリンがわずかにためらったのは、聖職者のそれに被嫌疑者である自分のそれを混ぜても良いのかという畏れだった。
とはいえ。理性では「まさか」と否定していても、女の本能は男の性的嗜虐を察知している。従わないとどうなるかは、恐怖が覚えている。
アクメリンは手桶をまたいでしゃがんだ。四人が手桶を、つまりアクメリンを取り囲んでいるので、無意識の媚が、アクメリンをゼメキンスに正対させた。枢機卿猊下に尻を向けるなんて失礼はできないという常識的な意識も働いた。貴いお方に向かって放●する非礼は常識の範疇外だった。
アクメリンが立ち上がると、この拷問部屋にも備え付けられている水責め用の大桶から、ホナーが別の手桶で水を足した。さらにリカードが小さな壺の中身を垂らす。白く懸濁した何かの油――と理解するだけの素養は、アクメリンにはなかった。リカードは短い棒で手桶を掻き回してから、後ろへ下がった。
四人が無言でアクメリンの挙措を見詰めている。
アクメリンは浣腸器を手に取って、手桶の『水』を吸い上げた。把手をいっぱいに引いても半分も入らなかった。
しかし。吸い込んだはいいが、そこで途方に暮れた。浣腸器の中ほどをつかんで手を後ろへ回してみたものの、嘴管を尻穴にあてがうのも手探り。押し込むのは難しい。もし成功したところで、手をいっぱいに伸ばしても把手に届かない。
アクメリンは顔を上げて助けを求めるようにゼメキンスを見たが、嗜虐の笑みに跳ね返された。
アクメリンは四つん這いになって再度試みたが、浣腸器を水平に保つのも難しい。
どうすれば……ふっと思いついたのは薪だった。小屋に納めてあるときは寝かしているが、使う前には立てて斧で割る。貧乏貴族の娘だから、見て知っている。エクスターシャには想像もつかないことだろう。こんな境遇に落ちても、まだ王女と張り合っている。
アクメリンは把手を床に着けて、浣腸器を垂直に立てた。その上に腰を下ろすと、嘴管は自然と尻穴に当たった。さらに、じわっと腰を沈めると――把手が押されて、液体が漏れ出る。慌てて、急に腰を落とした。
ずぶうっと、嘴管が尻穴を貫く。
「痛いっ……」
小さな悲鳴は、自身への甘えだった。どんなにささやかな呟きであっても、鞭や木馬と同じ言葉を使うのは大仰に過ぎると自覚していた。
嘴管は深々と尻穴を抉って、生ぬるい汚水を腹の奥へ注入した。押子が筒の奥に突き当たって止まった。その瞬間から、猛烈な便意に襲われた。しかし。
「まだまだ残っておるぞ。入れてしまわんか」
アクメリンは大急ぎで空の浣腸器を満たして、二本目を注入する。勢い余って、尻穴のまわりから汚水が飛び散ったが、そこまではゼメキンスも咎めない。
すでに便意は限界を超えていた。
「お許しくださいっっ……」
まだ突き刺さったまなの浣腸器を噴き飛ばして。
ぶじゃあああっ……ぶりりり……
水も固形物も一挙に迸らせた。
「あああ……」
床にうずくまって、両手で顔をおおった。かえって羞ずかしさが募る。手も足も拘束されて、他人の手で浣腸されて、目をつむるしか羞恥から逃れられないほうが、よほどましだと、アクメリンは知った。
そして。手も足も自由なのに、他人の手を払いのけられない屈辱も。アクメリンはさらに二回、これは清水を注入されては噴出を繰り返させられた。
どこの拷問部屋もそうなっているのだろう。床にこぼされた水(と、汚物)は、わずかな傾斜に沿って奥へ集められ、小さな開口部から外へ流れ出た。
排泄に伴う軽い虚脱に陥っているアクメリンは、分厚い木の板で作られた拷問台の前へ引っ張られた。そこにはホナーが、自分の腕を枕にして仰臥していた。股間も寝ている。
「清めてほしいと、みずから願い出たのであろう。どうすれば良いか、分かっておるはずじゃ」
分かっていなかった。けれど、その言葉で分かってしまった。アクメリンはホナーの横に跪いて、右手を股間へと伸ばした。
その手を、傍らに立っていたゼメキンスが細い木の笞で叩いた。
「横着をするな。口を使え」
アクメリンは唇を噛んだ。身体を様々な形にねじ曲げられて、三つの穴に男根を突っ込まれるのは、受け身である。けれど、みずから挿れにいくなんて……久しぶりに、かあっと羞恥が燃え上がった。
しかし。拒めば、酔いの勢いにまかせた凄まじい拷問が始まるに決まっている。アクメリンは顔をホナーの腰の上に伏せた。むわあっと男の体臭が鼻を衝いて、息を詰めた。
初めてじっくりと眺める男性の器官。もちろんアクメリンは、手鏡に自身の股間を映して観察するようなはしたない真似はしたことがない。彼女が目にしたことのある女性の器官は、マライボで拷問されていたジョイエとニレナの二人だけ。ジョイエはともかくニレナのそこは、複雑怪奇な形状をしていた。肥大した割れ目の縁から皺の寄った二枚の肉片がはみ出ていて、その上端の合わせ目からは、悪魔の淫茎だという小さな突起が覗いていて……
それに比べると、なんと単純な形だろうか。ただ一本の棒。先端は蕾のようにすぼまっているが、太く長く勃起して、中から傘の開いていない茸みたいな赤黒い本体が現われると、醜悪で狂暴に見える――のは、それが女を辱しめる凶器だと知っているからだろう。
さらにしばらくためらってから、アクメリンは男の股間に顔を埋めた。手を使うなと言われたのだから、犬の真似をするしかなかった。
とうとう咥えてしまった。けれど、そこからどうすれば、このでろんとした腸詰肉より柔らかい棒を怒張させられるかが分からない。マライボの拷問小屋でされたときのことを思い出して、頭を上下に揺すってみた。口の中で肉棒がぐにょぐにょ蠢くが、それ以上の変化は起きない。ホナーが必死に聖句を暗誦しているなど、アクメリンには分からないし、知ったところで、勃起現象が起きない事実との関連は分からないだろう。膣穴への(過激な)刺激で逝くことは覚えても、男の放水はさんざん見せつけられていても、勃起する過程を目撃したのは、せいぜい二三回なのだ。
焦っていると、頭をつかまれた。
「そんなのでは、勃たない。舌を使え、唇もだ」
唇で包皮を押し下げて、茸の傘の縁を舌で舐めろ。裏側にある縦筋もだ。歯に唇をかぶせて、先端から根元まで呑み込みながら甘噛みをしろ。唇をすぼめて、水を啜り込むように息を吸え。先端の割れ目を舌先でくすぐれ。
娼婦でも使わないような技を、次々とホナーが命令する。
アクメリンは言われるがままに、口全体で男根を愛撫した。その甲斐あって、腸詰肉がしなやかな木の棒に変じて、ついには火傷しそうに熱い鉄杭にまでなった。
男の体臭がいっそう濃密になってくるが、なぜか不快感は消え失せて、股間に熱い滴りを感じる。
ぴしやんと尻を叩かれて、次の所作を求められていると理解した。寝ている男と媾合うにはどうすれば良いかは、ついさっき、自身に浣腸を施した経験が役に立った。
アクメリンは男に向かい合って、腰の上にしゃがんだ。怒張の根元を右手に持って、覗き込みながらその上に腰を落としていく。先端が淫裂を割るのが、見えた。怒張が股の奥でぬらっと滑る感触があって、穴に嵌まり込んだのが分かった。
「はああ……」
男の腰に座りこんで、アクメリンは息を吐いた。羞ずかしいという感情より、うまく出来たという達成感が大きかった。
ホナーが、また尻を叩いた。
「じっとしていては清められんぞ。入口から奥の院まで、くまなく抜き挿しするのだ」
アクメリンは腰を浮かして怒張を抜去し、すぐに挿れ直して奥まで突き通した。それを何度もくり返すうちに、いちいち抜いてしまうとやりにくいと分かり、自然と腰遣いを覚えていった。
「次は、拙僧を勃たせてもらおう」
リカードが頭髪をつかんで、アクメリンの上体を押し下げた。
目の前に突き付けられた、これも萎びた男根をアクメリンは咥えて、ホナーに教わったばかりの仕種を繰り返す。その間、腰の動きは止まっているが、ホナーは何も言わないし尻を叩きもしない。
じゅうぶんに勃起すると、リカードはアクメリンの背後から拷問台に上がり、両手で腰をつかんで尻穴に怒張をあてがった。
色責め馬車でさんざんに経験したことだから、アクメリンは驚かない。前にホナーを挿れたままリカードに後ろを貫かれて、さすがに軽く呻いたが、苦悶の響きはない。むしろ、ふたつの穴を同時に貫かれることに充足を覚える。
そして、ガイアスまでもがアクメリンの前に立った。
ああ、そうかと――アクメリンは自然と理解した。言われる前に、みずから上体を倒してガイアスを咥えた。
リカードに両手首をつかまれて後ろへ引き上げられると、アクメリンの上体は宙に泳いで、それだけみずからの意思では身体を動かしにくくなった。手綱に操られている馬を、アクメリンは連想した。
リカードが大きな動作で腰を動かし始めた。アクメリンの身体が前後に揺すられて、口中のガイアスも跨っているホナーも、自然とアクメリンを責める。
過激な調教で性感を開発されているアクメリンは、官能に火を点じられた。模造男根と違って生身の肉棒は、適度の弾力で穴をいっぱいに満たす。馬車と違って、肉棒の動きは一致しているのだが、それを物足りないとは感じなかった。排泄の穴だけではなく、言葉を発し命の源を摂り入れる穴までも犯されているという思いが、背徳と屈辱を燃えがらせて――悦辱へと変貌していく。
「もぼおおお……おお、おおお……」
自然と漏れるくぐもった呻きは、はっきりと艶を帯びている。
アクメリンの下になっているホナーが右手を伸ばして、焼印の先端で根元を焼かれ釘で傷つけられている淫核を摘まんだ。
「むぶううっ……!」
怒張を咥えたまま、アクメリンが激痛に呻いた。しかしホナーは、いっそう強く摘まむと――爪を立てながら強く捻じった。
「ぎゃ……ま゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!」
アクメリンは悲鳴をあげたのだが、ガイアスに頭をつかんで腰を押しつけられて、くぐもった叫びになった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙……や゙え゙え゙え゙え゙え゙っっっ!」
しかし、リカードはいっそう激しく尻穴に抽挿を繰り返す。ガイアスは肩に手を掛けてアクメリンの裸身を激しく揺すぶる。
三つの穴をこねくられ抽挿されるうちに、淫核が純粋な快楽の器官としての働きを取り戻して、激痛をそのまま快感にすり替えていく。
「み゙い゙い゙い゙い゙い゙っ……いいいっっっ!!」
苦痛と快感とが綯い交ぜになりながら、頂を抜けて、さらに雲の上へと押し上げられるアクメリン。こうしてアクメリンは、相反する感覚がひとつの官能に止揚される境地を教え込まれたのだった。
びくんびくんびくんと、アクメリンの背中が痙攣して。やがて、全身から力が抜けた。三人の男たちはそれを見届けてから――三つの穴に白濁をぶちまけた。
意識を失ったアクメリンは、拷問台から転がし落とされても、地獄か天国か定かでない暗黒の中を漂っている。跡始末もされないまま檻に放りこまれて、それで清めの儀式は終わったのだが。
翌日には、昨夜に与えた快楽の代償だといわんばかりの、激痛一辺倒の加虐が待ち構えていた。
これまでと違って、拷問は朝のうちから始まった。アクメリンは拷問部屋の壁に立てかけた分厚い板を背にして両手両足を広げて立たされた。喉、手首、肘、胸の下、腰、太腿、膝、足首――関節という関節を、大小の鎹に挟まれて板に縫いつけられた。まさに、ぴくりとも身体を動かせない。
「おまえが魔女であることには疑義が残っておるが、神の教えを捨てた異端者であることは、自身で認めておるな?」
今さらの尋問に、アクメリンはどう答えるのが得策――もっとも苦痛が少ないかを考えてみたが。ゼメキンスの意向に逆らうべきではないという、当然の結論に行き着いただけだった。
「……そうじゃ。わらわは、異郷の神の教えに帰依したのじゃ。しかし、今では悔い改めておる」
「遅い!」
ゼメキンスが一喝する。
「一度でも神を裏切った者は、二度三度と裏切るに決まっておる」
「…………」
「よって、デチカンでの裁判に俟つまでもなく、おまえは異教徒として断罪される。その判決文を、おまえの身体に刻んでおいてやろう」
リカードが、手に持っていた長い鉄棒をアクメリンに向かって突きつけた。鉄棒の先には鉄板が取り付けられていて――鏡文字が浮かび上がっている。頭の中で正字に読み替えなくても、アクメリンにはすぐ読めた。乳首に吊るされていた文字“Heretic”だ。それが異端者という意味だとも、すでに知っている。
「あああ……」
アクメリンは絶望を呻いたが、拒否の言葉は口にしなかった。素直に受け容れるか、拷問の果てに受け容れさせられるか――雁字搦めに拘束されているのだから、その二者択一すら、許されていない。
まだ組まれたままになっているカンカン踊りの舞台下からリカードが火皿を取り出し、石炭を足して火を熾し始める。
「わらわは、もはや死罪は免れぬのじゃな……」
エクスターシャとしての言葉遣いを強いられるうちに、絶望の嘆きさえ素に戻らなくなっている。
「祖国を道連れにしてな。なんと、豪勢な死出の旅路よ」
「陛下は無実じゃ。神を裏切ったのは、わらわひとりの考えじゃ!」
ゼメキンスは狡そうに嗤う。
「それについては、デチカンで改めて審問する。今は、おまえの処置だけじゃ」
国を挙げての背教をエクスターシャが証言するまで、拷問は繰り返されるのかと、アクメリンは絶望に絶望を重ねる。
「凸凹があっては、焼印の文字が崩れるな」
ゼメキンスの言葉を受けて、リカードが二本の細い鎖を取り出した。一端には小さな鉄球がぶらさがり、反対側は鎖の輪がC形に開いている。その輪が、釘に貫通されてふさがっていないアクメリンの乳首に通された。
「ひいいい……」
乳首が引き伸ばされ、乳房全体が年増女のように垂れた。
「まさか……?!」
凸凹がどうのこうのという話から、この仕打ち。焼印がどこに捺されようとしているのか、分かりたくなくても悟ってしまう。
ゼメキンスが火床から焼印を取り出した。鉄板に浮かび上がる文字は、煙も出ないほどに白熱している。
「しかし……おまえは異教徒らしからぬ形(なり)をしておるな」
ゼメキンスは焼印を腋の下に近づけた。そこにも濃密に繁茂している亜麻色の毛が、ぱっと燃え上がった。
「熱いっ……」
股間の毛を焼かれたときは炎が上へ逃げたが、腋の下で火を燃やせば二の腕まで焼かれる。さいわいに、すぐ燃え尽きたので火傷にまではならずに済んだのだが。
ゼメキンスは、下腹部にも焼印を近づけた。焼かれて後に芽吹いていた草叢も、また焼け野原と化してしまう。こちらは、短い毛を焼こうとして、肌に触れるほど近づけたので、ぽつぽつと火脹れになってしまった。
「体毛を無くすなど、異教徒の嗜みは我らには理解しがたい」
嘯きながら、ゼメキンスの眼は有るべき物が無い部分から離れない。そういう嗜癖もあるのだろうか。
「もう一度熱くしましょうか?」
冷めすぎるのを懸念して、リカードが声を掛ける。
「いや、これくらいのほうが、傷の治りが早かろう」
ゼメキンスは半歩下がって、焼印を持ち変えた。柄を立てて、刻印の鉄板を乳房の真上にかざす。
「あああ、あ……」
アクメリンは顔を背けて瞼を固く閉じた。
焼印が上乳に押しつけられて、じゅうっと肉を焦がす。
「ぎゃあああああっっっ……!」
アクメリンの喉から迸った悲鳴は、純粋の苦痛を訴えていた。
十字架の焼印と同様の手当てが施されてから、アクメリンは檻へ戻された。
「これで、この娘が異端者であることは、誰の目にも明らかとなった」
ゼメキンスが部下に話しかける――態を装って、アクメリンの様子をちらちら窺っている。
「このような明白な印が見つかれば、直ちに魔女と判明するのじゃがな」
「デチカンで審問する手間が省けますね」
ホナーが相槌を打つ。
「それは、ない。フィションクの背教などという大事件は、教皇聖下の御裁断に委ねねばならん」
「しかし、この娘が魔女であれば――フィションク国王は魔女に誑かされた、いわば被害者になるのではありませんか?」
ガイアスが台本に従って、アクメリンに絶望的な希望を示唆する。
「ふむ。魔女に騙されていたと悔い改めれば、慈愛あふれる聖下のことゆえ、フィションク準王国そのものの罪は不問に付すかもしれぬな」
「とはいえ、この娘が自白したとしても、それだけでは魔女と決めつけられないのでは?」
「精神の錯乱ということも考えられるからの」
「では、明白な魔女の証拠があれば、よろしいのですね」
「左様。この烙印のごとく、誰の目にも見える証拠がな」
焼印は、己れが異端者であるというアクメリンの自白に基づいて施されたものであり、証拠にはならない。しかし、そんな理屈に気づくだけの明晰さを、すでにアクメリンは失っている。
「たとえば、このような刻印でしょうか?」
リカードが、火床から別の焼印を取り出した。短い鉄棒の先に、太い針金で五芒星が形作られている。
「うむ。上下を逆さにした逆五芒星は悪魔の象徴たる牡山羊を表わすから、またとない証拠じゃ」
「十字架で悪魔を封印し、昨夜は清めの儀式を執り行ないました。この娘の体内に悪魔が潜んでおるとすれば、もはや隠れてはおれなくなって、これまでは見つからなかった印も浮かび上がるのではありませんか」9
「かもしれぬな。午後からは、それを調べてみるのも悪くなかろう」
昼食にはまだ早いのに、アクメリンを新たな拷問に掛けることもなく、四人は拷問部屋から立ち去った。
アクメリンは床に転がって、真新しい火傷の刺すような痛みに、あお向けになってみたり、横になってみたり。そして、ふと気づく。檻の出入口に、わずかな隙間があった。まさかと思って押してみると――開いた。
檻から出たところで、どうにもならない。拷問部屋から逃げても、獄舎の外までは逃げられない。いや、脱走できたとしても、裸ではどうにもならない。でも、何か身にまとうものがあれば。
もしも、檻から出ているところを見つかったら、拷問と変わりない折檻を受けるだろうけれど――どうせ、拷問はされるのだし。
アクメリンはためらいながらも、檻を出た。物色の目で周囲を見回して。火床に突っ込まれたままになっている焼印に目が止まった。まだ、石炭は赤い。
ついさっきのゼメキンスの言葉が甦る。はっきりとした悪魔の刻印があれば。逆五芒星は悪魔の象徴。魔女に誑かされたのであれば、フィションクは罪を減じられる。
連日の虐待に加えて、逆十字以上に明白な反逆者の烙印まで気編まれて刻まれて。アクメリンの心は打ち砕かれ、正常な判断力はとっくに失われている。唐突な会話、施錠を忘れた檻、火の不始末――見え透いた罠にも気づかない。それとも。罠だと分かっていても、やはりそうしただろうか。
アクメリンは焼印に手を伸ばした。紛れもない、五芒星の焼印。アクメリンは柄を逆手に短く持つと、心の準備もあらばこそ、太腿の付根にそれを押しつけた。
じゅううっ……と、白い煙が立ち昇る。
「ぐゔゔっ……」
焼印の形を崩しては台無しになりかねないとの想いが手を縛って、数秒、アクメリンは灼熱痛に耐えた。五芒星を形作る針金が、肌に埋没するほどに食い込んだ。
そっと引き剥がして、焼印を火床に戻す。大桶から手で水を掬って火傷を冷やしたのは、昔に見た記憶か、錬金術の秘薬の代用か。さいわいに、大筋としては正しい手当てになっている。
アクメリンは檻の中へ戻って、出入口の鉄格子を閉じた。外側の留金を手探りで掛けて、開いたままで引っ掛かっていた錠前を正しく下ろした。
「ふうう……」
アクメリンは大きな溜息をついた。安堵ではない。ゼメキンスがこの刻印を見つけて、どう判断するか。それが大きな不安として残っている。
それでも。女の身でありながら、家族を守るためとはいえ、国を救うために我が身を犠牲にするのだという、それまでは知らなかった形の高揚と陶酔に包まれていた。圧倒的な大軍に向かって、祖国の栄誉を背負って突撃する騎士。絵物語の主人公になった気分だった。きらびやかな甲冑の代わりに傷だらけの裸身を曝してはいるけれど。
――やがて。じゅうぶんに陽が傾いてから。四人の絶対的な正義の使徒が、異端者にして魔女の嫌疑まで掛けられている邪悪な女を糾問に訪れる。
「ややっ……これは?!」
檻から引き出されたアクメリンを見て、ガイアスが芝居がかって叫ぶ。
「枢機卿猊下の予測された通り、悪魔が正体を現わしましたぞ」
ガイアスの指差す先を覗き込んで、ゼメキンスも台本を進める。
「これ、エクスターシャよ。このような刻印が露わになっては、もはや白を切れまいぞ。どうじゃな」
ここが正念場――これは、まったくの独り相撲どころか、ゼメキンスの描いた台本に転がされているだけなのだが。アクメリンは、自身が思い描いている通りの魔女を演じた。
「わらわは、魔女ではないと否定した覚えなどない。そなたらが勝手に騒いでおっただけであろうが」
もしかしたらアクメリンの記憶違いかもしれないが、それならそれで、魔女の虚言ということになる。しかし、記憶は正しかったようだ。それとも、エクスターシャを偽る娘が今また魔女と自白したことで、ゼメキンスは満足したのか。
「ならば、この焼印を身に纏うことに異議は無いな?」
リカードが新たに持ち込んだ箱の中から三本目の焼印を取り出した。その文字は“Marga”――聖なる言葉で魔女を意味する。
「好きにするが良い」
次々と増えていく刻印。それはそのまま、生きながら肉体を破壊されていくような恐ろしさに、アクメリンは、みずからの足で犠牲の祭壇へ歩む山羊を連想した。祭壇は栄光に輝いている。
「ならば、その覚悟を問うてやろう。そこに立て。ぴくりとも動くな。動くと文字が崩れて読めなくなるぞ」
読めねば確たる証拠にならぬ――そう脅している。
因果関係を倒置した詭弁を真に受けて、アクメリンは壁に背中を着けて直立する。その目の前で、リカードが火を熾こして焼印を加熱する。
恐怖を長引かせるように、鈍く赤みを帯びた焼印をゼメキンスが腹に――腰のくびれのすぐ下の丸みを帯びた部分にゆっくりと近づける。
「十字架の封印と重ならぬように注意せねばな」
宗教的なこじつけなのか、ただの見映えなのか。
焼印は乳房よりも長く押しつけられていたが。
「ぐううううっ……」
じゅうぶんに覚悟をしていたアクメリンは、全身を硬直させて呻くだけで試練を乗り越えた。
「異端者、魔女、そして逆十字の刻印。正面はずいぶんと賑やかになったが、背中が淋しいの。そうは思わぬか、エクスターシャよ?」
「……思わぬ。されど、そう思うのなら、好きにするが良い」
アクメリンとしては、虚勢を張り続ける他に為す術を知らない。
リカードが、さらに焼印を取り出す。文字は二つに分かれていて、“Mere”,“trix”――つなげれば娼婦あるいは淫乱女の意味になる。それを、わざわざアクメリンに説明してやるゼメキンス。
「わらわを……そこまで貶めるのか」
アクメリンの声から虚勢が剥落していた。無理強いとはいえ、模造男根で終日責められて気を遣り、拷問に怯えてではあってもみずから進んで男に跨がったのだから、『淫乱』は全き冤罪とまでは言い切れない。そこまで弱気に、自虐に、アクメリンは追い込まれていた。海賊どもの娼婦に堕落しながらも、仄聞した限りでは、それなりに逞しく暮らしていたエクスターシャを、今では羨ましく思ってしまう。などと、忸怩たる想いに囚われている間にも。
火床の中で二つの焼印が熱せられる。アクメリンは、壁に向き合って張りつく姿勢を取らされた。
「おまえたちも経験を積むがよかろう」
焼印をホナーとリカードに持たせる。
「尻のように丸みのある部分に焼き付けるときは、まず内側の端を当てて、滑らぬように気をつけ、常に柄の向きに押しつけながら、印影の面を丸みに沿って転がすのじゃぞ」
この二人とて、初めて焼印を捺すわけでもなかろう。あるいは、アクメリンの恐怖を募らせようとしての言葉かもしれない。
ホナーとリカードがアクメリンの両側へ斜めに向かい合って立って。二本の焼印の柄を軽く交叉させて――文字を浮き彫りにした鉄板の縁を、尻の割れ目の内側すれすれに近づける。
ちりちりと熱気を肌に感じて、アクメリンの尻の肉が、ぎゅうっと引き締まる。
「これ、エクスターシャよ。もそっと力を脱け。文字がゆがんでしまう」
筋肉を緩めるには、多大な意志を要した。
尻肉の笑窪が消えるとすぐさま、焼印が押しつけられた。
じゅううっ……
「ぐゔゔっ……」
二枚の鉄板が尻の丸みに沿って外側へ転がってゆき、縁の直線を焼き付けてから、後ろへ引かれた。
「ひいいい……」
床にへたり込むアクメリン。槍に刺された傷の花畠の中で、枠に囲まれた“Meretrix”の赤黒い文字がひときわ鮮やかだった。
前も後ろも火傷をしていては、身体を横たえれば文字が崩れる。アクメリンは両手を縛られて宙吊りにされた。太腿の悪魔の刻印にも触れぬようにと、木枷で開脚させられた。カンカン踊りのような、後ろ手をねじ上げる吊し方にしなかったのは、台本通りに動いた主演女優への褒美だったかもしれない。
褒美は、もうひとつあった。夕餉である。せいぜい三日前に焼いたばかりの、まだ軟らかさがいくらかは残っている麺包と、昼の残り物らしい肉汁たっぷりの肉をふだんの三倍ほども与えられて、手を縛られているときは当然になっている(身体をまさぐられながらの)口移しではなく、ガイアスの手から食べさせてもらった。ガイアスは片方の手に皿を持っていたから、アクメリンは食事に専念できて、それを物足りなく思いはしなかったけれど、奇妙に落ち着かなかったのも事実だった。
こうして、ズブアナでの二日目は終わった。
そして三日目には――これまでに受けた仕打ちの全てを積み重ねても届かないほどの、苦痛と恥辱とをゼメキンスは用意していた。時間があったのに前日に行なわなかったのは、過度の負担でアクメリンの心臓が止まるのを怖れてのことだったと思われる。
前日に使われた分厚い木の板が床に置かれて、アクメリンはその上に鎹で磔けられた。昨日とは違って、直角を超えて開脚させられ、腰の下に丸太をあてがわれて、股間を高く突き上げた姿勢にされた。
まだ別の部位に焼印を捺されるのかと、怯えながらも諦めているアクメリン。開いた淫唇の上端に露出している淫核を摘ままれて、不意打ちの快感に、ぴくっと腰を震わせる。それ以上は身体を動かせない。
ホナーが糸巻を手にして、アクメリンの脚の間にしゃがみ込んだ。
弓なりに反った腰の向こうで何をされているのか、アクメリンからは見えないが。釘に実核を貫かれた傷が盛り上がって、そこで押し留められている包皮が強引に引き伸ばされ、実核のすぐ上を糸できつく縛られるのを、鋭敏な感覚で逐一感じ取った。傷が痛いのとくすぐったいのと、そして不本意な快感と。しかし、その三位一体の官能に身をまかせるには、恐怖と不安が大き過ぎた。
ゼメキンスが磔板の横に膝を突いて、アクメリンの股間に手を伸ばす。剃刀を持っているのが、アクメリンからちらっと見えた。ゼメキンスが腕を小さく動かした――刹那、冷たい感触が股間の中心を奔って。一瞬後に、凄まじい激痛が爆発した。
「わ゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!!」
アクメリンは、声の限りに絶叫した。
激痛は淫核に発したと、それは分かるのだが、何をされたかが分からなかった。つねられたなどという生易しい痛みではない。釘を刺されたのとは違って、それほど激痛が尾を引かない。
ゼメキンスが身を起こした。入れ替わりに、今度はガイアス。小さな壺から軟膏を指で掬い取って、アクメリンの股間――激痛の根源に塗り込める。
その指の動きで新たな痛みが引き起こされて、アクメリンは呻吟しながら、淫核に何かをされたことだけは確信した。
手当てが終わると腰の下の丸太が取り除かれたが、全身を鎹で固定されているので腰は宙に浮いたままとなり、かえって関節に余計な力が掛かって――鈍い痛みが、ずっと続くことになった。
木の板に磔けられたまま、アクメリンは夕暮まで放置された。ガイアスの手で食事を与えられてからは、全身を反らせて手足をひと括りにされた逆海老で宙吊りにされて、深夜になってから腕を後ろで水平まで吊り上げた形で立たされた。眠りかければ膝が折れて身体の重みが肩に掛かって、その痛みで目が覚める。アクメリンはほとんど眠れずに一夜を明かさなければならなかった。
そして、さらに二日間は拷問も凌辱もなかった。後日の過酷な拷問に備えて休養させるのと、火傷が落ち着くのを待っているのだろう。半日ごとに拘束の姿勢を変えられたが、せいぜいがX字形に手足を水平に引っ張られて俯せで宙に浮いた姿にされたくらいで、身体に極端な負担は掛からなかった。アルイェットから拉致されて以来、もっとも穏やかな二日間ではなかったろうか。
しかし、ズブアナでの一週間目。久しぶりにアクメリンは陽の下へ引き出された。全裸に、王族の身を明かす額冠と首飾と指輪だけを着けた姿で。拘束はされなかったが、材木や板を束ねたものを肩に担がされて、鞭で追われながら、街の中心にある広場まで歩かされた。
どの街でも、広場は憩いの場であるよりも集会の場であり、処刑場でもある。
広場の真ん中で、アクメリンは担いで来た材木をみずからの手で組み立てさせられた。材木の端に明けられている矩形の穴に、別の材木の突起を嵌め込んで楔を打ち込めば、人の力では変形させられない頑丈な構造になる。修道僧の指図で、アクメリンが木槌ひとつで組み上げたのは――みずからの処刑台だった。逆V字形の脚に腰の高さで支えられた、三つの穴を刳り貫いた二つ割の板。その穴に首と手首を拘束されて、足は脚に縛りつけられれば――二つの穴を後ろへ突き出し、残る穴も男の腰の高さになる。
組立をしている間も数百人の群衆がアクメリンを取り巻いていたが、いよいよ準備が調うと、男ばかりが百人にちかくも行列を作った。青年から壮年ばかり。列の前のほうは身分ある者や裕福そうな者が多い。
組み立てているときから予感はあったのだが、こうなってみると、これから始まる処刑は命を奪うものではなく、被処刑者を女として辱めるものだと――処女でさえも理解しただろう。
これで、エクスターシャよりも多くの人数を経験することになる。アクメリンは屈辱を覚えると同時に、みじめな優越感に浸った。
処刑台のまわりには移動可能な木の柵で囲いが作られ、前後に入口と出口とが設けられた。入口の内側にはホナーが賽銭箱を持って立ち、出口にはリカードの前に小卓が置かれて御守やら何やらが積み上げられた。マライボで見世物にされたときと似たような拵えだが、違うのは――柵の中に入るのを許されるのが、一度に二人だけという点だった。
「この女は王女の身でありながら、悪魔と契約を結び、異教に奔った罪深い魔女である。処刑はデチカンにて執り行なうが、その前に、この女をいささかなりとも、敬虔な信徒の皆によって浄めていただきたい」
枢機卿猊下の御言葉に、柵の前に列を成している男どもも、柵を取り巻いている野次馬も、一応は真面目くさって聞き入っているが、目つきは教会の中でのそれとは違っている。列の前のほうに並んでいる男は、だぶだぶの袴がはっきりと山になっている。
「女に救いの、こほん、魔羅を差し伸べんと欲する信徒には、いささかの寄進をお願いしたい」
くだけ(過ぎた)物言いに、戸惑ったような小さな笑いが広がる。勤労奉仕をする者にさらなる寄付を求めるなど、有り得ない。教会公認の強制売春だと、大っぴらに認めたも同然だ。
「寄進は銅貨五枚以上をお願いするが……」
その値段の安さに、アクメリンは傷つけられた。銅貨五枚では、一日の糧すら購えない。娼婦の相場など知らないが――海賊どもの慰み物になっている女たちだって、金貨や宝石などを貢がれることだってあるというのに。
「銀貨三枚以上を寄進される方には、木簡の善行証を教皇庁の名において発行致す。金貨二枚以上なら、教皇聖下の代行人たる余の直筆を進呈しよう」
後世に教会を堕落させる一因となった免罪符よりも、はるかに性質(たち)が悪い。ゼメキンスの私腹を肥やすだけの小規模にとどまっているから、まだ救いはあるが。
街の男たちは、若い(しかも高貴な)娘に、自分の嬶にはもちろん娼婦相手に仕掛ければ袋叩きにされかねない変態的な行為も神様公認でしてのけられるのだし、誰も死なないのだから女子供でも安心して見物できるし、もちろん街の教会も余録に与れる。いいことずくめであった――アクメリンひとりを除いては。
最初の二人は、騎士らしい身なりの者と裕福な商人風。どちらも金貨を(競い合うように)五枚も寄進した。二人とガイアスとが、短く言葉を交わして。騎士がアクメリンの後ろに、商人が前に立った。ホナーとリカードが持ち場を離れて、アクメリンのまわりを衝立で囲った。
「銀貨三枚以上を寄進された方には、希望があればこのように告解の場と同じような密室にして進ぜる。中で何が行なわれたかは、余人の与り知らぬこととなる。おのれを誇りたければ、衝立は不要じゃが」
言葉の意味を正しく理解して、笑いが広がった。
衆人環視ではなくなった『密室』の中で、二人の男は下半身を露出した。どちらも猛り勃っている。
いきなり女穴を貫かれて、とっくに予期も覚悟もしていたから、アクメリンはわずかに顔をしかめただけだった。すんなりと挿入ったことに、アクメリンは疑問を持たなかった。すでに何度も犯されているのだから当たり前だとしか思わない。陵辱を拒絶ではなく受容する心持ちが穴を潤していたなどとは、考えも及ばない。とはいえ。
「ほほおお。濡れておった。なるほど、売春婦と焼印を捺されるだけのことはある」
この商人は聖なる言葉を、すくなくとも単語を理解できる教養があるらしい。
「そのようだな」
唇にあてがわれた怒張を、口を開けてすんなりと咥えるアクメリンを見下ろして、騎士も同意する。
「いくら王女様とはいえ、所詮は売春婦に金貨五枚は張り込み過ぎた。すこしは元を取らせてもらおうか」
商人は怒張を抜き去って、もっと上にある穴に挿れ直した。すでに怒張が潤滑されていたから、アクメリンはやはり低く呻いただけ。
「尻といい口といい、厳しく咎められる行為を、まさか枢機卿猊下から督促されるとは」
「しかも、天国が約束されるのですからね」
囲いの板が、外から軽く叩かれた。
「後がつかえています。早く浄めてやっていただきたい」
ガイアスに促されて、二人は口を閉ざし腰を動かし始めた。
ぱんぱんぱんぱん……
ずじゅぶぶじゅぶ……
二つの音がひとつになって、板囲いに小さく反響し始める。
高貴な娘を犯しているという興奮か、遮蔽されているとはいえ数百人の面前で行為に及んでいるという背徳に煽られてか、二人はともに二十合ほどでアクメリンを浄め終えた。
板囲いとはいっても、胸から上は見えている。二人が身繕いを終えるや、すぐに衝立は下げられて。二人はそれぞれに枢機卿猊下直筆の善行証書を拝受して柵の外へ出た。
リカードが桶の水を手に掬って、浄められた部分を手早く清める。
そして、次の二人がアクメリンの前後に立って――ひとりが衝立を要らないと言うと、もうひとりも見栄を張って、たいした持物でもないのにおのれを誇ろうとする。当人も自覚しているらしく、なかなか勃起しない。
「そのまま咥えさせなさい。この女は、万事心得ております」
ガイアスにけしかけられて、その男は萎えた逸物をアクメリンの唇に押しつける。アクメリンはそれを咥えると、ずぞぞーっと音を立てて啜った。その刺激と、若い娘にそんな淫らな奉仕をされているという想いとで、たちまちに排泄器官は交接器官にと変貌する。
後ろから(今度は女穴を)突かれる動きは首枷に遮られて前まで伝わらない。そもそも、首を自由に動かせない。アクメリンは唇と舌を懸命に動かして、男を射精に導こうと努めた。
喜んで奉仕しているのでもなければ、行為を愉しんでいるのでもない。不慣れな算術に頭を巡らせた結果だった。列に並んでいる人数は百を超えている。二人一組としても五十おそらく六十組になる。一組に十分が掛かるとして、ひと休みもせずに十時間以上。一方、日没まで十時間ほどか。
どんな集まりでも、日没になれば解散する。そのときに列が残っていたら――それを責められるのを怖れたのだった。拷問、正確には懲罰というべきだろうが、それを逃れるための淫乱な振る舞い。そんなふうに、アクメリンは自身でも信じている。
二組目が終われば、すぐに三組目、四組目。そこで金貨は終わりになって銀貨が続く。衝立を望むのと露出願望を果たすのは半々だった。
首枷から後ろは、一方に偏らないようにガイアスが適宜助言しているが、口は常に犯される。口中に放たれた物は何にしろ吐き出さないように調教されているから、銀貨の組が始まった頃には、喉にいがらっぽさがわだかまり、じきに吐き気も催してきたのだが。それを見越してだろう、朝から食事も水も与えられていないので空嘔吐きにしかならない。
しかし吐き気は――女穴と尻穴を交互に犯されるうちに、不本意にも引き出される官能で緩和されて。じきに、ふたつの穴を同時に満たしてはもらえないのが、物足りくさえ感じるようになってくる。
そんなふうに、凌辱の中に惨めな愉悦を見出だしていたのも、二十組目あたりまでだった。ふたつの穴は中が痺れたようになって、怒張の出挿りは分かるけれど、細かな引っ掛かりとかは感じられない。痛くもつらくもないけれど、ただそれだけ。
そして口は――舌が攣って、思うように動かせない。
男は荒腰を遣い、亀頭を上顎にこすりつけたり喉奥まで突いて、どうにか射精に達する。その間に、下半身のほうでは三人が入れ替わったりする。
これでは日暮れまでに埒が明かないと、ゼメキンスも判断したのだろう。陽が城壁にも達しないうちに、浄化という名目の公開輪姦を打ち切った。
「希望する者には番号札を配るゆえ、明朝に参集願いたい」
アクメリンは晒し台に拘束されたまま、広場に放置された。ただし、野次馬が勝手に浄めの儀式を行なえぬよう、腰に巻いた太い鎖が股間を縦に割った。
すっかり陽が落ちてからは、昨日までよりも質が落ちたとはいえ、一応は食事も与えられ、足首を晒し台の脚に縛りつけている縄だけはほどいてもらえたので、不自然な姿勢でも幾らかは眠れ、あまり消耗することもなく翌朝を迎えたのだった。
――上体を直角に折り曲げて枷に固定されているアクメリンの横に、新たな晒し台が組み立てられた。台などという大袈裟な物ではない。逆L字形の柱が一本、それきりだった。頂部の横木に滑車が取り付けられ、太い縄が垂らされて先端に丸い輪が作られる。アクメリンは後ろ手に手首だけを縛られて、縄の下に立たされた。縄の輪に首を通される。
まさか、この場で殺されるのだろうか――とは、怯えない。焚刑にしても、手足に釘を打ち込まれて放置される磔刑にしても、長いこと苦しみ悶えながら絶命する。縛り首なんて慈悲深い殺し方をしてもらえるのなら、ありがたいくらいだった。
列の先頭に並んでいた二人の男が、柵の中に入って来て、アクメリンの前後に立った。銅貨五枚以上(実際には見栄を張って銀貨一枚を寄進している)の口だから衝立は無く、二人とも他人に見せて恥ずかしくないだけの逸物を勃てている。
この街の下吏が二人、リカードの合図で縄を引いた。
「くっ……」
喉を絞められ宙吊りになるアクメリン。ほとんど瞬時に、すうっと目の前が薄暗くなった。息は出来ないが、すぐには苦しくならない。魂が身体から遊離するような、奇妙な感覚が生じた。このまま死ぬのかな。そう思う間もあらばこそ。
前に立っていた男が、アクメリンの脚を割って膝を抱え上げ、M字形に開脚した中に腰を割り込ませる。同時に、後ろの男も尻を抱えた。
首の縄が緩んだ。アクメリンは二人の男に抱えられて、息が出来るようになった。
腋の下に縄を通すか、いっそ台の上に立たせれば簡単なものを、このような演出は見世物を面白くするためか、アクメリンに恐怖を与えるためか、その両方だろう。
二人の男は勃起を穴にあてがおうとするが、手放しでは狙いが定まらない。
「失礼致す」
リカードが跪き、二人の怒張を手に持って穴にあてがった。
アクメリンは、前後の穴に亀頭が押し挿ってくるのを感じた。どちらも穴と棒の角度が合っていないので、棒のほうがぐねぐね動くのも分かる。
「うん、うん……」
「くそ、この……」
後ろの男がアクメリンを揺すぶって、強引に棒を穴の奥まで突っ込もうとする。前の男も、揺さぶりに合わせて腰を突き上げてくる。
ぎちぎちみしみしと穴肉が軋みながら、アクメリンの身体が少しずつ沈んでいく。
ずっぷりと嵌まったところで、また縄が引かれた。男たちが腰を激しく動かし始める。身体の重みの半分くらいは縄に吊り上げられて、アクメリンはまた目の前が薄暗くなっていき、息が詰まる。そして、魂が漂い出すような――快不快でいえば、むしろ快に寄っている。カンカン踊りをさせられたときの、頭が透き通っていくような感覚に似ている。違うのは、二つの穴を激しく刺激されて……官能が高まっていくのだが。
じきに息苦しさをはっきりと覚えて。無意識のうちに、アクメリンは足をばたつかせる。それで身体が揺れて、腰に渦巻く官能も高まって――また、それが生じた。苦痛と快感の融合。
「…………!」
アクメリンは頭を激しく振り立てて、口は息を吸おうとぱくぱく喘いで。それが続けば、窒息して死ぬのと絶頂を極めるのと、どちらが先かというところまで達したのだろうが。
「うおおおおっ……」
前の男が吠えながら精を放って、アクメリンの膝を抱えていた腕をはなした。
がくんと、アクメリンが宙吊りになったと同時に縄が緩められて、地面に向かって倒れ込む。
「うおっと……」
後ろの男が、覆いかぶさるようにアクメリンと共に倒れる。
「ぐぶふっ……!」
アクメリンは、さながら押し潰された蛙。
倒れた男はすぐに起き上がったが、怒張の先は白濁にまみれている。倒れる直前か、倒れた衝撃かで、この男もアクメリンを浄めていたようだ。
倒れたままのアクメリンを、ガイアスが手早く後始末をする。
「これは、ちと形を考えねばな」
ゼメキンスがつぶやいた。手間が掛かり過ぎるし、くり返しているうちにはアクメリンを殺してしまいかねないと危ぶんだのだろう。
しかし、浄めの儀式そのものは続けられた。前側の男が脚を抱え上げるのはそのままに、後側の男はアクメリンの腋の下に腕を入れて、羽交い絞めの要領で身体を持ち上げる。首に巻いた縄は、ほとんど使わなくて済む。というよりも、アクメリンを追い込むための道具と化した。
「これでも気を遣るとなれば、いよいよもって、こやつは真性の魔女に相違ない」
これも、近くにいるガイアスにした聞き取れない呟きだった。
註記:言わずもがなですが。ガイアスが考える真性の魔女とは、「ジョ」を「ゾ」に置換した概念です。日本語ならではのお遊びです。註記までメタってどうするんですかね。
二組目は、すんなりと終わった。アクメリンの首に巻かれた縄が締まることはなく、単純に身体を持ち上げての二本刺しというだけの――それでも、群衆には見応えのある見世物ではあったが。
本来は、昨日にあぶれた者たちの処理だったが。銅貨五枚くらいならと、新たに列に加わった者も少なくはなく、結局はご百人を超える頭数というよりは本数となっている。
その十本目が終わって。ゼメキンスがひとり勝手に頷いたのは――アクメリンが挿入と抽挿行為そのものからは、ほとんど快感を得ていないと見極めたからだった。
それはしかし、当然ではあろう。アクメリンが処女を奪われてから三週間と経っていない。色責め馬車で朝から晩まで抽挿されたこともあるが、まったく陵辱されず苦痛だけを与えられて過ごした夜のほうが、圧倒的に多い。狎らされているのは媾合に対してではなく拷問に対してなのだ。
拷問に狎らされて、そこに直截の快感とはいわないまでも苦痛以外の何かを感じるのであれば、それはゼメキンスが考えるところの本物であろう。彼は、それを確かめようとした。
次の組が始まってすぐに。ガイアスの指示で後ろの男が、二の腕で腋の下を持ち上げたままアクメリンの頭を首が折れ曲がるまで押し下げた。同時に縄が引かれる。
「くうっ……?!」
首を絞められて、しかし、さっきとは違って――目の前の男の顔がはっきり見えている。息だけが苦しい。いや、まったく出来ない。
二人の男が再び腰を動かし始めた。
「くっ……くふっ……んっ……」
その上下動でわずかに縄が緩んだ隙に、ごくわずかに呻き声が漏れる。しかし、息を吸おうとすると喉が潰れてしまう。たちまち、アクメリンの顔が赤く染まっていく。
頭が、がんがん痛む。一方で、二つの穴は激しく突き上げられこねくられる。死に直面しながらも、腰のあたりに温かな疼きがわだかまっていく。そして――目の前が暗くなっていって。それが訪れた。
すうっと、頭が軽くなった。透き通った感覚が延髄から背骨を駆け下りていって、腰の疼きに達した瞬間。
(……!!!)
身体が砕け散るような尖烈な快感が生じた。
膝を抱えられてM字形に開いていた脚がぴいんと突っ張って、脹脛も太腿も小刻みに痙攣する。垂直に立った上半身と合わせて、さながら大輪の三弁花(トリリアム)。
アクメリンは恍惚の中へと溶け込んで――逝きかけたところで、首の縄が緩んだ。
「かはっ……」
ひゅうひゅうと喉を鳴らして何度も息を吸った。その間に恍惚は霧消して、割れるような頭の痛みだけが残っていたが、それも次第に薄れていった。
気がつけば、アクメリンは地面に投げ出されていた。全身の筋肉が痙攣したとき、穴のまわりの筋肉も例外ではなく、その律動と締め付けに二人の男は堪えられなかったのだ。///1st
次の組の二人が、同じように羽交い絞めにしてアクメリンを立たせる。ガイアスが穴を清めて、首ではなく顎を吊るように縄を掛けた。縄が引かれると首が伸びるだけで、それはそれで身体の重みの過半を吊れば頸椎を痛める危険もあるが、羽交い絞めでアクメリンを支える補助にしか使われないから――アクメリンは不快な思いをしただけだった。そんな形で犯されても、恍惚は訪れなかった。ただ嵌入されて抽挿されるだけなら、すでに穴は馴らされ切っている。
――十組ばかりを、男を射精させるためだけの道具として、アクメリンは扱われた。
そして、また縄を掛け直されえう。
今度は首を吊られると、アクメリンは戦慄した。しかし、殺されないだろうとも分かっている。戦慄には、甘い香りが伴っていた。
期待とまではいわないにしても予想通りに首を絞められて、アクメリンは再び三弁花(トリリアム)を咲かせた、前よりも少しだけ長く。前を犯していた男はアクメリンを浄められなかった。寸前で大量の水を浴びせられたせいだった。さすがにアクメリンは脱分゜まではしなかった――しようにも、穴はふさがれていたから。
しかし、それも。何度も三弁花を咲かさせた後に。地面に投げ出されてから、やらかしてしまったのだった。
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かなりシーケンスが変わったというか、即興というか。
自分で自分に焼印を捺すなんて、まるきり予定外でした。
まあ、焼鏝責め好きクンの本音は、フィションク準王国を告発したりすると大騒動になるので、エクスターシャ王女をスケープゴートにして、その過程であれこれ愉しめば良し。ということらしいです。
どうにかこうにか、苦痛と快感をアウフヘーベンするところまで辿り着――けないのを、首に縄を掛けて引っ張って来ましたが。
ゼメキンスの回想で二十年前の「本物の」魔女、マイ・セシゾン/真性マゾを登場させたのも、重い尽きですが。
いいもんね。元々は、本命小説を書く片手間の小遣い稼ぎに始めたSM小説。本命なんざ、前世紀で馬群に呑まれちまって、酒は呑み続けて、今じゃSM小説がライフワークにして趣味にしてレーゾンデートルなんだから。好き勝手に書くさ。分かるやつだけ付いて来い来いだからね。格好よく言えば、読者に媚びない。なんて、文学青年の欠片は、粉々にしてカルシウム摂取じゃ意味不明。

現在まで約320枚。たぶん500枚には納まるでしょう。
Progress Report 5 →
ちまちまと書き進めています。
勤務中の休憩とか手隙のときのほうが破瓜が逝ったりします。フリーセルも紙飛行機も無いですから。
ともかくも。『拷虐の四:浄化儀式』を尻切れトンボで終わらせて。『拷虐の五:重鎖押送』に取り掛かりましょうか。
ということで、Part4(2万8千文字)を一挙公開。たぶん、後で手を入れるでしょう。
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拷虐の四:浄化儀式
拷問小屋に入ってきたのは、見知らぬ三人の男たちだった。ひとりは役人らしい、こざっぱりした服装。あとのふたりは、素肌に布の胴着と継当てだらけの半袴。中流以下の家庭に雇われている使用人か、もっと若ければ徒弟といったところだが、場所柄を考えれば拷問吏だろう。
ひとりの囚人が引き出されて、鎖で宙吊りにされた。ゼメキンスがアクメリンに施すような、残酷だが趣向に富んだ吊り方ではない。
「ゴケットよ。おまえが押入りの犯人だというのは、目撃証人もおるから、動かぬところだ。仲間の名を言え。そうすれば、重追放で済むように弁護してやる。おまえひとりで罪をかぶるつもりなら、斬首は免れないぞ」
役人の説得に、ゴケットと呼ばれた男は沈黙で答える。
「そうか。まずは鞭打ちからだ」
役人は拷問小屋の隅に置かれた小机に座って。拷問吏のひとりが、鞭を握ってゴケットの背後に立った。
その鞭を見て、アクメリンは囚人に同情した。マライボでゼメキンスがアクメリンに使った鞭と、形も長さも似ている。だが、鞭の先から半分には短い針が編み込まれていた。苦痛も大きいに決まっているが、あんな凶器で叩かれたら肌が裂けてしまう。
ぶゅんん、バヂイン!
「ぎゃああっ……!」
男だけあって、腹の底から揺すぶられるような野太い悲鳴。
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
たった四発で、ゴケットの背中は切り刻まれて、切り裂かれた肌がべろんと垂れた。
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
次の二発で、それが千切れ飛んだ。
「待ってくれ!」
ゴケットが、早々に音を上げた。
「なあ……おれが重追放なら、相棒も首を斬られたりはしねえよな?」
「弁護はしてやるが、約束はできんぞ。御裁きは市長殿がなさるんだからな」
「…………」
ぶゅんん、バヂイン!
ぶゅんん、バヂイン!
「やめてくれ! 言うよ、言うから!」
ゴケットはあっさりと降参して、共に押し入った男と、外で見張りをしていた女の名前を挙げた。それで、彼の取調は終わり。血だらけの背中をそのままで服を着せられ、別の小役人の手で外へ引き出された。裁判は仲間と揃って受けるはずだから、拷問設備のない獄舎へ移されるのだろう。
小休止を挟んで、次に引き出されたのはロシヒトという、面構えからして堅気ではない中年の男だった。酒の上の諍いで隣人を殺して、それは男も認めている。殺そうとして危害を加えたのか、喧嘩が過ぎて殺してしまったのか。故意の有無が問われていた。男にしてみれば、死刑か重追放かの岐路である。
ロシヒトは先のゴケットと同じ鞭打ち切裂きの拷問に掛けられて――三十発を超えたところで息絶えた。失血による死ではなく、心臓が破裂したのかもしれない。遺骸は服を着せられて運び出された。それからどう処理されるのかは、アクメリンには分からないし、知りたくもなかった。
拷問で殺してしまったのだから、後の処理もいろいろある。役人は小机の上で何枚かの書類を認め、その間、二人の拷問吏は、若い娘の裸体をじっくり見物する役得に与った。
最後に、ヒューゴという青年への拷問が始まる。姉の亭主の家に放火した嫌疑が掛けられているが、先の二人と違って目撃者はいない。すでに幾度も拷問に掛けられていて、身体じゅう傷だらけだ。
「僕があいつを憎んでいたのは、誰だって知っている。この手で殺してやりたかった。でも、姉さんが寝ている家に火を点けるなんて、そんな馬鹿なことをするはずがない」
青年の真摯な訴えを聞くうちに、これは冤罪に違いないとアクメリンは信じた。冤罪といえば、彼女自身もそうなのだが――自身の悪だくみが招いた結果だから、まったくの無罪ではない。
青年も、先のふたりと同様に宙吊りにされた。しかし、鞭ではなかった。膝の高さほどに煉瓦が四か所に積み上げられて、その上に一辺が二歩長ばかりの正方形の鉄板が置かれた。四つの大きな火皿に石炭が灼熱されて、鉄板の下に差し入れられた。しばらくすると、鉄板の表面で煙が燻り始める。拷問吏が手桶に半分ほどの水をぶちまけると、あまり蒸気は上がらず、小さな水の玉がぱりぱりと音を立てながら転げ回った。鉄板は赤く灼けてはいないが、水が沸騰するよりはるかに高温になっている。
「火を点けたのは、おまえだな」
「そんなに、僕を罪に落としたいのか。どんなに責められたって、僕は無実だ」
青年を吊っている鎖が緩められて――鉄板の上に裸足が着いた。
「熱いッ!」
青年が跳ねた。が、すぐに足の裏が鉄板に落ちる。
「熱いッ……くそッ……僕は無実だ!」
叫びながら、ぴょんぴょん跳びはねる。跳び上がるために踏ん張ることすらできず、片足ずつ上げては、熱さに耐えかねて足を踏み替える。凄まじい速さで踊っているような仕草だった。
「熱い、やめてくれ、うあああっ!」
すぐに青年の足元から青白い煙が立ち昇り始める。悲鳴の合間に、じゅうっと肉の焼ける音が混じる。
さらに鎖が緩められて。その重みで腕が垂れて身体の釣合を崩して、青年が転倒した。
「ぎゃああっ……助けて!」
灼けた鉄板の上を転げ回って、あわや転落の寸前に鎖が引き上げられた。ぐきっと鈍い音がして、肩の一方がはずれたらしく、身体が一方に傾いた。
振り子のように揺れる身体を役人が押さえて止めて。拷問吏が二人がかりで、また青年を鉄板の上に吊り下ろす。
「やめろ! 僕は無実だ!」
叫びながら踊り狂う青年。
はっと、役人が入口を振り返った。威儀を正して、きらびやかな法服に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません。まだ片付かない罪人が残っておりまして」
ゼメキンスは鷹揚に頷いて。
「左様か。世俗の罪を明らかにするのも大切じゃからの。されど……」
「はい、心得ております」
青年への拷問は直ちに中断されて。二人の拷問吏に抱えられて、全裸のまま拷問小屋から連れ去られた。役人が青年の衣服を火皿に投げ入れる。
「ふむ……」
青年には二度と服を着せる必要がない――罪を自白させて死刑に処すか、さもなければ拷問で責め殺すという役人の意思を、ゼメキンスは読み取っただろうが、それには何も言わない。地方都市の行政にまで枢機卿猊下が口を挟むのは筋違いである。しかし、もっと細々とした事柄には口も手も出す。
下役人に青年を引き渡して戻ってきたふたりが鉄板を片付けに掛かると。
「そのままにしておきなさい。まさか、この地にカンカン踊りの舞台があったとは知らなんだ」
せっかくの道具立てだから、アクメリンも舞台に立たせるという意味だ。
註記:この拷問は、日本では『猫踊り』と称されている。
また、拷問ではなく『ええじゃないか』や『風流(ふりゅう)』の系譜である『看看踊(かんかんのう)』がある。
これらと『フレンチ・カンカン』を混ぜこぜにして『カンカン踊り』とした。
聞いていたアクメリンは即座に理解して――震え上がった。青年の苦悶を目の当たりにしている。肉の焦げる臭いまで嗅いでいる。これまでの拷問が遊びにしか思えないくらいに残酷で苦痛に満ちている。
水平の吊りから下ろされて、あらためて腕を垂らしたまま後ろ手に縛られる。
「なぜ、私に……わらわを、責めるのじゃ。わらわは王女エクスターシャであると、認めておるではないか?」
ゼメキンスの脚本に従っているのに責められる理由がわからなかった。
「おまえは基督者か?」
あっと思った。ゼメキンスは、王女を異端者として、信仰を捨てて異教に奔った者として処罰するのだと、最初から言っていた。いきなり決めつけられはしたが、彼女自身はそれを自白していない。
どう答えれば拷問を免れるだろうか。それを考える。信仰を捨てていないと答えれば、灼けた鉄板の上に立たされる。基督者であることを棄てたと答えれば――デチカンで焚刑に処せられるにしても、とにかく今日は焼かれずに済む。
「わらわは、神の教えを裏切った。嫁ぐ異郷の地の神を受け容れた」
せいぜい王女らしい言葉遣いで、ゼメキンスが望む通りの『自白』をしたつもりだったが。彼の求める答は、遥かに大きかった。
「異教徒に嫁ぐのは、父親の差し金じゃな。つまりは、父親も異端者。国王が異端者なら、国そのものが教会に背いていると考えて間違いあるまい」
十字軍。アクメリンの脳裡を、その言葉が掠めた。
十字軍は、なにも東方の異教徒に向けて発せられるとは限らない。聖地の奪回が目的とは限らない。西方社会全体に布令を出さなくても十字軍は起こせる。具体的には――リャンクシー王国とタンコシタン公国に勅許を与えれば、両国は共同してフィションク準王国を滅ぼすだろう。そこに、教会あるいは西方社会全体にとって、どのような利益があるのかまでは、政治とは無縁の男爵隷嬢などには見当もつかないのだが。
フィションクが滅びれば、リョナルデ家も共に滅びる。一族郎党、殺されなくても庶民どころか奴隷にまで堕とされかねない。淫奔な女を後妻に迎える王家などに、アクメリンはたいして忠誠心を持ち合わせてはいないけれど――実家が没落するとなると。
「違う……!」
咄嗟に否定はしたものの、後の言葉が続かない。
「違うとな。何が違うというのじゃ?」
エクスターシャ個人とメスマン首長国とのつながりを……そんな虚構は、砂で造った城壁よりも脆い。それでも……
「父は、メスマンに傭兵を頼んだだけじゃ。メスマンは裏切りを恐れて人質を求めた。父王の体面もあって、輿入れの形を取ったが、基督の教えは棄てたりせぬ。わらわは……メスマンに求められて、異郷の神に帰依はしたが……」
「では、神を謀ろうとしたのか。異教徒に成り下がるより、いっそう邪悪な異端ではないか」
「…………」
神の教えに関して、田舎貴族の小娘が枢機卿に太刀打ちできるはずもない。
アアクメリンが言葉に詰まると、ゼメキンスは拷問を始めるための台詞を口にした。
「真実を自白するには、厳しい尋問が必要らしいの」
ぢゃりりりと鎖が鳴って、アクメリンの腕が斜め後ろへじ引き上げられていく。アクメリンは自然と後退さるのだが、鉄板の手前に立つガイアスが尻を押し返す。
その場でアクメリンの腕が水平よりも高くねじ上げられ、上体が前へ倒れていく。やがて、上体を起こしても倒しても鎖を引っ張ってしまう均衡点に達して。アクメリンはつま先立ちになり、ついには足が床から浮いた。
「きひいっ……肩が抜ける!」
アクメリンの訴えを無視して、鎖は引かれ続ける。
アクメリンの足が鉄板より高く浮いてから、ガイアスがゆっくりと手を放す。
それでも、アクメリンの身体は振り子のように大きく揺れて、肩にいっそうの力が掛かる。
「きゃああっ……」
悲鳴は、苦痛のせいだけではない。目に見えている何もかもが大きく揺れるのは――ぶらんこ遊びとは似ていても、大きな恐怖だった。
ホナーとリカードが、長い棒でアクメリンの裸身を押し返して、揺れを止めた。その不快な痛みを気にするどころではない。
ちりちりと焼けるような熱気に、アクメリンは包まれた。
ホナーが手桶の水を鉄板に撒いた。
ジュワアアッ……ヒューゴのときと違って、凄まじい水蒸気が立ち昇った。
ぎゅっと心臓を捻じ千切られるような恐怖。実はずっと鉄板の温度が下がっているからこその現象なのだが、錬金術(現代の化学と物理) の知識など持たないアクメリンには、それが分かるはずもない。
註記:物理学的基礎体力の無い読者は『ライデンフロスト』で検索してください。筆者は読者に、嗜虐癖、被虐妄想(ヒロインへの感情移入)、倒錯性愛指向の共有を期待していますが、科学的素養の共有までは求めていません。上から目線。
もっとも、肉の表面がすぐに焼け焦げるか、しっとりした肉感を保ちながら中まで火が通るかの違いしかないのだが。
「よろしい――下ろせ」
ちゃり、ちゃり、ちゃり……徐々にアクメリンの足が鉄板に近づいていって。
「熱いッ……」
つま先が触れるや否や、アクメリンは足を跳ね曲げた。鎖が止まる。
「しゃんと立て。それとも、脛肉を焼かれたいか」
ゼメキンスの言う通りだった。足を曲げたまま吊り下ろされれば、灼けた鉄板の上に座り込む形になってしまう。皮膚の分厚い足の裏を焼かれるほうが、苦痛は幾らかでも小さいだろう。
アクメリンは、断崖絶壁から身を投げるほどの決心で、脚を伸ばした。熱いというより、焼床鋏(やっとこ)で肉をつねられたような激痛。
「痛いッ!」
先に痛みを感じたほうの足を跳ね上げた。途端に、鉄板を踏んでいるほうの足にいっそうの熱痛が奔って、踏み替える。すると、勢いよく下ろしたせいで、足の裏を身の重み以上に押しつけてしまう。
じゅっ……足の裏に、肉の焼ける音が伝わって、アクメリンは恐慌に陥った。
「いたいッ……あつッ……ひいいッ!」
アクメリンは悲鳴を上げながら、狂ったように足を踏み替える。あまりの激しさに乳房が揺れ、亜麻色の長い髪が宙に踊る。
肩に負担を掛けるのを覚悟して、後ろへねじられた腕を支えにして腰を曲げれば、両足が宙に浮くのだが、それを思いつく裕りもない。もっとも、そうしたところで、さらに鎖を緩められるだけなのだが。
「いやあッ……あつい、いたい……ゆるして……」
国王が神に背き、国を挙げて異教に帰依した。そう証言すれば、赦してもらえるだろうか。そんな考えが頭を掠めて、あわてて打ち消す。我が身が焼き滅ぼされるのは――王女の身分を簒奪して、異郷の国王の妾に成り下がろうとした、あまりに厳し過ぎはするけども、その罰と諦めもつく。けれど、家族には何の罪も無い。
「あああっ……あつい……いやあああっっ!」
デチカンで処刑されるのだから、この場で殺されるはずがない。もしも足が焼けてしまえば、荒野を歩かされることも見世物として市街を引き回されることもなくなる。そういった小賢しい打算は脳裡に浮かばず。足の裏の熱痛から逃れるだけのために、アクメリンは跳ね踊り続けた。息が切れて悲鳴も途絶え、心臓は胸全体に轟くほどに早鐘を打ち……全身から飛び散る汗が鉄板に落ちて蒸発する音が、踊りの激しさに不釣合なささやかな伴奏となって。
五分、あるいは十分も経っただろうか。ふっと身体が軽くなったのを、アクメリンは感じた。苦しさが、すうっと消えた。足の裏には熱痛が突き刺さっているけれど、駆け足よりも早く足を踏み替えていれば、いつまでも持ち堪えられそうな気になってきた。
アクメリンは悲鳴を叫ぼうともせずに踊り続ける。身体を動かせば動かすほど軽くなってゆき、楽になってゆく。いや、心地好くなる。そして、頭は――雲は散り霧も消えて、どこまでも透き通っていって、故郷の家族も自身の運命も、次はどんな拷問に掛けられるのだろうかという恐怖さえも消え失せて。アクメリンは無心に踊り続ける。その顔には、苦悶ではなく見誤りようもない恍惚が浮かんでいた。
註記:(今回はしつこいな)ニュートンが発見する以前から林檎は地面に向かって落下していたと同様に、中世においてもランナーズ・ハイは存在した。それは、おそらく神の恩寵もしくは悪魔憑きと理解されたであろうが。
「ふうむ……」
ゼメキンスが難しい顔で首を横に振った。
「こやつ、もしや本物の魔女かもしれぬ。じゃとすれば、二十年ぶりじゃわい」
これまでにゼメキンスが主導して断罪してきた魔女の数だけでも十指に余る。そのことごとくが、ただ一人を除いて無実であったという、重大な告白ではあった。
「とは――以前にうかがった、シセゾン家のマイでしたか。彼女以来の?」
聖ヨドウサ修道院でゼメキンスの片腕を務めていたことのあるガイアスが訳知り顔で水を向けた。
「うむ。ホナーとリカルドには話しておらなんだな。マイという娘は子爵家の次女――よほどの証拠がなければ魔女審問に掛けることなど出来ぬのじゃが」
アクメリンの踊り狂う様を注意深く観察しながら、ゼメキンスは手短かに話す。
マイは、子供を産める身体になって半年も経たぬうちに女になったという。それからは、弟ほどの年齢から父親よりも歳上まで、貴族だけでなく使用人とも、娼婦もかくやといわんばかりの男漁りに耽ったという。父親の意見も折檻も、聞く耳も沁みる身も持たぬ。ついには(当然ながら)女子修道院へ送られたのだが。
マイは修道院で、我が身を鞭打つ修行にのめり込んだ。我が手では生ぬるいし鞭を避けようとするからと、先輩に頼んで縄で縛られ鞭打ってもらい――いつしか、男女の交わりにおける男性の役割までも求めるようになっていった。明らかに修行からの逸脱であり、神の教えに背く行ないであった。修道院は彼女に対して魔女の疑いを持ち、審問の技術に定評のある聖ヨドウサ修道院に処置を委ねた。
「きゃああっ……!」
疲れを知らぬが如くに踊り狂っていたアクメリンだが、体力の消耗は極限に達していた。足をもつらせて、灼けた鉄板の上に倒れ込む――寸前を、鎖に引き留められた。
膝を突く寸前を、ぢゃららららっと鎖に引き上げられて。修道僧が手加減したのか、アクメリンの身体がヒューゴより柔らかかったからか、肩を脱臼することもなかった。
「あああああ……」
頭をのけぞらせて、恍惚と呻くアクメリン。全身が汗に絖っている。
手が滑車に届くほどに吊り上げて、ガイアスが足の裏の火傷を調べる。
「生焼けです。食べると腹に虫が湧くでしょう」
ホナーとリカードが苦笑する。
「歩かせるのは難しいかな?」
ガイアスも無駄口はやめてゼメキンスに答える。
「数日は。以後も十日ばかりは、裸足はよろしくないかと」
ゼメキンスは肩をすくめただけだった。
足の裏の火傷にも、万能薬たる錬金術の秘薬と薬草を混ぜた泥が塗られて、火酒を染ませた布が巻かれた。細菌の存在を知らず消毒の概念が無くとも、経験則による手当ては、それほど的を外していない。錬金術の秘薬の正体にもよるが。
アクメリンは、三人の男たちが押し込まれていた檻に放り込まれた。中腰で三歩は歩ける広さだから、マライボに比べればずいぶんと待遇は改善されている。
「針による探査も、まるきり効かなんだ」
途切れていた回想を、ゼメキンスが唐突に再開した。是非とも後輩に語り継いでおきたいという熱意の表われだろうか。
「念のために目隠しをして、手が肌に触れぬよう気をつけて刺したのじゃが、どこを刺しても痛みを訴える」
「……?」
それが普通なのではと、ホナーもリカードも拍子抜けした顔。
「ところが、その娘はとんでもないことを言いおった。もっと全身をくまなく深く刺して、魔女の証がどこにもないと、潔白を証してください――とな」
針による探査が終わったとき、マイの肌のどこに一本の指を当てても、針傷に触れぬところは無くなっていた。彼女はほじくらずとも見分けられる悪魔の淫茎を持っていたが、そこに針を突き刺されると、ひときわ凄絶な悲鳴を上げた。
「ところが、切なそうな余韻を嫋々と引きずりよる。このアクメ……こほん、エクスターシャと同じようにな」
ゼメキンスは図らずも、捕らえた娘がエクスターシャの身代わりだと承知していることを暴露しかけたが、それは三人の修道僧もとっくに承知しているだろう。きっちり言い直したのは、体裁というやつである。話を戻す。
マイは、さまざまな審問に掛けられたが、そのすべてに耐え抜いた。のではなく、悦んだといったほうが当たっているだろう。
鞭打たれれば泣き叫びながら、みずから脚を開いて股間を曝し胸を突き出して鞭を誘った。木馬に乗せれば、わざと暴れて股間を傷つけ、血液に染まった粘い蜜をこぼした。乳首と悪魔の陰淫を焼鏝で潰されたときは、聞き誤りようのない喜悦の声と共に失神した。女穴も尻穴も『苦悶の梨』に引き裂かれてさえ、凄絶な咆哮には艶があった。
「父御(修道院長)も、本物の魔女と対峙したのは、それが初めてじゃった」
偽の王女への拷問など児戯に等しい過酷な責めが十日の余も続けられて、マイは命を落とした。死してなおマイは魔女の姿を隠し通して、その死顔はさながら聖母マリアのようであったと――ゼメキンスは述懐した。
「そのような苛烈な拷問に耐えたことこそ、魔女である動かぬ証拠ではあったがな」
水に浮かんで生き延びれば魔女、沈んで溺れ死ねば魔女ではないという理屈と通底した、どう転んでも被疑者は助からない論理だった。
「この娘がマイに劣らぬほどの魔女であるか、すぐに露見する詐欺を目論んだ小悪魔に過ぎぬかは――これから、じっくりと見定めてくれよう」
気を失っている檻の中のアクメリンを見詰めながら、ゼメキンスが呟く。次の拷問をどんな苛虐にするか、想を改めているのだろう。
「まずは夕餉じゃ。こやつにも、黴の生えた麺包と肉片がこびりついた骨くらいは与えておけ。親切に食べさせてやるまでもないぞ」
アクメリンの世話係みたいな形になっているガイアスが、おどけた仕種を交えて胸に十字を切った。
――檻の中で失神から覚めたアクメリンは、床に転がされている麺包と骨、そして水を入れた椀に気づいた。渇きを癒そうと椀を手に取って半分ほども飲み、人心地の欠片なりとも取り戻して、ふっと考えた。空腹を感じるどころではないし、そうだとしても、こんな塵芥も同然の代物など口にしたくもない。けれど、手を付けなかったら――それを口実に、飢え死に寸前まで食べ物を与えてもらえなくなるのではなかろうか。そんな卑屈な考えをするまでに、アクメリンの心は挫かれていた。
アクメリンは乾き切った麺包を水にふやかして食べ、骨もわずかにこびりついている肉片を歯でこそぎ取った。惨めさに涙するくらいに、残飯は美味だった。悔し涙をこぼすくらいには、心を喪っていなかった。
そうして、さらに時は過ぎて。ついに四人の拷問者が戻って来た。リカードの持つ角灯に、四人の姿が悪鬼羅刹めいて浮かび上がる。その顔が赤く見えるのは、灯りのせいだけでもないだろう。彼らは救世主の肉だけでなく、その血もしこたま聞こし召したに違いない。
酔っ払って手加減を間違えるのではないだろうかと――アクメリンは取り越し苦労をする。生かしてデチカンへ連行して、裁判で公式に王女を弾劾する手筈が――狂ったところで、アクメリンにとっては苦しむ時間が短くなるだけだというのに。
しかしゼメキンスには、すくなくとも今夜のところは、拷問を再開する意図は無いらしかった。
「魔女の嫌疑は晴れておらぬし、施した封印も効き目が薄いようじゃ。もしも、おまえが清めの儀式をみずから進んで受け容れるなら、今宵は安らかに憩わせてやろう」
どうじゃなと問われて。
清めると称してこれまでに為された仕打ちを思い返せば、何を求められているかは、もはや乙女とはアルイェットからデチカンよりも隔たっているアクメリンには、明白だった。問題は、どのような『安らぎ』を与えられるかだった。楽をさせてやると言って、十字架を逆さに馬で引きずったり、絡繰が全身を凌辱する馬車に乗せたり――今にして思えば、馬車はたしかに(惨めだけど凄絶な)快感だったけれど。
しかし何をされるにしても、ゼメキンスに逆らえば、いっそう酷い目に遭わされるだけだ。
「どうか、わらわを清めてたもれ」
王女として振る舞う必要を思い出すくらいには、気力も甦っていた。
アクメリンは檻から引き出されて――縛られもしなかったし、枷で拘束もされなかった。かつてない扱いに、手持ち無沙汰を持て余して仕方なく両手で前を隠して立ちすくんでいると。目の前の床に手桶と金属の筒が置かれた。筒は浣腸器だった。この時代には(拷問や羞恥責めの器具ではなく)ありふれた医療器具だから、マライボで見たそれと大同小異であっても、何の不思議もない。
マライボのときと同様に、四人が手桶に放[尺水]したが、ゼメキンスがわざとらしく首を傾げる。
「これでは量が足りぬな。増やしてくれぬか、王女殿下?」
ちっとも遠回しな言葉ではなかった。そして、その行為に対する羞恥心は相当に薄れていた。アクメリンがわずかにためらったのは、聖職者のそれに被嫌疑者である自分のそれを混ぜても良いのかという畏れだった。
とはいえ。理性では「まさか」と否定していても、女の本能は男の性的嗜虐を察知している。従わないとどうなるかは、恐怖が覚えている。
アクメリンは手桶をまたいでしゃがんだ。四人が手桶を、つまりアクメリンを取り囲んでいるので、無意識の媚が、アクメリンをゼメキンスに正対させた。枢機卿猊下に尻を向けるなんて失礼はできないという常識的な意識も働いた。貴いお方に向かって放●する非礼は常識の範疇外だった。
アクメリンが立ち上がると、この拷問部屋にも備え付けられている水責め用の大桶から、ホナーが別の手桶で水を足した。さらにリカードが小さな壺の中身を垂らす。白く懸濁した何かの油――と理解するだけの素養は、アクメリンにはなかった。リカードは短い棒で手桶を掻き回してから、後ろへ下がった。
四人が無言でアクメリンの挙措を見詰めている。
アクメリンは浣腸器を手に取って、手桶の『水』を吸い上げた。把手をいっぱいに引いても半分も入らなかった。
しかし。吸い込んだはいいが、そこで途方に暮れた。浣腸器の中ほどをつかんで手を後ろへ回してみたものの、嘴管を尻穴にあてがうのも手探り。押し込むのは難しい。もし成功したところで、手をいっぱいに伸ばしても把手に届かない。
アクメリンは顔を上げて助けを求めるようにゼメキンスを見たが、嗜虐の笑みに跳ね返された。
アクメリンは四つん這いになって再度試みたが、浣腸器を水平に保つのも難しい。
どうすれば……ふっと思いついたのは薪だった。小屋に納めてあるときは寝かしているが、使う前には立てて斧で割る。貧乏貴族の娘だから、見て知っている。エクスターシャには想像もつかないことだろう。こんな境遇に落ちても、まだ王女と張り合っている。
アクメリンは把手を床に着けて、浣腸器を垂直に立てた。その上に腰を下ろすと、嘴管は自然と尻穴に当たった。さらに、じわっと腰を沈めると――把手が押されて、液体が漏れ出る。慌てて、急に腰を落とした。
ずぶうっと、嘴管が尻穴を貫く。
「痛いっ……」
小さな悲鳴は、自身への甘えだった。どんなにささやかな呟きであっても、鞭や木馬と同じ言葉を使うのは大仰に過ぎると自覚していた。
嘴管は深々と尻穴を抉って、生ぬるい汚水を腹の奥へ注入した。押子が筒の奥に突き当たって止まった。その瞬間から、猛烈な便意に襲われた。しかし。
「まだまだ残っておるぞ。入れてしまわんか」
アクメリンは大急ぎで空の浣腸器を満たして、二本目を注入する。勢い余って、尻穴のまわりから汚水が飛び散ったが、そこまではゼメキンスも咎めない。
すでに便意は限界を超えていた。
「お許しくださいっっ……」
まだ突き刺さったまなの浣腸器を噴き飛ばして。
ぶじゃあああっ……ぶりりり……
水も固形物も一挙に迸らせた。
「あああ……」
床にうずくまって、両手で顔をおおった。かえって羞ずかしさが募る。手も足も拘束されて、他人の手で浣腸されて、目をつむるしか羞恥から逃れられないほうが、よほどましだと、アクメリンは知った。
そして。手も足も自由なのに、他人の手を払いのけられない屈辱も。アクメリンはさらに二回、これは清水を注入されては噴出を繰り返させられた。
どこの拷問部屋もそうなっているのだろう。床にこぼされた水(と、汚物)は、わずかな傾斜に沿って奥へ集められ、小さな開口部から外へ流れ出た。
排泄に伴う軽い虚脱に陥っているアクメリンは、分厚い木の板で作られた拷問台の前へ引っ張られた。そこにはホナーが、自分の腕を枕にして仰臥していた。股間も寝ている。
「清めてほしいと、みずから願い出たのであろう。どうすれば良いか、分かっておるはずじゃ」
分かっていなかった。けれど、その言葉で分かってしまった。アクメリンはホナーの横に跪いて、右手を股間へと伸ばした。
その手を、傍らに立っていたゼメキンスが細い木の笞で叩いた。
「横着をするな。口を使え」
アクメリンは唇を噛んだ。身体を様々な形にねじ曲げられて、三つの穴に男根を突っ込まれるのは、受け身である。けれど、みずから挿れにいくなんて……久しぶりに、かあっと羞恥が燃え上がった。
しかし。拒めば、酔いの勢いにまかせた凄まじい拷問が始まるに決まっている。アクメリンは顔をホナーの腰の上に伏せた。むわあっと男の体臭が鼻を衝いて、息を詰めた。
初めてじっくりと眺める男性の器官。もちろんアクメリンは、手鏡に自身の股間を映して観察するようなはしたない真似はしたことがない。彼女が目にしたことのある女性の器官は、マライボで拷問されていたジョイエとニレナの二人だけ。ジョイエはともかくニレナのそこは、複雑怪奇な形状をしていた。肥大した割れ目の縁から皺の寄った二枚の肉片がはみ出ていて、その上端の合わせ目からは、悪魔の淫茎だという小さな突起が覗いていて……
それに比べると、なんと単純な形だろうか。ただ一本の棒。先端は蕾のようにすぼまっているが、太く長く勃起して、中から傘の開いていない茸みたいな赤黒い本体が現われると、醜悪で狂暴に見える――のは、それが女を辱しめる凶器だと知っているからだろう。
さらにしばらくためらってから、アクメリンは男の股間に顔を埋めた。手を使うなと言われたのだから、犬の真似をするしかなかった。
とうとう咥えてしまった。けれど、そこからどうすれば、このでろんとした腸詰肉より柔らかい棒を怒張させられるかが分からない。マライボの拷問小屋でされたときのことを思い出して、頭を上下に揺すってみた。口の中で肉棒がぐにょぐにょ蠢くが、それ以上の変化は起きない。ホナーが必死に聖句を暗誦しているなど、アクメリンには分からないし、知ったところで、勃起現象が起きない事実との関連は分からないだろう。膣穴への(過激な)刺激で逝くことは覚えても、男の放水はさんざん見せつけられていても、勃起する過程を目撃したのは、せいぜい二三回なのだ。
焦っていると、頭をつかまれた。
「そんなのでは、勃たない。舌を使え、唇もだ」
唇で包皮を押し下げて、茸の傘の縁を舌で舐めろ。裏側にある縦筋もだ。歯に唇をかぶせて、先端から根元まで呑み込みながら甘噛みをしろ。唇をすぼめて、水を啜り込むように息を吸え。先端の割れ目を舌先でくすぐれ。
娼婦でも使わないような技を、次々とホナーが命令する。
アクメリンは言われるがままに、口全体で男根を愛撫した。その甲斐あって、腸詰肉がしなやかな木の棒に変じて、ついには火傷しそうに熱い鉄杭にまでなった。
男の体臭がいっそう濃密になってくるが、なぜか不快感は消え失せて、股間に熱い滴りを感じる。
ぴしやんと尻を叩かれて、次の所作を求められていると理解した。寝ている男と媾合うにはどうすれば良いかは、ついさっき、自身に浣腸を施した経験が役に立った。
アクメリンは男に向かい合って、腰の上にしゃがんだ。怒張の根元を右手に持って、覗き込みながらその上に腰を落としていく。先端が淫裂を割るのが、見えた。怒張が股の奥でぬらっと滑る感触があって、穴に嵌まり込んだのが分かった。
「はああ……」
男の腰に座りこんで、アクメリンは息を吐いた。羞ずかしいという感情より、うまく出来たという達成感が大きかった。
ホナーが、また尻を叩いた。
「じっとしていては清められんぞ。入口から奥の院まで、くまなく抜き挿しするのだ」
アクメリンは腰を浮かして怒張を抜去し、すぐに挿れ直して奥まで突き通した。それを何度もくり返すうちに、いちいち抜いてしまうとやりにくいと分かり、自然と腰遣いを覚えていった。
「次は、拙僧を勃たせてもらおう」
リカードが頭髪をつかんで、アクメリンの上体を押し下げた。
目の前に突き付けられた、これも萎びた男根をアクメリンは咥えて、ホナーに教わったばかりの仕種を繰り返す。その間、腰の動きは止まっているが、ホナーは何も言わないし尻を叩きもしない。
じゅうぶんに勃起すると、リカードはアクメリンの背後から拷問台に上がり、両手で腰をつかんで尻穴に怒張をあてがった。
色責め馬車でさんざんに経験したことだから、アクメリンは驚かない。前にホナーを挿れたままリカードに後ろを貫かれて、さすがに軽く呻いたが、苦悶の響きはない。むしろ、ふたつの穴を同時に貫かれることに充足を覚える。
そして、ガイアスまでもがアクメリンの前に立った。
ああ、そうかと――アクメリンは自然と理解した。言われる前に、みずから上体を倒してガイアスを咥えた。
リカードに両手首をつかまれて後ろへ引き上げられると、アクメリンの上体は宙に泳いで、それだけみずからの意思では身体を動かしにくくなった。手綱に操られている馬を、アクメリンは連想した。
リカードが大きな動作で腰を動かし始めた。アクメリンの身体が前後に揺すられて、口中のガイアスも跨っているホナーも、自然とアクメリンを責める。
過激な調教で性感を開発されているアクメリンは、官能に火を点じられた。模造男根と違って生身の肉棒は、適度の弾力で穴をいっぱいに満たす。馬車と違って、肉棒の動きは一致しているのだが、それを物足りないとは感じなかった。排泄の穴だけではなく、言葉を発し命の源を摂り入れる穴までも犯されているという思いが、背徳と屈辱を燃えがらせて――悦辱へと変貌していく。
「もぼおおお……おお、おおお……」
自然と漏れるくぐもった呻きは、はっきりと艶を帯びている。
アクメリンの下になっているホナーが右手を伸ばして、焼印の先端で根元を焼かれ釘で傷つけられている淫核を摘まんだ。
「むぶううっ……!」
怒張を咥えたまま、アクメリンが激痛に呻いた。しかしホナーは、いっそう強く摘まむと――爪を立てながら強く捻じった。
「ぎゃ……ま゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!」
アクメリンは悲鳴をあげたのだが、ガイアスに頭をつかんで腰を押しつけられて、くぐもった叫びになった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙……や゙え゙え゙え゙え゙え゙っっっ!」
しかし、リカードはいっそう激しく尻穴に抽挿を繰り返す。ガイアスは肩に手を掛けてアクメリンの裸身を激しく揺すぶる。
三つの穴をこねくられ抽挿されるうちに、淫核が純粋な快楽の器官としての働きを取り戻して、激痛をそのまま快感にすり替えていく。
「み゙い゙い゙い゙い゙い゙っ……いいいっっっ!!」
苦痛と快感とが綯い交ぜになりながら、頂を抜けて、さらに雲の上へと押し上げられるアクメリン。こうしてアクメリンは、相反する感覚がひとつの官能に止揚される境地を教え込まれたのだった。
びくんびくんびくんと、アクメリンの背中が痙攣して。やがて、全身から力が抜けた。三人の男たちはそれを見届けてから――三つの穴に白濁をぶちまけた。
意識を失ったアクメリンは、拷問台から転がし落とされても、地獄か天国か定かでない暗黒の中を漂っている。跡始末もされないまま檻に放りこまれて、それで清めの儀式は終わったのだが。
翌日には、昨夜に与えた快楽の代償だといわんばかりの、激痛一辺倒の加虐が待ち構えていた。
これまでと違って、拷問は朝のうちから始まった。アクメリンは拷問部屋の壁に立てかけた分厚い板を背にして両手両足を広げて立たされた。喉、手首、肘、胸の下、腰、太腿、膝、足首――関節という関節を、大小の鎹に挟まれて板に縫いつけられた。まさに、ぴくりとも身体を動かせない。
「おまえが魔女であることには疑義が残っておるが、神の教えを捨てた異端者であることは、自身で認めておるな?」
今さらの尋問に、アクメリンはどう答えるのが得策――もっとも苦痛が少ないかを考えてみたが。ゼメキンスの意向に逆らうべきではないという、当然の結論に行き着いただけだった。
「……そうじゃ。わらわは、異郷の神の教えに帰依したのじゃ。しかし、今では悔い改めておる」
「遅い!」
ゼメキンスが一喝する。
「一度でも神を裏切った者は、二度三度と裏切るに決まっておる」
「…………」
「よって、デチカンでの裁判に俟つまでもなく、おまえは異教徒として断罪される。その判決文を、おまえの身体に刻んでおいてやろう」
リカードが、手に持っていた長い鉄棒をアクメリンに向かって突きつけた。鉄棒の先には鉄板が取り付けられていて――鏡文字が浮かび上がっている。頭の中で正字に読み替えなくても、アクメリンにはすぐ読めた。乳首に吊るされていた文字“Heretic”だ。それが異端者という意味だとも、すでに知っている。
「あああ……」
アクメリンは絶望を呻いたが、拒否の言葉は口にしなかった。素直に受け容れるか、拷問の果てに受け容れさせられるか――雁字搦めに拘束されているのだから、その二者択一すら、許されていない。
まだ組まれたままになっているカンカン踊りの舞台下からリカードが火皿を取り出し、石炭を足して火を熾し始める。
「わらわは、もはや死罪は免れぬのじゃな……」
エクスターシャとしての言葉遣いを強いられるうちに、絶望の嘆きさえ素に戻らなくなっている。
「祖国を道連れにしてな。なんと、豪勢な死出の旅路よ」
「陛下は無実じゃ。神を裏切ったのは、わらわひとりの考えじゃ!」
ゼメキンスは狡そうに嗤う。
「それについては、デチカンで改めて審問する。今は、おまえの処置だけじゃ」
国を挙げての背教をエクスターシャが証言するまで、拷問は繰り返されるのかと、アクメリンは絶望に絶望を重ねる。
「凸凹があっては、焼印の文字が崩れるな」
ゼメキンスの言葉を受けて、リカードが二本の細い鎖を取り出した。一端には小さな鉄球がぶらさがり、反対側は鎖の輪がC形に開いている。その輪が、釘に貫通されてふさがっていないアクメリンの乳首に通された。
「ひいいい……」
乳首が引き伸ばされ、乳房全体が年増女のように垂れた。
「まさか……?!」
凸凹がどうのこうのという話から、この仕打ち。焼印がどこに捺されようとしているのか、分かりたくなくても悟ってしまう。
ゼメキンスが火床から焼印を取り出した。鉄板に浮かび上がる文字は、煙も出ないほどに白熱している。
「しかし……おまえは異教徒らしからぬ形(なり)をしておるな」
ゼメキンスは焼印を腋の下に近づけた。そこにも濃密に繁茂している亜麻色の毛が、ぱっと燃え上がった。
「熱いっ……」
股間の毛を焼かれたときは炎が上へ逃げたが、腋の下で火を燃やせば二の腕まで焼かれる。さいわいに、すぐ燃え尽きたので火傷にまではならずに済んだのだが。
ゼメキンスは、下腹部にも焼印を近づけた。焼かれて後に芽吹いていた草叢も、また焼け野原と化してしまう。こちらは、短い毛を焼こうとして、肌に触れるほど近づけたので、ぽつぽつと火脹れになってしまった。
「体毛を無くすなど、異教徒の嗜みは我らには理解しがたい」
嘯きながら、ゼメキンスの眼は有るべき物が無い部分から離れない。そういう嗜癖もあるのだろうか。
「もう一度熱くしましょうか?」
冷めすぎるのを懸念して、リカードが声を掛ける。
「いや、これくらいのほうが、傷の治りが早かろう」
ゼメキンスは半歩下がって、焼印を持ち変えた。柄を立てて、刻印の鉄板を乳房の真上にかざす。
「あああ、あ……」
アクメリンは顔を背けて瞼を固く閉じた。
焼印が上乳に押しつけられて、じゅうっと肉を焦がす。
「ぎゃあああああっっっ……!」
アクメリンの喉から迸った悲鳴は、純粋の苦痛を訴えていた。
十字架の焼印と同様の手当てが施されてから、アクメリンは檻へ戻された。
「これで、この娘が異端者であることは、誰の目にも明らかとなった」
ゼメキンスが部下に話しかける――態を装って、アクメリンの様子をちらちら窺っている。
「このような明白な印が見つかれば、直ちに魔女と判明するのじゃがな」
「デチカンで審問する手間が省けますね」
ホナーが相槌を打つ。
「それは、ない。フィションクの背教などという大事件は、教皇聖下の御裁断に委ねねばならん」
「しかし、この娘が魔女であれば――フィションク国王は魔女に誑かされた、いわば被害者になるのではありませんか?」
ガイアスが台本に従って、アクメリンに絶望的な希望を示唆する。
「ふむ。魔女に騙されていたと悔い改めれば、慈愛あふれる聖下のことゆえ、フィションク準王国そのものの罪は不問に付すかもしれぬな」
「とはいえ、この娘が自白したとしても、それだけでは魔女と決めつけられないのでは?」
「精神の錯乱ということも考えられるからの」
「では、明白な魔女の証拠があれば、よろしいのですね」
「左様。この烙印のごとく、誰の目にも見える証拠がな」
焼印は、己れが異端者であるというアクメリンの自白に基づいて施されたものであり、証拠にはならない。しかし、そんな理屈に気づくだけの明晰さを、すでにアクメリンは失っている。
「たとえば、このような刻印でしょうか?」
リカードが、火床から別の焼印を取り出した。短い鉄棒の先に、太い針金で五芒星が形作られている。
「うむ。上下を逆さにした逆五芒星は悪魔の象徴たる牡山羊を表わすから、またとない証拠じゃ」
「十字架で悪魔を封印し、昨夜は清めの儀式を執り行ないました。この娘の体内に悪魔が潜んでおるとすれば、もはや隠れてはおれなくなって、これまでは見つからなかった印も浮かび上がるのではありませんか」9
「かもしれぬな。午後からは、それを調べてみるのも悪くなかろう」
昼食にはまだ早いのに、アクメリンを新たな拷問に掛けることもなく、四人は拷問部屋から立ち去った。
アクメリンは床に転がって、真新しい火傷の刺すような痛みに、あお向けになってみたり、横になってみたり。そして、ふと気づく。檻の出入口に、わずかな隙間があった。まさかと思って押してみると――開いた。
檻から出たところで、どうにもならない。拷問部屋から逃げても、獄舎の外までは逃げられない。いや、脱走できたとしても、裸ではどうにもならない。でも、何か身にまとうものがあれば。
もしも、檻から出ているところを見つかったら、拷問と変わりない折檻を受けるだろうけれど――どうせ、拷問はされるのだし。
アクメリンはためらいながらも、檻を出た。物色の目で周囲を見回して。火床に突っ込まれたままになっている焼印に目が止まった。まだ、石炭は赤い。
ついさっきのゼメキンスの言葉が甦る。はっきりとした悪魔の刻印があれば。逆五芒星は悪魔の象徴。魔女に誑かされたのであれば、フィションクは罪を減じられる。
連日の虐待に加えて、逆十字以上に明白な反逆者の烙印まで気編まれて刻まれて。アクメリンの心は打ち砕かれ、正常な判断力はとっくに失われている。唐突な会話、施錠を忘れた檻、火の不始末――見え透いた罠にも気づかない。それとも。罠だと分かっていても、やはりそうしただろうか。
アクメリンは焼印に手を伸ばした。紛れもない、五芒星の焼印。アクメリンは柄を逆手に短く持つと、心の準備もあらばこそ、太腿の付根にそれを押しつけた。
じゅううっ……と、白い煙が立ち昇る。
「ぐゔゔっ……」
焼印の形を崩しては台無しになりかねないとの想いが手を縛って、数秒、アクメリンは灼熱痛に耐えた。五芒星を形作る針金が、肌に埋没するほどに食い込んだ。
そっと引き剥がして、焼印を火床に戻す。大桶から手で水を掬って火傷を冷やしたのは、昔に見た記憶か、錬金術の秘薬の代用か。さいわいに、大筋としては正しい手当てになっている。
アクメリンは檻の中へ戻って、出入口の鉄格子を閉じた。外側の留金を手探りで掛けて、開いたままで引っ掛かっていた錠前を正しく下ろした。
「ふうう……」
アクメリンは大きな溜息をついた。安堵ではない。ゼメキンスがこの刻印を見つけて、どう判断するか。それが大きな不安として残っている。
それでも。女の身でありながら、家族を守るためとはいえ、国を救うために我が身を犠牲にするのだという、それまでは知らなかった形の高揚と陶酔に包まれていた。圧倒的な大軍に向かって、祖国の栄誉を背負って突撃する騎士。絵物語の主人公になった気分だった。きらびやかな甲冑の代わりに傷だらけの裸身を曝してはいるけれど。
――やがて。じゅうぶんに陽が傾いてから。四人の絶対的な正義の使徒が、異端者にして魔女の嫌疑まで掛けられている邪悪な女を糾問に訪れる。
「ややっ……これは?!」
檻から引き出されたアクメリンを見て、ガイアスが芝居がかって叫ぶ。
「枢機卿猊下の予測された通り、悪魔が正体を現わしましたぞ」
ガイアスの指差す先を覗き込んで、ゼメキンスも台本を進める。
「これ、エクスターシャよ。このような刻印が露わになっては、もはや白を切れまいぞ。どうじゃな」
ここが正念場――これは、まったくの独り相撲どころか、ゼメキンスの描いた台本に転がされているだけなのだが。アクメリンは、自身が思い描いている通りの魔女を演じた。
「わらわは、魔女ではないと否定した覚えなどない。そなたらが勝手に騒いでおっただけであろうが」
もしかしたらアクメリンの記憶違いかもしれないが、それならそれで、魔女の虚言ということになる。しかし、記憶は正しかったようだ。それとも、エクスターシャを偽る娘が今また魔女と自白したことで、ゼメキンスは満足したのか。
「ならば、この焼印を身に纏うことに異議は無いな?」
リカードが新たに持ち込んだ箱の中から三本目の焼印を取り出した。その文字は“Marga”――聖なる言葉で魔女を意味する。
「好きにするが良い」
次々と増えていく刻印。それはそのまま、生きながら肉体を破壊されていくような恐ろしさに、アクメリンは、みずからの足で犠牲の祭壇へ歩む山羊を連想した。祭壇は栄光に輝いている。
「ならば、その覚悟を問うてやろう。そこに立て。ぴくりとも動くな。動くと文字が崩れて読めなくなるぞ」
読めねば確たる証拠にならぬ――そう脅している。
因果関係を倒置した詭弁を真に受けて、アクメリンは壁に背中を着けて直立する。その目の前で、リカードが火を熾こして焼印を加熱する。
恐怖を長引かせるように、鈍く赤みを帯びた焼印をゼメキンスが腹に――腰のくびれのすぐ下の丸みを帯びた部分にゆっくりと近づける。
「十字架の封印と重ならぬように注意せねばな」
宗教的なこじつけなのか、ただの見映えなのか。
焼印は乳房よりも長く押しつけられていたが。
「ぐううううっ……」
じゅうぶんに覚悟をしていたアクメリンは、全身を硬直させて呻くだけで試練を乗り越えた。
「異端者、魔女、そして逆十字の刻印。正面はずいぶんと賑やかになったが、背中が淋しいの。そうは思わぬか、エクスターシャよ?」
「……思わぬ。されど、そう思うのなら、好きにするが良い」
アクメリンとしては、虚勢を張り続ける他に為す術を知らない。
リカードが、さらに焼印を取り出す。文字は二つに分かれていて、“Mere”,“trix”――つなげれば娼婦あるいは淫乱女の意味になる。それを、わざわざアクメリンに説明してやるゼメキンス。
「わらわを……そこまで貶めるのか」
アクメリンの声から虚勢が剥落していた。無理強いとはいえ、模造男根で終日責められて気を遣り、拷問に怯えてではあってもみずから進んで男に跨がったのだから、『淫乱』は全き冤罪とまでは言い切れない。そこまで弱気に、自虐に、アクメリンは追い込まれていた。海賊どもの娼婦に堕落しながらも、仄聞した限りでは、それなりに逞しく暮らしていたエクスターシャを、今では羨ましく思ってしまう。などと、忸怩たる想いに囚われている間にも。
火床の中で二つの焼印が熱せられる。アクメリンは、壁に向き合って張りつく姿勢を取らされた。
「おまえたちも経験を積むがよかろう」
焼印をホナーとリカードに持たせる。
「尻のように丸みのある部分に焼き付けるときは、まず内側の端を当てて、滑らぬように気をつけ、常に柄の向きに押しつけながら、印影の面を丸みに沿って転がすのじゃぞ」
この二人とて、初めて焼印を捺すわけでもなかろう。あるいは、アクメリンの恐怖を募らせようとしての言葉かもしれない。
ホナーとリカードがアクメリンの両側へ斜めに向かい合って立って。二本の焼印の柄を軽く交叉させて――文字を浮き彫りにした鉄板の縁を、尻の割れ目の内側すれすれに近づける。
ちりちりと熱気を肌に感じて、アクメリンの尻の肉が、ぎゅうっと引き締まる。
「これ、エクスターシャよ。もそっと力を脱け。文字がゆがんでしまう」
筋肉を緩めるには、多大な意志を要した。
尻肉の笑窪が消えるとすぐさま、焼印が押しつけられた。
じゅううっ……
「ぐゔゔっ……」
二枚の鉄板が尻の丸みに沿って外側へ転がってゆき、縁の直線を焼き付けてから、後ろへ引かれた。
「ひいいい……」
床にへたり込むアクメリン。槍に刺された傷の花畠の中で、枠に囲まれた“Meretrix”の赤黒い文字がひときわ鮮やかだった。
前も後ろも火傷をしていては、身体を横たえれば文字が崩れる。アクメリンは両手を縛られて宙吊りにされた。太腿の悪魔の刻印にも触れぬようにと、木枷で開脚させられた。カンカン踊りのような、後ろ手をねじ上げる吊し方にしなかったのは、台本通りに動いた主演女優への褒美だったかもしれない。
褒美は、もうひとつあった。夕餉である。せいぜい三日前に焼いたばかりの、まだ軟らかさがいくらかは残っている麺包と、昼の残り物らしい肉汁たっぷりの肉をふだんの三倍ほども与えられて、手を縛られているときは当然になっている(身体をまさぐられながらの)口移しではなく、ガイアスの手から食べさせてもらった。ガイアスは片方の手に皿を持っていたから、アクメリンは食事に専念できて、それを物足りなく思いはしなかったけれど、奇妙に落ち着かなかったのも事実だった。
こうして、ズブアナでの二日目は終わった。
そして三日目には――これまでに受けた仕打ちの全てを積み重ねても届かないほどの、苦痛と恥辱とをゼメキンスは用意していた。時間があったのに前日に行なわなかったのは、過度の負担でアクメリンの心臓が止まるのを怖れてのことだったと思われる。
前日に使われた分厚い木の板が床に置かれて、アクメリンはその上に鎹で磔けられた。昨日とは違って、直角を超えて開脚させられ、腰の下に丸太をあてがわれて、股間を高く突き上げた姿勢にされた。
まだ別の部位に焼印を捺されるのかと、怯えながらも諦めているアクメリン。開いた淫唇の上端に露出している淫核を摘ままれて、不意打ちの快感に、ぴくっと腰を震わせる。それ以上は身体を動かせない。
ホナーが糸巻を手にして、アクメリンの脚の間にしゃがみ込んだ。
弓なりに反った腰の向こうで何をされているのか、アクメリンからは見えないが。釘に実核を貫かれた傷が盛り上がって、そこで押し留められている包皮が強引に引き伸ばされ、実核のすぐ上を糸できつく縛られるのを、鋭敏な感覚で逐一感じ取った。傷が痛いのとくすぐったいのと、そして不本意な快感と。しかし、その三位一体の官能に身をまかせるには、恐怖と不安が大き過ぎた。
ゼメキンスが磔板の横に膝を突いて、アクメリンの股間に手を伸ばす。剃刀を持っているのが、アクメリンからちらっと見えた。ゼメキンスが腕を小さく動かした――刹那、冷たい感触が股間の中心を奔って。一瞬後に、凄まじい激痛が爆発した。
「わ゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!!」
アクメリンは、声の限りに絶叫した。
激痛は淫核に発したと、それは分かるのだが、何をされたかが分からなかった。つねられたなどという生易しい痛みではない。釘を刺されたのとは違って、それほど激痛が尾を引かない。
ゼメキンスが身を起こした。入れ替わりに、今度はガイアス。小さな壺から軟膏を指で掬い取って、アクメリンの股間――激痛の根源に塗り込める。
その指の動きで新たな痛みが引き起こされて、アクメリンは呻吟しながら、淫核に何かをされたことだけは確信した。
手当てが終わると腰の下の丸太が取り除かれたが、全身を鎹で固定されているので腰は宙に浮いたままとなり、かえって関節に余計な力が掛かって――鈍い痛みが、ずっと続くことになった。
木の板に磔けられたまま、アクメリンは夕暮まで放置された。ガイアスの手で食事を与えられてからは、全身を反らせて手足をひと括りにされた逆海老で宙吊りにされて、深夜になってから腕を後ろで水平まで吊り上げた形で立たされた。眠りかければ膝が折れて身体の重みが肩に掛かって、その痛みで目が覚める。アクメリンはほとんど眠れずに一夜を明かさなければならなかった。
そして、さらに二日間は拷問も凌辱もなかった。後日の過酷な拷問に備えて休養させるのと、火傷が落ち着くのを待っているのだろう。半日ごとに拘束の姿勢を変えられたが、せいぜいがX字形に手足を水平に引っ張られて俯せで宙に浮いた姿にされたくらいで、身体に極端な負担は掛からなかった。アルイェットから拉致されて以来、もっとも穏やかな二日間ではなかったろうか。
しかし、ズブアナでの一週間目。久しぶりにアクメリンは陽の下へ引き出された。全裸に、王族の身を明かす額冠と首飾と指輪だけを着けた姿で。拘束はされなかったが、材木や板を束ねたものを肩に担がされて、鞭で追われながら、街の中心にある広場まで歩かされた。
どの街でも、広場は憩いの場であるよりも集会の場であり、処刑場でもある。
広場の真ん中で、アクメリンは担いで来た材木をみずからの手で組み立てさせられた。材木の端に明けられている矩形の穴に、別の材木の突起を嵌め込んで楔を打ち込めば、人の力では変形させられない頑丈な構造になる。修道僧の指図で、アクメリンが木槌ひとつで組み上げたのは――みずからの処刑台だった。逆V字形の脚に腰の高さで支えられた、三つの穴を刳り貫いた二つ割の板。その穴に首と手首を拘束されて、足は脚に縛りつけられれば――二つの穴を後ろへ突き出し、残る穴も男の腰の高さになる。
組立をしている間も数百人の群衆がアクメリンを取り巻いていたが、いよいよ準備が調うと、男ばかりが百人にちかくも行列を作った。青年から壮年ばかり。列の前のほうは身分ある者や裕福そうな者が多い。
組み立てているときから予感はあったのだが、こうなってみると、これから始まる処刑は命を奪うものではなく、被処刑者を女として辱めるものだと――処女でさえも理解しただろう。
これで、エクスターシャよりも多くの人数を経験することになる。アクメリンは屈辱を覚えると同時に、みじめな優越感に浸った。
処刑台のまわりには移動可能な木の柵で囲いが作られ、前後に入口と出口とが設けられた。入口の内側にはホナーが賽銭箱を持って立ち、出口にはリカードの前に小卓が置かれて御守やら何やらが積み上げられた。マライボで見世物にされたときと似たような拵えだが、違うのは――柵の中に入るのを許されるのが、一度に二人だけという点だった。
「この女は王女の身でありながら、悪魔と契約を結び、異教に奔った罪深い魔女である。処刑はデチカンにて執り行なうが、その前に、この女をいささかなりとも、敬虔な信徒の皆によって浄めていただきたい」
枢機卿猊下の御言葉に、柵の前に列を成している男どもも、柵を取り巻いている野次馬も、一応は真面目くさって聞き入っているが、目つきは教会の中でのそれとは違っている。列の前のほうに並んでいる男は、だぶだぶの袴がはっきりと山になっている。
「女に救いの、こほん、魔羅を差し伸べんと欲する信徒には、いささかの寄進をお願いしたい」
くだけ(過ぎた)物言いに、戸惑ったような小さな笑いが広がる。勤労奉仕をする者にさらなる寄付を求めるなど、有り得ない。教会公認の強制売春だと、大っぴらに認めたも同然だ。
「寄進は銅貨五枚以上をお願いするが……」
その値段の安さに、アクメリンは傷つけられた。銅貨五枚では、一日の糧すら購えない。娼婦の相場など知らないが――海賊どもの慰み物になっている女たちだって、金貨や宝石などを貢がれることだってあるというのに。
「銀貨三枚以上を寄進される方には、木簡の善行証を教皇庁の名において発行致す。金貨二枚以上なら、教皇聖下の代行人たる余の直筆を進呈しよう」
後世に教会を堕落させる一因となった免罪符よりも、はるかに性質(たち)が悪い。ゼメキンスの私腹を肥やすだけの小規模にとどまっているから、まだ救いはあるが。
街の男たちは、若い(しかも高貴な)娘に、自分の嬶にはもちろん娼婦相手に仕掛ければ袋叩きにされかねない変態的な行為も神様公認でしてのけられるのだし、誰も死なないのだから女子供でも安心して見物できるし、もちろん街の教会も余録に与れる。いいことずくめであった――アクメリンひとりを除いては。
最初の二人は、騎士らしい身なりの者と裕福な商人風。どちらも金貨を(競い合うように)五枚も寄進した。二人とガイアスとが、短く言葉を交わして。騎士がアクメリンの後ろに、商人が前に立った。ホナーとリカードが持ち場を離れて、アクメリンのまわりを衝立で囲った。
「銀貨三枚以上を寄進された方には、希望があればこのように告解の場と同じような密室にして進ぜる。中で何が行なわれたかは、余人の与り知らぬこととなる。おのれを誇りたければ、衝立は不要じゃが」
言葉の意味を正しく理解して、笑いが広がった。
衆人環視ではなくなった『密室』の中で、二人の男は下半身を露出した。どちらも猛り勃っている。
いきなり女穴を貫かれて、とっくに予期も覚悟もしていたから、アクメリンはわずかに顔をしかめただけだった。すんなりと挿入ったことに、アクメリンは疑問を持たなかった。すでに何度も犯されているのだから当たり前だとしか思わない。陵辱を拒絶ではなく受容する心持ちが穴を潤していたなどとは、考えも及ばない。とはいえ。
「ほほおお。濡れておった。なるほど、売春婦と焼印を捺されるだけのことはある」
この商人は聖なる言葉を、すくなくとも単語を理解できる教養があるらしい。
「そのようだな」
唇にあてがわれた怒張を、口を開けてすんなりと咥えるアクメリンを見下ろして、騎士も同意する。
「いくら王女様とはいえ、所詮は売春婦に金貨五枚は張り込み過ぎた。すこしは元を取らせてもらおうか」
商人は怒張を抜き去って、もっと上にある穴に挿れ直した。すでに怒張が潤滑されていたから、アクメリンはやはり低く呻いただけ。
「尻といい口といい、厳しく咎められる行為を、まさか枢機卿猊下から督促されるとは」
「しかも、天国が約束されるのですからね」
囲いの板が、外から軽く叩かれた。
「後がつかえています。早く浄めてやっていただきたい」
ガイアスに促されて、二人は口を閉ざし腰を動かし始めた。
ぱんぱんぱんぱん……
ずじゅぶぶじゅぶ……
二つの音がひとつになって、板囲いに小さく反響し始める。
高貴な娘を犯しているという興奮か、遮蔽されているとはいえ数百人の面前で行為に及んでいるという背徳に煽られてか、二人はともに二十合ほどでアクメリンを浄め終えた。
板囲いとはいっても、胸から上は見えている。二人が身繕いを終えるや、すぐに衝立は下げられて。二人はそれぞれに枢機卿猊下直筆の善行証書を拝受して柵の外へ出た。
リカードが桶の水を手に掬って、浄められた部分を手早く清める。
そして、次の二人がアクメリンの前後に立って――ひとりが衝立を要らないと言うと、もうひとりも見栄を張って、たいした持物でもないのにおのれを誇ろうとする。当人も自覚しているらしく、なかなか勃起しない。
「そのまま咥えさせなさい。この女は、万事心得ております」
ガイアスにけしかけられて、その男は萎えた逸物をアクメリンの唇に押しつける。アクメリンはそれを咥えると、ずぞぞーっと音を立てて啜った。その刺激と、若い娘にそんな淫らな奉仕をされているという想いとで、たちまちに排泄器官は交接器官にと変貌する。
後ろから(今度は女穴を)突かれる動きは首枷に遮られて前まで伝わらない。そもそも、首を自由に動かせない。アクメリンは唇と舌を懸命に動かして、男を射精に導こうと努めた。
喜んで奉仕しているのでもなければ、行為を愉しんでいるのでもない。不慣れな算術に頭を巡らせた結果だった。列に並んでいる人数は百を超えている。二人一組としても五十おそらく六十組になる。一組に十分が掛かるとして、ひと休みもせずに十時間以上。一方、日没まで十時間ほどか。
どんな集まりでも、日没になれば解散する。そのときに列が残っていたら――それを責められるのを怖れたのだった。拷問、正確には懲罰というべきだろうが、それを逃れるための淫乱な振る舞い。そんなふうに、アクメリンは自身でも信じている。
二組目が終われば、すぐに三組目、四組目。そこで金貨は終わりになって銀貨が続く。衝立を望むのと露出願望を果たすのは半々だった。
首枷から後ろは、一方に偏らないようにガイアスが適宜助言しているが、口は常に犯される。口中に放たれた物は何にしろ吐き出さないように調教されているから、銀貨の組が始まった頃には、喉にいがらっぽさがわだかまり、じきに吐き気も催してきたのだが。それを見越してだろう、朝から食事も水も与えられていないので空嘔吐きにしかならない。
しかし吐き気は――女穴と尻穴を交互に犯されるうちに、不本意にも引き出される官能で緩和されて。じきに、ふたつの穴を同時に満たしてはもらえないのが、物足りくさえ感じるようになってくる。
そんなふうに、凌辱の中に惨めな愉悦を見出だしていたのも、二十組目あたりまでだった。ふたつの穴は中が痺れたようになって、怒張の出挿りは分かるけれど、細かな引っ掛かりとかは感じられない。痛くもつらくもないけれど、ただそれだけ。
そして口は――舌が攣って、思うように動かせない。
男は荒腰を遣い、亀頭を上顎にこすりつけたり喉奥まで突いて、どうにか射精に達する。その間に、下半身のほうでは三人が入れ替わったりする。
これでは日暮れまでに埒が明かないと、ゼメキンスも判断したのだろう。陽が城壁にも達しないうちに、浄化という名目の公開輪姦を打ち切った。
「希望する者には番号札を配るゆえ、明朝に参集願いたい」
アクメリンは晒し台に拘束されたまま、広場に放置された。ただし、野次馬が勝手に浄めの儀式を行なえぬよう、腰に巻いた太い鎖が股間を縦に割った。
すっかり陽が落ちてからは、昨日までよりも質が落ちたとはいえ、一応は食事も与えられ、足首を晒し台の脚に縛りつけている縄だけはほどいてもらえたので、不自然な姿勢でも幾らかは眠れ、あまり消耗することもなく翌朝を迎えたのだった。
――上体を直角に折り曲げて枷に固定されているアクメリンの横に、新たな晒し台が組み立てられた。台などという大袈裟な物ではない。逆L字形の柱が一本、それきりだった。頂部の横木に滑車が取り付けられ、太い縄が垂らされて先端に丸い輪が作られる。アクメリンは後ろ手に手首だけを縛られて、縄の下に立たされた。縄の輪に首を通される。
まさか、この場で殺されるのだろうか――とは、怯えない。焚刑にしても、手足に釘を打ち込まれて放置される磔刑にしても、長いこと苦しみ悶えながら絶命する。縛り首なんて慈悲深い殺し方をしてもらえるのなら、ありがたいくらいだった。
列の先頭に並んでいた二人の男が、柵の中に入って来て、アクメリンの前後に立った。銅貨五枚以上(実際には見栄を張って銀貨一枚を寄進している)の口だから衝立は無く、二人とも他人に見せて恥ずかしくないだけの逸物を勃てている。
この街の下吏が二人、リカードの合図で縄を引いた。
「くっ……」
喉を絞められ宙吊りになるアクメリン。ほとんど瞬時に、すうっと目の前が薄暗くなった。息は出来ないが、すぐには苦しくならない。魂が身体から遊離するような、奇妙な感覚が生じた。このまま死ぬのかな。そう思う間もあらばこそ。
前に立っていた男が、アクメリンの脚を割って膝を抱え上げ、M字形に開脚した中に腰を割り込ませる。同時に、後ろの男も尻を抱えた。
首の縄が緩んだ。アクメリンは二人の男に抱えられて、息が出来るようになった。
腋の下に縄を通すか、いっそ台の上に立たせれば簡単なものを、このような演出は見世物を面白くするためか、アクメリンに恐怖を与えるためか、その両方だろう。
二人の男は勃起を穴にあてがおうとするが、手放しでは狙いが定まらない。
「失礼致す」
リカードが跪き、二人の怒張を手に持って穴にあてがった。
アクメリンは、前後の穴に亀頭が押し挿ってくるのを感じた。どちらも穴と棒の角度が合っていないので、棒のほうがぐねぐね動くのも分かる。
「うん、うん……」
「くそ、この……」
後ろの男がアクメリンを揺すぶって、強引に棒を穴の奥まで突っ込もうとする。前の男も、揺さぶりに合わせて腰を突き上げてくる。
ぎちぎちみしみしと穴肉が軋みながら、アクメリンの身体が少しずつ沈んでいく。
ずっぷりと嵌まったところで、また縄が引かれた。男たちが腰を激しく動かし始める。身体の重みの半分くらいは縄に吊り上げられて、アクメリンはまた目の前が薄暗くなっていき、息が詰まる。そして、魂が漂い出すような――快不快でいえば、むしろ快に寄っている。カンカン踊りをさせられたときの、頭が透き通っていくような感覚に似ている。違うのは、二つの穴を激しく刺激されて……官能が高まっていくのだが。
じきに息苦しさをはっきりと覚えて。無意識のうちに、アクメリンは足をばたつかせる。それで身体が揺れて、腰に渦巻く官能も高まって――また、それが生じた。苦痛と快感の融合。
「…………!」
アクメリンは頭を激しく振り立てて、口は息を吸おうとぱくぱく喘いで。それが続けば、窒息して死ぬのと絶頂を極めるのと、どちらが先かというところまで達したのだろうが。
「うおおおおっ……」
前の男が吠えながら精を放って、アクメリンの膝を抱えていた腕をはなした。
がくんと、アクメリンが宙吊りになったと同時に縄が緩められて、地面に向かって倒れ込む。
「うおっと……」
後ろの男が、覆いかぶさるようにアクメリンと共に倒れる。
「ぐぶふっ……!」
アクメリンは、さながら押し潰された蛙。
倒れた男はすぐに起き上がったが、怒張の先は白濁にまみれている。倒れる直前か、倒れた衝撃かで、この男もアクメリンを浄めていたようだ。
倒れたままのアクメリンを、ガイアスが手早く後始末をする。
「これは、ちと形を考えねばな」
ゼメキンスがつぶやいた。手間が掛かり過ぎるし、くり返しているうちにはアクメリンを殺してしまいかねないと危ぶんだのだろう。
しかし、浄めの儀式そのものは続けられた。前側の男が脚を抱え上げるのはそのままに、後側の男はアクメリンの腋の下に腕を入れて、羽交い絞めの要領で身体を持ち上げる。首に巻いた縄は、ほとんど使わなくて済む。というよりも、アクメリンを追い込むための道具と化した。
「これでも気を遣るとなれば、いよいよもって、こやつは真性の魔女に相違ない」
これも、近くにいるガイアスにした聞き取れない呟きだった。
註記:言わずもがなですが。ガイアスが考える真性の魔女とは、「ジョ」を「ゾ」に置換した概念です。日本語ならではのお遊びです。註記までメタってどうするんですかね。
二組目は、すんなりと終わった。アクメリンの首に巻かれた縄が締まることはなく、単純に身体を持ち上げての二本刺しというだけの――それでも、群衆には見応えのある見世物ではあったが。
本来は、昨日にあぶれた者たちの処理だったが。銅貨五枚くらいならと、新たに列に加わった者も少なくはなく、結局はご百人を超える頭数というよりは本数となっている。
その十本目が終わって。ゼメキンスがひとり勝手に頷いたのは――アクメリンが挿入と抽挿行為そのものからは、ほとんど快感を得ていないと見極めたからだった。
それはしかし、当然ではあろう。アクメリンが処女を奪われてから三週間と経っていない。色責め馬車で朝から晩まで抽挿されたこともあるが、まったく陵辱されず苦痛だけを与えられて過ごした夜のほうが、圧倒的に多い。狎らされているのは媾合に対してではなく拷問に対してなのだ。
拷問に狎らされて、そこに直截の快感とはいわないまでも苦痛以外の何かを感じるのであれば、それはゼメキンスが考えるところの本物であろう。彼は、それを確かめようとした。
次の組が始まってすぐに。ガイアスの指示で後ろの男が、二の腕で腋の下を持ち上げたままアクメリンの頭を首が折れ曲がるまで押し下げた。同時に縄が引かれる。
「くうっ……?!」
首を絞められて、しかし、さっきとは違って――目の前の男の顔がはっきり見えている。息だけが苦しい。いや、まったく出来ない。
二人の男が再び腰を動かし始めた。
「くっ……くふっ……んっ……」
その上下動でわずかに縄が緩んだ隙に、ごくわずかに呻き声が漏れる。しかし、息を吸おうとすると喉が潰れてしまう。たちまち、アクメリンの顔が赤く染まっていく。
頭が、がんがん痛む。一方で、二つの穴は激しく突き上げられこねくられる。死に直面しながらも、腰のあたりに温かな疼きがわだかまっていく。そして――目の前が暗くなっていって。それが訪れた。
すうっと、頭が軽くなった。透き通った感覚が延髄から背骨を駆け下りていって、腰の疼きに達した瞬間。
(……!!!)
身体が砕け散るような尖烈な快感が生じた。
膝を抱えられてM字形に開いていた脚がぴいんと突っ張って、脹脛も太腿も小刻みに痙攣する。垂直に立った上半身と合わせて、さながら大輪の三弁花(トリリアム)。
アクメリンは恍惚の中へと溶け込んで――逝きかけたところで、首の縄が緩んだ。
「かはっ……」
ひゅうひゅうと喉を鳴らして何度も息を吸った。その間に恍惚は霧消して、割れるような頭の痛みだけが残っていたが、それも次第に薄れていった。
気がつけば、アクメリンは地面に投げ出されていた。全身の筋肉が痙攣したとき、穴のまわりの筋肉も例外ではなく、その律動と締め付けに二人の男は堪えられなかったのだ。///1st
次の組の二人が、同じように羽交い絞めにしてアクメリンを立たせる。ガイアスが穴を清めて、首ではなく顎を吊るように縄を掛けた。縄が引かれると首が伸びるだけで、それはそれで身体の重みの過半を吊れば頸椎を痛める危険もあるが、羽交い絞めでアクメリンを支える補助にしか使われないから――アクメリンは不快な思いをしただけだった。そんな形で犯されても、恍惚は訪れなかった。ただ嵌入されて抽挿されるだけなら、すでに穴は馴らされ切っている。
――十組ばかりを、男を射精させるためだけの道具として、アクメリンは扱われた。
そして、また縄を掛け直されえう。
今度は首を吊られると、アクメリンは戦慄した。しかし、殺されないだろうとも分かっている。戦慄には、甘い香りが伴っていた。
期待とまではいわないにしても予想通りに首を絞められて、アクメリンは再び三弁花(トリリアム)を咲かせた、前よりも少しだけ長く。前を犯していた男はアクメリンを浄められなかった。寸前で大量の水を浴びせられたせいだった。さすがにアクメリンは脱分゜まではしなかった――しようにも、穴はふさがれていたから。
しかし、それも。何度も三弁花を咲かさせた後に。地面に投げ出されてから、やらかしてしまったのだった。
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かなりシーケンスが変わったというか、即興というか。
自分で自分に焼印を捺すなんて、まるきり予定外でした。
まあ、焼鏝責め好きクンの本音は、フィションク準王国を告発したりすると大騒動になるので、エクスターシャ王女をスケープゴートにして、その過程であれこれ愉しめば良し。ということらしいです。
どうにかこうにか、苦痛と快感をアウフヘーベンするところまで辿り着――けないのを、首に縄を掛けて引っ張って来ましたが。
ゼメキンスの回想で二十年前の「本物の」魔女、マイ・セシゾン/真性マゾを登場させたのも、重い尽きですが。
いいもんね。元々は、本命小説を書く片手間の小遣い稼ぎに始めたSM小説。本命なんざ、前世紀で馬群に呑まれちまって、酒は呑み続けて、今じゃSM小説がライフワークにして趣味にしてレーゾンデートルなんだから。好き勝手に書くさ。分かるやつだけ付いて来い来いだからね。格好よく言えば、読者に媚びない。なんて、文学青年の欠片は、粉々にしてカルシウム摂取じゃ意味不明。

現在まで約320枚。たぶん500枚には納まるでしょう。
『女神様と王女様といとこの(下)僕』本日発売!

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BOOTH BookWalker
うわたたたたた。予定稿仕込むのを忘れてて、大慌て。
この作品も、PIXIVでWILL様から頂いた有料リクエストの、1年後解禁です。いちおう再校訂して(若干は誤字脱字が、てへぺろ)、それだけではLBTQな(ゲイが無い)ので、夏休み終盤にエピソードを4900字追加。ちゃんとゲイのエピソードですぞ。
まあ、取って付けたというか、無理矢理に挿入した(まあ、エッチ)というか。
この作品は、最近には珍しい「ほのぼのハード」ラブコメです??
『OAV三穴拷貫~今夜はハードリョナ?』路線と言っても、分からない人には分かりませんね。
忙話休題?
この作品をBOOTHに登録しようとしたとき、作品紹介を入力中に、『ロリ、ショタの文言があるけど、後日のチェックで不適切作品になるかもよ』なんてポップが出ました。二重鉤括弧内はうろ覚え。ロリとショタを外したらポップ出なくなりました。
つまりは、BWと一緒かしら。本体はともかく、オモテヅラだけは取り繕っとけーーと。
実は『未性熟処女の強制足入れ婚』も、紹介画像と紹介文に不適切表現があるので改変しろとお達しが来てます。画像には文字を入れてるので、それが引っ掛かったぽいから、文字無しにして。矢場そうな単語も消しますか。
そういえば、Dサイトも紹介文中のキーワードが改変されてましたね。U15がU1○。これまではU13でも表示されてたのに。
そしてFANZAではU15はそのままで、ロリとショタが●●と●●●です。
ああ、BWはロリショタは削除して登録です。U15はOKでした。
じわじわと、じわじわです。
いずれ、星新一の『白い服の男』みたいな世界になるかもしれません。ショートショートと違って、戦争は野放しのままでね!
ブルーレイ●
映像記録媒体ぢゃないですよ。FC2規制で「プ」と書けないので。
そもそもは、回顧から始まります。
女流SF作家の菅浩江。彼女のデビュー作は「星群ノベルス5」掲載の『ブルー・フライト』です。
同号には野波恒夫の『唯一の解』も掲載されています。当時の渾身の力作です。今にして思えば、無限に広がる大宇宙に対して、テーマに内包される問題意識があまりに矮小でした。もちろん、内宇宙こそが人間の根元的なテーマではありましょうが。
Midship !
とにかく。『ブルー・フライト』を読んでズガガガガンでした。「僕があなたのファン第一号になります!」と、星群祭の会場で本人に宣言しました。それから幾星霜。かたや、押しも押し倒されもせぬ(いや、少なくとも一人には押し倒されてる?)プロ。こなた、吹く前から消し飛んでいるSM小説書き。
Cease Fire !!
まあ、その。ブルー・フライトからの連想です。
吾妻ひでおのギャグ「ブルー・ジョウントで青色申告に行く」というのも同時連想です。46サンチ45口径3連装。
実は、『ブルー・フライト』の内容は忘れちゃってます。ファンのくせして……
ブルー・ジョウントは、行ったことのない場所へ強引にジョウント(テレポート、ルーラ、転送)することで、致命的な結果を招きます。
ちなみに。『ドラクエ3』の初期カセットでは、棺桶ズリズリでロマリア(わりと早くから行ける)の闘技場を歩き回ると、ずっと先のシナリオの舞台(サマンオサとか)へのルーラを覚えるという。これは筆者が発見したとマジにうぬぼれていますが。名付けてブルー・ルーラ。
いかん、いかん、いかん。衣冠束帯。
ちっともSMにもエロにになっていない。
せめて、お目コ汚し。
超ミニスカのはみケツが[深刻]な問題になっているそうです。
「青色 深刻」で検索して引っ掛かりました。

なんなんでしょね、この記事は??
そもそもは、回顧から始まります。
女流SF作家の菅浩江。彼女のデビュー作は「星群ノベルス5」掲載の『ブルー・フライト』です。
同号には野波恒夫の『唯一の解』も掲載されています。当時の渾身の力作です。今にして思えば、無限に広がる大宇宙に対して、テーマに内包される問題意識があまりに矮小でした。もちろん、内宇宙こそが人間の根元的なテーマではありましょうが。
Midship !
とにかく。『ブルー・フライト』を読んでズガガガガンでした。「僕があなたのファン第一号になります!」と、星群祭の会場で本人に宣言しました。それから幾星霜。かたや、押しも押し倒されもせぬ(いや、少なくとも一人には押し倒されてる?)プロ。こなた、吹く前から消し飛んでいるSM小説書き。
Cease Fire !!
まあ、その。ブルー・フライトからの連想です。
吾妻ひでおのギャグ「ブルー・ジョウントで青色申告に行く」というのも同時連想です。46サンチ45口径3連装。
実は、『ブルー・フライト』の内容は忘れちゃってます。ファンのくせして……
ブルー・ジョウントは、行ったことのない場所へ強引にジョウント(テレポート、ルーラ、転送)することで、致命的な結果を招きます。
ちなみに。『ドラクエ3』の初期カセットでは、棺桶ズリズリでロマリア(わりと早くから行ける)の闘技場を歩き回ると、ずっと先のシナリオの舞台(サマンオサとか)へのルーラを覚えるという。これは筆者が発見したとマジにうぬぼれていますが。名付けてブルー・ルーラ。
いかん、いかん、いかん。衣冠束帯。
ちっともSMにもエロにになっていない。
せめて、お目
超ミニスカのはみケツが[深刻]な問題になっているそうです。
「青色 深刻」で検索して引っ掛かりました。

なんなんでしょね、この記事は??
Progress Report 5:生贄王女と簒奪侍女
だらだら書いてるうちに『拷虐の二:人定拷問』だけで3万8千文字いっちゃいました。原稿用紙110枚です。
「拷虐」は全部で七つ。この調子でいくと770枚突破?
は、しませんね。『始りの章』はともかく『拷虐の一:磔架輓曳』は2万4千文字(54枚)ですし。
駄菓子案山子。
(54+110)÷2×7=570枚。終章まで含めると600枚?
まあ、短い章もあります(だろう)から、400枚くらいかしら。
現在、休日も含めて日産グロリア10枚ペース。校訂とかしてると、6月上旬リリースに間に合わなくなる??
あーあ。締切ってやつに追われる身分になりてえなあ。かといって、AIでも書けるようなラノベもどきは書く気にもなれません。
AIが直近未来に書くであろう小説と、拙の作品とは何が違うか、ちょいと考察したことがありますが。AIはけっして左手で書いて右手は別のブツを掻いたりはしないだろうという結論に至りました。妄想竹の有無です。
話はそれますが。またBOOTHから飯茶門がきました。『いじめられっ娘二重唱(後編)』で、表紙イラストは問題無いが、紹介文とかで
・自動に対する性的搾取及び虐待
・レイ●(同意のない性的行為)
・過度な暴力、残虐行為
・虐待
などの表現があるから修正しろと。誤字黒丸はFC2仕様です。
あのね。本文は、上記のオンパレードでヒッパレー、ヒッパレー、みんなのヒッパレー。分かる読者はいるかしら。
まあ、修正期限ぎりぎりまで放置して、「勘違いでした。そのままでEです」メールを待ちましょう。
来なかったら。もしかして、ノベルと謳いながら内容にイラスト多数と思われてるのかもなので、
「商品に含まれる画像は、紹介画像(表紙)のみです」を紹介文に追加してみます。
それでNotOpenなら、つまりはB☆Wと同様で、紹介文くらいはおとなしくしてなさいってことでしょうから……馬鹿正直に修正すると鳴門、全作品が右へ倣えですので。飯茶門が来たのだけ順次対応しますか。
本件、結果は続報する予定。
さて、Retake Wood 木を取り直して。
第二章では、マライボに五日滞在しますが、その初日から三日目までを御紹介。
========================================
拷虐の二:人定拷問
ゼメキンスは、アクメリンにはちらっと目を走らせただけで、二つの檻へと目を転じた。牢獄で待機していた修道僧が差し出す書付を見て。
「ショザウンの娘、ジョイエと申すほうからじゃ」
その修道僧が檻を開け、若いほうの少女を引き出して部屋の中央に立たせた。
「そこの娘と同じ姿になれ」
ゼメキンスが低い声で命じる。
少女はびくっと身をすくませたが。目の前にいるアクメリンを哀しげな眼で眺めると、のろのろと衣服に手を掛けた。
「何故に、みずからの手で衣服を脱がせておるか、分かるか?」
少女はかぶりを振った。
「そこの娘は、この者らの手で衣服を破り捨てた。二度と服を着る必要がないからじゃ。しかし、おまえは――釈放されても、裸では帰れまい」
はっと顔を上げてゼメキンスを直視する少女。罰を受けずに帰してもらえるかもしれないと、希望を見い出して、幾分か表情が甦った。
「手を止めるな」
修道僧に叱咤されて、少女はあわてて服を脱ぎ始める。てきぱきとまではいかないが、先ほどよりはよほど手際が良い。
少女は、みすぼらしい衣服の下には腰布を巻いているだけだった。さすがに、それをみずからの手で剥ぎ取るのには、ためらいを見せた。
「そのままで良い」
ゼメキンスの言葉に安堵する暇もなく。少女は手をつかまれ、両手首をひとまとめに縄で縛られた。その結び目に、天井の滑車から垂れる鎖の先に付いている鈎を引っ掛けられて、腕を吊り上げられた。
「最後の一枚は、余が剥ぎ取ってやろう」
ゼメキンスが腰布に手を伸ばす。
「それだけは、お赦しください――神父様」
「馬鹿者!」
修道僧のひとりが大音声で叱責した。
「こちらにおわすは、キャゴッテ・ゼメキンス枢機卿猊下であらせられるぞ」
「ひっ……」
少女が息を呑む。
神父は一般的な敬称であるが、おおむねは教会の筆頭者である司祭を指す。司祭は位階であり、枢機卿は役職であるから、同列には論じられないのだが、司祭はそれぞれの教会に一人、その上の司教となると教区ごとに一人か二人。しかし枢機卿は全世界に二十人とはいない。もしも少女が鎖に吊るされていなければ、その場にひれ伏していたかもしれなかった。
ゼメキンスに腰布を剥ぎ取られても、少女は拒む素振りすら見せなかった。
「ふむ……身体はみすぼらしくても、生えるところには生えておるの」
少女の下腹部には、焦げ茶色の草叢がアクメリンと変わらないくらいに繁茂している。腕を高く吊り上げられて露わになった腋の下にも。
ゼメキンスの言葉に、白い裸身が薄赤く染まったのだが。
「ふむ……継母を刺し殺そうとしたのだな」
ゼメキンスが、修道僧から受け取った書付に目を落として少女の罪状を確認すると、少女の裸身から色が引いた。
「告発に間違いはないな?」
「違います。あの人があたいを刺そうとしたのです。揉み合っているうちに、切っ先があの人の腕を掠っただけです」
「あの人とは誰じゃ?」
「……継母の、イディナです」
少女は、厭々といったふうに、その名前を口にした。
「なぜに、継母はおまえを刺そうとしたのじゃ?」
「…………」
言い訳すらもしたくないといったふうに、少女は口をつぐむ。
「おまえが父親と媾合っていたからであろう。継母は恥を忍んで、涙ながらに訴えておったと、ここに書いてあるわ」
「それは、その通りですけど……父さんはあたいを、何年も前から……あの……手込めにしていて……それで、あの……」
「なんと。おまえは幼少の頃より、実の父親を誘惑して不義を働いていたのか?!」
ゼメキンスが少女の言葉を遮って決めつけた。
「違います! 父さんが、無理矢理に……」
「黙れ。この淫魔め」
「ゼメキンス様」
牢獄を仕切っていた修道僧が、やんわりと口を挟んだ。猊下とは呼び掛けず、軽い敬称を使ったところに、この男とゼメキンスとの関係が透けて見えるのだが、それはさておき。
「このあどけない少女が淫魔であるとは、それがしには信じられませぬ。当人の申し立てよりは、確たる証拠が必要かと」
「ふむ。それもそうじゃな。ホナー、あれは持って来ておるな」
ゼメキンスに付き従っていた修道僧のひとりが、小さな箱を差し出した。中には、さまざまな得体の知れない道具が並べられている。その中でも比較亭に使途が明白なのは――さまざまな太さと長さの棒状の道具だった。
「生娘ではないと申し立てておるのだから、これで良かろう」
ゼメキンスが取り出したのは、怒張した男根にそっくりの、ただし太さも長さも常人の五割増しはあろうかという巨大な『棒』だった。先端部は、きっちりと亀頭を模している――と見て取ったのは、これからそれを使われようとしている少女と、檻の中の女。アクメリンは、怒張した男根など見たこともない。
「リカード。片脚を持ち上げよ」
もうひとりの従者が少女の後ろへ回って、その左足首をつかんで斜め上へ持ち上げる。
「あ……きゃあっ」
横ざまに倒れかけて、少女があわてて鎖にすがって身体を起こした。
「痛い……です」
訴えを無視して、リカードは少女の腋を片手で押さえながら、左足を肩よりも高く引き上げた。
ゼメキンスが少女の前に立って、模造男根を股間にあてがった。ぱっくり横に開いた淫裂に亀頭部分を埋めて、さらに穴へ押し込もうとする。
「いやあっ……そんなこと、やめてください」
ゼメキンスが、あっさりと模造男根を引いた。身を起こして。
「ガイアスよ」
少女に向かって手招きする。
ガイアスと呼ばれた三人目の修道僧はリカードの横に並ぶと、少女の頭をぐいと前へ突き出した。そこを目がけて。
ばちん! ばちん!
ゼメキンスが、少女の頬をしたたかに掌で叩いた。
「余のすることに、指図がましい口をはさむでない。焼き殺されるか無罪放免になるかの瀬戸際ぞ。分かっておるのか?」
「えっ……?!」
少女の顔が恐怖に凍りついた。もののはずみで継母に、ごく軽い手傷を負わせただけなのだから――言い分を聞いてもらえず、継母の申し立てだけが取り上げられたとしても、父は寛大な処分を願ってくれるに決まっているから、せいぜいが広場での鞭打ち。それくらいに考えていたのに、斬首よりも罪が重い焼殺。
「あたい、そんな悪いことはしてません。父さんだって、そう証言してくれます!」
ばちん! ばちん!
いっそう痛烈な往復の平手打ちが、ゼメキンスの返事だった。
再び股間に模造男根を突きつけられても、少女は再度の抗議をしなかった。潤いのない穴にぐりぐりと捻じ挿れられて、顔を苦痛に歪めながらも無言で耐える。
「ふうむ。これほどの巨大な物を平然と受け挿れるとは、まさしく淫魔であるな」
「そんな……猊下が我慢しろとおっしゃるから……ぎひいっ!」
ぐいっと一気に奥底まで突かれて、悲鳴をあげる少女。
「ゼメキンス殿。女の穴はそれぞれに大きさも違うかと」
もしかすると――このガイアスというお方は、枢機卿猊下に付き従っている二人の修道僧とは異なっているのではないか。アクメリンには、彼が少女をかばっているように思えた。冷静に考えれば、ゼメキンスが模造男根による責めだか検査だかを思い立ったのは、ガイアスの言葉である。すこし深読みすれば、最初から台本があったのではないかと思い至る。そこに気づかなかったのは、アクメリンが一人でも味方を見つけたかったという焦りであろう。
「ふむ。では、今しばらく詳しく調べてみるか」
リカードが少女の脚を床へ下ろして、壁に掛けてある木枷を取ってきた。両端の留金具で閉じ合わす二つ割の板。大小五つの穴が開けられている。少女を開脚させ、いちばん外側の穴に足首を挟んで木枷を閉じた。
「これから、おまえに淫らな悪戯を仕掛ける。信心深き貞婦であるなら、よも乱れはすまい」
つまり。性的な刺激を与えて、それに反応すれば淫魔である――と、最初から結果は分かり切っているのだが。
股間から突き出している模造男根の端にホナーが縄を巻いて、抜け落ちないように太腿に縛りつけた。そして三人の修道僧は小さな刷毛を持って少女を囲んだ。ホナーとリカードが両側に立ち、ガイアスは正面にしゃがみ込む。
そして、乳首と淫核を刷毛でくすぐり始めた。
刷毛が乳首に触れるなり、少女はぴくんと身体を震わせて――震わせ続ける。
「く、くすぐったい……」
少女は、しかし刷毛から逃れようとはしない。これが、真っ当な検査であると信じているのだろう。淫核を包皮の上からくすぐられているうちは、それで済んでいたのだが。ガイアスが左手の指の間に淫核を挟んで剥き上げ、その柔肉に刷毛の先を触れさせると。
「いやあっ……ああっ……あんんっ?!」
腰をくねらせて逃れようとし始めた。リカードが、股間から突き出ている模造男根を握って、動きを封じる。
「いや……お赦しください……」
少女はなおも腰をくねらせるのだが、その動きはかえって膣穴を刺激することになり、不本意ではあっても小さな頃から男根に馴染んでいるのだから、新たな快感を掘り起こしてしまう。
「いや……やめてください。くすぐったいです」
しかし、最初に訴えたときとは響きが変わっている。
「いやっ……駄目! やめてえええ……」
切迫した訴えだが、語尾が鼻に抜けている。
三人の修道僧は、いっそう激しくしかし繊細に刷毛を動かして。
「ああっ……こんなの、いやっ! ああ……あんん」
しかし、ゼメキンスの合図で三人がいっせいに刷毛を引くと。
「いやああああ、やめないで!」
「気持ち好いのか。もっとくすぐってほしいのだな?」
ゼメキンスの罠に嵌まって、少女が頷く。
「逝かせてやれ」
三つの刷毛が、また三つの突起を襲って……
「ああああっ……駄目! 落ちる! 落ちちゃうよおお!」
少女は、あっさりと堕ちてしまった。
「この娘は紛れもなく淫魔であると立証されたな」
アクメリンは、目の前で何が起きているのかを、すぐには理解できなかった。もしも三日前の彼女であったら、ゼメキンスの言葉を信じていたかもしれない。それほどに、少女の乱れっぷりはアクメリンの常識を超えていた。
しかし。同じ三点を糸で括られて木札をぶらさげられ、その重みと糸から伝わる微妙な震えとに激痛を感じながらも怪しい疼きに悩まされて、ついには忘我に至ってしまった、まだ生々しい記憶が、少女の反応に重なって――性的な快感とは無縁だったアクメリンにも、おぼろな理解を生じさせようとしていた。と同時に、初めて、枢機卿猊下の御言葉に疑問を持った。彼の言葉が正しければ、アクメリンもまた淫魔ということになりはしないだろうか。
「この娘が淫魔であると判明したからには、これ以上の尋問は不要であるな」
ゼメキンスが唐突な断定をした。
「ショザウンの娘ジョイエよ。汝は淫魔に憑かれておるがゆえに、炎による浄化が必要である」
恍惚にたゆたっていた少女は、ゼメキンスの言葉が自分の運命を断ち切るものであるとは理解できないようだったが。
「街じゅうに布令を出して、三日後に焚刑に処すものである」
そこまで言われれば、恍惚の余韻どころではない。
「違います! あたいは悪魔なんかじゃないです。みんな、あの人のでたらめです!」
金切り声に涙を交えて、少女が訴える。
「されど、おまえは若い。魂としては幼いと言ってもよい。これから魂の浄化に励み徳を積むと誓うのであれば――これまでの罪を赦してやってもよいぞ」
「え……?」
急展開の断罪についで唐突に示された救済の道。そもそもの理不尽な告発を争うことも忘れて、少女は縋りつくような眼差しでゼメキンスを見る。
「おまえが清らかな魂を取り戻すまでのあいだ、修道院で――左様、いきなり尼にしてやるわけにもゆかぬ。女手の足りておらぬ修道院で下働きをするか?」
奇妙な話ではある。女子修道院なら、そこに居住するのは女ばかりであるし、男子修道院なら必然的に男子ばかりで、女手の不足という言葉は矛盾している。三人の修道僧がひっそりとほくそ笑んでいる様に気づけば、足りぬ女手がどのように扱われるか――しかし、聖職者の集団と姦淫や虐待とは、ゼメキンス以下三人の残虐を身をもって体験してきたアクメリンにさえも、すぐには結びつかなかった。
「は、はい。喜んで、おっしゃる通りにいたします」
少女が安堵ではなく歓喜を迸らせた。修道院での生活は質素でこそあれ、貧窮はしていない。しかも、拒めば暴力を振るってでも実の娘を犯す父親とも、悪意を持って接する継母とも、縁を切れる。
縄をほどかれ、脱いだ衣服を与えられて。少女は身なりを整えるよりも先に、裸のまま枢機卿猊下の御前にひれ伏して、その足に口づけをしたのだった。
少女はガイアスに案内(後の運命の実態を考えれば、拉致あるいは連行という言葉がふさわしいのだが)されて、牢獄を去った。
――次に、檻の中の年増女(といってしまっては可哀想であるが)が引き出される。
「革鞣し職人ツワイマアの妻、ニレナであるな」
「はい……」
女は、腕を吊られて床に座り込んでいるアクメリンをちらちらと見ながら、あやふやに答えた。女は、おのれがどのような目に遭わされるのか、不安と希望とが混淆している。
アクメリンの裸身は、これまでに種々の虐待が加えられたことを雄弁に物語っている。尻は刃物傷で埋め尽くされて乾いた血がこびりついているし、全身に鞭痕が走っている。乳首と股間には新しい血が滲んでいる。そのやつれた顔に見て取れる表情は、絶望でしかない。それが不安の根源であった。
一方、ジョイエという少女は、裸にされてニレナの目には姦淫としか見えないことをされはしたが、あっさりと許された。
思いが交錯するうちにも、ゼメキンスが女の罪状を読み上げる。
「おまえは、ガカーリイ商会の会頭から魔女の嫌疑で告発されておる。この十日間で、商会の者が五人も病を得たり怪我をしたり――それも、すべておまえの家を訪ねた直後だ」
「そんなのは、言い掛かりです。亭主が商会を通さず直に注文を受けたり、安い手間賃で仕事をしているのを、何とか商会に引き入れようとして、もう半年から嫌がらせをしてきてます。今度のことだって、病気だの怪我だの、嘘に決まっています」
ばしん。
ゼメキンスが、平手打ちで女の申し立てを退けた。
「魔女であるか否かは、調べれば分かること。この女を素裸に剥け」
修道僧が伸ばした手を女が振り払った。顔から血の気が引いている。
女は、ゼメキンスがジョイエに向かって言ったことを覚えていて、それで恐慌に陥ったのだった。みずからの手で服を脱がせるのは、釈放するときに服を返してやるためだ――と。では、服を破られようとしている自分は有罪と決めつけられているのか。釈放されることのない刑罰、つまり死刑なのか――と。
「自分で脱ぎます。破らないでください」
しかし、女の訴えは再び無視される。リカードが女を羽交い絞めにして、ゼメキンスが正面に立った。
「枢機卿猊下が、御自ら手を下される。光栄に思え」
ホナーの声は揶揄を含んでいる。
ゼメキンスが服の胸元を両手につかんで。
びりりりり……力まかせに引き裂いた。裳裾は上の方だけを破って、下に落とす。さすがに稼ぎのある職人の妻だけに、ジョイエのように上着の下は素肌というわけではなかった。ゼメキンスは手間暇を惜しまず、一枚ずつ破り取っていく。
裸体を隠そうとする腕を背中へねじ上げて、首枷と手枷が一体になった拘束具を女に嵌める。そして。ジョイエに嵌めていた木枷で開脚させて、その枷を天井から垂れる鎖で吊り上げた。後ろ手に拘束され喉を締めつけられた、女盛りの裸身が逆さ吊りになった。
「亭主持ちであるなら、処女でないのは当然じゃな。悪魔が交わるとすれば、尻穴であろう」
ジョイエに使った模造男根を逆手に持って、ゼメキンスが女の後ろへまわった。尻たぶを左右に押し広げ、その奥にひそんでいる紫色の蕾を露わにして先端を押しつける。
「きゃっ……まさか?!」
「まさか――なんじゃと言うのかな?」
軽く押しつけて、ぐりぐりとこねくる。
「そんなことは、しないでください。まさか枢機卿猊下ともあらせられる御方が、ソドムの罪を犯されるのですか?!」
ゼメキンスが、こねくる手は休めず、修道僧に向かって小首を傾げて見せた。
「そのようなこと、誰に吹き込まれたのじゃ」
「だって……神父様がおっしゃっておられました。子供を作りたくないからといって、そんなことをしたら、雷に打たれるだろうって」
『後デ注意シテオカネバナランナ。具体的ナ教エハ、必ズ、ソレヲ験シテヤロウトイウ輩ヲ生ミ出スコトニナル』
ゼメキンスが聖なる言葉で低く呟くと、二人の修道僧が軽く頭を下げた。ゼメキンスが人の言葉に戻って、女に告げる。
「さよう。ソドムの罪をおまえの身体が受け挿れるようであれば、すなわち悪魔と交わった証拠となるのだ」
「そんな……無理に押し込めば、入るに決まっています」
「試してみれば分かることだ」
いうなり、ゼメキンスは腕に力を込めた。ジョイエが無理強いに絞り出された分泌で、模造男根はじゅうぶんに潤滑されていたから。
「ぎゃはああっ……痛い!」
女は悲鳴を上げたが、模造男根はずぶずぶと尻穴を穿った。
「ひいいい……」
さらに中をこねくられたり抜き挿しされて、女は啜り泣く。
「ふむ。確かに悪魔と交わっておるようじゃな。とすると、次なる調査は何をすればよいか分かるな――リカード?」
「はい。悪魔は契約の印を女の身体に刻みます。巧妙に隠されていることが多いのですが、その印の部分は痛みを感じなくなっています。つまり、全身をくまなく針で刺して調べます」
直属の部下として使っている修道僧に、今さら口頭試問でもあるまい。ニレナに聞かせるための言葉だ。
ホナーが箱の中から、さらに小さな箱を取り出して蓋を開けた。びっしりと並んだ、縫い針にしては太く長すぎるが、金串にしては細く短すぎる――先端が鋭く尖った針金。
「おまえの答は間違っておらぬ。されど、全身をくまなく調べるのは時間の無駄じゃ。悪魔が契約の印を刻む箇所は、ほぼ決まっておる。すなわち、女が厳重に隠していても疑われぬ場所。たとえば――ここじゃな」
ゼメキンスは小箱から針を取り出すと身を屈めて、女の乳房を鷲掴みにすると横から針を突き刺した。
「痛いっ……お願いです、もうお赦しを……お慈悲を……」
悲鳴には耳を貸さず、いや、妙なる調べを聴くがごとく目を細めて愉しみながら、ずぶりずぶりと、四方から針を抜いては刺していき、ついには――乳首を正面から貫いた。
「きゃあ゙あ゙あ゙あ゙っ……!」
女は顔の半分が口になったような形相で絶叫する。
「ふむ。こちらの乳房には印がないようじゃな。反対側は、リカード、貴公に委ねる」
枢機卿猊下ともあろう高位の者が、一介の修行僧に、ぞんざいな口振りとはいえ『貴公』などと呼ぶ。やはり、尋常の関係ではない。使命に駆られて魔女を狩る同志――ということに、今はしておこう。
「魔女の本性を暴くために、余はこちらをさらに調べてみよう」
ゼメキンスは新しい模造男根を取り出して女の背後へまわり、前の穴へ無雑作に突き立てた。
「くうう……お腹が……裂ける!」
夜毎に(かどうかまでは知らないが)亭主の魔羅を受け挿れている女穴は、亭主の五割増しはあろう逸物をすんなりと呑み込んだ。とはいえ、後ろにも突き刺さったまま。下腹部の圧迫感膨満感は並大抵ではなかろう。
「ふふん。裂ければ、案外とそこから悪魔の肉片なぞ飛び出すかもしれんぞ」
後ろの模造男根を縛っている縄をほどくと、ゼメキンスは前後の棒を両手に握って、交互にあるいは同時に、抽挿を始めた。
「ひいいい……」
それでも、どこか余裕の感じられる呻き声だったが、リカードに乳房をつかまれて息を呑み、すぐに絶叫を迸らせた。
「あっ……ぎゃわあああっ!」
リカードはゼメキンスよりも容赦なかった。長い針が、乳房を外から内へと貫いたのだった。真横に貫くと、引き抜いて上から下へ。さらに斜め十文字に。
そのたびに、女は絶叫する。そして最後には、乳首を正面から――針先が肋骨に突き当たるまで深々と突き通された。
「うがあああっ……!」
リカードが針を抜いて立ち上がる。乳房をつかんでいた手は鮮血に染まっている。いうまでもなく、女の乳房は血まみれ。流れ出た血は胸の谷間を喉まで伝い、顔に数条の赤い線を描いている。
「乳房には見当たらないようです」
「ふむ。やはりな。では、肝心(かんじん)要(かなめ)の場所を調べるとするか」
ゼメキンスの言葉がどこを差すか、アクメリンでさえ理解した。
「いやですっ……お願いです……もうお赦しください!」
逆さ吊りにされている女は睫毛から涙をこぼして哀願するが、言葉を交わす間は手を休めていたゼメキンスに抽挿を再開させるきっかけを与えたに過ぎなかった。
「くううう……あっ、あっ……」
亭主に(とは限らないかもしれないが)開発されつくした女体は、残酷な陵辱にさえも、何がしかの反応を示し始めた。ゼメキンスの言葉を藉りれば、魔女が本性を現わし始めたということにでもなろう。
それでも。リカードが淫裂の端をまさぐり始めると、わずかな快感など消し飛んでしまう。
「そこは……お赦しください。いやっ……え?」
リカードはニレナの真っ黒な予想に反して、探り当て掘り起こした肉の突起に、先端の綻びから針先をわずかに挿し入れて――突き刺さなかった。左手で突起の根元を摘まんで固定すると、針先で実核を軽く引っ掻いたのだった。
「あああっ……なに、これ? こんなの……しらない?!」
数え切れないほど亭主に抱かれて開発し尽くされている(はず)だけに、未知の快感に戸惑うニレナ。
「ここは痛みを感じないようです」
独り言めいてゼメキンスに語り掛けながら、リカードはいっそう繊細に執拗に針を操って、女から性感をほじくり出す。
痛覚の無い部分があれば、すなわち悪魔との契約の印と断罪されることなど忘れ果てて、これまでに体感したことのない凄まじい鮮烈な快感に没入していくニレナ。びくんびくんと腰を痙攣させるが、ゼメキンスが操る二本の棒で動きを封じられる。
「あああっ……だめ、おかしくなる。こんなのって……あなた、ごめんなさいいいい……」
女が絶頂に達する瞬間を過たず狙い済まして、リカードが手をわずかに動かした。
「ぎゃわああああっ……!」
乳首などとは比べ物にならない鋭い激痛に貫かれて、女は雲間から奈落の谷底へ一気に突き墜とされた。
「ひいいい……痛い、痛い、いやあああ」
天国から地獄に叩き墜とされて悶え哭くニレナ。
「ふむ。悪魔の印は見当たらぬか」
ゼメキンスが、早々と結論を出す。
「そういつまでも、雑魚にかかずらわってもおれぬ」
床に凝然とへたり込んでいるアクメリンを振り返って、舌先で唇の端をちろっと舐めた――この場が審問の場ではなく、宗教的権力を藉りて嗜虐を満たしているに過ぎないと認めたも同然だろう。もっとも、エクスターシャ王女に関しては、当然に大陸的規模の権勢欲も混じっているであろうが。
「我らの手で探すのは面倒じゃな。本人に教えてもらうとしよう」
リカードが針を淫核に深々と刺し通したまま退いた。ゼメキンスが、こちらは二本の模造男根を引き抜いて、アクメリンの正面へ動いた。ホナーがそれを受け取り、布で汚れを拭き取ってから箱に納める。
「余が立っておるというに腰を降ろしているとは、不敬も甚だしいぞ」
ゼメキンスが足を上げて、アクメリンの股間を踏みにじった。
「あ……申し訳ございません」
未だにゼメキンスを(疑念を圧し殺して)加虐者ではなく高貴な聖職者と信じているアクメリンは、手枷を吊っている鎖に縋りつくようにして立ち上がった。滑車を介して壁につながれている鎖が緩んだが、リカードが引き絞って再びアクメリンの腕をいっぱいまで吊り上げた。
その間にホナーが、壁に掛けられていた一本鞭を選び取って、ニレナの後ろに立った。
「我らの会話は聞こえておったろう。悪魔の印をどこに刻んだか、素直に告白すれば、痛い思いをせずに済むぞ」
ゼメキンスは視線をアクメリンの乳房に落としたまま、片手でその柔らかな膨らみを弄びながらの尋問――とは、おざなりもいいところだ。
しかし、ニレナは懸命に訴える。
「そんなもの、ありません。あたしは悪魔と契約なんて、絶対にしていません。悪魔を見たことだってありません。みんな、ガカーリイ商会の言い掛かりです」
ニレナの言葉が終わると同時に、ホナーが長い鞭を振るった。
しゅううん、バシイン!
不気味な風切り音に続いて、肉を打つ重たい響き。
「いやあああっ!」
淫核に突き立ったままになっている長い針が揺れて、苦痛と快感の綯い交ざった刺激が、悲鳴に余韻を含ませる。
「……くうう、んんん」
しゅううん、バシイン!
「きゃああっ!」
しゅううん、バシイン!
「痛いいいっ!」
しゅううん、バシイン!
「きひいいっ!」
続けざまの鞭に、悲鳴が切迫する。悲鳴の数だけ、白い尻に赤黒い線条が刻まれていく。
「強情を張り通すと、尻だけでは済まぬぞ」
「ほんとうに、悪魔なんて知りません。信じてください」
ゼメキンスが指の腹を上にして、くいと曲げた。ホナーがうなずいて、ニレナの正面にまわって。
しゅううん、バシイン!
「い゙ぎゃあ゙あ゙あ゙っ!」
乳房が横ざまにひしゃげて、ぷるるんと跳ね返り、ニレナがしゃがれた悲鳴を噴きこぼした。
しゅううん、バシイン!
「ぎびひいいっ!」
しゅううん、バシイン!
「うあああっ……猊下のなさりようは、納得がいきません」
鞭打ちから逃れようとしてのことだろうが、教皇に次いで高位の聖職者に庶民が抗議するには、よほどの勇気を要しただろう。
「納得するには及ばぬ。悪魔の刻印をどこに隠しておるか、白状すれば良いことじゃ」
「でも……身体じゅうを傷だらけにしたら、その刻印とやらも見分けられなくなるじゃないですか」
ゼメキンスが、一瞬考え込んだ。では刻印があると認めるのだな――と、揚げ足を取ることもできたろう。しかし、そうはしなかった。
「そうか。もっともな言い分じゃな。それでは、鞭はあと三発だけに留めよう」
「…………」
ニレナは唇を噛んで、沈黙する。十も二十も鞭打たれることを思えば、三発で終わるのなら――しかし、それでも今のような激痛を三度も与えられるのだから、まさかに感謝できようはずもない。
どころか、ゼメキンスの言う三発は、これまでの鞭のすべてを上回って苛酷となった。
ゼメキンスが人差し指を立てて、真下に撥ねた。
ホナーが鞭を高く振り上げて。
ぶゅうん、バッヂイイン!
淫裂を真上から、長剣で断ち割るように打ち据えた。
「がはっ……!!」
悲鳴も上げられないほどの激痛に、ニレナの裸身が凝固した。
淫核に突き刺さっていた針が撥ね飛ばされた。石床に叩きつけられた針は銀色の表面が見えないほど血にまみれていた。
「ひいいい……」
ふた呼吸ほども遅れて、弱々しい悲鳴がこぼれる。
「はあ、はあ、はあ……」
荒い息が落ち着くのを待って、ふたたびホナーが鞭を振りかぶる。
「いやあっ……もう、おゆ……ぎゃわあっ!」
一発目と変わらぬ正確さと強さと無慈悲さとで鞭が淫裂を切り裂いた――というのは、誇張ではない。はっきりと血しぶきが飛び散った。
アクメリンの裸身が弛緩して膝が折れ、鎖で吊り下げられる形になった。同じ女人の身に加えられる残虐に失神したのだった。
鞭打たれる当人のニレナは、逆さ吊りにされて頭に血が下がっているせいもあるのか、束の間の安息へ逃れることすらできずに悶え続けている。
「待て」
次の鞭を与えようとするホナーをゼメキンスが制し、リカードに目を向けてアクメリンを指差す。リカードは隠しから硝子の小瓶を取り出すと、栓を開けてアクメリンの鼻先にかざした。
アクメリンが大きなくしゃみをして、意識を取り戻した。
「良く見ておけ。ニレナへの最後の一発が終われば、いよいよおまえの番なのだぞ」
分かりきっていたことだったが、それでも直截の宣告に、アクメリンは身を振るわせた。
「やれ。手加減は無用じゃ」
ホナーが小さく頷いて、鞭を握る手を大きく後ろへ引いた。
「ああああ、あ……」
エレナが唇をわななかせながら、ぎゅっと目を閉じた。
ホナーは腕を肩越しに前へぶんまわして――膝を折って身体を沈める勢いまで加えて、正確に鞭先を淫裂に叩きつけた。血しぶきが飛び散る。
「がわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
エレナは猛獣のように吠えて――ついに、安息を得た。
二人の修道僧がエレナを石床へ降ろす。手桶に水を汲んで、血まみれの裸体にぶっ掛ける。襤褸布で水と血を拭き取ると、黄色っぽい軟膏を塗り込めていく。
「馬の背脂に魔女を清めた灰と火から蒸留した酒精を混ぜた、まあ主に祝福はされておらぬが堕天使にも呪われておらぬ、錬金術の秘薬じゃ。傷が化膿することなく早く治る。その分、頻繁に尋問できるというわけじゃな。これからは、おまえにもたっぷりと使ってやる。ありがたく思え」
エレナへの残酷な拷問を見せつけられて、それを何度も繰り返すと脅されて、アクメリンはまたしても気が遠くなりかけたが、かろうじて踏みとどまった。
「申し開きは尋問の場で言えと、猊下はおっしゃいました。ですから、申し上げます。私はエクスターシャ王女ではありません。海賊の目を眩ませるために身代わりとなっていた、侍女頭のアクメリン・リョナルディです。アルイェットには、あと二人の侍女も捕まっています。彼女たちにお尋ねください。私の言葉が嘘ではないと、証言してくれるでしょう」
アクメリンは必死に訴えた。延べ三日の行程とはいえ、それはよろめき歩くアクメリンを追い立ててのこと。馬を駆れば、アルイェットまで一日で往復できるはず。
「そのような手抜かりをすると思っておるのか。ミァーナ家の娘とズコバック家の娘。二人の侍女からも証言は得ておるわ。ひとりぬくぬくと海賊どもからお姫様扱いをされて、侍女の処遇など気にも留めぬ王女殿下を、ずいぶんと恨んでおったぞ」
「そんなはずは……」
無いとはいえない。内心では、あの二人もエクスターシャ同様に見捨てるつもりでいた。指輪を使った小細工も、すり替わりを知っている者の目には、アクメリンの意図まで透かし見えただろう。王女が自分たちと同じように海賊どもに犯される姿を見るうちに、二人の侍女の気持ちは王女へと動いたのかもしれない。
侍女の証言が得られず本物の王女が亡くなった今となっては、アクメリンの身の証を立てる術はない。
「それでもなお、おのれはエクスターシャではないと言い張るつもりかな。侍女ならば微罪で済むかも知れぬからの。命が惜しいか」
王女ではないと言い張れ。そのようにそそのかしているも同然の物言いだったが、追い詰められているアクメリンは気づかない。
「本当に、私はエクスターシャではないのです。どうか、信じてください」
異教徒の男(とはいえ王様)に抱かれるささやかな嫌悪と引き替えに優雅な生活を手に入れる目論見だったのに、身代わりで焼き殺されるなんて、あまりに理不尽だ。
身から出た錆と内省するような女なら、最初から簒奪を企んだりしない。
「ふうむ。そのように必死に訴えられてはのう。間もなく晩餐じゃ。その間に考え直してみるか」
「ええっ……ありがとうございます」
まさかの言葉に、悪意がこもっているとは疑わないアクメリン。
「その間、立たせっぱなしも可哀想じゃな。おまえのためにとびきりの座を用意してやるでな」
気を失ったままのニレナを、犬がうずくまるような形で檻に押し込み終えた二人の修道僧が、アクメリンの腕を吊っている鎖も緩めた。その手を背中へねじ上げて、エレナに着けていた首枷と手枷が一体になった拘束具をアクメリンに使う。
「……?」
休ませてやると言っておきながらのこの仕打ちに、アクメリンは不安を掻き立てられる。
ホナーに乳房をつかまれリカードに尻を叩かれて、壁から二歩離れて置かれている木馬の前へ立たされた。それを木馬だと思ったのは――胴体は長さが子供の背丈くらいの材木で、幅は彼女の片腕の長さほどの狭い三角形をしているが、四隅の脚で湾曲した橇の上に支えられ、胴体の一端からは四角い材木があたかも馬の首のごとく斜めに突き出て、上端にはT字形に握り棒まで付いているからだった。
木馬の真上にも滑車から鎖が垂れている。その鎖が腋の下をくぐって胸を巻いて――アクメリンは完全に床から吊り上げられた。
「ま、まさか……?!」
ゼメキンスの悪意を悟って恐怖におののくアクメリン。こんな尖った材木を跨がせられたら、股間を切り裂かれてしまう。材木のまだらな模様は、染み込んだ血の痕ではなかろうか。
「いやあっ……やめてください!」
じりじりと木馬の真上に吊り降ろされていって、アクメリンが藻掻く。一度は稜線の上に立ったが、鎖が緩むと不安定な均衡は崩され、足を滑らせて落ちた衝撃が胸に食い込んだ。それでも、足の裏で切り立った斜面を捉えようとする。ずるずると滑って股間すれすれまで割り裂かれると、内腿で材木を締めつけて留まろうとした。しかし、楔がわずかの力で硬い木を割り裂くのと同じで、材木の先端は容易に会淫にまで達した。
「ひいいい……痛い、痛い痛い……」
爆発的な激痛ではなく、じわじわと増す鋭利な痛みに、アクメリンは泣き叫んだ。それでも諦めずに内腿を締め続けているからか、あるいは稜線が硬貨の厚みほどには丸められているせいか、すぐには肌を切り裂かれないでいる。
しかし。滑りやすい急斜面では、どれだけ力んだところで、太腿は滑ってしまう。鎖が緩むと、身体の重みのほとんどが会淫に食い込んできた。
「痛い痛い……お赦しください……」
「ふむ。座り心地が悪いか。もっと足を休ませてやれ」
アクメリンの宙に浮いた左右の足元に、人の頭ほどの大きさの鉄球が一つずつ置かれた。開閉式の鉄環、すなわち足枷が短い鎖でつながっている。ホナーがそのひとつを持ち上げ、リカードが足枷をアクメリンの足首に嵌めた。
ホナーが慎重に鉄球を下げていって、そっと手を放す。
「んぐうううっ……」
アクメリンが、食い縛った歯の隙間から呻き声をこぼす。鉄球の重さはアクメリンの重みの三分の二はあろう。
鉄球は反対側の足にもつながれて――今度は、脹脛の高さから放り出された。がくんと、アクメリンの足が引き伸ばされて。
「ぎゃわばわああっ……!」
断末魔のニレナにも負けない絶叫。
「ぐううう……きひいい……」
涙をこぼして苦悶するアクメリンの股間に血が滲んで、細い筋となって内腿を伝い木馬の木肌を朱に染めた。
「お、おゆるし……ください……せめて、錘だけでも……」
アクメリンの股間には、自身の二人分を超える重みが加わっている。さらに、鉄球が落下した衝撃。稜線がわずかに丸められていても、楔が体内に食い込むにはじゅうぶん過ぎる負荷だった。
「うぐ……ぐああああ……」
アクメリンの呻き声はいつまでも焉まない。それは、三角木馬の鋭い先端が強い力で傷口に押しつけられているからだけではない。木馬の脚は、湾曲した橇の上に乗っている。アクメリンが苦痛に身悶えすると、木馬が揺れて新たな激痛を生み出すからだった。
修道僧が木馬を押さえて揺れを止めた。
「ああ……」
相変わらず激痛は続いているが、それでもすこしは軽くなって、アクメリンは安堵の息を吐いた。しかし。
「仕上げは余が施してやろう」
ゼメキンスが細い紐、あるいは太い糸を取り出した。ホナーがアクメリンの乳房を握り潰す強さで揉みしだき、乳首を無理強いに搾り出す。ゼメキンスはそこに細紐を巻いて引き絞り、反対の端を木馬の首から水平に突出している握り棒に結びつけた。
「では、椅子の座り心地を堪能するがよい」
ゼメキンスが後ろに下がると、二人の修道僧が橇の後ろを踏み握り棒を押し上げて、木馬を大きく反らせた。
アクメリンの上体が後ろへ倒れて、乳首を引っ張られる。激痛を和らげようと前屈みになって細紐の引きを弱める。途端に。
「そおれっ」
ゼメキンスの掛け声で、橇の端を踏んでいた足が引かれ、握り棒は下へ強く押された。
ぐうんと木馬が前傾する。
「きゃああっ……!」
身体が前へ滑りかけて、その摩擦が会淫をさらに深く抉る。しかし、痛いと叫ぶ暇も与えず、木馬が揺り戻す。今度は後ろへ滑りかけると共に上体がのけぞって――乳首に巻かれた細紐が、ぴいんと張った。
「がはあああああっ……!!」
乳首があり得ないほどに引き伸ばされて、たわわな乳房が紡錘のように歪む。
木馬が揺れるたびに、アクメリンの上体が前後に傾いで、乳首と乳房の変形が繰り返される。さらに、錘の揺れで股間の激痛も前後に動く。
「ぎゃああっ……いたいいっ……とめて……ごめんなさい……おもりは、このままで……ぎひいいいっ……せめて……ゆらすのだけは……とめてくださいいいいっ!」
ある程度までの責めは甘受すると申し出たも同然の哀願だったが、それすらもゼメキンスには何の感銘も与えなかった――のではなく、嗜虐を満足させただけだった。
「では、デバイン殿が招待してくれた晩餐に赴こうぞ。エクスターシャよ、その揺れはじきに止まる――おまえの心掛け次第でな」
枢機卿猊下は二人の部下というよりも手下を引き連れて、哀れな罪人(と、すでに決めつけられている)を放置したまま、牢獄舎から立ち去った。
「あうう……きひい……いたい……」
木馬の揺れは次第に小さくはなっていったが、完全には静止しなかった。激痛に身悶えるアクメリン自身が木馬を揺らすからだ。そして。乳首の痛みをやわらげようとして身体を前へ倒すと、会淫を切り裂いていた稜線が、今度は淫裂の奥深くまで食い込んでくる。一時の激痛は我慢して身体全体を前へずらそうとして、内腿で力いっぱいに木馬を挟みつけて腰を突き出しても――足に吊るされた鉄球の重みがそれを阻んで、ただ股間を木馬に擦りつけるだけになってしまう。
「いたい……こんなのって……エクスタ、これは……ぐうう……あなたがうける……べきなのよ……たすけて、だれか……かみさま!」
神の僕(しもべ)たる者たちから受けている加虐である。神に救いを求める虚しさに、アクメリンは気づいていない……
………………
…………
……
――そうして。傷つき汚れてはいても、高窓からこぼれる微かな月明かりに仄白く浮かび上がるアクメリンの裸身は、まだ小さく揺れ続けている。激痛による無意識の身悶えばかりが原因でもない。後ろへ傾いたところで釣り合いが取れるように仕組まれているのだ。すると上体がのけぞって、乳首を引き千切られそうになる。意識するしないに関わらず身体を前傾させて、みずから揺れを増幅しているのだった。
「うあ、あ……く…………だれか……た……ひい………………たす、け……て……」
揺れ動く鋭利な激痛に、惨めな安息すらも得られないでいる。
そんなアクメリンを恐怖の眼差しで見詰めているのは、檻の中で意識を取り戻したニレナだった。明日は、もしかしたら今夜にも、自分も同じ拷問に掛けられるのだろうかと怯えているに違いない。自分が受けた拷問と、どちらが苦しいだろうか、とも。
ニレナが、はっと、戸口に目をやった。
ぎいい……と、蝶番を軋ませて扉が開いた。暗闇の中に透かし見える人影は四つ。枢機卿猊下と三人の修行僧に違いない。人影のひとつが壁際へ動いて、小さな赤い光が動いたと見るや、太い焔が灯って牢獄の中が明るくなった。
尋問すなわち拷問の再開――と、ニレナは犬のようにうずくまっている裸身をいっそう縮込ませたが、四つの人影が共にアクメリンのほうへ動いたので、見知らぬ犠牲者の身を案じるどころではなく安堵した。
アクメリンは、うわ言のように激痛を訴えるばかりで、牢獄が明るくなったことにさえ気づいていないようだったが。不意に木馬の揺れが止められて、ゼメキンスに真正面から顔を突き付けられて――しゃっくりのような悲鳴と共に(幾分かは)正気を取り戻した。
「まだ、おまえはエクスターシャ王女ではないと言い張るつもりかな?」
「あ……いやです。もう……ゆるしてください」
どこまで、ゼメキンスの言葉を理解しているのか。
「おまえが王女と認めたところで、すぐに処刑するわけではないぞ」
ゼメキンスの猫撫で声には、必ず裏があるのだが。
「デチカンまで連行して裁判に掛けたうえで、異端者もしくは魔女であると判定されてから――そうじゃな、裁判はひと月から先になろう。有罪と決まっても、処刑するとは限らん。フィションク準王国の陰謀を赤裸々に証言するなら、教皇聖下より恩赦を賜らんとも限らぬぞ」
それは、およそ実現不能な絵空事に過ぎない。裁判は、被疑者の自白が最有力の証拠となる。完璧な自白が得られるまで、拷問が繰り返されるのだ。陰謀の告発には、それでも足りない。フィションクに対して、この娘がたしかに王女であると、これを教皇庁が証明しなければならない。それは不可能に近いし、仮に本物の王女が証言したとしても、フィションク国王は愛娘を見捨ててでも国家の安泰を謀るに決まっている。しかも、夫を捨てて駆け落ちをした妻の娘。一掬の涙すら浮かべないのではなかろうか。そんな私事よりは、メスマンとの同盟を諦めねばならないことのほうが、よほどの打撃だ。
つまりエクスターシャは、フィションクへの教皇庁からの警告の贄として白羽の矢を立てられたというのが、真相であった。などとは、たとえアクメリンの思考が十全に働いていたとしても、思い及ばなかっただろう。
しかし、長時間の拷問(ゼメキンスの見解では、まだ始まってもおらず、とびきりの座に憩わせてやっているだけだろうが、それはともかく)で激痛に疲弊して思考力も失われたアクメリンには、枢機卿猊下の御言葉は福音のように聞こえた。嫌疑を認めさせるための拷問にも思い至らず、馬車なら十日とかからぬ距離をなぜ三十日と見積もるのかも疑問すら浮かばなかった。
「嫌疑に対する尋問は後日のこととしてやろう。今はただ、おのれがエクスターシャであることのみを認めよ。されば、今宵は簡単な検査のみで済ませてやるぞ。どうじゃな?」
「あああ……どうか、もう……おゆるしください」
「認めるのじゃな」
「は、はい……みとめます」
「もっと、明確に証言せよ。おまえは、フィションク準王国の第二王女、エクスターシャ・コモニレルなのじゃな?」
「わたしは……えくすたあしゃ、です」
「王女が、そのような言葉遣いをするものか。正しく言い直せ」
虚ろな瞳の中で、微かに光が揺れた。エクスターシャと入れ替わった直後に、その言葉遣いを訂正させたときのことを、アクメリンはおぼろに思い出した。
「わらわは、ふぃしょんくのおうじょ……えくすたあしゃ、に……そういありませぬ」
アクメリンは、すでに尽きている気力を虚無の中から掘り起こして、枢機卿猊下が望まれているであろう言葉を気息奄々と口にのぼせ終えると、がくりと首を垂れた。
「三人とも、フィションク準王国第二王女の自白を、しかと聞いたな」
三人は左手を胸に当て右手を挙げて頷き、牢獄の入口近くに設えられている小机に置かれている羊皮紙に、アクメリンの自白を書き込んでそれぞれに署名をした。
ヒロインをそっちのけの猿芝居が終わると、ゼメキンスが次の残虐を命じる。
「売女を降ろしてやれ。この者が悪魔と交わっておらぬか、調べねばならん」
アクメリンは即刻に三角木馬から解放され、後ろ手の枷も外されて――梯子を水平に寝かせた台の上に縛りつけられた。本来の目的に使われるなら足の先が来る位置に腰を置かれて。
「もう……ゆるしてくださる、はずでは……」
「言ったはずじゃ。ごく簡単な検査が残っておると」
「…………」
言われてみれば、そうだったような。
アクメリンはもう、抗議も哀願もしなかった。両手を伸ばして頭の上で縛られようと、首の下に横木を通されて、そこへ直角に開かれた両脚を固縛されようと、三角柱の木馬を跨がせられることに比べれば安楽の極みだった。女として最大の羞恥を曝すことなど、肉体的な苦痛は微塵も無い。
枢機卿猊下がいきなり法服を脱ぎ始めても、アクメリンは関心を持たなかった。下着まで脱ぎ捨てて、四十を過ぎてあちこちが弛(たる)んだ裸形を見せつけられても、猊下の意図すら推測しようとは思わなかった。とはいえ、その股間に屹立している部分が、ジョイエとレニナの股間に突き立てられた棒状の道具に(かなり小振りだが)酷似しているのに気づくと――さすがに不安が生じた。
アクメリンは上体を屈曲した形で梯子の端に固縛されているから、V字形に開かされた股間は宙に突き出ている。その正面――ただ前へ進むだけで容易に挿入可能な位置に、ゼメキンスが立った。
「おまえが清らかな身体であれば、その門は閉ざされており、男の侵入を拒むであろう。されど悪魔と交わっておる魔女なれば、悦んで迎え挿れるはずじゃ」
検査の後は確実に処女でなくなるという、冤罪捏造のための処女検査であった。
しかしアクメリンは、これから我が身に起こる災厄を、正確には理解していない。結婚適齢期になった娘でさえも、新婚初夜は夫となった男に一切を委ねて、羞ずかしくても痛くても我慢しなさい――としか教わらないのが、少なくとも貴族の世界では普通だった。わずかな聞きかじりと、今夜に目撃した惨劇だけが、アクメリンが性に関して知っているすべてだった。いや、目撃した陵辱と男女の営みとを直接に関連付けて理解しているのかさえ怪しい。
しかし、肉体の反応は知識とは無関係である。棒状の道具に酷似した男性の器官を股間に押し挿れられて、当然に痛みを感じた。とはいえ、三角木馬に股間を抉られていたときの痛みに比べれば、呻き声にすらも値しない軽微なものだった。
それよりも。これは、まさしく新妻が夫に従属するための儀式なのではないか――と、そのことに思い至って愕然とした。
「いやっ……やめてください。お嫁に行けなくなります!」
魔女として焚刑に処される瀬戸際に立たされているというのに呑気な心配をするものではあるが。ようやく四肢の指に足ろうとしている年齢の乙女にとって、実感を伴って死を恐怖できるはずもなく、むしろ、神にも両親にも祝福された結婚が叶わなくなることのほうが、よほど切実な問題だった。
王女として(父王に疎まれながらも)乳母日傘で育ちながら、速やかに海賊相手の娼婦という逆境に順応し、アクメリンが拉致されたと知るや敢然と行動を起こしたエクスターシャと比べれば、アクメリンは簒奪などという大それた悪事をしてのけながら、あまりにも凡庸な娘ではある。
贄娘の哀願にゼメキンスはいっそう男根を怒張させて、腰をぐいと突き出した。
「ぎひっ……」
さすがにアクメリンは呻いたが、女にとって生涯一度きりの惨事(過半の女にとっては慶事)に際するにしては、あまりに控えめな声だった。それだけ、直前までの拷虐が苛酷という証左ではあるが。
苦痛の表現は控えめであっても、指一本挿れたことのない処女穴の締め付けは、繰り返し実父に犯されてきた少女や夫の魔羅に馴染んだ新妻とは比較にならなかった。これまで数多(あまた)の女信者に秘蹟ならぬ卑跡を授け、五指に満たぬとはいえ悪魔としか交わったことのない若き魔女の正体を暴いてきた百戦錬磨の枢機卿猊下も、聖なる書物の半頁も読まぬうちに検査を終えてしまった。あるいは、いずれにせよ単純に突っ込むだけの検査には熱意を持てず、工夫を凝らした尋問こそが天職と心得ているのかもしれない。
「すんなりと挿入できたうえに、新たな出血も確認できなんだ。この者は魔女と断定してよかろう」
魔女であれば、エクスターシャであろうとアクメリンであろうと、異教徒と通じていようといまいと、焚刑の運命は免れないのだが。アクメリンの耳にゼメキンスの言葉は届いていない。じゅうぶんな予兆があったにも関わらず、彼女にとっては唐突だった処女喪失の衝撃に呆然としている。
当人に代わって、意外にもガイアスが弁護にまわった。
「破瓜の痛みは、人によって大きな差異があると聞き及びます。苦痛を訴えなかったからといって、悪魔と交わっていたとは断言できないのではないでしょうか。また、破瓜の血はそれ以前の怪我による出血に紛れていたのかもしれません」
アクメリンはガイアスの言葉もじゅうぶんには理解できないままだったが、ともかく庇ってくれているらしいとは分かった。そういえば――投獄された直後に身体を清めてくれたときも、彼の手つきは優しかった。この三日間、私を虐め抜いてきたホナーやリカードとは違うのかもしれない。
アクメリンの見立ては、ある意味間違ってはいない。他の二人より信認の篤いリカードは、後方支援の意味でマライボに留まりながら、ゼメキンスのために魔女嫌疑者を強引に摘発していたのだから。
「ふうむ。汝の言い分にも一理はあるのう。では、魔女詮議は後日のことと致すか」
アクメリンは、ひっそりとガイアスに感謝したのだが。裏を返せば、拷問が増えるのだから、恨むべきなのかもしれない。もっとも実際には……ゼメキンスが飽きるまで、拷問は続く。そして、熱心な神の使途である彼が職務に倦むことなど無いのだった。
「しかし、まだ検査する穴が残っているのではありませんか?」
ホナーが口を挟む。
「それも明日じゃ。余の杭は鉄で出来ておるわけではない」
つまり――処女穴よりもきつい尻穴を貫くのは、二発目では難しいという意味である。
「とはいえ、まだまだ、汝らに初手を任せる年齢(とし)ではないわい」
蛮族に喩えるなら『族長の権利』であろう。
ともあれ。アクメリンは梯子の寝台(拷問台であろう)に固縛されたまま、血を洗い流され襤褸布で拭かれ、錬金術の秘薬と称する軟膏を股間に塗りこめられて――ジョイエが入れられていた狭い檻に押し込められた。そして。水も食餌も与えられることなく、翌日まで放置されたのだった。
――アクメリンもニレナも、互いに口を利くどころか、目を合わそうともしない。闇を透かし見ても、そこにあるのは惨めな自分の鏡写し。そして、励まし合おうにもその取っ掛かりがない。ふたりに共通しているのは、容疑を認めるまで拷問を繰り返されて、その行き着く先は極刑。ひたすら、己れの痛みに沈潜するしかないではないか。
それでも、まったくの孤独よりはましだったかもしれない。すくなくともニレナにとっては、アクメリンの所作に扶けられるところもあった。生理的欲求である。すでにアクメリンは、垂れ流すことに(羞恥は覚えながらも)狎れてしまっていた。犬のようにうずくまったまま、もちろん片脚を上げたりはせずに、石床に水溜りを作ったのだ。その微かな水音を聞いて――ニレナも、下腹部の我慢しきれない不快を軽くできた。
まんじりともせずに朝を迎えた――のは、ニレナだけだった。身体のどこにも縄を掛けられず、狭い檻であっても寝返りくらいはできるし。股間の内も外も痛みに疼きながらも、アクメリンは三日ぶりに熟睡できたのだった。
夜が明けきった頃、ガイアスがひとりで牢獄を訪れて、食事を差し入れてくれた。薄い肉汁を容れた皿と、黒くて固い麺包を乗せた板。最下層の貧民に教会が施すような代物で、ニレナは麺包をひと口かじっただけで顔をしかめたが――アクメリンにとっては、アルイェットから連れ去られて以来の、他人の咀嚼物ではない、まっとうな食事だった。
うずくまったまま、両手で麺包をつかんでかぶりつく、その浅ましい姿を、ニレナは呆れた顔で眺めていた。この女(ひと)が、どこかの国のお姫様だなんて、そんな馬鹿な。当人が主張していた侍女ですらあり得ない。まるで女乞食そのもの――ニレナの表情は、そう語っていた。
陽が天に沖するすこし前になって、今度は四人が一緒になって牢獄を訪れた。アクメリンとニレナが恐れていた尋問の再開――では、あったのだが。
最初にニレナが檻から引き出されて。両手で前を隠して身体を縮込めている彼女の前に、古着が投げられた。
驚きの表情を浮かべるニレナ。彼女自身の替着だったからだ。それが、なぜここにあるのか。夫が差し入れてくれたのだろうか――思わず扉を振り返ったが、閉ざされたそこに夫の姿があろうはずもない。
「おまえは釈放する。ガカーリイ商会が告発を取り下げた」
ニレナは一瞬ぽかんとして。たちまちに安堵が顔一面に広がった。
「は、はい……ありがとうございます」
身をこごめて衣服を拾い上げ、今さらに男性の目に裸身を曝すのを羞ずかしがるかのように、あたふたと身繕いを調えた。昨日の鞭打ちと陵辱、ひと晩じゅうの窮屈な姿勢での監禁。それらによる疲弊が一時(いちどき)に吹き飛んだかのような身の動きだった。
「されど、魔女の嫌疑が晴れたわけではないぞ」
ゼメキンスが釘を――刺さねば、格好がつかない。
「監視を緩めぬよう、この地の司祭にもガカーリイ商会の面々にも申しつけておいた。再度の告発があれば、次は夫婦共々ということにもなろうぞ」
ニレナが、はっと顔を上げて枢機卿猊下を直視して。すぐに俯いて唇を噛んだ。
「……夫にも、そのように伝えますです」
監視者の名に商会を加え、次は夫も告発されると脅す。つまり、今回の告発は、夫のツワイマアを商会の支配下に置くための脅迫だったと――明白に語られたも同然だった。
まったくの茶番劇。しかし、それをいえば――たとえ捕らえた娘が真性のエクスターシャだとしても、フィションク国王を弾劾することは困難と分かりながら、その娘を処刑する。こちらのほうが、よほど大掛かりな茶番劇であろう。アクメリンの訴えに真実を見ながら、亡き者となったエクスターシャに仕立て上げようとするなら、二重の茶番劇でもある。
小さいほうの茶番劇は、ガイアスがニレナを牢獄から連れ去ることで幕を閉じた。そして、壮大な茶番劇の第二幕が開く。
「この者は、おのれが王女エクスターシャであると認めた。そのうえで自白させねばならぬことは多々あるが、それよりも先に――この者が魔女であるか否かを確定させねばなるまい」
その言葉を聞いてアクメリンは、昨夜にされたこととされなかったこと。ニレナがされたことなどを思い合わせて、尻穴を犯されるのか股間の突起に針を刺されるのかと、生きた心地も無い。
しかし、ゼメキンスの一言一句にたいして意味がないことをアクメリンは分かっていない。ゼメキンスの言葉は、被疑者を己れの好きなように嬲るための場当たりでしかないのだ。昨夜はニレナを魔女と断定しておきながら、今日になると告発が取り下げられたと言って釈放する。
アクメリンの扱いは、さらに恣意的である。魔女は鎖で縛って水に放りこんでも浮かび上がると称して験した結果は当然の失敗に終わったが、次には悪魔から授かった淫茎を暴いて九分九厘は魔女であると断定した。それでも昨日は、悪魔と交わった証拠を確かめるという名目でアクメリンを犯し――拷問に比べれば小さい破瓜の痛みに耐えたから処女ではないと決めつけ、破瓜の血は三角木馬による出血に紛らせてしまった。
次に何をどのように確かめるにしても、否定的な結果が出ればさらなる検証を、そうでなくてもさらに証拠を固める必要を言い出すであろうとは、容易に推察――できないのは、アクメリンばかりである。
「とはいえ、すぐには調べられぬな」
とは言いながら、二人の修道僧にアクメリンを檻から引き出させる。
「この者は、一昨日からこっち、腹に汚物を溜め込んでおる。まずは、その処置じゃ」
男の人が見ている前で排泄をさせられるのだろうかと、アクメリンは怖気(おぞけ)をふるった。放尺水は生理的欲求が羞恥を上まわってしまったけれど、こちらのほうは、まだ一日や二日なら我慢できる。それを無理強いされるのは、女として耐えられることではない。けれど拒めば、また鞭打たれるか三角木馬に乗せられるか、それとも針による検査をニレナよりも厳しくされるかもしれない。
しかしゼメキンスは、言葉あるいは暴力による無理強いはしなかった。昨夜はジョイエに使われた大きな木枷が持ち出された。
アクメリンは膝を折って座らされて、額が石床に着くまで上体を屈曲させられた。手を後ろへ引かれて、木枷に穿たれた五つの穴の外側へ通された。その内側へは足首。真ん中のいちばん大きな穴は、ふつうに座らせた形で拘束するときには首を通すのだが、今は用がない。
「ホナー、持って来ておるな」
マライボの牢獄には、囚人に苦痛を与える道具は揃っているが、女囚の羞恥を煽るための道具には乏しい。それだけ、この都市の統治者は真っ当な男であるということだが。いっぽうのゼメキンスは、そちらに特化した拷問具を荷馬車に幾箱も積み込んでいる。男に比べて女のほうがいっそう罪深い(アダムに林檎を勧めたのはイヴである)から、女への拷問具にも工夫を凝らすのは神の使いとして当然の職務である。などという皮肉はさて措き。
ホナーが、馬車から持って来ている箱から取り出したのは、二の腕ほどの太さと長さの金属筒だった。一端には細長い嘴管があり、反対側には押し引き出来る把手が付いている。それを、いったんは檻の上に置く。
床に窮屈な俯せの姿勢で転がされているアクメリンの前に小さな桶が置かれた。ゼメキンスが法服をたくしあげ細袴をずらして、桶に向かって放尺水する。
「わっ……」
アクメリンは飛沫を顔に浴びて、しかし反対側へ向くことも容易ではない。
ゼメキンスに続いてホナーとリカードが、これは桶の左右から放尺水する。アクメリンが顔をそむけても、どちらかひとりが動いて、飛沫を浴びせかける。
三人ともこの為に溜めていたらしく、かなりの量になった。それをホナーが金属筒に吸い上げた。アクメリンの後ろへまわって、無防備に曝されている尻穴に嘴管を突き刺した。
「痛いっ……ああ、いやあ!」
嘴管で貫かれる(すでに苦痛に狎らされているアクメリンにとっては)わずかな痛みよりも。それに続いて、腹の中に押し入ってくる水の感触に、アクメリンは狂乱した。男の小便――正体が分かっているだけに、全身が総毛立つ。
しかし、事は汚辱だけでは済まない。腹の中には三日分が溜まっている。それが水で軟らかくなり、溜まっていた分量に数倍する水の圧迫と相俟って。数分もすると、凄まじい便意が募ってきた。
「く……お慈悲です。この枷を外して……ここから出してください」
註記でも述べたように、この時代の人々には戸外での排泄に(誰にも見られないのなら)羞恥はない。アクメリンの懇願を現代風に翻訳すれば「トイレに行かせてください」となる。
ゼメキンスは何も答えない。隠しから小さな砂時計を出して、アクメリンの横に置いた。
「負けたほうが、呪いをふさぐのじゃ。良いな」
「では、三回を超えるほうへ」
リカードが応じて、ホナーが肩をすくめる。
「となると、拙僧は三回以内ですか。にしては、ちと量が少なかったかもしれませんな」
およそ意味不明の遣り取りだが、これで意思の疎通ができているのだから――こういった処置には慣れているということであろう。
「く……くうう……」
哀願は無駄と悟って、アクメリンはひたすら便意に耐えている。
「……一回」
砂の落ち切った砂時計を、ゼメキンスがひっくり返した。再び砂が落ち始める。
季節は初夏であるが、石壁が熱を遮っているので、牢獄の中は風通しが悪いわりには蒸し暑くない。しかし、アクメリンの全身には汗がびっしり噴いている。
「……二回」
数えながらゼメキンスが再度砂時計をひっくり返したとき。
「あああっ……もう、だめえっ!」
悲痛な声で叫ぶなり。
ぶじゃああ、ぶりりりり……
茶色に濁った水を激しく噴出させ、軟らかくなった固形物もぼとぼと落とす。
「あああっ……いやあ、見ないで!」
アクメリンは啜り泣きながら、しかし、排便はなかなか終わらない。
ホナーとリカードが、牢獄の隅に置かれた大桶から水を汲んできては、アクメリンの尻といわず全身にぶっ掛ける。石床にはわずかな傾斜が付けられているので水は一方へ流れて、壁に穿たれた排水孔へ吸い込まれる。
汚れが洗い流されると。今度は水を浣腸器に吸って、アクメリンに注入する。しかも、続けざまに三度。もはやアクメリンには前にも倍する圧迫に抗する気力は残っておらず、すぐに水を噴き上げる。そして、また何杯も水を全身に浴びせられて、ゼメキンスの言う処置は終わった。
蛙が潰れたような格好で床に転がされているアクメリンを、二人の修道僧が前後から抱え上げて、梯子を水平に寝かせた拷問台に直交させて載せる。アクメリンの尻と頭が梯子の枠から突き出る。その後ろにゼメキンスが、前にはホナーが立ちはだかる。アクメリンはぐしょ濡れのままなので、服を汚すのを嫌ってか、二人とも全裸になって――十字架だけを胸に吊るしているのは、むしろ戯画でしかない。
ホナーは全身が引き締まっている。修道僧の質素な食事と日常の労働とを反映してであるなら、そういつもいつも破戒に明け暮れているわけでもなさそうだ。ゼメキンスも、年齢と高位の役職相応に弛んではいるものの、それでも肥満や衰えとは程遠い。なによりも、男の根源たる部分は、太さも角度もホナーに勝るとも劣らない。
ホナーが、急峻にそそり立っている怒張をアクメリンの唇に近づけた。
「呪いの言葉を吐かれてはたまらん。その棒で口をふさいでおれ」
と、ゼメキンスに言われても。従えるはずもない。アクメリンは歯を噛んで口を閉ざし、そっぽを向く。
ホナーが縄で輪を作ってアクメリンの首に通した。頭を押さえつけて下を向かせ、縄の端を引いて首を絞める。
「あぐ……」
息苦しさを感じるより先に首の痛みにアクメリンが喘ぐ。
その薄く開かれた口にホナーが怒張を突き挿れる。
「むぶ……ぶふっ……!」
あわてて吐き出そうとするアクメリンだが、頭を押さえられ下から突き上げられていては、どうにもならない。いっそう深く突き挿れられて、ホナーの淫毛が鼻腔を刺激して。
「びぃっくしゅん!」
とたんに、また首を絞められた。
「噛むな。次に歯を立てたら、このまま縊り殺すぞ」
低い声でホナーに脅されて、アクメリンは意識して口を開けた。
「しっかり咥えていろ」
縄は緩められたが、両手で頬を叩かれた。アクメリンはまた口を閉じた。
「今のところは、それで良い」
アクメリンの(呪いの?)言葉を封じ終えると、ゼメキンスが腰をつかんで、怒張を尻の谷間にあてがう。
「んむうう……」
やはり――昨夜のニレナへの仕打ちを見ているだけに、何をされようとしているかは、昨夜に処女を破られたばかりの娘にも容易に理解できた。だけであって、とうてい受け容れることはできない。
「あええ……おんあおお……」
ぎゅっと首を絞められて、アクメリンの言葉が途切れる。
「この期に及んで逆らうか。ならば、終油の秘蹟は授けてやらんぞ」
終油の秘蹟とは、死に瀕した者の額と手に聖油を塗る儀式を謂うが、この場では潤滑にそれを使うつもり――だったのかもしれない。ゼメキンスは、わずかに水で湿されているだけの尻穴に、怒張を突き挿れた。
処女穴を貫通されたときよりずっと重たく熱い激痛がアクメリンの尻穴を引き裂いた。
「む゙びい゙い゙い゙い゙っ……!」
くぐもった悲鳴とともに歯を食い縛ったのは一瞬。顎をつかまれて力が緩んだ。
ぐにゅんぐにゅんぐにゅうんと、尻で激痛がうねる。と同時に。口の中でも怒張が前後に衝き動き始めた。
「むびいい……んぶっ、んぶっ……」
尻の痛みと喉元に込み上げる吐き気と。アクメリンは、生きた心地もない。
「ううむ。悪魔と交わったにしては、こなれておらんな。具合がよろしくない」
「そのようで。呪文を唱える気配もありません」
「ふむ……もしや、いまだ悪魔と契約を交わしてはおらぬのかな」
勝手なことを言い交わしながら、ゼメキンスとホナーは、腰を動かし続ける。
「とはいえ。この者に悪魔の淫茎が芽生えておることも事実じゃ」
「では、どのように」
「左様……」
ゼメキンスは猿芝居をやめ、いっそう激しく腰を打ちつけて、数分で埒を明けた。
ほとんど同時にホナーもアクメリンの口の中に白濁を放った。
「うぶっ……」
ホナーは男根を引き抜くと、素早くアクメリンの口を掌でふさぐ。
「んむうう……」
「神に祝福された聖なる汁だぞ。呑み込め。体内に潜む悪魔を滅ぼしてやる」
鼻までつままれて、なおも逆らえば窒息してしまう。アクメリンは吐き気に逆らって、口中の汚濁を嚥下するしかなかった。
それを見届けてから、ゼメキンスも腰を引いた。梯子を向こうへまわって、放心しているアクメリンの唇に、萎えかけた男根を触れさせた。
「余からも清めの汁を授けてつかわす」
ひとたび崩された城壁は、すぐには修復できない。アクメリンは言われるがままに口を開けて、たった今まで自身の尻穴に突き立てられていた肉の杭を咥えた。
ゼメキンスがちょっと考え込んだのは――文字通りに吸茎させてくれようかと思案したからだろう。しかし、アクメリンの様子から困難と判断したらしく、すぐに引き抜いて、残っている汚れは頬になすりつけて事足れりとした。彼の心は、すでに次の責めに向かっている。
「この女ひとりの魔女詮議もさることながら、フィションクが国を挙げて神の教えに背いたという証言を得るのが最重要じゃ。これ以上は悪魔と交われぬよう、この者の肉体に結界を張っておくとしよう」
ゼメキンスの指図で、アクメリンは梯子の上に仰臥させられた。両手は頭上でひと括りにされて、梯子の端にある巻取機に縄でつながれる。木枷の内側の穴が梯子の外枠を挟み込み、アクメリンの両脚は外側の穴に嵌められた。巻取機で、アクメリンの全身が伸ばされた。拷問であれば、ここからさらに身体を引き伸ばしていくのだが、そうはしなかった。
ホナーがアクメリンの腰をつかんで尻を梯子からうかして、リガードが短い丸太をその隙間に押し込む。腰を思い切り天井に向かって突き出した形にアクメリンを固めておいて、ゼメキンスが言うところの結界を張る準備が始められた。
火桶に薪を燃やし石炭を乗せて、白熱するまで鞴で風を送る。そうして、先端に小指を組み合わせたほどの十字架を鍛接した鉄棒を火桶で灼熱させる。
アクメリンは、その様子を恐怖と懐疑が入り混じった目で眺めていた。どう考えても、その鉄棒は自分の身体に押しつけるために準備されているとしか思えない。けれど、そんな残酷なことを、神に仕える人たちがするだろうか。
ゼメキンスが鉄棒を火桶から引き抜いて近づくと、懐疑は吹き飛んで恐怖が膨れ上がる。
ゼメキンスは灼熱した十字架をアクメリンの下腹部すれすれに近づけて、脅すように焦らすように宙を滑らせていく。熱で淫毛がぱっと燃え上がる。
「お、お赦しください……それだけは……他のことなら……鞭でも針でも……」
鞭にしても針にしても、どれだけひどく傷つけられようと、いずれは元に復する(と、アクメリンは思っている)。けれど、焼印は死んでさえ肌に残る。家畜と同じ、あるいは重罪人や逃亡奴隷。そんな烙印を刻まれては、まともな結婚どころか野合すら望めなくなる。処刑台の上で短い生涯を終える運命を、どこか実感していない彼女には、まさしく死にもまさる恐怖だった。
下腹部を焼け野原と化さしめてから、ゼメキンスは鉄棒を垂直に立てて、すでに黒くなっている十字架をアクメリンに押しつけた。
じゅうっ……
「い゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
絶叫の中に白い煙が立ちのぼり、肉を焼く臭いが周囲に広がった。上下逆さになった十字架の頭部が淫核の包皮を掠めて、厚みの半分ほども肌にめり込んで――そのまま数秒も留まってから、引き剥がされた。
錬金術の秘薬と称する、効き目は怪しいが高価な油が火傷に注がれ、さらに半固形の脂が塗られて、その上を油紙が覆った。焼印の形が崩れぬように、かつ早く固定するようにという処置であった。火傷がある程度は落ち着かないと、そこを鞭打つことはできないし、女の罪業の根源を検査するときにも不都合がある。さらに、ゼメキンスには別の思惑もあるのだが、それは数日後に明らかとなるので、今は詳述しない。
「今日は、これまでじゃな。本格的な尋問は、明日からとする」
拷問台の上にアクメリンを磔けたまま、ゼメキンスは二人の手下を従えて牢獄から立ち去った。
「うっ……うっ……」
扉が鎖されてすぐに、アクメリンの口から嗚咽が漏れ出した。
「どうして……どうして、こんなことに……」
彼女自身にも分かっている。すべては、己れ自身の浅はかな企みが招いた事態なのだ。それでも、運命を呪わずにはいられない。三日前に捕らわれて初めて、アクメリンは独りにされた。立哨の兵もいなければ、共に捕らわれている囚人もいない。侍女とはいえ、貴族の娘――という自負も、平民に見られているという意識があってこそ。
しかも。肌に、それも致命的な部位に焼印を刻まれて、女としての平凡な日常を取り戻せる万にひとつの希望さえ失われた。
嗚咽はいつまでも続き、アクメリンの顔はあふれる涙でおおわれていった……
――もはや時の移ろいになどアクメリンは気を留めていなかったけれど。夕暮れ時でもあったろうか。牢獄の扉が軋みながら開く。
ぷるんと、それでも気丈に涙を振り払って、逆光の中に浮かぶ人影に目を凝らす。ガイアスだった。
ほっと安堵の息を漏らすアクメリン。この男もゼメキンスの手下には違いないが、彼だけは幾分でも優しく扱ってくれる。今も、手にしているのはアクメリンのための夕食だろう。
「猊下のお達しで、縄をほどいてはやれぬ」
それでも、巻取器の把手を巻き戻して縄を緩め、下から肩に手を入れて上体を斜めに起こしてくれた。
アクメリンは頭をいっぱいにもたげて、唇にあてがわれた木椀の中身を啜った。具のない肉汁にも、滋養が全身に巡る思いだった。
硬い麺包を千切って口に入れてやってから、ガイアスは、アクメリンの下腹部をわずかに包んでいる油紙をめくった。半固形の脂は人肌の温もりに溶けて、焼印でへこんだ傷口を埋めていた。
「悪魔と交われぬように結界を張ったと猊下はおっしゃっていたが、乙女の柔肌を斯様に傷つけるとは……」
ガイアスは絶句――にしては長過ぎる台詞を口にした。
「猊下のなさり様は強引にすぎる。昨夜、そなたはエクスターシャ王女であると認めたが、あれとても拷問から逃れようとして、ついた嘘ではないのか。そなたは、真(まこと)は侍女のアクメリンではないのか?」
優しく囁かれて、それが罠かもしれないと疑うなど、今のアクメリンには到底できなかった。
「は、はい……ガイアス様は分かってくださるのですね」
「やはり、そうか。そなたは、アクメリン・リョナルデなのだな」
「そうです。私は取るに足りない侍女でございます。どうか、枢機卿猊下にお口添えください」
一縷の希望を取り戻したアクメリンに背を向け、ガイアスは扉に向かって呼ばわった。
「猊下の見抜かれた通りです。この女は、簡単に自白を翻しました」
ガイアスが扉を閉じていなかった出入口から、雪崩れ込むと形容したくなる勢いで、三人の加虐者がアクメリンの周囲に殺到した。
「え……?! あ、あの……」
ガイアスまで含めて三人の修道僧が、アクメリンの木枷を外し縄をほどいて、拷問台から引きずり下ろした。何が起きているのか理解できず、しかしこれまで以上に乱暴に扱われて、アクメリンは恐慌に陥る。
アクメリンの右足首に鎖が巻かれて、片脚で宙吊りにされた。頭上に垂らしていた腕を背中へまわされ、腰のあたりまで引き上げられて、縄で手首を厳重に縛られた。その縄に、昨夜は足首に吊るされていた、人の頭ほどの鉄球がつながれた。鉄球の重みで腕は肩の高さまで引き下げられたが、縄の固縛に阻まれて腕をねじれないので、そこからは下へ動かない。
アクメリンの裸身が横へ押され、先端がY字形に分かれた木の棒で鎖も押しやられて、水を湛えた大桶の真上にある滑車に掛けられた。鎖の端が壁の留金から外されて、ホナーとリカルドの手に握られる。
「下ろせ」
ゼメキンスの指図で、アクメリンの逆吊りの裸身がゆっくりと下ろされていき――ついに、顔が水中に没した。直角に突き出ている腕が大桶の縁につかえて、そこでいったんは止まったのだが。ガイアスが鉄球を持ち上げると、腕は身体の重みを支えられずに、頭が底に着くまで沈んだ。
大桶は大人ふたりが腕を広げても囲めない大きさで高さも腰を越えている。貯水だけでなく水責めも考慮した大きさだった。
魔女は水に浮くと称して、鎖で縛られて川に沈められた経験が、アクメリンに咄嗟の対応を取らせていた。大きく息を吸い込んで、額が水に触れたときには息を止めていた。しかし、それで持ち堪えられるのは、一分かそこら。しかも、逆吊りにされているので鼻の穴に水が押し入ってくる。むせそうになって、ぶくぶくと鼻からわずかずつ息を吐く。
たちまち息が苦しくなって、頭が割れるように痛み、目の前に赤い霞がかかってくる。しかし、水中で息を吸ったときの苦しみも知っているので、アクメリンは懸命に堪える。堪えながら、なぜこんな責めを受けているのか、どうすれば赦してもらえるのかを、考える――のだけれど、恐慌に陥った頭では考えをまとめられない。考えつくのは、我が身はデチカンまで押送されて、そこで裁判に掛けられてから処刑されるはず――この場では殺されないはずだという、惨めであやふやな希望(?)でしかない。
水中に没して一分、いや二分は耐えただろうか。アクメリンはついに限界に達して、ごぼごぼっと激しく泡を吐いた。間髪を入れずに引き上げられた。
「はあ、はあ、はあ……」
さいわいに水は呑んでおらず、荒い息だけを繰り返すアクメリン。
ガイアスが優しさを装った声で尋ねる。
「アクメリン、大事ないか?」
「はい……」
うかと答えてしまった刹那。ぢゃらららっと鎖が音を立てて、アクメリンは水中に落とされた。
不意打ちに息を溜める暇もなかった。大桶の縁に当たった腕が痛い。
今度はすぐに引き上げられたが。
「げぼほっ……げふっ」
吸い込んでしまった水を吐いて咳き込んだ。
「おまえは、アクメリンじゃな?」
今度はゼメキンスに尋ねられて、ようやくアクメリンは失策に気づいた。
「私は……エクスターシャです」
「馬鹿め。王女がそのような言葉遣いをするものか」
がららっ、ざぶん。
また水を吸わされて、引き上げられた。
「わらわは、エクスターシャ・コモニレルじゃ。お慈悲ですから、もう赦してください」
それでも、ゼメキンスは満足しない。
「ずいぶんと卑屈じゃの。とても一国の姫君とは思えぬわ」
今度は高く吊り上げてられてから、じわじわと下ろされていく。
「待ってください。わらわは、本当にエクスターシャなのです」
鎖は止まらない。アクメリンは諦めて、深呼吸を繰り返して――肩が浸かるところまで沈められた。
どう答えれば、ゼメキンスを満足させられるのだろうか。すぐに泡を噴いたら引き上げてはもらえないだろうか。そんなことを思い悩む暇もなかった。
ばちいん!
乳房に鋭く太い激痛が奔って、悲鳴が泡になって弾けた。
ばちいん!
ばちいん!
ばちいん!
さらに二発を続けざまに食らって。息を吐き切ったところに四発目を食らった。
反射的に息を吸ってしまい、胸が灼けつくように痛んだ。
ところが、それでも引き上げてもらえない。びくんびくんと全身に痙攣が奔って――意識が薄れかけてから、ようやく赦された。
「おまえは、アクメリン・リョナルデじゃな」
鞭をアクメリンの目の前でしごきながら、ゼメキンスの意地悪い問い掛け。
アクメリンは破れかぶれで、息も絶え絶えに叫んだ。
「違う。わらわは、エクスターシャ・コモニレル……フィションク準王国の……第二王女じゃ。このような……辱しめを受ける謂われはない!」
ゼメキンスが、狡そうに破顔する。しかし、鎖を握る二人に頷くと、またしてもアクメリンは水面へと下ろされていく。
そして今度は、尻への滅多打ちは十を数えた。乳房ほどの爆発的な激痛ではなかったので、アクメリンはどうにか悲鳴を堪えた。それでも、鞭打たれるたびに少しずつ泡を噴いて、やはり溺れる寸前に引き上げられた。
「正直に言え。おまえはエクスターシャの侍女、アクメリン・リョナルデであろう」
どう答えても、赦されそうにはない。
枢機卿猊下は、捕らえた女が王女でないと困るはずだ。アクメリンは、闇夜に目隠しをされたような意識の中で、かろうじてその結論を見出だした。
「……わらわは、エクスターシャ・コモニレルじゃ」
またしてもゆっくりと水に浸けられて、今度は後ろから尻の割れ目越しに股間を鞭打たれた。座るような形で曲げられていたアクメリンの左脚が、びくんっと跳ねて、太腿で股間をかばうように内側へ曲げられた。
アクメリンは内腿を引き締めて、脚を閉じ続ける。
鞭は焉んで、しかし引き上げられる気配もない。息が苦しくなって、そちらへ注意が移り、脚の力が緩むと――ばぢいん!
より強烈な一撃を股間に叩き込まれて、大桶の水面で大量の泡が弾ける。
それで、ようやく引き上げられて。
「おまえは、アクメリン・リョナルデであろう」
同じ質問が繰り返される。
エクスターシャだと答えると水に浸けられて鞭打たれるのだからと――アクメリンは、わずかに残っていた理性が導いた結論を変えてしまった。
「……私は、アクメ、きゃあっ!」
言い終えないうちに、一気に落とされた。大桶の縁に腕が当たって痛みが奔ったが、それどころではない。したたかに水を吸い込んでしまい、アクメリンは水中で苦悶する。
ゼメキンスたちの目には、断末魔の痙攣と映る。それでも、すぐには引き上げない。痙攣が小刻みになり、あと一分もすれば確実に溺れ死んでしまう瀬戸際まで追い込んでから、ようやく引き上げてやる。
アクメリンを石床に俯せに転がし、ガイアスが背中を足で踏んで強く圧迫する。意識を失ったままのアクメリンが口から水を吐いた。二度三度と繰り返してから仰向けにして上体を引き起こし、背後から腕をつかんで背中に膝頭を当てて、ぐいぐいと押す。
「げふっ……かはっ、げふっ……」
アクメリンは蘇生した。この手際の良さからも、四人の聖職者が拷問術に長けているのが見て取れるであろう。
「こうも易々と水に溺れるとは――おまえは魔女ではないのかも知れぬ。それとも、結界の効果であろうか。おまえはどう思うかな、アクメリン?」
ぴくっと身体は反応したが、アクメリンは答えない。
「アクメリン、おまえに問うておるのだぞ」
「……わらわの侍女は、ここにはおらぬ」
ゼメキンスは、驚いたことに、床にへたり込んでいるアクメリンの頭を優しく撫でた。
「それで良いぞ、アクメリン」
「くどい!」
気力を振り絞っての演技がゼメキンスを満足させたことに安堵しながら、やり過ぎたらかえって起こらせるのではないかと内心で怯えながら、アクメリンはさらに演技を続ける。
「わらわはエクスターシャじゃ。王女たるわらわの肌に、たとえ枢機卿猊下といえども、みだりに触れるのは無礼であろう」
「おお、これは失礼致した」
アクメリンに付き合って、ゼメキンスが恐縮の態で手を引っ込めた。
「王女殿下はお疲れのご様子じゃ。臥所(ふしど)にお連れ申せ」
臥所とは、四つん這いでうずくまるしかできない狭い檻――ではなく、手足を存分に(強制的に)伸ばせる、水平に寝かされた梯子の拷問台だった。もっともゼメキンスには、さらなる拷責を加える意図はなかったらしい。アクメリンが火傷に触れられぬようにして、綺麗な十字架の形を崩さず早く治癒するようにという配慮だった。だから、アクメリンの四肢を無理に引き伸ばしたりはせず、たとえて言うなら、昨日から使っている鉄球を二つとも足から吊るして両手で木の枝にぶら下がっているくらいの張りで、巻取器は止めたのだった。
そのままアクメリンは放置されて、一日が終わった。夕食は与えられなかったも同然だが、それをつらく思うというのは――火傷や溺れかけて傷ついた肺臓の痛みは、その程度だったということでもあった。
この三日間で心身ともに傷つき疲れ果てていたアクメリンは、泥のように眠った。背中と尻に食い込む梯子の横棧も、羽毛を詰めた布団とたいして違わなかった。
そうして迎えた、マライボでの三日目。驚いたことに、アクメリンは一切の拷問を受けなかった。午前中は釘を植えてない肘掛椅子に座らされて四肢を革帯で拘束され、午後は四つ葉の白詰草のような形の枷で逆海老に拘束されて牢獄の隅に転がされていた――のを拷問と呼ばなければ、だが。
静謐なままに一日が過ぎた。牢獄に出入りするのは三人の修道僧だけ。新たに犯罪者が投獄されることもなかった。
それは当然のことではあった。アクメリンは街並みの規模さえ知らないが、フィションクの都市と大差なければ、住民の数は三千から五千くらいだろうと思っている。一年の間には百人に一人が処罰されるほどの罪を犯すとしても、街全体で五十人。摘発と同時に処罰される者が多いから、投獄されて厳しく尋問されるのは、年に十人もいるかどうか。それよりは、すでにアクメリンも目撃したように――権力者の意に従わぬ者に無実の罪を着せて拷問に掛けると脅し(あるいは実行し)て屈服させるといった例のほうが多いのではないだろうか。とは、男爵令嬢あるいは王女付きの侍女であった頃には想像もできなかった現実……なのだろう。
翌日もゼメキンスは牢獄に姿を見せず、したがってアクメリンは(十字架を背負わされて追い立てられたり立木に縛りつけられて夜を過ごすよりは)安逸に一日を過ごせた。
そうなると、さまざまに己れの未来を予測して、発狂の寸前に追い込まれる。十の未来を思い描けば、その内の七は焚刑。一は罪一等を減じられて磔刑か斬首。あるいは拷問で責め殺されるか、道中で力尽きて野垂れ死にか。一年後いや半年後に、穏やかな暮らしなどと贅沢は言わない――どんなに悲惨な境遇であれ、生きている自身の姿を、アクメリンは想像できないのだった。
それにしても――と、アクメリンは疑問に思う。こんな地に何日も滞在して、ゼメキンスは何をしているのだろう。牢獄を借りて、私を拷問するというのなら、まだ分かる。それとも、前に言っていたように、厳しい拷問に耐えられるまで身体が恢復するのを待っているのだろうか。けれど、こんな辺境の地よりも総本山のお膝元にこそ、恐ろしい拷問器具が揃っているのではないだろうか。と、それを考えると、暗黒へ果てしなく墜ちていくような恐怖を感じる。
この地に長く留まるほどアクメリンの命は長らえるのだが、しかし、それだけ恐怖も募ってくる。
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予定では、焼鏝は『拷虐の四:異教徒問』で出すはずでしたが、なにせキャゴッテ・ゼメキンス枢機卿猊下であらせられるので、早々と。いえ、第四章でも再度やりますけど。
なお、マライボでは四日目も全休。五日目と七日目に、こんな形(上の画像)の引き回しと、刑場での晒し者。晒すだけでなく、腐った卵とか投げつけ放題。
ヒロインは、まだまだ悦虐どころか、膣性感にも目覚めていません。その開発は、第三章以降のお愉しみということで。
ちなみに。”iron brand woman kinky”とかで検索しても、リアル画像は無いですね。真似事はありますが。
それよりも、多数サイトで「タトゥ」として紹介されているこちらのほうが、よっぽどソソラ、レロレル、バニーガールのストリップ意味不明です。

「拷虐」は全部で七つ。この調子でいくと770枚突破?
は、しませんね。『始りの章』はともかく『拷虐の一:磔架輓曳』は2万4千文字(54枚)ですし。
駄菓子案山子。
(54+110)÷2×7=570枚。終章まで含めると600枚?
まあ、短い章もあります(だろう)から、400枚くらいかしら。
現在、休日も含めて日産グロリア10枚ペース。校訂とかしてると、6月上旬リリースに間に合わなくなる??
あーあ。締切ってやつに追われる身分になりてえなあ。かといって、AIでも書けるようなラノベもどきは書く気にもなれません。
AIが直近未来に書くであろう小説と、拙の作品とは何が違うか、ちょいと考察したことがありますが。AIはけっして左手で書いて右手は別のブツを掻いたりはしないだろうという結論に至りました。妄想竹の有無です。
話はそれますが。またBOOTHから飯茶門がきました。『いじめられっ娘二重唱(後編)』で、表紙イラストは問題無いが、紹介文とかで
・自動に対する性的搾取及び虐待
・レイ●(同意のない性的行為)
・過度な暴力、残虐行為
・虐待
などの表現があるから修正しろと。誤字黒丸はFC2仕様です。
あのね。本文は、上記のオンパレードでヒッパレー、ヒッパレー、みんなのヒッパレー。分かる読者はいるかしら。
まあ、修正期限ぎりぎりまで放置して、「勘違いでした。そのままでEです」メールを待ちましょう。
来なかったら。もしかして、ノベルと謳いながら内容にイラスト多数と思われてるのかもなので、
「商品に含まれる画像は、紹介画像(表紙)のみです」を紹介文に追加してみます。
それでNotOpenなら、つまりはB☆Wと同様で、紹介文くらいはおとなしくしてなさいってことでしょうから……馬鹿正直に修正すると鳴門、全作品が右へ倣えですので。飯茶門が来たのだけ順次対応しますか。
本件、結果は続報する予定。
さて、Retake Wood 木を取り直して。
第二章では、マライボに五日滞在しますが、その初日から三日目までを御紹介。
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拷虐の二:人定拷問
ゼメキンスは、アクメリンにはちらっと目を走らせただけで、二つの檻へと目を転じた。牢獄で待機していた修道僧が差し出す書付を見て。
「ショザウンの娘、ジョイエと申すほうからじゃ」
その修道僧が檻を開け、若いほうの少女を引き出して部屋の中央に立たせた。
「そこの娘と同じ姿になれ」
ゼメキンスが低い声で命じる。
少女はびくっと身をすくませたが。目の前にいるアクメリンを哀しげな眼で眺めると、のろのろと衣服に手を掛けた。
「何故に、みずからの手で衣服を脱がせておるか、分かるか?」
少女はかぶりを振った。
「そこの娘は、この者らの手で衣服を破り捨てた。二度と服を着る必要がないからじゃ。しかし、おまえは――釈放されても、裸では帰れまい」
はっと顔を上げてゼメキンスを直視する少女。罰を受けずに帰してもらえるかもしれないと、希望を見い出して、幾分か表情が甦った。
「手を止めるな」
修道僧に叱咤されて、少女はあわてて服を脱ぎ始める。てきぱきとまではいかないが、先ほどよりはよほど手際が良い。
少女は、みすぼらしい衣服の下には腰布を巻いているだけだった。さすがに、それをみずからの手で剥ぎ取るのには、ためらいを見せた。
「そのままで良い」
ゼメキンスの言葉に安堵する暇もなく。少女は手をつかまれ、両手首をひとまとめに縄で縛られた。その結び目に、天井の滑車から垂れる鎖の先に付いている鈎を引っ掛けられて、腕を吊り上げられた。
「最後の一枚は、余が剥ぎ取ってやろう」
ゼメキンスが腰布に手を伸ばす。
「それだけは、お赦しください――神父様」
「馬鹿者!」
修道僧のひとりが大音声で叱責した。
「こちらにおわすは、キャゴッテ・ゼメキンス枢機卿猊下であらせられるぞ」
「ひっ……」
少女が息を呑む。
神父は一般的な敬称であるが、おおむねは教会の筆頭者である司祭を指す。司祭は位階であり、枢機卿は役職であるから、同列には論じられないのだが、司祭はそれぞれの教会に一人、その上の司教となると教区ごとに一人か二人。しかし枢機卿は全世界に二十人とはいない。もしも少女が鎖に吊るされていなければ、その場にひれ伏していたかもしれなかった。
ゼメキンスに腰布を剥ぎ取られても、少女は拒む素振りすら見せなかった。
「ふむ……身体はみすぼらしくても、生えるところには生えておるの」
少女の下腹部には、焦げ茶色の草叢がアクメリンと変わらないくらいに繁茂している。腕を高く吊り上げられて露わになった腋の下にも。
ゼメキンスの言葉に、白い裸身が薄赤く染まったのだが。
「ふむ……継母を刺し殺そうとしたのだな」
ゼメキンスが、修道僧から受け取った書付に目を落として少女の罪状を確認すると、少女の裸身から色が引いた。
「告発に間違いはないな?」
「違います。あの人があたいを刺そうとしたのです。揉み合っているうちに、切っ先があの人の腕を掠っただけです」
「あの人とは誰じゃ?」
「……継母の、イディナです」
少女は、厭々といったふうに、その名前を口にした。
「なぜに、継母はおまえを刺そうとしたのじゃ?」
「…………」
言い訳すらもしたくないといったふうに、少女は口をつぐむ。
「おまえが父親と媾合っていたからであろう。継母は恥を忍んで、涙ながらに訴えておったと、ここに書いてあるわ」
「それは、その通りですけど……父さんはあたいを、何年も前から……あの……手込めにしていて……それで、あの……」
「なんと。おまえは幼少の頃より、実の父親を誘惑して不義を働いていたのか?!」
ゼメキンスが少女の言葉を遮って決めつけた。
「違います! 父さんが、無理矢理に……」
「黙れ。この淫魔め」
「ゼメキンス様」
牢獄を仕切っていた修道僧が、やんわりと口を挟んだ。猊下とは呼び掛けず、軽い敬称を使ったところに、この男とゼメキンスとの関係が透けて見えるのだが、それはさておき。
「このあどけない少女が淫魔であるとは、それがしには信じられませぬ。当人の申し立てよりは、確たる証拠が必要かと」
「ふむ。それもそうじゃな。ホナー、あれは持って来ておるな」
ゼメキンスに付き従っていた修道僧のひとりが、小さな箱を差し出した。中には、さまざまな得体の知れない道具が並べられている。その中でも比較亭に使途が明白なのは――さまざまな太さと長さの棒状の道具だった。
「生娘ではないと申し立てておるのだから、これで良かろう」
ゼメキンスが取り出したのは、怒張した男根にそっくりの、ただし太さも長さも常人の五割増しはあろうかという巨大な『棒』だった。先端部は、きっちりと亀頭を模している――と見て取ったのは、これからそれを使われようとしている少女と、檻の中の女。アクメリンは、怒張した男根など見たこともない。
「リカード。片脚を持ち上げよ」
もうひとりの従者が少女の後ろへ回って、その左足首をつかんで斜め上へ持ち上げる。
「あ……きゃあっ」
横ざまに倒れかけて、少女があわてて鎖にすがって身体を起こした。
「痛い……です」
訴えを無視して、リカードは少女の腋を片手で押さえながら、左足を肩よりも高く引き上げた。
ゼメキンスが少女の前に立って、模造男根を股間にあてがった。ぱっくり横に開いた淫裂に亀頭部分を埋めて、さらに穴へ押し込もうとする。
「いやあっ……そんなこと、やめてください」
ゼメキンスが、あっさりと模造男根を引いた。身を起こして。
「ガイアスよ」
少女に向かって手招きする。
ガイアスと呼ばれた三人目の修道僧はリカードの横に並ぶと、少女の頭をぐいと前へ突き出した。そこを目がけて。
ばちん! ばちん!
ゼメキンスが、少女の頬をしたたかに掌で叩いた。
「余のすることに、指図がましい口をはさむでない。焼き殺されるか無罪放免になるかの瀬戸際ぞ。分かっておるのか?」
「えっ……?!」
少女の顔が恐怖に凍りついた。もののはずみで継母に、ごく軽い手傷を負わせただけなのだから――言い分を聞いてもらえず、継母の申し立てだけが取り上げられたとしても、父は寛大な処分を願ってくれるに決まっているから、せいぜいが広場での鞭打ち。それくらいに考えていたのに、斬首よりも罪が重い焼殺。
「あたい、そんな悪いことはしてません。父さんだって、そう証言してくれます!」
ばちん! ばちん!
いっそう痛烈な往復の平手打ちが、ゼメキンスの返事だった。
再び股間に模造男根を突きつけられても、少女は再度の抗議をしなかった。潤いのない穴にぐりぐりと捻じ挿れられて、顔を苦痛に歪めながらも無言で耐える。
「ふうむ。これほどの巨大な物を平然と受け挿れるとは、まさしく淫魔であるな」
「そんな……猊下が我慢しろとおっしゃるから……ぎひいっ!」
ぐいっと一気に奥底まで突かれて、悲鳴をあげる少女。
「ゼメキンス殿。女の穴はそれぞれに大きさも違うかと」
もしかすると――このガイアスというお方は、枢機卿猊下に付き従っている二人の修道僧とは異なっているのではないか。アクメリンには、彼が少女をかばっているように思えた。冷静に考えれば、ゼメキンスが模造男根による責めだか検査だかを思い立ったのは、ガイアスの言葉である。すこし深読みすれば、最初から台本があったのではないかと思い至る。そこに気づかなかったのは、アクメリンが一人でも味方を見つけたかったという焦りであろう。
「ふむ。では、今しばらく詳しく調べてみるか」
リカードが少女の脚を床へ下ろして、壁に掛けてある木枷を取ってきた。両端の留金具で閉じ合わす二つ割の板。大小五つの穴が開けられている。少女を開脚させ、いちばん外側の穴に足首を挟んで木枷を閉じた。
「これから、おまえに淫らな悪戯を仕掛ける。信心深き貞婦であるなら、よも乱れはすまい」
つまり。性的な刺激を与えて、それに反応すれば淫魔である――と、最初から結果は分かり切っているのだが。
股間から突き出している模造男根の端にホナーが縄を巻いて、抜け落ちないように太腿に縛りつけた。そして三人の修道僧は小さな刷毛を持って少女を囲んだ。ホナーとリカードが両側に立ち、ガイアスは正面にしゃがみ込む。
そして、乳首と淫核を刷毛でくすぐり始めた。
刷毛が乳首に触れるなり、少女はぴくんと身体を震わせて――震わせ続ける。
「く、くすぐったい……」
少女は、しかし刷毛から逃れようとはしない。これが、真っ当な検査であると信じているのだろう。淫核を包皮の上からくすぐられているうちは、それで済んでいたのだが。ガイアスが左手の指の間に淫核を挟んで剥き上げ、その柔肉に刷毛の先を触れさせると。
「いやあっ……ああっ……あんんっ?!」
腰をくねらせて逃れようとし始めた。リカードが、股間から突き出ている模造男根を握って、動きを封じる。
「いや……お赦しください……」
少女はなおも腰をくねらせるのだが、その動きはかえって膣穴を刺激することになり、不本意ではあっても小さな頃から男根に馴染んでいるのだから、新たな快感を掘り起こしてしまう。
「いや……やめてください。くすぐったいです」
しかし、最初に訴えたときとは響きが変わっている。
「いやっ……駄目! やめてえええ……」
切迫した訴えだが、語尾が鼻に抜けている。
三人の修道僧は、いっそう激しくしかし繊細に刷毛を動かして。
「ああっ……こんなの、いやっ! ああ……あんん」
しかし、ゼメキンスの合図で三人がいっせいに刷毛を引くと。
「いやああああ、やめないで!」
「気持ち好いのか。もっとくすぐってほしいのだな?」
ゼメキンスの罠に嵌まって、少女が頷く。
「逝かせてやれ」
三つの刷毛が、また三つの突起を襲って……
「ああああっ……駄目! 落ちる! 落ちちゃうよおお!」
少女は、あっさりと堕ちてしまった。
「この娘は紛れもなく淫魔であると立証されたな」
アクメリンは、目の前で何が起きているのかを、すぐには理解できなかった。もしも三日前の彼女であったら、ゼメキンスの言葉を信じていたかもしれない。それほどに、少女の乱れっぷりはアクメリンの常識を超えていた。
しかし。同じ三点を糸で括られて木札をぶらさげられ、その重みと糸から伝わる微妙な震えとに激痛を感じながらも怪しい疼きに悩まされて、ついには忘我に至ってしまった、まだ生々しい記憶が、少女の反応に重なって――性的な快感とは無縁だったアクメリンにも、おぼろな理解を生じさせようとしていた。と同時に、初めて、枢機卿猊下の御言葉に疑問を持った。彼の言葉が正しければ、アクメリンもまた淫魔ということになりはしないだろうか。
「この娘が淫魔であると判明したからには、これ以上の尋問は不要であるな」
ゼメキンスが唐突な断定をした。
「ショザウンの娘ジョイエよ。汝は淫魔に憑かれておるがゆえに、炎による浄化が必要である」
恍惚にたゆたっていた少女は、ゼメキンスの言葉が自分の運命を断ち切るものであるとは理解できないようだったが。
「街じゅうに布令を出して、三日後に焚刑に処すものである」
そこまで言われれば、恍惚の余韻どころではない。
「違います! あたいは悪魔なんかじゃないです。みんな、あの人のでたらめです!」
金切り声に涙を交えて、少女が訴える。
「されど、おまえは若い。魂としては幼いと言ってもよい。これから魂の浄化に励み徳を積むと誓うのであれば――これまでの罪を赦してやってもよいぞ」
「え……?」
急展開の断罪についで唐突に示された救済の道。そもそもの理不尽な告発を争うことも忘れて、少女は縋りつくような眼差しでゼメキンスを見る。
「おまえが清らかな魂を取り戻すまでのあいだ、修道院で――左様、いきなり尼にしてやるわけにもゆかぬ。女手の足りておらぬ修道院で下働きをするか?」
奇妙な話ではある。女子修道院なら、そこに居住するのは女ばかりであるし、男子修道院なら必然的に男子ばかりで、女手の不足という言葉は矛盾している。三人の修道僧がひっそりとほくそ笑んでいる様に気づけば、足りぬ女手がどのように扱われるか――しかし、聖職者の集団と姦淫や虐待とは、ゼメキンス以下三人の残虐を身をもって体験してきたアクメリンにさえも、すぐには結びつかなかった。
「は、はい。喜んで、おっしゃる通りにいたします」
少女が安堵ではなく歓喜を迸らせた。修道院での生活は質素でこそあれ、貧窮はしていない。しかも、拒めば暴力を振るってでも実の娘を犯す父親とも、悪意を持って接する継母とも、縁を切れる。
縄をほどかれ、脱いだ衣服を与えられて。少女は身なりを整えるよりも先に、裸のまま枢機卿猊下の御前にひれ伏して、その足に口づけをしたのだった。
少女はガイアスに案内(後の運命の実態を考えれば、拉致あるいは連行という言葉がふさわしいのだが)されて、牢獄を去った。
――次に、檻の中の年増女(といってしまっては可哀想であるが)が引き出される。
「革鞣し職人ツワイマアの妻、ニレナであるな」
「はい……」
女は、腕を吊られて床に座り込んでいるアクメリンをちらちらと見ながら、あやふやに答えた。女は、おのれがどのような目に遭わされるのか、不安と希望とが混淆している。
アクメリンの裸身は、これまでに種々の虐待が加えられたことを雄弁に物語っている。尻は刃物傷で埋め尽くされて乾いた血がこびりついているし、全身に鞭痕が走っている。乳首と股間には新しい血が滲んでいる。そのやつれた顔に見て取れる表情は、絶望でしかない。それが不安の根源であった。
一方、ジョイエという少女は、裸にされてニレナの目には姦淫としか見えないことをされはしたが、あっさりと許された。
思いが交錯するうちにも、ゼメキンスが女の罪状を読み上げる。
「おまえは、ガカーリイ商会の会頭から魔女の嫌疑で告発されておる。この十日間で、商会の者が五人も病を得たり怪我をしたり――それも、すべておまえの家を訪ねた直後だ」
「そんなのは、言い掛かりです。亭主が商会を通さず直に注文を受けたり、安い手間賃で仕事をしているのを、何とか商会に引き入れようとして、もう半年から嫌がらせをしてきてます。今度のことだって、病気だの怪我だの、嘘に決まっています」
ばしん。
ゼメキンスが、平手打ちで女の申し立てを退けた。
「魔女であるか否かは、調べれば分かること。この女を素裸に剥け」
修道僧が伸ばした手を女が振り払った。顔から血の気が引いている。
女は、ゼメキンスがジョイエに向かって言ったことを覚えていて、それで恐慌に陥ったのだった。みずからの手で服を脱がせるのは、釈放するときに服を返してやるためだ――と。では、服を破られようとしている自分は有罪と決めつけられているのか。釈放されることのない刑罰、つまり死刑なのか――と。
「自分で脱ぎます。破らないでください」
しかし、女の訴えは再び無視される。リカードが女を羽交い絞めにして、ゼメキンスが正面に立った。
「枢機卿猊下が、御自ら手を下される。光栄に思え」
ホナーの声は揶揄を含んでいる。
ゼメキンスが服の胸元を両手につかんで。
びりりりり……力まかせに引き裂いた。裳裾は上の方だけを破って、下に落とす。さすがに稼ぎのある職人の妻だけに、ジョイエのように上着の下は素肌というわけではなかった。ゼメキンスは手間暇を惜しまず、一枚ずつ破り取っていく。
裸体を隠そうとする腕を背中へねじ上げて、首枷と手枷が一体になった拘束具を女に嵌める。そして。ジョイエに嵌めていた木枷で開脚させて、その枷を天井から垂れる鎖で吊り上げた。後ろ手に拘束され喉を締めつけられた、女盛りの裸身が逆さ吊りになった。
「亭主持ちであるなら、処女でないのは当然じゃな。悪魔が交わるとすれば、尻穴であろう」
ジョイエに使った模造男根を逆手に持って、ゼメキンスが女の後ろへまわった。尻たぶを左右に押し広げ、その奥にひそんでいる紫色の蕾を露わにして先端を押しつける。
「きゃっ……まさか?!」
「まさか――なんじゃと言うのかな?」
軽く押しつけて、ぐりぐりとこねくる。
「そんなことは、しないでください。まさか枢機卿猊下ともあらせられる御方が、ソドムの罪を犯されるのですか?!」
ゼメキンスが、こねくる手は休めず、修道僧に向かって小首を傾げて見せた。
「そのようなこと、誰に吹き込まれたのじゃ」
「だって……神父様がおっしゃっておられました。子供を作りたくないからといって、そんなことをしたら、雷に打たれるだろうって」
『後デ注意シテオカネバナランナ。具体的ナ教エハ、必ズ、ソレヲ験シテヤロウトイウ輩ヲ生ミ出スコトニナル』
ゼメキンスが聖なる言葉で低く呟くと、二人の修道僧が軽く頭を下げた。ゼメキンスが人の言葉に戻って、女に告げる。
「さよう。ソドムの罪をおまえの身体が受け挿れるようであれば、すなわち悪魔と交わった証拠となるのだ」
「そんな……無理に押し込めば、入るに決まっています」
「試してみれば分かることだ」
いうなり、ゼメキンスは腕に力を込めた。ジョイエが無理強いに絞り出された分泌で、模造男根はじゅうぶんに潤滑されていたから。
「ぎゃはああっ……痛い!」
女は悲鳴を上げたが、模造男根はずぶずぶと尻穴を穿った。
「ひいいい……」
さらに中をこねくられたり抜き挿しされて、女は啜り泣く。
「ふむ。確かに悪魔と交わっておるようじゃな。とすると、次なる調査は何をすればよいか分かるな――リカード?」
「はい。悪魔は契約の印を女の身体に刻みます。巧妙に隠されていることが多いのですが、その印の部分は痛みを感じなくなっています。つまり、全身をくまなく針で刺して調べます」
直属の部下として使っている修道僧に、今さら口頭試問でもあるまい。ニレナに聞かせるための言葉だ。
ホナーが箱の中から、さらに小さな箱を取り出して蓋を開けた。びっしりと並んだ、縫い針にしては太く長すぎるが、金串にしては細く短すぎる――先端が鋭く尖った針金。
「おまえの答は間違っておらぬ。されど、全身をくまなく調べるのは時間の無駄じゃ。悪魔が契約の印を刻む箇所は、ほぼ決まっておる。すなわち、女が厳重に隠していても疑われぬ場所。たとえば――ここじゃな」
ゼメキンスは小箱から針を取り出すと身を屈めて、女の乳房を鷲掴みにすると横から針を突き刺した。
「痛いっ……お願いです、もうお赦しを……お慈悲を……」
悲鳴には耳を貸さず、いや、妙なる調べを聴くがごとく目を細めて愉しみながら、ずぶりずぶりと、四方から針を抜いては刺していき、ついには――乳首を正面から貫いた。
「きゃあ゙あ゙あ゙あ゙っ……!」
女は顔の半分が口になったような形相で絶叫する。
「ふむ。こちらの乳房には印がないようじゃな。反対側は、リカード、貴公に委ねる」
枢機卿猊下ともあろう高位の者が、一介の修行僧に、ぞんざいな口振りとはいえ『貴公』などと呼ぶ。やはり、尋常の関係ではない。使命に駆られて魔女を狩る同志――ということに、今はしておこう。
「魔女の本性を暴くために、余はこちらをさらに調べてみよう」
ゼメキンスは新しい模造男根を取り出して女の背後へまわり、前の穴へ無雑作に突き立てた。
「くうう……お腹が……裂ける!」
夜毎に(かどうかまでは知らないが)亭主の魔羅を受け挿れている女穴は、亭主の五割増しはあろう逸物をすんなりと呑み込んだ。とはいえ、後ろにも突き刺さったまま。下腹部の圧迫感膨満感は並大抵ではなかろう。
「ふふん。裂ければ、案外とそこから悪魔の肉片なぞ飛び出すかもしれんぞ」
後ろの模造男根を縛っている縄をほどくと、ゼメキンスは前後の棒を両手に握って、交互にあるいは同時に、抽挿を始めた。
「ひいいい……」
それでも、どこか余裕の感じられる呻き声だったが、リカードに乳房をつかまれて息を呑み、すぐに絶叫を迸らせた。
「あっ……ぎゃわあああっ!」
リカードはゼメキンスよりも容赦なかった。長い針が、乳房を外から内へと貫いたのだった。真横に貫くと、引き抜いて上から下へ。さらに斜め十文字に。
そのたびに、女は絶叫する。そして最後には、乳首を正面から――針先が肋骨に突き当たるまで深々と突き通された。
「うがあああっ……!」
リカードが針を抜いて立ち上がる。乳房をつかんでいた手は鮮血に染まっている。いうまでもなく、女の乳房は血まみれ。流れ出た血は胸の谷間を喉まで伝い、顔に数条の赤い線を描いている。
「乳房には見当たらないようです」
「ふむ。やはりな。では、肝心(かんじん)要(かなめ)の場所を調べるとするか」
ゼメキンスの言葉がどこを差すか、アクメリンでさえ理解した。
「いやですっ……お願いです……もうお赦しください!」
逆さ吊りにされている女は睫毛から涙をこぼして哀願するが、言葉を交わす間は手を休めていたゼメキンスに抽挿を再開させるきっかけを与えたに過ぎなかった。
「くううう……あっ、あっ……」
亭主に(とは限らないかもしれないが)開発されつくした女体は、残酷な陵辱にさえも、何がしかの反応を示し始めた。ゼメキンスの言葉を藉りれば、魔女が本性を現わし始めたということにでもなろう。
それでも。リカードが淫裂の端をまさぐり始めると、わずかな快感など消し飛んでしまう。
「そこは……お赦しください。いやっ……え?」
リカードはニレナの真っ黒な予想に反して、探り当て掘り起こした肉の突起に、先端の綻びから針先をわずかに挿し入れて――突き刺さなかった。左手で突起の根元を摘まんで固定すると、針先で実核を軽く引っ掻いたのだった。
「あああっ……なに、これ? こんなの……しらない?!」
数え切れないほど亭主に抱かれて開発し尽くされている(はず)だけに、未知の快感に戸惑うニレナ。
「ここは痛みを感じないようです」
独り言めいてゼメキンスに語り掛けながら、リカードはいっそう繊細に執拗に針を操って、女から性感をほじくり出す。
痛覚の無い部分があれば、すなわち悪魔との契約の印と断罪されることなど忘れ果てて、これまでに体感したことのない凄まじい鮮烈な快感に没入していくニレナ。びくんびくんと腰を痙攣させるが、ゼメキンスが操る二本の棒で動きを封じられる。
「あああっ……だめ、おかしくなる。こんなのって……あなた、ごめんなさいいいい……」
女が絶頂に達する瞬間を過たず狙い済まして、リカードが手をわずかに動かした。
「ぎゃわああああっ……!」
乳首などとは比べ物にならない鋭い激痛に貫かれて、女は雲間から奈落の谷底へ一気に突き墜とされた。
「ひいいい……痛い、痛い、いやあああ」
天国から地獄に叩き墜とされて悶え哭くニレナ。
「ふむ。悪魔の印は見当たらぬか」
ゼメキンスが、早々と結論を出す。
「そういつまでも、雑魚にかかずらわってもおれぬ」
床に凝然とへたり込んでいるアクメリンを振り返って、舌先で唇の端をちろっと舐めた――この場が審問の場ではなく、宗教的権力を藉りて嗜虐を満たしているに過ぎないと認めたも同然だろう。もっとも、エクスターシャ王女に関しては、当然に大陸的規模の権勢欲も混じっているであろうが。
「我らの手で探すのは面倒じゃな。本人に教えてもらうとしよう」
リカードが針を淫核に深々と刺し通したまま退いた。ゼメキンスが、こちらは二本の模造男根を引き抜いて、アクメリンの正面へ動いた。ホナーがそれを受け取り、布で汚れを拭き取ってから箱に納める。
「余が立っておるというに腰を降ろしているとは、不敬も甚だしいぞ」
ゼメキンスが足を上げて、アクメリンの股間を踏みにじった。
「あ……申し訳ございません」
未だにゼメキンスを(疑念を圧し殺して)加虐者ではなく高貴な聖職者と信じているアクメリンは、手枷を吊っている鎖に縋りつくようにして立ち上がった。滑車を介して壁につながれている鎖が緩んだが、リカードが引き絞って再びアクメリンの腕をいっぱいまで吊り上げた。
その間にホナーが、壁に掛けられていた一本鞭を選び取って、ニレナの後ろに立った。
「我らの会話は聞こえておったろう。悪魔の印をどこに刻んだか、素直に告白すれば、痛い思いをせずに済むぞ」
ゼメキンスは視線をアクメリンの乳房に落としたまま、片手でその柔らかな膨らみを弄びながらの尋問――とは、おざなりもいいところだ。
しかし、ニレナは懸命に訴える。
「そんなもの、ありません。あたしは悪魔と契約なんて、絶対にしていません。悪魔を見たことだってありません。みんな、ガカーリイ商会の言い掛かりです」
ニレナの言葉が終わると同時に、ホナーが長い鞭を振るった。
しゅううん、バシイン!
不気味な風切り音に続いて、肉を打つ重たい響き。
「いやあああっ!」
淫核に突き立ったままになっている長い針が揺れて、苦痛と快感の綯い交ざった刺激が、悲鳴に余韻を含ませる。
「……くうう、んんん」
しゅううん、バシイン!
「きゃああっ!」
しゅううん、バシイン!
「痛いいいっ!」
しゅううん、バシイン!
「きひいいっ!」
続けざまの鞭に、悲鳴が切迫する。悲鳴の数だけ、白い尻に赤黒い線条が刻まれていく。
「強情を張り通すと、尻だけでは済まぬぞ」
「ほんとうに、悪魔なんて知りません。信じてください」
ゼメキンスが指の腹を上にして、くいと曲げた。ホナーがうなずいて、ニレナの正面にまわって。
しゅううん、バシイン!
「い゙ぎゃあ゙あ゙あ゙っ!」
乳房が横ざまにひしゃげて、ぷるるんと跳ね返り、ニレナがしゃがれた悲鳴を噴きこぼした。
しゅううん、バシイン!
「ぎびひいいっ!」
しゅううん、バシイン!
「うあああっ……猊下のなさりようは、納得がいきません」
鞭打ちから逃れようとしてのことだろうが、教皇に次いで高位の聖職者に庶民が抗議するには、よほどの勇気を要しただろう。
「納得するには及ばぬ。悪魔の刻印をどこに隠しておるか、白状すれば良いことじゃ」
「でも……身体じゅうを傷だらけにしたら、その刻印とやらも見分けられなくなるじゃないですか」
ゼメキンスが、一瞬考え込んだ。では刻印があると認めるのだな――と、揚げ足を取ることもできたろう。しかし、そうはしなかった。
「そうか。もっともな言い分じゃな。それでは、鞭はあと三発だけに留めよう」
「…………」
ニレナは唇を噛んで、沈黙する。十も二十も鞭打たれることを思えば、三発で終わるのなら――しかし、それでも今のような激痛を三度も与えられるのだから、まさかに感謝できようはずもない。
どころか、ゼメキンスの言う三発は、これまでの鞭のすべてを上回って苛酷となった。
ゼメキンスが人差し指を立てて、真下に撥ねた。
ホナーが鞭を高く振り上げて。
ぶゅうん、バッヂイイン!
淫裂を真上から、長剣で断ち割るように打ち据えた。
「がはっ……!!」
悲鳴も上げられないほどの激痛に、ニレナの裸身が凝固した。
淫核に突き刺さっていた針が撥ね飛ばされた。石床に叩きつけられた針は銀色の表面が見えないほど血にまみれていた。
「ひいいい……」
ふた呼吸ほども遅れて、弱々しい悲鳴がこぼれる。
「はあ、はあ、はあ……」
荒い息が落ち着くのを待って、ふたたびホナーが鞭を振りかぶる。
「いやあっ……もう、おゆ……ぎゃわあっ!」
一発目と変わらぬ正確さと強さと無慈悲さとで鞭が淫裂を切り裂いた――というのは、誇張ではない。はっきりと血しぶきが飛び散った。
アクメリンの裸身が弛緩して膝が折れ、鎖で吊り下げられる形になった。同じ女人の身に加えられる残虐に失神したのだった。
鞭打たれる当人のニレナは、逆さ吊りにされて頭に血が下がっているせいもあるのか、束の間の安息へ逃れることすらできずに悶え続けている。
「待て」
次の鞭を与えようとするホナーをゼメキンスが制し、リカードに目を向けてアクメリンを指差す。リカードは隠しから硝子の小瓶を取り出すと、栓を開けてアクメリンの鼻先にかざした。
アクメリンが大きなくしゃみをして、意識を取り戻した。
「良く見ておけ。ニレナへの最後の一発が終われば、いよいよおまえの番なのだぞ」
分かりきっていたことだったが、それでも直截の宣告に、アクメリンは身を振るわせた。
「やれ。手加減は無用じゃ」
ホナーが小さく頷いて、鞭を握る手を大きく後ろへ引いた。
「ああああ、あ……」
エレナが唇をわななかせながら、ぎゅっと目を閉じた。
ホナーは腕を肩越しに前へぶんまわして――膝を折って身体を沈める勢いまで加えて、正確に鞭先を淫裂に叩きつけた。血しぶきが飛び散る。
「がわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
エレナは猛獣のように吠えて――ついに、安息を得た。
二人の修道僧がエレナを石床へ降ろす。手桶に水を汲んで、血まみれの裸体にぶっ掛ける。襤褸布で水と血を拭き取ると、黄色っぽい軟膏を塗り込めていく。
「馬の背脂に魔女を清めた灰と火から蒸留した酒精を混ぜた、まあ主に祝福はされておらぬが堕天使にも呪われておらぬ、錬金術の秘薬じゃ。傷が化膿することなく早く治る。その分、頻繁に尋問できるというわけじゃな。これからは、おまえにもたっぷりと使ってやる。ありがたく思え」
エレナへの残酷な拷問を見せつけられて、それを何度も繰り返すと脅されて、アクメリンはまたしても気が遠くなりかけたが、かろうじて踏みとどまった。
「申し開きは尋問の場で言えと、猊下はおっしゃいました。ですから、申し上げます。私はエクスターシャ王女ではありません。海賊の目を眩ませるために身代わりとなっていた、侍女頭のアクメリン・リョナルディです。アルイェットには、あと二人の侍女も捕まっています。彼女たちにお尋ねください。私の言葉が嘘ではないと、証言してくれるでしょう」
アクメリンは必死に訴えた。延べ三日の行程とはいえ、それはよろめき歩くアクメリンを追い立ててのこと。馬を駆れば、アルイェットまで一日で往復できるはず。
「そのような手抜かりをすると思っておるのか。ミァーナ家の娘とズコバック家の娘。二人の侍女からも証言は得ておるわ。ひとりぬくぬくと海賊どもからお姫様扱いをされて、侍女の処遇など気にも留めぬ王女殿下を、ずいぶんと恨んでおったぞ」
「そんなはずは……」
無いとはいえない。内心では、あの二人もエクスターシャ同様に見捨てるつもりでいた。指輪を使った小細工も、すり替わりを知っている者の目には、アクメリンの意図まで透かし見えただろう。王女が自分たちと同じように海賊どもに犯される姿を見るうちに、二人の侍女の気持ちは王女へと動いたのかもしれない。
侍女の証言が得られず本物の王女が亡くなった今となっては、アクメリンの身の証を立てる術はない。
「それでもなお、おのれはエクスターシャではないと言い張るつもりかな。侍女ならば微罪で済むかも知れぬからの。命が惜しいか」
王女ではないと言い張れ。そのようにそそのかしているも同然の物言いだったが、追い詰められているアクメリンは気づかない。
「本当に、私はエクスターシャではないのです。どうか、信じてください」
異教徒の男(とはいえ王様)に抱かれるささやかな嫌悪と引き替えに優雅な生活を手に入れる目論見だったのに、身代わりで焼き殺されるなんて、あまりに理不尽だ。
身から出た錆と内省するような女なら、最初から簒奪を企んだりしない。
「ふうむ。そのように必死に訴えられてはのう。間もなく晩餐じゃ。その間に考え直してみるか」
「ええっ……ありがとうございます」
まさかの言葉に、悪意がこもっているとは疑わないアクメリン。
「その間、立たせっぱなしも可哀想じゃな。おまえのためにとびきりの座を用意してやるでな」
気を失ったままのニレナを、犬がうずくまるような形で檻に押し込み終えた二人の修道僧が、アクメリンの腕を吊っている鎖も緩めた。その手を背中へねじ上げて、エレナに着けていた首枷と手枷が一体になった拘束具をアクメリンに使う。
「……?」
休ませてやると言っておきながらのこの仕打ちに、アクメリンは不安を掻き立てられる。
ホナーに乳房をつかまれリカードに尻を叩かれて、壁から二歩離れて置かれている木馬の前へ立たされた。それを木馬だと思ったのは――胴体は長さが子供の背丈くらいの材木で、幅は彼女の片腕の長さほどの狭い三角形をしているが、四隅の脚で湾曲した橇の上に支えられ、胴体の一端からは四角い材木があたかも馬の首のごとく斜めに突き出て、上端にはT字形に握り棒まで付いているからだった。
木馬の真上にも滑車から鎖が垂れている。その鎖が腋の下をくぐって胸を巻いて――アクメリンは完全に床から吊り上げられた。
「ま、まさか……?!」
ゼメキンスの悪意を悟って恐怖におののくアクメリン。こんな尖った材木を跨がせられたら、股間を切り裂かれてしまう。材木のまだらな模様は、染み込んだ血の痕ではなかろうか。
「いやあっ……やめてください!」
じりじりと木馬の真上に吊り降ろされていって、アクメリンが藻掻く。一度は稜線の上に立ったが、鎖が緩むと不安定な均衡は崩され、足を滑らせて落ちた衝撃が胸に食い込んだ。それでも、足の裏で切り立った斜面を捉えようとする。ずるずると滑って股間すれすれまで割り裂かれると、内腿で材木を締めつけて留まろうとした。しかし、楔がわずかの力で硬い木を割り裂くのと同じで、材木の先端は容易に会淫にまで達した。
「ひいいい……痛い、痛い痛い……」
爆発的な激痛ではなく、じわじわと増す鋭利な痛みに、アクメリンは泣き叫んだ。それでも諦めずに内腿を締め続けているからか、あるいは稜線が硬貨の厚みほどには丸められているせいか、すぐには肌を切り裂かれないでいる。
しかし。滑りやすい急斜面では、どれだけ力んだところで、太腿は滑ってしまう。鎖が緩むと、身体の重みのほとんどが会淫に食い込んできた。
「痛い痛い……お赦しください……」
「ふむ。座り心地が悪いか。もっと足を休ませてやれ」
アクメリンの宙に浮いた左右の足元に、人の頭ほどの大きさの鉄球が一つずつ置かれた。開閉式の鉄環、すなわち足枷が短い鎖でつながっている。ホナーがそのひとつを持ち上げ、リカードが足枷をアクメリンの足首に嵌めた。
ホナーが慎重に鉄球を下げていって、そっと手を放す。
「んぐうううっ……」
アクメリンが、食い縛った歯の隙間から呻き声をこぼす。鉄球の重さはアクメリンの重みの三分の二はあろう。
鉄球は反対側の足にもつながれて――今度は、脹脛の高さから放り出された。がくんと、アクメリンの足が引き伸ばされて。
「ぎゃわばわああっ……!」
断末魔のニレナにも負けない絶叫。
「ぐううう……きひいい……」
涙をこぼして苦悶するアクメリンの股間に血が滲んで、細い筋となって内腿を伝い木馬の木肌を朱に染めた。
「お、おゆるし……ください……せめて、錘だけでも……」
アクメリンの股間には、自身の二人分を超える重みが加わっている。さらに、鉄球が落下した衝撃。稜線がわずかに丸められていても、楔が体内に食い込むにはじゅうぶん過ぎる負荷だった。
「うぐ……ぐああああ……」
アクメリンの呻き声はいつまでも焉まない。それは、三角木馬の鋭い先端が強い力で傷口に押しつけられているからだけではない。木馬の脚は、湾曲した橇の上に乗っている。アクメリンが苦痛に身悶えすると、木馬が揺れて新たな激痛を生み出すからだった。
修道僧が木馬を押さえて揺れを止めた。
「ああ……」
相変わらず激痛は続いているが、それでもすこしは軽くなって、アクメリンは安堵の息を吐いた。しかし。
「仕上げは余が施してやろう」
ゼメキンスが細い紐、あるいは太い糸を取り出した。ホナーがアクメリンの乳房を握り潰す強さで揉みしだき、乳首を無理強いに搾り出す。ゼメキンスはそこに細紐を巻いて引き絞り、反対の端を木馬の首から水平に突出している握り棒に結びつけた。
「では、椅子の座り心地を堪能するがよい」
ゼメキンスが後ろに下がると、二人の修道僧が橇の後ろを踏み握り棒を押し上げて、木馬を大きく反らせた。
アクメリンの上体が後ろへ倒れて、乳首を引っ張られる。激痛を和らげようと前屈みになって細紐の引きを弱める。途端に。
「そおれっ」
ゼメキンスの掛け声で、橇の端を踏んでいた足が引かれ、握り棒は下へ強く押された。
ぐうんと木馬が前傾する。
「きゃああっ……!」
身体が前へ滑りかけて、その摩擦が会淫をさらに深く抉る。しかし、痛いと叫ぶ暇も与えず、木馬が揺り戻す。今度は後ろへ滑りかけると共に上体がのけぞって――乳首に巻かれた細紐が、ぴいんと張った。
「がはあああああっ……!!」
乳首があり得ないほどに引き伸ばされて、たわわな乳房が紡錘のように歪む。
木馬が揺れるたびに、アクメリンの上体が前後に傾いで、乳首と乳房の変形が繰り返される。さらに、錘の揺れで股間の激痛も前後に動く。
「ぎゃああっ……いたいいっ……とめて……ごめんなさい……おもりは、このままで……ぎひいいいっ……せめて……ゆらすのだけは……とめてくださいいいいっ!」
ある程度までの責めは甘受すると申し出たも同然の哀願だったが、それすらもゼメキンスには何の感銘も与えなかった――のではなく、嗜虐を満足させただけだった。
「では、デバイン殿が招待してくれた晩餐に赴こうぞ。エクスターシャよ、その揺れはじきに止まる――おまえの心掛け次第でな」
枢機卿猊下は二人の部下というよりも手下を引き連れて、哀れな罪人(と、すでに決めつけられている)を放置したまま、牢獄舎から立ち去った。
「あうう……きひい……いたい……」
木馬の揺れは次第に小さくはなっていったが、完全には静止しなかった。激痛に身悶えるアクメリン自身が木馬を揺らすからだ。そして。乳首の痛みをやわらげようとして身体を前へ倒すと、会淫を切り裂いていた稜線が、今度は淫裂の奥深くまで食い込んでくる。一時の激痛は我慢して身体全体を前へずらそうとして、内腿で力いっぱいに木馬を挟みつけて腰を突き出しても――足に吊るされた鉄球の重みがそれを阻んで、ただ股間を木馬に擦りつけるだけになってしまう。
「いたい……こんなのって……エクスタ、これは……ぐうう……あなたがうける……べきなのよ……たすけて、だれか……かみさま!」
神の僕(しもべ)たる者たちから受けている加虐である。神に救いを求める虚しさに、アクメリンは気づいていない……
………………
…………
……
――そうして。傷つき汚れてはいても、高窓からこぼれる微かな月明かりに仄白く浮かび上がるアクメリンの裸身は、まだ小さく揺れ続けている。激痛による無意識の身悶えばかりが原因でもない。後ろへ傾いたところで釣り合いが取れるように仕組まれているのだ。すると上体がのけぞって、乳首を引き千切られそうになる。意識するしないに関わらず身体を前傾させて、みずから揺れを増幅しているのだった。
「うあ、あ……く…………だれか……た……ひい………………たす、け……て……」
揺れ動く鋭利な激痛に、惨めな安息すらも得られないでいる。
そんなアクメリンを恐怖の眼差しで見詰めているのは、檻の中で意識を取り戻したニレナだった。明日は、もしかしたら今夜にも、自分も同じ拷問に掛けられるのだろうかと怯えているに違いない。自分が受けた拷問と、どちらが苦しいだろうか、とも。
ニレナが、はっと、戸口に目をやった。
ぎいい……と、蝶番を軋ませて扉が開いた。暗闇の中に透かし見える人影は四つ。枢機卿猊下と三人の修行僧に違いない。人影のひとつが壁際へ動いて、小さな赤い光が動いたと見るや、太い焔が灯って牢獄の中が明るくなった。
尋問すなわち拷問の再開――と、ニレナは犬のようにうずくまっている裸身をいっそう縮込ませたが、四つの人影が共にアクメリンのほうへ動いたので、見知らぬ犠牲者の身を案じるどころではなく安堵した。
アクメリンは、うわ言のように激痛を訴えるばかりで、牢獄が明るくなったことにさえ気づいていないようだったが。不意に木馬の揺れが止められて、ゼメキンスに真正面から顔を突き付けられて――しゃっくりのような悲鳴と共に(幾分かは)正気を取り戻した。
「まだ、おまえはエクスターシャ王女ではないと言い張るつもりかな?」
「あ……いやです。もう……ゆるしてください」
どこまで、ゼメキンスの言葉を理解しているのか。
「おまえが王女と認めたところで、すぐに処刑するわけではないぞ」
ゼメキンスの猫撫で声には、必ず裏があるのだが。
「デチカンまで連行して裁判に掛けたうえで、異端者もしくは魔女であると判定されてから――そうじゃな、裁判はひと月から先になろう。有罪と決まっても、処刑するとは限らん。フィションク準王国の陰謀を赤裸々に証言するなら、教皇聖下より恩赦を賜らんとも限らぬぞ」
それは、およそ実現不能な絵空事に過ぎない。裁判は、被疑者の自白が最有力の証拠となる。完璧な自白が得られるまで、拷問が繰り返されるのだ。陰謀の告発には、それでも足りない。フィションクに対して、この娘がたしかに王女であると、これを教皇庁が証明しなければならない。それは不可能に近いし、仮に本物の王女が証言したとしても、フィションク国王は愛娘を見捨ててでも国家の安泰を謀るに決まっている。しかも、夫を捨てて駆け落ちをした妻の娘。一掬の涙すら浮かべないのではなかろうか。そんな私事よりは、メスマンとの同盟を諦めねばならないことのほうが、よほどの打撃だ。
つまりエクスターシャは、フィションクへの教皇庁からの警告の贄として白羽の矢を立てられたというのが、真相であった。などとは、たとえアクメリンの思考が十全に働いていたとしても、思い及ばなかっただろう。
しかし、長時間の拷問(ゼメキンスの見解では、まだ始まってもおらず、とびきりの座に憩わせてやっているだけだろうが、それはともかく)で激痛に疲弊して思考力も失われたアクメリンには、枢機卿猊下の御言葉は福音のように聞こえた。嫌疑を認めさせるための拷問にも思い至らず、馬車なら十日とかからぬ距離をなぜ三十日と見積もるのかも疑問すら浮かばなかった。
「嫌疑に対する尋問は後日のこととしてやろう。今はただ、おのれがエクスターシャであることのみを認めよ。されば、今宵は簡単な検査のみで済ませてやるぞ。どうじゃな?」
「あああ……どうか、もう……おゆるしください」
「認めるのじゃな」
「は、はい……みとめます」
「もっと、明確に証言せよ。おまえは、フィションク準王国の第二王女、エクスターシャ・コモニレルなのじゃな?」
「わたしは……えくすたあしゃ、です」
「王女が、そのような言葉遣いをするものか。正しく言い直せ」
虚ろな瞳の中で、微かに光が揺れた。エクスターシャと入れ替わった直後に、その言葉遣いを訂正させたときのことを、アクメリンはおぼろに思い出した。
「わらわは、ふぃしょんくのおうじょ……えくすたあしゃ、に……そういありませぬ」
アクメリンは、すでに尽きている気力を虚無の中から掘り起こして、枢機卿猊下が望まれているであろう言葉を気息奄々と口にのぼせ終えると、がくりと首を垂れた。
「三人とも、フィションク準王国第二王女の自白を、しかと聞いたな」
三人は左手を胸に当て右手を挙げて頷き、牢獄の入口近くに設えられている小机に置かれている羊皮紙に、アクメリンの自白を書き込んでそれぞれに署名をした。
ヒロインをそっちのけの猿芝居が終わると、ゼメキンスが次の残虐を命じる。
「売女を降ろしてやれ。この者が悪魔と交わっておらぬか、調べねばならん」
アクメリンは即刻に三角木馬から解放され、後ろ手の枷も外されて――梯子を水平に寝かせた台の上に縛りつけられた。本来の目的に使われるなら足の先が来る位置に腰を置かれて。
「もう……ゆるしてくださる、はずでは……」
「言ったはずじゃ。ごく簡単な検査が残っておると」
「…………」
言われてみれば、そうだったような。
アクメリンはもう、抗議も哀願もしなかった。両手を伸ばして頭の上で縛られようと、首の下に横木を通されて、そこへ直角に開かれた両脚を固縛されようと、三角柱の木馬を跨がせられることに比べれば安楽の極みだった。女として最大の羞恥を曝すことなど、肉体的な苦痛は微塵も無い。
枢機卿猊下がいきなり法服を脱ぎ始めても、アクメリンは関心を持たなかった。下着まで脱ぎ捨てて、四十を過ぎてあちこちが弛(たる)んだ裸形を見せつけられても、猊下の意図すら推測しようとは思わなかった。とはいえ、その股間に屹立している部分が、ジョイエとレニナの股間に突き立てられた棒状の道具に(かなり小振りだが)酷似しているのに気づくと――さすがに不安が生じた。
アクメリンは上体を屈曲した形で梯子の端に固縛されているから、V字形に開かされた股間は宙に突き出ている。その正面――ただ前へ進むだけで容易に挿入可能な位置に、ゼメキンスが立った。
「おまえが清らかな身体であれば、その門は閉ざされており、男の侵入を拒むであろう。されど悪魔と交わっておる魔女なれば、悦んで迎え挿れるはずじゃ」
検査の後は確実に処女でなくなるという、冤罪捏造のための処女検査であった。
しかしアクメリンは、これから我が身に起こる災厄を、正確には理解していない。結婚適齢期になった娘でさえも、新婚初夜は夫となった男に一切を委ねて、羞ずかしくても痛くても我慢しなさい――としか教わらないのが、少なくとも貴族の世界では普通だった。わずかな聞きかじりと、今夜に目撃した惨劇だけが、アクメリンが性に関して知っているすべてだった。いや、目撃した陵辱と男女の営みとを直接に関連付けて理解しているのかさえ怪しい。
しかし、肉体の反応は知識とは無関係である。棒状の道具に酷似した男性の器官を股間に押し挿れられて、当然に痛みを感じた。とはいえ、三角木馬に股間を抉られていたときの痛みに比べれば、呻き声にすらも値しない軽微なものだった。
それよりも。これは、まさしく新妻が夫に従属するための儀式なのではないか――と、そのことに思い至って愕然とした。
「いやっ……やめてください。お嫁に行けなくなります!」
魔女として焚刑に処される瀬戸際に立たされているというのに呑気な心配をするものではあるが。ようやく四肢の指に足ろうとしている年齢の乙女にとって、実感を伴って死を恐怖できるはずもなく、むしろ、神にも両親にも祝福された結婚が叶わなくなることのほうが、よほど切実な問題だった。
王女として(父王に疎まれながらも)乳母日傘で育ちながら、速やかに海賊相手の娼婦という逆境に順応し、アクメリンが拉致されたと知るや敢然と行動を起こしたエクスターシャと比べれば、アクメリンは簒奪などという大それた悪事をしてのけながら、あまりにも凡庸な娘ではある。
贄娘の哀願にゼメキンスはいっそう男根を怒張させて、腰をぐいと突き出した。
「ぎひっ……」
さすがにアクメリンは呻いたが、女にとって生涯一度きりの惨事(過半の女にとっては慶事)に際するにしては、あまりに控えめな声だった。それだけ、直前までの拷虐が苛酷という証左ではあるが。
苦痛の表現は控えめであっても、指一本挿れたことのない処女穴の締め付けは、繰り返し実父に犯されてきた少女や夫の魔羅に馴染んだ新妻とは比較にならなかった。これまで数多(あまた)の女信者に秘蹟ならぬ卑跡を授け、五指に満たぬとはいえ悪魔としか交わったことのない若き魔女の正体を暴いてきた百戦錬磨の枢機卿猊下も、聖なる書物の半頁も読まぬうちに検査を終えてしまった。あるいは、いずれにせよ単純に突っ込むだけの検査には熱意を持てず、工夫を凝らした尋問こそが天職と心得ているのかもしれない。
「すんなりと挿入できたうえに、新たな出血も確認できなんだ。この者は魔女と断定してよかろう」
魔女であれば、エクスターシャであろうとアクメリンであろうと、異教徒と通じていようといまいと、焚刑の運命は免れないのだが。アクメリンの耳にゼメキンスの言葉は届いていない。じゅうぶんな予兆があったにも関わらず、彼女にとっては唐突だった処女喪失の衝撃に呆然としている。
当人に代わって、意外にもガイアスが弁護にまわった。
「破瓜の痛みは、人によって大きな差異があると聞き及びます。苦痛を訴えなかったからといって、悪魔と交わっていたとは断言できないのではないでしょうか。また、破瓜の血はそれ以前の怪我による出血に紛れていたのかもしれません」
アクメリンはガイアスの言葉もじゅうぶんには理解できないままだったが、ともかく庇ってくれているらしいとは分かった。そういえば――投獄された直後に身体を清めてくれたときも、彼の手つきは優しかった。この三日間、私を虐め抜いてきたホナーやリカードとは違うのかもしれない。
アクメリンの見立ては、ある意味間違ってはいない。他の二人より信認の篤いリカードは、後方支援の意味でマライボに留まりながら、ゼメキンスのために魔女嫌疑者を強引に摘発していたのだから。
「ふうむ。汝の言い分にも一理はあるのう。では、魔女詮議は後日のことと致すか」
アクメリンは、ひっそりとガイアスに感謝したのだが。裏を返せば、拷問が増えるのだから、恨むべきなのかもしれない。もっとも実際には……ゼメキンスが飽きるまで、拷問は続く。そして、熱心な神の使途である彼が職務に倦むことなど無いのだった。
「しかし、まだ検査する穴が残っているのではありませんか?」
ホナーが口を挟む。
「それも明日じゃ。余の杭は鉄で出来ておるわけではない」
つまり――処女穴よりもきつい尻穴を貫くのは、二発目では難しいという意味である。
「とはいえ、まだまだ、汝らに初手を任せる年齢(とし)ではないわい」
蛮族に喩えるなら『族長の権利』であろう。
ともあれ。アクメリンは梯子の寝台(拷問台であろう)に固縛されたまま、血を洗い流され襤褸布で拭かれ、錬金術の秘薬と称する軟膏を股間に塗りこめられて――ジョイエが入れられていた狭い檻に押し込められた。そして。水も食餌も与えられることなく、翌日まで放置されたのだった。
――アクメリンもニレナも、互いに口を利くどころか、目を合わそうともしない。闇を透かし見ても、そこにあるのは惨めな自分の鏡写し。そして、励まし合おうにもその取っ掛かりがない。ふたりに共通しているのは、容疑を認めるまで拷問を繰り返されて、その行き着く先は極刑。ひたすら、己れの痛みに沈潜するしかないではないか。
それでも、まったくの孤独よりはましだったかもしれない。すくなくともニレナにとっては、アクメリンの所作に扶けられるところもあった。生理的欲求である。すでにアクメリンは、垂れ流すことに(羞恥は覚えながらも)狎れてしまっていた。犬のようにうずくまったまま、もちろん片脚を上げたりはせずに、石床に水溜りを作ったのだ。その微かな水音を聞いて――ニレナも、下腹部の我慢しきれない不快を軽くできた。
まんじりともせずに朝を迎えた――のは、ニレナだけだった。身体のどこにも縄を掛けられず、狭い檻であっても寝返りくらいはできるし。股間の内も外も痛みに疼きながらも、アクメリンは三日ぶりに熟睡できたのだった。
夜が明けきった頃、ガイアスがひとりで牢獄を訪れて、食事を差し入れてくれた。薄い肉汁を容れた皿と、黒くて固い麺包を乗せた板。最下層の貧民に教会が施すような代物で、ニレナは麺包をひと口かじっただけで顔をしかめたが――アクメリンにとっては、アルイェットから連れ去られて以来の、他人の咀嚼物ではない、まっとうな食事だった。
うずくまったまま、両手で麺包をつかんでかぶりつく、その浅ましい姿を、ニレナは呆れた顔で眺めていた。この女(ひと)が、どこかの国のお姫様だなんて、そんな馬鹿な。当人が主張していた侍女ですらあり得ない。まるで女乞食そのもの――ニレナの表情は、そう語っていた。
陽が天に沖するすこし前になって、今度は四人が一緒になって牢獄を訪れた。アクメリンとニレナが恐れていた尋問の再開――では、あったのだが。
最初にニレナが檻から引き出されて。両手で前を隠して身体を縮込めている彼女の前に、古着が投げられた。
驚きの表情を浮かべるニレナ。彼女自身の替着だったからだ。それが、なぜここにあるのか。夫が差し入れてくれたのだろうか――思わず扉を振り返ったが、閉ざされたそこに夫の姿があろうはずもない。
「おまえは釈放する。ガカーリイ商会が告発を取り下げた」
ニレナは一瞬ぽかんとして。たちまちに安堵が顔一面に広がった。
「は、はい……ありがとうございます」
身をこごめて衣服を拾い上げ、今さらに男性の目に裸身を曝すのを羞ずかしがるかのように、あたふたと身繕いを調えた。昨日の鞭打ちと陵辱、ひと晩じゅうの窮屈な姿勢での監禁。それらによる疲弊が一時(いちどき)に吹き飛んだかのような身の動きだった。
「されど、魔女の嫌疑が晴れたわけではないぞ」
ゼメキンスが釘を――刺さねば、格好がつかない。
「監視を緩めぬよう、この地の司祭にもガカーリイ商会の面々にも申しつけておいた。再度の告発があれば、次は夫婦共々ということにもなろうぞ」
ニレナが、はっと顔を上げて枢機卿猊下を直視して。すぐに俯いて唇を噛んだ。
「……夫にも、そのように伝えますです」
監視者の名に商会を加え、次は夫も告発されると脅す。つまり、今回の告発は、夫のツワイマアを商会の支配下に置くための脅迫だったと――明白に語られたも同然だった。
まったくの茶番劇。しかし、それをいえば――たとえ捕らえた娘が真性のエクスターシャだとしても、フィションク国王を弾劾することは困難と分かりながら、その娘を処刑する。こちらのほうが、よほど大掛かりな茶番劇であろう。アクメリンの訴えに真実を見ながら、亡き者となったエクスターシャに仕立て上げようとするなら、二重の茶番劇でもある。
小さいほうの茶番劇は、ガイアスがニレナを牢獄から連れ去ることで幕を閉じた。そして、壮大な茶番劇の第二幕が開く。
「この者は、おのれが王女エクスターシャであると認めた。そのうえで自白させねばならぬことは多々あるが、それよりも先に――この者が魔女であるか否かを確定させねばなるまい」
その言葉を聞いてアクメリンは、昨夜にされたこととされなかったこと。ニレナがされたことなどを思い合わせて、尻穴を犯されるのか股間の突起に針を刺されるのかと、生きた心地も無い。
しかし、ゼメキンスの一言一句にたいして意味がないことをアクメリンは分かっていない。ゼメキンスの言葉は、被疑者を己れの好きなように嬲るための場当たりでしかないのだ。昨夜はニレナを魔女と断定しておきながら、今日になると告発が取り下げられたと言って釈放する。
アクメリンの扱いは、さらに恣意的である。魔女は鎖で縛って水に放りこんでも浮かび上がると称して験した結果は当然の失敗に終わったが、次には悪魔から授かった淫茎を暴いて九分九厘は魔女であると断定した。それでも昨日は、悪魔と交わった証拠を確かめるという名目でアクメリンを犯し――拷問に比べれば小さい破瓜の痛みに耐えたから処女ではないと決めつけ、破瓜の血は三角木馬による出血に紛らせてしまった。
次に何をどのように確かめるにしても、否定的な結果が出ればさらなる検証を、そうでなくてもさらに証拠を固める必要を言い出すであろうとは、容易に推察――できないのは、アクメリンばかりである。
「とはいえ、すぐには調べられぬな」
とは言いながら、二人の修道僧にアクメリンを檻から引き出させる。
「この者は、一昨日からこっち、腹に汚物を溜め込んでおる。まずは、その処置じゃ」
男の人が見ている前で排泄をさせられるのだろうかと、アクメリンは怖気(おぞけ)をふるった。放尺水は生理的欲求が羞恥を上まわってしまったけれど、こちらのほうは、まだ一日や二日なら我慢できる。それを無理強いされるのは、女として耐えられることではない。けれど拒めば、また鞭打たれるか三角木馬に乗せられるか、それとも針による検査をニレナよりも厳しくされるかもしれない。
しかしゼメキンスは、言葉あるいは暴力による無理強いはしなかった。昨夜はジョイエに使われた大きな木枷が持ち出された。
アクメリンは膝を折って座らされて、額が石床に着くまで上体を屈曲させられた。手を後ろへ引かれて、木枷に穿たれた五つの穴の外側へ通された。その内側へは足首。真ん中のいちばん大きな穴は、ふつうに座らせた形で拘束するときには首を通すのだが、今は用がない。
「ホナー、持って来ておるな」
マライボの牢獄には、囚人に苦痛を与える道具は揃っているが、女囚の羞恥を煽るための道具には乏しい。それだけ、この都市の統治者は真っ当な男であるということだが。いっぽうのゼメキンスは、そちらに特化した拷問具を荷馬車に幾箱も積み込んでいる。男に比べて女のほうがいっそう罪深い(アダムに林檎を勧めたのはイヴである)から、女への拷問具にも工夫を凝らすのは神の使いとして当然の職務である。などという皮肉はさて措き。
ホナーが、馬車から持って来ている箱から取り出したのは、二の腕ほどの太さと長さの金属筒だった。一端には細長い嘴管があり、反対側には押し引き出来る把手が付いている。それを、いったんは檻の上に置く。
床に窮屈な俯せの姿勢で転がされているアクメリンの前に小さな桶が置かれた。ゼメキンスが法服をたくしあげ細袴をずらして、桶に向かって放尺水する。
「わっ……」
アクメリンは飛沫を顔に浴びて、しかし反対側へ向くことも容易ではない。
ゼメキンスに続いてホナーとリカードが、これは桶の左右から放尺水する。アクメリンが顔をそむけても、どちらかひとりが動いて、飛沫を浴びせかける。
三人ともこの為に溜めていたらしく、かなりの量になった。それをホナーが金属筒に吸い上げた。アクメリンの後ろへまわって、無防備に曝されている尻穴に嘴管を突き刺した。
「痛いっ……ああ、いやあ!」
嘴管で貫かれる(すでに苦痛に狎らされているアクメリンにとっては)わずかな痛みよりも。それに続いて、腹の中に押し入ってくる水の感触に、アクメリンは狂乱した。男の小便――正体が分かっているだけに、全身が総毛立つ。
しかし、事は汚辱だけでは済まない。腹の中には三日分が溜まっている。それが水で軟らかくなり、溜まっていた分量に数倍する水の圧迫と相俟って。数分もすると、凄まじい便意が募ってきた。
「く……お慈悲です。この枷を外して……ここから出してください」
註記でも述べたように、この時代の人々には戸外での排泄に(誰にも見られないのなら)羞恥はない。アクメリンの懇願を現代風に翻訳すれば「トイレに行かせてください」となる。
ゼメキンスは何も答えない。隠しから小さな砂時計を出して、アクメリンの横に置いた。
「負けたほうが、呪いをふさぐのじゃ。良いな」
「では、三回を超えるほうへ」
リカードが応じて、ホナーが肩をすくめる。
「となると、拙僧は三回以内ですか。にしては、ちと量が少なかったかもしれませんな」
およそ意味不明の遣り取りだが、これで意思の疎通ができているのだから――こういった処置には慣れているということであろう。
「く……くうう……」
哀願は無駄と悟って、アクメリンはひたすら便意に耐えている。
「……一回」
砂の落ち切った砂時計を、ゼメキンスがひっくり返した。再び砂が落ち始める。
季節は初夏であるが、石壁が熱を遮っているので、牢獄の中は風通しが悪いわりには蒸し暑くない。しかし、アクメリンの全身には汗がびっしり噴いている。
「……二回」
数えながらゼメキンスが再度砂時計をひっくり返したとき。
「あああっ……もう、だめえっ!」
悲痛な声で叫ぶなり。
ぶじゃああ、ぶりりりり……
茶色に濁った水を激しく噴出させ、軟らかくなった固形物もぼとぼと落とす。
「あああっ……いやあ、見ないで!」
アクメリンは啜り泣きながら、しかし、排便はなかなか終わらない。
ホナーとリカードが、牢獄の隅に置かれた大桶から水を汲んできては、アクメリンの尻といわず全身にぶっ掛ける。石床にはわずかな傾斜が付けられているので水は一方へ流れて、壁に穿たれた排水孔へ吸い込まれる。
汚れが洗い流されると。今度は水を浣腸器に吸って、アクメリンに注入する。しかも、続けざまに三度。もはやアクメリンには前にも倍する圧迫に抗する気力は残っておらず、すぐに水を噴き上げる。そして、また何杯も水を全身に浴びせられて、ゼメキンスの言う処置は終わった。
蛙が潰れたような格好で床に転がされているアクメリンを、二人の修道僧が前後から抱え上げて、梯子を水平に寝かせた拷問台に直交させて載せる。アクメリンの尻と頭が梯子の枠から突き出る。その後ろにゼメキンスが、前にはホナーが立ちはだかる。アクメリンはぐしょ濡れのままなので、服を汚すのを嫌ってか、二人とも全裸になって――十字架だけを胸に吊るしているのは、むしろ戯画でしかない。
ホナーは全身が引き締まっている。修道僧の質素な食事と日常の労働とを反映してであるなら、そういつもいつも破戒に明け暮れているわけでもなさそうだ。ゼメキンスも、年齢と高位の役職相応に弛んではいるものの、それでも肥満や衰えとは程遠い。なによりも、男の根源たる部分は、太さも角度もホナーに勝るとも劣らない。
ホナーが、急峻にそそり立っている怒張をアクメリンの唇に近づけた。
「呪いの言葉を吐かれてはたまらん。その棒で口をふさいでおれ」
と、ゼメキンスに言われても。従えるはずもない。アクメリンは歯を噛んで口を閉ざし、そっぽを向く。
ホナーが縄で輪を作ってアクメリンの首に通した。頭を押さえつけて下を向かせ、縄の端を引いて首を絞める。
「あぐ……」
息苦しさを感じるより先に首の痛みにアクメリンが喘ぐ。
その薄く開かれた口にホナーが怒張を突き挿れる。
「むぶ……ぶふっ……!」
あわてて吐き出そうとするアクメリンだが、頭を押さえられ下から突き上げられていては、どうにもならない。いっそう深く突き挿れられて、ホナーの淫毛が鼻腔を刺激して。
「びぃっくしゅん!」
とたんに、また首を絞められた。
「噛むな。次に歯を立てたら、このまま縊り殺すぞ」
低い声でホナーに脅されて、アクメリンは意識して口を開けた。
「しっかり咥えていろ」
縄は緩められたが、両手で頬を叩かれた。アクメリンはまた口を閉じた。
「今のところは、それで良い」
アクメリンの(呪いの?)言葉を封じ終えると、ゼメキンスが腰をつかんで、怒張を尻の谷間にあてがう。
「んむうう……」
やはり――昨夜のニレナへの仕打ちを見ているだけに、何をされようとしているかは、昨夜に処女を破られたばかりの娘にも容易に理解できた。だけであって、とうてい受け容れることはできない。
「あええ……おんあおお……」
ぎゅっと首を絞められて、アクメリンの言葉が途切れる。
「この期に及んで逆らうか。ならば、終油の秘蹟は授けてやらんぞ」
終油の秘蹟とは、死に瀕した者の額と手に聖油を塗る儀式を謂うが、この場では潤滑にそれを使うつもり――だったのかもしれない。ゼメキンスは、わずかに水で湿されているだけの尻穴に、怒張を突き挿れた。
処女穴を貫通されたときよりずっと重たく熱い激痛がアクメリンの尻穴を引き裂いた。
「む゙びい゙い゙い゙い゙っ……!」
くぐもった悲鳴とともに歯を食い縛ったのは一瞬。顎をつかまれて力が緩んだ。
ぐにゅんぐにゅんぐにゅうんと、尻で激痛がうねる。と同時に。口の中でも怒張が前後に衝き動き始めた。
「むびいい……んぶっ、んぶっ……」
尻の痛みと喉元に込み上げる吐き気と。アクメリンは、生きた心地もない。
「ううむ。悪魔と交わったにしては、こなれておらんな。具合がよろしくない」
「そのようで。呪文を唱える気配もありません」
「ふむ……もしや、いまだ悪魔と契約を交わしてはおらぬのかな」
勝手なことを言い交わしながら、ゼメキンスとホナーは、腰を動かし続ける。
「とはいえ。この者に悪魔の淫茎が芽生えておることも事実じゃ」
「では、どのように」
「左様……」
ゼメキンスは猿芝居をやめ、いっそう激しく腰を打ちつけて、数分で埒を明けた。
ほとんど同時にホナーもアクメリンの口の中に白濁を放った。
「うぶっ……」
ホナーは男根を引き抜くと、素早くアクメリンの口を掌でふさぐ。
「んむうう……」
「神に祝福された聖なる汁だぞ。呑み込め。体内に潜む悪魔を滅ぼしてやる」
鼻までつままれて、なおも逆らえば窒息してしまう。アクメリンは吐き気に逆らって、口中の汚濁を嚥下するしかなかった。
それを見届けてから、ゼメキンスも腰を引いた。梯子を向こうへまわって、放心しているアクメリンの唇に、萎えかけた男根を触れさせた。
「余からも清めの汁を授けてつかわす」
ひとたび崩された城壁は、すぐには修復できない。アクメリンは言われるがままに口を開けて、たった今まで自身の尻穴に突き立てられていた肉の杭を咥えた。
ゼメキンスがちょっと考え込んだのは――文字通りに吸茎させてくれようかと思案したからだろう。しかし、アクメリンの様子から困難と判断したらしく、すぐに引き抜いて、残っている汚れは頬になすりつけて事足れりとした。彼の心は、すでに次の責めに向かっている。
「この女ひとりの魔女詮議もさることながら、フィションクが国を挙げて神の教えに背いたという証言を得るのが最重要じゃ。これ以上は悪魔と交われぬよう、この者の肉体に結界を張っておくとしよう」
ゼメキンスの指図で、アクメリンは梯子の上に仰臥させられた。両手は頭上でひと括りにされて、梯子の端にある巻取機に縄でつながれる。木枷の内側の穴が梯子の外枠を挟み込み、アクメリンの両脚は外側の穴に嵌められた。巻取機で、アクメリンの全身が伸ばされた。拷問であれば、ここからさらに身体を引き伸ばしていくのだが、そうはしなかった。
ホナーがアクメリンの腰をつかんで尻を梯子からうかして、リガードが短い丸太をその隙間に押し込む。腰を思い切り天井に向かって突き出した形にアクメリンを固めておいて、ゼメキンスが言うところの結界を張る準備が始められた。
火桶に薪を燃やし石炭を乗せて、白熱するまで鞴で風を送る。そうして、先端に小指を組み合わせたほどの十字架を鍛接した鉄棒を火桶で灼熱させる。
アクメリンは、その様子を恐怖と懐疑が入り混じった目で眺めていた。どう考えても、その鉄棒は自分の身体に押しつけるために準備されているとしか思えない。けれど、そんな残酷なことを、神に仕える人たちがするだろうか。
ゼメキンスが鉄棒を火桶から引き抜いて近づくと、懐疑は吹き飛んで恐怖が膨れ上がる。
ゼメキンスは灼熱した十字架をアクメリンの下腹部すれすれに近づけて、脅すように焦らすように宙を滑らせていく。熱で淫毛がぱっと燃え上がる。
「お、お赦しください……それだけは……他のことなら……鞭でも針でも……」
鞭にしても針にしても、どれだけひどく傷つけられようと、いずれは元に復する(と、アクメリンは思っている)。けれど、焼印は死んでさえ肌に残る。家畜と同じ、あるいは重罪人や逃亡奴隷。そんな烙印を刻まれては、まともな結婚どころか野合すら望めなくなる。処刑台の上で短い生涯を終える運命を、どこか実感していない彼女には、まさしく死にもまさる恐怖だった。
下腹部を焼け野原と化さしめてから、ゼメキンスは鉄棒を垂直に立てて、すでに黒くなっている十字架をアクメリンに押しつけた。
じゅうっ……
「い゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……!!」
絶叫の中に白い煙が立ちのぼり、肉を焼く臭いが周囲に広がった。上下逆さになった十字架の頭部が淫核の包皮を掠めて、厚みの半分ほども肌にめり込んで――そのまま数秒も留まってから、引き剥がされた。
錬金術の秘薬と称する、効き目は怪しいが高価な油が火傷に注がれ、さらに半固形の脂が塗られて、その上を油紙が覆った。焼印の形が崩れぬように、かつ早く固定するようにという処置であった。火傷がある程度は落ち着かないと、そこを鞭打つことはできないし、女の罪業の根源を検査するときにも不都合がある。さらに、ゼメキンスには別の思惑もあるのだが、それは数日後に明らかとなるので、今は詳述しない。
「今日は、これまでじゃな。本格的な尋問は、明日からとする」
拷問台の上にアクメリンを磔けたまま、ゼメキンスは二人の手下を従えて牢獄から立ち去った。
「うっ……うっ……」
扉が鎖されてすぐに、アクメリンの口から嗚咽が漏れ出した。
「どうして……どうして、こんなことに……」
彼女自身にも分かっている。すべては、己れ自身の浅はかな企みが招いた事態なのだ。それでも、運命を呪わずにはいられない。三日前に捕らわれて初めて、アクメリンは独りにされた。立哨の兵もいなければ、共に捕らわれている囚人もいない。侍女とはいえ、貴族の娘――という自負も、平民に見られているという意識があってこそ。
しかも。肌に、それも致命的な部位に焼印を刻まれて、女としての平凡な日常を取り戻せる万にひとつの希望さえ失われた。
嗚咽はいつまでも続き、アクメリンの顔はあふれる涙でおおわれていった……
――もはや時の移ろいになどアクメリンは気を留めていなかったけれど。夕暮れ時でもあったろうか。牢獄の扉が軋みながら開く。
ぷるんと、それでも気丈に涙を振り払って、逆光の中に浮かぶ人影に目を凝らす。ガイアスだった。
ほっと安堵の息を漏らすアクメリン。この男もゼメキンスの手下には違いないが、彼だけは幾分でも優しく扱ってくれる。今も、手にしているのはアクメリンのための夕食だろう。
「猊下のお達しで、縄をほどいてはやれぬ」
それでも、巻取器の把手を巻き戻して縄を緩め、下から肩に手を入れて上体を斜めに起こしてくれた。
アクメリンは頭をいっぱいにもたげて、唇にあてがわれた木椀の中身を啜った。具のない肉汁にも、滋養が全身に巡る思いだった。
硬い麺包を千切って口に入れてやってから、ガイアスは、アクメリンの下腹部をわずかに包んでいる油紙をめくった。半固形の脂は人肌の温もりに溶けて、焼印でへこんだ傷口を埋めていた。
「悪魔と交われぬように結界を張ったと猊下はおっしゃっていたが、乙女の柔肌を斯様に傷つけるとは……」
ガイアスは絶句――にしては長過ぎる台詞を口にした。
「猊下のなさり様は強引にすぎる。昨夜、そなたはエクスターシャ王女であると認めたが、あれとても拷問から逃れようとして、ついた嘘ではないのか。そなたは、真(まこと)は侍女のアクメリンではないのか?」
優しく囁かれて、それが罠かもしれないと疑うなど、今のアクメリンには到底できなかった。
「は、はい……ガイアス様は分かってくださるのですね」
「やはり、そうか。そなたは、アクメリン・リョナルデなのだな」
「そうです。私は取るに足りない侍女でございます。どうか、枢機卿猊下にお口添えください」
一縷の希望を取り戻したアクメリンに背を向け、ガイアスは扉に向かって呼ばわった。
「猊下の見抜かれた通りです。この女は、簡単に自白を翻しました」
ガイアスが扉を閉じていなかった出入口から、雪崩れ込むと形容したくなる勢いで、三人の加虐者がアクメリンの周囲に殺到した。
「え……?! あ、あの……」
ガイアスまで含めて三人の修道僧が、アクメリンの木枷を外し縄をほどいて、拷問台から引きずり下ろした。何が起きているのか理解できず、しかしこれまで以上に乱暴に扱われて、アクメリンは恐慌に陥る。
アクメリンの右足首に鎖が巻かれて、片脚で宙吊りにされた。頭上に垂らしていた腕を背中へまわされ、腰のあたりまで引き上げられて、縄で手首を厳重に縛られた。その縄に、昨夜は足首に吊るされていた、人の頭ほどの鉄球がつながれた。鉄球の重みで腕は肩の高さまで引き下げられたが、縄の固縛に阻まれて腕をねじれないので、そこからは下へ動かない。
アクメリンの裸身が横へ押され、先端がY字形に分かれた木の棒で鎖も押しやられて、水を湛えた大桶の真上にある滑車に掛けられた。鎖の端が壁の留金から外されて、ホナーとリカルドの手に握られる。
「下ろせ」
ゼメキンスの指図で、アクメリンの逆吊りの裸身がゆっくりと下ろされていき――ついに、顔が水中に没した。直角に突き出ている腕が大桶の縁につかえて、そこでいったんは止まったのだが。ガイアスが鉄球を持ち上げると、腕は身体の重みを支えられずに、頭が底に着くまで沈んだ。
大桶は大人ふたりが腕を広げても囲めない大きさで高さも腰を越えている。貯水だけでなく水責めも考慮した大きさだった。
魔女は水に浮くと称して、鎖で縛られて川に沈められた経験が、アクメリンに咄嗟の対応を取らせていた。大きく息を吸い込んで、額が水に触れたときには息を止めていた。しかし、それで持ち堪えられるのは、一分かそこら。しかも、逆吊りにされているので鼻の穴に水が押し入ってくる。むせそうになって、ぶくぶくと鼻からわずかずつ息を吐く。
たちまち息が苦しくなって、頭が割れるように痛み、目の前に赤い霞がかかってくる。しかし、水中で息を吸ったときの苦しみも知っているので、アクメリンは懸命に堪える。堪えながら、なぜこんな責めを受けているのか、どうすれば赦してもらえるのかを、考える――のだけれど、恐慌に陥った頭では考えをまとめられない。考えつくのは、我が身はデチカンまで押送されて、そこで裁判に掛けられてから処刑されるはず――この場では殺されないはずだという、惨めであやふやな希望(?)でしかない。
水中に没して一分、いや二分は耐えただろうか。アクメリンはついに限界に達して、ごぼごぼっと激しく泡を吐いた。間髪を入れずに引き上げられた。
「はあ、はあ、はあ……」
さいわいに水は呑んでおらず、荒い息だけを繰り返すアクメリン。
ガイアスが優しさを装った声で尋ねる。
「アクメリン、大事ないか?」
「はい……」
うかと答えてしまった刹那。ぢゃらららっと鎖が音を立てて、アクメリンは水中に落とされた。
不意打ちに息を溜める暇もなかった。大桶の縁に当たった腕が痛い。
今度はすぐに引き上げられたが。
「げぼほっ……げふっ」
吸い込んでしまった水を吐いて咳き込んだ。
「おまえは、アクメリンじゃな?」
今度はゼメキンスに尋ねられて、ようやくアクメリンは失策に気づいた。
「私は……エクスターシャです」
「馬鹿め。王女がそのような言葉遣いをするものか」
がららっ、ざぶん。
また水を吸わされて、引き上げられた。
「わらわは、エクスターシャ・コモニレルじゃ。お慈悲ですから、もう赦してください」
それでも、ゼメキンスは満足しない。
「ずいぶんと卑屈じゃの。とても一国の姫君とは思えぬわ」
今度は高く吊り上げてられてから、じわじわと下ろされていく。
「待ってください。わらわは、本当にエクスターシャなのです」
鎖は止まらない。アクメリンは諦めて、深呼吸を繰り返して――肩が浸かるところまで沈められた。
どう答えれば、ゼメキンスを満足させられるのだろうか。すぐに泡を噴いたら引き上げてはもらえないだろうか。そんなことを思い悩む暇もなかった。
ばちいん!
乳房に鋭く太い激痛が奔って、悲鳴が泡になって弾けた。
ばちいん!
ばちいん!
ばちいん!
さらに二発を続けざまに食らって。息を吐き切ったところに四発目を食らった。
反射的に息を吸ってしまい、胸が灼けつくように痛んだ。
ところが、それでも引き上げてもらえない。びくんびくんと全身に痙攣が奔って――意識が薄れかけてから、ようやく赦された。
「おまえは、アクメリン・リョナルデじゃな」
鞭をアクメリンの目の前でしごきながら、ゼメキンスの意地悪い問い掛け。
アクメリンは破れかぶれで、息も絶え絶えに叫んだ。
「違う。わらわは、エクスターシャ・コモニレル……フィションク準王国の……第二王女じゃ。このような……辱しめを受ける謂われはない!」
ゼメキンスが、狡そうに破顔する。しかし、鎖を握る二人に頷くと、またしてもアクメリンは水面へと下ろされていく。
そして今度は、尻への滅多打ちは十を数えた。乳房ほどの爆発的な激痛ではなかったので、アクメリンはどうにか悲鳴を堪えた。それでも、鞭打たれるたびに少しずつ泡を噴いて、やはり溺れる寸前に引き上げられた。
「正直に言え。おまえはエクスターシャの侍女、アクメリン・リョナルデであろう」
どう答えても、赦されそうにはない。
枢機卿猊下は、捕らえた女が王女でないと困るはずだ。アクメリンは、闇夜に目隠しをされたような意識の中で、かろうじてその結論を見出だした。
「……わらわは、エクスターシャ・コモニレルじゃ」
またしてもゆっくりと水に浸けられて、今度は後ろから尻の割れ目越しに股間を鞭打たれた。座るような形で曲げられていたアクメリンの左脚が、びくんっと跳ねて、太腿で股間をかばうように内側へ曲げられた。
アクメリンは内腿を引き締めて、脚を閉じ続ける。
鞭は焉んで、しかし引き上げられる気配もない。息が苦しくなって、そちらへ注意が移り、脚の力が緩むと――ばぢいん!
より強烈な一撃を股間に叩き込まれて、大桶の水面で大量の泡が弾ける。
それで、ようやく引き上げられて。
「おまえは、アクメリン・リョナルデであろう」
同じ質問が繰り返される。
エクスターシャだと答えると水に浸けられて鞭打たれるのだからと――アクメリンは、わずかに残っていた理性が導いた結論を変えてしまった。
「……私は、アクメ、きゃあっ!」
言い終えないうちに、一気に落とされた。大桶の縁に腕が当たって痛みが奔ったが、それどころではない。したたかに水を吸い込んでしまい、アクメリンは水中で苦悶する。
ゼメキンスたちの目には、断末魔の痙攣と映る。それでも、すぐには引き上げない。痙攣が小刻みになり、あと一分もすれば確実に溺れ死んでしまう瀬戸際まで追い込んでから、ようやく引き上げてやる。
アクメリンを石床に俯せに転がし、ガイアスが背中を足で踏んで強く圧迫する。意識を失ったままのアクメリンが口から水を吐いた。二度三度と繰り返してから仰向けにして上体を引き起こし、背後から腕をつかんで背中に膝頭を当てて、ぐいぐいと押す。
「げふっ……かはっ、げふっ……」
アクメリンは蘇生した。この手際の良さからも、四人の聖職者が拷問術に長けているのが見て取れるであろう。
「こうも易々と水に溺れるとは――おまえは魔女ではないのかも知れぬ。それとも、結界の効果であろうか。おまえはどう思うかな、アクメリン?」
ぴくっと身体は反応したが、アクメリンは答えない。
「アクメリン、おまえに問うておるのだぞ」
「……わらわの侍女は、ここにはおらぬ」
ゼメキンスは、驚いたことに、床にへたり込んでいるアクメリンの頭を優しく撫でた。
「それで良いぞ、アクメリン」
「くどい!」
気力を振り絞っての演技がゼメキンスを満足させたことに安堵しながら、やり過ぎたらかえって起こらせるのではないかと内心で怯えながら、アクメリンはさらに演技を続ける。
「わらわはエクスターシャじゃ。王女たるわらわの肌に、たとえ枢機卿猊下といえども、みだりに触れるのは無礼であろう」
「おお、これは失礼致した」
アクメリンに付き合って、ゼメキンスが恐縮の態で手を引っ込めた。
「王女殿下はお疲れのご様子じゃ。臥所(ふしど)にお連れ申せ」
臥所とは、四つん這いでうずくまるしかできない狭い檻――ではなく、手足を存分に(強制的に)伸ばせる、水平に寝かされた梯子の拷問台だった。もっともゼメキンスには、さらなる拷責を加える意図はなかったらしい。アクメリンが火傷に触れられぬようにして、綺麗な十字架の形を崩さず早く治癒するようにという配慮だった。だから、アクメリンの四肢を無理に引き伸ばしたりはせず、たとえて言うなら、昨日から使っている鉄球を二つとも足から吊るして両手で木の枝にぶら下がっているくらいの張りで、巻取器は止めたのだった。
そのままアクメリンは放置されて、一日が終わった。夕食は与えられなかったも同然だが、それをつらく思うというのは――火傷や溺れかけて傷ついた肺臓の痛みは、その程度だったということでもあった。
この三日間で心身ともに傷つき疲れ果てていたアクメリンは、泥のように眠った。背中と尻に食い込む梯子の横棧も、羽毛を詰めた布団とたいして違わなかった。
そうして迎えた、マライボでの三日目。驚いたことに、アクメリンは一切の拷問を受けなかった。午前中は釘を植えてない肘掛椅子に座らされて四肢を革帯で拘束され、午後は四つ葉の白詰草のような形の枷で逆海老に拘束されて牢獄の隅に転がされていた――のを拷問と呼ばなければ、だが。
静謐なままに一日が過ぎた。牢獄に出入りするのは三人の修道僧だけ。新たに犯罪者が投獄されることもなかった。
それは当然のことではあった。アクメリンは街並みの規模さえ知らないが、フィションクの都市と大差なければ、住民の数は三千から五千くらいだろうと思っている。一年の間には百人に一人が処罰されるほどの罪を犯すとしても、街全体で五十人。摘発と同時に処罰される者が多いから、投獄されて厳しく尋問されるのは、年に十人もいるかどうか。それよりは、すでにアクメリンも目撃したように――権力者の意に従わぬ者に無実の罪を着せて拷問に掛けると脅し(あるいは実行し)て屈服させるといった例のほうが多いのではないだろうか。とは、男爵令嬢あるいは王女付きの侍女であった頃には想像もできなかった現実……なのだろう。
翌日もゼメキンスは牢獄に姿を見せず、したがってアクメリンは(十字架を背負わされて追い立てられたり立木に縛りつけられて夜を過ごすよりは)安逸に一日を過ごせた。
そうなると、さまざまに己れの未来を予測して、発狂の寸前に追い込まれる。十の未来を思い描けば、その内の七は焚刑。一は罪一等を減じられて磔刑か斬首。あるいは拷問で責め殺されるか、道中で力尽きて野垂れ死にか。一年後いや半年後に、穏やかな暮らしなどと贅沢は言わない――どんなに悲惨な境遇であれ、生きている自身の姿を、アクメリンは想像できないのだった。
それにしても――と、アクメリンは疑問に思う。こんな地に何日も滞在して、ゼメキンスは何をしているのだろう。牢獄を借りて、私を拷問するというのなら、まだ分かる。それとも、前に言っていたように、厳しい拷問に耐えられるまで身体が恢復するのを待っているのだろうか。けれど、こんな辺境の地よりも総本山のお膝元にこそ、恐ろしい拷問器具が揃っているのではないだろうか。と、それを考えると、暗黒へ果てしなく墜ちていくような恐怖を感じる。
この地に長く留まるほどアクメリンの命は長らえるのだが、しかし、それだけ恐怖も募ってくる。
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予定では、焼鏝は『拷虐の四:異教徒問』で出すはずでしたが、なにせキャゴッテ・ゼメキンス枢機卿猊下であらせられるので、早々と。いえ、第四章でも再度やりますけど。
なお、マライボでは四日目も全休。五日目と七日目に、こんな形(上の画像)の引き回しと、刑場での晒し者。晒すだけでなく、腐った卵とか投げつけ放題。
ヒロインは、まだまだ悦虐どころか、膣性感にも目覚めていません。その開発は、第三章以降のお愉しみということで。
ちなみに。”iron brand woman kinky”とかで検索しても、リアル画像は無いですね。真似事はありますが。
それよりも、多数サイトで「タトゥ」として紹介されているこちらのほうが、よっぽどソソラ、レロレル、バニーガールのストリップ意味不明です。

お気に入りの写真(特訓1)
スポーツにおけるエロを取り上げたからには、避けて通ることができないのが特訓です。
特訓とは「特別に厳しくする訓練」のことだそうですが、ここで取り上げるのは「特別にエロイ訓練」です。「重いコンダラー」も股縄で引けば「お股コンダラー」です。
この特訓には二つのバリエーションがあります。すなわち全裸と下脱ぎです。

下脱ぎには風情がありますが、濠門長恭クンとしては全裸推奨です。
しかし、上脱ぎとなると――これは現実にもありそうです(かしら?)。昔は、こういうのも有りでした。

これは乾布摩擦ですが。このまま耐久走とか男女混合相撲大会とか。妄想の自由です。
こちらは、まあAVですが。

手を後ろで組んでいるのを見ると、やはり緊縛を連想します。

泳ぐのは、もともと裸に近い格好ですから、縄が登場しないと妄想になりません。超過激水着は、別記事ですね。
緊縛で泳がすというのは、羞恥ではなく肉体的な責め即ち水責めです。

呼吸ができるのは、一人だけ。相手を思いやって早めに自発的に潜水するか。たがいに争うか。人間ドラマです。
このシチュエーションは、何回か書いています。けど、まあ。今回は自作の紹介をやめておきます。長編を書く合間の仕込み原稿なので、手抜きです。
肉体的な責めの特訓となると、冬=雪も欠かせません。
それも含めて、あれこれ御紹介。


ざっと(特訓なだけに)駆け足でコメント不足の記事になりました。
DLsite Affiliate キーワードは「裸 特訓」です。
特訓とは「特別に厳しくする訓練」のことだそうですが、ここで取り上げるのは「特別にエロイ訓練」です。「重いコンダラー」も股縄で引けば「お股コンダラー」です。
この特訓には二つのバリエーションがあります。すなわち全裸と下脱ぎです。

下脱ぎには風情がありますが、濠門長恭クンとしては全裸推奨です。
しかし、上脱ぎとなると――これは現実にもありそうです(かしら?)。昔は、こういうのも有りでした。

これは乾布摩擦ですが。このまま耐久走とか男女混合相撲大会とか。妄想の自由です。
こちらは、まあAVですが。

手を後ろで組んでいるのを見ると、やはり緊縛を連想します。

泳ぐのは、もともと裸に近い格好ですから、縄が登場しないと妄想になりません。超過激水着は、別記事ですね。
緊縛で泳がすというのは、羞恥ではなく肉体的な責め即ち水責めです。

呼吸ができるのは、一人だけ。相手を思いやって早めに自発的に潜水するか。たがいに争うか。人間ドラマです。
このシチュエーションは、何回か書いています。けど、まあ。今回は自作の紹介をやめておきます。長編を書く合間の仕込み原稿なので、手抜きです。
肉体的な責めの特訓となると、冬=雪も欠かせません。
それも含めて、あれこれ御紹介。


ざっと(特訓なだけに)駆け足でコメント不足の記事になりました。
DLsite Affiliate キーワードは「裸 特訓」です。
Progress Report 4:生贄王女と簒奪侍女
Progress Report 0 →
Progress Report 3 →
さて。『檻の中の野生児』を仕上げて、ノクターンノベルス連載も1話進めて、『女神様と王女様といとこの(下)僕』の5月発売準備も終わって、本作の前編も発売されて。
いよいよ、後編です。実際は3月末から書いていますけど。
前編で、エクスターシャ王女がアレコレされて、海のもずくにならずに帰りついて……のあたり、後編のヒロインはぼけら~と時を過ごしていたのです。そして。
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拷虐の一:磔架輓曳
退屈な日々が過ぎていった。あれ以来、エクスターシャは二度と訪れなかったが、提督は週に一度くらいは来て、三人の侍女の動静を――きわめて婉曲的に教えてくれた。
エクスターシャは、最初の宴の夜にひと悶着を起こしたけれど、すぐに男たちと『仲直り』をして、二度と騒ぎを起こすことはなかった。指輪も、提督を通じて返してくれている。もはや不要と思ったのだろう。イレッテとミァーナは、積極的に男たちと『親睦』を深め、身代金が払われようともアルイェットに定住するつもりになりかけている。提督とても、船を襲い財宝を奪い王女たちを誘拐した海賊の仲間どころか頭目なのだから、不都合なことは言わないだろうとは、アクメリンにも分かっている。経済的な困窮の意味も多少は知り、庶民の事情もいくらかは見聞し、三年だけでも年上であれば、エクスターシャよりはよほど、物事の裏を見抜くこともできると己惚れているアクメリンだが、この先に大きな陥穽は無いと楽観していた。
肝心の解放については。正使のクレジワルド伯爵はメスマンへ向けて解き放ち、副使のヤックナン男爵はフィションクへ向かわせたと、提督から聞いた。フィションクから身代金が届くとしても、それにはまだ日数を要するだろう。即座に身代金を用立てて最短経路を辿れるなら、往復でせいぜい二週間だが、リャンクシーとタンコシタンの勢力圏を迂回すると、ひと月は要する。身代金の額によっては、大急ぎで綸旨税を徴収する必要もあるだろう。一方、メスマンの首都であるアリエザラムまでは、アルイェットから海路で三日と陸路を二日。たとえ王女と侍女を合わせて四人分の金塊でも、メスマンにとってはたわわな林檎の木から一つ二つをもぎ取るくらいの負担ではなかろうか。それがまだ届かない。所詮はメスマンにとって、王女はいささか珍しい奴隷としか見られていないということだろうか。
――捕らわれて三週間も過ぎた頃。
フィションクからでもメスマンからでもない、迎えの一団がアルイェットを訪れた。襲ったというべきであろうか。
「フィションク準王国の第二王女、エクスターシャ・コモニレル。フィションク国王の背教容疑について問い質したき事あるによって、証人としてデチカンへの出頭を命じる」
きらびやかな法服を纏った痩せぎすの男は、みずからを枢機卿キャゴッテ・ゼメキンスと名乗った上で、そのように告げた。背後には部下とおぼしき二人の修道僧、さらに後ろには十人の護衛兵。それだけでも物々し過ぎるのに、枢機卿の隣には、提督に次ぐアルイェットの顔役ともいうべき熊男――パイオーツ号船長のヒゲン・モテワッコまでが、長剣こそ帯びていないが、きちんと襯衣を着た上に、洋上で見たときと同じ外套を羽織って、苦虫を噛み潰して呑み込んだような顔で並んでいる。
迂闊だったと、アクメリンはほぞを噛んだ。海賊にまで同盟の秘密が漏れているのであれば、西方社会の隅々にまで教会を配している教皇庁の耳に届かぬはずもなかろう。さっさとメスマンへ入っていればともかく、東西の接点ともいうべき港町で二十日の余も足止めされていれば、デチカンの追求が及ばないはずもないのだった。
どのように処すべきかと、アクメリンは焦燥と不安の中で考えを巡らす。
おとなしく連行されるか。
自分はエクスターシャではなく侍女のアクメリンだと暴露するか。しかし、そうすると。エクスターシャは連れ去られ、身代金を持参した迎えの使者は、あわてて一行を追うだろう。そのとき、端女(はしため)ごときは足手まといになるだけ。仮にエクスターシャを奪い返して、改めてメスマンへ送り届けるためにアルイェットに引き返して来るとしても。それには日数が掛かる。
その間、侍女に過ぎないアクメリンを、海賊どもは放っておかないに決まっている。いや、自分たちを謀った小娘は存分に懲らしめてやれ、となるのではなかろうか。他の三人と違って、海賊たちの気性を文字通り肌身には感じていないアクメリンには、神の使徒よりは荒くれ男どものほうが、よほど怖かった。
それに。枢機卿は「証人として」と明言した。糾弾されるのはフィションク準王国、ひいては国王である。王女は、国王の背教に巻き込まれた犠牲者――とは、アクメリンの身勝手な理屈に過ぎないのだが。
この場で騒ぎを起こすよりは、自分がエクスターシャとして連行されるのが良いだろうと、アクメリンは決断した。エクスターシャ姫は、幼馴染でもある私を、決して見捨てないだろう。提督と談判して、私を取り戻す手を打ってくれるのではなかろうか。そのためにも、ここは穏便に事を運んだほうが良策というものだろう。
アクメリンの理屈は、すべての物事が自分に都合良く運ぶだろうという希望に基づいていたし、それにしても、あちこちに論理の破綻があるのだが――決断を先延ばしにしたいという優柔不断の典型ではあった。アクメリンにしてみれば、王女とすり替わった、その一大決心が人生のすべてを賭けた決断であり、続けざまの二度目など彼女の器量をはるかに超えていたのも確かではあった。
アクメリンは、身の回りの品々をまとめるわずかな時間を猶予されて後、枢機卿とともに迎えの馬車に乗り込んだ。
こうして――異教徒への生贄にされた王女とその地位を簒奪した侍女の、淫虐と拷虐への門が開かれ、犠牲者がくぐった後は、後戻り叶わぬよう、固く閉ざされたのだった。
アクメリンが馬車に乗っていられたのは一時間にも満たなかった。港町アルイェットのある半島と大陸とをつなぐ細い道を通り過ぎ、関門を固める守備隊も林の向こうに隠れた草原で、三台の馬車と二十騎の護衛兵が停止――する前に、アクメリンは馬車から蹴り落とされた。
「いつまで姫君を気取っておる。ここな背教者めが。売女にふさわしい姿にしてくれるわ」
草原に倒れ伏して、あまりの豹変に怯えるしか知らないアクメリンを、後ろの馬車から降りた二人の修道僧が引き起こし、羽交い締めにして衣服を脱がせに掛かる。
もしも彼女が真正のエクスターシャ王女であったなら。お坊様も所詮は男なのね――と、衣服を破られないようにみずからも身体を動かして協力するか、いっそ手を振り払って衣服を脱ぎ捨てたか。それとも、海賊に捕らわれる前の姫君であったなら、たとえ羽交い締めにされていようとも、眼前の無礼者に平手打ちくらいは与えていただろう。
しかしアクメリンは、いたずらに身をもがくばかりで、かえって男の狂暴を引き出してしまい――下着に至るまで頭陀襤褸に引き裂かれた。さらには、靴も靴下も奪われて、文字通り一糸纏わぬすがたにされてしまった。女の徴(しるし)を見て三年に満たぬエクスターシャに比べれば無花果と桃ほどにも違うたわわな乳房も、真夏の草原の夕暮れにも似た濃密な亜麻色の叢も、すべてが白日の下に曝される。
二人の修道僧はアクメリンの裸身を弄んだりはせずに放り出して、馬車の屋根から材木を降ろし、縄で縛り合わせ鎹を打ちつけ、人の背丈の五割増しほどの大きな十字架を組み上げた。両手で胸を隠してうずくまっているアクメリンの背中に十字架を載せ、両手を引き広げて横木に縛りつけた。さらに、胸と腰を縦木に縛りつける。ことに胸は――乳房の上下に縄を巻いて、余った縄尻で脇の下と胸の谷間を縦に縛って乳房を縊り出すという、女をいっそう辱しめ不要の苦痛を与える残虐の対象にされた。
腰を縛った縄尻は不必要なほどに余っている。その中程を握って、ゼメキンスがアクメリンの尻を叩いた。
「立て、売女」
その名前はエクスターシャにこそふさわしい。さっきはその微力な救いの手さえ期待していたというのに、海賊どもに従容と嬲られているエクスターシャへの蔑視は、未だアクメリンの裡にあった。
「立たぬか!」
びしいっと、再び尻を縄で打たれた。再びではない。先ほどのは追い鞭であり、今度は懲罰の鞭だった。
「違います!」
計算も後々の展開も考慮せず、アクメリンは訴えた。
「私はエクスターシャ王女ではありません。侍女長のアクメリン・リョナルデです。海賊の目を欺くために、入れ替わっていたのです」
ゼメキンスは振り上げていた手をいったんは止めたが、しばらく考えた後に、渾身の力でアクメリンの裸身を鞭打った。
「きゃああっ……!」
「おまえが侍女であるなら、共犯者となろう。裁きによっては微罪で済むかも知れぬが、罪人に変わりはない。立て。立って、罪を引きずって歩け」
「共犯などと……私は、ただ、国王と父に命令されて、やむなく王女殿下に仕えていただけです」
「申し開きは取調べの場で述べよ。目的の街へ着かねば、取調べも出来ぬぞ」
恐怖と痛みとに咽び泣きながら、十字架の重みを背負って、アクメリンは蹌踉と立ち上がった。そこへ、下から掬い上げるように、縄が乳房を打った。
「痛いいっ……!」
ふたたびアクメリンは、がくりと膝を突いた。背中に脇腹に容赦なく縄が叩きつけられる。
「お願い……もう、叩かないでください」
ゼメキンスは無言で縄を振るい続ける。肉を打つ湿った音が、真夏の青空へ吸い込まれていった。
ようやくアクメリンが立ち上がったときには、白い裸身の至るところに赤く太い線条が刻まれていた。
アクメリンが歩き始めても、縄の鞭は止まらない。しかし、その間隔は間延びして、音も格段に軽くはなった。
ゼメキンスは罪人を追い立てながら修道僧のひとりを呼び寄せ、何事かを命じた。その修道僧は護衛兵の長に命令して――五騎の兵と共に街の方角へ走り去った。事実が侍女と称する女の申し立てる通りなら、当然に本物の王女を捕らえるためだった。
その間もアクメリンは、縄に追われて街とは反対の方角へ、荒野の彼方に向かって歩かされている。しかし、その歩みは常人の徒歩よりもはるかに遅い。十字架の重さもあるが、その先端が地面を引きずっているせいだった。背中を起こすこともできず、前へ転びそうになるのは、引きずっている十字架の重みで釣り合いが取れている。
護衛の兵たちも馬を降りて、若い娘が全裸の羞恥に悶えながら、縄で鞭打たれて、よたよたと十字架を引きずるのを、飽くことなく見物している。若い兵にいたっては、アクメリンと同様、前屈みになって歩いている。
暑い真夏の日射しを浴びて、アクメリンの全身に吹き出る汗は、すぐに乾いて白い塩の粉となる。さながらキャゴットは、その塩を縄ではたき落とす仕事をしているようでもあった。
一時間と歩かぬうちに、アクメリンは参ってしまった。
「お願いです。すこしの間でいいですから、休ませてください。この十字架を下ろさせてください」
返答は、無言のしたたたかな縄鞭だった。
「きひいい……」
掠れた声でか細い悲鳴を上げ――アクメリンは弱々しく足を運ぶ。王女の身の回りの世話をして、ときには王女に代わって重たい荷物(といっても、せいぜいは分厚い書籍や花を活けた花瓶だが)を運ぶとはいえ、淑女である。自身の体重の半分よりも重たい荷物を背負って素足で荒れ地を歩くなど、目も眩むような重労働だった。
三十分ほどもすると、またもやのろい足取りさえ滞りがちになる。
「水を……せめて、水を飲ませてください」
真夏の炎天下で肌を焼かれえながら歩けば、体内の水分は急速に失われていく。縄鞭が怖くて我慢をしていたけれど、息をしても喉に貼り付くほどになっている。
「ふむ。罪人とはいえ、いささかは慈悲を垂れてやらねばな」
まさか叶えられるとは思っていなかっただけに、アクメリンは加虐者に感謝の念さえ抱いた。
二人の修道僧が十字架を裏返しにして、アクメリンを仰向けに寝かせた。顔の横にゼメキンスが立った。法服の前をくつろげて、魔羅をひり出す。
(…………?!)
乙女とはいえ、アクメリンも殿方の淫部を見たことくらいはある。しかし、立小便姿を遠目に指の間から垣間見るのとは違い、真直に見上げるそれは、男の顔をすっぽり隠してしまうほどにも巨大に、そして醜悪に見えた。
「口を開けろ。水を飲ませてやる」
アクメリンは、逆に口を堅く閉じて顔をそむけた。この状況では、男の悪意を勘違いしようもない。
ゼメキンスは無言で放水を始めた。筒を持って、正確に口元に水流が当たるようにする。
「んぷ……!」
飛沫を避けて目も閉じる。
じょろろろろ……耳の中にまで小便を注がれて、あわてて顔を振ればもろに唇に当たる。
アクメリンは目も口も閉じ、息を詰めて――どうにか、小便を飲まずに済ませた。のは、一時の気休めでしかなかった。
「うまく飲めぬようだな。おまえたちも、たんと飲ませてやれ」
おまえたちとは、ゼメキンスに付き従う修道僧と、十五人の兵士たちのことである。
修道僧の指図で、二人の兵士がアクメリンの顔の両側に立った。これでは、どちらへ顔をそむけても、無論正面を向いても、放水が口元を直撃する。
「肌が破れて血を流しておる。皆で洗ってやれ」
さらに二人の兵士がアクメリンを挟んで腰のあたりに立つ。残りの兵士どもは、アクメリンを囲む四人の後ろに並んだ。
四人ずつがアクメリンに尿を浴びせる。十字架に向かって放水するとは畏れ多いと萎縮する兵もいたが。
「穢れた女を清めるのだ。汝らの放つ水は、聖水も同然なるぞ」
屁理屈にすらなっていないが、基督者の中で教皇に次ぐ高位にある枢機卿の御言葉を疑う不信心者など居なかった。
アクメリンはアクメリンで。重荷を背負わされ縄鞭で荒野を追い立てられながら、次第に膨らんできた疑念と恐怖とが、その言葉ではっきりと裏付けられた。それは――王女は『証人』としてデチカンへ招請されたのではない。まさしく背教者、焚刑で清められるべき重罪人として連行されているのだ。
「まだ飲まぬのか。強情者め」
ゼメキンスがあたりを見回して。
「腹を踏めば履物が汚れる。あれを使え」
路傍に転がっている大きな石を指差した。それだけで修道僧は意図を察して。両手で石を持ち上げて――腰の高さから、アクメリンの腹の上に落とした。
「あぐっ……」
たまらず呻いて半開きになった口に尿が注ぎ込まれる。
「ら゙ら゙ら゙……」
吐き出そうとした息が、うがいのような音になった。そして、幾分かは喉を通してしまった。
「げふっ……ら゙ら゙ら゙……」
おぞましさに悶えながら、それでもわずかに渇きが癒されて……アクメリンは無意識裡に口中の水分を嚥下していた。生温かく微かにしょっぱくえぐい味だが、干天の慈雨でもあった。
アクメリンが口を開けて小便を受け入れる様を見て、兵士たちがげらげら嗤う。
髪までぐしょ濡れになったアクメリンを十字架の上に放置して、一行は三十分ほどの休止を取った。その間にアクメリンの裸身は天日で乾いたのだが、どうにも肌が突っ張るように感じられたのは、縄鞭に打たれた名残の疼きなのか、実際に小便の影響なのか。
そんなことは、荒野の引き回しが再開されれば、気に留めるに値しない瑣末事だった。アクメリンの足取りは、いよいよ重くなって。これ以上は追い立てても無駄とゼメキンスは判断した――のか、デチカンまでの長い道程の初日から痛めつけ過ぎては、差し障りがあると考えたのか。赤ん坊が四つん這いで進むよりも遅く歩むアクメリンに与える縄鞭は、せいぜい十歩に一度、それもかなりに手加減していた。
とはいえ。屋外で大勢の男に裸身を晒すことも、縄で縛られることも、あまつさえ鞭打たれて追われることも、何もかもが即座に失神しても不思議ではない恥辱であることに変わりはない。この先、自分はどうなるのかという不安さえ、漠然として形が定まらなかった。
やがて――休止の後に二時間も歩かされた頃、小さな川に差し掛かった。橋は見当たらない。轍の跡が川の中へ消えているところを見ると、徒渉(かち)で渡るのだろう。
一行は川の手前で止まると、荷馬車から荷物を卸して天幕を張り始めた。夕暮れには間があるというのに、野営の準備だった。
ようやくに、アクメリンは十字架から解き放たれた。が、それは次の残虐を与える手続きに過ぎなかった。アクメリンは、縄ではなく太い鎖で後ろ手に縛られ、脚も逆海老に折り曲げられて手首につながれた。
「この娘は背教者であるから、当然に魔女の嫌疑もある。それを、この機会に確かめておく」
魔女は水に浮くと謂われており、このように重たい鎖で縛ってさえ沈まない。自分が司祭だった頃に、この手法で魔女の正体を暴いたこともあると、ゼメキンスは得意気に説明した。
「そんときゃ、重たい鉄の箱に縛りつけたんじゃないですか、ゼメキンス猊下」
肘から先を軽く上げて尋ねた兵士は、他の者と変わりない服装をしているが、腰に吊るした短剣には装飾を施し、手には指揮杖を握っている。
「ほお、よく分かったな――レオ・モサッド隊長」
ふたりは名前を呼び合うことで身分を超えて、少なくとも兵の前では大っぴらに語れぬ昏い部分を認め合い、同時にモサッドはゼメキンスに一目置かせたのだ。千年より昔のアルキメデスは忘れ去られ、甲鉄船など存在しない世界では、鉄の箱が水に浮かぶなど、無学な庶民には神の奇跡か悪魔の呪いとしか思えないのだ。
それはさておき。二人の兵士に抱え上げられ川の真ん中へ運ばれても、アクメリンは、これから水中に放り込まれるという恐怖どころではなかった。というのも。水に濡れるのを嫌って裸足になり下半身まで露出した兵士は、ことさらに逸物をアクメリンの肌に擦りつけ、肩を持ったほうの男などは顔をそむけるのを腕で阻んでおいて、亀頭を唇におしつけるなどという荒業にまで及んだ。
アクメリンは初めて、男のその部分が巨大化するという事実を知った。その驚きとおぞましさが、心の大半を占めていた。だから、不意に宙へ放り出されて。
「きゃああっ……?!」
ざぶんという水音の後は悲鳴が泡に変じて。無用心に息を吸い込み、鼻の奥に焼けるような痛みを感じて……狼狽して息を吐き、反動で大量の水を呑んでしまった。
川面に浮かぶ泡の様子で溺れ死なす危険を感じたのだろう、アクメリンはすぐに引き上げられた。
「げふっ、ゔえ゙え゙……」
水を吐き、肩も腹も波打たせて息を貪るアクメリン。
その息が治まるのを待って、ゼメキンスが温情あふれる(?)非情を命じた。
「つぎは、息を止められるように合図をしてやれ」
「それじゃ、いくぜ。せーえのお」
身体を大きく振られて、アクメリンが叫ぶ。
「待ってください!」
兵士が手を止めた。
「ほんとうに、私は王女殿下ではありません。それに、王女殿下は証人だとおっしゃったではありませんか。背教者とか魔女とか、話が違います」
事を荒立てずに王女をアルイェットから連れ出す詐術だったろうと、見当はついていた。身代金など払わずに身柄をかっさらうのだ。西方社会全体を後ろ楯に持つ教会の権威とはいえ、その場で対立すれば、守備兵と海賊と合わせて六百人に対して、わずかに二十騎。逮捕連行よりは証人喚問のほうが、無難だろう。
「そうとも。おまえが王女であろうと侍女であろうと、大切な証人だ。教皇聖下とデチカン市民の前で、フィションクの反逆を証言して、それから裁きを受けて罪を贖うのだ」
聖職者であるわしが虚言を弄するはずもなかろうと、嗜虐をいけしゃあしゃあで上塗りするゼメキンス。
「溺れ死んで魔女でないと証明できれば、いささかは罪も軽くなろう」
兵士に命じて、アクメリンを水中に投じさせる。
今度はアクメリンも息を止めていたので――長く苦しむ結果になった。身体を水に浸して洗う習慣さえも、無いに等しい。顔まで水中に没するのは、それだけで恐慌をもたらす。しかも縛られていて、自分では脱せられない。いっそ息を吐き出してしまえば、さっきみたいに引き上げてもらえはしないだろうか。けれど、猊下は溺れ死ねと言われなかっただろうか。試してみるなど、とんでもない。
などと考えを空回りさせているうちにも息が苦しくなって、見上げる水面の煌めきがすうっと暗くなっていき、頭が激しい痛みに襲われて――結局は大量の泡を吐いて水を吸い込んでしまい、意識を失って後に、おそらく断末魔の痙攣をが起きるのを待って、ぎりぎりを引き上げられたのだろう。
背中に強い衝撃を受け手て、アクメリンは意識を取り戻した。
「あ……」
足を投げ出して座っている自分に気づいた。もう、鎖で縛られてはいない。けれど、両腕を強く後ろへ引っ張られて……どんっと、また背中に衝撃があった。
「げふっ……うえええ」
喉から大きなしゃっくりが飛び出して、その後に嘔吐が続いた。激しく水を吐いて、息を貪って。
両側から腋の下に腕を入れて引きずられて、大きな樹を背中にして立たされた。手首に縄が巻かれ、樹を背中に抱く形に縛りつけられた。足を開かされて、同じように縛られる。腰にも縄が巻かれて、兵士が手を放しても立った姿のままになった。
その頃になって、ようやくアクメリンは人心地を(かろうじて)取り戻していた。つぎは何をされるのかと怯える。赦しを乞う無意味さを、早くも悟っていた。
兵士たちは全裸の娘を無視する態を装いながら(そうでないのは、目の動きで分かった)、夕食の準備を始めた。武具の手入れをする者もいれば、川縁へ行き上半身を裸になって汗を拭う者もいた。
(なんと淫らな……)
たとえ人目に触れなくても神様が御覧になっている。たとえ身体の汚れを取るためであっても、裸体になることには禁忌の念がつきまとう。それを、この兵士たちは野外で大勢の目に平然と衣服を――そこまで考えて、アクメリンは、おのれがどのような姿にされているかを思い出して、あらためて羞恥に悶えた。と同時に、わずか半日で荒野の最果てまで追い立てられたのだと、思い知った。これからは、これまでの一切の常識が通用しないのだろう。
やがて食事の仕度が調い、兵士たちがてんでに食べ始める。
溺れ死ぬ寸前まで追い込まれて、皮肉なことに喉の渇きは去っていた。そうなると、たとえ生まれて初めての重労働で疲労困憊の極にあっても、旨そうな匂いを嗅げば空腹を意識する。物欲しげに兵士たちの食事を眺めていたつもりはなかったのだが、あるいはそうだったのかもしれない。
ゼメキンスが、炙り肉を刺した木の枝を片手に、アクメリンの前に立った。
「明日は、もっときついぞ。たっぷり食って力を取り戻しておけ」
炙り肉をアクメリンの口元すれすれに近づける。
他人の手から食べ物を口に入れてもらうなど、この十年、いや十五年に渡ってなかったことである。しかも相手は近しい人どころか、彼女を虐待している張本人だ。
アクメリンは迷って、しかし芳醇な肉と香辛料の匂いに鼻をくすぐられて、空腹には勝てなかった。食べておかなければ、ほんとうに倒れてしまうでしょうと、みずからに言い訳をしながら、口を遠慮がちに開けて肉をかじろうとする――と、ゼメキンスはついと手を引っ込めた。
ゼメキンスは肉を大きくかじり取って、くちゃくちゃと音を立てて咀嚼しながら。片手をゆっくりと伸ばして、樹に縛りつけられて身もがきもままならぬアクメリンに意図を悟らせながら、乳房をわしづかみにした。
「ん……」
顔を近づけて、接吻をする形になる。
「……?!」
アクメリンは顔をそむけたが。いつの間にか樹の後ろへ回り込んでいた修道僧が、顎をつかんで正面を向かせる。
「んんんっ……?!」
アクメリンは生まれて初めての(父母や兄も含めて)唇への接吻を奪われただけでなく――不用意に薄く開けていた口の中に、咀嚼され唾にまみれた、汚物としか感じられない肉を押し込まれた。
ゼメキンスが顔を離すと、アクメリンは直ちに汚物を吐き出した。
「この罰当たりが!」
ばしん!
顔が真横を向いたほどの痛烈な平手打ち。
「枢機卿である余が聖別した食べ物を吐き出すとは何事ぞ。やはり、おまえは魔女なのか。それなら、相応に扱ってくれるぞ」
とっくに、そのように扱われている。そうは思ったものの。魔女に待っているのは焚刑だ。その前に、凄まじい拷問に掛けられて余罪をことごとく自白させられるという。海賊どもに犯されるだろうと分かっていながら、エクスターシャを騙してすり替わったのも罪には違いないし、指輪を与えて偽りの安心を抱かせたのも罪だ。自分が侍女にしか過ぎないと分かってもらっても、魔女だと決めつけられれば、この旅路の果てに待っているのは拷問と業火だ。
ゼメキンスが、残りの肉を頬張った。わざと口を開けて、咀嚼する様を存分に見せつけてから、再び顔を寄せてくる。
アクメリンは観念して口を開け、その代わりとでもいうように目を固く閉じた。口をふさがれ、生温かい汚物を押し込まれて――吐き気をこらえ、息を詰めて嚥下した。口中に肉の濃厚な美味が残ったのが、むしろ惨めさを強調する。しかし、わずかでも食べ物を口にして、吐き気を凌駕して空腹が募った。枢機卿に替わって修道僧から口移しに咀嚼物を与えられても、もはやアクメリンは拒まなかった。いや、すぐには嚥下せず、みずからも咀嚼して肉の味を堪能したのだった。
肉だけではなく麺包も水も同じように与えられて――アクメリンは屈辱の夕餉を終えたのだった。
そうして、新たな恥辱に直面する。
重荷を背負わされて炎天下を歩かされ、摂取したわずかな水分の何倍もが汗で失われている。しかし、真夏とはいえ夜は冷える。飲まずとも尿は溜まる。
「お願いです」
アクメリンから二十歩と離れていないところで、わざわざ焚火を半円に囲んでいる七八人の兵士に向かって訴えた。
「ほんのしばらくだけでいいですから、縄を解いてください」
「枢機卿猊下のお指図がなけりゃ、おめえに手は出せねえんだよ」
「チンポもだぜ」
兵士どもが卑猥に嗤う。
半畳は無視して、アクメリンは食い下がる。
「では、お取り次ぎを」
「いったい、何をしたいんだよ。子供の使いじゃねえんだ。行ったり来たりはご免だぜ」
「…………」
アクメリンは唇を噛んだ。が、羞恥に逡巡した末の訴えだった。もはや切迫している。
「……お花を摘みに行きたいのです」
註記:この婉曲表現は、近年になって女性も登山をするようになってから日本で生まれたという説があるが、筆者はこれを採らない。入浴ですら忌避した当時の西欧人は、昭和のアイドルの如くウンチやオシ.コなどしませんといった態を装い、ために便所などを家屋に設けることはなかった。この物語より後年の話にはなるが、かの壮麗なるベルサイユ宮殿なども、花畑は悪臭ふんぷんたるものであったという。
「花遊びなんかしてる場合かよ」
「さすがは王女様であらせらろるぜ」
焚火の炎が揺れるほどの爆笑。
この者たちは分かっていると、アクメリンは確信した。分かっていて、羞ずかしい言葉を言わせようとしている。今もって心臓が拍ち続けているのが不思議なほどの恥辱を浮けているというのに、今さら、これしきのことを羞ずかしがっても詮のないことだ――と、絶望を交えておのれを叱咤する。
「おし.こをしたいのです」
アクメリンは、知る限りのもっとも卑属な言葉を口にした。言い終えたその口から嗚咽が漏れる。さんざんに虐げられ辱しめられて悲鳴を叫び涙を流しても、こんなふうに弱々しく咽び泣きはしなかったのに。
女の、ことに若い娘の涙に男が弱いのは、洋の東西も時代も問わない。
「分かった、分かった。枢機卿猊下にお願いしてきてやるよ」
兵士のひとりが立ち上がって、馬車の近くに張られた天幕へと向かった。すぐに戻って来たが、その表情から娘への憐愍は消えていた。
「猊下が仰せのことにゃあ、庭園には花だけでなく噴水も付き物だってよ」
アクメリンだけでなく兵士どもも、怪訝な顔になったが。
「つまり、おめえが噴水台になれとさ」
一拍を置いて、遠慮がちな嗤いが起きた。
「へっへっへえ。王女様の立ち小便か。さぞや見事な噴水を拝めるだろうぜ」
先ほどの陽気な嘲笑とは違って、淫湿にくぐもっている。
放水を他人に見られるなど、裸体とは比べものにならない恥辱である。いずれは決壊すると分かっていても、必死に堪えるしか、為す術を知らないアクメリンだった。
さらに少しばかり時が過ぎて。すっかり夜の帳(とばり)が下りた荒野に蹄の音が近づいて来て。枢機卿が天幕から姿を現わすと、アルイェットへ派遣した修道僧をアクメリンの前で出迎えた。
「エクスターシャ王女の侍女頭は、確かにアクメリン・リョナルデという娘です」
では、申し立ては信じてもらえるのだと、エクスターシャへの後ろめたさを感じながらも安堵したアクメリンだったが。
「しかし、今はアルイェットに居りません」
まさか、騒ぎを知って、幼馴染である私を見捨てて逃げたのでしょうか――と、逆恨みするアクメリンだったが。
「一昨日の大嵐を突いて大頭目が出帆したそうですが、彼の娘は人身御供として連れて行かれたとのことです」
「海の怪物への生贄か。迷信深い連中は度しがたいわい」
アクメリンは呆然自失。海の藻屑となられては、身の証の立てようがない。
うおおおおっと、さすがに枢機卿の御前だけに控え目な喚声が湧いた。上から下へと迸る噴水が、ついに出現したのだった。
絶望のどん底で、アクメリンは羞恥に悶えるどころではない――とは、救いにはならないであろう。
「ふん、したたかな魔女であるな」
言葉の綾か、本気でアクメリンを魔女に仕立てるつもりか、ゼメキンスが吐き捨てた。
「死者に罪を押しつけようとてか。そのような詐術に誑かされはせぬぞ」
気が遠くなりかけているアクメリンは、その言葉を否定しなかった。ゼメキンスにしてみれば、罪を認めたも同然だった。
「侍女が死のうが生きようが、知ったことではない。ここに王女が捕らわれており、その身分を明かす品々も揃っておるわ」
連行(すでに、そんな生易しい扱いではなくなっているが)とはいえ名目は証人喚問であったから、身の回り品を携えることは許されていた。当然にアクメリンは、額冠と首飾と指輪とを身に着けていた。着衣は襤褸屑にされたが、それらの品はゼメキンスの手に渡っている。
ゼメキンスは、しばらくアクメリンの傷ついた裸身を眺めていたが。
「こやつを歩かせておっては、マライボまで一週間は掛かろう。明日は、ちと工夫してみるか」
工夫も何も、馬車に乗せるか、辱しめを与えるなら裸身に縄を打って馬の背に縛りつければ済むものを――とは、傍らでゼメキンスの独白を耳にした兵士たちの感想ではあった。
アクメリンは樹に縛りつけられて、立ったままの一夜を強いられた。極度の疲労がアクメリンを底無し沼のような眠りに引きずり込み、恐怖と不安とがアクメリンを地獄のような現実へ引き戻す。狼の遠吠えなどよりは、野営地の四隅に配された立哨兵のおぼろな影のほうが、よほど恐ろしかった。
夜が明けるとすぐに、ゼメキンスが様子を伺いに現われた。
「花を摘みたいとか言うておったが、肥料を施す優しさは持ち合わせておらぬようじゃな」
人糞が肥料に使われるとは知らない貴族令嬢には、言葉の意味が分からなかった。
それはともかく。朝食も、夕餉と同じ作法を強いられた。ただし今度は枢機卿おんみずからでも修道僧からでもなく、モサド隊長を筆頭に十五人の兵士どもが入れ替わり立ち替わりだった。ひと口ごとに、乳房を揉みしだかれ尻をつかまれ股間を撫でられた。ゼメキンスほどに強く乳房を握り潰す者はいなかったし、なによりも指挿れは厳重に禁止されていたのが、せめてもの慰め――などとアクメリンが思うはずもなかった。
朝食が終わると、速やかに進発の準備が調えられた。焚火の跡始末と天幕の収納、そしてアクメリンの十字架への磔である。
その磔は、前日とは趣を異にしていた。手首にだけ縄を巻いて手の幅ほどの長さを余して横木に結びつける。胸は縛らず、腰と縦木も緩くつなぐだけ。そして、三角柱に削られた杭が、縦木へ股間すれすれに打ち込まれた。十字架の上にアクメリンを仰臥させたまま、左右の足首それぞれに長い縄が結ばれる。縄尻は兵士が乗る二頭の馬の鞍につながれた。
「昨日は歩き詰めのうえに、夜も立たせっぱなしで、余もいささか可哀想に思っておる。今日は寝たままで運んでやろう」
悪意を剥き出しにした猫撫で声に、アクメリンは何をされるか分からないままに戦慄する。
「先頭より順次、前へー進メッ」
槍を立てた二騎が露払いとなり、その後ろにアクメリンをつないだ二騎が歩き始めるとすぐに、アクメリンは我が身で悪意の正体を知ることとなった。アクメリンの両脚は左右に引き裂かれ斜め上へ引き上げられて、十字架の頭が地面を引きずる。
「痛いいいっ……!」
引っ張られているのは、アクメリンの裸身である。裸身が足を先にして前へ進むと三角の楔が股間に食い込み、十字架も引きずられる。手首や腰に負担が分散せぬように、そこの縄は緩められている。
「くううう……」
これまでに経験したことのない異様な痛みに、アクメリンの呻き声は絶えることがない。しかし悲鳴にまで至らないのは――三角柱の稜線が、赤ん坊の小指ほどには丸められているからだった。
この苦痛がどれほどのものであるかを現代の事物で想像するなら、女児が重たいランドセルを前後に抱えて、テニスコートのぴんと張ったワイヤーに跨がるのと同じくらい――であろうか。
しかし、十字架の頭部が地面の凸凹に当たる衝撃が加わるし、なにより自分の意思で下りることができない。
ぽっく、ぽっく、ぽっく、ぽっく……
ずりっ、ずりっ、ざんっ、ずりっ……
「くっ、くうう、ひいいっ、ひいい……」
切れ味の悪い鉈を繰り返し股間に打ちつけられているような苦痛が繰り返されるうちに、三角柱が食い込んでくる部位よりも奥のあたりに、微かだが妖しい疼きが灯った。これもまた、アクメリンの知らない感覚だった。
苦痛は、繰り返されるうちには少しずつ麻痺してくる。麻痺は言い過ぎとしても――冬が到来すれば、寒い寒いと思いながらも次第にそれを受け容れて日常を営むようなものであろうか。
しかし、腰の奥に生じた疼きは、そうではなかった。微かな疼きはすぐには消えず、むしろ新たな疼きが積み重なっていく。
「くうう……痛いのに? ああっ……んんん」
苦痛を訴える呻きに戸惑いが混じり、ついには艶がかってくる。
ゼメキンスを乗せた二頭立ての馬車は、十字架のすぐ後ろを進んでいる。枢機卿ともあろう御方が窓から身を乗り出して、神に背いた女が悶え苦しむ様を熱心に観察いや堪能している。そして、女囚(あるいは背教者もしくは魔女)の表情に苦悶とは異なる色が萌(きざ)したと見て取ると。
「隊長、駆足で進め」
モサドが号令を発して、馬が駆け始める。
ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……
「ぎひいいいっ……!」
アクメリンが悲鳴を上げる。
馬が人を乗せて休まずに歩き続けられる速さは、人間の小走りよりやや遅い。いわゆる:常歩(なみあし)である。これが速歩(はやあし)を超えて駆歩(かけあし)となると、常人の全力疾走に近い。当然、それだけ強く三角柱が股間に食い込んでくるし、地面から伝わる衝撃も激甚なものとなる。妖しい疼きなど消し飛んで、苦痛だけが十倍にもなる。
「ぎひいいいっ……やめ、あぐっ!」
赦しを願う叫びが、舌を噛んで途切れた。
「ひいいいいい……」
激しく頭を揺すられ打ちつけられて、目が回り意識も霞んでゆく。なのに、激痛だけは鮮明だった。
アクメリンにとってかろうじて救いだったのは、駆歩はせいぜい半時間しか続けられないという馬側の制約だった。馬に体力を使い果たさせると一日の行程に差し障るので、アクメリンが性的な快楽を覚えたことへの懲らしめは、その半分の時間で終わった。
それでも、アクメリンの股間は三角柱の木肌に擦られて肌が敗れ、血まみれになっていた。
こんな荒行を続けさせては、女を女にする以前に女でなくなる――などと考えたのかまでは分からないが、馬に休息を与える時間を使って、ゼメキンスは女の:運び方を変更した。
縄をたるまさず手首を横木に緊縛して二の腕も縛り、脚は閉じさせて足首と太腿を縦木に個縛する。全体に身体がずり上がって、三角柱の杭は股間から離れた。さらに腰も十字架にきつく縛りつける。胸には縄をまわさなかったが、双つの乳房はそれぞれ力まかせに引き伸ばしたうえで根元を長い縄で巻いた。
「くうう……」
股間に切れ味の悪い鉈を打ちつけられる痛みとは違う種類の鈍痛。これだけなら、(あくまでも)しばらくは耐えられなくもないが――昨日の経験はアクメリンに、その長い縄尻が馬で曳かれるだろうと教えていた。
果たして。
「先頭より順次、前へー進メッ」
今度は頭を先にして十字架が、いやアクメリンの裸身が引っ張られる――乳房を介して。
「ぎびひいいっ……痛いいいっ!」
信じられないほどに乳房が引き伸ばされて、十字架の頭部が持ち上がり、ずりずりと動き始める。
「ぐううう……」
アクメリンは歯を食い縛って激痛に耐え――られなくても耐えるしかなかった。悲鳴も哀願もゼメキンスには通じない。どころか、いっそうの残虐を付け加えられかねない。昨日からの経験が、それを教えていた。
いったいに、なぜ私はこんな目に遭わなければならないのだろう。その明白な答を、アクメリンは知っている。王女の身分を簒奪した報いなのだ。
けれど。もしも。自分が王女ではなく、下級貴族の娘に過ぎないと枢機卿猊下に信じていただければ、赦してもらえるのではないだろうか。そのときは、エクスターシャを売るという良心の呵責に悩むこともない。彼女は海の魔物への生贄にされて、もう地上には居ないのだから。
どうすれば信じてもらえるかは、見当もつかない。申し開きは尋問の場で述べろと、猊下はおっしゃった。では、デチカンまではずっと、このような扱いに甘んじなければならないのか。アクメリンは絶望しながらも、はるか彼方に希望が見透かせると――それを信じた、いや、信じたい想いだった。
それはしかし、希望的観測とすらもいえない。共犯として罪に問うとゼメキンスは明言しているし、それでは極刑が難しいかもしれぬと考えてか、唐突に魔女嫌疑まで持ち出している。そしてなによりも。尋問とは拷問の婉曲表現であることに、アクメリンは思い至っていなかった。
因縁を遡れば、王女の身分を簒奪した瞬間に、アクメリンの運命は定まっていたのである。
昼の大休止まで、アクメリンは二時間ほども乳房で引きずりまわされた。馬を速駆けさせられなかったのは幸いというべきか、限度を超える激痛に与えられる恩寵すなわち失神に至らなかったのだからいっそう苦しんだというべきか。
休息のあいだ、アクメリンは昨夜と同じように樹を後ろ抱きにした立ち姿で縛られていた。兵士たちに目の保養をさせるためか、頻繁に縛り方を変えて、手足の末端で血流が滞って壊死するのを防ぐ目的か――おそらくは、その両方だったろう。あるいは。兵士たちが食事をがっついている様をみせつける意図もあったかもしれない。アクメリンには口移しの水も咀嚼物も与えられなかったのだから。
兵士たちとは離れて、即席に仕立てられた折り畳みの卓と椅子に着いて二人の修道僧と共に食事を摂ってから、ゼメキンスはアクメリンの身体を(不必要なまで)仔細に調べ始めた。
乳房をわしづかみにして持ち上げ、下乳に刻まれた縄の痕を指でなぞる。
「ふむ。午後は反対向きに曳いてみるか」
指を上へ滑らせて、乳頭を指の腹で刺激して、萎縮している乳首を強制的に勃起させ、さらに爪を立てて引き伸ばす。
「くっ……」
いっそうの残虐を誘引するのを恐れて、アクメリンは声を堪えた。それはそれで。
「ふん。強情な娘だの。ならば、これはどうかな」
ゼメキンスは手を下げて、アクメリンの股間に指を這わせた。中指で淫裂を浅く穿つと、探るように上へ掘り進めて……
「ひゃあっ……?!」
恐ろしく鋭くて甘美な感覚が股間の一点を突き抜けて、アクメリンは耐えきれずに悲鳴を上げてしまった。
「ふむ。ますます、魔女の疑いが強まったな」
「え……ひゃうんっ!」
股間のどこかをつままれたような感触とともに、いっそう鋭い甘美な感覚が爆発した。いや、爆発ではない。
くにゅんくにゅんと、股間のどこかをこねくられて、快感と呼ぶにはあまりに異質で凄絶な感覚は、嵐が吹き荒れるがごとくに、いつまでも焉むことがなかった。ゼメキンスが発した魔女という単語など、とっくに忘れている。
「うあああ……なに、これ? いやっ、怖い……!」
男はもちろん、自身の手でさえ悪戯する術(すべ)を知らぬ娘は、そのまったく耕されてはいないがじゅうぶんに肥沃な処女地を、老練な男の手によって一気に開墾されようとしていた――のだが。種子を蒔かれたちまち芽吹いて蕾にまで育ちかけたところで、ゼメキンスは手を引いてしまった。
「…………?」
気を遣った経験がないだけに、寸前で放り出される惨めさも知らないまま、アクメリンは虚脱して、膝が砕け後ろ手だけで宙吊りにされた形になった。
瞬前まで股間を嬲っていた指を唇に触れられて、アクメリンは薄く口を開けて、自然とそれを舐めていた。
アクメリンはゼメキンスに屈したのではない。というよりも。最初から反感も嫌悪も抱いていない。恐怖と畏怖、それだけだった。わけの分からない快感に翻弄されて、アクメリンは朦朧としている。目の前に立つお人は加虐者である以前に、枢機卿猊下である。神の代理人たる教皇聖下に次ぐ尊いお方。祝福のために差し伸べてくださった指に口づけするのは身に余る光栄。と、理屈立てた行為ではない。物心付く前に洗礼を受け、読み書きや裁縫料理といった女の素養を修めるより先に神への感謝と祈りを教え込まれてきた、当時にはありふれた娘であってみれば、無意識裡の所作ではあったろう。
血の味がして初めて、猊下の指が触れていた部位を思い出して、羞恥が幾分なりともアクメリンに正気を取り戻させた。
あらためてゼメキンスに、今度は乱暴に股間を穿たれて、ようやくにアクメリンは身をもがいた。が、樹幹にまわされた縄で四肢も腰も縛られていては、指から逃れられるはずもない。そして今度は、甘く凄絶な感覚を掻き立てられることもなかった。指の動きは、股間に食い込んだ三角柱に傷つけられた部分に集中していた。
「痛い……」
アクメリンが、小さな声で苦痛を訴えた。枢機卿猊下への遠慮というよりも、これまでに受けた仕打ちに比べれば、苦痛も羞恥も、それだけでしかなかった。
血まみれになった指を口元に突きつけられて、さすがにためらいはしたが、結局は唇に受け容れた。さらに押し込まれて、そのまま動かないので――血の味を舐めて綺麗にもした。引き抜かれた指が乳房を手拭代わりにしたときは、さすがに屈辱を感じたが、アクメリンはそれを黙って伏し目がちに眺めるだけだった。枢機卿猊下というのは、意識の上澄みでの認識。本人でも言葉にするのが難しい意識の澱んだ部分では、ゼメキンスに逆らう恐ろしさを存分に悟っている。
ゼメキンスがアクメリンの裸身を執拗に検分した意味は、大休止が終わって出発の準備が始まると、すぐに明白となった。
三度、アクメリンは十字架に磔けられたが、その縛り方は先のどちらとも異なっていた。両脚の縄で裸体を曳いて股間に三角柱を食い込ませるのは朝と同じだったが、十字架の頭部につながれた二本の縄が乳房を巻き、曳き馬が四頭に増やされて、梯形に配置された。内側で先導する二頭には乳房に巻いた縄尻がつながれ、斜め後方の二頭には足首の縄がつながれた。
先導の二頭が前へ進むと乳房が下へ引き伸ばされ、次いで十字架の頭部も引っ張られる。アクメリンは背中が十字架から浮くほどになるが、身体はそれほど下へずれない。しかし後続の二頭も歩き始めると、朝と同じように股間に食い込む杭で十字架を引きずることになる。乗手の四人がうまく息を合わせれば、乳房と股間に負荷が分散される。息が合わないと、アクメリンは不規則に乳房を引っ張られて、あるいは脚を左右ばらばらに開閉させられて股間をいっそう抉られる。
もっとも、それをうまく利用すれば、乳房に掛かる負担を増やして股間を休ませたり、その反対もできる。つまり、同じ部位ばかりを責めて傷を(あまり)広げることなく、(幾らかは)長時間の輓曳が可能となったのである。ゼメキンスが最初からこの形を考えていて、アクメリンの活きがいいうちは過度に痛めつけようとしていたのか、それぞれの曳き方を試しているうちに着想したのか――それは分からないが。
ともかく午後は、小休止のときもアクメリンは磔のまま放置して、夕暮れ時まで常歩を保って進み続けたのだった。
夜にはやはり、アクメリンは立ち木に個縛されて、兵士たちに裸身を弄ばれながら咀嚼物を与えられた。アクメリンは諦めきって凌辱を受け容れ、あまり我慢することもなく恥辱の噴水も披露した。
そして、兵士たちが――さすがに見慣れてしまった若い娘の傷だらけの裸身などうっちゃって、焚火を囲みながら馬鹿話に興じる傍らで。心身ともに疲弊していたアクメリンは、この二日間の仕打ちに凌辱とか屈辱の文字を宛てるのが大袈裟に思えるほどの無惨苛烈な拷虐が待ち構えているとは知らず、絶望に閉ざされた束の間の安息へと落ちていった。
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このあと、3日目の行程があります。
初日と同じように、十字架を背負わされて、いよいよ街へ入るので、何故に裸の娘が斯くも酷い目に遭わされているか一目が燎原の火にしようと。乳首とクリから木札をぶらさげられます。一枚は”Heretic”、もう一枚は”Maga”。
そして、彼女の身分も――王族の証しの指輪と首飾と額冠を着けさせられます。全裸にアクセサリーというのも、筆者の大好物です。
とにかく、後編は。導入部で説明とかをひとまとめに片付けて。後は、拷問アラカルトでございます。
最初の街では、魔女嫌疑とかをでっちあげた少女と新妻が、ヒロインを威す目的もあって、読者サービスの意味もあって、尺を稼ぐために拷問されたりします。ちなみに、二人の助演女優は
ジョイエ・ショーザン ← エンザイショージョ
ニレナ・ツァイワーマ ← アワレナニイツマ
庶民には名字が無いので「ショーザンの娘、ジョイエ」、「ツァイワーマの妻、エレナ」です。
さらに。 枢機卿猊下ともあろうお方が、あぶく銭を稼ごうとて、見世締の磔展示とか公開拷問とかを、立ち寄った街で興行して、それだけ長く滞在します。尺を稼いでいるうちに、奪還の手配りとかされちまうわけですね。
ああ、御安心ください。救出されても、メスマン首長国へ護送されて、サルタンを謀ろうとした罪で、めだたくエクスターシャと並んで磔処刑……されかけるのですが。それは『終章』にて。
Progress Report 3 →
さて。『檻の中の野生児』を仕上げて、ノクターンノベルス連載も1話進めて、『女神様と王女様といとこの(下)僕』の5月発売準備も終わって、本作の前編も発売されて。
いよいよ、後編です。実際は3月末から書いていますけど。
前編で、エクスターシャ王女がアレコレされて、海のもずくにならずに帰りついて……のあたり、後編のヒロインはぼけら~と時を過ごしていたのです。そして。
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拷虐の一:磔架輓曳

エクスターシャは、最初の宴の夜にひと悶着を起こしたけれど、すぐに男たちと『仲直り』をして、二度と騒ぎを起こすことはなかった。指輪も、提督を通じて返してくれている。もはや不要と思ったのだろう。イレッテとミァーナは、積極的に男たちと『親睦』を深め、身代金が払われようともアルイェットに定住するつもりになりかけている。提督とても、船を襲い財宝を奪い王女たちを誘拐した海賊の仲間どころか頭目なのだから、不都合なことは言わないだろうとは、アクメリンにも分かっている。経済的な困窮の意味も多少は知り、庶民の事情もいくらかは見聞し、三年だけでも年上であれば、エクスターシャよりはよほど、物事の裏を見抜くこともできると己惚れているアクメリンだが、この先に大きな陥穽は無いと楽観していた。
肝心の解放については。正使のクレジワルド伯爵はメスマンへ向けて解き放ち、副使のヤックナン男爵はフィションクへ向かわせたと、提督から聞いた。フィションクから身代金が届くとしても、それにはまだ日数を要するだろう。即座に身代金を用立てて最短経路を辿れるなら、往復でせいぜい二週間だが、リャンクシーとタンコシタンの勢力圏を迂回すると、ひと月は要する。身代金の額によっては、大急ぎで綸旨税を徴収する必要もあるだろう。一方、メスマンの首都であるアリエザラムまでは、アルイェットから海路で三日と陸路を二日。たとえ王女と侍女を合わせて四人分の金塊でも、メスマンにとってはたわわな林檎の木から一つ二つをもぎ取るくらいの負担ではなかろうか。それがまだ届かない。所詮はメスマンにとって、王女はいささか珍しい奴隷としか見られていないということだろうか。
――捕らわれて三週間も過ぎた頃。
フィションクからでもメスマンからでもない、迎えの一団がアルイェットを訪れた。襲ったというべきであろうか。
「フィションク準王国の第二王女、エクスターシャ・コモニレル。フィションク国王の背教容疑について問い質したき事あるによって、証人としてデチカンへの出頭を命じる」
きらびやかな法服を纏った痩せぎすの男は、みずからを枢機卿キャゴッテ・ゼメキンスと名乗った上で、そのように告げた。背後には部下とおぼしき二人の修道僧、さらに後ろには十人の護衛兵。それだけでも物々し過ぎるのに、枢機卿の隣には、提督に次ぐアルイェットの顔役ともいうべき熊男――パイオーツ号船長のヒゲン・モテワッコまでが、長剣こそ帯びていないが、きちんと襯衣を着た上に、洋上で見たときと同じ外套を羽織って、苦虫を噛み潰して呑み込んだような顔で並んでいる。
迂闊だったと、アクメリンはほぞを噛んだ。海賊にまで同盟の秘密が漏れているのであれば、西方社会の隅々にまで教会を配している教皇庁の耳に届かぬはずもなかろう。さっさとメスマンへ入っていればともかく、東西の接点ともいうべき港町で二十日の余も足止めされていれば、デチカンの追求が及ばないはずもないのだった。
どのように処すべきかと、アクメリンは焦燥と不安の中で考えを巡らす。
おとなしく連行されるか。
自分はエクスターシャではなく侍女のアクメリンだと暴露するか。しかし、そうすると。エクスターシャは連れ去られ、身代金を持参した迎えの使者は、あわてて一行を追うだろう。そのとき、端女(はしため)ごときは足手まといになるだけ。仮にエクスターシャを奪い返して、改めてメスマンへ送り届けるためにアルイェットに引き返して来るとしても。それには日数が掛かる。
その間、侍女に過ぎないアクメリンを、海賊どもは放っておかないに決まっている。いや、自分たちを謀った小娘は存分に懲らしめてやれ、となるのではなかろうか。他の三人と違って、海賊たちの気性を文字通り肌身には感じていないアクメリンには、神の使徒よりは荒くれ男どものほうが、よほど怖かった。
それに。枢機卿は「証人として」と明言した。糾弾されるのはフィションク準王国、ひいては国王である。王女は、国王の背教に巻き込まれた犠牲者――とは、アクメリンの身勝手な理屈に過ぎないのだが。
この場で騒ぎを起こすよりは、自分がエクスターシャとして連行されるのが良いだろうと、アクメリンは決断した。エクスターシャ姫は、幼馴染でもある私を、決して見捨てないだろう。提督と談判して、私を取り戻す手を打ってくれるのではなかろうか。そのためにも、ここは穏便に事を運んだほうが良策というものだろう。
アクメリンの理屈は、すべての物事が自分に都合良く運ぶだろうという希望に基づいていたし、それにしても、あちこちに論理の破綻があるのだが――決断を先延ばしにしたいという優柔不断の典型ではあった。アクメリンにしてみれば、王女とすり替わった、その一大決心が人生のすべてを賭けた決断であり、続けざまの二度目など彼女の器量をはるかに超えていたのも確かではあった。
アクメリンは、身の回りの品々をまとめるわずかな時間を猶予されて後、枢機卿とともに迎えの馬車に乗り込んだ。
こうして――異教徒への生贄にされた王女とその地位を簒奪した侍女の、淫虐と拷虐への門が開かれ、犠牲者がくぐった後は、後戻り叶わぬよう、固く閉ざされたのだった。
アクメリンが馬車に乗っていられたのは一時間にも満たなかった。港町アルイェットのある半島と大陸とをつなぐ細い道を通り過ぎ、関門を固める守備隊も林の向こうに隠れた草原で、三台の馬車と二十騎の護衛兵が停止――する前に、アクメリンは馬車から蹴り落とされた。
「いつまで姫君を気取っておる。ここな背教者めが。売女にふさわしい姿にしてくれるわ」
草原に倒れ伏して、あまりの豹変に怯えるしか知らないアクメリンを、後ろの馬車から降りた二人の修道僧が引き起こし、羽交い締めにして衣服を脱がせに掛かる。
もしも彼女が真正のエクスターシャ王女であったなら。お坊様も所詮は男なのね――と、衣服を破られないようにみずからも身体を動かして協力するか、いっそ手を振り払って衣服を脱ぎ捨てたか。それとも、海賊に捕らわれる前の姫君であったなら、たとえ羽交い締めにされていようとも、眼前の無礼者に平手打ちくらいは与えていただろう。
しかしアクメリンは、いたずらに身をもがくばかりで、かえって男の狂暴を引き出してしまい――下着に至るまで頭陀襤褸に引き裂かれた。さらには、靴も靴下も奪われて、文字通り一糸纏わぬすがたにされてしまった。女の徴(しるし)を見て三年に満たぬエクスターシャに比べれば無花果と桃ほどにも違うたわわな乳房も、真夏の草原の夕暮れにも似た濃密な亜麻色の叢も、すべてが白日の下に曝される。
二人の修道僧はアクメリンの裸身を弄んだりはせずに放り出して、馬車の屋根から材木を降ろし、縄で縛り合わせ鎹を打ちつけ、人の背丈の五割増しほどの大きな十字架を組み上げた。両手で胸を隠してうずくまっているアクメリンの背中に十字架を載せ、両手を引き広げて横木に縛りつけた。さらに、胸と腰を縦木に縛りつける。ことに胸は――乳房の上下に縄を巻いて、余った縄尻で脇の下と胸の谷間を縦に縛って乳房を縊り出すという、女をいっそう辱しめ不要の苦痛を与える残虐の対象にされた。
腰を縛った縄尻は不必要なほどに余っている。その中程を握って、ゼメキンスがアクメリンの尻を叩いた。
「立て、売女」
その名前はエクスターシャにこそふさわしい。さっきはその微力な救いの手さえ期待していたというのに、海賊どもに従容と嬲られているエクスターシャへの蔑視は、未だアクメリンの裡にあった。
「立たぬか!」
びしいっと、再び尻を縄で打たれた。再びではない。先ほどのは追い鞭であり、今度は懲罰の鞭だった。
「違います!」
計算も後々の展開も考慮せず、アクメリンは訴えた。
「私はエクスターシャ王女ではありません。侍女長のアクメリン・リョナルデです。海賊の目を欺くために、入れ替わっていたのです」
ゼメキンスは振り上げていた手をいったんは止めたが、しばらく考えた後に、渾身の力でアクメリンの裸身を鞭打った。
「きゃああっ……!」
「おまえが侍女であるなら、共犯者となろう。裁きによっては微罪で済むかも知れぬが、罪人に変わりはない。立て。立って、罪を引きずって歩け」
「共犯などと……私は、ただ、国王と父に命令されて、やむなく王女殿下に仕えていただけです」
「申し開きは取調べの場で述べよ。目的の街へ着かねば、取調べも出来ぬぞ」
恐怖と痛みとに咽び泣きながら、十字架の重みを背負って、アクメリンは蹌踉と立ち上がった。そこへ、下から掬い上げるように、縄が乳房を打った。
「痛いいっ……!」
ふたたびアクメリンは、がくりと膝を突いた。背中に脇腹に容赦なく縄が叩きつけられる。
「お願い……もう、叩かないでください」
ゼメキンスは無言で縄を振るい続ける。肉を打つ湿った音が、真夏の青空へ吸い込まれていった。
ようやくアクメリンが立ち上がったときには、白い裸身の至るところに赤く太い線条が刻まれていた。
アクメリンが歩き始めても、縄の鞭は止まらない。しかし、その間隔は間延びして、音も格段に軽くはなった。
ゼメキンスは罪人を追い立てながら修道僧のひとりを呼び寄せ、何事かを命じた。その修道僧は護衛兵の長に命令して――五騎の兵と共に街の方角へ走り去った。事実が侍女と称する女の申し立てる通りなら、当然に本物の王女を捕らえるためだった。
その間もアクメリンは、縄に追われて街とは反対の方角へ、荒野の彼方に向かって歩かされている。しかし、その歩みは常人の徒歩よりもはるかに遅い。十字架の重さもあるが、その先端が地面を引きずっているせいだった。背中を起こすこともできず、前へ転びそうになるのは、引きずっている十字架の重みで釣り合いが取れている。
護衛の兵たちも馬を降りて、若い娘が全裸の羞恥に悶えながら、縄で鞭打たれて、よたよたと十字架を引きずるのを、飽くことなく見物している。若い兵にいたっては、アクメリンと同様、前屈みになって歩いている。
暑い真夏の日射しを浴びて、アクメリンの全身に吹き出る汗は、すぐに乾いて白い塩の粉となる。さながらキャゴットは、その塩を縄ではたき落とす仕事をしているようでもあった。
一時間と歩かぬうちに、アクメリンは参ってしまった。
「お願いです。すこしの間でいいですから、休ませてください。この十字架を下ろさせてください」
返答は、無言のしたたたかな縄鞭だった。
「きひいい……」
掠れた声でか細い悲鳴を上げ――アクメリンは弱々しく足を運ぶ。王女の身の回りの世話をして、ときには王女に代わって重たい荷物(といっても、せいぜいは分厚い書籍や花を活けた花瓶だが)を運ぶとはいえ、淑女である。自身の体重の半分よりも重たい荷物を背負って素足で荒れ地を歩くなど、目も眩むような重労働だった。
三十分ほどもすると、またもやのろい足取りさえ滞りがちになる。
「水を……せめて、水を飲ませてください」
真夏の炎天下で肌を焼かれえながら歩けば、体内の水分は急速に失われていく。縄鞭が怖くて我慢をしていたけれど、息をしても喉に貼り付くほどになっている。
「ふむ。罪人とはいえ、いささかは慈悲を垂れてやらねばな」
まさか叶えられるとは思っていなかっただけに、アクメリンは加虐者に感謝の念さえ抱いた。
二人の修道僧が十字架を裏返しにして、アクメリンを仰向けに寝かせた。顔の横にゼメキンスが立った。法服の前をくつろげて、魔羅をひり出す。
(…………?!)
乙女とはいえ、アクメリンも殿方の淫部を見たことくらいはある。しかし、立小便姿を遠目に指の間から垣間見るのとは違い、真直に見上げるそれは、男の顔をすっぽり隠してしまうほどにも巨大に、そして醜悪に見えた。
「口を開けろ。水を飲ませてやる」
アクメリンは、逆に口を堅く閉じて顔をそむけた。この状況では、男の悪意を勘違いしようもない。
ゼメキンスは無言で放水を始めた。筒を持って、正確に口元に水流が当たるようにする。
「んぷ……!」
飛沫を避けて目も閉じる。
じょろろろろ……耳の中にまで小便を注がれて、あわてて顔を振ればもろに唇に当たる。
アクメリンは目も口も閉じ、息を詰めて――どうにか、小便を飲まずに済ませた。のは、一時の気休めでしかなかった。
「うまく飲めぬようだな。おまえたちも、たんと飲ませてやれ」
おまえたちとは、ゼメキンスに付き従う修道僧と、十五人の兵士たちのことである。
修道僧の指図で、二人の兵士がアクメリンの顔の両側に立った。これでは、どちらへ顔をそむけても、無論正面を向いても、放水が口元を直撃する。
「肌が破れて血を流しておる。皆で洗ってやれ」
さらに二人の兵士がアクメリンを挟んで腰のあたりに立つ。残りの兵士どもは、アクメリンを囲む四人の後ろに並んだ。
四人ずつがアクメリンに尿を浴びせる。十字架に向かって放水するとは畏れ多いと萎縮する兵もいたが。
「穢れた女を清めるのだ。汝らの放つ水は、聖水も同然なるぞ」
屁理屈にすらなっていないが、基督者の中で教皇に次ぐ高位にある枢機卿の御言葉を疑う不信心者など居なかった。
アクメリンはアクメリンで。重荷を背負わされ縄鞭で荒野を追い立てられながら、次第に膨らんできた疑念と恐怖とが、その言葉ではっきりと裏付けられた。それは――王女は『証人』としてデチカンへ招請されたのではない。まさしく背教者、焚刑で清められるべき重罪人として連行されているのだ。
「まだ飲まぬのか。強情者め」
ゼメキンスがあたりを見回して。
「腹を踏めば履物が汚れる。あれを使え」
路傍に転がっている大きな石を指差した。それだけで修道僧は意図を察して。両手で石を持ち上げて――腰の高さから、アクメリンの腹の上に落とした。
「あぐっ……」
たまらず呻いて半開きになった口に尿が注ぎ込まれる。
「ら゙ら゙ら゙……」
吐き出そうとした息が、うがいのような音になった。そして、幾分かは喉を通してしまった。
「げふっ……ら゙ら゙ら゙……」
おぞましさに悶えながら、それでもわずかに渇きが癒されて……アクメリンは無意識裡に口中の水分を嚥下していた。生温かく微かにしょっぱくえぐい味だが、干天の慈雨でもあった。
アクメリンが口を開けて小便を受け入れる様を見て、兵士たちがげらげら嗤う。
髪までぐしょ濡れになったアクメリンを十字架の上に放置して、一行は三十分ほどの休止を取った。その間にアクメリンの裸身は天日で乾いたのだが、どうにも肌が突っ張るように感じられたのは、縄鞭に打たれた名残の疼きなのか、実際に小便の影響なのか。
そんなことは、荒野の引き回しが再開されれば、気に留めるに値しない瑣末事だった。アクメリンの足取りは、いよいよ重くなって。これ以上は追い立てても無駄とゼメキンスは判断した――のか、デチカンまでの長い道程の初日から痛めつけ過ぎては、差し障りがあると考えたのか。赤ん坊が四つん這いで進むよりも遅く歩むアクメリンに与える縄鞭は、せいぜい十歩に一度、それもかなりに手加減していた。
とはいえ。屋外で大勢の男に裸身を晒すことも、縄で縛られることも、あまつさえ鞭打たれて追われることも、何もかもが即座に失神しても不思議ではない恥辱であることに変わりはない。この先、自分はどうなるのかという不安さえ、漠然として形が定まらなかった。
やがて――休止の後に二時間も歩かされた頃、小さな川に差し掛かった。橋は見当たらない。轍の跡が川の中へ消えているところを見ると、徒渉(かち)で渡るのだろう。
一行は川の手前で止まると、荷馬車から荷物を卸して天幕を張り始めた。夕暮れには間があるというのに、野営の準備だった。
ようやくに、アクメリンは十字架から解き放たれた。が、それは次の残虐を与える手続きに過ぎなかった。アクメリンは、縄ではなく太い鎖で後ろ手に縛られ、脚も逆海老に折り曲げられて手首につながれた。
「この娘は背教者であるから、当然に魔女の嫌疑もある。それを、この機会に確かめておく」
魔女は水に浮くと謂われており、このように重たい鎖で縛ってさえ沈まない。自分が司祭だった頃に、この手法で魔女の正体を暴いたこともあると、ゼメキンスは得意気に説明した。
「そんときゃ、重たい鉄の箱に縛りつけたんじゃないですか、ゼメキンス猊下」
肘から先を軽く上げて尋ねた兵士は、他の者と変わりない服装をしているが、腰に吊るした短剣には装飾を施し、手には指揮杖を握っている。
「ほお、よく分かったな――レオ・モサッド隊長」
ふたりは名前を呼び合うことで身分を超えて、少なくとも兵の前では大っぴらに語れぬ昏い部分を認め合い、同時にモサッドはゼメキンスに一目置かせたのだ。千年より昔のアルキメデスは忘れ去られ、甲鉄船など存在しない世界では、鉄の箱が水に浮かぶなど、無学な庶民には神の奇跡か悪魔の呪いとしか思えないのだ。
それはさておき。二人の兵士に抱え上げられ川の真ん中へ運ばれても、アクメリンは、これから水中に放り込まれるという恐怖どころではなかった。というのも。水に濡れるのを嫌って裸足になり下半身まで露出した兵士は、ことさらに逸物をアクメリンの肌に擦りつけ、肩を持ったほうの男などは顔をそむけるのを腕で阻んでおいて、亀頭を唇におしつけるなどという荒業にまで及んだ。
アクメリンは初めて、男のその部分が巨大化するという事実を知った。その驚きとおぞましさが、心の大半を占めていた。だから、不意に宙へ放り出されて。
「きゃああっ……?!」
ざぶんという水音の後は悲鳴が泡に変じて。無用心に息を吸い込み、鼻の奥に焼けるような痛みを感じて……狼狽して息を吐き、反動で大量の水を呑んでしまった。
川面に浮かぶ泡の様子で溺れ死なす危険を感じたのだろう、アクメリンはすぐに引き上げられた。
「げふっ、ゔえ゙え゙……」
水を吐き、肩も腹も波打たせて息を貪るアクメリン。
その息が治まるのを待って、ゼメキンスが温情あふれる(?)非情を命じた。
「つぎは、息を止められるように合図をしてやれ」
「それじゃ、いくぜ。せーえのお」
身体を大きく振られて、アクメリンが叫ぶ。
「待ってください!」
兵士が手を止めた。
「ほんとうに、私は王女殿下ではありません。それに、王女殿下は証人だとおっしゃったではありませんか。背教者とか魔女とか、話が違います」
事を荒立てずに王女をアルイェットから連れ出す詐術だったろうと、見当はついていた。身代金など払わずに身柄をかっさらうのだ。西方社会全体を後ろ楯に持つ教会の権威とはいえ、その場で対立すれば、守備兵と海賊と合わせて六百人に対して、わずかに二十騎。逮捕連行よりは証人喚問のほうが、無難だろう。
「そうとも。おまえが王女であろうと侍女であろうと、大切な証人だ。教皇聖下とデチカン市民の前で、フィションクの反逆を証言して、それから裁きを受けて罪を贖うのだ」
聖職者であるわしが虚言を弄するはずもなかろうと、嗜虐をいけしゃあしゃあで上塗りするゼメキンス。
「溺れ死んで魔女でないと証明できれば、いささかは罪も軽くなろう」
兵士に命じて、アクメリンを水中に投じさせる。
今度はアクメリンも息を止めていたので――長く苦しむ結果になった。身体を水に浸して洗う習慣さえも、無いに等しい。顔まで水中に没するのは、それだけで恐慌をもたらす。しかも縛られていて、自分では脱せられない。いっそ息を吐き出してしまえば、さっきみたいに引き上げてもらえはしないだろうか。けれど、猊下は溺れ死ねと言われなかっただろうか。試してみるなど、とんでもない。
などと考えを空回りさせているうちにも息が苦しくなって、見上げる水面の煌めきがすうっと暗くなっていき、頭が激しい痛みに襲われて――結局は大量の泡を吐いて水を吸い込んでしまい、意識を失って後に、おそらく断末魔の痙攣をが起きるのを待って、ぎりぎりを引き上げられたのだろう。
背中に強い衝撃を受け手て、アクメリンは意識を取り戻した。
「あ……」
足を投げ出して座っている自分に気づいた。もう、鎖で縛られてはいない。けれど、両腕を強く後ろへ引っ張られて……どんっと、また背中に衝撃があった。
「げふっ……うえええ」
喉から大きなしゃっくりが飛び出して、その後に嘔吐が続いた。激しく水を吐いて、息を貪って。
両側から腋の下に腕を入れて引きずられて、大きな樹を背中にして立たされた。手首に縄が巻かれ、樹を背中に抱く形に縛りつけられた。足を開かされて、同じように縛られる。腰にも縄が巻かれて、兵士が手を放しても立った姿のままになった。
その頃になって、ようやくアクメリンは人心地を(かろうじて)取り戻していた。つぎは何をされるのかと怯える。赦しを乞う無意味さを、早くも悟っていた。
兵士たちは全裸の娘を無視する態を装いながら(そうでないのは、目の動きで分かった)、夕食の準備を始めた。武具の手入れをする者もいれば、川縁へ行き上半身を裸になって汗を拭う者もいた。
(なんと淫らな……)
たとえ人目に触れなくても神様が御覧になっている。たとえ身体の汚れを取るためであっても、裸体になることには禁忌の念がつきまとう。それを、この兵士たちは野外で大勢の目に平然と衣服を――そこまで考えて、アクメリンは、おのれがどのような姿にされているかを思い出して、あらためて羞恥に悶えた。と同時に、わずか半日で荒野の最果てまで追い立てられたのだと、思い知った。これからは、これまでの一切の常識が通用しないのだろう。
やがて食事の仕度が調い、兵士たちがてんでに食べ始める。
溺れ死ぬ寸前まで追い込まれて、皮肉なことに喉の渇きは去っていた。そうなると、たとえ生まれて初めての重労働で疲労困憊の極にあっても、旨そうな匂いを嗅げば空腹を意識する。物欲しげに兵士たちの食事を眺めていたつもりはなかったのだが、あるいはそうだったのかもしれない。
ゼメキンスが、炙り肉を刺した木の枝を片手に、アクメリンの前に立った。
「明日は、もっときついぞ。たっぷり食って力を取り戻しておけ」
炙り肉をアクメリンの口元すれすれに近づける。
他人の手から食べ物を口に入れてもらうなど、この十年、いや十五年に渡ってなかったことである。しかも相手は近しい人どころか、彼女を虐待している張本人だ。
アクメリンは迷って、しかし芳醇な肉と香辛料の匂いに鼻をくすぐられて、空腹には勝てなかった。食べておかなければ、ほんとうに倒れてしまうでしょうと、みずからに言い訳をしながら、口を遠慮がちに開けて肉をかじろうとする――と、ゼメキンスはついと手を引っ込めた。
ゼメキンスは肉を大きくかじり取って、くちゃくちゃと音を立てて咀嚼しながら。片手をゆっくりと伸ばして、樹に縛りつけられて身もがきもままならぬアクメリンに意図を悟らせながら、乳房をわしづかみにした。
「ん……」
顔を近づけて、接吻をする形になる。
「……?!」
アクメリンは顔をそむけたが。いつの間にか樹の後ろへ回り込んでいた修道僧が、顎をつかんで正面を向かせる。
「んんんっ……?!」
アクメリンは生まれて初めての(父母や兄も含めて)唇への接吻を奪われただけでなく――不用意に薄く開けていた口の中に、咀嚼され唾にまみれた、汚物としか感じられない肉を押し込まれた。
ゼメキンスが顔を離すと、アクメリンは直ちに汚物を吐き出した。
「この罰当たりが!」
ばしん!
顔が真横を向いたほどの痛烈な平手打ち。
「枢機卿である余が聖別した食べ物を吐き出すとは何事ぞ。やはり、おまえは魔女なのか。それなら、相応に扱ってくれるぞ」
とっくに、そのように扱われている。そうは思ったものの。魔女に待っているのは焚刑だ。その前に、凄まじい拷問に掛けられて余罪をことごとく自白させられるという。海賊どもに犯されるだろうと分かっていながら、エクスターシャを騙してすり替わったのも罪には違いないし、指輪を与えて偽りの安心を抱かせたのも罪だ。自分が侍女にしか過ぎないと分かってもらっても、魔女だと決めつけられれば、この旅路の果てに待っているのは拷問と業火だ。
ゼメキンスが、残りの肉を頬張った。わざと口を開けて、咀嚼する様を存分に見せつけてから、再び顔を寄せてくる。
アクメリンは観念して口を開け、その代わりとでもいうように目を固く閉じた。口をふさがれ、生温かい汚物を押し込まれて――吐き気をこらえ、息を詰めて嚥下した。口中に肉の濃厚な美味が残ったのが、むしろ惨めさを強調する。しかし、わずかでも食べ物を口にして、吐き気を凌駕して空腹が募った。枢機卿に替わって修道僧から口移しに咀嚼物を与えられても、もはやアクメリンは拒まなかった。いや、すぐには嚥下せず、みずからも咀嚼して肉の味を堪能したのだった。
肉だけではなく麺包も水も同じように与えられて――アクメリンは屈辱の夕餉を終えたのだった。
そうして、新たな恥辱に直面する。
重荷を背負わされて炎天下を歩かされ、摂取したわずかな水分の何倍もが汗で失われている。しかし、真夏とはいえ夜は冷える。飲まずとも尿は溜まる。
「お願いです」
アクメリンから二十歩と離れていないところで、わざわざ焚火を半円に囲んでいる七八人の兵士に向かって訴えた。
「ほんのしばらくだけでいいですから、縄を解いてください」
「枢機卿猊下のお指図がなけりゃ、おめえに手は出せねえんだよ」
「チンポもだぜ」
兵士どもが卑猥に嗤う。
半畳は無視して、アクメリンは食い下がる。
「では、お取り次ぎを」
「いったい、何をしたいんだよ。子供の使いじゃねえんだ。行ったり来たりはご免だぜ」
「…………」
アクメリンは唇を噛んだ。が、羞恥に逡巡した末の訴えだった。もはや切迫している。
「……お花を摘みに行きたいのです」
註記:この婉曲表現は、近年になって女性も登山をするようになってから日本で生まれたという説があるが、筆者はこれを採らない。入浴ですら忌避した当時の西欧人は、昭和のアイドルの如くウンチやオシ.コなどしませんといった態を装い、ために便所などを家屋に設けることはなかった。この物語より後年の話にはなるが、かの壮麗なるベルサイユ宮殿なども、花畑は悪臭ふんぷんたるものであったという。
「花遊びなんかしてる場合かよ」
「さすがは王女様であらせらろるぜ」
焚火の炎が揺れるほどの爆笑。
この者たちは分かっていると、アクメリンは確信した。分かっていて、羞ずかしい言葉を言わせようとしている。今もって心臓が拍ち続けているのが不思議なほどの恥辱を浮けているというのに、今さら、これしきのことを羞ずかしがっても詮のないことだ――と、絶望を交えておのれを叱咤する。
「おし.こをしたいのです」
アクメリンは、知る限りのもっとも卑属な言葉を口にした。言い終えたその口から嗚咽が漏れる。さんざんに虐げられ辱しめられて悲鳴を叫び涙を流しても、こんなふうに弱々しく咽び泣きはしなかったのに。
女の、ことに若い娘の涙に男が弱いのは、洋の東西も時代も問わない。
「分かった、分かった。枢機卿猊下にお願いしてきてやるよ」
兵士のひとりが立ち上がって、馬車の近くに張られた天幕へと向かった。すぐに戻って来たが、その表情から娘への憐愍は消えていた。
「猊下が仰せのことにゃあ、庭園には花だけでなく噴水も付き物だってよ」
アクメリンだけでなく兵士どもも、怪訝な顔になったが。
「つまり、おめえが噴水台になれとさ」
一拍を置いて、遠慮がちな嗤いが起きた。
「へっへっへえ。王女様の立ち小便か。さぞや見事な噴水を拝めるだろうぜ」
先ほどの陽気な嘲笑とは違って、淫湿にくぐもっている。
放水を他人に見られるなど、裸体とは比べものにならない恥辱である。いずれは決壊すると分かっていても、必死に堪えるしか、為す術を知らないアクメリンだった。
さらに少しばかり時が過ぎて。すっかり夜の帳(とばり)が下りた荒野に蹄の音が近づいて来て。枢機卿が天幕から姿を現わすと、アルイェットへ派遣した修道僧をアクメリンの前で出迎えた。
「エクスターシャ王女の侍女頭は、確かにアクメリン・リョナルデという娘です」
では、申し立ては信じてもらえるのだと、エクスターシャへの後ろめたさを感じながらも安堵したアクメリンだったが。
「しかし、今はアルイェットに居りません」
まさか、騒ぎを知って、幼馴染である私を見捨てて逃げたのでしょうか――と、逆恨みするアクメリンだったが。
「一昨日の大嵐を突いて大頭目が出帆したそうですが、彼の娘は人身御供として連れて行かれたとのことです」
「海の怪物への生贄か。迷信深い連中は度しがたいわい」
アクメリンは呆然自失。海の藻屑となられては、身の証の立てようがない。
うおおおおっと、さすがに枢機卿の御前だけに控え目な喚声が湧いた。上から下へと迸る噴水が、ついに出現したのだった。
絶望のどん底で、アクメリンは羞恥に悶えるどころではない――とは、救いにはならないであろう。
「ふん、したたかな魔女であるな」
言葉の綾か、本気でアクメリンを魔女に仕立てるつもりか、ゼメキンスが吐き捨てた。
「死者に罪を押しつけようとてか。そのような詐術に誑かされはせぬぞ」
気が遠くなりかけているアクメリンは、その言葉を否定しなかった。ゼメキンスにしてみれば、罪を認めたも同然だった。
「侍女が死のうが生きようが、知ったことではない。ここに王女が捕らわれており、その身分を明かす品々も揃っておるわ」
連行(すでに、そんな生易しい扱いではなくなっているが)とはいえ名目は証人喚問であったから、身の回り品を携えることは許されていた。当然にアクメリンは、額冠と首飾と指輪とを身に着けていた。着衣は襤褸屑にされたが、それらの品はゼメキンスの手に渡っている。
ゼメキンスは、しばらくアクメリンの傷ついた裸身を眺めていたが。
「こやつを歩かせておっては、マライボまで一週間は掛かろう。明日は、ちと工夫してみるか」
工夫も何も、馬車に乗せるか、辱しめを与えるなら裸身に縄を打って馬の背に縛りつければ済むものを――とは、傍らでゼメキンスの独白を耳にした兵士たちの感想ではあった。
アクメリンは樹に縛りつけられて、立ったままの一夜を強いられた。極度の疲労がアクメリンを底無し沼のような眠りに引きずり込み、恐怖と不安とがアクメリンを地獄のような現実へ引き戻す。狼の遠吠えなどよりは、野営地の四隅に配された立哨兵のおぼろな影のほうが、よほど恐ろしかった。
夜が明けるとすぐに、ゼメキンスが様子を伺いに現われた。
「花を摘みたいとか言うておったが、肥料を施す優しさは持ち合わせておらぬようじゃな」
人糞が肥料に使われるとは知らない貴族令嬢には、言葉の意味が分からなかった。
それはともかく。朝食も、夕餉と同じ作法を強いられた。ただし今度は枢機卿おんみずからでも修道僧からでもなく、モサド隊長を筆頭に十五人の兵士どもが入れ替わり立ち替わりだった。ひと口ごとに、乳房を揉みしだかれ尻をつかまれ股間を撫でられた。ゼメキンスほどに強く乳房を握り潰す者はいなかったし、なによりも指挿れは厳重に禁止されていたのが、せめてもの慰め――などとアクメリンが思うはずもなかった。
朝食が終わると、速やかに進発の準備が調えられた。焚火の跡始末と天幕の収納、そしてアクメリンの十字架への磔である。
その磔は、前日とは趣を異にしていた。手首にだけ縄を巻いて手の幅ほどの長さを余して横木に結びつける。胸は縛らず、腰と縦木も緩くつなぐだけ。そして、三角柱に削られた杭が、縦木へ股間すれすれに打ち込まれた。十字架の上にアクメリンを仰臥させたまま、左右の足首それぞれに長い縄が結ばれる。縄尻は兵士が乗る二頭の馬の鞍につながれた。
「昨日は歩き詰めのうえに、夜も立たせっぱなしで、余もいささか可哀想に思っておる。今日は寝たままで運んでやろう」
悪意を剥き出しにした猫撫で声に、アクメリンは何をされるか分からないままに戦慄する。
「先頭より順次、前へー進メッ」
槍を立てた二騎が露払いとなり、その後ろにアクメリンをつないだ二騎が歩き始めるとすぐに、アクメリンは我が身で悪意の正体を知ることとなった。アクメリンの両脚は左右に引き裂かれ斜め上へ引き上げられて、十字架の頭が地面を引きずる。
「痛いいいっ……!」
引っ張られているのは、アクメリンの裸身である。裸身が足を先にして前へ進むと三角の楔が股間に食い込み、十字架も引きずられる。手首や腰に負担が分散せぬように、そこの縄は緩められている。
「くううう……」
これまでに経験したことのない異様な痛みに、アクメリンの呻き声は絶えることがない。しかし悲鳴にまで至らないのは――三角柱の稜線が、赤ん坊の小指ほどには丸められているからだった。
この苦痛がどれほどのものであるかを現代の事物で想像するなら、女児が重たいランドセルを前後に抱えて、テニスコートのぴんと張ったワイヤーに跨がるのと同じくらい――であろうか。
しかし、十字架の頭部が地面の凸凹に当たる衝撃が加わるし、なにより自分の意思で下りることができない。
ぽっく、ぽっく、ぽっく、ぽっく……
ずりっ、ずりっ、ざんっ、ずりっ……
「くっ、くうう、ひいいっ、ひいい……」
切れ味の悪い鉈を繰り返し股間に打ちつけられているような苦痛が繰り返されるうちに、三角柱が食い込んでくる部位よりも奥のあたりに、微かだが妖しい疼きが灯った。これもまた、アクメリンの知らない感覚だった。
苦痛は、繰り返されるうちには少しずつ麻痺してくる。麻痺は言い過ぎとしても――冬が到来すれば、寒い寒いと思いながらも次第にそれを受け容れて日常を営むようなものであろうか。
しかし、腰の奥に生じた疼きは、そうではなかった。微かな疼きはすぐには消えず、むしろ新たな疼きが積み重なっていく。
「くうう……痛いのに? ああっ……んんん」
苦痛を訴える呻きに戸惑いが混じり、ついには艶がかってくる。
ゼメキンスを乗せた二頭立ての馬車は、十字架のすぐ後ろを進んでいる。枢機卿ともあろう御方が窓から身を乗り出して、神に背いた女が悶え苦しむ様を熱心に観察いや堪能している。そして、女囚(あるいは背教者もしくは魔女)の表情に苦悶とは異なる色が萌(きざ)したと見て取ると。
「隊長、駆足で進め」
モサドが号令を発して、馬が駆け始める。
ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……
「ぎひいいいっ……!」
アクメリンが悲鳴を上げる。
馬が人を乗せて休まずに歩き続けられる速さは、人間の小走りよりやや遅い。いわゆる:常歩(なみあし)である。これが速歩(はやあし)を超えて駆歩(かけあし)となると、常人の全力疾走に近い。当然、それだけ強く三角柱が股間に食い込んでくるし、地面から伝わる衝撃も激甚なものとなる。妖しい疼きなど消し飛んで、苦痛だけが十倍にもなる。
「ぎひいいいっ……やめ、あぐっ!」
赦しを願う叫びが、舌を噛んで途切れた。
「ひいいいいい……」
激しく頭を揺すられ打ちつけられて、目が回り意識も霞んでゆく。なのに、激痛だけは鮮明だった。
アクメリンにとってかろうじて救いだったのは、駆歩はせいぜい半時間しか続けられないという馬側の制約だった。馬に体力を使い果たさせると一日の行程に差し障るので、アクメリンが性的な快楽を覚えたことへの懲らしめは、その半分の時間で終わった。
それでも、アクメリンの股間は三角柱の木肌に擦られて肌が敗れ、血まみれになっていた。
こんな荒行を続けさせては、女を女にする以前に女でなくなる――などと考えたのかまでは分からないが、馬に休息を与える時間を使って、ゼメキンスは女の:運び方を変更した。
縄をたるまさず手首を横木に緊縛して二の腕も縛り、脚は閉じさせて足首と太腿を縦木に個縛する。全体に身体がずり上がって、三角柱の杭は股間から離れた。さらに腰も十字架にきつく縛りつける。胸には縄をまわさなかったが、双つの乳房はそれぞれ力まかせに引き伸ばしたうえで根元を長い縄で巻いた。
「くうう……」
股間に切れ味の悪い鉈を打ちつけられる痛みとは違う種類の鈍痛。これだけなら、(あくまでも)しばらくは耐えられなくもないが――昨日の経験はアクメリンに、その長い縄尻が馬で曳かれるだろうと教えていた。
果たして。
「先頭より順次、前へー進メッ」
今度は頭を先にして十字架が、いやアクメリンの裸身が引っ張られる――乳房を介して。
「ぎびひいいっ……痛いいいっ!」
信じられないほどに乳房が引き伸ばされて、十字架の頭部が持ち上がり、ずりずりと動き始める。
「ぐううう……」
アクメリンは歯を食い縛って激痛に耐え――られなくても耐えるしかなかった。悲鳴も哀願もゼメキンスには通じない。どころか、いっそうの残虐を付け加えられかねない。昨日からの経験が、それを教えていた。
いったいに、なぜ私はこんな目に遭わなければならないのだろう。その明白な答を、アクメリンは知っている。王女の身分を簒奪した報いなのだ。
けれど。もしも。自分が王女ではなく、下級貴族の娘に過ぎないと枢機卿猊下に信じていただければ、赦してもらえるのではないだろうか。そのときは、エクスターシャを売るという良心の呵責に悩むこともない。彼女は海の魔物への生贄にされて、もう地上には居ないのだから。
どうすれば信じてもらえるかは、見当もつかない。申し開きは尋問の場で述べろと、猊下はおっしゃった。では、デチカンまではずっと、このような扱いに甘んじなければならないのか。アクメリンは絶望しながらも、はるか彼方に希望が見透かせると――それを信じた、いや、信じたい想いだった。
それはしかし、希望的観測とすらもいえない。共犯として罪に問うとゼメキンスは明言しているし、それでは極刑が難しいかもしれぬと考えてか、唐突に魔女嫌疑まで持ち出している。そしてなによりも。尋問とは拷問の婉曲表現であることに、アクメリンは思い至っていなかった。
因縁を遡れば、王女の身分を簒奪した瞬間に、アクメリンの運命は定まっていたのである。
昼の大休止まで、アクメリンは二時間ほども乳房で引きずりまわされた。馬を速駆けさせられなかったのは幸いというべきか、限度を超える激痛に与えられる恩寵すなわち失神に至らなかったのだからいっそう苦しんだというべきか。
休息のあいだ、アクメリンは昨夜と同じように樹を後ろ抱きにした立ち姿で縛られていた。兵士たちに目の保養をさせるためか、頻繁に縛り方を変えて、手足の末端で血流が滞って壊死するのを防ぐ目的か――おそらくは、その両方だったろう。あるいは。兵士たちが食事をがっついている様をみせつける意図もあったかもしれない。アクメリンには口移しの水も咀嚼物も与えられなかったのだから。
兵士たちとは離れて、即席に仕立てられた折り畳みの卓と椅子に着いて二人の修道僧と共に食事を摂ってから、ゼメキンスはアクメリンの身体を(不必要なまで)仔細に調べ始めた。
乳房をわしづかみにして持ち上げ、下乳に刻まれた縄の痕を指でなぞる。
「ふむ。午後は反対向きに曳いてみるか」
指を上へ滑らせて、乳頭を指の腹で刺激して、萎縮している乳首を強制的に勃起させ、さらに爪を立てて引き伸ばす。
「くっ……」
いっそうの残虐を誘引するのを恐れて、アクメリンは声を堪えた。それはそれで。
「ふん。強情な娘だの。ならば、これはどうかな」
ゼメキンスは手を下げて、アクメリンの股間に指を這わせた。中指で淫裂を浅く穿つと、探るように上へ掘り進めて……
「ひゃあっ……?!」
恐ろしく鋭くて甘美な感覚が股間の一点を突き抜けて、アクメリンは耐えきれずに悲鳴を上げてしまった。
「ふむ。ますます、魔女の疑いが強まったな」
「え……ひゃうんっ!」
股間のどこかをつままれたような感触とともに、いっそう鋭い甘美な感覚が爆発した。いや、爆発ではない。
くにゅんくにゅんと、股間のどこかをこねくられて、快感と呼ぶにはあまりに異質で凄絶な感覚は、嵐が吹き荒れるがごとくに、いつまでも焉むことがなかった。ゼメキンスが発した魔女という単語など、とっくに忘れている。
「うあああ……なに、これ? いやっ、怖い……!」
男はもちろん、自身の手でさえ悪戯する術(すべ)を知らぬ娘は、そのまったく耕されてはいないがじゅうぶんに肥沃な処女地を、老練な男の手によって一気に開墾されようとしていた――のだが。種子を蒔かれたちまち芽吹いて蕾にまで育ちかけたところで、ゼメキンスは手を引いてしまった。
「…………?」
気を遣った経験がないだけに、寸前で放り出される惨めさも知らないまま、アクメリンは虚脱して、膝が砕け後ろ手だけで宙吊りにされた形になった。
瞬前まで股間を嬲っていた指を唇に触れられて、アクメリンは薄く口を開けて、自然とそれを舐めていた。
アクメリンはゼメキンスに屈したのではない。というよりも。最初から反感も嫌悪も抱いていない。恐怖と畏怖、それだけだった。わけの分からない快感に翻弄されて、アクメリンは朦朧としている。目の前に立つお人は加虐者である以前に、枢機卿猊下である。神の代理人たる教皇聖下に次ぐ尊いお方。祝福のために差し伸べてくださった指に口づけするのは身に余る光栄。と、理屈立てた行為ではない。物心付く前に洗礼を受け、読み書きや裁縫料理といった女の素養を修めるより先に神への感謝と祈りを教え込まれてきた、当時にはありふれた娘であってみれば、無意識裡の所作ではあったろう。
血の味がして初めて、猊下の指が触れていた部位を思い出して、羞恥が幾分なりともアクメリンに正気を取り戻させた。
あらためてゼメキンスに、今度は乱暴に股間を穿たれて、ようやくにアクメリンは身をもがいた。が、樹幹にまわされた縄で四肢も腰も縛られていては、指から逃れられるはずもない。そして今度は、甘く凄絶な感覚を掻き立てられることもなかった。指の動きは、股間に食い込んだ三角柱に傷つけられた部分に集中していた。
「痛い……」
アクメリンが、小さな声で苦痛を訴えた。枢機卿猊下への遠慮というよりも、これまでに受けた仕打ちに比べれば、苦痛も羞恥も、それだけでしかなかった。
血まみれになった指を口元に突きつけられて、さすがにためらいはしたが、結局は唇に受け容れた。さらに押し込まれて、そのまま動かないので――血の味を舐めて綺麗にもした。引き抜かれた指が乳房を手拭代わりにしたときは、さすがに屈辱を感じたが、アクメリンはそれを黙って伏し目がちに眺めるだけだった。枢機卿猊下というのは、意識の上澄みでの認識。本人でも言葉にするのが難しい意識の澱んだ部分では、ゼメキンスに逆らう恐ろしさを存分に悟っている。
ゼメキンスがアクメリンの裸身を執拗に検分した意味は、大休止が終わって出発の準備が始まると、すぐに明白となった。
三度、アクメリンは十字架に磔けられたが、その縛り方は先のどちらとも異なっていた。両脚の縄で裸体を曳いて股間に三角柱を食い込ませるのは朝と同じだったが、十字架の頭部につながれた二本の縄が乳房を巻き、曳き馬が四頭に増やされて、梯形に配置された。内側で先導する二頭には乳房に巻いた縄尻がつながれ、斜め後方の二頭には足首の縄がつながれた。
先導の二頭が前へ進むと乳房が下へ引き伸ばされ、次いで十字架の頭部も引っ張られる。アクメリンは背中が十字架から浮くほどになるが、身体はそれほど下へずれない。しかし後続の二頭も歩き始めると、朝と同じように股間に食い込む杭で十字架を引きずることになる。乗手の四人がうまく息を合わせれば、乳房と股間に負荷が分散される。息が合わないと、アクメリンは不規則に乳房を引っ張られて、あるいは脚を左右ばらばらに開閉させられて股間をいっそう抉られる。
もっとも、それをうまく利用すれば、乳房に掛かる負担を増やして股間を休ませたり、その反対もできる。つまり、同じ部位ばかりを責めて傷を(あまり)広げることなく、(幾らかは)長時間の輓曳が可能となったのである。ゼメキンスが最初からこの形を考えていて、アクメリンの活きがいいうちは過度に痛めつけようとしていたのか、それぞれの曳き方を試しているうちに着想したのか――それは分からないが。
ともかく午後は、小休止のときもアクメリンは磔のまま放置して、夕暮れ時まで常歩を保って進み続けたのだった。
夜にはやはり、アクメリンは立ち木に個縛されて、兵士たちに裸身を弄ばれながら咀嚼物を与えられた。アクメリンは諦めきって凌辱を受け容れ、あまり我慢することもなく恥辱の噴水も披露した。
そして、兵士たちが――さすがに見慣れてしまった若い娘の傷だらけの裸身などうっちゃって、焚火を囲みながら馬鹿話に興じる傍らで。心身ともに疲弊していたアクメリンは、この二日間の仕打ちに凌辱とか屈辱の文字を宛てるのが大袈裟に思えるほどの無惨苛烈な拷虐が待ち構えているとは知らず、絶望に閉ざされた束の間の安息へと落ちていった。
========================================
このあと、3日目の行程があります。
初日と同じように、十字架を背負わされて、いよいよ街へ入るので、何故に裸の娘が斯くも酷い目に遭わされているか一目が燎原の火にしようと。乳首とクリから木札をぶらさげられます。一枚は”Heretic”、もう一枚は”Maga”。
そして、彼女の身分も――王族の証しの指輪と首飾と額冠を着けさせられます。全裸にアクセサリーというのも、筆者の大好物です。
とにかく、後編は。導入部で説明とかをひとまとめに片付けて。後は、拷問アラカルトでございます。
最初の街では、魔女嫌疑とかをでっちあげた少女と新妻が、ヒロインを威す目的もあって、読者サービスの意味もあって、尺を稼ぐために拷問されたりします。ちなみに、二人の助演女優は
ジョイエ・ショーザン ← エンザイショージョ
ニレナ・ツァイワーマ ← アワレナニイツマ
庶民には名字が無いので「ショーザンの娘、ジョイエ」、「ツァイワーマの妻、エレナ」です。
さらに。 枢機卿猊下ともあろうお方が、あぶく銭を稼ごうとて、見世締の磔展示とか公開拷問とかを、立ち寄った街で興行して、それだけ長く滞在します。尺を稼いでいるうちに、奪還の手配りとかされちまうわけですね。
ああ、御安心ください。救出されても、メスマン首長国へ護送されて、サルタンを謀ろうとした罪で、めだたくエクスターシャと並んで磔処刑……されかけるのですが。それは『終章』にて。
『生贄王女と簒奪侍女(前編)』本日発売!
Rサイトでも無事登録出来ました。
まあ、ちょいと絡繰ってやつはあります。
世の移ろいは牡羊座から射手座にいたる黄道十二宮を基準とするも、月の動きと太陽の動きとは一致せぬ故に閏月を設ける。すなわち、楽天・哀天・怒天・喜天なり。
この十六天宮を一巡した者を、メスマンでは成人と見倣しているのである。
エクスターシャが言ったのは、十二の宮と四つの天を巡って成人して後に、さらに三つの宮と一つの天を過ぎて次の宮に居るという意味だった。
さて、エクスターシャは何歳でしょう。
すらっと読むと、黄道十二宮と四天をそれぞれ1年と解釈するでしょう。
とすれば、12+4+3+1=20歳ですね。
しかし、『閏月』が独立しているとすると……
太陰暦では1年が約354日、1か月が平均29.5日ですから
(354日×12宮+29.5日×4天+354日×3宮+29.5日×1天)÷365日≒16歳
60歳と56歳に勃起的有意差は有馬温泉街、20歳と16歳とでは大違い。審査をクリアするか田舎です。
どちらの計算が正しいかは、読者のお好み次第ということです。
とはいえ、本文中では「血の道が開いて2年」とも書いております。そりゃまあ、高3で初潮という例も無きにしも非ずもがな?
それはさて措かずとしても。
内容については……過去記事と、各サイトのお試し版(Rサイトのみ分量少な目)でご確認ください。
予定稿を仕込むのを忘れていたので、四月馬鹿の日に大慌てで書いているのです。本日出勤日です。

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世の移ろいは牡羊座から射手座にいたる黄道十二宮を基準とするも、月の動きと太陽の動きとは一致せぬ故に閏月を設ける。すなわち、楽天・哀天・怒天・喜天なり。
この十六天宮を一巡した者を、メスマンでは成人と見倣しているのである。
エクスターシャが言ったのは、十二の宮と四つの天を巡って成人して後に、さらに三つの宮と一つの天を過ぎて次の宮に居るという意味だった。
さて、エクスターシャは何歳でしょう。
すらっと読むと、黄道十二宮と四天をそれぞれ1年と解釈するでしょう。
とすれば、12+4+3+1=20歳ですね。
しかし、『閏月』が独立しているとすると……
太陰暦では1年が約354日、1か月が平均29.5日ですから
(354日×12宮+29.5日×4天+354日×3宮+29.5日×1天)÷365日≒16歳
60歳と56歳に勃起的有意差は有馬温泉街、20歳と16歳とでは大違い。審査をクリアするか田舎です。
どちらの計算が正しいかは、読者のお好み次第ということです。
とはいえ、本文中では「血の道が開いて2年」とも書いております。そりゃまあ、高3で初潮という例も無きにしも非ずもがな?
それはさて措かずとしても。
内容については……過去記事と、各サイトのお試し版(Rサイトのみ分量少な目)でご確認ください。
予定稿を仕込むのを忘れていたので、四月馬鹿の日に大慌てで書いているのです。本日出勤日です。

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『名札のピアスはどれいの証し』BookWalker通りました。
先に、『女神様と王女様といとこの(下)僕』で、BWはいったん販売申請を却下されて、そのとき
タイトル・書影・内容紹介に「ロリ」「ショタ」という文言は使用できない
と、簡潔明瞭な指摘がありました。社内規定だと、明言しています。追加ですね。
ので、表紙と内容紹介を修正して再申請。無事販売にこぎつけました(2023年5月1日発売予定)。ちなみに、シリーズ名『蕾の悦虐(ロリマゾ)』はそのままとして、表紙だけカッコ内を消しました。
ということで。
公序良俗に反する
という理由で却下された本書を、同様の修正で再申請したところ、通過しました。
即刻販売開始しています。
作家側からの抗議なのか社内での動きなのか、曖昧模糊とした表現が具体的になったのは素晴らしいことです。
どこぞの暴世界的電子書籍販売サイトも見習っていただきたいものですなあ。

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あ、koboは、これまた明確に登場人物が未成年はアウチという自主規制を打ち出していますから、オリムピック4位は銅にもなりませぬ。
タイトル・書影・内容紹介に「ロリ」「ショタ」という文言は使用できない
と、簡潔明瞭な指摘がありました。社内規定だと、明言しています。追加ですね。
ので、表紙と内容紹介を修正して再申請。無事販売にこぎつけました(2023年5月1日発売予定)。ちなみに、シリーズ名『蕾の悦虐(ロリマゾ)』はそのままとして、表紙だけカッコ内を消しました。
ということで。
公序良俗に反する
という理由で却下された本書を、同様の修正で再申請したところ、通過しました。
即刻販売開始しています。
作家側からの抗議なのか社内での動きなのか、曖昧模糊とした表現が具体的になったのは素晴らしいことです。
どこぞの暴世界的電子書籍販売サイトも見習っていただきたいものですなあ。

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創作メモ:本文の無い小説
その昔『題名のない音楽会』というテレビ番組がありました。
正式のタイトルが『題未定』というSF小説もありました。
しかるに。ラノベの長ったらしい題名を見るにつけ、ふと思うところがありました。
長ったらしい題名は、要するに1行紹介みたいなものです。『黒白』とか『点と線』とかシンボリックなタイトルではなく、タイトルで内容がおおむね分かってしまいます。
ならばいっそ。タイトルにすべてぶち込めば、本文は不要なのではないかと。
そこで考えたのが、これです。
全裸+エロ装飾(奴隷の首環とか発情クリピアスとか)にナイフ一丁でフルダイブRPGをプレイして、俺は私をマゾ堕ちさせたいのにアバターがMP尽きるまで抵抗するのは、俺の性癖がそこまで歪んでいるからなんだろうな。
これを思いつくと同時に思い出したのが、これです(画像はアフィリンク)

通常のPCゲームですと、なかなかスッポンポンには出来ませんな。下着は装備に含まれていない(蒸着してんのかよ?)というのが大半ですか? 疑問形なのは、筆者が最近のオンラインゲームは知らないからです。
しかし。このゲームは、あっさりとスッポンポンにできます。
左の画像は、デフォルト装備。しかし、出発前に装備を解除できます。スッポンポン(またはエロ衣装装備)だと、羞じらいの表情になります。いと素晴らし。回復しても破損したコスチュームはそのままのなのも、いとゆかし。「バスタオル」とか「絆創膏」とか「霧」とかとかトカレフなエロ衣装もいと涼し(そりゃそうだ)。

右のキャプチャ画像にマウスカーソルが描き加えてあるのは自粛ではありません。筆者は、実際にこの位置にカーソルを置くのです。歩いている表現としてキャラが上下に揺れます。そうすると、マウスが割れ目に出挿りする――実際にはカーソルが最前面表示ですが。
「本文の無い小説」とは書きましたが。本文を書こうとすると、設定がけっこう大変です。
どこまで感覚再現なのか?
思考はプレイヤーのままで良いのか? 覚醒直前の転生者みたいにする?
そもそも、リアルとバーチャルで時間経過をどうするのか。拷問に苦吟する24時間を一瞬で端折っては黒犬です。尾も白くない。
現実世界での生活は書く必要がないのか。
ということで。この話は書かないでしょう。タイトルを使いたい方は、ご自由に。でも、マルシーを挿れてくださるとウレシー。
正式のタイトルが『題未定』というSF小説もありました。
しかるに。ラノベの長ったらしい題名を見るにつけ、ふと思うところがありました。
長ったらしい題名は、要するに1行紹介みたいなものです。『黒白』とか『点と線』とかシンボリックなタイトルではなく、タイトルで内容がおおむね分かってしまいます。
ならばいっそ。タイトルにすべてぶち込めば、本文は不要なのではないかと。
そこで考えたのが、これです。
全裸+エロ装飾(奴隷の首環とか発情クリピアスとか)にナイフ一丁でフルダイブRPGをプレイして、俺は私をマゾ堕ちさせたいのにアバターがMP尽きるまで抵抗するのは、俺の性癖がそこまで歪んでいるからなんだろうな。
これを思いつくと同時に思い出したのが、これです(画像はアフィリンク)

通常のPCゲームですと、なかなかスッポンポンには出来ませんな。下着は装備に含まれていない(蒸着してんのかよ?)というのが大半ですか? 疑問形なのは、筆者が最近のオンラインゲームは知らないからです。
しかし。このゲームは、あっさりとスッポンポンにできます。
左の画像は、デフォルト装備。しかし、出発前に装備を解除できます。スッポンポン(またはエロ衣装装備)だと、羞じらいの表情になります。いと素晴らし。回復しても破損したコスチュームはそのままのなのも、いとゆかし。「バスタオル」とか「絆創膏」とか「霧」とかとかトカレフなエロ衣装もいと涼し(そりゃそうだ)。

右のキャプチャ画像にマウスカーソルが描き加えてあるのは自粛ではありません。筆者は、実際にこの位置にカーソルを置くのです。歩いている表現としてキャラが上下に揺れます。そうすると、マウスが割れ目に出挿りする――実際にはカーソルが最前面表示ですが。
「本文の無い小説」とは書きましたが。本文を書こうとすると、設定がけっこう大変です。
どこまで感覚再現なのか?
思考はプレイヤーのままで良いのか? 覚醒直前の転生者みたいにする?
そもそも、リアルとバーチャルで時間経過をどうするのか。拷問に苦吟する24時間を一瞬で端折っては黒犬です。尾も白くない。
現実世界での生活は書く必要がないのか。
ということで。この話は書かないでしょう。タイトルを使いたい方は、ご自由に。でも、マルシーを挿れてくださるとウレシー。
創作メモ:王女の贖罪(仮題)
マゾ願望ではなくても、全面的に虐待を受け容れるヒロイン。
なぜか、こういう設定を書きたくなりました。そのひとつは『Prison 2084』ですが。
猿無料コミックで、女刑務所。逃亡防止の名目で、女囚は全員が下脱ぎ。それを誰もが当然のように受容しているという設定でした。
これを敷衍外挿拡張(自分でも何を言ってるか分からない)。
AZ(Artificial Zenchi-zennou)が支配しているディストピア。バグか深淵なる陰謀か影の支配者のサディズムか、まったく善良な少女が「潜在的反社会性向」の持ち主として、矯正施設へ送られて。社会的馴致教育を受けさせられる。鞭も電撃もリンカン教育も、すべて当然として受け入れるというストーリイ。Zero Sum Short Storiesのひとつに出来ます。作者が「情事OL」というのはブログ記事上のお遊びですが。
もっと時代設定/キャラ設定に自由度の高い構成を思いつきました。

基本的には中世ヨーロッパです。
苛斂誅求恣意的搾取性的残虐をほしいままにしている王様。は、国民の反乱かクーデターで、あっさりと首チョンパ。愛人と逃亡しようとしたところを捕らえられて、樹から逆さ吊り――てのは、娘が訪日したとき列車に乗って、いたく感激した某独裁者ですな。
<註記>どこの駅でも、父の名を連呼している!
ベント~ベント~ ← ベニトと聞こえた?
どうも捏造らしいですが</註記>
しかし、こちらの娘は。
聖女を絵に描いて服は描かなかったような清らかな心根優しい人物で。
「父を諫められなかったのは、私の科。如何様な厳罰にも甘んじます」
「あっさり死刑に処すなどとんでもない。王族一家が国家に与えた損害を償ってもらおう」
てなわけで。短期レンタルのオークションに掛けられて、陵辱ア・ラ・カルト絵巻です。
あれもこれも、必然性も流れも無視して詰め込めます。
そうそう。断罪の前に。
「この国庫からの支出はどう使ったのだ?」
「それは、私が父を説得して、救貧院を作らせたのです」
「あのボロ小屋のことか。運営費を含めても、支出額の1割にも満たぬ」
心清き王女には想像もつかぬことながら、中抜きとか丸投げとかで、中間搾取がしこしこたまたま。
<註記>国家予算の十年分かかるはずのセクサロイドが、
発明者が直に作ると、お小遣いで足りるという。
松本零士極大(御大を凌駕)のご冥福をお祈りいたします。</註記>
あげくは、自身の贅沢に遣ったのであろうとか、宝石を贖ったのであろうとか――拷問に掛けられるのですな。
拷問に耐えかねて、宝石を買ったなどと自白させられたら、その宝石はどこへ隠した――と、さらに拷問ですぞ。
これだけなら中編。まあ、陵辱ア・ラ・カルト絵巻で尺を稼げますが。
妹姫も出演させて、母親(王妃)も連座させれば……これは『ミスリルの悲劇』の焼き直しかな。
秋津島の姫君にしても風情がありますし、現代のどこかに設定すれば、電マも薬品も使い放題。
王女がみずからの身体で稼いだ金で国庫損失補填が成った日には、めでたく斬首です。
その救いとしては
A:首切り役人との結婚(西洋中世版)
首切り役人てのは忌み嫌われていて、彼と結婚しようなんて女はいなかったそうです。
土壇場で結婚を承諾すれば、女罪人は赦免されるとか。それでも、こんな奴と結婚するぐらいならと、死を選ぶ女ばかりだったとか。
B:ログアウト!
おおい、夢オチかよ?
C:次は、どんな世界に転生するのかしら?
これも夢オチの一種ですな。
D:作者登場、賢者タイム
「左手一本でキーボードを打つのも疲れたなあ」
こら、物語の結末はどうすんだよ??
なぜか、こういう設定を書きたくなりました。そのひとつは『Prison 2084』ですが。
猿無料コミックで、女刑務所。逃亡防止の名目で、女囚は全員が下脱ぎ。それを誰もが当然のように受容しているという設定でした。
これを敷衍外挿拡張(自分でも何を言ってるか分からない)。
AZ(Artificial Zenchi-zennou)が支配しているディストピア。バグか深淵なる陰謀か影の支配者のサディズムか、まったく善良な少女が「潜在的反社会性向」の持ち主として、矯正施設へ送られて。社会的馴致教育を受けさせられる。鞭も電撃もリンカン教育も、すべて当然として受け入れるというストーリイ。Zero Sum Short Storiesのひとつに出来ます。作者が「情事OL」というのはブログ記事上のお遊びですが。
もっと時代設定/キャラ設定に自由度の高い構成を思いつきました。

基本的には中世ヨーロッパです。
苛斂誅求恣意的搾取性的残虐をほしいままにしている王様。は、国民の反乱かクーデターで、あっさりと首チョンパ。愛人と逃亡しようとしたところを捕らえられて、樹から逆さ吊り――てのは、娘が訪日したとき列車に乗って、いたく感激した某独裁者ですな。
<註記>どこの駅でも、父の名を連呼している!
ベント~ベント~ ← ベニトと聞こえた?
どうも捏造らしいですが</註記>
しかし、こちらの娘は。
聖女を絵に描いて服は描かなかったような清らかな心根優しい人物で。
「父を諫められなかったのは、私の科。如何様な厳罰にも甘んじます」
「あっさり死刑に処すなどとんでもない。王族一家が国家に与えた損害を償ってもらおう」
てなわけで。短期レンタルのオークションに掛けられて、陵辱ア・ラ・カルト絵巻です。
あれもこれも、必然性も流れも無視して詰め込めます。
そうそう。断罪の前に。
「この国庫からの支出はどう使ったのだ?」
「それは、私が父を説得して、救貧院を作らせたのです」
「あのボロ小屋のことか。運営費を含めても、支出額の1割にも満たぬ」
心清き王女には想像もつかぬことながら、中抜きとか丸投げとかで、中間搾取がしこしこたまたま。
<註記>国家予算の十年分かかるはずのセクサロイドが、
発明者が直に作ると、お小遣いで足りるという。
松本零士極大(御大を凌駕)のご冥福をお祈りいたします。</註記>
あげくは、自身の贅沢に遣ったのであろうとか、宝石を贖ったのであろうとか――拷問に掛けられるのですな。
拷問に耐えかねて、宝石を買ったなどと自白させられたら、その宝石はどこへ隠した――と、さらに拷問ですぞ。
これだけなら中編。まあ、陵辱ア・ラ・カルト絵巻で尺を稼げますが。
妹姫も出演させて、母親(王妃)も連座させれば……これは『ミスリルの悲劇』の焼き直しかな。
秋津島の姫君にしても風情がありますし、現代のどこかに設定すれば、電マも薬品も使い放題。
王女がみずからの身体で稼いだ金で国庫損失補填が成った日には、めでたく斬首です。
その救いとしては
A:首切り役人との結婚(西洋中世版)
首切り役人てのは忌み嫌われていて、彼と結婚しようなんて女はいなかったそうです。
土壇場で結婚を承諾すれば、女罪人は赦免されるとか。それでも、こんな奴と結婚するぐらいならと、死を選ぶ女ばかりだったとか。
B:ログアウト!
おおい、夢オチかよ?
C:次は、どんな世界に転生するのかしら?
これも夢オチの一種ですな。
D:作者登場、賢者タイム
「左手一本でキーボードを打つのも疲れたなあ」
こら、物語の結末はどうすんだよ??